<関東医大病院 15:47PM>
病院の廊下を、人を掻き分けながら走る広本昇太の姿がいた。
昇太は病院の人から瑞佳が重傷を負った事をホワイトで聞き、ここに駆け付けて来た。
(まさか……瑞佳さんがこんな事になるなんてな……)
そう考えていると、目の前に霧島聖の姿を見つけた。
「霧島さん!」
昇太の言葉に聖が振り替える。
「瑞佳さんは……大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だ。出血量は多いが心配しなくてもいい」
その言葉を聞き、昇太は胸を撫で下ろした。
「それで……瑞佳さんは誰が?」
「それなんだが……妙な事を言って何処かへ行ってしまったんだ」
「妙な事?」
「ああ、『俺はもう来れないかも知れませんが瑞佳の事、お願いします』と言ってたんだが……」
昇太はその言葉に違和感を覚えた。
彼女を『瑞佳』と呼ぶ人はあまりいない。
少なくとも、彼女と親しい人物しかそう呼ばない筈だ。
「それと……顔が君に良く似ていた」
「俺に?」
それを聞いた時、該当する人物が即座に浮かんだ。
その名は折原浩平。
行方がわからなくなっていた瑞佳の幼馴染みである。
以前瑞佳からも、彼と勘違いされた事もある。
「そいつは……いつ出て行ったんですか?」
「君が来る少し前だから……10分程前だと思う」
「……わかりました」
そう言うと、昇太は一目散に走り出した。
「あっ、おい!」
聖の声にも振り向かず、昇太は走っていた……。

仮面ライダーソルン
Episode.5「限界」

<千代田区内 20:43PM>
それから昇太は、あてもなく浩平を探していた。
しかし、手掛かりが全くないので、見つかる可能性は限りなく低い。
「……」
無論、昇太もその事はわかっている。
しかし、それでも探さずにはいられなかった。
『瑞佳を救って欲しいから』
『自分では瑞佳を助けられないから』
ただそれだけを思い、昇太は浩平を探し続けていた。
「!?」
その時、昇太の視界が大きく歪んだ。
「こんな時に……」
そう呟いた時、目の前を2つの影が通過し、近くの細道に入っていた。
慌てて昇太はバイクを止め、後を追う。
そこには海驢の姿をしたラニガ・ボバルと、戦士・ゼルバが戦っていた。
「鹿塚さん……」
昇太は素早く走り出し、エニミートカノンへと姿を変えた。
「ガアアアッ!!」
そしてラニガ・ボバルに跳び込み、パンチを放つ。
ラニガ・ボバルはそれをかわし、鰭のような手をエニミートカノンに叩き込む。
「ハッ!」
吹っ飛ばされたエニミートカノンと入れ替わるようにゼルバが跳び掛かる。
ラニガ・ボバルは再び鰭手を叩き込む。
ゼルバはそれを受け止め、腹部にパンチを叩き込む。
よろめくラニガ・ボバルを見て、エニミートカノンが走り出した。
右腕の刃が黒い光に包まれ、ラニガ・ボバルに振り下ろされる!
「!?」
しかし、黒い刃はラニガ・ボバルの身体を半分も切り裂けなかった。
まるで切れ味の鈍った刃のように、食い込んでいた。
ラニガ・ボバルの身体に古代文字は浮かんだが、とても小さくすぐに消えてしまった。
咄嗟にラニガ・ボバルは刃を払い除け、エニミートカノンを蹴り飛ばした。
さらにゼルバの方を向き、両手の鰭を強く叩く。
すると辺りの建物等が、揺らいで見え出した。
「くっ!?」
途端、ゼルバは両手で耳を塞いだ。
「グゥゥ……」
エニミートカノンも耳を塞いでいた。
視界が戻った時には、既にラニガ・ボバルの姿は無かった。
それを確認して、2人の姿が戻る。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
その時の昇太の表情は固かった。
この戦いで、昇太は自分の力に違和感を覚えていた。
(気のせいならいいんだが……)
そう思いながら、昇太は直樹と共にこの場を離れた。

しかし、それ以降ラニガ・ボバルの姿を見る事は無かった……。

<関東医大病院 21:47PM>
瑞佳の様子を見ようと、昇太は病院に戻って来た。
その時、ロビーの長椅子に座っている相沢祐一の姿を見つけた。
「相沢さん」
声を掛け、祐一に歩み寄る。
「広本……」
声に気付き、昇太の方を向く祐一。
その表情は僅かに沈んでいた。
「瑞佳さんは……まだ眠ってますか?」
「ああ……」
そう言い、手にしていた缶コーヒーを口に運ぶ。
「……すまない」
「えっ?」
突然の言葉に、昇太は思わず声を出す。
「瑞佳さんがああなったのは……俺の所為なんだ……」
「……」
昇太の声が止まる。
それから祐一はその時の出来事を話した。
第2号が自分を狙って来た事。
そこにいた瑞佳が自分を庇った事。
その中で浩平に襲われた事は話さなかった。
「……結局俺は近くにいる人でさえ守れなかったんだ」
「仕方ありませんよ……1人だけではやれる事に限界がありますから」
「お袋にも同じ事を言われたよ……それと『無理なら誰かに手を借りたらいい』とも言ってたが……誰に手を借りたらいいんだ……?」
その言葉に昇太の表情が変わる。
自分は祐一の負担を少しでも減らそうと、影で戦っている。
今ここでその事を言えば、共に戦う事が出来るのではないかと言う考えが浮かんだ。
「……」
しかし昇太は言わなかった。
いや、言えなかった。
ここ最近、未確認生命体の力が徐々に強くなっており、今まで以上に苦戦を強いられている。
こんな状態で戦っても、祐一の足を引っ張ってしまうような気がしてしまい、言う事が出来ないのだ。
「……でも俺以外に未確認生命体と戦えるのはいないんだから……俺が弱音を吐いちゃいけないな」
そう言うと、祐一はゆっくりと立ち上がり、缶をごみ箱に捨てる。
「悪かったな、愚痴みたいになっちまって」
「いいんですよ……気にしなくて」
「すまない……じゃあ俺はそろそろ戻るから」
祐一はそう言い、病院から出た。
残された昇太は、複雑な表情で外を眺めていた。

<洋介の家・洋介の部屋 22:15PM>
「これで未確認生命体は26体目……か」
パソコンのディスプレイに写し出された文字を見て、石山洋介は大きな溜め息を付いた。
彼は今、未確認生命体関連のニュースを、インターネットで見ている。
「全く……何体出れば気が済むんだ……」
そしてそのニュースを見る度に、こんな台詞を呟く。
それに昇太の手掛かりも全く掴めておらず、雅美達にも不安の表情が出てきた。
特に深見彩は不安でたまらないと、雅美から聞いた。
「くそっ……どうすりゃいいんだ……」
ただ何も出来ず、洋介は頭を抱えた。

<4日後・都内某所 22:56PM>
それから昇太は4日間もの間、浩平を探し続けていた。
見つからないとわかっていても、探さずにはいられなかった。
(少し……休憩するか)
そう思い、近くにあった公園の前にバイクを止める。
その時、携帯電話の着信音が鳴った。
「はい……あっ、香里さん。どうしました?」
『相沢君が……27号と戦って……倒れたの』
携帯電話から聞こえたのは、暗く沈んだ香里の声だった。
「倒れたって……でも相沢さんならベルトの力で……」
『今回ばかりは違うの……もう6時間も手術をしてるの……』
「!?」
その言葉を聞き、昇太の表情が僅かに青ざめる。
「……わかりました、とにかくそっちに向かいます」
そう言い、昇太は通話を切る。
「……瑞佳さんの次は相沢さんかよ」
やるせない表情で、昇太はバイクを走らせようとした。
しかし、急に昇太の視界が揺らいだ。
その視界の先には、未確認生命体第27号の姿が映し出された。
「相沢さん……少しの間……俺が代わりを受けます!」
昇太は改めてバイクを走らせた。
第27号の所に向かって。
そして信じていた。
祐一は必ず戻ってくると。

<廃ビル 23:19PM>
薄暗い灯りの中に、2人の影が映っている。
そこに、小柄な男の姿が現れた。
「カノンザ・リガチミ・ギャダデシャシシャリジャ」
小柄な男が、長髪の男とスキンヘッドの男に伝える。
どうやらカノンと27号の戦いを見ていたらしい。
「リガチモジョグバ・ガマヂ・ギョルヂョグジャッシャ・マ」
「マダ・ゴデジェ・カノンソ・ロヴァヂジャマ!」
長髪の男の言葉に、スキンヘッドの男が笑みを浮かべる。
「リギャ……サジャ・ロヴァダマリ・ジャドル」
「ソニ・ロヴァッシャショニシェソ・カノンソジョギザ・モゴッシェリヅ」
小柄な男が溜め息混じりにスキンヘッドの男に向かって言う。
「カノンソジョギ?ラヲマギャシュ・ゴモロデザ・ゴドニシェギャヅナ!」
スキンヘッドの男はそう笑い飛ばすと、踵を返してその場を去った。
「ショゴドジェ・ラニガバ・ジョルニシャ?」
長髪の男は思い出したように呟く。
「ラニガバ……ギャダデシャ・シシャリジャ」
「カノンショジョギ・ミガ?」
「リギャ、ジョルギャダ・シィザル・シシャリ・ジャ」
「……ノルガ」
そう言い、残りの2人もその場を去って行った。

<中央区八丁堀駅付近 23:48PM>
未確認生命体第27号リガチ・コバルは、歓喜の声を漏らしていた。
その視線の先には、猛毒の黴によって倒れてしまった人々がいた。
リガチ・コバルは左手首につけたブレスレットの勾玉を倒れている人数分だけ動かした。
その時、1台のバイクがリガチ・コバルの後ろに停まる。
有頂天のまま振り向くリガチ・コバル。
目の前にいたのは昇太だった。
「お前が……27号か」
昇太の腰にベルトが浮かび上がる。
黒い光がベルトの中央から放たれ、エニミートカノンへと姿を変えた。
しかし頭部の触角が、以前と比べて半分程短くなっていた。
「ロサレバ……カノンソジョギバ」
慌てた様子も無く、余裕の表情を浮かべるリガチ・コバル。
エニミートカノンはゆっくりと構えと取る。
「カノンギョヂ・ギョヴァリギャシュバ・ゴモリガチ・コバルミ・ガシェヅショ・ロソッシェリヅモガ?」
リガチ・コバルは構えも取らず、エニミートカノンに歩み寄る。
ある程度距離が縮まった時、エニミートカノンはリガチ・コバルに跳び掛かった。
エニミートカノンのパンチがリガチ・コバルを捕える。
リガチ・コバルはそれを受け止め、エニミートカノンの脇腹に蹴りを叩き込み、大きく投げ飛ばした。
宙を舞い、地面に叩き付けられるエニミートカノン。
「グッ……」
エニミートカノンは起き上がると、再びリガチ・コバルに跳び掛かった。
今度はラッシュパンチで、リガチ・コバルに迫る。
しかし、リガチ・コバルは全くひるまない。
そして隙を見て、リガチ・コバルはエニミートカノンの両手を掴むと、腹部に蹴りを叩き込んだ。
「グガッ!」
エニミートカノンは2、3歩後ずさり、腹部を押さえる。
そこにリガチ・コバルの回し蹴りが叩き込まれる。
エニミートカノンは吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられて、地面に落ちる。
「ジョルニシャ?ゴデジェ・ロヴァヂ・マモガ?」
そう言いながら余裕の表情でエニミートカノンに歩み寄るリガチ・コバル。
エニミートカノンはよろけながら起き上がり、右腕の刃を構えた。
すると、刃が黒い光に包まれ、黒い刃へと変化する。
「ガァァァァァァァァッ!!」
雄叫びと共にエニミートカノンはリガチ・コバルに迫り、黒い刃を大きく振り下ろす!
しかし……。
「!?」
黒い刃は、リガチ・コバルに受け止められてしまった。
その手には古代文字すら浮かばない。
しかもそれだけではなかった……。
エニミートカノンの刃が、ガラスの割れるような音を立てて砕けてしまった。
「フン……ゴモ・シェリジョ・ガ」
そう言って鼻で笑うと、リガチ・コバルはエニミートカノンに膝蹴りを叩き込んだ。
エニミートカノンは体制を立て直し、反撃しようとするが、攻撃は全て弾かれてしまい、リガチ・コバルに翻弄されていた。
攻撃は効かず、頼みの刃も砕かれしまい、エニミートカノンにはなす術が無くなってしまった。
「ナシェ、ショジョセン・ナヌガ」
リガチ・コバルは、ぼろぼろになって倒れているエニミートカノンに歩み寄る。
「ハァ……ハァ……」
エニミートカノンは荒い呼吸を発しながら立ち上がる。
しかし、視界が段々ぼやけてしまっていた。
「!?」
その時、リガチ・コバルは自分の体の異変に気付く。
「……ベヲガリ・ガ……サラ・リリ・ラヲサギャシュマジョ・ヌブミ・ゴドネル」
そう呟くと、リガチ・コバルは姿を消した。
エニミートカノンは昇太の姿に戻ると、そのまま地面に倒れた……。

<彩の家・彩の部屋 1:24AM>
一向に昇太の手掛かりが掴めず、彩の不安は大きくなっていくばかりであった。
特に今、彩は強い胸騒ぎを感じていた。
まるで、昇太がもう2度と会えない所に行ってしまったような気がしてならなかった。
「そんなはず……ないよね……?」
何度も呟いては、自分に言い聞かせようとした。
しかし不安は消える事は無かった。
「広本君……」
鳴咽の混じった声と共に、彩の頬に一筋の涙が流れていた。

<城西大学考古学研究所 1:40AM>
研究所に戻るや否や、香里は古代文字の解読を始めていた。
その中で、1つの文の記述が見つかった。
「『戦士の瞳閉じられし時、大いなる瞳現れても汝涙する事なかれ』……どう言う事かしら……?」
とにかく、この事を関東医大病院にいる聖に話そうと携帯電話を取り出そうとする。
その時、携帯電話の着信音が鳴った。
「はい、美坂です……」
『こんな時間に済まない。霧島だが』
電話の主は聖だった。
だがその声は落胆しており、決して良い報告を話に来たとは思えない。
「ああ、聖先生。今電話しようと思っていたところだったんですよ……ってそっちから電話してきたって事は……まさか相沢君……」
香里の声が震えていた。
恐れていた事が本当に起こってしまったのを感じ取っていた。
本当なら否定したかったが、的中して欲しくない不安程、的中する物はない。
『現代医学では手の施しようがなかった……とは言い訳にしかならないが……』
やはり的中してしまった。
香里は何も言えず、ただ俯いていた。
『……』
聖もまた、何も言えずに俯いていた。
やがて、香里は顔を上げ、意を決したように言った。
「……でも……私、信じていますから。相沢君は死なない、まだ死んじゃいないって信じていますから」
その言葉に、聖は僅かに驚きの声を出していた。
「それと私にはよく解らないんですが、何かのヒントになるかも知れない記述が見つかったんです。『戦士の瞳閉じられし時、大いなる瞳現れても汝涙する事なかれ』って言うんですが……」
先程見つけた記述を話すと、聖の口から考え込むような声を漏らしていた。
『……まさか?』
聖の呟きを聞き、香里は何かを見つけたのだと確信した。
「また何かわかったら電話します」
そう言って、香里は電話を切る。
そして、他の碑文の解読を始めた。
「みんな……諦めたら駄目よ」

<関東医大病院・集中治療室前 2:25PM>
すっかり静かになった病院の廊下を、昇太は歩いていた。
第27号との戦いで、暫くの間倒れていたが、ある程度傷も回復したので、祐一の様子を見に来た。
そして集中治療室に来た時、泣き疲れて眠っている沢渡真琴を抱き締めている水瀬秋子の姿を見つけた。
「秋子さん……」
その言葉に、秋子は顔を上げた。
「相沢さんは……まだ」
「はい、でもすぐに目を覚まします」
その時、昇太はふと真琴を見た。
実際昇太は真琴と面識はないが、祐一との関係は大体予想が付いた。
「所で広本さん……何かあったのですか?」
急に真剣な表情で昇太を見る。
まだ完全に回復しきっていないので、所々傷跡が残っていた。
「……27号を見つけて戦ったのですが……全く歯が立ちませんでした」
そう言い、昇太は俯いた。
秋子は不審に思い、昇太の力を感じ取る。
その時、秋子の表情が僅かに強張った。
「……広本さん」
昇太は顔を上げ、秋子を見る。
「単刀直入に言います……あなたの力は……衰えてます」
「!?」
その言葉に、昇太は驚愕の反応を現す。
「本来ならカノンのベルトの石に強力な力が加わると、ベルトは砕け、その人は死んでしまいます。でもあなたの場合、ベルトの力とヌヴァラグの力が融合して突然変異を起こし、闇の力を持ったカノンとして姿が変わりました。しかし……本来カノンの力に全く異なった力が入ってしまったため、その力は徐々に弱まってしまっているんです」
「じゃあ……」
「はい……あなたは変身する度に少しずつ力を失っているのです」
「……」
昇太は言葉を失っていた。
未確認生命体はさらに強くなっているのに対し、自分は逆に弱くなってしまっているのだから。
「……ただでさえあなたの力は、カノンよりも劣っています。でも今のあなたはもう……カノンの半分にも満たないでしょう」
秋子はそう言って目を伏せた。
昇太からの言葉は無い。
「でも……力だけが全てではありません。力ばかりに惑わされてはいけません。それを覚えておいて下さい」
そう言って、秋子は真琴を連れてその場を離れる。
昇太もやるせない気持ちのまま、そこから離れた。
その途中、こちらに向かって来る美坂栞の姿を見つけた。
「広本さん……」
昇太の姿に気付き、栞は足を止める。
「祐一さんは……?」
「いえ……まだ脈が停止したままです」
その言葉に、栞は俯いてしまった。
「でも大丈夫ですよ、相沢さんは必ず目を覚まします。みんなの笑顔を守るのですから、ここで終わる事はありません」
「その通りだ」
何時の間にいたのか、聖が昇太の後ろから現れた。
「先程彼の脈を調べたが、弱いながらも確実に動いていた」
「ほ、ホントですか!?」
栞は思わず聖に詰め寄る。
「うむ、もう心配する事はない。必ず彼は目を覚ますから」
「……そうですよね!祐一さんは負けませんよね!」
栞は強く、そしてしっかりと手を握っていた。

<廃工場 3:17AM>
薄暗い光の中、数人の男女が集まっていた。
「カノンバ・ニヲジャ・ノルジャ」
体格の良い男が手首の骨を鳴らしながら言う。
「ノル……ゴデジェ・ゼースバ・シュサダマグマッシャ・ガニダ?」
青い髪飾りをした女性は髪を櫛で解かしていた。
「ジャバ・カノンバニツショリ・サシャ・リギガレヅガノ・ニデヲ」
「マダ・サシャゴドヌ・サジェジョ」
口を布で覆っている男の言葉を、青い髪飾りの女性がさらりと答えた。
「ノデショ・カノンショジョギソ・ギョヴァッシェリヅ・ギョルジャ」
「ニョネヲ・ラリシュバ・カノンモサバリソモ。ノモシェリジョモ・シィガダニガ・マリ」
ナイフを持った男が、ナイフを研ぎながら呟いた。
刀身が鏡のように磨き上げられているので、その顔も綺麗に写っている。
「ラリシュバ・ノドノド・ニム・ジャドル」
磨かれたナイフに、僅かに光を発していた。

<昇太のアパート 3:38AM>
部屋に戻った昇太は、そのままベットに腰を下ろす。
先程秋子に言われた言葉を思い出す。
(……俺は……このまま戦えるのか?)
昇太自身、この次に未確認生命体と戦っても勝てる気がしなかった。
このままでは祐一の負担を軽くする事も出来なくなってしまう。
その時、目の前の机に置いてある写真に目が行った。
写真には昇太と、1人の女性の姿が写っていた。
「姉さん……俺は……もう駄目なのか?」
昇太はふと呟いていた。
昇太は、高校に入学した直後に事故で両親を亡くし、大学に入学するまでずっと姉と2人で生活していた。
その後、姉は東京で就職が決まり、そっちで働いている。
たまに連絡はとっていたが、最近は電話も来ないしこちらが電話しても、いつも留守番電話になっている。
「!?」
その時、昇太の視界が大きく揺れた。
目の前には、山羊の姿をした未確認生命体が映っていた。
「……逃げてちゃ……情けないよな」
一瞬、戦うのを躊躇ったが、決意を硬め昇太は部屋を出た。

<江戸川区小松川付近 4:02AM>
荒川の河川敷から少し離れた場所に、昇太のバイクが現れた。
昇太はバイクから降りると、感覚を頼りに歩き出す。
その時、すぐ近くでどさっと何かが倒れる音がした。
昇太はそれに気付き、走り出す。
目の前に広がったのは、山羊の姿をしたギャビー・ボバルによって殺された人達が無惨な姿で倒れている光景だった。
「ひっ……っ!」
ギャビー・ボバルの視線が逃げようと必死に身体を動かしている男性に向いた。
すぐさま昇太はエニミートカノンへと姿を変え、ギャビー・ボバルに立ちはだかる。
しかし、エニミートカノンの触角はリガチ・コバルと戦った時よりも、さらに短くなっていた。
さらに右腕の刃も砕けたままで、全く再生されていない。
「カノンショジョギ……サッシェシャ・オ!」
エニミートカノンの姿を見て、指の骨を鳴らながら叫ぶギャビー・ボバル。
その間に、男性は何とか逃げ出していた。
「ナラ・ゴリ!ロサレバ・ゴモギャビー・ボバルバ・ゴドニシェ・ギャヅ!」
そう言って、ギャビー・ボバルはエニミートカノンを誘うように手招きする。
エニミートカノンは、力を溜めるように身体を震わせる。
そしてギャビー・ボバルに迫り、渾身のパンチを叩き込んだ。
しかし、あの時以上に力が衰えている今となっては、それも全く通用していなかった。
「ウォォォォォォォッ!!」
さらにエニミートカノンは2度、3度とギャビー・ボバルの胸にパンチを叩き込む。
それも無駄な足掻きに終わっている。
今度はギャビー・ボバルがエニミートカノンの腹部にパンチを叩き込んだ。
その一撃に、エニミートカノンは大きく除ける。
今度は太く大きな角の付いている左腕で、エニミートカノンを殴り飛ばした。
「グガアッ!!」
エニミートカノンは大きく吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
そして、エニミートカノンの姿が昇太の姿に戻ってしまう。
「ジョルニ・シャ?ソル・ロヴァヂマモ・ガ?」
倒れている昇太を見て、余裕の表情で笑うギャビー・ボバル。
そこに1台のオンロードバイクが飛び出し、昇太の前に停まる。
現れたのは鹿塚直樹だった。
「鹿塚さん……」
「後は僕に任せて下さい」
そう言い、直樹はバイクから下りた時、倒れている人達が目に映った。
「これ以上……ビサンは殺させない!!」
そう叫ぶと、左手を腹部に据え右手で印を結び、左腕を立て剣指にして右手をそのまま腹部へ動かす。
すると、彼の腰にベルトが出現した。
次に右手を横に突き出し、空を切るように腰に引いた左手に宛がう。  
そして右手を腰に引きつつ左手を逆剣指で前にゆっくり突き出す。
「変真!!」
そう言って左手を反し腰に引き、右手を剣指にして左上に掲げる。
バックルが左右に開き、現れた霊石から光が放たれ、直樹は戦士・ゼルバへと姿を変えた。
「ロサレバ・ギムリ、リギャ……ゼルバガ」
その姿を見て、ギャビー・ボバルは角の生えている左腕を前に出す。
「ハッ!」
先に仕掛けたのはゼルバだった。
ゼルバの鋭いパンチがギャビー・ボバルに叩き込まれていく。
ギャビー・ボバルはよろめきながらも体制を立て直し、角をゼルバに向けて振り下ろした。
それをゼルバはバックステップでかわし、すかさずギャビー・ボバルの腹部にキックを放った。
腹部を押さえ、2、3歩よろめくギャビー・ボバル。
「……」
ゼルバの戦いを見て、昇太は自分の力の無さを悔やんでいた。
このまま戦えば、どんどん力が衰え、誰も守る事が出来なくなってしまう。
しかし戦わずに逃げる事など出来る訳がない。
昇太は、もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
「ひっ!?」
その時、何処からか悲鳴のような声が聞こえた。
見ると、倒れていた人達の中に生きている者がいた。
その声に、ゼルバも僅かに反応したが、それが大きな隙となった。
ギャビー・ボバルはゼルバを蹴り飛ばすと、素早く生きていた女性に飛び掛かった。
「!?」
その時、昇太の瞳に映ったのは、姉の姿だった。
姉がギャビー・ボバルに狙われている光景が、昇太の中に広がる。
「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
叫びながら、昇太はエニミートカノンに姿を変え、ギャビー・ボバルを体当たりで突き飛ばした。
そしてすぐさまエニミートカノンは女性の方に振り向く。
「……」
しかし女性は気を失っていた。
エニミートカノンはその女性を抱き上げ、少し離れた場所に下ろす。
(力だけが全てではありません。力ばかりに惑わされてはいけません。)
秋子の言葉を思い出す。
そして気付いた、自分が力に囚われ過ぎていた事を。
たとえ力が衰えようとも戦えばいい。
誰かを守れる力を少しでも持っているなら、それを振り絞ればいい。
「……ウォォォォォォォォォォッ!!!」
ゆっくりと立ち上がり、天に向かってエニミートカノンが吠える。
その時、エニミートカノンの触角が元の長さを取り戻した。
さらに砕けた刃も再生し、元通りに復元する。
エニミートカノンは力を取り戻し、復活した!
そしてゼルバは、ベルトの側部にある刺状の装飾品を取り出す。
するとそれが光を発し、鎖鎌へと形を変えた。
「ボル……サジャサジャ・シャモニサネシェ・グデノル・ギョルジャマ!」
ギャビー・ボバルは楽しそうに言うと、近くにいたエニミートカノンに向かって迫る。
左腕の角を大きく振り被り、エニミートカノンに振り下ろす。
エニミートカノンはそれをしっかりと受け止め、カウンターの如くギャビー・ボバルの腹部にパンチを叩き込んだ。
その一撃に、ギャビー・ボバルは大きく咳き込む。
今の力なら十分通用しているようだ。
その間に、ゼルバは鎖鎌を振り回しながらギャビー・ボバルに歩み寄る。
ギャビー・ボバルは体制を立て直し、今度はゼルバに跳び掛かった。
「ハッ!」
ゼルバは瞬時に構えを取り、鎖鎌を強く振り上げた。
風を切る音と共に、ギャビー・ボバルの胸を切り裂く!
切り裂かれた部分から血が吹き出し、地面に倒れるギャビー・ボバル。
傷を押さえながら立ち上がった時、エニミートカノンが黒い刃を構えていた。
ギャビー・ボバルは再び角を振り被り走り出した。
エニミートカノンは構えたまま、動かずにいた。

「ニメッ・カノンソジョギ!!」
ギャビー・ボバルの角が振り下ろされる!

「ガァァァァァァァァッ!!」
エニミートカノンの黒い刃が振り下ろされる!

そして聞こえたのは……何かが斬れる音だった。
「!?」
ギャビー・ボバルの角が、腕ごと切断されていた。
その腕には古代文字が現れ、小爆破を起こし飛び散った。
「ハッ!」
今度はゼルバが飛び掛かり、金色に発光している鎖鎌でギャビー・ボバルを絡めとる。
そして近くにある道路標識に鎖鎌を掛け、ギャビー・ボバルを吊るし上げた。
ギャビー・ボバルの周囲に古代文字が描かれ、そこから発生した黄金の炎がギャビー・ボバルを包んで行く。
「汝の魂に……幸いあれ」
その言葉と共に、ギャビー・ボバルは炎の中に消えた。
ゼルバの姿が直樹に、エニミートカノンの姿が昇太へと戻る。
「もう……大丈夫なようですね」
「ああ、変な心配掛けて悪かった」
昇太はそう言って、軽く苦笑いを浮かべる。
「おおりゃあぁぁっ!!」
その時、河川敷の方から叫び声が聞こえた。
すぐさま走り出す昇太と直樹。
2人の視線の先には、ぐっと腰を沈め、キックの体制を取っているカノンの姿があった。
「ウオオリャアァァァァァッ!!」
そしてカノンは跳び上がり、空中で身体を捻りながらのキックをリガチ・コバルに叩き込んだ。
リガチ・コバルは大きく吹っ飛ばされ、荒川の中に落ちる。
やがて、リガチ・コバルは爆発四散し、大きな水飛沫を上げた。
「カノンも……大丈夫なようですね」
「ああ……相沢さんは必ず復活するさ。みんなの笑顔を守る為にな」
そう言って、昇太はその場を離れた。
「昇太さんも……誰かを守りたいから、復活出来たのですよ」
昇太の後ろ姿を見て、直樹は呟いていた。

Episode.5「限界」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderSorun


次回予告
瑞佳を襲う未確認生命体。
影で戦う者は遂にカノンと遭遇する。
瑞佳「あなたは……誰なの?」
祐一「まさか……お前は」
強力な未確認生命体を前に、カノンとエニミートカノンは共に戦う。
しかし、その戦いの中で受けた攻撃は非情な物だった。
住人「もう1体いやがったか」
潤「まとめて倒してやるぜ!」
そして昇太は倒れてしまった……。
その生死の狭間の中、彼は光を見つける。
昇太「絶対に……させる訳には行かねぇんだ!!」
そして今、新たな戦士が誕生する!
次回、仮面ライダーソルン「光輝」
取り戻せ!大いなる光!!



設定資料

ラニガ・ボバル

海驢の姿をした未確認生命体。
平らな両手は、強く叩く事によって音波を発生し、敵を一時的に麻痺させる能力を持つ。
エニミートカノンとゼルバの戦いから逃げ出した後、何者かによって倒されてしまった。

ギャビー・ボバル

山羊の姿をした未確認生命体。
左腕には太く大きな角が生えており、殴る要領で相手を攻撃する。
その破壊力は厚さ30ミリの鉄板を打ち抜く程。

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