ギュウンと咲き誇る桜の上を二機のMSが連続で飛び去っていった。その衝撃にたくさんの桜の花びらが舞い散っていく。
 先を行くMSは背中にまるで翼のようなウイングバインダーを持つ高機動型、追いかける方は背中に大型のブースターを背負っている。共に量産型MSではなく、ほとんどワンメイドのカスタムMS。だが、どことなくその両機は似通っていた。どちらもいわゆるガンダムタイプのMS。
『何で、何でこんな事をするんだよっ!!』
 コックピットの中に聞こえてくる悲痛な声。だが、あえてそれを無視する。聞こえない振りをする。
『ここは君にとっても故郷なんでしょ! なのにどうして!!』
 聞こえてくるその声は、彼女の心に苛立ちを募らせるだけだった。
「うるさい……」
 小さく震えた声で彼女は呟く。それは何処か怒りを必死に押さえ込もうとしているような声でもあった。
『こんな事して、何の意味があるって言うの!』
「うるさい……うるさい……うるさぁいっ!!」
 突如キレた様に彼女が叫ぶ。まるでそんな彼女に呼応するかのように彼女の乗るガンダムタイプのMSの大型ブースターに内蔵されているミサイルポッドからいくつものミサイルが発射された。だが、そのミサイルは全て羽付のMSに命中する前に撃ち落とされていった。
「あなたに……あんたにだけはそう言う事言われたくないっ!!」
 それは押さえ込んでいた彼女の感情の発露。そこにあったのは激しい憎しみの感情。それが言葉となって吐き出されてくる。
「私から大事なものを奪っていったあなたにそんなこと言う資格があるって言うの!?」
『な、何を!?』
 返ってくるのは戸惑ったような声。だが、それが彼女を更に苛立たせていく。
「わからないとでも? とぼけて、そうやって馬鹿にして……いつもいつもいつも私を除け者にしてぇっ!!」
 もはや彼女は自分の感情を抑えようとはしていなかった。抑えきれない激しい感情のままに自分のMSを羽付のMSに接近させる。腰部にマウントされたビームサーベルを引き抜き、斬りつけようとするが羽付のMSはシールドで何とか受け止める。
「何を……何を言ってるの……?」
 今度は先ほどまでよりもより鮮明に声が聞こえてきた。互いの距離が近い所為かもしれない。
「返して……返してよ!!」
 泣いているようなそんな声と共に彼女のMSが離れていく。
「私のお兄ちゃんを返して!!」
 その声と共に彼女のMSが持っていたビームライフルが火を噴いた。勿論照準は羽付MSのコックピット。しかし、それは相手も読んでいたようでシールドでそのビームを弾き飛ばしてしまう。
『お兄ちゃんって……何で!? お兄ちゃんは君が……』
 聞こえてくる声は彼女を苛立たせるだけ。相手を黙らせるかのようにビームライフルを連射させていく。
「うるさい! 黙れぇ!!」
『…………!!』
 相手が息を呑んだのがわかった。

 羽付のMSのコックピットの中で彼女は思わず言葉を失ってしまっていた。今対峙している大型ブースター付のMSに乗っているパイロットはよく知っている相手だ。幼馴染みにして恋敵。だが、今は命を奪い合う相手。殺し合う相手。
 もうこちらの言葉は届かない。何かわからないが相手は何処かおかしくなってしまっている。そうとしか考えられない。こんな戦いはしたくないのだが、向こうはこっちを殺す気満々のようだ。自分を守る為にも、本気にならざるを得ない。本気になったなら相手を殺してしまうかも知れない。それだけは避けたかったが、手加減をして勝てるような相手ではないのは確かだ。
「……やるしかないんだね」
 静かにそう言って操縦桿を改めて握り直す。覚悟を決めてかかるしかない。本気で、全力で相手をする。そうしなければ自分が死ぬ。
「行くよ……」
 すっと目を閉じ、精神を集中させた。自分と機体が一体になるように感覚を広げていく。この機体にだけ装備されているバイオセンサーが彼女の感覚を機体にリンクさせ、増幅していくのだ。まさしく人機一体。その為に開発されたのがこのMSなのだ。
 閉じていた目を開くと、彼女の目の色が変わっていた。碧眼だったのが金色の瞳へと変わっている。同時に彼女の感覚は限界まで研ぎ澄まされていた。
 大型ブースター付のMSがビームライフルをこちらに向ける。だが、それよりも先に羽付のMSのビームライフルが火を噴き、大型ブースター付のMSのビームライフルを破壊した。
『チィッ!!』
 相手が舌打ちするのが聞こえてきたが、そんなことはもう関係ない。ビームライフルを破壊したことで相手の攻撃力は少し低下したはずだ。今のうちに一気に押し込んでしまうべきだろう。
 羽付MSの背のウイングバインダーが大きく展開した。それはまるで背中の翼を広げた天使のよう。そして背中側に折り畳まれていた二門のロングキャノン砲が起きあがる。コックピットの中、ロングキャノン砲の照準を大型ブースター付MSに合わせると何の躊躇いもなく彼女は引き金を引いた。高出力のビームがロングキャノン砲から発射される。

 自分に向かって放たれた高出力のビームを見ながら彼女は笑っていた。死を覚悟しての笑みではない。明らかに余裕の笑みを浮かべている。
「そんな見え見えのもので!!」
 彼女の声と共に大型ブースターの方から小型のメカが三つ程飛び出していった。そのメカは大型ブースター付のMSの少し手前で丁度正三角形を描くように展開する。そのど真ん中に向かってシールドを突き出すと三つのメカからビームが照射され、そこにビームの幕が出来上がった。
 いきなり正三角形状に展開したビームの幕に羽付MSから放たれた高出力のビームが直撃する。だが、ビームの幕を撃ち破ることは出来なかった。
『ビームフィールド!?』
 相手の驚きの声を聞きながら彼女は自分のMSを突っ込ませた。ビームライフルを失った以上、こちらの出来る攻撃の大半が白兵戦だ。向こうが距離を取っての攻撃に移る前に先に接近して攻撃する。それしか方法はない。

 接近してくるブースター付MSを見て、彼女はすかさずビームサーベルを選択した。距離を置いての攻撃よりも接近戦で決着をつけようと思ったのだ。
 突っ込んできたブースター付のMSが持つビームサーベルと羽付MSのビームサーベルがぶつかり合い、火花を飛ばす。
『お兄ちゃんを……お兄ちゃんを返してぇっ!!』
 聞こえてくる悲痛な叫び声。
「さっきから何を……」
 そこまで言いかけて彼女は自分に向けられている感情に少し変化があったことに気付いた。先ほどまでは激しい憎しみだけだったのが、今は少し違う。憎しみの感情は消えていない。だが、その中に物凄い切なさ、悲しさが含まれている。
「何……これ……?」
 感情が流れ込んでくる。互いに近付きすぎている所為か、それともバイオセンサーが向こうのパイロットの感情までも引き込んでいる所為か。自分の中に入ってくる感情が彼女には止められない。それはまるで陵辱されているような感覚。物凄い不快感。
「くっ!」
 目の前にいるMSを突き飛ばし、自分のMSを後退させる。接近戦はダメだ。向こうの感情がこっちに流れ込んできて動けなくなってしまう。それを防ぐには距離を置いて戦うしかない。
「何……さっきの……?」
 ノーマルスーツの中、イヤな汗が背中を、頬を伝う。今すぐにでもその汗を拭いたいが、それをすることは出来ない。だが、その為か集中力が途切れてしまっていた。羽付MSの性能を最大限以上に引き出すあのシステムがダウンしてしまっている。
「集中……しなきゃ……」
 そう思うがなかなか集中出来ない。頭痛がする。かなり強烈な。目眩。目の前がぼんやりとしてくる。
『あなたがぁっ!! あなたがお兄ちゃんをぉっ!!!』
 突如聞こえてきたその声に彼女ははっと顔を上げた。ブースター付のMSが目の前まで迫ってきていた事に気付くと、慌てて操縦桿とペダルを操作する。羽付のMSが瞬時に降下し、その直後羽付のMSの頭上をブースター付のMSのビームサーベルが薙いでいく。気付くのが一瞬でも遅ければ真っ二つにされてしまっていただろう。
「こ、このっ!」
 下から上に向けてビームライフルを発射。命中させようとは思わない。あくまで牽制、相手との距離を取る為の牽制。
『そんなものがぁっ!!』
 ビームライフルから放たれたビームをかわしたブースター付のMSが急降下しながらビームサーベルを振る。ビームサーベルが羽付MSのビームライフルを切断した。
「しまっ……」
 驚くよりも先に身体が動いていた。切断されたビームライフルを捨て、ビームサーベルを再び起動させる。継いでブースター付のMSの攻撃をそのビームサーベルで受け止める。
『お兄ちゃんを返せぇっ!!』
 再び叩きつけられてくる心。憎しみだけではない、悲しみや切なさの入り交じった心。一方的に流れ込んでくる相手の心。防ぐ手だてはもはや彼女にはない。

 戦場となっている島から少し離れた海中を一隻の潜水艦が進んでいる。
「どうやら戦況はあまりよろしくないようだな」
 潜望鏡で戦闘の状況を見ていた男がそう言って潜望鏡から離れた。
「やはり数の差は絶大だな。彼我戦力差8対2。むしろよく持ちこたえていると言うべきか」
 男はそう言いながら同じ艦橋にいる一人の青年をチラリと見やる。年齢的には同じくらいだろうその青年は額に巻かれた包帯を指で触りながら男の方を見返した。
「……何だよ、その目は?」
「イヤ、そろそろお前の出番ではないかと思ってな」
「冗談じゃない。俺はまだ病み上がりだぞ。何で俺だけ先行して行かなくっちゃならないんだよ」
「ほう。だがこれを聞いてもそう言っていられるかな?」
「何だよ?」
「君の大事な人が互いの陣営にいて戦っている。止めなくても良いのか?」
「くっ……わかったよ。行けば良いんだろ?」
 男の何処か勝ち誇ったような笑みに少々むかつきながらも青年は歩き出した。向かう先は勿論MSデッキだ。
「ああ、そうだ。お前用に新型を用意している。使ってくれ」
 男のその言葉に青年が足を止めて振り返る。
「新型だぁ? どこから持ってきたんだよ、そんなもの」
 ニヤリと笑いながら青年がそう言うと男は不敵な笑みを浮かべて、前髪をすっとかき上げた。
「俺を誰だと思っている。つまりはそう言うことだよ、同志」
「はっ、言ってろ」
 返ってくる答えはわかっていたつもりだが、あえてそう毒づいてから青年は艦橋から出ていった。
 それを見送った男はさっと艦橋の中を見回す。
「よし、急速浮上用意! 我が同志の出撃後全速で我らも戦場に向かう! 第一種戦闘配備!」

 海面を割って潜水艦が浮上する。遙か向こうに戦場となっている島を臨みながら。
 潜水艦の上部ハッチが開き、中にあるカタパルトに乗って一機のMSがせり上がってきた。やはりガンダムタイプ。背中には少し変わった形状のウイングバインダーのようなものがあり、折り畳み式の高出力ビームサーベルとビームランチャーが備わっている。
 コックピットの中で青年はじっと戦場となっている故郷の島を見つめていた。今、あそこで戦っているのは自分にとって大切な人たちだ。それを守る為に自分はここに帰ってきた。
『同志よ。わかっていると思うが我々はどちらに組みするものでもない。我々の目的は』
「わかってるよ。戦争を止めること、止めさせることだろ」
『ふむ、わかっていてくれればそれでいい。では同志の幸運を祈る』
「……かったりぃ事言ってんなよ」
 サブモニターに映る男の笑みを見て青年はそう言い、MSを発進させた。潜水艦の甲板から空中へと飛び上がり、バーニヤを吹かせて戦場へと向かう。その時、そのMSの背に光の翼が出現した。余りもの高出力の為に余剰エネルギーをこうして放出しているのだ。
 光の翼をはためかせてそのMSが戦場になっている島へと飛んでいく。その後方では潜水艦が島へと移動を開始していた。

 島の湾岸部では上陸しようとする部隊と防衛隊との間で激しい戦闘が繰り広げられていた。だが戦力差8対2の壁は大きい。島の防衛隊は徐々に内陸部へと後退を余儀なくされていた。
「これ以上下がったら民間の施設に被害出るじゃない! 何考えてるのよ!!」
『これは上層部からの命令なのよ〜。ちゃんと言うこと聞いてちょうだい』
 防衛隊が使うMSのコックピットの中で彼女は必死に怒りを押し殺している。少し間延びした姉の声がもたらした防衛隊上層部の後退命令。とてもではないが聞き入れるわけにはいかないものであった。
 彼女たちの部隊がいるのは島の港湾地帯。その奥にはごく普通に市街が広がっている。今彼女たちが下がったら、市街が敵により蹂躙されてしまう。それを容認出来るような彼女ではなかった。
「冗談じゃない! ここは下がらなくても大丈夫よ!」
『そこが無事でも他のところが危ないのよ〜。お願い、言うこと聞いて〜』
 サブモニターの中で彼女の姉は手を合わして妹である彼女に懇願している。参謀本部付の彼女からすれば妹の気持ちもわからないでもないが、全体を見るとどうしても戦力の建て直しをはかりたい軍上層部の意見も正しいとわかるのだ。例え妹のいる場所だけが勝ったとしても他の場所で負ければ意味はない。この島は既に囲まれてしまっており、逃げ場はないのだ。一点でも破られれば内側から崩壊してしまうだろう。
「下がらない! ここで絶対に下がらないわよ! 死守してみせるから!」
 そうは言うものの実際のところ、彼女の部隊も苦戦を強いられている。こちらの数は限られているのに相手は次から次へと出てくるのだ。これではきりがない。いつかは押し切られてしまうだろう。エネルギーが切れた時がその時だ。それまでに相手が諦めてくれればいいのだが、それは希望的観測というものだろう。
(ああは言ったけど……いつまで持つか……)
 沖に浮かぶ空母から次々に飛来する敵方の量産型MS。一斉に来るわけではなく波状攻撃を仕掛けてくるのはこちらの疲労を待っているからか。
 着陸しようとする敵MSにビームライフルの一撃を食らわせる。こちらが一発撃つたびに返ってくるのは雨のようなビームの攻撃。もはや無傷の味方はいない。彼女の乗っているMSも既に左肩の装甲を吹き飛ばされ、内部がむき出しになっている。他の機体も似たり寄ったりだ。
『うわぁっ!!』
 突然横から聞こえてくる悲鳴。その声にはっと振り返ってみると敵のMSが何機か横から攻撃を仕掛けてきていた。いつのまにやら回り込まれてしまったらしい。
「やばっ!」
 彼女がそう思った時はもう遅かった。横から放たれたビームが彼女の乗るMSの膝を打ち抜き、彼女のMSは地響きを上げて倒れてしまう。そこに次々と敵MSが群がってきた。確実にとどめを刺そうというのか。
「ひぃぃっ!!」
 コックピットに向けられたビームライフルの銃口を見た彼女が青ざめる。引き金が引かれ、ビームが発射されたら痛みなど感じる暇もなく全身焼かれて跡形も残らないだろう。それはそれでいいのかも知れないが、彼女はまだ死にたくはなかった。しかし、もうどうにも出来ない。絶体絶命だ。ギュッと目を閉じて最後の時が来るの待つ。
 彼女が覚悟を決めた時、倒れた彼女のMSを取り囲んでいた敵MSが次々とその頭部を破壊されて倒れていった。
「な……に?」
 何が起きたのか彼女は一瞬理解出来なかった。わかったことは自分が助かった、九死に一生を得たと言うことだけ。そして、空に輝く光の軌跡だけ。

「かったりぃなぁ……」
 次から次へとやってくる量産型MSをパイロットを殺さないように沈黙させる。面倒くさいことこの上ない。だが、それが約束だ。それを破ることは許されない。
「……ったく、余計なこといわなけりゃ良かったぜ……」
 そう愚痴りながらも狙うのは敵のMSの頭部や腕部。流石、新型と言うだけあってビームライフルの出力も上がっている。一撃で破壊し、その戦闘能力を奪うことが出来るのはありがたかった。
 一応どちらの勢力にも組みしないと言ってはいるが、心情的にはやはり生まれ故郷である島の防衛隊を援護したい。だからか、先ほどから侵攻している軍のMSしか攻撃していなかった。もっとも防衛隊のMSはこちらが手出しするまでもなくひどい損傷を負っているもののほうが多かったが。
『聞こえるか、同志』
「……聞こえねぇ」
 いきなりコックピットに響いた男の声に素っ気無さそうに答える青年。だが、相手は彼のことをよくわかっている。伊達に付き合いが長いわけではない。もっとも青年からすれば単なる腐れ縁だとしか思っていないのだが。
『現在位置から南西の方角で二機のMSが戦闘中だ。おそらくは……彼女たちだろう。機体の特徴が俺の記憶と一致した』
「データベースと照合とかしろよ」
 やや呆れ気味に言う青年。
『フッ、俺の記憶を信用しろ』
「それが一番信用ならねぇって事、そろそろ気付け。ああ、わかってる。そっちに行って来る」
 向こうが何か言う前にそう言い、通信をオフにする。ここから先は真剣勝負だ。戦闘中の二機のMSが彼の考えているMSならば、戦っているのがあの二人ならば、こっちが手を抜いて勝てる様なものではない。本気でかからなければならない。こっちの機体が新型だと言っても全く、何の油断も出来ないのだ。
「……かったりぃなぁ……」
 そう呟きながら青年は自分のMSをその戦場へと向かわせるのだった。

 ぶつかり合うビームサーベルとビームサーベル。押しているのはブースター付のMSだ。羽付のMSはブースター付のMSの迫力に押し負けている。パイロットとしての力量はそう変わらないはずだ。だが、戦いにかける意気込みが違う、違いすぎる。
『お兄ちゃんを……お兄ちゃんを……よくも……』
 聞こえてくる声は震えている。もしかしたら相手は泣いているのかも知れない。それほどの感情の乱れを彼女は感じていた。だが、未だに彼女には相手の言っていることがわからない。どうしてそこまでの憎しみの感情を叩きつけられなければならないのかわからない。
「何を……何を言ってるのかわからないよ!」
 自分の中に流れ込んでくる相手の感情をはねのけるように彼女は叫ぶ。
「お兄ちゃんと一緒にいたのは君でしょ! なのに何で!!」
『嘘つき! お兄ちゃんを私から奪っていったくせに……お兄ちゃんを私の手の届かない場所に連れて行ったくせに!』
「そんなこと知らない!」
『すっとぼけて! そうやってしらを切って! 自分ばっかり……自分ばっかりいい思いして!!』
「何のことだよ! ボクは知らない! さっきからそう……」
『お兄ちゃんを返してぇっ!!!』
 全く話が通じない。こっちの話を聞こうともしない。一体何が彼女にあったのか。この島を離れている間に彼女の身に何が起きたというのか。だが、今はそんなことを考えている暇はない。彼女の攻撃をかわすことが精一杯なのだ。
 ブースター付のMSが大きく振りかぶったビームサーベルを後退してかわした羽付のMSはすかさずバーニヤを吹かせて上空へと舞い上がった。
「悪いけど、動きを止めさせて貰うよ!」
 再びロングキャノン砲が起きあがる。先ほどはビームフィールドによって防がれたが、今度はそうはいかない。こっちの出力を限界まで上げてビームフィールドを突き破る。下手をすれば相手の機体を破壊してしまうかも知れないが、そうなったらそうなったで仕方ないだろう。向こうはこっちの話を聞くつもりは全くない。全力でもってこっちを殺そうとしているのだ。自分も同じように全力でかからないと殺されてしまう。
 ロングキャノンの発射態勢が整う。照準は既にブースター付のMSに合わされている。後は引き金を引けばいい。それだけなのだが、彼女はそれを躊躇ってしまう。ロングキャノンの出力は最大まで上げた。おそらくはあのビームフィールドも突き破ることが可能だろう。だが、そうすれば相手のパイロットを殺してしまう。さっきは殺してしまっても仕方ないと思ったのだが、いざとなるとやはり躊躇ってしまっていた。
「動きを……止めるだけ……」
 そう呟いている間にもブースター付のMSが物凄い勢いでこちらに迫ってきている。構えているビームサーベルは確実にコックピットを狙っているだろう。もう時間はない。
「撃つしか……無いのなら……!!」
 躊躇いを振り払い、引き金を引こうとしたその瞬間だった。更なる上空から一条のビームが降り注いだのは。

「なっ!?」
 いきなり上空から振ってきたビームに驚いているのは彼女だけではなかった。目の前に羽付のMSもその動きを止めている。どうやら全く予想外の援軍。こちらか、それとも向こう側か。モニターに映る頭上のMSの姿は少なくても見たことのないものだった。
「あれは……?」
 光の翼を煌めかせながらビームライフルを下に向けているMS。一体何処の所属のものなのか。彼女の知っている限り自軍のああいう機体は存在しない。
「……敵!?」
 敵ならば討ち果たすのみ。

「……!?」
 いきなり現れた光の翼を持つMSを見上げながら彼女は素早くデータベースを引き出した。見たことのない新型。だが、それでもそのフォルムから何処が開発したか見当をつけようと思ったのだ。開発先がわかればあのMSが敵か味方かの判断材料になる。
 と、そんなことをしている間にブースター付のMSが急上昇し、光の翼を持つMSに襲いかかろうとした。どうやら向こうのパイロットはあのMSを敵と判断したらしい。ならば、敵の敵は味方。それが正しいかどうかはわからないが、今はそう信じる。
「ブースターだけを撃ち抜けば……!」
 ロングキャノンの照準を上昇していくブースター付のMSに向ける。この角度ならばブースターだけを撃ち抜くことが出来るはずだ。慎重に照準を合わせ、引き金を引こうとすると光の翼を持つMSが肩のパーツを引き抜き、こちらの方へと投げつけてきた。そのパーツの一方からビームの刃が飛び出す。ビームブーメランだった。
「何で!?」
 慌ててシールドを突き出し、ビームブーメランを弾き返す。
「味方じゃないの!?」

 ブースター付のMSは光の翼を持つMSが肩からビームブーメランを引き抜き、羽付のMSに投げつけているのを見ながらも、その光の翼を持つMSにビームサーベルで斬りかかっていった。だが、光の翼を持つMSはそれをかわすとブースター付のMSにビームライフルを向け、すかさず引き金を引く。放たれたビームがブースター付のMSの右肩を撃ち抜いた。
「しまっ……」
 今の一撃で右腕が使用不可能となる。そのことに驚いている間に、物凄い衝撃がコックピットを襲った。コックピット内のモニターと一緒に彼女の意識も一瞬ブラックアウトする。コックピットのあるあたりを蹴り飛ばされたのだと理解出来たのは、更なる攻撃を受けてからだった。
 こちらの戦闘力を奪うかのように左腕の関節部を、右足をビームで撃ち抜かれ姿勢を制御出来ずに地上へと落下していく。
「このっ……馬鹿にしてっ!!」
 何とか反撃しようと背中にある大型ブースターを噴射させて光の翼を持つMSに向かって突進していく。もはや両腕は自由に動かず、ろくな武器もない。それでもこのままやられっぱなしになっているのはどうしても許せない。

 両腕と片足の自由を奪ったにもかかわらず尚もこちらに向かって突っ込んでくるブースター付のMS。それを見ながら青年は舌打ちした。
「チッ……しつこいな」
 あれだけのダメージを与えておきながら未だ反撃の意思を失わないあのMSのパイロット。何となくだが、誰が乗っているか青年はわかるような気がしていた。同時にもう一機のMS、あの羽付のMSのパイロットも。
「やれやれ……昔からケンカばっかしてたよなぁ、お前ら」
 面倒くさそうな、呆れたようなそんな口調でそう言い、青年はビームライフルとは別の武器を選択する。突っ込んでくるブースター付のMSを止めるにはもう少しダメージを与える必要があるらしい。相手のパイロットを殺さず、MSだけを止める。その為に彼が選んだのは背中に折り畳まれている高出力ビームサーベルだった。
 折り畳まれていた刀身が伸び、その先端部と柄の部分の間にビームが走る。起動した高出力ビームサーベルを振り上げ、突っ込んできたブースター付のMSの肩口に叩き込んでいく。高出力のビームの刃が装甲を切り裂いていく。
『な、何で………何でぇっ!!』
 信じられないと言った感じの声が聞こえてくる。だが、それを青年は無視した。
「少しおとなしくしてろ」
 短くそう言って、ブースター付のMSを蹴り飛ばす。
 致命傷と言う程でもないがかなりのダメージは与えたはずだ。今度という今度こそ反撃しようと言う意思もくじけたはず。それ以前にもうMSの方が言うことを聞かないだろう。
 地上に向かって落下していくブースター付のMSを見ながら青年はあのMSのパイロットのことを思う。あれだけの攻撃を自分が叩き込んだと言うことが知れればきっと烈火の如く怒るだろう。なかなか許してくれないかも知れないが、こちらとしては仕方なかったのだ。とりあえず謝るだけ謝るしかない。
「さて、次はあっちだが」
 もう一機、羽付のMSの方をチラリと見やる青年。
「どっちかってとこっちの方が厄介そうなんだよなぁ」
 苦笑を浮かべながら呟く。
 先ほどビームブーメランで牽制しておいたが、あれから攻撃してこないのは自分の敵だったブースター付のMSをこちらが倒したからだろう。このまま攻撃してこないのなら良いのだが、もし攻撃の意思を見せたならばすぐに対応する必要がある。
『えーと……話がしたいんだけど、いい?』
 向こうから声がかけられた。どうやら戦おうという気はないらしい。
 だが、青年は話をするつもりはなかった。まだ戦闘は終わっていない。今も圧倒的な戦力差に島の防衛網は切り崩される寸前だろう。よく持ちこたえているものだ。
「そんな事している暇はないだろ。まだ戦いは終わってないんだぜ」
 意識して声を変えつつ、青年はすぐに自分のMSをその場から飛び去らせた。まだこちらの正体を知られるわけにはいかない。知られたらきっと厄介なことになるだろう。それに今のように自由に動き回ることが出来なくなる。それだけは避けたかった。少なくても今はまだ。

 飛び去っていくMSを見ながら彼女は首を傾げていた。何処かで聞いたことのある声。わざとらしく声を変えていたが、やはり聞き覚えのある声だったように思える。しかし、それを思い出している暇はなかった。戦況の悪化を伝える無線が飛び込んできたからだ。
「うん、確かにそれどころじゃないね」
 そう呟くと、地上に横たわっているブースター付のMSを見下ろした。全ての機能がダウンし、パイロットも気を失ってしまっているのだろうか。どちらにしろあの場に残しておいても脅威にはなり得ないだろう。
「後で迎えに来るからね。そうしたらゆっくりと話をしよう」
 ブースター付のMSのパイロットに呼びかけるようにそう言い、彼女は自分のMSを一番苦戦している戦場へと向かわせた。
 戦闘はまだ終わらない。



次回予告
 果てしない野望が島を愛する心を踏みにじっていく。
 それでも彼女たちは諦めない。
 自分たちの故郷を守る為に。
 だが、非情の劫火は容赦なく彼女たちの島へと迫るのであった。
 次回「思い出は戦火に消えて」
 果てしなき戦場、駆け抜けろ、ガンダム!
 

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