<喫茶店ホワイト  7:46AM>
「……っ……ん」
 朝日が射し込み、広本昇太は目を覚ます。
 ぼんやりとした意識で辺りを見る。
 あちこちに置かれたり転がったりしている食器。
 さらに毛布に包まってソファーや床に眠っている相沢祐一・長森瑞佳・霧島佳乃・ホワイトのマスターの4人。
 そして───
「すぅ……すぅ……すぅ……」
 規則正しい寝息で昇太に抱き着いた状態で眠っている深見彩の姿があった。
(……そうだった)
 昇太は眠気が覚めたと同時に昨日の事を思い出す。
 未確認生命体C4号ことナノヂ・ゴバルとの戦いの後、彩からの告白を受け、自分はそれを受け止めた。
 その後ホワイトで祐一達が2人を祝って騒いで、何時の間にか眠ってしまったらしい。
 その時には美坂香里と霧島聖もいたが、姿が無い所、途中で帰ったようだ。
「……」
 昇太は眠っている彩の寝顔を見ながらそっと彩の髪を撫でる。
 本当ならこのまま恋人として一緒に過ごす事が出来るのだろうが、彼の場合そうはいかない。
 昇太は未確認生命体C3号こと戦士・ソルンとして、戦士・カノンこと祐一と共に未確認生命体・ヌヴァラグと戦い続けている。
 さらに昇太は通常の未確認生命体と呼ばれているヌヴァラグとは別の、警察からはC種と呼ばれているヌヴァラグ達とも戦っている。
 だから普通の恋人同士とは掛け離れた状態になってしまっている。

 本当にこれで良かったのか?
 自分よりも彩に相応しい人がいるんじゃないか?

 昨日からずっと沸き上がる考え。
 昇太はまだ気持ちの整理が出来てなかった。

 仮面ライダーソルン
Episode.11「集結」
<東京駅 9:27AM> あれから全員が起きて朝食を済ませた昇太は彩を駅まで送る。 東京は未確認生命体の生息地、そんな場所に彼女を置く訳には行かない。 「う〜ん……」 彩は何やら悩んだ表情で唸る。 「どうした?」 「この事……2人に何て言えばいいかなぁって……」 2人とは友人である石山洋介と木下雅美、この事とは昇太がソルンとしてずっと戦っている事。 「大丈夫さ、あの2人は既に知ってるんだから」 「……えっ?」 突拍子もない言葉に固まる彩。 当然かと思い、昇太は数日前に洋介と雅美と会った時の事を話す。 「……そっか、だから石山君はここに昇太君がいるって教えてくれたんだ」 昇太の話を聞き、彩は2人の行動や言葉に納得した。 「ああ、だから帰ったら気にしないで話して大丈夫だ」 「うん、わかった」 安心した様に胸を撫で下ろす彩。 だが……その顔は次第に悲しみへと変わって行く。 時折、鳴咽の混じった声が聞こえる。 「昇太君……」 そう呟き、彩はそっと昇太の胸に縋り付く。 「あ、彩?」 昇太はやや戸惑いながらも震える彩の肩を支える。 「ごめんね……」 「えっ…」 「何も出来なくて……ごめんね」 「!!」 思わず目を見開く昇太。 彩はずっと昇太に何もしてあげられない自分を責めていた。 昇太は常に死と隣り合わせの状況。 それなのに自分は昇太の為にしてあげられる事が何も無い。 何かしてあげたかった。 しかし、何も出来ない。 それが悔しくて、情けなくて、不甲斐なかった。 「本当は……してあげたい、事……いっ、…い……色々、考え、の……でも……っ………結っ、局…な、何も………お、い……付か…なく、て……」 涙を流し、鳴咽混じりの声で必死に昇太に謝ろうとしている彩。 最早喋る事もままならない状態。 あまりにも痛々しく、見ていられなかった。 「だ……っ、駄目………だ、ね……私……こんな……に、だ…駄目…った…」 「……やめろ」 「ご……めん…っね………バカ…だ、よ…ね……わ…た…し、て……」 「やめろっ!!!」 昇太は強く叫び、彩を強く、強く抱き締める。 彩を止める為に、傷を深めない為に。 「もうやめろ、これ以上自分を責めるな!」 「で、……で、も……私……っ」 「いいんだ、これは俺に託された事だ、お前が無理して背負わなくていい。この戦いは俺が必ず終らせる。だから……だから、もう自分を責めるな」 昇太は1つ1つの言葉に力を込める様に強く、強く発する。 「………しょ、くん………わっ…わた、し…………………」 彩は遂に耐え切れなくなり、瞳から大粒の涙を沢山溢れさせながら昇太の胸の中で泣きじゃくった。 昇太の強さを感じ、昇太への謝罪の気持ちが止めど無く溢れて来る。 昇太はそんな彩を泣き止むまでずっと、ずっと強く抱き締め続けていた。 暫くして、彩はようやく泣き止む。 「……落ち着いたか?」 「うん……でも、本当にごめんね……何も出来なくて……」 落ち着きはしたものの、彩は自分の不甲斐なさを気にしている。 「いや、出来る事はあるさ。お前にしか出来ない事が」 「えっ?」 彩は思わず顔を上げる。 自分にしか出来ない事、自分では思い付かない事を昇太は言った。 「それって……?」 「……俺の帰る場所を作る事だ」 「!!」 昇太の言葉にはっとする彩。 今、昇太に言われるまでその事を忘れていた。 本来の居場所には昇太のいる場所は最早残っていない。 「この戦いが終って俺の帰る場所が無かったら、きっと俺……帰れないと思うから…作っといてくれないか?帰れる場所を」 「……うん……うん!」 彩は何度も強く頷いた。 嬉しかった。 自分にも出来る事がある、むしろ自分にしか出来ない事が見つかった。 「必ず昇太君の場所を作る。だから、絶対……絶対帰って来てね」 「ああ」 「それから……無理はしないで、ね……昇太君に何かあったら……私…」 彩の声が震える。 言い様の無い不安が彩の中に流れる。 信じようとしても、どうしても不安を拭いきれない。 「わかってる、俺は必ず生きる。そして……必ず帰る」 「……約束、だからね」 どちらからもなく、お互い顔を近付けて、そっと唇を重ね合わせた。 そしてゆっくりと離れ、彩は荷物を持ち直す。 「じゃあ……そろそろ行くね」 「ああ」 「それと……たまには、来ても…いいよね?」 「……まぁ、それくらいなら、な」 昇太は頭を掻きながら視線を逸らす。 そうしている間に、新幹線が来る事を知らせるアナウンスが流れた。 「……本当に、気を付けて、ね」 「ああ」 そう言い、彩は昇太に背を向け、改札を抜けて新幹線へと乗る。 やがてドアが閉まり、新幹線はゆっくりと動き出した。 (昇太君…………) 彩は祈る様にぎゅっと両手を握り締める。 (無事でいてね……絶対、絶対に帰って来てね……) 同じ頃、彩を送った昇太は駅を出る。 その顔は決して良い顔では無かった。 ストームエッジを停めている所に戻ると、そこにはロードーツイスターに跨ったまま昇太を待っていた祐一がいた。 「相沢さん……」 「……良かったのか?」 「……」 昇太は何も言わずに頷く。 祐一の言う事は、彩をここに置いておかなくて良かったのかと言っている。 「何ならホワイトにアルバイトとして置いても良かったんだぞ?俺の代わりが出来るし、美人ウエイトレスが増えれば店も繁盛するだろうし、あそこならとりあえずは安全なんだから……」 「……良いんです、これで」 昇太は祐一の言葉を遮る。 「俺……彩に『守ってみせる』って言えませんでした……守り切れる自信が無くて……それでもし、何かあったらって思うと……」 昇太の拳には自然と力が篭っていた。 血が滲み出そうなくらい強く握り締めていた。 正直な所、昇太は彩を残しておきたかった。 『必ず守る』と言い、傍に置いておきたかった。 だけど、それが出来なかった、『守る』と言えなかった。 「広本……」 「……俺、もっと強くなります。絶対に、どんな敵でも倒せる位に強くなります……相沢さん達に負担を掛けさせない為に……必ず」 そう言い、昇太はストームエッジに跨り、走り去って行く。 「……」 残された祐一は昇太の深く、強い意志を感じつつ、昇太の後を追うようにロードツイスターを走らせた。 <都内某所・廃ビル 14:50PM> 壁や天井の隙間から入る陽の光が部屋を照らす。 そこには着物を着ている女性を中心に、数人の男女が集まっていた。 「ビナニツヂ・ジャマ・ラヲシャモ・ヌザシャン・シヅモ・バ」 ナイフを持った男は着物の女性を見ながら言う。 「ラマシャザ・ギシャショリルゴショバ・マヂガ・ラヅモガニダ?」 青い髪飾りをした女性の言葉に頷く着物の女性。 その言葉に全員の視線は着物の女性に向く。 「……ギャシュン・ビギウヂジャヌシャセ・ニタダグ・ゼースン・シィュルニ・ヌヅ」 着物の女性の言葉に驚く者は誰1人居なかった。 「タータン・ゴドヌシャセ・カノンソジョギン・ヂギョルヌヅ・モガ」 「ノル・タータバ・ノドノド・ニヲジェソダリシャリガダ・メ」 着物の女性は口を布で覆った男の言葉に頷き、言葉を続ける。 「シィョルジョ・リリガダ・ロシィツデシャ・ギャシュダン・カノンソジョギミシュツナネシェログ」 「ララ、ラリシュダ・ガ」 「シャニガミ・ソル・ビシュギョルマリニメ」 長髪の男の言葉に全員は面倒事が片付いたような顔をしている。 「ノモラリジャミ・ヴァデダバ・ラノゴベ・リグ」 そう言い、着物の女性は背を向け、歩き出す。 他の者もそれに続き、何処へと消えて行った。 <静岡県立大学内 17:02PM> あれから静岡に戻った彩は大学に行き、講義を受けた後、洋介と雅美のいる研究室へと向かう。 2人は相変わらず古代文字の研究を続けていた。 昇太から送られたデータもあり、ペースは以前より上がってはいる。 「あっ、彩さん……」 彩が来た事に気付いた雅美が彩の前に来る。 そして洋介も今やっている事を中断させ、立ち上がる。 「……会えたんだな?」 「……うん」 「そっか」 「良かった……」 2人共安堵の溜め息をつく。 雅美は昇太と無事に会えた事が嬉しいのか、ふわりと微笑んだ。 「それから……昇太君……」 「ああ、わかってる」 「私達も見ました」 彩が言いかけた言葉を2人は理解する。 「……私に手伝える事ってある?」 強い決意を表す彩。 「私……少しでも昇太君の為に何かしたいの。だから、私も手伝いたいの。それが昇太君の為になるなら……何だってするわ」 決意を固め、自分の気持ちを隠さずに伝える。 その言葉に洋介と雅美は顔を見合わせ、頷く。 「……じゃあ、早速始めようか」 「はい、では彩さん、こちらに」 「うん!」 洋介と雅美に引かれ、彩は古代の研究を本格的に行う。 昇太の居場所を作ると同時に、少しでも昇太の為にと研究する。 <数日後・都内某所 11:04AM> それから数日が経ち、祐一達を取り巻く事態が急速に加速していた。 カノンの新たなる力。 祐一のいとこである水瀬名雪の危機。 強敵、戦士・オウガとの死闘。 様々な戦いが始まっている。 しかし、それだけではない。 別の所でも事態が変化し始めていた。 人目に着き難い廃工場の中で、戦士・ソルンと戦士・ゼルバは4体の未確認生命体と死闘を繰り広げていた。 ゼルバの前に立ちはだかるのはギャソヂ・バカパとバヲショ・ゴバルの2体。 「ゴゴジェ・ロサレダン・ゴドネタ・ロデバ・ラザデヅヲジャ!」 「ロサレミ・ヴァシャナマリ!ロデザ・ソダル!!」 何やら2体でもめているようで動きがバラバラである。 ゼルバは怪人の言葉を聞き取り、こちらを殺す事しか考えてない事を悟る。 「……」 ゼルバは顔を上げ、素早くバイクに飛び乗る。 そしてベルトの側部にある装飾品を取り出し、バイクのキーに差し込んだ。 すると、バイクに力が行き渡り、形を変えて行く。 まるで昆虫の顔を思わせるフロントやライト。 深緑の装甲も生物のような印象を受ける。 これがゼルバ専用オンロードマシン・ゼスゲイル。 ゼルバはアクセルを回し、ゼスゲイルを発進させ、2体の怪人に突っ込んで行く。 その動きは、とてもオンロードマシンとは思えない物であった。 果てを知らない走破性で2体の怪人を追いつめて行く。 「!!」 2体の怪人が1個所に固まった瞬間を見計らい、ゼルバは左手で別の装飾品を取り出す。 すると、それはブーメランの様な形状に変化し、それを勢い欲投げる。 ブーメランは高速に回転しながら2体の怪人を攻撃し、動きを止める。 そこに黄金の炎を纏ったゼスゲイルが突っ込み、2体の怪人を突き飛ばす! 2体の怪人は地面を転がり、発せられた黄金の炎の中でもがいている。 「汝の魂に……幸いあれ」 やがて黄金の炎は2体を包み、そして炎の中に消えた。 「………」 ゼルバは疑問に思っている事があったが、近くで戦っているソルンを援護する為、ゼスゲイルを走らせる。 同じ頃、ソルンはニロサ・ガカパとギヂヲ・ボカパと戦っていた。 こちらもまるで手柄を取り合うようで、動きがバラバラである。 「ギナサバ・ロデザ・ゴドヌ!」 ギヂヲ・ボカパがソルンに突っ込んで行く。 「ゴリシュバ・ヴァシャナマリ!ロデザ・ソダル!!」 さらに後ろからニロサ・ガカパがソルンを狙う。 ソルンは前後を見直すと、意識を集中する。 すると、ソルンの頭部の金の角が左右に分れる。 そして分れた角の中に埋め込まれていた白い石が光を発する。 ソルンは右足を下げながら両腕を胸の前に引き寄せ、右腕は下に回しながら引き、左腕は上に回しながら逆手のまま前に伸ばす。 光はソルンの身体を伝いながら左足に集まる。 「ソダッシャ!!」 先に近付いていたギヂヲ・ボカパが通常の腕よりも2倍程の長さを持つ腕を振り、ソルンを狙う。 ソルンは素早く跳びあがり、その攻撃を躱すと、空中を1回転してギヂヲ・ボカパの脳天に垂直蹴りを叩き込む。 蹴った勢いでソルンは更に跳ぶ。 跳んだ勢いでギヂヲ・ボカパは前に前に倒れ込みながら爆発する。 「!!」 目の前にいたニロサ・ガカパは爆風を受けて怯む。 ソルンは壁を蹴り、ニロサ・ガカパの方へ向きを変える。 そして空中を4回転し、光を左の拳に集中させた。 「オオオオオオオオオオオオッ!!!!!」 光に満ちた左の拳をニロサ・ガカパに叩き込む! その衝撃に大きく吹っ飛ばされたニロサ・ガカパはその体に古代文字を焼き漬けられた。 「グッ……ネッ……モ……」 何かを呟いている時、ニロサ・ガカパは爆発四散した。 「……」 爆発した跡を見つめながらソルンは現れたヌヴァラグに疑問を覚えていた。この所、裏で出てくるヌヴァラグのリズムが変化している。 それに心なしか、以前よりも敵のレベルが低いように思えてもいた。そんなことを考えている最中にs4絵中にバイクのエンジン音が聞こえ、ソルンは振り向く。 ゼスゲイルに乗ったゼルバが現れ、ソルンの前に停止する。 「こちらも終りましたか」 「ああ……ただ、やっぱり最近変な感じがするんだ」 「昇太さんも感じましたか」 ゼルバはゼスゲイルから降りると鹿塚直樹の姿になる。 同時にソルンは昇太の姿に戻る。 「今出て来ているのは……数日前よりもランクが低い者ばかりです。それも、そのランク内において最も弱い者達です」 「…やはりそうか」 納得したような、それでいてどこか府に落ちない表情の昇太。 「だが、何で今になってそんな低い奴等を出したんだ?」 「わかりません……今の所、必要無くなったから僕達に殺させるとしか…」 直樹も複雑な表情で悩んでいる。 今までの戦いでも現れたヌヴァラグを説得してきたが、誰も応じなかった。 倒すしかなかった。 止める事が出来なかった。 「何にしろ、マトモじゃないな……」 両手を腰に当て、昇太は大きく溜め息を付く。 と同時に、ある事が頭に浮かぶ、彩の事である。 彼女を静岡に帰らせて以来、心の中で色々と考えてしまう。 戦いの最中は気持ちを切り替えているので問題ないが、それ以外の時にふとした瞬間、悩んでしまう事も多々あった。 その時、直樹はふと時計を見る。 「そろそろお昼ですか……帰ってお昼ご飯の用意をしましょう」 「……はぁっ?」 思わず変な声を出す昇太。 いきなり直樹の口からそんな家庭的な言葉が出るとは思わなかったからだ。 ニッコリとしていてどこか子供っぽい仕草のある笑顔で直樹は言う。 「そうだ、よかったら昇太さんもどうですか?」 「えっ?あ、ああ……じゃあ…頂こうかな……」 昇太は殆どその場の流れで返事をする。 「では付いてきて下さい。家に案内します」 「お、おう」 戸惑いながら昇太はストームエッジに跨り、直樹の後を付いて行く。 <都内某所・直樹の家 11:56AM> 「ここです」 直樹に案内されて辿り着いた所は、ごくごく普通の一軒家であった。 「誰かと一緒なのか?」 「ええ、僕がお世話になっている形です」 そう言い、直樹はドアを開ける。 「ただいま」 「あっ、直樹さんお帰り!」 奥の方から足音が聞こえ、中学生くらいの少年が現れる。 「ちょっと待っててね、すぐお昼ご飯作るから」 明らかに家庭的な台詞である。 昇太はやや複雑な表情で直樹を見ていた。 「あれ?お客さん?」 やがて少年が昇太に気付く。 「そう、だから4人分の準備をしておいてね」 「わかった」 少年──来夏透はリビングの方へと走って行く。 「では昇太さんも向こうで待っていて下さい」 そう言って直樹は台所へと向かう。 言われた通りにリビングへ向かうと、そこには準備をしている透と無精髭を生やした男性がソファーに座っていた。 「ん?客か?」 無精髭の男性──渡辺明が昇太に視線を向ける。 「お邪魔します……」 「珍しい…って言うか初めてだな。直樹が客を連れて来るなんて……」 驚いたように呟く明。 昇太は心の中でその言葉に賛同した。 やがて、昼食が運ばれたが、その量がとてつもなかった。 これでもかというほどテーブル一杯に料理が並べられ、とても食べきれる量じゃなかった。 「……」 これには昇太も唖然としている。 明と透は見慣れているようだが、それでも胸焼けを起こしているようだ。 直樹は何事も無い様に料理を次々と口に運んでいる。 (鹿塚さんがこんな大食いだったとはな……大食い大会とかに出たら簡単に優勝出来るんじゃないか?) そんな考えが浮かびながら、昇太はゆっくりと料理を頂いている。 (この戦い……終わるよな?彩と……普通の生活を過ごす事……出来るよな……?) しかし、何時の間にか昇太の手が止まっていた。 また彩の事が出て来てしまっている。 何時までも悩んでいても仕方がないのは昇太自身も理解している。 だが、理解していてもその悩みを振り払えなかった。 「昇太さん?」 ふと直樹の声が聞こえ、昇太の意識が戻る。 「どうしましたか?全く手を付けてませんが……口に合いませんでしたか?」 「いや……ちょっと考え事をしてだだけだ」 「そうでしたか、でも何かを考えながら食べても美味しくないと思いますよ。それにしっかり食べないと元気出ませんよ、食は元気の源なんですから」 食べながら言っているので全てを聞き取れた訳ではないが、何を言っているのかは理解出来た。 (……まぁ、そうだよな) 直樹の言う通りである。 同時に、自分に喝を入れてくれたようにも思えた。 悩んでいたらキリが無い、とにかく今は前に進むしかないのだから。 彩との約束を守る為にも昇太は前に進まなければならない。 「………さて」 昇太は一息付くと、目の前にある料理を次々と口に運んで行く。 そのペースは直樹にも負けず劣らずであった。 「………」 明と透は唖然とした表情で昇太を見ている。 結局、出された料理の殆どは直樹と昇太で平らげたのだ。 <直樹の部屋 13:17PM> (さすがに勢いで食い過ぎた……) 当然ながら、昇太は食べ過ぎで倒れていた。 しかし、吹っ切れた表情である。 「大丈夫ですか?」 普段があのような食事なのか何とも無い様子で話しかける直樹。 「ああ……でもま、おかげで吹っ切れた」 「そうですか」 直樹は昇太が何故悩んでいるのかは聞かなかった。 聞かない方が良いと感じていたからだ。 「しかし……あなたがあんなに大食らいだとは思わなかったな」 「はははっ……力を蓄えるには沢山食べないといけませんので」 「……そういう事か」 苦笑いする直樹を見ながら納得する昇太。 『!!』 その時、2人の表情が急変する。 僅かだがとてつもない力を感じ取ったのだ。 しかし、その力は今まで感じていたヌヴァラグの物とは全く異なっていた。 「今のは……?」 「わかりません……僕も今の感覚は初めてです」 初めての感覚に、さすがの直樹も戸惑っている。 相手がヌヴァラグであれば同類の直樹がわからない筈が無い。 その直樹ですらわからない感覚が感じ取られたのだ。 「新しい敵……と考えるのが妥当か?」 「敵であるかどうかもわかりませんね……ですが、もしビサンを脅かすような者達であるならば……放っては……おけません!」 「……だな、確かめよう!」 昇太と直樹はすぐさま外に飛び出し、それぞれのバイクに跨ると、力を感じ取った方向へと走らせた。 <都内某所・とある森の中 14:07PM> 都会から離れた人気のない森にバイクと車が現れる。 適当な場所に止まると、バイクに乗っていた20代前半の青年がヘルメットを取り、車からは青年とさして変わらない年齢の女性が出てきた。 「この辺りなんだな?」 「はい、間違いありません」 女性は青年の言葉に頷く。 「そうか…よし、行こう」 青年と女性は車に積み込んであった荷物を整え、森の奥へと歩く。 そして5分程度歩いた時、前方から複数の気配を青年は感じ取る。 「ちっ!」 青年は女性の手を引き、飛び退く。すると、先ほどまで二人がいたその場に小爆破が起きた。 「これは!?」 「どうやら待ち伏せてたみたいだな……」 『その通りだ』 青年の声と同時に、4体の人の姿をした『者』が立っていた。 ヌヴァラグと同じくらいの背格好だが、その姿は大きく異なる。 ヌヴァラグは何らかの生物に似た姿をしているが、ここにいる者達はそれに加えて複数の生物が組み合わさったような姿やサイボーグのような姿をした者も確認出来る。 「我らはここでお前が来るのを待っていたのさ、ここで動きを見せればお前は必ず来ると思っていたからな。ここがお前達の墓場だ!」 完全に青年の行動を予測したような台詞である。 「ちっ、やってくれる……なら!」 そう言い、青年は頭上で両手をクロスさせ、一気に腰まで引く。 次に右腕を外側から回す様に伸ばし、正面を過ぎた所で左腕を内側から回して交差しながら右腕は腰に引き、腕を直角に立てる。 さらに左腕を腰に引きながら右腕を真上に伸ばし、 「ハァァァァァァッ……」 息を吐きながらその右腕を正面まで徐々に下ろして一気に引く。 「光変身!!」 そして一言毎に右腕を真っ直ぐ伸ばし、左に振り、そして右下に振り払う。 すると、青年の腰からベルトが浮かび上がり、閃光を発する。 閃光は青年を包み、その中で姿を変えてゆく。 閃光が徐々に漆黒に染まり、それは漆黒のボディアーマーへと変わる。 そして赤く染まる目と赤いマフラー。 その姿はネオ、かつて昇太の前に現れたネオであった。 「シオン、離れてろ!」 「はい!」 ネオの言葉にシオンと呼ばれた女性は頷き、車のある場所まで走り出す。 「逃がさん」 それを見て、1体の怪人が小さな筒みたいな物を取り出し、シオンに向けて投げる。 ネオは素早くシオンの前に立ち、その筒を拳で破壊した。 「!!」 しかし、破壊した筒から複数の球体が飛び出し、シオンを囲むように回る。 そして球体が割れ、中から人の姿に似た者が出てきた。 全身が黒いスーツと白いプロテクターで覆われ、青い1つ目をした者が6体、シオンを取り囲んでいる。 「ちぃ!」 ネオはシオンの元へ向かおうとするが、4体の怪人により動きを阻まれてしまった。 「少し前にこれが完成してね、早速使わせてもらうよ」 今度は他の3体の怪人が同じ様な筒を1つずつ取り出し、上空へ放り投げた。 そして筒から無数の球体が飛び出し、同じ様な者が何体も現れた。 「さぁ仮面ライダー、この状況であの女を助けられるかな?」 1体の怪人が指をパチンと鳴らす。 同時にそこにいた全ての者が動き出す。 ネオは動こうとしたが、4体の怪人の動きに隙が無く、突破出来なかった。 そうしている間に他の者全てがシオンに迫る。 「シオン!!」 ネオが叫んだ時、その声に呼応するかのように2台のバイクが現れた。 2台のバイクはシオンの周辺にいる者達を遠ざけるように動く。 「何だ?」 4体の怪人もそこに意識が行く。 その瞬間、ネオは大きく跳び上がり、シオンの隣に着地する。 「大丈夫か?」 「はい、私は大丈夫です」 2人は目の前に止まっている2台のバイクに視線が行く。 バイクに乗っていた2人は素早く降りてヘルメットを外す。 それは、昇太と直樹だった。 「邪魔しおって……殺れ!」 怪人の指示で回りにいた者達が動き出す。 「どうやら敵と考えていいみたいだな」 「そのようですね」 2人は納得しながら構えを取る。 「待て!」 その時、ネオが2人を制止する。 「こいつらはただの敵じゃない、こいつらはグールと呼ばれるただの戦闘員だ。生物の死骸から作られた奴等で普通に攻撃しても死にはしない」 ネオは近くにいた戦闘員の目にパンチをぶち込んだ。 拳は戦闘員の顔を貫き、火花を散らしながら爆発した。 「……見ての通り、こいつらの弱点は目だ。そこを狙わない限り奴等は不死身のごとく襲ってくる」 「……わかった」 「死んだ者まで利用するとは……許せません!」 昇太と直樹は完全にスイッチが切り替わり、戦う体制になる。 「お前達は……一体……」 そんな2人を見て驚くネオ。 「僕達は奇妙な気配を感じてここに来ました。その正体がビサンを脅かすのであれば放っておく訳には行きません」 「そういう事だ、それに……」 昇太は横目でネオを見る。 「あんたには前に助けてもらった借りがあるからな、その借りを返したいと思ってた」 そう言い、昇太はさっと胸の前で腕を交差して、その腕を左胸の前に引いて十字を作り、直樹は左手を腹部に据え右手で印を結び、左腕を立て剣指にして右手をそのまま腹部へ動かす。 すると、2人の腰にベルトが浮かび上がる。 昇太は左手を引き、右腕を真っ直ぐ前に伸ばし、そして肘をゆっくりと曲げ、右手を胸の前まで引いた。 同時に直樹は右手を横に突き出し、空を切るように腰に引いた左手に宛がい、右手を腰に引きつつ左手を逆剣指で前にゆっくり突き出す。 「変身!!」 「変真!!」 同時に叫び、昇太は右手を引き、左腕を上に回しながら直角に突き立て、直樹は左手を反し腰に引き、右手を剣指にして左上に掲げる。 2つのベルトは同時に光を発し、昇太は戦士・ソルンに、直樹は戦士・ゼルバへと姿を変えた。 『!!!』 2人の姿に怪人達はもちろん、ネオとシオンも驚いた。 「お前は……!!」 ソルンを覚えていたネオはその姿を見て、思わず叫ぶ。 「他にも仮面ライダーがいたか……構わん、殺れ!!」 改めて怪人が叫ぶ。 「行くぞ」 「はい!」 ソルンとゼルバは散開し、戦闘員の中に飛び込む。 ネオはシオンを守りつつ残りの戦闘員を倒して行く。 「ラァッ!!」 「ハッ!」 ソルンとゼルバは戦闘員に次々と攻撃を加えるが、ネオの言う通り、ダメージはあるようだが倒す事は出来ない。 その間に戦闘員は2人を取り囲む。 「狙うはあの目だけしかありませんね……」 「ああ……厄介な物を作ってくれる」 2人は背中合わせで構えている。 「……行きましょう」 「よし、行くぞ!」 2人は同時に飛び出し、戦力を分散させる。 「ハッ!」 ソルンは大きく跳び、戦闘員と距離を取る。 そして再び襲い掛かってきた戦闘員を正面から迎え撃つ。 1体目は相手の攻撃を受け流しつつカウンターで目を破壊。 2体目は回し蹴りで破壊、3体目は生拳突きで破壊と、襲ってくる戦闘員を次々と打ち倒す。 そして残りは1体。 良く見ると他の戦闘員に比べ、頭部の形状がやや異なっていた。 恐らくは指揮系統タイプであろう。 その戦闘員は腰から大型のナイフを取り出し、ソルンに斬り掛る。 ソルンは腰を落とし、真上にジャンプして戦闘員のナイフを躱し、左足を突き出して戦闘員の目に叩き込む! 「ギ……ギギ……」 戦闘員は頭部から火花を散らし、爆発した。 ゼルバの回りにも複数の戦闘員が立ち塞がる。 「……」 ゼルバはベルトの側部から装飾品を取り出した。 すると、その装飾品が両端に鋼球が備われた棒に変化する。 ゼルバは棒を縦横無尽に振り回し、1度に複数の戦闘員を破壊して行く。 戦闘員達はゼルバを取り囲んで同時に襲い掛かるが、ゼルバの棒術からは逃れられない。 そして残るは指揮系統タイプのみ。 戦闘員はナイフを手にしようとする。 「!!」 ゼルバはそれに反応するとすかさず棒を槍の如く投げる。 戦闘員は慌てて行動を中止し、飛んで来た棒をジャンプして躱す。 だが、その先にはゼルバが待ち構えていた。 「ハッ!!」 ゼルバの拳が戦闘員の目を貫く! 戦闘員の頭部が爆発し、そのまま動かなくなった。 全ての戦闘員を倒し、3人の戦士が集まる。 「これで全部ですね」 「ああ……後は…」 「あいつらだ」 3人の目線の先には4体の怪人が立ち塞がる。 「まさか他の仮面ライダーが来るとは……予定外だが丁度良い」 「どれ程の力を持っているか…調べさせてもらおう」 そう言い、4体の怪人は同時に飛び出す。 「!!」 同時に構えを取る3人の戦士。 さらに3人は散開し、それぞれの怪人と対峙する。 ソルンとゼルバに1体ずつ、そしてネオには2体の怪人が迫る。 「私があなたの相手をさせて頂きます」 ソルンの前には完全な機械姿の怪人・デクステラが立ち塞がる。 ヌヴァラグとは全く異なった姿、特に右腕が強化されており、尚且つ完全に日本語を話している。 初めての敵にソルンは今まで以上に警戒している。 「では……行きます!」 先制攻撃をしたのはデクステラ。 ソルンは受けの体制を取り、デクステラの攻撃を尽く防御している。 拳が来れば受け流し、回し蹴りが来たならばしゃがんで躱しと、敵の多彩な攻撃を次々と防いでいく。 そして隙を見てソルンはカウンターパンチを放ちデクステラを怯ませる。 花弁を散らしながらデクステラは体制を整え、腰からレーザーガンを取り出して引き金を引く。 ソルンは素早く木々の間を走りぬけてレーザーを回避しつつ距離を縮め、遂にはデクステラの目の前に突っ込み、レーザーガンを弾き飛ばす。 そしてそのまま回し蹴りを叩き込む。 デクステラは火花を散らしながらよろめき、膝を着く。 「成る程……」 感心したように立ち上がるデクステラ。 「?」 「流石は仮面ライダー。攻撃・防御・反応速度・身体能力、どれも素晴らしい数値です。やはり未確認生命体と戦っているだけの事はありますね」 デクステラの目はソルンの戦闘データを読み取り、そこから総合戦闘能力を割り出していた。 (この僅かな時間で調べ出したのか!?しかも俺が奴等と戦っている事も知ってる……) 改めてサイボーグの脅威さを知らされたソルン。 「ですが……総合数値は私の方が高いですよ?」 そう言い、デクステラは突っ込みながら右腕を突き出す。 すかさずソルンは受けの体制を取るが…… 「!!」 デクステラの拳が先程よりも遥かに速い速度でこちらに迫っていた。 明らかに今までとは違う動き。 「くっ!」 ソルンは慌てて横に跳ぶ。 拳はソルンを翳め、後にあった木に直撃する。 その木は拳の当った部分だけが抜ける。 僅かな無駄もない破壊力である。 「良い見極めです……先程の様に防御していたならば、あなたはただでは済まなかったでしょう」 ソルンを見ずに答えるデクステラ。 その右腕から熱による煙が放出されている。 (何て破壊力だ……今の防御じゃ対応しきれない……なら) ソルンは右の拳を強く握る。 すると、右の手首にある緑の宝玉が真紅の宝玉に変化して、その石が一回り程大きくなり、真紅の光が放たれソルンの右腕・上半身・右足を包み、真紅のソルンへと変化する。 「ふむ……それは攻撃・防御を重点に置くようですね」 一瞬で真紅の力を見破るデクステラ。 その声は何処か興味深そうでもあった。 「その力で私の攻撃を防げますか?」 右手を握り直し、デクステラが再び迫る。 ソルンは盾の様な右のショルダーアーマーを構え、正面から受けて立つ。 同時に右手を強く握り、攻撃の態勢を取る。 そしてデクステラの拳が高速で迫り、ショルダーアーマーに直撃する。 「!!」 しかし、拳はショルダーアーマーによって軌道を外へとずらされる。 ソルンはそのままショルダーアーマーで軌道を反らしながら拳を振り抜きカウンターを行おうとした。 だが、その前にデクステラの拳がソルンの腹部を捕えていた。 (えっ?) 「惜しかったですね」 そしてソルンの鳩尾に痛恨の一撃を与えた。 「がはっ!!!!!」 ソルンは真っ直ぐ突き飛ばされ、何本かの木を破壊しながら地面に落ちる。 同時に、骨が砕ける音も聞こえていた。 「ぐっ……!!?ごほっ!!がほっ!!!」 起き上がろうとしたソルンだが、激しく咳き込み血を吐き出していた。 真紅のボディアーマーは腹部から大きく罅が入り、マウスガードは血に染まっている。 予想以上にダメージが大きく、ソルンは起き上がれないでいた。 「その盾で私の攻撃を反らして体制を崩し、その隙に攻撃しようとした……中々良い対策でしたが、残念ながら私の方が1枚上手でしたね」 悠々とソルンの前まで歩み寄るデクステラ。 その足元にはやや大きめの薬莢みたいな物が転がっていた。 「実は先程からの攻撃は弾薬を使用するんですよ。ですから弾切れになったらこうやって弾を込めなければなりません」 デクステラはそう言いながら右腕に銃弾を込める。 「1度に撃てるのは4発……ですからあなたの盾で2発目の攻撃を反らされた時、残りの2発を使う事で先手を取れたと言う訳ですよ」 2発目を反らされた時、デクステラは3発目を方向転換に使い、残りの1発でソルンに攻撃した。 この時方向転換による遠心力と連続発射により破壊力が上乗せされ、ただの1発よりも数倍もの威力に跳ね上っていた。 「くっ………あぐっ……」 ソルンは起き上がろうにも体が動かず、もがいたままである。 「このままトドメを……と言いたい所ですが、先程の連続発射の影響で冷却がまだ追い付いてないのでね、それが済むまで生きる時間を与えましょう」 そう言い、デクステラはソルンと距離を取る。 (くそっ……体が…動かない……このままじゃ……) ソルンは未だ、体を起こす事が出来ない。 どんなに動かそうとしても骨が砕けた今の体ではどうしようもない。 (ここまで……なのか……) ソルンは死を悟っていた。 彼は常に戦いの中にいる。 戦うと言う事は、同時に死を覚悟しなければならない。 無論、ソルンも己の死を覚悟しながら今まで戦い続けた。 当然ながらいつ死んでもおかしくは無い。 現に1歩間違えば死に至った事も少なくなかった。 「では……そろそろ時間です」 やがてデクステラの右手の冷却が終り、ゆっくりと迫る。 (…………) ソルンは死を受け入れようとした…………。 『昇太君……』 だが、彩の言葉がソルンの頭に響いた。 『お願い……無事でいて……絶対に……死なないで……私を……1人に…しないで……』 「!!」 今にも泣きそうな彩の声が聞こえる。 (……何やってるんだ……俺は) ソルンは起きない体を起こし始めた。 ほんの少しでも動かせば激痛が走る体を無理矢理起こしていく。 (約束したじゃないか!!必ず生きて帰って来るって……それに相沢さんにも言ったじゃないか!!どんな敵でも倒せるように強くなるって!!たとえ未知の敵でも……っ!!) 見れば、ソルンのベルトの石が輝きを増していく。 それを追う様に胸部の石も輝きが強くなる。 「おや?」 ソルンの変化に思わず声を出すデクステラ。 (負けられない……どれだけ強いヌヴァラグだろうと……俺の知らない未知の敵であろうと……俺は……俺はっ!!!!) ソルンは立ち上がり、荒い呼吸を繰り返しながらデクステラを見据える。 「その体で良く立ち上がりましたね。しかし、そこまでです!」 拳を振り上げ、勢い良く突き出すデクステラ。 ソルンはその攻撃を避けようともせず…… 強化されていない左手でその拳を受け止めた! 「なっ!?」 思わず声をあげるデクステラ。 (馬鹿な……あんな体で、しかも特に防御が上がってない左で押えたなど……一体何が──) この時、デクステラは2度驚かされる事になる。 彼の目が、ソルンの総合戦闘数値が格段に上昇しているのを確認したからだ。 (数値が上昇している!?何故だ!奴は致命傷を負った筈!!なのにこの数値は何処から出てくる!?何なんだ……奴は一体何なんだ!?) デクステラは初めてソルンの力に恐怖した。 「う、うおおおおおおおっ!!!!」 恐怖の悲鳴を上げながら残りの弾を全て撃ち込むデクステラ。 しかしソルンは怯まない。 むしろ、さらに力が上昇している。 「!」 気付けば右腕がミシミシと音を立てて崩れていく。 デクステラは自分の右腕が耐え切れず破壊するのを悟る。 それが隙となった。 「俺は死ねない……死ねるかアアアアアアアアッ!!!!!」 ソルンは左手に力を込め、デクステラの右手を破壊する! 同時に、鈍い光を纏う右手がデクステラの体を貫く! そこから古代文字が浮かび上がる。 だが、その文字は今までのとは異なっていた。 「こ……こん、な…………」 目から色が無くなり、デクステラは爆発して砕けた。 「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」 ソルンは膝を着き、荒い呼吸を繰り返しながら銀の装甲に戻る。 敵を倒して気が緩んでしまったのか、再びソルンの身体に激痛が走る。 動ける所を見るとある程度は回復しているようだが、かなりの力を消耗している事に変わりはない。 「ッ……倒れてる場合じゃ……ない、な」 ソルンは体を起こし、大きく深呼吸を2,3度繰り返す。 そして他に戦っている仲間の元へと歩き出した。 同じ頃、機械が組み込まれた生命体・ゲンナとゼルバが対峙していた。 両者はほぼ互角の戦いを繰り広げ、決着が付かない状況だった。 「お前達は何者だ!一体何を企んでいる!」 「貴様が知る必用は無い。この場で貴様を排除するのだからな!!」 そう言い、ゲンナは右腕を剣に変形させて襲い掛かる。 ゼルバはバク転でゲンナの攻撃を回避し、腰部から装飾品を取り出す。 すると、それは日本刀に変化した。 (物質変化だと?こいつ……何者だ?) ゲンナはゼルバから極めて異質な力を感じ取る。 同時に、自分を上回る戦闘能力を持つ事を悟る。 ゲンナはデクステラのように戦闘データを取る機能が無いので戦いながら自分との差を見極めていた。 その中でゼルバはまだ本気を出してない事を感じる。 もし相手が本気で来たならば自分に勝ち目が無くなる。 ならば本気になる前に倒すしかない。 「……」 ゼルバは鞘に収まったままの日本刀を左手で持ち居合いの構えを取る。 「我々の邪魔はさせん!」 そう言い、ゲンナが剣を振り飛び掛かる。 対するゼルバは構えを緩めず、そのままゲンナを待ち受ける。 「死ねっ!仮面ライダー!!」 ゲンナが剣を振り下ろす。 「ハァッ!!」 それよりも速く、ゼルバの一刀がゲンナを両断する! ゲンナはそのまま地面を転がる。 斬られた部分から古代文字が浮かび上がり、黄金の炎が発生する。 しかし、それよりも早く爆発を起こした。 「…………」 ゼルバは静かに刀を鞘に収める。 (新たな敵……戦いは…避けられない………) 複雑な表情のゼルバ。 だが、今は戦いの最中。 他の仲間はまだ戦っている。 援護しなければと、ゼルバは歩き出す。 そして、別の場所ではネオがバイオ生命体のジェネラルとサイボーグのセラトンと激戦を繰り広げている。 2対1ではあるが、ネオの方が優勢だ。 (くっ……ここまで計画が狂うとは……) ジェネラルとセラトンはかなり焦っていた。 本来ならグールの群れでシオンを抹殺し、4体掛かりでネオを殺す筈だった。 だが、ソルンとゼルバの介入によりその計画は完全に失敗した。 既に自分達以外の生命反応は無い。 グールが全滅するのはそれ程問題にはならなかったが、デクステラとゲンナが破壊された事は予想外の事態である。 (だが……何としても、ここで奴を殺す!) 2体は一斉にネオに突撃する。 ネオは身を縮め、敵が来る瞬間に跳び上がり、回し蹴りを放つ。 それにより、2体は攻撃の軌道をずらされ、ネオに攻撃が届く事は無かった。 「……」 その時、ネオのベルトの石が発光する。 光はネオを包み、その姿を変える。 漆黒の生体装甲がメカ・アーマーとなりオレンジのラインが走る。 顔もロボットのような形になり、牙が並ぶ口にマウスガードが覆われる。 ネオはPSK−03のような装甲に似た姿・メガライダーに変わった。 メガライダーはゆっくりと両手を下に下げる。 すると、その両手が発光し、2丁のリボルバータイプの銃が現れた。 「おのれ……」 「今度こそ死ね!仮面ライダー!!」 ジェネラルとセラトンはメガライダーの回りで高速移動し、撹乱させる。 しかしメガライダーはそれを気にもせず、両手の銃を左右に広げ、引き金を引く。 放たれた弾丸は2体を確実に捕え、小爆破を起こし怯ませる。 メガライダーは敵に隙を与えず続けざまに発砲して弾丸を浴びさせる。 「ぐっ!!おおおおおおおおおおっ!!!!!!」 途中、セラトンの装甲が破壊され、爆発し、散った。 「お……おのれぇっ!!」 残ったジェネラルは弾丸に耐えながらその場から離れようとする。 どうやら撤退するつもりのようだ。 「……」 メガライダーは銃を構え直し、左の銃でジェネラルの足を撃つ。 「がっ!!」 右足を撃たれ、地面に落ちるジェネラル。 その間にメガライダーは右の銃を突き出し、引き金を引く。 だが、その時銃から放たれた弾丸は2つ。 全く同じタイミングで、ほんの僅かなズレも無い1つの方向へ2発の弾丸が発射された。 それにより、弾丸の破壊力は何倍にも跳ね上り、着弾した瞬間、ジェネラルの身体は大爆発を起こし、砕けた。 完全に破壊したのを見ると、メガライダーはネオの姿に戻る。 「シュウ!」 その時、シオンが姿を現しネオの元に駆け寄る。 「大丈夫ですか?」 「ああ、こっちは倒した。他は?」 「残りの2体とも、あの方達が破壊したみたいです」 「……そうか」 その言葉を聞き、ネオは安堵の息を付く。 やがて、ソルンとゼルバがネオの元へ合流した。 「……どうやら、終ったようだな」 「ああ。しかし……まさか君とこんな所で会うとは思わなかったよ」 本当に驚きながらソルンを見るネオ。 「俺もだ……それで、そろそろ本題に入ってもいいか?」 「色々と聞きたい事があります……教えてくれませんか?」 やや詰め寄る様に1歩前に出るソルンとゼルバ。 ネオをシオンは顔を見合わせ、互いに小さく頷く。 そして、ネオは人の姿に戻る。 「家に来てくれ、そこで話す」 青年の言葉を聞き、ソルンは昇太の姿に戻り、ゼルバは直樹の姿になる。 <都内某所・秀平の家 14:52PM> 青年達に案内され、昇太と直樹は彼等の家に上がる。 2人はリビングに案内され、青年達と向かい合うように座る。 「先に自己紹介をしておこう。俺は瀬戸秀平」 「私はシオン=マゴナガルです」 「瀬戸さんにシオンさんだな。俺は広本昇太」 「僕は鹿塚直樹です……では、話に入ってもいいですか?」 直樹の言葉で皆の表情が変わる。 「……まず、何から話せばいい?」 「さっき戦った奴等の事だ。奴等は明らかに俺達が戦っている未確認生命体と違う姿をしている。奴等は一体何者だ?」 「……奴等は俺達が追っている組織でインフェルノという」 「インフェルノ……」 思わず言葉を繰り返す直樹。 昇太も驚きの表情を現している。 「奴等は決して表に現れることがない組織、そして世界中にその支部を持ちながら経済・政治・社会の秩序を裏で操ってる奴等さ」 「世界中!?」 いきなり声を上げて反応する昇太。 今まで東京という決められた場所だけで戦って来た昇太にとって、ヌヴァラグとのスケールの違いを見せ付けられたのだから。 「そうです。ですが組織に本部というものは存在ぜず各自独立して動いています。無論、この日本でもその組織が動いてます」 シオンも組織の説明に加わる。 「彼女は元々組織の情報部員でな、組織の内情は大体わかっている。それに日本の組織は5年前に一度潰したんだが、支部というのもそれ自体がいくつも存在してるから俺はその内の一つを壊滅しただけに過ぎない」 「5年前……」 昇太の表情が曇る。 美坂香里や水瀬秋子から聞いた祐一の死闘も5年前に起こった。 こんな所で繋がりが出るとは思っても見なかった。 「では……先程のあなたの姿は?僕達と違う力のようですが……」 今度は直樹が質問する。 「俺の……俺の力は、君たちが知っている石とはまた別のものでな、聖石というんだ」 「聖石……まさかそれは!?」 今度は直樹が声を上げる。 「知ってるのか?」 「ええ……実際に見た訳ではありませんが、僕や昇太さん……それにカノンが身に付けているのは霊石ですが、聖石は僕らの霊石を遥かに上回る力を持つ特別な物です。まさかそれがあなたの中にあるとは思いませんでした」 言いながら驚く直樹。 昇太は驚きながらも納得していた。 ネオの強さは自分を遥かに上回る程のものならば、それ相当の力の源があって当然である。 「……5年前、俺はこの力を託された。全てを失う変わりにこの力を受け継いで……最初は何で俺が?なんて思ったりもしたが、それが俺の使命なんだと気付いた時は、いつ終わるか知りもしない戦いの中にいたんだ」 そう言う秀平の脳裏に、あの時の記憶が甦っていた。 突然の惨劇、目の前で死んでいく家族、死に行く戦士から託された力。 そして、失ってしまった友や大切な人。 「……そうだ、俺も君達に聞きたい事がある」 話が終り、今度は秀平が聞き返す。 「何でしょう?」 「未確認生命体の事か?」 「それもあるんだが……今聞きたいのはそれじゃない。君達2人の力の事について聞きたい」 「僕達……ですか?」 予想もしていなかった質問に昇太と直樹は顔を見合わせる。 「そうだ。2人共カノンと同じ石の力なのはわかったが、さっきの戦いを見てどちらもその力とは思えないんだ」 言いながら秀平は昇太を見る。 「特に君の……ソルンの力は飛び抜けて異質だ。鹿塚の力はカノンの石に別の力が融合されているのがわかる。でも君の力はカノンに似ているんだが全く違う力だ。それが気になってな……」 本当に真剣な顔で昇太を見る秀平。 昇太は説明しようと口を開こうとした。 その時、昇太の携帯電話の着信音が鳴る。 昇太は失礼と言いながら席を外し、携帯電話を取り出しボタンを押す。 「もしもし?」 『広本君?』 電話から聞こえたのは美坂香里の声だった。 「香里さん、どうしました?」 『頼みがあるの……もしかして、これから戦いに行く?』 「いえ、ついさっき戦いが終った所です」 『そう……じゃあ疲れてるかもしれないけど、力を貸して欲しいの』 いつも以上に真剣な香里の声。 これは何かあったと昇太も感じ、気持ちを切り替える。 「何がありました?」 『これから……皆瀬の所に行くわ』 その言葉に昇太は大きく反応する。 『名雪の事は……知ってるかしら?』 「ええ、現状も相沢さんや秋子さんから聞いてます」 現状、つまり皆瀬の力が目覚め、巫女となっている事である。 『ならいいわね。今、名雪の命が危ないの……だから急いで皆瀬から助けなきゃいけないの。お願い、あなたの力を貸して!』 香里の声にやや焦りが感じられる。 無理もない、親友の命が危機に晒されているのだから。 「わかりました。場所は?」 場所はとある廃工場らしく、詳しい場所を確認する。 「少し遅れると思いますがすぐに向かいます」 『頼むわ』 通話を切り、昇太は振り替える。 「悪いけど急用が出来た。話はまた今度にしてもらえるか?」 「わかった」 秀平はそう言うと小さな紙とペンと取り出して素早く何かを書き上げる。 「電話番号を書いといた。時間が出来たら連絡してくれ」 「ああ」 紙を受け取ると、昇太と直樹は家を出た。 「昇太さん……もしかして……」 外に出てから直樹は昇太を見る。 直樹も感じ取ったのだろう、これから戦いに行く相手を。 「その通りだ。奴等とは決着を付けなきゃならない」 「そうですね……行きましょ──」 直樹が言いきる前に、2人はヌヴァラグの気配を感じ取った。 「くそっ、何だってこんな時に!」 思わず声を荒げる昇太。 タイミングが悪いにも程がある。 今すぐ祐一達を加勢しに行きたいが、こうなると到着まで時間が掛り、祐一に負担が掛ってしまう。 かといって、今現れたヌヴァラグを野放しにする訳にはいかない。 「昇太さん」 その時、直樹に肩を掴まれた。 「鹿塚さん?」 「……昇太さんは行って下さい。出て来たヌヴァラグは僕が行きます」 「だが……いいのか?あなたは……」 昇太は迷っている。 直樹にとって皆瀬の一族は最も止めなければならない相手であり、ヌヴァラグを裏切った切っ掛けである。 「確かに、僕は彼女達の目的を阻止したいと思っています。ですが、それ以上に僕は仲間を止めたい……ゼースをやめさせたい!ですから僕に代わって彼女達を止めて下さい!」 それに僕はカノンと面識がありませんし、と続ける。 昇太は顔を俯かせ、少しの間無言になる。 「…………わかった」 やがて昇太は顔を上げて強く頷く。 「じゃあ、そっちは任せた!!」 「ええ、代わりにそちらをお願いします!!」 2人は同時にマシンをスタートさせ、それぞれの道に分れる。 「変身!!」 昇太は強く叫ぶ。 すると、腰からベルトが現れて光を放つ。 その光が徐々に強く輝き、昇太は戦士・ソルンへと姿を変える。 同時に、ストームエッジも本来の姿となる。 (待っていて下さい、今行きます!!) ソルンはアクセル全開で道を駆け抜ける。 戦友(とも)の元へと。 Episode.11「集結」Closed. To be continued next Episode. by MaskedRiderSorun 次回予告 戦場に辿り着いたソルンはそこで始めて浩平と出会う。 彼等を死なせまいと、ソルンは新たな力を発動させる。 浩平「……俺には無理なんだ」 老婆「紛い物が!!」 戦いはさらに激化する。 だが、気付かぬ所から魔の手が忍び寄る。 ???「殺しに行くか」 昇太「死なせはしない」 守らなければならない。 本当に大切な人だから。 正輝「やめろおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!」 次回、仮面ライダーソルン「鋭腕」 戦いは、まだ終らない…… 設定資料 瀬戸秀平 23歳 仮面ライダーネオとしてインフェルノと呼ばれる組織を追っている青年。 5年前に日本の組織を壊滅した後、海外へと赴き世界中の組織を壊滅していった。 しかし、壊滅した筈の日本の組織が再び動き出したのと、カノンの情報を得て日本に戻って来た。 仮面ライダーネオ 聖石と呼ばれる石の力によって秀平が変身する姿。 その戦闘力はカノンやソルンを上回るが、ヌヴァラグとの相性が悪く、彼らを倒す事は難しいようだ。 別の姿に変わる事も可能で、その力はまだ未知数。 メガライダー ネオの防御力、攻撃力をアップさせた戦闘形態、遠距離攻撃を得意とし、主にハイ・ブラスト・リボルバーという銃を使い戦う。 移動速度、ジャンプ力が多少落ちる。 必殺技は銃弾を二発同時発射する「ゼロ・カウント」 シオン=マゴナガル 22歳 秀平と共に行動している元インフェルノの情報部員。 情報収集に優れ、秀平のバックアップに勤めている。 インフェルノ 秀平が追いつづけている謎の組織。 本部というものを持たず、世界にそれぞれの支部が独立して動いているが、隣接する他国との情報交換は行われているらしい。 決して表に現れる事が無く、政治家などの国のトップなどが関係している事がある。 組織としては活動しているものの独断で行動をするものが多く、改造人間の開発研究はさまざまな物がある。 その為、生物と機械(ゲンナ)の融合だけでなく、機械のみの者(デクステラ・セラトン)や遺伝子の組換え(ジェネラル)による改造人間もいる。 日本支部はネオによって一度壊滅状態に陥ったが、再び甦り、動き出している。 グール インフェルノが作り出した戦闘員。 人や生物の死骸に特殊なコアを埋め込む事で動かし、亡者の群れの如く相手に襲い掛かる。 既に死した身体なのでコアを破壊しない限り動きを止める事は不可能。
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