<とある港町の民家 13:42PM>

日差しの強い部屋の窓からそよそよと涼しげな風が吹き、カーテンをゆらゆらと動かす。

そのあまり広くはない畳部屋の中心で、銀髪の青年が眠っている。

「・・・う・・・・」

一瞬苦しそうに顔を歪めるが、徐々に落ち着いたように青年はゆっくりと目を開いていく。

「ここは?」

目が覚め、ゆっくり体を起こして周りを見渡す。

起き上がったときに後ろで縛ってあるはずの髪が目や肩に掛かり、服装もさっきまで来ていたものとは別のものになっている事に気付く。

彼は自分の身体を確かめ一通り部屋を見渡すと、またゆっくり体を寝かせて横になる。

(拘束されてはいない・・・取り合えず牢獄じゃないなら安心か)

青年は自分が何処に入るかなど、全く気にならなかった。何故ならこの世界には彼の知る景色など存在しないのだから。

取り合えず今分かる事は、ここに連れて来た人物は自分に対して悪意を持っているわけでないようだ。

おそらく、気を失った自分を誰かが介抱してくれたのだろうと考えた後、それよりも彼は先ほどの戦いの中で、僅かとはいえ敵の身体を気遣ってしまった事を思い返していた。

例え相手がどんな状態だろうと気遣った瞬間自分が殺される。ほんの少しの油断が最悪の事態を招く。その証拠が今の自分だ。

今回は運良く生き残れたが次は無い。

そんな事は幼い頃から分かっていること。もう情けは捨てたと思っていたが、先ほどの戦いで自分の甘さがさらけ出された。

もし監視者がいたら、次は確実にヤツらはその甘さを突いてくるだろう。

「・・・ふぅ」

青年は深く息をつき、気持ちを切り替える。

(次にあったら・・・必ず殺す)

自分の中の迷いを振り切るように心の中で呟く。

それから少しして、青年はこのまま黙って出て行こうか一言お礼を言うべきか考え始めた時、不意に人の気配を感じ身体を強張らせる。

−コン・コン−

「入るわよ」

突然ノックの音と女性の声が交互に聞こえ、青年は扉の方に目を向ける。

そこには後ろ髪を縛った活発そうな女性が扉から顔を覗かせていた。

「目が覚めた?」

部屋に入り、女性は後ろ手で扉を閉めて青年の顔を見に近づいていく。

 

 

仮面ライダーR【リベンジ】

盟約に縛られし者達 

Episode.6[走破]

 

<同時刻 堤防上空>

グメルに羽交い締めにされ、頭から落下しながらも、全身青い生態装甲の姿に変身したクルス。

だが変化し終わるのと同時にグメルは組み付いていた腕を離し、翼を大きく広げて空中へと舞い上がる。

「なにっ!?」

クルスが驚きの声をあげる。

その間にも猛スピードで落下しながら、クルスの身体は堤防まであと数メートルという所まで迫っていた。

(こんな・・・こんな所で・・・・死んでたまるか!!)

そう思いながらも落下が止まる訳でもなく、覚悟を決めクルスは落下の衝撃に対し全身に力を込める。

するとその時、背中の生体装甲が丁度真ん中から割れて、その下から一対の白い昆虫の羽の様なものが飛び出すように生え出てきた。

ヴイイイイイイィィイイィィィ―――――――――――!!

羽は音を立てながら細かく動き出し、ほんの少し落下速度が落ちるが勢いが付きすぎているために止まることは出来そうにない。

「っのぉおおお!!!」

クルスは無我夢中で、ほとんど無意識に羽を動かし落下の方向を変える。

ッドバァアン!!!!

ザザザザザ!!

「うあああああぁぁぁ!!」

円弧を描いて滑るように背中から砂浜に激突し、砂が大きく舞いあがる。

「っはぁ!!・・・く!」

高所から落ちた衝撃で肺の中の空気を全部出してしまったかのような痛みと苦しさを感じる。

砂がクッションになった御陰でまだ動けるが、それでもかなりのダメージを受けている為にすぐに起きあがれないようだ。

「痛・・ってぇ」

足がふらつきながらも何とか起きあがり、意識をハッキリさせるため頭を振ってからグメルの姿を探す。

グメルの方は上空で旋回しながらクルスの様子を伺っている。

「くそ・・・どうする!?」

過去にも何度か空中にいる敵と戦ってきた事はあるが、それらも苦戦した上勝てたのもほとんどがカウンター狙いの戦法だ。

昔なら構わず実行しただろうが、生き残る事を前提にするとあまりやりたくない作戦である。

ゴーーーーォォォォォオオオオオ!!!

クルスが思案している間に風を切る鋭い音と共にグメルは再び急降下し、猛スピードでクルスに迫っていく。

(接近戦なら勝てる筈だ・・・でもアイツの翼をどうにかしないと!!)

昔、似た様な敵と戦った時は大体のヤツが力が弱かった観があったことを思い出し、足を曲げて直ぐ飛び上がれるように力を入れる。

自分に攻撃を当てる瞬間に組み合ってしまえば相手もバランスを崩し、一旦地上に降りるはず。

あまり気が乗らないが、他に方法が考え付かないから仕方ないだろう。

「ハァッ!!」

そう決断するとクルスは向かってくるグメルとの距離を測り、ダメージを受けるのを覚悟してグメルに向かってジャンプする。

だが、二体の身体がぶつかり合う事は無くすれ違った。

「!?」

「あれっ!?」

グメルは手応えが無い事に驚き、クルスは自身の跳躍力に驚きの声を上げた。

何故なら迎え撃つようにしてジャンプした筈が、思い切り突進してきたグメルを飛び越えてしまっていたのだ。

「・・・青くなってる!?」

落下しながらようやく自分の身体の変化に気付き戸惑うクルス。

「前のは赤で・・・今度は青か」

そう呟くとクルスは堤防に、グメルは砂浜に着地し身構える。

「フッ!!」

クルスは相手が飛び上がる前に攻撃を仕掛けようと、先程と同じ様に足に力を入れて飛び掛かり、数メートルあった距離をあっという間に詰めた。

先程よりも素早くなったクルスに驚きながら、背中の羽ごと拳を振るうグメル。

それを屈んで避けるとクルスは思い切りグメルのボディを殴り付けた。

「オオオオオオオオオオ!!!」

叫びながら目にも留まらない速さで何度も殴り続けるクルス。

その拳のスピードは先程の比ではないが、グメルは少しもよろけない。

それどころかほとんど効いていない感じでもある。

「くそっ!やっぱ駄目か!?」

たいしてダメージを与えられていない事に気付き、大きく飛び退きながら呟く。

赤い姿が力なら青い姿は早さだろうと思ってはいたが、ここまで攻撃力が下がるとは思っていなかった。

一旦離れた隙にグメルは再び空中に飛び立つ。

どうやらクルスの攻撃力が落ちても、念を入れてヒットアンドアウェイを繰り返すつもりらしい。

「こうなったら・・・・跳んでみるか!!」

いくら脚力が上がっていても空高く飛んでいるグメルに届くか分からない。

届いたとしても確実に避けられるだろうが、その時は攻撃される瞬間にどうにかして相手を掴めば良いだろう。

そう結論付けるとクルスはグメルに向かって思い切りジャンプするが、それを見たグメルもクルスに速攻で詰め寄り正面から蹴り飛ばす。

「ぐぅっ!!」

相手を掴む事が出来ずに一撃を受け、地面に落ちていくクルス。

(くっ・・・・やっぱ無理か!?)

クルスは受身を取ろうと背中に意識を集中させる。

すると、再び背中の生体装甲から一対の白い羽が現れてクルスの身体を空中に浮かび上がらせる。

「ナビ!?」

「ととっおぉ!!?な、なんだぁ!?」

いきなり自分の身体が浮かんだ事に戸惑いを隠せず驚くクルス。

突然の事にグメルも驚いたが直ぐに落ち着きを取り戻す。

それもその筈、何故ならクルスはフラフラと今にも落ちそうな飛び方をしているのだから。

「ビャバナャヅダ」

グメルは呆れたように呟くと再び特攻を開始する。

一方クルスは浮かぶ事に精一杯で避ける所ではない。

こんなの出来るかぁ!!

思い通りに飛べない事に苛立ち叫ぶと羽が止まり、落下し始めたクルスの上を勢い良くグメルが通り過ぎる。

「うぉっ!?」

運よくグメルの特攻を回避し、堤防に着地するクルス。

「ジヅドゥギィャヅベ」

呟きながら特に動じる事も無く、グメルは旋回しようとする。

その時、グメルは周りの景色が揺らめいでいる事に気付いた。

「・・・ジバンギリバ」

グメルは呟きながら旋回するの止めて、そのまま何処かに飛び去っていった。

「・・・助かったな」

グメルが居なくなるのを見届けそう呟くとクルスはふぅーっと一息吐いて変身を解く。

すると、赤い姿の時程ではないが全身に深い疲労感が現れる。

使い慣れていないからか、別の理由からかは知らないが、どうやらこの二つの力は使うと体力の消費が激しいようだ。

取り合えず晃は襲われていた少年の姿を探そうと周囲を見渡す。

すると、ドーム状に歪んでいた周りの景色が、徐々に正常なものに戻っていくのが見える。

(取り合えず、しばらくは大丈夫か?)

どういう原理かは知らないが、奴らは普通の人を近寄らせない結界の様なものを作り出すことが出来るらしい。

晃の今までの経験から解っている事は、普通の人は外から中の様子に気づく事も出来ないが中からは外に出られるという事。

一定の時間が経つと今みたいに効果が消えてしまう事。そして次に現れる時期はその時の相手によって全然違うという事だ。

「あ、まだ居た」

堤防の端で尻餅をついている少年の姿を見つけた晃は、ため息を出すと歩いて少年の所まで近づいていく。

晃がすぐ近くまで来ても、少年は尻餅をついたまま驚いた表情で晃を見ている。

「大丈夫か?」

そう言って手を差し出すと少年はおどおどしながら晃の手を掴む。

「あ・・・あんた・・・さっきの」

「ん?」

お互いに顔を見合わせて、二人は相手が先ほど会話した人物だと気付いた。

 

<沖合の小島 14:20PM>

カノンと未確認が戦っていた浜辺から少し離れた入り江に、丸い毛むくじゃらの物体が波間にプカプカ浮かんでいる。

「ふ〜ム〜。仕事も運良く一つ終わったし・・・後はバカンスしてから帰ろうかム〜」

丸い物体ポールは目を閉じ、短い手を後ろで組む様な素振りをしながら誰にともなく呟いた。

先程自分の仕事の一つを終わらせた彼は、帰ってもろくな扱いを受けないと分かり切っているので休憩がてらこの場所で遊んでいたのだ。

「ム〜ムム〜・・・む?」

突然太陽の光が隠れ、近くででかい鳥が羽ばたく様な音と気配を感じ、波に揺れていたポールは目を開けてその姿を確認する。

目の前には先程クルスと戦っていたグメルが、膝まで海に浸かりながら立っていた。

「グメルじゃん・・・どーかしたのかム〜?」

「フィードウォウドバギリダ」

そう呟くとグメルはポールに催促する様に手を出す。

「お〜。いつもは気が乗らないとか言ってるのにどうしたんだム〜?」

「デーヴァヴォダボザンド・・・ボレダヅバゴドザレンダボ」

驚き半分、からかい半分といった感じで話すポールに対し、グメルは仕方ないと言った感じで答える。

その言葉にポールはほんの少し驚いたように傾げるが、直ぐ呆れたような顔になる。

「こんな所にも来てたム〜?まぁ、噂を聞く限り今度の継承者は大した事無いから気楽に行くと良いム〜」

そう言うとポールは耳の中から長方形のカプセルの様なものを取り出してグメルに投げ渡す。

それを片手で受け取ると、グメルは踵を返しバサッと翼を広げて直ぐに飛び去っていった。

「が〜んば〜れム〜」

気怠さを感じさせる声援を送り、ポールは再び目をつむりバカンスを楽しみ始めた。

―ジジッジッヂヂヂッジッバチッチヂ―

「ム?」

突然耳に聞こえてきた音に周囲を見渡すが、その音の発信源は見当たらず、しばらくして音は聞こえなくなってしまう。

だが、ポールは特に気にする事も無く波に身体を委ねて、再びバカンスを楽しむ事にした。

何故ならそれは先程カノンが戦っている場面を偵察した時から分かっている事であり、彼らにとって新たに仲間が蘇える知らせなのだから慌てる必要は全く無い。

「さっきのは中々強い力だったからム〜。結構多い数か強いやつが来そうだム〜」

ポールは新たに現れる同胞の復活に心躍らせ、波に揺れながら寝る事にした。

一応彼の仕事はカノンの偵察、情報収集が目的なのだから寝てしまっては意味が無いのだが、暫らく彼がその事に気付く事は無さそうだ。

 

<とある港町・竹林 14:22PM>

―ジジッ!バジッ!!!ヂヂヂッ!!ジッ!バチッ!!チヂッ!ババチ!ッヂヂ!!―

風に揺らめく葉の音しか聞こえない竹林の中で奇怪な放電現象が起こっていた。

その放電現象は中空で激しい光と音を発し、その光の中から細めの手が現れ始めている。

「ゥ・・・ぁ・・・・・あ・・・・・」

その手はまるで光の中から抜け出ようとするかの様に動き、中からはうめき声の様なものも聞こえてくる。

「ぅ・・く・・・・あぁぁ!」

やがて光の中から一つの人影が浮かび上がり、半身ほど光から抜け出てきていた。

それに比例して放電も大きくなるが、その影はもう片方の手も光の外に出して身を乗り出すように身体を前に出す。

「う!・・ぁ・・ぁ・・・・ぁぁああああああああああ!!!」

―バシチィイイイイイイ・・・・!!!―

一際大きな叫び声を出すと同時に光は弾け飛ぶ様に拡散し、光で隠れていたその姿が竹林の中に現れる。

突然現れた影のその姿は、なんとセ−ラー服に近いデゼインの服を着た高校生くらいの女性であった。

「?・・・・コ・・は?」

静寂を取り戻した竹林の中で寝惚けた様な、何も考えていない様な半目で周囲を見渡しながらたどたどしい口調で呟く。

「Μ―τ??じゃ・・・ナイ・・・・ЭФ?は・・・・ワタシ・・・だけナノ・・かしら?」

女性は握力を確かめるように手を握ったり開いたりしながら、時折この世界では聞いたことも無い発音で喋る。

その際、彼女からは感情らしいものは見当たらない。

「少し・・・コの世界を・・見回らないと状況が掴めなさそうね・・・」

次第に普通の日本語を話せるようになると、ゆっくりと竹林の中を歩き始める。

すると、彼女の身体から白い煙の様なものがあがり、彼女が一歩進む度に足元の草が凍り付いていく。

「でも・・・不完全とはいえ、私が出られたという事は・・・・カノンが目覚めかけている・・・という事ね・・・」

そう呟くと女性は口元を微かに歪めて笑い出す。

「フフフ・・フフフフフ・・・・・今度は何が起こるのかしら?」

怪しく微笑みながら、彼女はゆっくりと竹林の中を歩いていった。

やがてその場から彼女の姿が見えなくなり、凍った草の一つが音を立てて砕けた。

 

<とある港町の民家 14:25PM>

日も高く暑さを感じる庭先で、一人の女性が今の季節には不釣り合いな長い黒いコートなどの洗濯物を干している。

そんな彼女の後ろに一人の青年が近寄っていく。

「あら、もう歩いても大丈夫なの?」

足音に気付いた彼女は振り返って、先程まで看病していた青年に話しかける。

青年の後ろ髪は縛り直され、服装も夏物に替えられていて先程よりすっきりしていた。

「ああ、すまない・・・助かったよ」

「ふふっ感謝しなさいよ」

青年の言葉に女性は楽しそうに応えるが、その動きがピタッと止まる。

「・・・・そう言えば名前を聞いてなかったわね」

「え?」

「私は川口成美。あなたは?ちなみに記憶喪失とか言うのは無しよ」

女性、川口成美は青年に詰め寄っていき、青年は後退りながら突然の質問にどう答えようか考える。

青年にとっては自分の名前はもう自分から捨てて、他人と関わるつもりもなかった為にこの質問は困ったものだった。

しかし、名前がないのも後々不便になると思い、青年は彼女に名前を付けてもらう事にした。

「なんて名前だと思う?」

「なによそれ?」

青年の答えに成美は不満そうだ。

「まぁ・・・深くは気にしないでくれ」

「ふ〜ん・・・別に良いけど」

そう言うと成美は額に人差し指を当てて考え込む仕草をする。

「銀髪」

「え・・・」

成美の言葉に青年は顔を引きつらせる。

「冗談よ・・・そうね、銀が印象的だから銀澪とか?」

「銀澪か」

青年は確認する様に呟く。

悪くない名前だと思うし、銀は自分の戦友のものだった事を思い出しそれを自分の名前として使う事に決める。

「そうだな・・・俺の事は陽名鳥銀澪とでも呼んでくれ」

成美の付けた名前に自分の意味名を付け加えた青年、陽名鳥銀澪は成美を見ずに空を見上げながら呟いた。

 

<堤防 14:31PM>

浜辺の堤防に腰を下ろし、足をぶら下げながら晃はグメルに襲われていた少年と話をしていた。

「・・・そう言えばさっき、何であんな事言ったんだ?えっと・・・・・来ないとか、逃げ出すとか」

晃の言葉に少年は顔を下の砂浜に向けるが、やがてポツポツと自分の胸の内を話し始めた。

「だって・・・由宇のやつ・・・こないんだ」

「ゆうって・・・友達の事か?」

晃が尋ねると少年は首を少し動かして肯定の意思を示し、事の顛末を話し始める。

どうやら彼は少し前に学校に用事があり、職員室に人がいないのを見てつい悪ふざけして遊んでしまい、偶然にも通知表などの書類を滅茶苦茶にしてしまったらしい。

その事に教師達が凄く怒ってしまった為に直ぐに言い出すことが出来なかった。

けど二人で話し合って正直に謝りに行く事に決めて、一緒に放課後先生達全員に謝ろうと約束をしたのに由宇は来なかったという。

「クラスのヤツからあいつが医者に行って休んだって聞いたけど、あいつがよく良く診療所に行ってみたら誰もいなくて・・・」

話していく内に少年は身体を振るわせる。

「きっと・・・怖くなって逃げたんだ・・・あいつ・・・!」

「まぁ、そうゆう約束は破ったらいけないよな」

言いながら晃は遠くを見るように、顔を海の方に向けながら昔の事を思い出していた。

「でもさ、その子も約束を破りたくて破った訳じゃないかもしれないし・・・」

意識した訳ではないが、その言葉に晃は自分自身を弁解している様に思えてしまった。

「そうだけど・・・こわいんだ・・・」

「?・・・何が?」

言ってる意味が分からず聞きなおす。

「もし、ほんとにあいつが逃げたんなら・・・・・・おれ・・・あいつのことゆるせないかも」

「ふー・・・ん」

膝に置いた手と方を震わせながら話した少年に対し、晃は少し嬉しさに似た感情がこみ上げてくる。

「優しいんだな」

「え?」

少年は訳が分からないといった表情で晃に顔を向ける。

「今の話を聞くとさ・・・何か友達が約束を破った事に対して怒ってんじゃなくて・・・その・・・自分がその子に手を出すのが嫌とか・・・なんて言うか・・・相手を気遣ってる様に聞こえるんだけどな」

「な、なんでそうなるの?」

「ん、ん〜と?」

少年に言われ、どう説明しようか考え込む晃。

「普通に嫌いになっても構わないなら、さっさと理由を聞いて殴りつければ早いけどさ」

「なぐりつけるって・・・」

晃の例えに少し引き気味になる。

「まぁ、殴るまでいかなくても、そこまで悩んだりはしないと思う」

「ぅ・・・ん・・・」

晃が優しく話すが少年はまだ納得できず俯いてしまう。

その様子に少しだけため息が出る。

(まぁ、そう簡単に納得するなら悩まないよな)

もう少し上手く説得できれば違うのだろうが、生憎自分にはそんな話術は全くない。

「よし、じゃあさ。もしさっき襲ってきた奴がまた出てきて、オレが戦って勝てたら君も友達に会いに行く。んでキミがその友達を傷つけようとしたら、オレがぶん殴って止めてあげるよ」

「な、なんでそうなるの!?」

晃の突拍子も無い提案に呆れと驚きの混じった声をあげる。

何の脈絡も無い提案なのだから当たり前の反応だろう。

「さぁ?」

晃も自分自身何故こんな提案をしたのかと馬鹿馬鹿しく思う。

大体以前なら自分はこんな話を聞こうとも、他人と関わりを持とうとさえ思わなかった筈だ。

なのにどうしてこんな事になったのか。

「まぁ、オレも同じだし・・・」

「?」

そう言いながら少年の頭を撫でようとして止める。

流石に子供扱いは良くないと思ったのかもしれない。

「それに友達とは長く一緒にいたいだろ?」

「あ・・・」

晃の言葉に少し反応する。

確かに親しい人とは長く一緒に居たいし、何よりこのままでいる事も辛いと感じているのも確かだ。

「・・・わかった、行くよ」

「ん、じゃ一緒に行こうか?」

そう言うと立ち上がり少年に手を貸す。

「うん」

少年が恐る恐る差し出された晃の手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。

その瞬間、何かが晃の頭に何かが走った。

それは時折感じる危険信号。

そう、敵が現れた時に走る感覚、晃への上空から飛来してくる敵の存在に対する警告。

同時に空中で何かの音が聞こえた。

「危ない!!」

そう言って晃は少年を引っ張りながら後ろにジャンプした。

その際、足がもつれてバランスを崩し、少年を抱きかかえるようにして地面に背中をぶつける。

その直後、グメルが今晃が立っていた場所を通り過ぎる。

「もう来たのか!!」

言いながら晃は少年を横に追いやり自分も立ち上がる。

グメルは空中で身体を回転させ、翼を大きく開いて回転を止めて晃達に向き直る。

「デーヴァ!!オザエバ、ゴリガゴドジデジャズ!!」

そう言いながらもグメルは相変わらず空中に陣取っており、降りてくる様子は無い。

「・・・それじゃ、どっかに隠れてな」

そういいながら晃は少年を自分の後ろに隠し、空を飛んでいるグメルに目を向けながら精神を集中させる。

そして両腕を前に突き出し両手を握り拳のまま交差させ、手首を反して両腕を腰の横に落とす。

すると、腰の部分から光の帯が現れ、それに重なる様に腰から赤と青の宝玉が埋め込まれ、黒色で金の装飾がされたベルトが浮かび上がる。

だが、その後取ったポーズはいつもと違って左手はそのままにして、右手を左前に突き出し右側へ水平に移動させる。

「翔力・・・変身!!」

そう言って右手を右腰に引き、同時に左腕を思いっきり右前方に伸ばす。

すると、ベルトの右側に埋め込まれた青い宝玉が肥大化し、青く目映い光を発しながら中心部に移動し、その光が晃の身体を包み込んでいく。

光が納まると晃の姿は全身が青い生態装甲で覆われたクルスへと変化した。

「イブゾ!!」

クルスに変身し終えるのを見計らうかのように、グメルは一気に特攻を仕掛ける。

「ハッ!!」

クルスはグメルが特攻してくるのを見て、堤防から砂浜へ飛び降り周囲を見渡す。

空を自由に飛ぶ事も出来ない上に、今の攻撃力ではグメルとはまともに戦えないと判断したクルスは青い姿の武器を探す事にしたのだ。

そして波際に流木が流れ着いているのを見つけ一気に走りぬける。

まあ、流木を手に入れても武器になる補償は無いが、今のままでは勝負にもならないのだからやらないよりはマシだろう。

一撃目をかわされたグメルはクルスの行動の真意を測りかねるが、取り合えず再度特攻を仕掛けに掛かる。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーー―!!

「くっ!!」

後ろから近づいてくる音に内心焦り、クルスは流木を目指して思い切り跳び込んで流木に手を伸ばす。

そして流木を手に取ると前転の要領で止まらずに立ち上がる。その際、手に持った流木が両先端に太い金の装飾がされた青いロッドに変化した。

(よしっ!ラッキィ!!)

流木が青いロッドに変化したのを見たクルスは俄然闘志を燃え上がらせ、気配を頼りに振り向き様に思い切りロッドを振るう。

グメルは直感的に身の危険を感じ、クルスの眼前で軌道を変えて頭突きではなく蹴りを突き出す。

ガキィッ!!ーバキッー

「うぁっ!!」

「グギッ!!」

ザッパァン!!ザザァ!!

足とロッドの攻撃がぶつかり合って激しい音が鳴り響き、反動でクルスは海に、グメルは砂浜に弾かれる。

「くっそ!」

クルスは水滴を飛ばしながら勢い良く立ち上がりロッドを構えようとする。が、その時クルスは手に妙な違和感を感じ取った。

グメルが膝を押さえ少しの間動けなさそうなのを確認し、クルスが自分の両手に視線を向けると。

「なぁっ!折れたぁ!!?」

なんと、言葉の通り青いロッドはちょうど中心から真っ二つに分かれて折れてしまっていた。

 

<とある港町・山へ向かう道 14:48PM>

舗装もロクにされていない道を日名鳥銀澪と川口成美が歩いている。

位置的に銀澪が前、成美が後ろから後についていく形だ。

しばらく無言で歩いていた二人だが、突然銀澪が足を止めて振り返る。

「どうしてついてくるんだ?」

「なに言ってるのよ。あんたが着てる服は家の物なんだからトンズラされない様に見張ってんじゃない」

両手を腰に当てて呆れたように話し、銀澪はその様子を見て僅かに微笑む。

「それもそうだけど・・・キミは変わった人だね」

「それを言ったらこんな蒸し暑い中、あんな長いコートを着てる方がおかしいでしょ?」

(人間なら・・・ね)

成美の言葉に一瞬銀澪の表情が曇る。

「でも、普通は身元も分からない相手の傍にいるのは危険だと思うんじゃないか?」

「大丈夫よ。もしもの時は頚動脈閉めてあげるから」

笑顔でさらりととんでもない事を言ってのける成美に苦笑する銀澪。

「で? 何所に行く気なの?」

小走りで銀澪の隣に付いて尋ねる。

銀澪は前を向いて歩き出し、ゆっくりと口を開く。

「・・・殺し合いに」

それは冗談では無く、ただ真実のみを単調に話しただけだった。

「ふ〜ん。でも程々にしないと傷増えるわよ?」

他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出した銀澪を成美は特に気にした様子も無く普通に切り返す。

大抵の人ならこの言葉と彼の雰囲気から、驚くかただ呆然とするしか無かっただろう。

だが、彼女は銀澪を介抱している時に、彼の身体には幾つもの傷跡があるのを見ていた為大して驚いたりはしなかった。

それでも普通に話しているのは彼女の性格によるものが大きいのだろう。

「程々にって・・・・」

成美の言葉に苦笑する銀澪。

程々な殺し合いとは一体どんなものなのか。

「やっぱり変わってるね」

「あら、それはどういう意味かしら?」

成美は微笑みながら銀澪に詰め寄り、銀澪はそんな彼女を宥めながら歩いていく。

普通に他人と話し合うという行為に、銀澪はほんの少し懐かしさを感じていた。

それから二人は冗談を言い合いながら山頂の神社を目指して歩いていった。

そして橋の上に差し掛かった時、銀澪がまた立ち止まり、何かに気付いたように山頂に視線を向ける。

「・・・どうかしたの?」

横から銀澪の顔を覗き込む成美。

「必ず返すから・・・・家に戻っててくれ」

「え?ちょ、ちょっと!?」

銀澪はちらりと成美を見て、そう言うと返事も聞かずに走り出す。

成美も後を追い掛けるように走るが、あっという間に銀澪の姿が見えなくなり置いていかれてしまう。

 

<山頂の神社に続く道 15:11PM>

銀澪は周りに誰も居ない事を確認すると、走りながら意識を集中させて全身に筋肉とは違う、別の力が駆け巡る様なイメージを頭に描く。

「変身!」

走りながらそう叫ぶと光が銀澪を包み込み、その姿を灰色の戦士アストのものへと変化させる。

そしてアストが山林に入ろうとした瞬間、山林の中から二体の馬型怪人が飛び出してきた。

「ちぃ!!」

突然の襲撃に少し驚いたが、二体の突進をギリギリで避けるついでにアストは飛び出してきた内の一体に肘撃ちを食らわせ相手の攻撃を防ぐ。

「待ち伏せか!」

アストがそう言い放ち、お互いに向き直り相手の様子をうかがう。

「ブゥールル、ブー!」

「フー!フー!」

馬型怪人ダボスとダリウォは疾走体と呼ばれる姿ではなく、人間と同じ二足歩行の状態のようだが何処か様子がおかしい。

その様子を見たアストは二体の突進腹部に付けているベルトを見やる。

だが、それも一瞬の事で直ぐにダボスとダリウォに対し構えを取って対峙する。

「ビザァババ、ゴンドボゴゴソグ!!」

「今度は容赦はしない!!」

それぞれに言い放つとダボスとダリウォは下半身を四足歩行の疾走体と呼ばれる姿へ変化させてアストに迫る。

アストも駆け出し、二体の馬怪人に殴り掛かって行った。

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

<浜辺 15:33PM>

(脆すぎないかコレェ!?)

ロッドが折れた事に少々気が動転するクルス。

クルスが慌てている間にグメルの方は足の痛みも治まり、好機とばかりにクルスに迫って跳び蹴りを仕掛ける。

「ヂムベグェ!!デーヴァ!」

「あっ!」

グメルの接近に気付き、咄嗟に持っていた折れたロッドを逆手から持ち変えて交差させてグメルの蹴りを受け止める。

「ヌゥ!!」

「っく!!」

攻撃を止められたグメルはその蹴りの勢いを利用して飛び退き、クルスは折れたロッドを太鼓を叩く様に構える。

クルスは今の自分が自然に取った構えから、折れたロッドが棍棒として使えるように感じ取った。

(・・・やってみるか)

そう決心した時、二対に折れたロッドの青い棒の部分が更に半分くらい短くなり、金の装飾をした先端部が転回しT字型トンファーへと変形した。

「これは・・・トンファーか!!」

武器の変化に対して驚きと同時に、クルスは使い勝手の分からない自分の武器に少し愚痴の一つくらい言いたい気分になった。

(紛らわしいな、オイ!!)

ようやく自分の武器の姿が分かったクルスは持ち手と気持ちを切り変えて、改めてグメルに跳び込んで行く。

「まぁ、いい。 やるか!!」

 

<山頂の急斜面 15:40PM>

−ザザザザザザザザザザ−

神社へ向かう道から外れ、異形の戦士達は場所を移動しながら激しい戦いを繰り広げていた。

木々が生い茂り、バランスの取りにくい斜面をアストは全くスピードを落とさずに目的の物を目指し、周囲を見渡しながら駆け抜けていく。

ダボス、ダリウォは走りづらいのか、時折地面に足を取られながらもアストの後を追う。

アストがわざわざ進みづらい斜面を進むのは、半分は敵の機動力を削ぐ事が目的だった。だが、いくら機動力を殺せても、いつまでも斜面が続く訳ではない。逆にバランスが取れないということは自分の機動力を削ぎかねない諸刃の剣でもあるということだ。

従ってこの行為は何かというと、相手との距離を稼ぐ事を目的としている。

そして、地形が斜面から平行に代わり木々の量も少ない場所に抜け出た。

「・・・あった!!」

アストは視界の先に先ほど起きっぱなしにしたままのバイクを見つけ、直ぐさま全速力で駆け抜けバイクに駆け寄る。

遅れて斜面から抜け出たダボス、ダリウォはアストがバイクに乗る前に飛び掛かる。

跳躍する音と気配を感じ取ったアストはバイクに跨らずハンドルを握りアクセルを回す。すると灰色の光がバイクを包み込み、灰色をした馬を連想させる様な姿をしたアスト専用の鉄騎、ホースレイダーへと姿を変えた。

「ォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

アストはそのままアクセルを回し、バイクに跨らないままその場で思いっきりターンしてダボス、ダリウォに向かって鉄騎を振り出す。

グォンッゴキィ!!

車体を浮かせ、激しい回転の掛かっている後輪部分でダボスを弾き飛ばすとアストはそのまま回転しながらホースレイダーに跨り、遅れて飛び掛ってきたダリウォに今度は車体を地面すれすれまで低くし、後輪で足払いを仕掛ける。

「グオオォオ!?」

堪らず倒れこむダリウォに目を向けず、ホースレイダーを手足の如く操りながらアストは勢いを殺さずに走り出しダボスに特攻を仕掛ける。

吹き飛ばされて倒れていたのか、ゆっくりと立ち上がろうとしていたダボスは凄まじい勢いで迫ってくるアストを見ると空かさず専用の杖を構える。

それを見て取ったアストも片手をハンドルから離して灰色の剣を作り出す。

「ヒヒヒィィイイーン!!」

ダボスは雄叫びを上げながら前両足を高々を振り上げ駆け出し、アストも剣を逆手に持って構える。

パカラッパカラッパカラ―ブゥオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

普通の人間の反射なら確実にぶつかりそうな距離まで近づいた時、ダボスは前足を、アストは前輪を持ち上げて同じタイミングでジャンプした。

両者共に正面から衝突し、ダボスの前足をホースレイダーの前輪が思い切り弾く。

ダボスはその衝撃を利用する様にとっさに杖を振り下ろす。アストはそれを逆手に持った剣で横に受け流しながらダボスに切りかかる。

前足を下方に弾かれ、下方に腕を振りぬき勢いをつけたダボスの首は吸い込まれるかの様にその灰色の刃と接触した。

「ギガッ!?」

お互いの身体がすれ違い、アストは着地と同時にUターンしてダボスに向き直り、ダボスはアストに背を向けたままの状態で立っている。

そんな両者の間に青い炎と化したダボスの頭部が落ちてきた。

そして、頭部を失ったダボスの首からも青い炎が現れ、それが体中に燃え広がり爆発四散する。

「ダヴォーーーーズゥゥウウ!!」

仲間の死を目の当たりにしたダリウォが絶叫の声を上げる。

その叫び声を聞いたアストはダリウォに向き直りホースレイダーを走り出させる。

「・・・言った筈だ・・・今度は容赦しないと!」

「ゴン・・・ゴヌ、グラギディボドゥガァアー!!!」

怒りに打ち震え、最早まともな思考も無くなり目を血ばらせながらダリウォはアストに向かって特攻を仕掛けに行く。

アストはそのままスピードを上げてダボスに向かって突進していく。

「ガァアアアアアアアアアアア!!」

「ハッ!!」

ダリウォは拳を、アストは剣を真っ直ぐに突き出し、灰色の剣がダボスの身体を貫きホースレイダーがダリウォを押し返していった。

「・・・ァァアアアアアアアアアアアア!!」

ダボスを押しやりながらアストが気合を込めていくと、それに呼応する様に剣を突き刺した部分から青い炎が燃え上がる。

「グ・・・ォ・・・オ・・・ゴオオオオオオオオオ!!!」

ズッギャァアアアアアアアアアアアアアアン!!!

いくらか走り、一つの太い木をぶち折る音とダリウォが爆死した音が一致し、爆炎の中からホースレイダーに跨ったアストが飛び出す。

そして地面に着地しUターンして爆発した後に顔を向ける。

徐々に消えていく炎を見ながらアストは少しだけため息を出した。だがそれは喜んだり安心したりといった感情ではなかった。

「お前達は・・・生き返ってまで何をしたかったんだ?」

そう呟くとアストは人間の姿に戻り、向きを変えて同じ様に元の姿に戻ったバイクを走らせる。

心の中に虚しさだけを抱えて、道無き道を走りぬいていった。

 

<浜辺 16:02PM>

人の少ない浜辺の上空で、クルスとグメルによる激しい空中戦が行われていた。

しかし、十分に特性を発揮できないクルスは苦戦を強いられている。

「ホゥッ!!」

「グゥッ!」

グメルが蹴りを放ち、クルスは腕を交差してトンファーで受け止めるが空中では踏ん張りが聞かず仰け反ってしまい、そこをグメルが弧を描くように宙返りして特攻を仕掛け、下から突き上げるように頭突きを喰らわす。

ダメージでバランスが崩れ、頭から落下しそうになりながらもクルスは羽を動かし懸命に体勢を整える。

(・・・ままならねぇ!!)

空中戦を開始してから、否、始めに青い姿に変身してから自分の不利を感じていた。

そう、空中戦では相手の方が二枚も三枚も上手であり、自分はこの力の事を全く知らないのだ。それ以前に羽の動かし方、空中戦の仕方なんぞ普通の人間が分かる訳がないだろう。

以前持っていなかった未知の力が使えるようになっても、使い方が分からなければ宝の持ち腐れでしかない。かと言って、この姿で戦ってしまったのだから、この状態で何とかしなければならない。

そう、何故か知らないが青い姿になった瞬間から別の姿になろうとは思えないのだ。

赤い姿の時もそうなのだが、まるで本能的に拒否している様な感覚をクルスは感じ取っていた。

「ぐぁぁっ!!」

色々考えている内にグメルが頭突きを喰らわせ、クルスはバランスを崩し落下していく。

グメルは追い討ちを掛けようと大きく宙返りしてクルス目掛けて急降下する。

(どうする?オレは前どう戦ってた!?)

クルスは心の底に閉じ込めていた、友人達との付き合いがあった頃をの事を思い出そうとしていた。

 

『はぁ〜・・・』

『ヒノッチ先輩どうかしたんですかぁ?』

学校から帰ろうと昇降口で靴を履いている所に、活発そうな声に呼び止められた。

その子は自分の親友である相川の妹である相川未来という明るい性格の、とにかく明るい少女だった。

『よぉっす・・・いや、また空飛ぶやつが出てメタクソにやられちゃってさ』

『ふーん、じゃあ前に私が言ったようにロープ持っていったらどうですかぁ?』

『だから怪しいって・・・て言うか持ち歩けないって』

『じゃぁ、また新!必殺技の特訓でもやりますか!?』

『卵投げられるからヤダ』

当時この子は、相川、雫、姫悸と一緒に自分の力を知っても恐れず、逆に知ったからこそ自分に協力し色々な作戦や新必殺技を提供してくれた。

まぁ、中には四方から飛んでくる卵を色違いのだけ壊すとか、雪合戦ついでに雪玉に当たらない様に蹴りを放てとか滅茶苦茶なものもあったが。

『も〜、やりませんよそんな事。卵腐ったの無いんですから』

『あったらやんのかよ!?』

『冗談ですよ先輩、冗〜談!!』

そう言いながら未来は背中に飛びつき、首に手を回して半分おんぶするような形になる。

『やめれ〜』

『え〜?良いじゃないですか。長距離歩行大会の時、ゴール近くまでおんぶしてくれたじゃないですかぁ』

『近くからでしょ?それにあの時は』

『バランス取りにくいからコケそうだぁぁぁあ〜。って結構面白い声出してましたよね』

あの時は体力も限界近く、相当足が辛かったのを覚えている。

『面白い言うな』

『あの時のお礼も含めて新技考えてあげますよ』

そう言って腕に力を入れてしがみ付く未来。

『そろそろ行かね?』

『またおんぶしてくれないんですかぁ〜?』

この言葉には苦笑するしかなかった。

『動けねぇっつの』

 

瞬間、クルスの中で青色に何かが弾けた。

―カッ!―

クルスの真横まで降下したグメルは翼を羽ばたかせて、急旋回してクルスに体当たりを仕掛ける。

それを横目で視認したクルスは上体を僅かに捻り、神経を張り巡らすように意識を自分の羽に繋げていく。

すると、落下したままクルスはほとんど動かずにグメルの特攻をかわした。

「!?」

グメルは避けられた事と、自分の足に急に重みを感じた事に驚いた。

紙一重の所で特攻をかわしたクルスは、すれ違い様にグメルの足を掴んでいたのだ。

(動きが早いなら、動けなくすりゃ良いんだろ!!)

あれこれ考えても埒が明かないと開き直り、直感を頼りに戦う事にした。

そしてグメルが振り落とそうとする前に足を掴んだ腕を引き、グメルの翼にしがみ付いて動きを止める。

「グォオオオオオーーーー!?」

浮力を失った二体の身体は回転しながら海へ真っ逆さまに落ちていった。

ドッパァアアアアン!!

どうやら浅瀬ではなかった様で、浜に埋まる事は無かったが海面に叩きつけられた衝撃でお互いの身体が離れる。

グメルはこの隙に水面に出ようと必死に水面に向かって泳ぐが、翼全体が水に濡れてしまい思うように動く事ができない。

空中では重要な役割を担う翼だが、この状態では只の重りにしかならなかった。

しかし、同じ条件の筈のクルスは恐るべきスピードで下方からグメルに迫っていた。

(セァ!!)

かなりのスピードで近づくと、両手に持ったトンファーの金装飾の部分を思い切り突き出す。

反撃しようと腕を振りかぶるが、それは水の抵抗をもろに受け威力とスピードを削がれ、弾丸の様なクルスの突進を塞ぐ事は出来なかった。

(ゴブァ!?)

自分と対照的なクルスのスピードに驚く暇も無く、グメルは一旦水中から弾き出される。

クルスは再び水中に落ちてきた所に突進して追い討ちを掛ける。

この時クルスの白い羽は淡い光を放ちながら、超微振動を起こしスクリューの働きをしていた。

同時に、変身して超感覚を身に着けたことで波の流れ形などが何となく分かるようになったようだ。

今しがた空中で気付いたのだが、この空気や水の流れを把握し利用する事がこの姿の力の使い方なのだとクルスは判断した。

グメルはというと、水中から叩き出されたり戻った所を吹っ飛ばされた所為で体が回転し、方向の区別が付かなくなっているようだ。

(フン!!)

今が勝機と判断したクルスはトンファーの青い部分同士をくっ付ける。するとT時型トンファーは元の長いロッドの形に戻る。

(ハアアアアアァァァ!!)

クルスが気合を込めてグメルに突っ込んでいくと、同調するように青いエネルギーが腕の生態装甲の筋を通ってロッドに伝わっていく。

そして、エネルギーが金装飾に達した瞬間、水中でも目立つ青い輝きがグメルのボディを捉え突き上げた。

(ゴブォオオオオオオオ・・・・・・!!)

大量の空気を吐き出し、徐々に青い輝きがグメルから発せられる。

ドッバアアアアアアアアアアアアン!!

激しい水柱をたてて、砂浜が海水で濡れていく。

堤防から戦いを見ていた少年はゴクリと唾を飲み込む。

少年はどちらが勝ったのか分からず、不安を感じながらもじっと水柱の上がった場所を見続ける。

そして、太陽の光を反射している海の中からゆっくりと一つの影が出てくる。

そこには海の様に穏やかな藍、空の様に優しき青の力を手にした戦士、クルスの姿が輝く波間に現れた。

クルスは少年を安心させるように、手を顔の横まで上げて親指を立てる仕草を見せた。

少年も負けじと両手の親指を立ててそれに答えた。

 

「な?なせば成るだろ?」

海から上がり変身を解いて堤防まで上がると、晃は少年に話しかける。

その時、晃の右目はベルトの宝玉と同じ深い青色に変わっていたが、少年はその些細な変化には気付かなかった。

「一つのやり方で駄目なら、他のを探しても何とかなるんだからさ。怖がるよりどうすれば良いか考えないか?」

「おれも・・・おれもやってみるよ」

クルスの必死に戦っている姿に心を動かされたのか、少年は勇気に満ちた目ではっきりと言い切った。

「ちゃんとアイツに話しを聞いて・・・話し合ってどうするか決めるよ」

「・・・そうか」

少年の言葉に晃は微笑んで答えて見せた。

 

<堤防沿いの道 16:44PM>

先程先頭を行った浜辺からしばらく歩き、晃と少年はとある民家に辿り着いた。

「ここ?」

「うん」

晃が尋ねると少年は少し不安そうに頷く。やはり覚悟を決めても実際に行動するとなると、どうしても不安になるようだ。

少年の様子に晃が大丈夫か?と言って肩に手を置く。

その事で勇気を出して少年は一歩を踏み出しチャイムを押す。

―ピンポーン―

少年がチャイムを押すと晃は少しずつ後退し、なるべく玄関からは見えないように周りの民家の塀に身を隠す。

そして、顔を少し出して様子を伺うと、どうやら後退している間にインターホンでのやり取りは終わったようだ。

少しすると、玄関から少年と同い年くらいの少女が顔を覗かせた。良く目を凝らして見ると、少女の足は包帯が巻かれているようだ。

(あの子か?)

今隠れている位置では少年の表情が見えないが、そのまま様子を見続けて話している様子から何となくそうなのだと判断する。

暫らくすると少年は照れたのか後ろ頭を掻き始めた、

「大丈夫なのか?」

小声で呟きながら、身を隠すのを止めて近づく事にした。後ろからでは少年の表情が分からないので、面倒だが迂回して横から近づいていく。

二人との距離が数メートルまで近づいた所で、少年が晃のことに気付く。

まあ、横からだと玄関の内側にいる人からは見えないのだから当たり前と言えば当たり前だが。

(これで良いんですよね?お兄さん!)

少年は本当に嬉しそうな笑顔で晃に向かって親指をぐっと立てて見せた。

(ふぅ、まさか友達ってのが女の子だったとは・・・ナイスだょ)

晃も内心苦笑しながら同じ仕草で、だが力強く返し、その場からさっさと離れて行った。

 

またしばらく歩いて、止めて置いておいたバイクを見つけて手を伸ばす。

「さて、と」

先程の少年達の姿を思い浮かべ、何だかとてもむず痒い様な、とても暖かい気持ちを感じていた。

そこには少年が友達と仲直りが出来て良かったという想いと、自分がその事に貢献できた喜びが入っている。

そして、自分もあの二人を見て友人達に会う勇気が湧いてきたような気がした。

まだ不安はあるが、あの二人のお蔭で更に気が軽くなったようにも思える。

スタンドを上げると晃はバイクに跨らずに歩き始める。

本当は直ぐに走り出したいのだが、ガソリンと残金が底を就きかけている為に迂闊に乗り回すことが出来ないのだ。

今までにも何回も歩き回ってガソリン代を節約したものだが、その事に自分自身呆れてため息をつく。

「まぁ・・・いっか。取り合えず近くでバイト出来そうな所を探そう」

取り合えず前向きに行こうと決め、晃は少しずつ歩き始めた。

 

<1日後N県ものみの丘 23:55PM>

バチッバチバチバチッ!! ジヂヂヂ!! ババチッ!!ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッヂ!!!バチィ!!!!!

クルスが空中戦を制した次の日の夜。

5年前、カノンが白虎と激闘を繰り広げた場所から少し離れた場所で、あまりに激しい奇怪な放電現象が起こっていた。

その放電は一箇所に集中している訳ではなく広い範囲に雷を撒き散らしている。

時折放電の光と一緒に何かの建物の様な姿が見えたり消えたりを繰り返す。

カッガガッガ!! バチッヂヂ!! ヂヂヂヂヂヂヂヂヂッヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!! 

―グォーーーーーーーー!!!!!!!―

やがてその放電現象が一際大きい輝きと爆音を轟かせた。

そして、少量の放電の名残の音と雷の焦げ後からの煙が立ち上る中、大きな遺跡と思しき建造物が現れる。

それは、見るものが見ればカノンの霊石が収められていた古代遺跡と似ていると感じただろう。

だがこの遺跡の出現、そしてこの中に眠る者の正体に気付くものが現れるのはもう少し先のことになる。

 

 

Episode6[走破]Closed.

To be continued next Episode. by MaskedRider Revenge

Episode. Asuto&Cross story

 

 

次回予告

二体の馬怪人との戦いを終えて、何故か成美の家に世話になる事になった銀澪。

不意に人気のない所に向かう銀澪、そして彼は謎の恐ろしい寒気を放つ少女と相対する。

???「あなたは・・・」

一方晃はガソリン代摂取の為に、海近くの売店で働いていた。

「暇だ〜」

資金調達のために海の家で働く晃。

彼がいるとも知らず、その町に訪ねてくる一人の少女。

一見平和が戻ったように見えるこの町の裏では何かが動き出していた。

謎の気配を放つ女性と相対する銀澪。

「どういうつもりだ?」

「隠れてないで出てきたらどうかしら?」

山林の中で睨み合う二体の蜂種の未確認生命体。

力を持つ者達は引き合うようにその町に集っていく。



次回、仮面ライダーR【リベンジ】

盟約に縛られし者編 Episode.7「乱入」

ぶつかり合う思想、突き進め!己が道を!!

 

 

 

設定資料

 

仮面ライダークルス:フロートフォーム

 

全身くまなく青い生態走行で覆われ、飛行、遊泳可能な羽を持った特殊形態。

(羽は使わない時は生態装甲の中にしまわれている)

ベルト右側に埋め込まれている青い宝玉の力を解放された時この姿になる。

この姿はファイティングフォームに比べ、功防力共に低いが特殊能力を持ち、かなりの高度を飛んだり潜ったりする為、脅威の肺活力を持つ。

それだけでなく、実は熱砂や北極など超高温・低温といった特殊地形での戦闘が可能。その為、火炎放射や毒ガスなどに滅法強い。

ただ、飛ぶ時は特殊な力を使うので、ラーヴァフォームほどではないが疲労が激しい。

専用武器にロッド、スティック、トンファーの3形態に変化するブルーアームズを使う。

必殺技はブルーアームズにエネルギーを宿し、スピードをつけて一気に一突きにするブルーファランクス。

(スティックにtなったからと言って、ベルトが外れて太鼓が現れる事は絶対にありません)

 

 

仮面ライダーアスト:バトルスタイル

 

『アスト』とは彼らの世界で『違う』『異なる』という異能の意味。

以前彼が持っていた力と怪人の力が混ざり変化した、正しく異能の姿。

その為、本来なら敵と同じように変化後の姿を**体と言うのが正しい。

その力はカノンより僅かに低めだが、それを補える戦闘経験を有している。

 

 

ホースレイダー

 

最高時速370km

通常の形から形状が幾らか変化しているアスト専用の擬似生態マシン。

殆んど機械ではなく生態的な面が大きく占めているが、意思は持っていない。

アストの意思を受けて初めて動き、正しくアストの身体の一部の様な存在。

その為、かなりの荒地でも走行可能。尚且つ左右のバーナーからエネルギーを放射する事で高所へのジャンプも可能である。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

よっし6話終了〜あ!!

晃「また無理やりな上に変にゴチャゴチャしてるな。今回の話も含めてもさ」

うぅ・・・アストのバイクアクションも、もっと激しいものを予定してたのに・・・予定より格段に活躍してない。(泣)

クルスの新フォームは大体何とかしたつもりだけど・・・やっぱり書ききれなかった部分多し・・・(汗)

晃「そう言えばオレの今度の姿は、体の説明が他のフォームと比べて文が少なくないか?」

フロートフォームはねぇ。仮面ライダーJとZОの装甲を青色にしたものと考えてください。

あれの金の模様? 部分とかどう表現したら分からないから苦肉の策なのよ。

晃「じゃあ今回青色になる時、何でポーズ違う上に翔力変身!! って叫んだんだ?」

いやぁ〜、(汗) 実はラーヴァフォーム専用の掛け声もあるんですけどね。

叫ぶ理由は何となく、そうした方が気合入るかな〜って思ったから。

晃「それだけかよ・・・」

ちゃんとした理由は、腰のスイッチを叩く事で赤、青の石の力を解放させる。

だから、通常のポーズで変身すると、二つの石の力が配賦されてファイティングフォームになるのです。

ラーヴァフォームに目覚めた時は、新しく作られたベルト内宝玉のエネルギーが有り余ってたから余分なのを体外に放出したって所です。

晃「そういった説明は物語の中で、もう少し分かるように書こうよ?」

そうしたいんだけどねぇ〜・・・案はあっても構成が上手くいかないんだよ。

晃「前回のはアスト主体になる予定だとか言ってたのに、オレと協働になってるしな」

銀澪「今回のも含めたら、むしろこっちの方が出番少ないと思うんだけど?」

いや〜、一応やれば出来ると思ったんですけどねぇ・・・何分計画性の無い作者ですから。

銀澪「まあ、自分の偽名が出来ただけでも好しとするよ」

そう、落っこちて看病してもらって偽名誕生という構成は、ほとんど予定通りなのよ。

今回の話の目的はそれが2割くらい占めてるのさ。

晃「残りは?」

言い出したら長くなるから却下。

晃「おい」

それじゃあ、今日はこの辺で帰りましょうか。

成美「ちょぉおおおおっと待ちなさいよ!!」

晃「ぅお!?」

おおう・・・貴方は今回の為だけに出演してもらった川口さん。

成美「まさか私の出番はこれだけって事は無いでしょうね?」

・・・・・

成美「なに黙ってんのよー!!」

晃「うわ!? 暴れだした!」

銀澪さん! 頼みます!!

銀澪「あ? あ、ああ」

成美「ちょっと何すんのよ!? あ、ちょっと力ずくって卑怯じゃない!? 私はか弱い女の子なのよ!! 予告のセリフも言えなかった可哀想な少女を連れ去って良いと思ってんのー!! ってもー・・・」

ゴキッ!!

晃「あ、殴られてる・・・」

えー、取り合えず彼女もチョクチョク出せたら良いなって思ってますよ。

晃「実際出せるか微妙だけどな」

そうだね、次回キミの旧友人達が現れる予定だけど・・・ちゃんと書けるか自信ないし。

晃「駄目じゃん!?」

ま、成るようにしますよ。

ではまた次回にお会いしましょー。

 

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