「危ないっ!!」
中津川がそう言って未だ呆然と戦いを見守っていた香里の腕をとって走り出した。
「ここにいると君まで死んでしまうぞ!!」
そう言う中津川だが香里には聞こえていないようだった。
「相沢っ!逃げろぉっ!!」
北川が叫ぶが祐一は動かない。
「相沢・・・」
ふと、祐一の首が動いた。
ぼうっとした虚ろな目で北川や中津川、香里の方を見る。
炎で歪む空気の中、彼は微笑んだようだった。
「相沢くんっ!!」
香里が叫ぶ。
祐一の口が動いたが、声は届かなかった。
そして、口を閉ざすとニッと笑い、空いている左手の親指を立てて見せた。
次の瞬間・・・大爆発が起こった!
しかも祐一達を中心にして。
一際巨大な炎が立ち上る。
それを見ながら・・・香里はがくんと膝をついていた。
呆然と、今何が起こったのかまるで理解できないまま、ただ瞳からは涙がとめどなく流れ続ける。
まるで全てを無かったことにするが如く、炎は燃え上がっていく・・・。
その時、炎の中から一つの光球が大空へ飛んでいった事に気付く者は無かった。
もちろん、それがある少年に戦いを招くモノだと・・・異質な戦いの始まりを告げるものと気付く事も無く・・・。
その光球は互いを弾かれる様に空の彼方に飛んでいった。
仮面ライダーR【リベンジ】過伝
FirstEpisode. [開幕]
その日も特に特別な事なんて無かった。だからこの日が全ての始まりになるとは思いもしなかった。
ただ学校で嫌な授業を受けて、部活をサボって家に帰って部屋に入る。何一つ変わりない日常だと思っていた。
けれどその瞬間、自分の身体に衝撃が走り部屋が目映い光に包まれた。
「…何だよ…これ?!」
晃は変化した自分の姿に驚いた。
自分の姿を鏡で確認した時、そこには異形の化け物が映し出されている。
頭には丸く赤色の目に触覚の様な二本角を持ち、全身が緑色の生態装甲で覆われ、腹部には金色に光る石の付いた怪人になっていた。
非現実的な状況にうろたえながら何でこんな姿になったのか考えたが、思い当たる節なんて有る訳が無い。
「どーしろってんだコレ…」
しばらく悩んでいると自然と元の姿に戻る。
「…何だったんだ? 今のは…」
そう呟きながらもいくら考えてもどうにもならないから、晃は特に気にしないで忘れる事にした。
ずっと元の姿に戻れなかったなら真剣に考えたのだろうが。
それから数日経ち、晃は高校に入学して新しい学校生活を送っていた。
体の方には特に不調は無くいつも通りに過ごせている為、少しずつ異形の姿に対する不安も薄れていった。
「それじゃあ日月君、相川君に部活周るついでに学校案内してもらえますか?」
始業式から二日目、晃は担任にそんな事を言われた。
晃は何で自分がとも思ったが担任の言う事は素直に聞くほうだったので二つ返事で了解する。
「おぅ、よろしく」
了解すると後ろから声が聞こえてきた。振り返ると右手を上げて人の良さそうな男が挨拶している。
「あ、どうも」
晃はその時はただのクラスメートという意識しかなかった。
だがこの青年…相川武志が晃の本当の友人と呼べる様になるのに時間はかからなかった。
翌日から晃と武志は一緒に行動するようになる。何故か二人は気が合い、高校三年間校内ではほとんど一緒にいたくらいだった。
「よしメッキー学食行くぞ!」
「こっちは弁当持ってんだけど・・・つかその名前やめてくれって」
出会ってから数日して晃達はお互いバカ言い合いながらいつも通りに学食に向かう。
そう、たった数日しか経っていないのにいつも通りと言えるくらい二人は親しくなっていたのだ。
「なあ、今日はあそこで食わないか?」
食堂に向かう途中、相川は体育館裏の階段を指した。
「え? 別にかまわんけど、何で?」
「いや、何となくだ」
「・・・まぁ、室内で食べるより外で食べるのも良いと思うけど」
特に断る理由も無いので晃は付き合う事にした。相川が食堂でパンを買った後その階段に向かう。
晃達が階段に到着するとそこには二人ほど先客がいた。
一人は気弱そうな赤髪のショートカットをした少女、もう一人は大人びた雰囲気のある長髪の少女が階段に座って持参の弁当を食べていた。
「「「「あっ」」」」
その時晃達は人がいると思わなかったから、思わずお互いに動きが止まる。
「あ、えっと」
晃と相川が固まっていると、赤髪の女子がおどおどと困惑したように声を出す。
対照的に長髪の女子は特に気にした様子も無く階段に座っている。いや、少し切れ長な瞳が怒っている様にも見えた。
「えっと…戻る?」
「そだな」
「あっあの…」
晃達が階段を下りようとすると赤髪の女子が声をかけてきた。振り返ってみるとその子は視線をあっちこっちに泳がせ、俯いてしまう。
「…一緒に食事しないか?」
晃達が困惑していると、隣の長髪の方の女子が話し掛けてきた。
「良いのか?」
「まあ、抵抗が無いと言えば嘘になるな」
「どっちすか」
長髪の女子の答えに晃が突っ込みを入れる。
「冗談だ」
そう言って笑う。だが笑っているのは口元だけで、他は微動だにしてなかったのが少し怖い。
「し、雫…」
「分かった、わかった」
赤髪の女子が慌てるようにして長髪の女子・・・雫に話しかけ、雫は笑いながら治める。
その姿は駄々をこねる妹とそれを治める姉といった感じに見えた。
「あ、あの…お昼、良かったら一緒に食べませんか?」
晃達が躊躇していると赤髪の女子が誘ってきた。武志は晃と顔を合わせてから聞き返す。
「いいのか?」
「あ、はい!」
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
晃はそう言って近づいてから気付いた事があった。
(…どこに座れと?)
そう、この階段は狭くて普通に横に四人座れば密着してしまう程だろう。かと言って、下の段で女子二人に背を向けて弁当食べるのも何か変な光景だと思った。雫はその事に気付いたのか嫌な笑みを浮かべて晃を見ている。
「それじゃあ、上の踊り場に移動しよう」
「そうだね」
雫の提案で晃達は移動し始めると、その途中で武志が晃に話し掛ける。
「ドンマイ!」
親指をグッと立て、爽やかな笑顔でそう言った。
「ドンマイじゃねーよ」
晃は裏拳の突っ込みをくれてやろうかと思ったが肩に手を添えるだけで許した。
辿り着いた踊り場も少し狭かったが四人で座るには十分なスペースがあった。
親しいもの同士が隣に座るのは必然だ。もし他の人がその場の景色を見たらお見合いをしているように見えたかもしれない。
晃の前には赤髪の女子、隣の武志の前には雫が座りそれぞれ食事を始める。
「ほら、コレやるよ」
そう言って晃は自分の弁当箱からホウレン草を取り出して武志に分け与えていた。
「またホウレン草か、でもありがとなヒノ」
「…野菜嫌いなんですか?」
武志が晃のホウレン草を手で掴みとろうとしていると赤髪の女子が聞いてきた。
「食わず嫌いは感心しないな」
「嫌いだけど、食えなくは無い」
「ならその肉をくれ!」
「断る!!」
「よこせ〜!」
そう言うと武志は晃の弁当箱に手を伸ばしていく。
「させるかぁ〜!」
晃は弁当を持った手を限界まで伸ばし、武志の手が届かない様に弁当を引き離す。
「一つくらい良いだろぉ〜! 俺パンだけだぞ!?」
「止めてくれお客さん、ウチには帰りを待つ夫と夫と夫があああぁ!」
「どんだけだよ!? お前どんだけ夫いんだよ!?」
「あ、あのぉ…」
「放っておいた方が良いぞ姫悸。変なのが移る」
晃達のコントを雫は冷たくあしらう。
「ほぉらあぁ! そっちの所為で阿呆らしく見られてんだろう!」
「阿呆らしくしてるのはお前だと思うぞ!」
「あの、良かったら私のお弁当をどうぞ」
晃達がバカな事をやっていると、不意に姫悸が自分の弁当を武志に差し出してきた。
「え、良いのか?」
「はい、どうぞ」
そう言って自分の弁当箱を武志に差し出す。
「あっ」
この時、晃と武志は雫の漏らした声の意味に気付かなかった。
注意して見ていればこの時の雫の表情はすこぶる青ざめていた事が分かっただろう。
「ありがとな」
武志は姫悸の弁当箱から卵焼きを取り出し食べた。
・
・
・
「…ゴぅおアぁぁぁあああああああああ!!?」
卵焼きを少し頬張った後、突然武志は叫び倒れた。
「ど、どうしたぁぁああ!!?」
「あ、あの…どうしたんですか!?」
「…やっぱりな」
雫からの話だと姫悸はすこぶる料理の腕が駄目なようで、高校生犠牲者第一号が武志だったという事らしい。
晃はこの時ほど弁当を作ってくれた親に感謝した事は無かった。
その後、晃達は世間話に花を咲かせた。そして休み時間も終わりに近づいたとき、姫悸が唐突に質問してきた。
「あの、お昼、明日もまた一緒に食べませんか?」
「え? っと…」
晃はどうするか判断しかねて他の二人に顔を向けて答えを求める。
「私は別に構わないぞ?」
「オレも誘いを断る理由がないしな」
「…だな」
晃達がそう答えると姫悸はうれしそうな明るい表情になった。
「じゃ、またここでいいか?」
「うん、そうだな…姫悸」
「え、あ…うん」
雫が肘で姫悸の脇を突いて何かを促していた。
「あ、あの…」
「「ん?」」
教室に戻ろうと階段を折り始めていた晃達は振り返り同時に返事をする。
「良かったら…私達と友達になってくれませんか?」
その時、晃は姫悸を今時珍しい律儀な子だと思った。
顔を真っ赤にしたその姿からかなりの勇気を振り絞ったんだろうと分かる。だからと言う訳でもないが晃はあっさり返事をした。
「あ、良いよ? 俺は相川武志、よろしく」
「ん、こっちもよろしく」
断る理由も無いし、はっきり言えば晃はこの時は武志以外に遊ぶ友達がいなかった。
二人の返事を聞くと姫悸は本当にうれしそうな笑顔でうなずいた。
「はい、よろしくお願いします」
「私の名前は稲月雫、よろしくな」
「あ、私の名前は伊澄姫悸です」
稲月が自己紹介をすると姫悸はあっとした表情になると改めて自分の名前を話す。
その後晃は武志に突かれ自分だけ名前を言ってないことに気付く。
「月曜日と書いて日月って名前、改めてよろしく」
そして晃達は教室に戻ると、四人とも同じクラスメートだと分かり、晃と姫悸は驚いた。
「同じクラスだったんですね」
「ふ〜ん」
「気付いてなかったのか?」
武志と雫は知っていたらしくあまり驚いていなかった。
「昔から人の名前を覚える事が出来なかったからなぁ」
「私もです」
ともかく晃がこの時出会ったこの三人が、高校で最初に出会った、ずっと一緒にいたいと思った友人達だった。
それから更に数日たった放課後、帰宅しようとした晃は何か奇妙な違和感を感じ取った。
「何だ、あっちの方か?」
晃は奇妙な感覚のする方角に向かった。
人通りも少なくなってきた道を晃は走る。
「こっち、か…!?」
道を曲がるとそこは人のいない裏路地だった。そこで晃の瞳は想像もしていなかった光景を捕らえた。
「何だ…あれ?」
その路地には蜘蛛の様な顔をした異形の怪物、その足元には人間がピクリとも動かず横たわっている。
怪物は人間の首を掴んで民家の壁に押し付けた。すると壁に押し付けられるのと同時に、掴まれている人間の体が壁に埋められていく。
「っ!?」
それを見た瞬間、晃の体に変化が起こった。体中がざわめき、まるで何かが重なって晃の体を侵食していくような奇妙な感覚が体中を駆け巡る。
感覚だけでなく実際に身体全体が変化していく最中、晃は気が高ぶっていくのを感じた。
そして、体の妙な感覚が無くなると同時に異形の戦士となった晃は怪物に向かって駆け出していく。
その姿は全身緑色をした鈍い金色二本角の怪人であり、獲物に襲い掛かる獣の様でもあった。
「ウォォォオオオオオオオオオァアアアア!!!!」
怪物に向かって突進して行った戦士はその勢いのまま怪物に跳び蹴りを喰らわす。
「グォッ!?」
「ッシャア!!」
蹴りをくらった怪物は数メートルほど吹っ飛び、戦士はすかさずその後を追って怪物に飛び掛った。
その時晃は自分の事の筈なのに、他人が怪物と戦ってるような錯覚を覚えた。晃は何かに操られるように怪物と戦う。
「ッシャァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
鋭い咆哮と共に晃の指先が硬質化し、五本の指が全て鋭い爪に変化する。
その爪を怪物に向かってガムシャラに振るう。戦士が爪を振るう度、怪物の身体に傷が刻まれていく。
怪物が弱って来たところで戦士は怪物と一定の距離をとる。
「ッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
激しい咆哮と共に、戦士の足のつま先が硬質化して鋭い一本の爪状のものに変化していった。変化が終わると姿勢を低く構えて駆け出し、大きくジャンプして右足の爪先を怪物に突き出す。爪先は怪物の体を貫き、空かさず戦士は残った左足で怪物を蹴って右足を引き抜く。その際、怪物の体内に食い込んだ右足の爪が他の肉も少量剥ぎ取り回りに少しだけ血が飛び散る。
「ゴアァッ!!…ァ…バグナ…カノン…ヨビベッデ…デ―ヴァンデ…ガァ!!」
何か呟いた後怪物は爆発して消え去った。
それを見届けた後晃の体も元に戻る。
「…何なんだ…何だったんだ今のは?」
荒い息を抑え、ようやく出せた言葉がそれだけだった。
この日から晃は謎の生物と否応無しに戦う事になる。
「…疲れた」
「よ、どうした?」
「なんだか、かなり疲れてるみたいだな」
「大丈夫ですか?」
武志、雫、姫悸がそれぞれ晃に声をかける。
「ぉお〜う」
日月は片手を上げ、元気のない声で答える。蜘蛛型怪人を倒してから何日か経って、晃は自分の意思で自由に変身できる様になった。
最近の放課後は奴らの感覚を捕らえ、現場に向かう事が晃にとってある種の日課になっていた。
それでも学校はちゃんと出て、授業も真面目に聞いているのだから大したものだろう。
ただ一つ問題があるとすれば、最初の変身以来戦い方が素人のものになってしまった事だった。
本人は気付いていないが、相手の事を気遣って自分が窮地に立たされない限り本気で戦う事が出来なかった。
もしこの時、彼が優しさを無くして戦う覚悟を決めていたら、後の悲劇は無かったのだろうか?
何の変哲もない日曜日。
その日、晃達は四人揃って学校から遠く離れた市に遊びに来ていた。
「大丈夫か〜?」
武志が振り返って声を掛けるのに釣られて隣に居た晃も振り返った。そこには姫悸が疲れた表情で歩いて、隣には雫が少し心配しているような表情で走っている。それを見た晃たちは足を止めて立ち止まる。どうやら話しに夢中になってペース配分を忘れてしまったらしい。少しして姫悸たちが追いついてくる。
「…大丈夫?」
「…す…すみま…せん」
そう言って息を切らせながら姫悸が晃の隣にたどり着く。
「少し休むか? さっきからゲームセンター巡りで歩きっぱなしだし」
「だ…大丈夫です……すごく楽しくて…ついはしゃいじゃいました」
そう言った姫悸は笑顔で、本当に楽しそうだった。
それでも武志は配慮が必要だと思い晃に視線で促す。残念ながら晃の方はその視線の意味を理解する事は出来なかった。
「ま、休むついでにカラオケにでも行こーぜ」
そう言うと四人は談笑しながら、武志がよく行くというカラオケ店に歩いていった。
「!!」
再び全員で歩き出そうとしたところで晃は例の違和感を感じ取る。何となくだが、場所はそう遠くない事が分かった。
「悪い、ちょっとトイレ探すから先に行っててくれ!!」
在り来たりな嘘だが他に言い訳が浮かばなかったのだから仕方ない。そう言うと晃はあっという間に近くの路地裏へ走っていった。
「お、おい!? トイレなら店の使わせてもら…」
「…行っちゃった」
「どうしたんだ?」
三人は呆けながらその後姿を見送った。
「…変身!!」
晃は周りに人が居ない事を確かめると、大きな声で叫んだ。
そして晃の姿が緑色の戦士に姿を変える。到着してもないのに変身したのは単にこっちの姿の方が足が早いからだ。
「…遅いな」
「そうですね」
「…けど、いくらなんでも遅すぎないか?」
雫が話すが、実際に結構な時間が経っていた。
晃が走り去ってから三人は晃が走っていった路地近くで帰りを待っていたが、人通りもほとんど無くなるほど時間が経っても晃は一向に帰ってこない。
「もう帰ったのか?」
「いや、あーゆーやつはそういう事はちゃんと連絡すると思う」
「私もそう思います」
雫や姫悸はそんなに長い付き合いになった訳ではないが、晃の性格を理解していた。
「なら…迷子…か?」
武志が考え込むようにして、手を口元に持っていって呟く。
「…それは」
「微…妙〜だな」
思わず苦笑いになる二人。
その時、頭上でバンッという音が響き、三人は思わず身を強張らせた。
「なに!?」
「なんだ!?」
音のする方を見ると、ビルの屋上で争っている二つの人影が垣間見えた。
「アレ…なに?」
姫気が呟く。
視線の先には、モグラの様な姿をした異形の怪人と、緑色の怪人がそいつに掴みかかって争っていた。
不安定なビルの端で取っ組み合っていた所為か、足を滑らせたのか二体の怪人がビルから落下してきた。
「ちょっ! まてよ!! こっちくるぞ!?」
「姫悸!!」
雫が姫悸の腕を掴んで引き寄せて横に飛び、一瞬送れて武志も同じ方向に飛ぶ
次の瞬間、三人のいた場所に異形の怪物等が突っ込み激しい音を立てた。
「…な…なん……!?」
武志が顔を上げると、彼の目の前に緑色の怪人が立ち上がった。
思わず武志は尻餅を着いたまま後ずさり、その音にハッとして緑の怪人、戦士は振り返り三人の姿を確認する。
「ヌン!!」
「!!」
声のする方向を見るとモグラ怪人も大きく被りを振って立ち上がる。その手は赤い液体が染み付き、瞳は緑の戦士の後ろにいる姫悸達を捕らえ、口を大きく歪ませて笑みを作り涎を垂らすと、怪物の口から丸い物が零れ落ちた。
目玉だった。
「「きゃああああぁ!!!」」
雫と姫悸は突然の事に恐怖し悲鳴を上げる。叫び声に緑の戦士は振り向き、三人を庇う様に前に出る。
「な、何だよ、お前等!?」
武志が尋ねるが、その言葉は怪人が飛び掛ってきた事によって掻き消されてしまう。
戦士は怪人の突進を両手で受け止める。しかし、勢いが強く、幾らか後ずさりそのまま組み合いとなる。
「グ…ヌ…オオオオオォォ!!」
戦士が叫ぶとその指が硬質化し、怪物の身体に食い込んでいく。
「ギィアアアァァァァ!!」
怪物は苦痛に叫び、それを振り払うために膝蹴りを数発くらわす。
お互いに組み合った状態から離れ、戦士は怪物に近づいて指先の爪を何度も振るう。
「シャッ! シャッ!! シャアアァ!!」
怪物は爪を避けて戦士が振るう腕を受け止め、顔面にパンチを叩き込む。たまらずよろける戦士に怪物は続けて力を込めて戦士を蹴り飛ばす。それも防ぐ事ができず、吹き飛ばされ地面を転がる戦士。
「グック…」
戦士は両手を地面について起き上がろうとする。怪物はその隙に自分の近くにいる獲物の武志達に顔を向ける。
「ふ、二人とも…逃げろ!!」
命の危機を目前にしながら、武志は二人を守る為に怪物の前に出る。
「す、すまない…足が…動かない」
異形の怪物と対面に、口から目玉を出した光景を目にした恐怖からか、雫は地面に膝を付き、姫悸は何も言えずにただ震えている。
怪物はゆっくりと三人に近づいていく。
「シャァァァアアアアアアア!!!」
怪物が後一歩という距離まで近づくと、戦士が横から素早くつま先蹴りを放っていった。
突然の事に怪人は反応できず、蹴りがもろに横腹に突き刺さる。勢いが付き、そのまま三人から離れる二体。
「ッシャァ!!」
戦士は残った足で怪人を蹴り飛ばし、刺さった足を抜く。次の瞬間、怪物の身体が大爆発を起こし、その爆風を受けて戦士も吹き飛ばされる。
地面を転がりながら、戦士の姿が人間のものに変わっていった。
「いっって〜…」
そう言いながら、男は地面に手を付いて起き上がる。
「ひ・の…つき?」
目の前で起きた光景に声を失う武志。突然の事に呆然としている雫と姫悸。
「ん?」
晃は三人を見て怪訝な表情になる。そしてすぐに自分の腕を見て、自分が元の姿に戻っている事に気付く。
「何なんだ…今のは?」
身体を震わせながら相川が晃に尋ねる。
「…分からない」
そう言って晃は三人から顔を逸らす。
四人の心境は複雑だった。
武志達からすれば、今まで普通に接してきた親友が人でなくなり、謎の怪人と戦っているという、非現実的な場面に出くわすなど色々と心の整理が出来ない状態。晃は今日の事で彼らが自分から離れても仕方ないと思っていた。もし、そうなったとしても彼らを恨むつもりは無い。ただ友達のいなかった頃に、昔と同じ様に一人でその日を過ごすつもりだった。
「日月」
武志、雫、姫悸の三人がそれぞれ強張った表情で晃を見ている。晃はその表情をまともに見ることが出来ない。
「少し…時間、良いか?」
「…わかった……けど、ここで?」
「…向こうに行こう」
そう言って誰もいなそうな場所を探して歩き始める。歩いている間、四人は何もしゃべらない。
空はもう暗んでいた。
「…で、何?」
晃は答えが解っていたが、三人が話そうとしないので尋ねる。
「…さっきのは何だったんだ?」
「…解らない」
お互い先程と同じ内容で答える。
「先に言っとくけど、オレは最初からあんな姿になれた訳でも、正義の見方でも、宇宙人でもないからな?」
半分惚けた様に話す晃。だが、三人の表情は強張ったままだ。
「そう、だよな」
「じゃあ、どうしてあんな姿に?」
姫悸が前に出て尋ねる。晃はこれまでの経緯を話し始めた。
自分が突然変身できるようになった事。その後先程の怪人達の存在が判るようになった事。
その何体かが変身した自分をデーヴァと呼んでいた事。奴等が人を襲い、それを感じ取っては戦いに行っている事。
「奴らが何で人を殺すのかはわからない…なんで変身できるようになったかも……全然」
「そうなの…か」
三人は困惑したような表情になり押し黙る。今も全然考えがうまく纏められない。
「…日月さんは」
唐突に姫悸が口を開く。
「日月さんはどうして戦ってるんですか?」
「…さあ。ストレス発散の為…とか? よく分からない」
姫悸の質問に一瞬驚いた様な表情になったが、はぐらかす事にした。実際、晃は質問されるまで特に考えないで戦っていた事に気付く。
「……どうして話してくれなかったんですか?」
「だって、どうしようもないし……はっきり言って気持ち悪いでしょ?」
晃の言葉に悲しそうな表情になる姫悸。確かに実際相談したとしても、誰もこの様な事に対応出来る訳がないという事が解る。
そして、その辛さも他人には解る筈も無い。
「確かに、食事中に変身シーンを見たら吐くと思うな」
「雫!?」
友人の気遣いも同情も無い言葉に戸惑う姫悸。
本来彼女は人の事を大切に想う事の出来る優しい人だと思っていたのに…とショックを受けていると雫が晃に近づいていく。
「だから、これからは食事している時は変身しないように」
そう言って人差し指を晃の鼻先に突き出す。
「ゑ? ぅ…ん。分かった」
「よろしい」
そう言うと少し微笑み、指を離す。
「…ウッシ!!じゃあ帰りに何か食ってくか?」
「そうだな。少しお腹空いたしな」
武志と雫が話しているのを、姫悸と晃はただ呆然と見ていた。
「二人とも、行くぞ」
雫が振り返って二人を呼ぶ。
いつもと同じ調子に戻った二人の様子を見て、姫悸は先程の考えは自分の早とちりだった事に気付いた。
「え? あ…うん!!」
「オレは―――」
「安心しろ。今回は俺が奢る」
「・・・わかった」
晃はつい、いつものノリで返事をした。
四人は近くにある駄菓子屋に寄って、菓子を買って今は歩きながら間食していた。
「あのさ…怖くないのかな?」
唐突に晃が尋ねる。
「ん?何がだ?」
晃は「んっ」とだけ言って自分自身に指を指して答える。
「全然」
「別に」
「怖くないです」
晃の質問にすぐ三人が答える。
「日月さん優しいし」
「少なくとも私は見掛けだけで人を判断しないぞ?」
「ま、お前さんだからな」
三者三様の答えを返すが、気持ちは一緒だった。
晃は三人の言葉が正直嬉しく、その気恥ずかしさから顔を逸らす。
「ほら、これやるよ」
「…ありがとう」
歩きながら武志から渡されたすぐに食べる。何所にでも売っているお菓子なのに、なぜかとても美味しく感じられた。
「お? なあ、ちょっとあそこ寄ってかね?」
少し歩いていると、武志が皆に声をかけ、前方のゲームセンターを指差す。
最初は武志を除く三人は遠慮がちだったが、武志に半ば強引に連れて行かれた。
「そんなに金無いぞ」
「わたしも」
「右に同じ」
「あぁ、大丈夫。ゲームはしないって、ただあれを撮るだけだ」
そう言うと武志は女子の列が出来ている場所を指差す。
「プリクラじゃん」
「そういう趣味があったのか」
武志に対して、晃と雫は怪しい人を見るような目を向ける。二人にはプリクラというと女性専用というイメージが強かったからだ。
「別に良いだろ?ただ純粋にダチとの思い出を残したいだけなんだからよ」
「…まぁ、確かにな」
そう言って列に加わり、晃たちの順番が回ってくる。
「よし!! じゃあ撮るぞー! 二人共もっと寄っとけ」
「は、はい」
「こんなの初めて撮るな」
「へ〜。同じじゃん」
それぞれ感想を言っている内に武志が設定を終える。
「さてと、どんなポーズをとる?」
「男なら蚊取リックスだろう!?」
「やるか? やるか!?」
「あまり変な事しないでほしいな」
「え? これってやり直し利かないんですか?」
そうこうしてる間にカウントが始まる。
「せーのでポーズ行くか!?」
「良いよ?」
「「じゃ、せーの!!」」
そう言いながら二人は姿勢を低めにする。
「ほ、本当にやるんですか!?」
「姫悸、付き合わなくて良い」
そしてあと少しでカウントが終わると言う時に男二人は動いた。
「「フェイク(ント)!!」」
シャッターが光る直前に二人はほとんど同じタイミングで肩を抱き合った。
「きゃぁ!?」
突然の二人の行為に驚く姫悸。瞬間、シャッターを切る音がした。その後彼女は取り直しを希望したが多数決で却下されてしまった。
その後、四人は何時もの様に話しながらそれぞれ帰宅する。それからも、四人はいつもと同じ付き合いをしていった。
そう、以前と変わらない…束の間の平和な日常を…
FirstEpisode. [開幕]Closed
To be continued next Episode. by −束間−
設定資料
相川 武 (あいかわ たけし)
晃と出会った当時16歳
父親の葬儀で入学式を休み、次の日部活、学校案内で晃と出会う。顔が広く大勢の友人関係を持つ明るい性格。
ある種性格は祐一に似ているモノがあるが、武志は男友達も多い。
ボケと突っ込み両方出来るがどちらかと言えばボケ役。
嫌いな奴はトコトン態度に出るが、心を許した友人の事に関して困った事があれば真剣に、親身になって応じてくれるという面も持つ。
稲月 雫 (いなつき しずく)
当時16歳
冷静で感情をあまり表に出さない性格。
そのせいか友人は姫悸以外いなかった。だが表情に出さないだけで本当は友人思いで優しく、子供達とはよく遊ぶ。
神社の娘で親の手伝いをしているうちに商売根性と家事能力全般を見につけた。
姫悸の事を家族同様に思っている。
晃達といる時はほとんどツッコミ役。本人は呆れているように見えるが姫悸によると楽しんでいるとの事。
伊澄 姫悸 (いすみ ひめき)
当時15歳
おとなしくてやや人見知りの傾向が見える。だが優しくて他人の為になる事を押し通すという(強情ともいえる)芯のある少女。
家族が事故で亡くなってしまった為、雫の神社に引き取られ、普段は雫と一緒に仕事の手伝いをしている。
料理の腕は破壊的で小学生の頃調理実習でクラッシャーの異名を持った。初の犠牲者は当然稲月。
稲月の事を実の姉の様に思っていて、自分も稲月の様になりたいと思っている。
晃に好意を寄せているがその気持ちを伝える事は出来なかった。
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はいどうも、後書きです。
作者:今回からは少し晃の過去編を語りたいと思います。
晃 「何で今からなんだ?」
作者:いま描かないと、後のバージョンアップに支障が出る予定。
銀澪「それは予定とは言わないだろう?」
作者:ま、それは置いといて、次回は彼の学生時代の束の間の平穏を書きたいと思います。
晃 「表現不足は否めない」
作者:やる前から言うな。
あ〜。甘い恋愛模様描きてぇー。
銀澪「無理だな」
晃 「また長くなりそうだな」
作者:やはり未熟者ですが、お付き合いよろしくお願いします。
それでは。