仮面ライダーZERO

Presented By cancer

第五話 「鬼が島の決戦!復讐鬼の最後!!」

 

 

 

デスクロス基地作戦司令室では、首領の膝元にダークナイトメア、不気味な老人、降格されたヘルズオーガの変わりに大幹部として抜擢されたマッドクラウンが控えている。司令室のモニターには火炎カミキリがZEROに敗れ去るのが映っている。それを見てダークナイトメアはどこか勝ち誇った顔でマッドクラウンの方を見ている。

「ふふふ、どうやら貴様の策とやらは失敗したようだぞ」

ダークナイトメアの方を見ず呆れたようにため息をつくマッドクラウン。

「やれやれ、あの2体は元々ZEROの感情をかき乱すための捨て駒…ヘルズオーガに殺らせるための布石に過ぎない。…それに、いや今は言わなくてもかまわんか」

勝ち誇った顔が一気に歪む。自分が軽く扱われているのが気にくわないのだろう。だが今何を言ってもマッドクラウンは堪えないだろうし、自分が負けているようにしか見えないのが分かっており黙ってモニターを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」

憤怒と憎悪の篭められた咆哮と拳が衝突しヘルズオーガとZEROの周囲に衝撃波が起こり砂塵が撒き上がる。冬香と祐夏の遺体を庇いながら滝は片手で顔を庇い両脚を踏ん張り倒れるのを何とかこらえてその様子を睨むように見つめた。

お互いの拳がぶつかった後ZEROはすかさずローキックをヘルズオーガに放つがそれをヘルズオーガは後方へ跳んで距離を取りながら避ける。

(成る程…確かにたいしたパワーだが)

ヘルズオーガはZEROの攻撃をいなしながらマッドクラウンの忠告を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

冬香と祐夏を連れ去った直後、マッドクラウンは愉しそうに笑うヘルズオーガに話しかけた。

「ヘルズオーガよ、恐らくZEROは自らの手で肉親を殺すことで怒りと共に精神を追い詰められるはずだ。それによってZEROのパワーはリミッターが外れ表面上パワーアップするだろうが、奴はその感情ゆえに攻撃パターンは単純になる。お前が油断せず冷静に自分の力を発揮すれば勝てるだろう」

道化の面から唯一表情の覗く瞳には感情は無くただ淡々と言うマッドクラウンにヘルズオーガは空恐ろしいものを感じた。

 

 

 

 

 

 

ZEROが再び拳を振り上げたところでヘルズオーガは突然右手を自分の背中に回す。その拳が振り下ろされそうになる時ヘルズオーガも右手に大きな金棒を持ちそのままZEROの腹部にそのまま突き出した!

「がはぁっ!?」

強烈な一撃がきまりZEROは空気を肺から残らず吐き出してしまい、その勢いのままに岩に叩きつけられてしまった。背後の岩は蜘蛛の巣状にひびが入りZEROを中心に放射状に陥没したかと思うと岩は完全に砕け崩れ落ちたZEROの体に降り注ぐ。必死に立とうと膝を立て右手で体を支え起こそうとするが、がくがくと震えて力が入らず立ち上がることができない。しかし、それでも地についた右手はそこにあった石を握り締めその瞳は憎しみと怒りに赤く、朱く、紅く、緋く、赫く燃え続けヘルズオーガから視線を外さない。

ヘルズオーガはその様子をニヤニヤと笑いながら金棒を肩に担ぎゆっくりと歩み寄っていった。

「っくそ!やらせねぇぞ!!」

滝が今まで使っていた銃をしまい、マグナム500と呼ばれる大型拳銃を取り出しヘルズオーガに向けて撃つ。近年、造り出された非軍事用銃としては最高の威力を誇る銃から撃ちだされた弾丸が空気を引き裂きヘルズオーガの眉間に命中する。

「ぐぅうっ!」

だが、その銃でさえダメージを僅かに与え、少し怯ませるだけにおわった。…だが稼ぐべき時間はそれでも十分稼いだようである。こっちに注意を向けたヘルズオーガに対して滝はニヤリと笑ってやった。

「おおおおお!バァァァァストキィィィィック!!!」

その注意を向けた一瞬で何とか自分を奮い立たせたZEROはそのまま飛び上がり必殺のキックを繰り出す!だがここで予想だにしなかったことが起こる、キックがヘルズオーガの胸に突き刺さろうとした時、それに合わせてヘルズオーガはキックに向かって金棒を突き出したのだ。

「無駄だァァァァァァッ!!」

ヘルズオーガは会心の笑みを浮かべながら叫び、その金棒でZERO渾身のバーストキックを押し返した。ZEROはその衝撃で体制を崩しながら後ろに飛ばされていく。そしてその金棒の先端が開きそこからミサイルが発射され真っ直ぐZEROに向かっていった。

「ZEROぉっ!!」

滝の叫びに意識が飛びかけていたZEROは自分に向かってくるミサイルの存在に気付くが既に遅くミサイルは目前に迫っていた。ZEROは成す術も無いと覚悟を決めそうになった時に右手の中にある先程握り締めていた石の存在に気付く

 

辺りに響く轟音、衝撃と共に視界を埋め尽くす閃光と灼熱の炎。

 

その爆発の中心から弾き出されるように全身に炎を纏わせてZEROが転がり出る、その勢いで転がり続け、やっと止まる時になってようやく火も消えた。全身から煙を噴きながらそれでもなお必死に立とうともがくZEROにヘルズオーガの哄笑が響く。

「生きていたとは頑丈な奴だ…だが、もう動く事も出来まい」

そう、いくらZEROでも先程のミサイルの直撃をくらっていたなら生きてはいなかっただろう、ZEROは咄嗟に右手の中に握っていた石をミサイルの弾頭にぶつけ爆発させために直撃を回避できたのだ。が、あくまで直撃を避けただけでダメージを消す事はできなかったため戦う力は残されてはいなかった。ヘルズオーガは金棒を肩に担ぎながら悠然とZEROに近づいていく。

「ん、どうした滝?そんな銃など俺に効かないと理解したのではないのか?」

滝がZEROの前に立ち銃口をヘルズオーガに向けているのを見て嘲るように、いや実際に嘲笑しながらヘルズオーガは滝を見ながらそう言った。滝はそれに答えず銃に一発の弾丸を込める。

「インターポールからちょろまかしてきた特別製だ!くらいやがれ!!」

ズドンッ!と今までの発砲音とは違う低い音と共に弾丸は真っ直ぐヘルズオーガの残った右目に向かって突き進む。

「はっ!見え見えなんだよ!!」

金棒を銃弾のコースに傾ける、弾丸はそのまま金棒に命中してその目標に当たる事はなかった。だが滝はニヤリとする。弾丸は金棒に弾かれる事無くその場で破裂すると濃い赤色の煙があっという間にヘルズオーガを包み込む。

「そいつはただの煙幕じゃないぜ。感覚を一時的に狂わせる代物だたっぷり味わえ!」

「ぐっ、こんなもので!!」

煙の中で暴れるヘルズオーガを尻目に滝はまだ煙を噴いていてかなり熱いZEROに顔を顰めさせるが肩を貸しバイクの方へ連れて行こうとする。

「滝さん…まだあいつを倒していない」

息も絶え絶えに、しかし意思は強く滝の服を握りながらZEROは滝に訴えかけるように言う。だが滝はZEROをそのままバイクへ引っ張っていく。

「滝さん!!」

「今のお前じゃ、あいつには勝てねぇよ。…無謀だ」

引き止めるようにZEROは言うがそれに対して言う滝の言葉は的確だった。

「でも…俺は仮面ライダーだ!諦めることなんて出来るはずが無い!!」

「諦めない事と無謀は別物だ、お前は絶対にあいつに勝たなきゃいけない。お前自身の誓いのためにも、お袋さんたちの願いのためにもだ。そのためには態勢を整えなければならねぇ…わかるな?」

見れば滝も歯を食いしばっている。それもそうだろう、まだ若い祐一があんな目にあった時に自分は役に立たず今も攻撃は一切効かず滝が出来た事と言えば時間稼ぎぐらいなのだから。

「母さん達を連れて行きます、手を貸してください」

「煙が晴れるまで時間が少ししかねぇから急げよ」

ZEROが拳を握り締めこらえるように声を絞り出す。滝はその様子を見て軽くZEROの肩を叩き祐夏の方へ向かう。ZEROも自分の体を引き摺りながら冬香の方を担ぎロードウィンドに乗せる。そして一度未だ煙に包まれているヘルズオーガの方を睨む。

(必ず…必ず倒す!)

 

 

 

 

 

 

 

『そよ風』についた頃にはZEROは祐一に戻り倒れてしまった。火傷や裂傷が酷く藤兵衛は五郎のいる病院へと救急車を手配し冬香と祐夏の遺体を地下の隠し部屋に運び込んだ。秋子は自分の姉と姪の遺体を呆然として見つめている。名雪は祐一の事も気になったが母の事が心配でそばについている、祐一の方へは病院の事は慣れている美坂姉妹がついていった。

「滝…説明してくれ」

藤兵衛は静かに聞く。

「ああ…」

滝も簡潔に答え、何が起きたかを順を追って話していく。

…………

………

……

「何で?何でなの!?そんなの祐一くんが可愛そすぎるじゃないか!!どうしてそんな酷い事ができるの?」

あゆは自分の肉親を失う痛みを知っている、しかも祐一は自らの手でそれを行わなければならなかったのだ。あゆは冬香達とは少し会っただけだが祐一を優しそうな瞳で見つめていたのを思い出しながら純粋な怒りと悲哀を含んだ声で叫ぶ。秋子はただじっと二人の遺体を見つめて涙を流している。名雪は秋子ほど二人を知っているわけではないが昔この町に祐一を迎えに来た二人に頭を撫でられたこと思い出して、二人の昔自分を撫でた手を握った。その手は冷たく昔の暖かさは無くなっていた。

「「「…」」」

舞も佐祐理も美汐も失う痛みを知っている、それを自分で直接手を下さざるをえなかった祐一のことを思うと声も出ない。北川も今病院でボロボロの身体に処置を受けている親友を思いじっと歯を食いしばり拳を手が白くなるほど握り締める。

「あうぅ…」

真琴は人の死に直面するのは初めてであるためかただ悲しそうに秋子と美汐の服の裾を握り二人の亡骸を見ている。

リリリリリーン、リリリリリーン

その時上の店の電話が鳴る。藤兵衛は全員のショックを思いやって滝を伴って上に行き電話に出た。

「はい、『そよ風』ですが申し訳ありませんが今日は臨時休業でして」

『すいません、美坂ですけど…あ、相沢君が病室からいなくなってしまったんです!!』

「何!?…あ、大声を出してすまん。…わかった俺が探しに行くから君達は戻ってきなさい」

『私たちも探します!』

「いや、君たちは戻ってくるんだ。男には女の子には見られたくない時があるものだからな」

(それに奴等の手口から考えて人質にされる可能性もある)

『……わかりました』

電話をきると藤兵衛はエプロンを外す。

「おやっさん、何処か行くのか?」

その様子を見ていた滝が藤兵衛に声をかける。

「祐一が病室から消えたらしい、俺は探しに行くからここを頼む。まだ地下のことはバレていないがもしもの時のためにな。」

その事を聞いて驚いたような表情をするがやがて納得したように頷く。それを見て藤兵衛は駆け出して行った。

 

その頃、祐一はあゆとの『学校』の大きな木の幹のところに来ていた。その服の間から覗く包帯が痛々しい。暫くその幹に手を置くと急に殴り出す。

「くそっ!くそっ!くそっ!このままじゃ勝てない!!」

自分でもあの時、完全に頭に血が上っていた事を自覚している。だがあそこまで非道なことをされて怒らないでいられるはずが無い。

(いや…それを抜きにしても)

ZEROの渾身のバーストキックは金棒によって防がれてしまった。どういうわけかあの金棒は丈夫な上、威力を分散させられてしまう。しかもキックが極まれば確実に倒せると言うわけでもなさそうだ、あの時のヘルズオーガは片手で金棒を持っていたひょっとしたら金棒無しでも両手を使えば受け止められてしまうかもしれない。祐一は悔しさと共に思考の海に呑まれる。

「隙と言えばあいつが金棒を振りぬいた時ぐらいだ」

やはり重いのか金棒を振り切った時にしばらく硬直していた。

「だけど…アレを振りぬくような渾身の一撃は俺のバーストキックに対抗したときぐらいだった」

しかし、ただ普通にバーストキックを放てば今回と同じ結果になるのは一目瞭然である。まず、バーストキックを当てるにはヘルズオーガに渾身の一撃を出させなければならない、そのためにはバーストキックを放たないといけない、その上ミサイルを避けさらにもう一度バーストキックをうたないと当てられないということだ。

(しかも、バーストキックで倒せるかさえわかりやしねぇ!!)

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

祐一の叫びと共に放たれた拳を幹にぶつける音で周囲の鳥が驚き一斉に飛び立つ。

「はぁ…はぁ…はぁ」

乱れた息を吐き出した時、ミシッと地面に落ちた枝を踏みしめる音がした。祐一はさっと振り向き音がした方向見る。そこには息を切らした藤兵衛がいた。

「こ、ここにいたのか、と、年寄りに激しい運動させるなやい」

「おやっさん…」

深呼吸をして呼吸を整える藤兵衛を見つめる祐一。

「話してみろ…、俺が聞いて一緒に考えてやる」

藤兵衛は真剣な顔をして祐一を見据えると祐一はポツリポツリと語り出した必殺のキックが効かなかった事、隙はあるがそれを活かす術が無いこと、キックの威力に不安があること、今のふがいない自分には冬香達の無念を晴らすことも出来ないことを。藤兵衛は黙ってそれを聞いた。そしておもむろに口を開く。

「お前の先輩達も困難にぶつかったことがあった。だけどあいつらは血の滲む様な特訓によってそれを克服したんだ。あいつらに出来てお前が出来ないはずは無い…やるか?」

「…お願いします」

祐一は藤兵衛に向かって深く頭をさげる。藤兵衛は祐一の両肩を掴み励ますように軽く力を入れて揺さぶる。

「まずは一番厄介そうなミサイルをどうするかだな…無効化までいかなくても方向を逸らす事が出来ればな」

その言葉を聞き祐一はあることを閃いた。ミサイルを避け尚且つ相手の隙を大きくして威力の高い必殺キックの形がぼんやりとだが浮かんできたのだ。それを藤兵衛に相談してよりハッキリした形にすることが出来た。

「ここじゃ、特訓は無理だから場所を変えよう。ついてきてくれ」

藤兵衛の言葉に従い藤兵衛の後についていった。

 

 

 

 

 

「おやっさん、ここは?」

眼下に広がるのは広大な土地、そうまるでオフロードレース場のような。

「お前のバイクの特訓のためにな確保しておいた。それにこれが俺の生きがいであり夢だからな」

祐一はただ目を丸くする。祐一はバイクに乗るがこんなレース場のようなところ走ったことは勿論無い。店ばかりでなくこんな土地まで確保するとはまた一つ藤兵衛の謎が増えた。

「特訓の準備をしてくるからここで待っていろ」

そう言って藤兵衛は奥の方へ向かっていった。それを見届けると祐一は傍にあったコースを形作るための柵にもたれかかった。そう祐一はヘルズオーガとの戦いで常人でいう全治6ヶ月〜8ヶ月にあたる重傷を負っている、いかに治りが早かろうが現状は重傷であるのには変わりない。服の下の包帯はすでに血で滲んでおり実際は立っているのも辛いのだ。

(さすがにすぐには治ってはくれないか…)

準備が出来たのか手を振る藤兵衛の姿を目に留め柵を支えに立ち上がり、藤兵衛の待つその場所へ向かって歩き出した。

 

そこには直径約60cmの鉄柱が弓のような機構をもった仕掛けに番えられていた。弓のような、と言っても本当に鉄柱が矢のように飛んでいくわけではないある程度まで飛び出したら止まる様になっているためヘルズオーガの金棒の一撃の代わりを十分にできる。ただし、代わりがつとまるという事はそれが身体に命中した場合のダメージも相当なものであることは想像に難くない。

「準備はいいか?」

藤兵衛の問いに黙って頷き両手を上下に突き出すと腰に中央に蒼いアークが収まった機械的なベルトが現れる、そして両手をそのまま時計回りに180度回転させ胸の前で交差させ一気に両腰に引く。

「変身!」

腰のアークから蒼い光が放たれそれが全身を包みダークブルーのボディとマスクに紅いマフラーをした姿へとへ変化するとアークが蒼から紅へと変わり紅い光を放つと祐一からZEROへと完全に変わった。そのままZEROはその仕掛けから少し離れた場所に立つ。

「おやっさん、お願いします」

藤兵衛が頷くとZEROはそのまま走り出してとび蹴りを放つ力を解放こそしていないがバーストキックの形だ。そこへ藤兵衛の操作で鉄柱が勢いよく打ち出される。ここでZEROは本来、緑光で輝いているであろう右足を引き左足を前に出し何かをしようとするがタイミングが遅かったのかそのまま鉄柱をくらって後方にふっとばされる。

「がっ!?」

「ZERO!」

藤兵衛が慌てて声をかけるがふらつきながらもZEROはそれを手で制した。

「…もう一度お願いします」

ZEROのその様子に歯を噛み締めながら藤兵衛は頷き操作に戻る。ZEROはまた走り出し先程と同じことをするが、やはりタイミング上手く合わずにまたしても鉄柱に直撃する。それでもまだ立ち上がるZEROに藤兵衛は何も言わず仕掛けを操作するレバーを強く握り締める。

「…お願いします」

その無茶でしかないやり取りが幾度となく繰り返され、ついにZEROは膝をついてしまい立ち上がれなくなってしまった。重傷を負ったその体にはやはり負担が大きすぎたのだろう。

(くそっ!駄目なのか!?俺では奴に勝てないというのか!?)

だが…

「立て!ZERO!!お前の背負っているものはあんな奴等に負けるほど軽くないだろう!それなのにお前はここで諦めるのか!?」

藤兵衛の叱咤が再びZEROに立ち上がる気力を湧き上がらせる。浮かび上がる両親や姉の顔、名雪や秋子とこの街に来て出会った友人達、そして今自分に力を貸してくれる藤兵衛と滝、心に勇気、闘志、力が満たされていく。ZEROは地面に手をつき踏ん張るように身を起こし立ち上がる。その紅い大きな目には諦めの色は無い、有るのは強い意志のみだ。その姿に藤兵衛は笑みを浮かべる。

「おやっさん、もう一度だ!」

「おお!」

ZEROの言葉に力強く藤兵衛が返事するとZEROが勢いをつけて走り出す。バーストキックの形から右足を左足に素早く変えるともう目前に鉄柱が迫ってきていた。しかし、その鉄柱は今度はZEROをふっ飛ばすことは無かった、ZEROが入れ替えた左足で踵落しのように鉄柱を地面に叩きつけその勢いでZEROは上空に高く飛び上がったのだ。

「やった!出来たぞ!!あとは次のやつさえ出来れば技が完成する!」

ZEROが力強くガッツポーズをとる。そう、ただこれだけだったら避けることが出来るようになったというだけだ。まだこれだけではヘルズオーガに勝てるかどうかは分からない。これまでの特訓は次の技に繋ぐ前提なのである。

「まず今の状態でどのくらいできるか見せてくれ」

藤兵衛の言葉にZEROは頷き高く跳び上がるそしてそのまま体を縦に4回転させて着地する。それを見て藤兵衛は難しそうな顔をする。

「今の回転はバランスが悪く回転数も少ない、あれでは十分に力が加わらない中途半端になってしまう」

ZEROは藤兵衛の評価を聞きもう一度跳んでみるが結果は先程の結果となんら変わりないものだった。二人とも唸りながら頭を抱える。しばらく唸っていたが藤兵衛が何かを思い出したようにポンと手を叩く。

「ZERO、体操選手はその回転を安定させ十分な力が乗るように胸を軸として回転すると聞いたことがある。やってみる価値はあるかもしれんぞ」

半信半疑で跳び言われたとおり意識して胸を回転の中心にして回ると先程よりも回転が安定し力が足先に集中するのがわかった。先程よりもずっと手ごたえを感じながら着地する。

「おやっさん、外から見た感じどうだった?」

「さっきより回転が綺麗になった。まだまだ回転数などに問題があるが今の考え方でいけそうだな…よし、胸で回るんだ忘れるなよ」

藤兵衛は手の甲でZEROの胸を叩きながらそう言って笑った。ZEROも胸で回転するのをイメージしながら頷く。

「ほら、特訓だ!時間は無いぞ!!」

「はい!」

そして、また跳び上がろうとした時にそよ風にいる秋子から通信が入る。藤兵衛はショックから立ち直ったのかと安心したがその通信内容に目を見開く。

『店長!店内にデスクロスからのメッセージが投げ込まれました!内容は「今日16:00に鬼が島まで一人で来い。逃げ隠れすれば街中に仕掛けた爆弾を爆発させる」と…でも祐一さんは怪我を負ってますし』

そこへ通信にZEROが割り込む。

「大丈夫ですよ、秋子さん。今度こそ母さん達の無念を晴らして見せます!」

『祐一さん!そこにいるんですか!?無茶は止めてください!!あなたは…』

通信を一方的に切り藤兵衛の方をみる。

「まだお前の技は完成してないんだぞ…それでもいくのか?」

「技なら本番で完成させてやります。それに今行かなくちゃ街が爆破されてしまいます」

ZEROはそれだけ言うと藤兵衛に背を向ける。

「来い!ロードウィンド!!」

主の呼びかけに応えロードウィンドが走ってくる。

「トウッ!」

ロードウィンドウに飛び乗りそのままターンし鬼が島へと走り出した。

「頑張れよ…」

藤兵衛の声がロードウィンドの爆音にのせて空に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

だが問題が一つだけあった。鬼が島は陸から一番近い所からでも10キロ沖にある、ロードウィンドだけではどうやっても届かないし、船をチャーターしている暇も無い。そのためZEROは砂浜で足止めをくっていた。そこに藤兵衛から通信が入る。

『ZERO、ロードウィンドのモニタの下にある青いボタンを押せ』

「おやっさん?わかった…」

言われたとおりボタンを押すとロードウィンドのタイヤが急に横に倒れる。ZEROが何事かと思うとタイヤが膨らみ僅かに車体が浮いたように感じる。

「まさかこれは…!?」

『ホバー機能だ、これで海中は無理だが海上を走ることが出来るはずだ。時間が無い、急いでくれ』

「ああ!任せてくれ」

僅かに形を変えたロードウィンドが波を引き裂きながら鬼が島へと突き進んだ。途中釣り船の横を通って釣り人が驚いてひっくり返っていたが気にしている暇は無い。ホバーになってもそのスピードは衰えることは無くアクセルを全開にすると、あっという間に鬼が島が見えてくる。

「今度こそやってみせる!」

気合と決意のこめられた言葉を言うと同時に岸に着くロードウィンドはホバーからバイクに戻りヘルズオーガの待つ島の奥へと疾走する。やがて開けた場所に出るとロードウィンドを停める。

「来たぞ、ヘルズオーガ!姿を現せ!!」

ZEROが叫ぶとその反対の場所、つまり正面の奥からヘルズオーガは出てきた。

「時間通りだな、今爆破するのは止めてやろう」

「今…だと?」

にやにやと笑いながらそう言うヘルズオーガの言葉に不穏なモノを感じたZEROが睨む。

「そう、今だけだ。30分後には爆破するように仕掛けた。止める方法は俺を倒すことだけ…つまりお前はどうすることも出来ずここで街が爆発するのを黙って見ていることになるのだ」

勝ち誇った顔でZEROを舐めるように見る。

(怒るがいい、貴様が怒れば怒るほど俺の勝利は揺るがない)

ここでヘルズオーガは間違いを犯した、確かにZEROは怒っている。だが、それは剥き出しの怒りではない、心の中で静かにけれど烈しく燃える氷の炎ような怒りだ。

「御託はいい…かかって来い」

ZEROのその言葉を皮切りに戦いは始まった。

 

一気に間合いを詰めたZEROの拳がヘルズオーガの胸部にはいりそこから連続でパンチをくりだす。前と同じように考えていたヘルズオーガは自分にはいったパンチに驚いて硬直してしまう。無論その隙を逃すZEROではないそのままキックを顎先にきめた。

「がぁっ!?」

たまらず倒れるヘルズオーガの顔面目掛けパンチを打とうとするが、ヘルズオーガはそれを転がって避けさっと起きて金棒でZEROに殴りかかった。とっさにそれを両手でガードするがその衝撃を殺しきれず後ろに飛ばされる。

「くっ!やはりあの一撃は厄介だな」

怪我の治りきらないZEROにはその一撃一撃が油断のならないものである。実際今の攻撃で特訓で開きかけていた傷口が完全に開いていた。

「やはり、さっきのはまぐれか。驚かせおって」

そのZEROの様子を見て鼻で笑い嘲るヘルズオーガは金棒をかまえてZEROに突進してくる。ZEROはそれ横に転がることで避けて立ち上がると後ろの崖に跳び、岩の壁を蹴ってヘルズオーガの背後に着地して右腕をその首へとかけた。

「な!?」

「まぐれかどうか自分の身で確かめな!」

そのままヘルズオーガを投げ飛ばし覆いかぶさるようにマウンテンポジションを取る。だがヘルズオーガも大人しくしているはずが無く、上になるため横に転がるがZEROもやらせるわけには行かないのでそのまま転がり続けた。しかし、そのままでは勝負がつくはずがない、ZEROは自分が下になった瞬間にヘルズオーガを蹴り上げる。蹴り上げられたヘルズオーガは空中でなんとか体勢を整えて着地してそのままZEROに襲い掛かる。ZEROはその突進をヘルズオーガの背中を転がるようにして避け背後をとって蹴りをいれた。ヘルズオーガは勢いのままに無様に転がる。

「なんだと言うのだ、この動きは!?奴は怪我を負っていて前より動きが良くなるなどありえないはずだ!!」

ダメージ自体はそこまで強力と言うわけではない、だが今のZEROの動きはヘルズオーガを圧倒しつつある。

「人の心を踏みにじるお前にはわからねぇよ、人の想いの力ってやつをな!」

そう、今のZEROを突き動かすのは母達の自分に残した想い、仲間達の自分への想い、そして自分の仲間たちへの想いが今にも暴れださんとする怒りや憎しみを制御し力を与えているのだ。

「ふん、くだらんな。そんなモノが何になる?街が爆発するまで後一分を切ったと言うのに俺に決定打を持っていないではないか」

戦っているうちに時間はあっという間に過ぎタイムリミットが迫っていた。だがZEROに焦りは無い。

「なら、きめさせてもらう!」

そう言うとヘルズオーガへ向かってジャンプするとアークが紅い光を放ち胸のZの変形字が刻まれた石が反応し突き出された右足に緑光が集まる!

「ふん、一度敗れた技で向かってくるとは…愚かな!」

目前に迫るZEROの必殺キックに嘲笑を浮かべながら金棒を突き出す…がここで変化があらわれる。突き出した右足を左足に切り替え、その金棒に踵落しのように振り下ろしZEROはその勢いを利用して上空へと跳ぶ。ヘルズオーガは金棒が地面に埋まってしまい完全に体勢を崩され隙だらけになってしまった。

(チャンスは時間的にも一度きり!母さん、姉さん…力を貸してくれ!!)

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

雄叫びと共に勢い良くかいてんを始めるZERO。

『胸で回るんだ』

藤兵衛の言葉がZEROの脳裏に響く。それと共に今までに無いくらいに高速で回転を始めアークの力が左足にも流れ込み両脚が緑光に包まれた!

「ライダァァァ遠心っダブルキィィィック!!!」

勢い良く上空からヘルズオーガに向けて特訓によって編み出された必殺キックが放たれた。両足がヘルズオーガの胸を打ち抜き緑光がヘルズオーガの全身に奔る。

「ぐぅっっ!!馬鹿なぁぁぁ!!」

全身を暴れまわるエネルギーの奔流を感じながら我が身に起きたことが信じられないヘルズオーガは叫ぶことしか出来ない。

「ここはお前のいるべき場所じゃねえ!塵一つ残さず無に還れ!!」

ZEROの中にあった怒りがここで一気に吐き出された。それに呼応するようにヘルズオーガに奔る緑光がスパークする。

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!デスクロスに栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」

ヘルズオーガの断末魔の叫びと共にその体は爆発四散し鬼の死を象徴するように鬼が島に火柱が立つ。そこでさすがに体が限界だったのかZEROは変身が解け、祐一へと戻り倒れこもうとするが誰かがそれを支える。祐一がゆっくり顔を上げるとそこには北川と滝がおりその周りには仲間達がいた。

「何で…ここに?」

祐一が呆然としながら聞くと

「全員お前が勝つと当然思ってたけどな、無茶ばかりして戻ってこれない状態になるんじゃないかと思って心配して来てみたらドンピシャだったってわけだ」

北川が全員を代表するように言った。

「…そうか」

それを聞いて微笑みを浮かべ祐一はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルズオーガが爆発する所がモニターに映し出されている。その周りにいるのは三人の影。

「ヘルズオーガは敗れたようだな。マッドクラウン、貴様の策は失敗だ」

ダークナイトメアが今度こそと勝ち誇った顔をして嘲るが次のマッドクラウンの言葉にその表情は一気に固まった。

「何もわかっていないようだなダークナイトメア。処刑の手間を省き、尚且つZEROの詳しいデータをとること、ここまでが私の策なのだ。データはとれたかDr.屍鬼?」

「うむ、腐っても幹部であっただけはある、今回手に入れた奴のデータは今までと比べ物にならん」

「では、最初からヘルズオーガは勝てなかったと言うのか!?」

マッドクラウンとDr.屍鬼の会話を聞いて激昂するダークナイトメア、その様子を見てマッドクラウンは呆れたような目でダークナイトメアを見て嘆息する。

「どうした?追い落としたかったのなら喜んでいいのではないか?それに十分勝てる策は授けた…負けたのは奴自身の慢心からだ」

ここで一旦言葉を切ってダークナイトメアを睨みつける。

「向上心が旺盛なのは良いことだ…だが、足を引っ張り合うなど組織の不利益なことを続けるつもりならば首領に成り代わって貴様を処刑する」

「うっ!」

マッドクラウンの底冷えするような声にダークナイトメアは言葉につまり冷や汗を流す。思い出されるのは首領の攻撃さえ斬ったマッドクラウンの剣戟。戦ったら自分が不利であることが明白だろうと感じ、ただ頷いた。

「暫くは、私には別任務がある。私が直接指揮を執ることは無いが手は貸そう、お前の手腕には期待している」

それだけ言うとマッドクラウンは部屋から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

ある高台に三つの墓が並んでいる、墓前にはそれぞれ一厘ずつ花がさしてあった。その前には包帯を巻かれた祐一が静かに手を合わせていた。

「全くみんな大げさなんだからさ、ここまでする必要ないと思うだろう?これじゃミイラ男だよ」

まるでそこに人がいるように苦笑いしながら肩をすくめる。しかしその後、顔が真剣になる。見つめるのは名前だけ書かれたその下には何も無い墓。

「父さんだけ何も見つかってないんだ…。でも必ずここに連れてくるからさ、それまで待っててくれよ。一人だけ仲間はずれなんてのは可愛そうだからな」

祐一の声に応えるように風がひゅうと吹き花が揺れた、それを見て祐一は微笑む。

「父さん、母さん、姉さん…ここから俺を見守っていてくれ。必ずデスクロスを叩き潰しみんなを守ってみせる…そして花の代わりに平和を墓前に供えることをここに誓うよ」

先程よりも温かい風が祐一を包むように吹き花が揺らぐ。

「みんなが気を利かせて俺一人で参らせてくれているから、もう行くよ。またな」

そう言って祐一はバイクに跨り皆の待つ街へと走らせた。その祐一の背中を見ていた墓に供えられた花が哀しげに、けど励ますようにゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

 

 

                 つづく

 

 

<<あとがき>>

 

ここまでがいわゆる序章です。

これからが本格的にZEROとデスクロスとの戦いが始まるわけですがここまでで大体の雰囲気掴むことできましたでしょうか?

祐一「ところで滝さんがインターポールで弾をちょろまかしてきたって言ってたけどそれって犯罪じゃないのか?」

作者「あれは本人はああ言ってますが、一応アンリ姐さんに報告しています…後で」

祐一「駄目じゃん」

作者「じ、次回予告です」

 

 

 

マッドクラウンの登場で功を焦ったダークナイトメアはイタリアから怪人を呼び寄せる

そのことに気付いたマッドクラウンだが咎めることなくある策を授けた

呼び寄せられた怪人に苦戦するZEROの前にイタリアから怪人を追ってきたと言うストロンガーが現れる

撃退までいかなかったが、なんとか追い払うことに成功する二人のライダー

だが、次にその怪人が現れたときに異変が起こる

なんとストロンガーがZEROに向かって攻撃してきたのだ

理由を問うZEROと藤兵衛にストロンガーの慟哭が響き渡る

戦意を失いかけるZEROの耳にどこからとも無く口笛が聞こえてくる

 

次回「電気怪人の恐怖!やってきた男の名はストロンガー!!」

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