<喫茶店ホワイト 9:43AM>
何時ものようにホワイトへと足を運ぶ広本昇太。
「んっ?」
ドアを見たら「準備中」のボードが掛けられていた。
「今日は何時もより遅いな……」
そう呟き、昇太はドアを開ける。
ドアに付いていたベルがカランカランと鳴り、店内に響く。
「あっ、まだ準……って広本か」
そこにはテーブルの準備をしている相沢祐一の姿があった。
「おはようございます。今日は何時もより遅いですね」
「ああ、少し寝過ごしてな」
「少しじゃないよ……」
カウンターからウエイトレスの長森瑞佳が口を挟む。
「普段と比べたら少しですけどね……」
昇太も瑞佳の言葉に頷く。
「悪かったな……」
祐一は拗ねた表情で呟いていた。
それを見て昇太と瑞佳は小さく笑った。
「俺も何か手伝いましょうか?」
「そうか?なら頼もうか」
昇太の言葉に、祐一は急に表情を変えた。
「駄目だよ祐さん。お客に仕事を頼んじゃ」
「だがこいつは顔見知りの常連だ、少しくらい頼んでもいいだろ?」
「顔見知りの常連なら香里さんとかにも頼めますよね?」
「……」
祐一の言葉が無くなった。
そんな祐一を尻目に、昇太は瑞佳から布巾を借りてテーブルを拭き始めた。
この時は、昇太にとって戦いの事を忘れられる一時でもあった。

仮面ライダーソルン
Episode.6「光輝」


<渋谷区代々木公園 12:43PM>
公園でスケートボードを使っている少年達がいた。
段差から跳んだり、階段の手摺に乗って滑らせたりと様々な技の練習を行っている。
その姿を、近くの木の影から見ていた黒いバンダナをした男が、近くにいた少年の前に飛び出した。
「うわっ!?」
その少年は、思わずバランスを崩し、前に倒れる。
黒いバンダナの男は、その姿を蟻の姿をした、ラーヂ・ゴバルへと変えた。
「ナラ、ゴドニサグヅガ!」
そう言って腕にある針のような物で少年を突き刺す。
少年の体は貫かれ、ラーヂ・ゴバルの針に血が流れた。
他の少年達は悲鳴に近い声を上げながら、逃げ出していく。
しかし、殆どの少年は腰を抜かしているため、逃げたのはほんの数人だった。
「シュジモ・レソモバ・ロサレダガ」
ラーヂ・ゴバルは針を少年から抜き、残りの少年達に襲い掛かった。

<渋谷区内・とあるラーメン屋 13:08PM>
「ふぅ……」
昼食を済ませ、ラーメン屋から出てきた国崎往人は軽く息を付き、車に入る。
車を動かそうとした時、車の無線が入った。
『警視庁未確認生命体対策本部より各車両へ。渋谷区代々木公園内で、未確認生命体による犯行と思われる死体を発見。付近を巡回中のパトカーは、至急現場に向かって下さい』
警視庁未確認生命体対策本部の本部付の婦警の声が往人の耳に入る。
「来たか……」
そう呟き、往人は車のランプを点灯させ、現場へと向かう。

<文京区内 16:15PM>
「随分掛っちゃったよ……」
ホワイトに向かって歩きながら、瑞佳は溜め息混じりに呟いた。
瑞佳は私用で出掛けていたのだが、思いの他、時間が掛かってしまった。
ホワイトまでは、あと10分程掛かるだろう。
その途中何かの音がして、はっと顔を上げた。
(何だろう……?今の音)
瑞佳は気になって、音のした方へ向かう。
「この辺りだと思うんだけど……」
辺りを見ながら、近くの十字路を左に曲がる。
「!!」
その瞬間、瑞佳は声にならない悲鳴を上げた。
そこにいたのは、胸を突かれて倒れた女性と───
血塗られた針を見て低く笑っているラーヂ・ゴバルの姿があった。
瑞佳は祐一に伝えようと、そこから離れようとするが───
「あっ!!」
バランスを崩し、転んでしまう。
すぐに起き上がり、前を向く。
「!!」
しかし、目の前にはラーヂ・ゴバルが立ち塞がっていた。
「ミザニバ・ニマリ。ロデモ・レソモミ・マッシャガダミバ!」
そう言って、ゆっくりと歩み寄り手を伸ばす。
「っ!!」
瑞佳はそれを振り払うように駆け出す。
「スジャマ・ゴション……」
ラーヂ・ゴバルはそう呟き、歩いて瑞佳の後を追う。

<喫茶店ホワイト 16:23PM>
店の外で、祐一が回りを見ている。
瑞佳の帰りが思っていたよりも遅く、気になっていたのだ。
「!!」
その時、祐一の頭の中に何かが走る。
「……まさか!」
祐一は素早くロードツイスターに跨り、エンジンをかけると一気にスタートさせた。
「変身っ!!」
アクセルを回しながら叫ぶ祐一。
腰にベルトが浮かび上がり、その中央が光を放つ。
祐一の姿は戦士・カノンへと変わり、同時にロードツイスターもカノン専用マシンに変わる。
(もし瑞佳さんが狙われてるとしたら……くそっ!)
以前、未確認生命体第2号、ガダヌ・シィカパに襲われた時、瑞佳が自分を庇って傷を負ってしまった事を思い出す。
その不安を振り払うように、カノンは更にロードツイスターのスピードを上げる。

<文京区内 16:30PM>
「はぁ……はぁ……はぁ……」
瑞佳は必死に走っている。
ラーヂ・ゴバルから逃れる為に。
途中の角を曲がり、そこに身を潜めようとする。
「ジョゴベ・リグヲジャ?」
「!!」
しかし、そこにはラーヂ・ゴバルが立ち塞がっていた。
再び、瑞佳は別の方へと走る。
その途中、建設中の建物を見つけ、そこに入った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
柱の裏に隠れ、外の様子を伺う。
しばらく経っても誰かが来る気配はない。
瑞佳は大きく呼吸して、そのまま柱に背を預け、座り込んだ。
「ミザナマリショ・リッシャバウジャ」
「!?」
しかし……ラーヂ・ゴバルは既に瑞佳の前に立っていた。
「ミゼザグデバ・ソル・ロヴァヂジャ」
そう言ってラーヂ・ゴバルは針を出し、歩み寄る。
瑞佳は立とうとするが、逃げている最中に足を捻ってしまい、その痛みが強くなり、動けなくなっていた。
果ての無い恐怖と絶望が瑞佳を襲う。
(浩平……助けて……浩平っ!!)
声にならない声で、瑞佳は行方不明の幼馴染み、折原浩平の名を呼んでいた。
しかし、その声は誰にも届かない。
その間に、ラーヂ・ゴバルは瑞佳の目の前まで来ていた。
「ロショマニグ・ニメタ・ダグジャッシャ・ノモン」
ラーヂ・ゴバルの針が瑞佳に迫る。
「っ!!」
瑞佳は目を閉じる……。
しかし、一向に何も起きる気配がない。
「……?」
瑞佳は恐る恐る目を開ける。
そこに映ったのは、何者かがラーヂ・ゴバルの針を掴んでいる姿だった。
「マ、マヲジャショ!?」
ラーヂ・ゴバルも驚いているようだった。
瑞佳は針を掴んでいる者の方を見上げる。
そこにいたのは……エニミートカノンだった。
エニミートカノンは空いた手でラーヂ・ゴバルの肩を掴み、瑞佳から遠ざける。
そして手を離したと同時に、ラーヂ・ゴバルを殴り飛ばした。
たまらずラーヂ・ゴバルは吹っ飛ばされる。
「……」
瑞佳の目はエニミートカノンに向いていた。
(あれは……祐さんじゃない……じゃあ……一体誰なの?)
そう思いながら、瑞佳はエニミートカノンを見ていた。
「ゴ、コモ……」
ラーヂ・ゴバルは起き上がりながら、エニミートカノンを睨み付ける。
エニミートカノンはいつでも動ける体制をしたまま、動かずにいた。
「ゴモ・ラーヂ・ゴバルモ・イャサン・ヌヅショバ・リリジョギョルジャマ!」
そう言って、ラーヂ・ゴバルはエニミートカノンに迫る。
ラーヂ・ゴバルの針がエニミートカノンを狙い、突き出される。
エニミートカノンはそれを躱し、その腕を掴むと一気にラーヂ・ゴバルを投げ飛ばした。
そのまま壁にぶつかり、床に落ちるラーヂ・ゴバル。
立ち上がった瞬間、エニミートカノンのパンチを受け、さらによろめく。
エニミートカノンはさらにパンチを放とうとした。
「ガガッシャマッ!!」
その時、ラーヂ・ゴバルの口から放たれた褐色の液体を胸部に受けた。
「ガッ!?グッ……!!」
突然苦痛の声を上げ、膝を着くエニミートカノン。
何と褐色の液体は、エニミートカノンの皮膚を溶かしていた
「ジョルジャ?・ロデモ・ジョグン・ルゲジャギツヲジャ!」
すかさずラーヂ・ゴバルは飛び掛かり、針を突き出す。
その針が、エニミートカノンの左肩を貫く。
貫かれた部分から血が吹き出し、針に流れてくる。
「グッ……ガアァッ!!」
エニミートカノンは右腕の刃を振り、ラーヂ・ゴバルの胸を切り裂いた。
「!?」
思わず切り裂かれた胸を押さえようとするラーヂ・ゴバル。
それを狙っていたかの様に、エニミートカノンはラーヂ・ゴバルを蹴り飛ばした。
その勢いで針は抜ける。
「サジャ……ジョグザ・シャヂサリ・ギョルジャマ!!」
ラーヂ・ゴバルは素早く立ち上がると、口から褐色の酸液を無数に放つ。
それを躱すエニミートカノンだが、距離が取れず攻撃に移れない。
さらに、躱し切れずに酸液を所々受けており、動きが少しずつ鈍くなってしまっている。
暫くの間酸液を放っていたラーヂ・ゴバルだが、一端酸液の攻撃が止まる。
エニミートカノンは肩で息をしているのに対し、ラーヂ・ゴバルは余裕の表情を見せている。
「シュジバ・ガヴァネヲ」
そう言って構えるラーヂ・ゴバル。
エニミートカノンもかわす体制を整えようとするが、気付いたように後ろを向く。
そこには、瑞佳がいた。
「……」
何かを決めたように前を向き、エニミートカノンは横に走り出した。
「ミバナヲ!!」
ラーヂ・ゴバルは素早くエニミートカノンを狙い、酸液をマシンガンの様に連射した。
その酸液をかわしながら、エニミートカノンは壁を蹴り、ラーヂ・ゴバルの頭上を越える。
そして振り向いたラーヂ・ゴバルの顔の前に素早く腕を払う。
口から放たれた酸液が、エニミートカノンの腕に弾かれ、自らの顔に付着する。
「ギヤャャァァァッ!!!」
顔が溶け、ラーヂ・ゴバルは苦痛の声を上げながら腕を縦横無尽に振る。
どうやら酸液が目に掛かり、視界が失われたようだ。
素早くエニミートカノンは右腕の刃を構える。
すると、刃が黒い光に包まれる。
「ガァァァァァァァァッ!!」
黒い刃を振り上げ、ラーヂ・ゴバルを切り裂く!
切り裂かれた部分から古代文字が浮かび上がり、体中に罅が入る。
ラーヂ・ゴバルは毒の痛みと古代文字の苦しみを受け、さらに声を上げていた。
そして罅が一点に達して、ラーヂ・ゴバルは爆発四散した。
爆発を確認して、エニミートカノンは瑞佳の方を向く。
「あっ……」
瑞佳は思わず声を出す。
エニミートカノンは、ゆっくりと瑞佳に近づいて来た。
「……」
瑞佳は驚いてはいたが、全く恐怖を感じなかった。
自分を助けてくれたのもあるが、それ以外にもエニミートカノンから何かを感じていた。
エニミートカノンはゆっくりと膝を着き、捻った足を見た後、瑞佳を見る。
「……」
エニミートカノンは口を動かしているが、声になってない。
しかし、瑞佳はゆっくりと首を横に振った。
まるで『立てるか?』と言っているように感じられたからだ。
それを見たエニミートカノンは、ゆっくりと瑞佳を抱えようとした。
「!!」
しかし、何かを感じて外を見る。
そこには、ロードツイスターに乗ったカノンがこちらに向かっていた。
「!?」
カノンはエニミートカノンの姿を見て驚く。
その姿がカノンと似ていたからだ。
(あれは……カノン!?まさか…あいつも!!)
この時、カノンはエニミートカノンを水瀬一族の仲間だと思ってしまった。
今までフォールスカノンや、オウガといったカノンのベルトを着けた者と戦って来た為、そんな考えが出てしまった。
さらにエニミートカノンの姿はヌヴァラグ寄りであり、敵と思ってしまう方が普通だった。
カノンは更にロードツイスターのスピードを上げ、エニミートカノンを突き飛ばす。
「グガァッ!!」
エニミートカノンはそのまま吹っ飛ばされ、地面を転がる。
「!!」
いきなりの事で驚く瑞佳。
カノンはロードツイスターから降り、エニミートカノンを睨み付ける。
「お前もあのクソババァの仲間か!!」
そう言ってカノンは構える。
明らかにカノンは怒りを露にしている。
「待って!祐さん!」
カノンの姿を見て、瑞佳は思わず声を上げる。
「瑞佳さん!?」
「あの怪人は敵じゃないよ!戦っちゃ駄目だよ!」
瑞佳の声を聞き、カノンの構えが緩む。
エニミートカノンはよろよろと立ち上がると、2人から離れようとする。
「待って!」
瑞佳の叫びで、エニミートカノンの動きが止まる。
「あなたは……誰なの?」
「……」
エニミートカノンは何も言わず、右腕の刃に黒い光を集める。
「!!」
それを見て、カノンは再び構えをとる。
エニミートカノンは、その黒い刃を地面に叩き付けた。
その瞬間、エニミートカノンの目の前が爆発する。
それを見たカノンは、素早く瑞佳の前に立ち、庇うように膝を着く。
爆風が収まると、エニミートカノンの姿は無くなっていた。
「逃げたのか……?」
カノンの姿が祐一に戻る。
「大丈夫か?瑞佳さん」
「うん……ちょっと足を捻っちゃったけど……」
そう言って瑞佳は苦笑いを浮かべる。
祐一は瑞佳を抱え、ロードツイスターに乗せる。
「それにしても、あいつは一体何者なんだ……?」
「わからない……けど、あの怪人は私を助けてくれたよ」
「助けた?」
「うん、実は私……別の怪人に狙われていたんだよ」
「!?」
その言葉に、祐一は驚愕の表情を浮かべる。
自分が考えていた不安が的中してしまったからだ。
「でも……あの怪人は、私を守ってくれた。それに私の事を心配してくれたんだよ」
「そうだったのか……」
瑞佳の言葉を全面的に受け止める祐一。
未確認生命体から助けてくれたのならば、少なくともあのカノンに似た怪人は敵ではないだろうと、祐一は思った。
「そうだ、早く戻ろう。マスターも佳乃さんも心配してるし」
「うん」
祐一はロードツイスターのエンジンを掛け、瑞佳と共にホワイトへ向かった。

<文京区内・ホワイトの近く 18:04PM>
ロードツイスターを走らせている祐一と、その後ろに座っている瑞佳。
もうホワイトは目の前だ。
「!!」
しかし何かに気付き、祐一はブレーキを掛ける。
「どうしたの?」
「誰か倒れている……」
祐一はロードツイスターから降り、うつ伏せで倒れている人に近づく。
「大丈夫ですか?」
そう言ってその人を起こす。
「!!」
その人は、自分の良く知る人物だった。
「広本!?」
「えっ?」
祐一につられ声を出す瑞佳。
倒れていたのは昇太だった。
昇太の体中には火傷のような痕。
肩には何かが刺さったような痕が残っている。
「おい!しっかりしろ!広本!」
祐一の声に気付いたのか、昇太が目を開けた。
「……相沢……さん?」
「こんな怪我して……何があったんだ?」
「ちょっと事故に巻き込まれて……」
息を荒くしながら昇太は体を起こす。
「どうした!祐の字!」
祐一の声に気付いたのか、マスターが出てくる。
「なっ、広本君じゃないか!どうしたんだ!?」
「事故に巻き込まれただけです。大した事じゃありません」
そう言って昇太は立ち上がろうとするが───
「くっ……!」
膝を着き、体を押さえるように蹲る。
「お、おい!本当に大丈夫か!?」
そう言って、祐一は昇太の体を起こす。
「……すいません……少しそこで休んでいいですか?」
昇太はホワイトを見ながら言う。
「あっ、ああ……それは構わんが……病院に行った方が……」
「俺、病院は苦手なんですよ。それに行く程の大怪我じゃないですし……」
「……わかった」
4人は中に入り、瑞佳と昇太は手当てを受けた。
「広本さん」
佳乃は、カウンター席に座っている昇太に声を掛ける。
しかし昇太の反応は無い。
「広本さん?」
もう一度声を掛ける。
「……」
良く見たら昇太は眠っていた。
「どうした、佳乃ちゃん?」
カウンターからマスターが顔を出す。
「広本さん……寝ちゃったみたい」
「寝かせといてやれ。疲れているんだろうし」
そう言ってマスターは部屋から毛布を取り出し、昇太に被せた。

<廃ビル 21:51PM>
満月の夜、廃ビルの中にいる数人の影。
「ラモ・カノンソジョギノ・マガマガギャヅマ」
緑の手袋を着けた男が月を見ながら言う。
月に雲は掛かっておらず、良く光っている。
「ゼースン・ロソニドグヌヅミバ・リリギョルメ」
そう言いながら、青い髪飾りをした女性は髪を掻き揚げる。
「ニガニ・ゴモササジャショ・シュジミ・ヌヌセマリオ」
長髪の男が呟く。
「イャラ・ロデザリグガ」
その言葉を残し、壁に寄り掛かっていた体格の良い男が壁から離れる。
そして、ビルの外へと出て行く。
「カノンソジョギ・ロサレンゴドヌモバ・ゴモロデジャ!」
満月に黒い雲が掛って行く。
まるで、光を埋め尽くすかのように。

<喫茶店ホワイト 9:23AM>
「はぁ……」
ドアに掛っている「準備中」のプレートを見て瑞佳は溜め息を漏らす。
実際これは何時もの事だが、逆に言うと祐一もマスターもこれを自覚していない。
「ホントにもう少し自覚して欲しいもんだよ……」
そう呟きながらドアを開ける。
「あっ、瑞佳さん。おはようございます」
しかし、中にはデーブル拭きをしている昇太がいた。
「広本さん……?どうしたの?こんなに朝早くから……」
さすがに驚いている瑞佳。
「実は俺、あのままここで寝ちゃったみたいで……さっき起きたんです。でも相沢さんもマスターも まだ寝てるみたいなんで……ここの準備をしてるんです」
昇太は何度か準備している所を見ているので、覚えていた。
「瑞佳さん、あの2人を起こしてくれませんか?」
「えっ?あっ、うん」
そして数分後、祐一とマスターを連れ下りて来る。
「さて……さっさと準───」
祐一は腕を伸ばした状態で固まる。
その後ろにいたマスターも。
「あっ、おはようございます」
2人の視線の先には、呑気に挨拶する昇太の姿があった。
「2人とも少しは広本さんを見習った方がいいよ」
『はい……』
瑞佳の言葉に、素直に頷く2人であった。

<文京区内・ホワイトの前 9:53AM
その後、祐一は外で水撒きをしている。
ちなみに昇太は店内の準備が終わったので、アパートに帰った。
「広本に先を越されるとはな……」
水撒きを終え、そう呟きながら中に入ろうとする。
その時───
「!!」
すぐ近くで人の悲鳴が聞こえ、そこへと走る。
そこで祐一が見たのは、人が倒れる瞬間の姿。
「シュジバ・ロサレガ」
そして、狼のような姿をした未確認生命体、ルヅブ・ボバルが祐一を見た。
祐一はすかさず変身しようとするが───
「どうしたの?祐さ───」
祐一の後を追って瑞佳が付いて来て、ルヅブ・ボバルの姿を見て足を止めた。
「瑞佳さん!?早くに───」
祐一が言うよりも速く、ルヅブ・ボバルは祐一を抜け瑞佳に迫る。
(しまった!?)
このスピードでは確実に追い付かない。
瑞佳は思わず身を縮める。
「!!」
しかし、瑞佳の視界からルヅブ・ボバルの姿が消える。
ルヅブ・ボバルは昇太の乗ったバイクの突撃を受け、飛ばされていた。
「大丈夫ですか!?」
バイクを止め、昇太は瑞佳を見る。
その間に祐一は素早く瑞佳を庇うように前に出る。
「ギャッシェ・グデヅマ!」
ルヅブ・ボバルは起き上がり昇太を見る。
「相沢さん、瑞佳さんを頼みます!」
昇太はそう言うと同時に、バイクをスタートさせた。
「待て!無茶するな!」
祐一は慌てて呼び止めるが、昇太の耳には入ってなかった。
昇太のバイクははルヅブ・ボバルを横切り、そのままルヅブ・ボバルの後ろに回る。
「ゴカグ・マ!」
ルヅブ・ボバルは離れて行く昇太のバイクを追う。
「あいつ……誘導する気か?」
祐一がそう呟いた時、1台の車が2人の前に止まる。
その車から、住人の姿が現れた。
「大丈夫か!?祐の字!」
車から降りた住人は2人の前に来る。
「俺は平気だ、早く広本を追わなきゃ!」
祐一はすぐさまロードツイスターに跨り、昇太の後を追う。
住人も素早く車に乗り、ロードツイスターに続いて走り出す。
「浩……平……」
瑞佳は身体を震わせ、昇太達の走った方を見ていた。
先程の昇太の姿が、浩平と被ってしまったようだ。
元々昇太の姿は、祐一以上に浩平と良く似ているため、瑞佳は何度か昇太を浩平と間違える事があった。
特に浩平と同じ様な行動をすると、そう見えてしまう。
そして瑞佳は、そのまま彼らの後を追い掛けるように走り出した。

<文京区内・廃倉庫 10:26AM>
昇太は廃倉庫の中に入ると、そこで止まり、バイクから降りる。
「ゴゴジェ・ニミシャリ・モガ?」
その後ろには、ルヅブ・ボバルがこちらに歩み寄ってくる。
「リリジャ・ドル!ゴゴジェ・ゴドニシェギャヅ!」
ルヅブ・ボバルは昇太に向かおうと腰を落とす。
そこにロードツイスターが突っ込んで来た。
「!!」
そのままルヅブ・ボバルは吹っ飛ばされる。
ロードツイスターを昇太の前に停めると、祐一はゆっくりと降りる。
祐一はさっと両手を腰の前で交差させた。
すると、腰にベルトが浮かび上がる。
そして素早く胸の前まで腕を上げ、左手を腰まで引き、右手で十字を描く。
「変身っ!!」
そう言って右手を顔の横まで引き、一気に払う。
祐一の身体に浮かび上がっていたベルトの中央部が光り、彼の身体を戦士・カノンへと変える。
「早くここから離れろ!」
カノンが昇太の方に向きながら言う。
昇太は一瞬、カノンの言葉の通り、離れようと思った。
しかし、自分も戦えるのに逃げる事は出来なかった。
「……そういう訳にはいきません」
そして、昇太はカノンの言葉を遮る。
「なっ!何言ってんだ!?ここにいたってお前は……」
カノンがそう言うと、昇太は腕の包帯を取り、カノンに見せる。
「!?」
それを見てカノンは驚愕の反応をする。
昇太の身体は火傷を負っていた。
しかし、その火傷の跡が一晩で奇麗に無くなっている。
「まさか……お前は……」
「はい……俺も相沢さんと同じなんです」
そう言うと、昇太の身体からベルトが浮かび上がる。
ベルトから黒い光を発し、昇太はエニミートカノンへと姿を変えた。
「!?」
カノンはその姿が、昨日現われたカノンのような怪人と同じだと言う事に気付く。
「お前があの怪人だったのか……?」
「……」
エニミートカノンはゆっくりと頷く。
カノンは昨日、自分のした事に罪悪感を感じていた。
水瀬一族と思って攻撃した怪人が、自分の良く知る人だとは思わなかったからだ。
何と言えばいいかわからず、カノンは俯いてしまう。
「カノンガ!・ゴデバリリ・ギャッショ・ロソニドグ・マヅマ!」
ルヅブ・ボバルが起き上がりカノンを見る。
その声に、カノンはさっと向き直る。
「話は後だ……今は奴を倒すぞ!」
「……」
エニミートカノンは、低く唸りながら頷いた。
「カノンソジョギソ・リシャザ!ゴデバ・シュリシェヅオ!」
さらにエニミートカノンを見て、笑いながら言うルヅブ・ボバル。
「行くぞ!」
「……」
互いに頷き合い、2人はルヅブ・ボバルに向かって走り出した。

<倉田重工第7研究所 同時刻>
同じ頃、この研究所のKトレーラーに、未確認生命体の連絡が来た。
『警視庁未確認生命体対策本部よりPSK−チームへ。未確認生命体が文京区内に出現! 直ちに現場に急行してください!!』
警視庁未確認生命体対策本部の本部付の婦警の声がKトレーラーに響く。
「北川君、行くわよ!」
「はい!」
七瀬留美の言葉に強く北川潤は頷く。
深山雪見と斎藤も、素早く準備を始める。
そして数分後、Kトレーラーが文京区に向かって出動した。

<文京区内・廃倉庫 10:32AM>
カノンの鋭いパンチがルヅブ・ボバルに叩き込まれる。
よろめいたルガデ・ボバルに向かって、エニミートカノンが飛び掛かる。
ルヅブ・ボバルはすぐさま体制を立て直し、エニミートカノンに蹴りを叩き込む。
エニミートカノンはルヅブ・ボバルの蹴りを躱すと、素早くしゃがんだ。
「!?」
その瞬間、カノンの回し蹴りが叩き込まれた。
たまらず吹っ飛ばされるルヅブ・ボバル。
「ギャヅマ・ロサレダ」
そう言いながら、ルヅブ・ボバルは素早く起き上がる。
だがその瞬間、急にルヅブ・ボバルの姿が目の前に映った。
「グカァッ!?」
そう思った時、エニミートカノンが吹っ飛ばされた。
(速いっ……!)
咄嗟にガードしたのか、エニミートカノンは素早く起き上がる。
「ゴモ・ロデモ・ラニミ・シュリシェゴデヅガマ?」
再びルヅブ・ボバルは飛び出す。
「フォームアップ!!」
言葉と同時に、カノンの色が基本形態の白から、素早さ・瞬発力の増す青へと変わった。
それを見たエニミートカノンは、近くにあった鉄パイプを拾い、カノンに投げる。
カノンはそれを受け取り、青き力を秘めたロッドへと変化させた。
そのロッドの両端が伸びて、長さを増す。
カノンは青いロッドを構え、ルヅブ・ボバルに飛び掛かる。
その間に、往人がライフルを片手に中に入って来た。
「チッ、もう一体いやがったか」
舌打ちしながら、往人はライフルを構え引き金を引く。
しかしその先にいたのは……エニミートカノンだった。
「!?」
銃声に気付き、エニミートカノンは振り向く。
刹那、炸裂弾が胸部に直撃して、火花が散る。
エニミートカノンにダメージは無いが、撃たれた事に戸惑っていた。
カノンも意識が一瞬、そっちに行く。
ルヅブ・ボバルはそれを見逃さなかった。
素早くカノンから離れ、エニミートカノンに迫る。
それに気付き、慌てて振り向くエニミートカノンだが、振り向いた瞬間、腹部にアッパーカットを叩き込まれた。
「ガブッ!!」
その一撃に大きく怯み、そのままルヅブ・ボバルに殴り飛ばされた。
「なっ!?」
それを見た往人は思わず声を上げる。
彼から見れば、未確認生命体同士で争っている様に見えたからだ。
「くそっ!」
カノンはジャンプしてロッドを突き出す。
しかしルヅブ・ボバルはそのロッドを躱し、カノンにパンチを叩き込む。
「ぐっ!」
それを何とかロッドでガードするが、強い衝撃で身体がよろけてしまった。
「ジョルニシャ!・ノモシェリジョガ!」
よろけたカノンを見て余裕の表情を見せるルヅブ・ボバル。
「!?」
その時、無数の弾丸を受け、ルヅブ・ボバルがよろけた。
カノンは素早く体制を立て直すと、一気にロッドを突き出し、そのままルヅブ・ボバルを投げ飛ばした。
「待たせたな、相沢」
声のした方を向く。
そこには、ブレイバーバルカンを構えたPSK−03が立っていた。
「北川!」
「2体いやがったか、だがまとめて倒してやるぜ!」
自信満々に言うと、PSK−03は……何とブレイバーバルカンをエニミートカノンに向けた。
エニミートカノンは自分に銃口が向けられている事に気付き、動揺している。
「なっ!?北川、やめろっ!!」
カノンは止めようとするが、既に引き金は引かれていた……。
「グガアァァァァァァァァッ!!!!」
ブレイバーバルカンの特殊弾が次々とエニミートカノンに撃ち込まれいく。
体中から大量に血が吹き出し、地面に飛び散っていく。
「やめろッ!!」
カノンは叫びながら走り出し、ブレイバーバルカンを止めようとする。
「なっ!?何すんだ!!」
「あいつは敵じゃない!!撃つんじゃねぇ!!」
「えっ?」
その言葉で、PSK−03はブレイバーバルカンの攻撃を止める。
「……グッ……ガハッ!……ッ!」
エニミートカノンは膝を着き、苦痛の声を漏らしながら蹲っていた。
さらに、触角が半分以下にまで短くなってしまっている。
それ程にブレイバーバルカンのダメージが強すぎたようだ。
「フハハハハッ!!ツアサジャマ!カノンソジョギ!」
その光景を見て、大声で笑うルヅブ・ボバル。
「ナシェ……ショジョセショ・リグガ!」
そう言うと、ルヅブ・ボバルはエニミートカノンに向かって飛び掛かる。
「くそっ!」
PSK−03はブレイバーバルカンを撃つが、尽く躱されている。
「広本!」
カノンもルヅブ・ボバルを追うが、追い付くのは無理だった。
そしてルヅブ・ボバルがエニミートカノンの前に来る。
「ニメ!カノンソジョギ!」
ルヅブ・ボバルのサマーソルトキックがエニミートカノンに直撃する。
「グガァッ!!」
エニミートカノンは成す術もなく吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「グッ……」
エニミートカノンは身体を起こそうとするが、段々と意識が薄れていた。
その時、瑞佳が姿を現した。
「あっ!」
倒れているエニミートカノンの姿を見て、瑞佳の足が止まる。
(あの怪人は……昨日の……)
エニミートカノンは、瑞佳が来た事に気付いた時……。
「……」
意識が無くなり……倒れた。
そして……エニミートカノンの姿が、昇太の姿へと戻る。
『!?』
驚愕の反応をする往人と瑞佳。
まさか、あの怪人の姿をした人物が自分達の良く知る人だとは思ってなかったからだ。
往人に至っては、知人に向かって発砲した事に罪悪感を感じていた。
「こ、こいつが……あの……怪人だったのか?」
「そ……そんな……広本さんが……どうして……」
その間にカノンが来て、昇太を起こそうとする。
「おい!しっかりしろ!おいっ!」
「……」
しかし、昇太の目は開かない。
彼の服はぼろぼろになっており、あちこちに血が滲んでいる。
特に、ルヅブ・ボバルのサマーソルトキックを受けた胸部の服は裂け、皮膚には大きな痣が残っていた。
「……」
PSK−03は呆然としたまま、昇太を見ていた。
昇太の傷の半分以上は自分が負わせた物。
カノンが止めなければ……彼は死んでいたかもしれない。
自分は未確認生命体ではない……人を殺してしまう所だった。
そう思うと、罪悪感を感じずにはいられなかった。
『まさか……彼も……』
そしてPSK−03をサポートしている留美や斎藤、そして雪見も驚きを隠せなかった。
未確認生命体だと思っていた相手が、人間だったという事に。
「カノンソジョギソ・シャリニシャゴショ・マリマ!」
倒れている昇太を見て笑うルヅブ・ボバル。
その時、カノンは素早く跳び掛かり、ロッドを叩き込んだ。
しかし、その攻撃は受け止められていた。
「このッ!!」
カノンはそのまま何度もロッドを叩き込むが、全てガードされている。
ルヅブ・ボバルは一瞬の隙を突き、カノンを殴り飛ばす。
ロッドがカノンの手から離れ、元の鉄パイプに戻ってしまった。
その間に、PSK−03はブレイバーバルカンをグレネードモードに切り替えていた。
「喰らえッ!!」
引き金を引き、グレネード弾を発射させるが、ルヅブ・ボバルはそれをガードして耐えた。
「なっ!?」
驚く間もなく、ルヅブ・ボバルが迫って来る。
PSKー03はすかさず電磁ナイフを手に取る。
「なら、これでっ!!」
そして電磁ナイフを突き出すが、掠りもせずに躱されてしまう。
ルヅブ・ボバルはそのままの勢いでPSK−03にパンチのラッシュを放つ。
さらにPSK−03を掴み取り、そのまま投げ飛ばした。
「うわぁぁぁっ!!」
吹っ飛ばされ、大きく宙を舞いながら地面に叩きつけられる。
『装甲に20%のダメージ!!』
『北川君!』
斎藤や留美の悲痛な声が響く。
今度は白に戻ったカノンがキックの体制を取っていた。
「ゴリッ!」
ルヅブ・ボバルはカノンに向かって走り出す。
「ハッ!!」
短い声と共に、カノンがジャンプした。
空中で一回転して右足を突き出す。
その足が光に包まれ、ルヅブ・ボバルを捕える。
ルヅブ・ボバルはそれに対し、サマーソルトキックを放つ。
カノンのキックとルヅブ・ボバルのサマーソルトキック。
その両者が激突する。
「何っ!?」
声を上げたのはカノンの方だった。
カノンのキックが、ルヅブ・ボバルのサマーソルトキックに弾かれしまったのだ。
その為、カノンの体制が大きく崩れる。
そこに、ルヅブ・ボバルの強烈な回し蹴りが叩き込まれた。
「ぐはっ!!」
カノンはそのままPSK−03の方まで吹っ飛ばされる。
「ナシェ・ラノゴモ・ビサンン・ゴドヌガ」
そう言ってルヅブ・ボバルは往人達の方を向く。
「チッ!お前は早く逃げろ!」
ライフルを撃ちながら瑞佳に向かって叫ぶ往人。
しかし、炸裂弾では足止めにもならなかった。
「ミザナヲ!」
ルヅブ・ボバルが腰を落とす。

<??? ??:??AM>
「ここ…は……?」
気が付いたら、俺は何処だかわからない場所にいた。
ただ解る事は……俺は宙に浮いているようだった。
足が地面に着いている感覚が感じられない。
それに回りは暗い紫で覆われ、何もない。
「気が付いたようだな」
ふいに声がして、俺は声の方を振り向く。
そこにいたのは……灰色の皮膚をした怪人。
俺が戦う時の姿……闇のカノンの姿だった。
「お前は……?」
「私は君の石の記憶だ。形が無いため、この姿を借りている」
そう言って闇のカノンはこっちに近づく。
「正直、カノンがこのような姿になってしまったのは驚いた。それでも戦う事を誓った君の意志にも驚かされた」
「だけど……俺の力もそろそろ限界だ」
そう……以前俺の力が衰えた時、何とか力を取り戻す事が出来た。
だけど俺の力は上がった訳では無い、カノンより劣っている分、俺はヌヴァラグの力に対抗しきれてない。
「それに……俺の姿は……普通の人から見ればヌヴァラグと変わり無いみたいだ。奴等と同じと思われている」
さっきもそうだった、国崎さんやPSKも俺をヌヴァラグと思い込んで攻撃した。
それに昨日も相沢さんは俺を敵だと思って襲ってきた。
俺が皆の前で戦えば……ヌヴァラグと同じ様に映る。
それを……俺は恐れている。
「なら……君もカノンの様に戦えばいい」
「だが!……どうやって?どうすれば俺は相沢さんみたいに戦えるんだ!?」
俺の姿は……明らかに『戦士』とは掛け離れているんだ……。
それを……どうやって……。
「あれを見ろ」
突然、闇のカノンは俺の後ろを指差した。
言われるままに、俺は後ろを向く。
「!?」
そこには……何かがいた。
形がある様で無い、あやふやで人の姿をした何かが。
「これは……」
「確かに君の姿はヌヴァラグに近い、しかし君の力は少しずつ戦士の姿を取り戻しつつある」
「じゃあ……これは……俺の」
「そう、そこにいるのは君の『戦士』だ」
闇のカノンは軽く頷いた。
これが……俺の『戦士』なら……俺はカノンに戻れるのか?
「以前君が力を失い掛けた時、君は強い意志を持って力を取り戻した。それと同時に、霊石の中で『戦士』の姿を創り始めた」
「じゃあ……あの時から俺の霊石は元に戻ろうとしてたのか?」
「そうだ……既に君の『戦士』は目覚めようとしている。しかしその姿はカノンの姿ではないだろう」
「どういう事だ?カノンのベルトならカノンに戻るんじゃないのか?」
「確かにそうだ、しかし君の力は違う。君の力は……カノンに似てカノンでない力。『戦士』に似て非なる力を秘めている」
「カノンに似て……カノンでない……?」
正直あまり理解出来なかったが、俺はカノンとは違う力を持つ事は解った。
「そうだ、君はカノンから新たな『戦士』へと変わろうとしている」
そう言いながら闇のカノンは俺の隣に並ぶ。
じゃあ俺は……カノンじゃない『戦士』になるのか……?
「後はこの姿を『戦士』としての姿になれば、君は『戦士』の姿になれる。そうするには……君の意志が必要だ」
「俺の……意志?」
「そうだ、この『戦士』は君と同調している。君の意志が君の『戦士』の姿を創る、だから君の意志をこの『戦士』に込めるんだ」
そう言って、闇のカノンは俺から離れる。
意志……俺の意志は……。
「!?」
その時、俺は倒れる前に映った瑞佳さんの姿を思い出した。
そうだ……俺にはまだやらなければならない事がある。
相沢さん達が頑張ってるのに……俺だけがこんな所で終わる訳にはいかない。
ここで……倒れている場合じゃないんだ!もう1度立って……戦うんだ!
それが……今、俺のいるべき場所だから!
俺の意志に合わせる様に……『戦士』の姿がはっきりと現れていく。
1つ1つの言葉が『戦士』の形になっていく。
やがて……『戦士』は完全な姿になり、俺の目の前に立つ。
カノンに似てカノンで無い『戦士』に。
「それが君の『戦士』だ。その力で……君の守りたい人を守れ」
そう言い残して、闇のカノンは消えた。

<文京区内・廃倉庫 10:56AM>
ゆっくりと腰を落としたルヅブ・ボバルは往人に跳び掛かった。
「くっ!!」
往人は咄嗟にライフルで受け止めようとしたが、ライフルは砕け、往人は吹っ飛ばされた。
「ぐあ……っ!」
往人は地面を転がり、蹲る。
幸い、ライフルで受け止めたので直撃は免れたが、それでもダメージは大きかった。
「ナギミ・ラモビサンジェソ・コドヌガ」
そう呟いて、今度は瑞佳を狙うルヅブ・ボバル。
「!?」
瑞佳は驚いた様に身体を震わせ、逃げようとする。
しかし、それよりも早くルヅブ・ボバルは動いていた。
「瑞佳さん!!」
カノンは叫ぶ事しか出来なかった。
遂にルヅブ・ボバルは瑞佳の目の前に迫る。
「!?」
しかし、ルヅブ・ボバルの体制が大きく崩れ、瑞佳の横を通り過ぎて地面を転がる。
「……」
瑞佳は驚いた表情のまま、立ち尽くしていた。
彼女の目の前に……昇太が立ち上がっていたからだ。
胸にあった痣は消えており、他の傷跡も塞がっている。
「……広本……さん?」
瑞佳は思わず目を見開いていた。
「死なせるかよ……」
ゆっくりと昇太は前に出る。
「まだ……会わなきゃいけない奴がいるのに……そいつに会わないまま死ぬなんて……そんな事……絶対に……させる訳には行かねぇんだ!!」
そう言って昇太はルヅブ・ボバルを睨み付ける。
「フン!ニミオゴマリザ!」
「絶対に……させないっ!」
そう言うと、昇太はさっと胸の前で腕を交差した。
すると、昇太の腰の部分が光りを発し、ベルトが浮かび上がる。
今までの生体的な形では無い、金属の形のベルトを。
そして、それはカノンやアインの物とは違うベルトだった。
ベルトが形になると同時に、交差させた腕を左胸の前に引き、十字を作る。
続いて左手を引き、右腕を真っ直ぐ前に突き出す。
そして肘をゆっくりと曲げ、右手を胸の前に引いた。
「変身!!」
そう言って右手を引き、左腕を直角に突き立てる。
するとベルトの中央から光が放たれ、昇太を包む。
「ロショマニグ・ニミサ!」
起き上がったルヅブ・ボバルは、腕を振り上げ昇太に殴り掛かった。
昇太は身体を回すと同時にそれを躱し、そのままルヅブ・ボバルに回し蹴りを叩き込む。
すると、昇太の両足に銀のサポーターと、緑の宝玉がはめ込まれた銀の足甲が備わった。
さらに昇太はよろめいているルヅブ・ボバルに向かって、パンチを叩き込む。
今度は昇太の両手に銀の手甲とナックルガード、手首には同じく緑の宝玉がはめ込まれたブレスレットが備わる。
「ハァァァァッ……」
昇太の声と共に、次々と彼の体が変わっていく。
黒い第2の皮膚に銀のボディアーマーが包まれ、その中央には透明な石がはめ込まれる。
頭部にはカノンに似た黒い仮面が覆われ、赤く大きな目が光る。
さらにマウスガードで覆われた口、左右に緑色の石がはめ込まれた金の角が現われる。
昇太は変身した。
カノンに似てカノンで無い姿。
『戦士』に似て非なる姿へと。
その名は……ソルン!
「あの姿は……」
その姿を見て、往人は思わず声を漏らしていた。
瑞佳も驚いた表情でソルンを見ていた。
往人や瑞佳だけではない、PSK−03も留美達も、そしてカノンもその姿に驚いていた。
(これが……ソルン……)
さらに彼自身も驚いていたが、すぐに気持ちを切り替えた。
ルヅブ・ボバルは、ソルンの姿を見て楽しそうに笑っていた。
「サジャサジャ・シャモニサネシェ・グデノルジャマ!カノンソジョギ!」
そう言って、ルヅブ・ボバルは素早くソルンに飛び掛かる。
ソルンは体を低く構え、飛び込む。
ルヅブ・ボバルはパンチを叩き込むが、ソルンに受け流され体制を崩す。
ソルンは素早くルヅブ・ボバルの後ろに回り、腕を掴むと一気に投げ飛ばした。
頭から地面に叩き付けられ、ルヅブ・ボバルは地面を転がる。
(戦える……闇のカノンの時と全くパワーもスピードも違う……これなら!)
新たなる力に、ソルンは拳を握り締めていた。
「ゴカク・マ!」
起き上がった瞬間、ルヅブ・ボバルは再び飛び掛かろうとする。
「!?」
しかし、後ろからの衝撃を受けよろける。
ルヅブ・ボバルの後ろでは、PSK−03がブレイバーバルカンを撃ち込んでいた。
さらに横からカノンが跳び掛かり、渾身のパンチを放つ。
その一撃に大きくよろけるルヅブ・ボバル。
「マセヅマッ!」
しかしルヅブ・ボバルは踏ん張って体制を戻し、カノンに迫ろうとする。
その時、ソルンの足払いを受け再び体制を崩す。
「ウオオリャアァァァァァッ!!」
そこにカノンのキックが叩き込まれた。
吹っ飛ばされ、地面に落ちるルヅブ・ボバル。
ルヅブ・ボバルの胸には古代文字が焼き付けらえるが、全身に走る罅のスピードが遅い。
「グウウゥゥゥゥ……」
何と、ルヅブ・ボバルは全身に力を入れ、耐え切ろうとしていた。
「くそっ!」
カノンはもう一度キックを放とうと、腰を落とす。
しかし、それよりも早くソルンが動いていた。
ソルンが迫ってきたのに気付き、ルヅブ・ボバルは腕を振り回す。
その腕を受け止め、ソルンは真上にジャンプした。
「ハアッ!!」
そして左足を突き出し、ルヅブ・ボバルに叩き込む!
キックが直撃して、ルヅブ・ボバルは大きくよろめく。
ルヅブ・ボバルの体に2つ目の古代文字が焼き付けられ、全身の罅がさらに広がって行く。
それが一点に集まり、光が大きくなる。
「ロ、ロモデ……カノン……ソジョ…ギ…」
断末魔と共に、ルヅブ・ボバルは爆発四散した。
それを見て、往人や瑞佳は安堵の息を着く。
PSK−03は帰還命令を受け、その場を去る。
「……」
カノンはゆっくりとソルンに近づく。
ソルンもカノンの方を向く。
互いに向き合う2人の戦士。
カノンはソルンに向かって、右手の親指を突き立てた。
「……」
ソルンは軽く頷くと、左手の親指を突き立てる。
そして、カノンとソルンの姿が祐一と昇太に戻る。
今ここに、戦士・カノンと共にヌヴァラグや未確認亜種、そして水瀬一族と戦う新たな仲間。
戦士・ソルンが誕生した。

Episode.6「光輝」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderSorun


次回予告
今までの出来事を祐一達に話す昇太。
昇太はソルンとして戦う事を誓う。
祐一「0号と戦ったのか?」
瑞佳「頑張ってね……」
瑞佳が見守る中、2人の戦士は立ち向かう。
再び洋介達は昇太を探そうと、東京へ向かう。
洋介「今度こそ……見つける」
昇太「つ、強い……」
そして姿を現す漆黒の超戦士。
未確認亜種体を凌駕するその戦士は何者なのか!?
???「……中々シッポを掴ませねえな」
次回、仮面ライダーソルン「黒光」
解き放て!その力!!



設定資料

ラーヂ・ゴバル

蟻の姿をした未確認生命体。
頭部の触角は、半径20km内の獲物を察知し、決して逃がさない。
針を持つ腕と、強力な酸液でエニミートカノンを翻弄した。


ルヅブ・ボバル

狼の姿をした未確認生命体。
肉弾戦に優れており、カノン・エニミートカノン・PSK−03を次々と蹴散らした。
身体そのものが硬い鎧のようになっているので、ブレイバーバルカンのグレネード弾にも耐えられた。
必殺のサマーソルトキックは、カノンのライダーキックをも弾き返す程の威力を持つ。


戦士・ソルン

昇太の意志によって創られた戦士。
カノンと似ているが、未知数な部分が多く、その力も若干異なっている。


ソルン:フラッシュフォーム

銀の姿をしたソルンの基本形態。
白い姿のカノンとほぼ同じ力を持つ。
必殺技は、ベルトの力を左足に込めて敵に叩き込むフラッシュキック。

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