ZOIDS 〜勇気ある獅子と正しき邪竜〜





−帝国領・荒地−

この荒地にはいくつもの丘が立っている。
そしてその丘の一角からすぐ下を進む二体のゾイドを見ている人影が一つ。
丘の下を進んでいるゾイドは祐一のブレードライガーMk−Uと竜聖のジェノブレイカーである。
「あれが相沢祐一が乗るブレードライガーMk−U……」
丘の上に立つ人影が呟く。
「量産型でどれほどの動きが出来るのか見せてもらうとするかな」
背後の何もない空間から黒い一体のゾイドが現れる。
そして、そのゾイドに乗り込むとその場を去っていった。







第5話「漆黒の獅子」







−帝国領・荒地−

もう少しで日が暮れようとしているので祐一たちはひとまずここでキャンプすることにした。
そばにライガーとジェノブレイカーも停めてある。
祐一と竜聖はそれぞれ自分達の機体を整備している。
その合間に名雪が食事を作り、龍牙は鍋を運んだり火加減を見たりして手伝っている。
「なぁ、竜聖」
コクピットに入り各部の最終点検をしながら祐一は竜聖に話し掛けた。
竜聖もコクピットに入って点検しているようだ。
『はい、なんですか?』
竜聖が通信機で聞き返してくる。
「お前って龍牙をジェノブレイカーに合体させて戦うことあんの?」
祐一が最近思っていたことだった。
人から隠すためと移動するときはよく合体しているのだが、戦闘中に合体しているところは見たことが無いのだ。
竜聖が始めてリバーサイド基地に来たとき盗賊が襲ってきた。
そのとき竜聖は龍牙と合体せずに戦って撃退したのだ。
祐一との実践演習のときも合体せずに戦っていた。
そして、ついこの間の兵器工場捜査のときも祐一たちの前に現れたときも合体していなかった。
祐一はこのことを不思議に思っていたのだ。
『あまり無いですね、龍牙を最初に見つけたときぐらいで……あの時は龍牙が一方的に合体してきたんだったかな』
「たしか、その時はまだジェノザウラーだったんだよな?」
祐一はリバーサイド基地で聞いていたことを思い出すように話を続けた。
『えぇ、戦闘中に龍牙が合体してすぐに光に包まれてその光が晴れたらジェノブレイカーに変わってたんです』
「一瞬だったのか?」
『はい』
祐一は考え込む。
(話に聞いていたオーガノイドによる進化現象と少し違うなぁ……どちらかというと合体した瞬間に起きる再生現象に近いな)
オーガノイドがゾイドに合体した瞬間、ゾイドが再生する現象が起こる。
これはオーガノイドの合体によりゾイドの心臓ともいえる『ゾイドコア』が活性化することによって起こるのだ。
ゾイドも機械である前に生命体、つまり生きているのである。
動物などが怪我をした際、負傷した部分を治癒するためにその部分に集中的にエネルギーを送り込む。
その送り込まれたエネルギーで負傷部分周辺の細胞を活性化させその傷を治癒させるのである。
このことはゾイドにも当てはまる。
ゾイドも本来なら損傷部分を再生させるのには動物と同様に時間が必要となる。
だが、オーガノイドと合体したことにより、活性化されたゾイドコアから
通常の何倍ものエネルギーが送り込まれるため合体した瞬時に再生することが可能なのだ。
(まぁ、あのジジィに聞いた話だし多少の相違点があるかもな)
「よし、点検終了、異常なしと」
『こっちはまだ時間がかかりそうなので先に名雪さんのところに行ってて下さい』
「了解した」
返事をすると祐一は一人竜聖をその場に残し名雪の手伝いに行った。
残された竜聖は黙々と整備の続きをしている。
「おかしいなぁ、ここの回路がうまく作動しないなぁ?他のところは異常ないんだけどなぁ……うーん」
さっきから同じ所をチェックしているようだがうんともすんともいわない。
「ここが作動しないと武器の照準が合わせられないのに」
どうやらFCS周りが作動しないようだ。
FCSが作動しなければ武器の照準が合わず見当違いの方向に発射されたりする。
武器の多くを射撃兵器で構成されているジェノブレイカーにとってはなくてはならないものだ。
「いったん手を止めて名雪さんが作ってくれてるご飯を先に食べてこよう」
竜聖はジェノブレイカーの整備より食事の方を優先した。







−深夜−

「どうして動いてくれないんだろ?他の部分は異常ないのにここだけなんだよなぁ」
食事を取ってから今までずっと竜聖はジェノブレイカーの整備をしていた。
かれこれ何時間も続けているのだが一向に動いてくれないのだ。
「うーん……ん?レーダーに反応が、あれ?…消えた?」
竜聖が考え込んでいるとレーダーに確かに反応が会ったのだがすぐに消えてしまった。
あたりを見回すが何か潜んでいるような感じではない。
「気のせいかな?整備の続きをしよっと」
竜聖は再び整備を再開した。





祐一たちがキャンプをしている地点から1kmほど離れたあたりで一体のゾイドが闇夜の中で起動していた。
「ふむ、起動する際に気づかれるかと思ったがそうでもなかったようだな」
起動するときにジェノブレイカーのレーダーに反応したのだがすぐにステルスシステムを作動させたので気付かれなかったのだ。
「仕掛けるか、行くぞファントム」
そう言い放つとパイロットは愛機の漆黒のライガーを走らせた。






「……すー……」
「くー……くー」
静かな夜の荒地に祐一と名雪の寝息が聞こえる。
その傍では龍牙が屈んで同じく身体を休めている。
竜聖は近くに停めてあるジェノブレイカーのコクピットでまだ機体の調整をしている。
静寂が辺りを支配する。

ズゴォォォォン、ズゴォォォォォォン!!

突然の砲撃音がその静寂を吹き飛ばした。
「なんだ!?」
「んー……なんなの?」
祐一と名雪はいきなりの砲撃によりを目を覚ましたが、名雪のほうはまだ夢見心地だ。
『祐一さん、名雪さん、二人とも大丈夫ですか!?』
外部スピーカーから竜聖が呼びかける。
「あぁ、大丈夫だ!砲撃は何処からだ!?」
『解りません!周囲にいるとは思うんですがセンサーとかの調子が悪くて確認できません!!』
ジェノブレイカーは夕刻からの機体の不調で周囲の状況を把握できないのだ。
「ちっ、名雪、お前は竜聖のジェノブレイカーに乗ってろ!俺が一人で迎撃する!!」
祐一は名雪に指示を出すと急いでライガーを起動させ、敵をセンサーで確認する。
すると祐一のいる位置から数キロ離れた先に反応があった。
「よし、敵を確認した!竜聖、俺が行くから名雪を頼んだぞ!!今のお前の機体じゃ無理だろうから守りに専念するんだ!!」
『解りました!!』
竜聖に名雪を連れて専守防衛することを指示すると祐一は急いで敵のもとへ赴いた。






「いた!」
敵機の前で祐一はライガーの足を止めた。
目の前には黒いライガータイプのゾイドが一機。
「お前がさっきの砲撃をしたのか?何が目的だ?」
一機しかいないことに祐一は不思議に思い、警戒しながら冷静に相手の出方を伺う。
『そうだ、俺が君達を攻撃した……君が相沢祐一だな?』
「だから何だと言うんだ?俺を恨んで仕返しに来たなんて言わないでくれよ、心当たりが多すぎてわかりゃしねぇ」
祐一が告げたとおり彼がガーディアンフォースに入隊してから逮捕してきた者は数知れない。
その中には脱走したものもいたりする。
『ふっ、そんなのではないさ、ただ…純粋に君と勝負がしたいだけだ』
「いいぜ、こっちも寝てるところを襲われて頭に来てんだ、勝負だっ!!」
『うおぉぉぉぉぉっ!!』
二人の掛け声を合図に二機のライガーは駆け出した。
先手を取ったのは祐一のブレードライガーMk−Uだった。
前足のストライククローを前に突き出して飛び掛っていく。
これを向こうも祐一に闘いを挑んでくるだけあって腕が良いのかあっさりと避ける。
祐一も当たるとは思っていなかったようで着地後すぐ振り向き様に背部のパルスレーザーガンを連射する。
だが、黒いライガーのパイロットはこれも避けきってしまった。
「やるじゃないか、どうやらただのゾイド乗りというわけでも無さそうだな」
『そちらこそ良い動きを見せてくれるじゃないか、勝負を挑んだ甲斐があったよ!!』
「そぉうかいっ!!」
祐一が叫ぶとブレードライガーMk−Uは猛ダッシュで肉薄し格闘戦へ持ち込んだ。
相手のライガータイプの喉もとに喰らいつき
一方は地面に叩き付け黙らせようと、
もう一方は叩き付け相手を引き剥がそうと地面の上を転げまわり互いのポジション争いを繰り広げる。
結果、祐一のブレードライガーMk−Uがパワー負けし引き剥がされた。
離れた後はお互い距離を取って相手の隙を窺う。
(奴が乗っているゾイド、ライガータイプだと思うが……あんなのは見たことがないぞ)
祐一は隙を窺いながらも相手の機体のことも気にかけていた。
相手のゾイドの事は黒いライガータイプのゾイドという事しかわかってない。
ライガーシリーズは共和国が開発しているものだが目の前にあるようなタイプのものは見たことがなかった。
(考えるのは後でも出来る、今はこいつをどうするかを考えねぇとな……先手必勝!!ん!?)
祐一が仕掛けようとした瞬間、ブレードライガーMk−Uの右前脚部の反応が遅れた。
(くっ、しまった!!)
祐一は危険を感じるものの時すでに遅く、
彼が気付いたとき目の前の機体は姿を消し、次の瞬間、彼の体を大きな衝撃が襲った。






−帝国・アルディア基地−

「うっ、うぅん……ここは?」
祐一が目覚めたのは帝国・アルディア基地の病室の中だった。
「病室?俺は一体どうしたんだ?」
カシャァァァッ
祐一が考えていると部屋のドアが開いた。
「相沢、気が付いたか?」
病室に入ってきたのは潤だった。偶然、部屋の前に来て見舞う気になったのだろう。
「北川か!?という事はここはアルディア基地なのか?」
「そうだ……三日前、大破したブレードライガーMk−Uと共に運び込まれてきたんだ」
潤が襲撃されてここに運び込まれるまでの経緯を伝える。
黙って聞き続ける祐一。
「そうか……俺はあの未確認のライガータイプと戦って負けたのか」
祐一は自分が負けたという事実を告げられ黙りこんだ。
「一体どんな奴だったんだ?お前があそこまでやられる相手って奴はさ」
「解らない……だが、俺たちガーディアンフォース以上の実力を持ってるのは確かだ」
「はぁ、信じらんねぇな……そんな奴がいるなんてよ」
潤は椅子の背に寄りかかるようにして天井を見上げた。
祐一は黙って俯いている。
「なぁ………ライガーはどんな状態なんだ?」
俯いていた祐一が問い掛ける。
「…………」
だが、潤は何も答えようとしない。
「おい、何で黙ってるんだ?」
「……………」
「ライガーはどうなったんだっ!?」
何も答えない潤に祐一が怒鳴りつける。
「………ついて来い」
そう呟いて潤は部屋を出て行き祐一はそれについて行った。





−アルディア基地・格納庫−

祐一は潤に連れられて格納庫の中を進む。
「何処に連れて行くんだ?」
「……いいから来い」
ただ『来い』とだけ言う潤に納得がいかないながらもその後ろを行く祐一。
潤はある所に差し掛かると足を止めた。
そして祐一に向き直って潤は言った。
「これがブレードライガーMk−Uだ」
潤が立ち止まった所を見上げると、そこには大破して地にひれ伏しているブレードライガーMk−Uの姿があった。
「なっ!?」
それを見て祐一は言葉を失った。


引き千切られた様に左前脚部を失っている。


左後脚部も繋がってはいるものの膝部から外側に向かって折れ曲がっている。


頭部についても同様だ、左半分が何か硬いものを打ち付けられた様に激しく損傷している。


所々がその生命力を失ったかの如く朽ちている。


そして、胴体部を大きな空洞が貫通していた。







ゾイドにとって心臓というべき『ゾイドコア』のある箇所に。






「ここに運び込まれてきた時点で、すでにブレードライガーMk−Uは………活動を……停止していた」
潤が静かに告げた。
「高峰がこの基地に連絡してきたんだ、ライガーがあの状況ではお前が助かっていたのが奇跡な位だった」
「………おいっ、名雪たちはどうしたんだ!?」
思い出したように祐一が問い詰めてくる。
「水瀬さんと高峰は無事だ」
それを聞いて胸を撫で下ろす。
「水瀬さんはお前が眠っている間ずっと傍にいたんだがお前が目覚める少し前に無理を言って休んでもらった」
「竜聖は?」
「あいつは水瀬さんのお袋さん、水瀬大佐に呼ばれてリバーサイド基地に戻った」
「何でだ?」
「大方、事の顛末を詳しく聞こうってことじゃないのか?」
「そうか……」
「お前もまだ目覚めたばかりで本調子じゃないはずだ、病室に戻って休んでろ」
「あぁ」
祐一は潤に背を向けて歩き出した。
「はぁ………相沢じゃなくてもこんな状態のライガーを見たら何も言えねェよ」
潤は一人、すでに力尽きたブレードライガーMk−Uを前に何とも言い難いものを感じていた。






−アルディア基地・裏手−

祐一は一人ここに立っていた。
三日前、正体不明のゾイドと闘い自分が負けた事。
負けたせいで力尽きたブレードライガーMk−Uの事。
そして負けて大怪我した自分を心配してくれていた者達のこと。
色々なことを考えていた。
暫く俯いていて日が落ち星が見えかけている空を仰ぐ。
「……っく……っくしょ………っくしょう…………ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
漆黒の空に祐一の自分が負けた相手へと自分の不甲斐なさへの怒りを込めた叫びが木霊した。








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ZOIDS〜勇気ある獅子と正しき邪竜〜

第6話「闇を抜ける魂」

獅子はその力を失った………

続く
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