少年は戦った。

大切なものを護る為に命を懸けて。

しかし

その想いは今凍り付こうとしている。

時が止まった様な暗闇の中。

少年の意識も闇に呑まれていた。













「…」

闇の中へ向かう一人の少年の姿があった。

その表情は苛立っているようにも、呆れているようにも見える。

「やっぱりこうなってたか…ま、アイツを乗り越えただけでも良しとするか」

そう言って立ち止まり、目の前の石像に呟く。

彼は僅かな間無言のまま石像を眺める。

「もっと気張れよ…そんなんで運命を変えられると思ってんのか?」

やがて彼はその手に刀を持ち、頭上に掲げるよう上段に構えた。

ピクリとも動かない石像に、彼は何の躊躇いも無く。

刀を振り下ろした。







話はこれより僅か前。

セルと天羽の戦いが終わった後の事。

制縛とそれに敵対する謎の組織。

それらの戦いの最中に暗躍する少女がいた。

自らの願いを叶える為に暗躍し、同志を裏切った彼女。

目的を果たす為に…彼女は水鳥のいる場所へ向かっていた。































仮面

LEGENDBLOCKADE

旅立ち編

「暗躍の裏…誓いと旅立ち」

























水鳥は今、津雲と話をしていた場所とは違う所に移動させられていた。

外の方が慌ただしくなり、この広めのホールのような場所にも多少外の音や声が聞こえてくる。

「なにが起こってるの?」

先程津雲とツインテールの女性が慌しく話し、外へ出て行ったきり誰も自分の元へやってこない。

薄暗く妙に広い空間に置き去りにされ、時々床が揺れたりする所為で妙に落ち着かない。

そんな中、誰かがホールに近づく足音が響いてきた。

水鳥は周りの音を無視するかのように響く足音に驚きビクッと体を震わせて扉のほうを見る。

足音は扉の前で止まり、扉の前に居る人物はそっと手を扉に押し当てる。すると、扉に五望星の紋章が浮かび上がって勢い良く弾け飛ぶ。

「きゃぁ!?」

水鳥は咄嗟にしゃがみ込み両手で頭を押さえる。埃と木片が辺りに散らばり水鳥の体を覆い隠す。

「い、一体なにが…?」

恐る恐る入り口の方を見てみると扉は跡形も無く消し飛んでいた。

扉があった場所からは煙がもうもうと立ち上り、その煙の奥から一人の少女がゆっくり水鳥に歩み寄っていく。

煙が徐々に晴れていき、少女が目の前に来た事で水鳥はようやくその人物の全貌を知る事ができた。

「澪さん?」

学校で会う友人の登場に水鳥の思考はいくらか混乱する。

何故こんな所に彼女がいるのか、自分と同じ様に連れ攫われたのだろうか?

彼女の表情は普段と変わりなく、その無表情からは今何を考えているのか読み取れない。

「…一緒に来て」

「え?」

澪は短く呟くように言うと、水鳥に手を差しだす。

突然の事に水鳥は戸惑い、澪の顔と手を交互に見ながら躊躇する。が、やがて恐る恐る手を伸ばす。

「ちょっと待った」

「え?」

突然静止をかけられた事に驚きながら、二人は声のした所に顔を向ける。

「あ…」

「…天羽」

澪が表情を険しくして、入り口に立つ少年を睨みつける。

天羽、津雲はセルと闘った後、命令を果たす為にすぐに水鳥の安否を確かめに動いていた。

この山の構造を大体把握していたのと、水鳥の居場所を知っていた為にセルより早く辿り着く事ができたのだ。

彼が受けた指令、それは水鳥を他のものの手に渡らないように保護せよとの事。

セルに勝ちを譲りはしたが、任務まで捨てたつもりは無かったようだ。

「裏切り…というか内通者…か?」

「…だったら……どうだって言うの?」

「別に…止めるだけだな」

二人は表情を変えずに淡々と話す。そこにはもう敵意しか残っていない。

津雲はゆっくりと右手を剣指にして額にもっていく。澪は目を瞑って両手を下から円を描く様に真上に持っていく。

澪は両手を頭上で組んで、津雲手首を捻って手の甲が横に来る様に動かす。

「変身!!」

「…呪解装甲之法」

二人それぞれ叫び、同時にその手を一気に斜めに振り払う。

すると、津雲は青黒い炎、澪は紅の炎が全身を包み込み、それが一気に晴れた瞬間二人の姿は変化していた。



津雲は天羽と呼ばれる黒い戦士へ。

澪は顔を狐の様な仮面で隠し、全身黒いボディスーツに身を包み、その上に着物の様な鎖帷子の巫女装束姿。肩は三つ爪に掴まれた様なアーマー。胸を覆うプレートアーマー。紋様の如く文字の書かれた手甲、足甲は装甲と一体型のロングブーツ。さらに澪の体から直接獣の耳と尻尾が生え、動物のそれの様に動く。



「何だ…その姿は?」

「別に…ほんの少し…本当の力を解放しただけ」

変身を終えた澪の手には先端に三つの爪を持つ槍の様な武器、所謂『さすまた』という武器が握られ、天羽に向けられる。

「邪魔をするのなら…容赦しない」

天羽は何も言わずに姿勢を低くして腕の手甲を伸ばし、蛇腹剣にして身構える。

説得という考えは初めから無い。制縛の中では二人は親しい間柄と言えるが、元々津雲はあまり人と喋る事も無い。

気になる事はあるがそれほど話す事も無いし、そんな余裕も無くなりそうだ。

天羽が思案していると、澪は一瞬表情を曇らせて呟く。

「あまり…時間を掛けたくないの」

「なに?」

澪はその豊富な胸元から手鏡を取り出して天羽に向ける。

それを見た天羽は驚き、一瞬身を強張らせながらもすぐに駆け出し蛇腹剣を振るう。

澪はさすまたを振りかざして剣を受け止める。が、力では天羽が上回って弾かれる。

激しい金音を響かせながら互いに押しつ押されつの鍔迫り合いを繰り広げながら術を行使する隙を伺う。

「子・寅・卯・午・亥」

「っく!!」

剣では天羽が押している、にも関わらず澪は剣戟の最中に印を切りながら術を構築していく。

天羽は剣で術の行使を止めるのを諦めて飛び退き、澪と距離を取って印を切ろうとする。

「もう…遅いから」

「っ!?」

澪の呟きと共に地面から人一人が映る位の鏡が二人を囲むように立ち並んでいく。

「これは鏡結界! いつの間に術式の鏡を!?」

「…この中では私以外は全ての動きが乱される…だから諦めて」

天羽は澪の言葉を殆んど聞いていなかった。

これから行使されるであろう術は天羽が行使しようとした術では防げない、使用者に絶対的な空間を作る高位結界の術。

結界は防御を主体として扱われる事が多いが、それ以外にも術者の力の増幅や回復など様々な効果を持つものがある。

彼女が使おうとしている結界は自分の有利なフィールドに相手を閉じ込めるという形式のものだ。

説明するだけなら簡単だが、術自体万能と言うわけではない。威力、効力が大きければ大きいほど発動に時間が掛かる。

それなのに、澪は僅かな斬り合いの最中に術の構築を終えたと言う事に天羽は驚きを隠せない。

「大丈夫…あなただけじゃないから」

「どういう事だ?」

「…さようなら」

天羽に答えを返さずに澪が呟くと、手鏡から目映い光が発せられて周囲を取り囲む鏡の一つにぶつかり反射し、他の鏡に到達。再び光を反射し閃光が幾筋もの蜘蛛の糸のように周囲を走る。

天羽も術を行使しようとするが、術式が完成する前に澪の術式が完成して周囲の鏡が一斉に目映い光を放つ。

「鏡界静―――」

(間に合わない!?)

天羽が身を強張らせた瞬間。



パキィィイイイイイイイイイイン!!



「え?」





突然の事に二人の戦士は驚きに眼を見張った。

何故なら二人の周囲に張り巡らされていた鏡が、一斉に音を立てて砕け散ったからだ。

「ぇ…な?」

「術の失敗?」

「危ない所だったな…津雲」

驚きに動きを止めていた二人はその声の方向に顔を向けて、それぞれ動きを止める。

「ぉ、お前は…」

引きつった感じの声を出す天羽。澪は驚きの表情のままその人物を見ていた。

彼等の前に現れたその人物は青黒い第二皮膚に両腕、両肩、両足、胸部が深い青色の生体装甲。頭部は黒い仮面に青く澄んだ瞳と牙の様な口を持ち、額から二本の鋭い刃の様な角が生えた戦士。

「そう、空の如く自由な戦士! 斉藤もとい砕刃見参!!」

すでに変身を終えた姿で両腕を真っ直ぐ斜めに伸ばしポーズを取る斉藤。

澪は落ち着きを取り戻し、その姿を睨みつける。

「…どうして」

「ふ、基本を忘れたのか? 確かに事前に術式を組んで置けば後からでも強力な術を使う事ができる」

そこで一呼吸置いて斉藤が言い放つ。

「だが、その分少しでも術式が崩れればその効果は発揮できない。俺はお前らが戦ってる間に遠くから鏡を取っ替えたのさ。俺の霊力を込めた鏡がストッパーになって術の構築が出来なくなって鏡が砕けたって訳だ」

「…そんな事に驚いてるんじゃない」

得意げに話す斉藤に憎しみと未だ驚きの混ざった眼差しを向ける澪。

「あなたは…私の結界に閉じ込めたのに…どうして!?」

「閉じ込められていたさ。だがな、次回の夏コミで久々にK○y系の新作同人ゲームが出ると聞いてな、コタツの中でおちおち寝てる訳にはいかなくなったのだよ!!」

ビシっと指を突き出す斉藤に心底どうでもいいといった視線を送る天羽。

澪は斉藤の言葉に困惑とも怒りとも見える怪訝な表情をする。

「冗談だろ」

「ああ、ブッチャケると俺のこの姿は肉弾戦に特化して、ほとんどの術が使えない代わりに他者の術を弾く霊気の膜が身体中を覆うんだ」

「…それで私の結界を弾いたという訳なのね」

「かなり骨が折れたがな」

そう言って前に出て澪に近づく斉藤。まるで友人に近付くかのようにツカツカと近寄っていく。

目の前まで正面まで近付いてきた所で、澪はさすまたを斉藤に突き出す。

「…でも、私の邪魔はさせない」

「一つだけ聞かせてくれ、お前は何故翼の継承者を連れ去ろうとする?」

「…あなたには関係ないでしょ?」

「またそれか、まだあいつの方が正直だったぞ」

やれやれと言った感じで溜息を吐く。その様子を遠巻きに見ていた天羽はゆっくり後ろに下がる。

「あいつ?」

「あいつは全力で自分の大切な者を守っていた。自分の業を背負い、認め、隠さずに戦い続けてきた…だが、お前はどうなんだ?」

「…どうって」

「譲れないものの為に戦うのか? それとも逃げる為に戦うのか?」

斉藤の言葉に澪は俯いて黙り込み、何かに堪えるように両手でさすまたの柄を握り締める。

「そんな事言っても…彼は運命を変えられなかった」

「どうかな? 運命なんて誰が決めた。それは後に起こった事の言い訳だ!」

反論する澪に責める様に話す。

その言葉は澪の心に少しずつ痛みをもたらしていった。

「確かに過ぎ去った出来事は変える事ができん。だが、未来は自分の手でいくらでも創り返る事ができる!!」

「なら…あなたが証明するの? 彼の代わりに」

「いいや…変えるのは俺じゃない」

その言葉に首を傾げて眉を顰める澪。

「得意の検索術で探ってみたらどうだ? 運命を打ち破ろうとする漢の鼓動を」





・・・



体は動かない。

目も開いているのか閉じているのか分からない。

(暗い…ここはどこだ?)



―封印の中…自分の精神世界って所だ―

(誰だ?)

質問するとそれに答えるように闇の置くから歩いてくる人影が現れた。

(お前!?)

―こうなるって戦ってる時に言っただろう。馬鹿が―

(随分会わないうちにムカつくヤツになったな)

―何年前の話だよ―

その言葉で昔を思い出すように二人は黙り込み、暫らくの沈黙の後再び話し出す。

―満足か? そんなのに成ってまで自分勝手に動きたかったのか?―

(満足してる訳無いだろうが!! 俺はまだアイツに何もしていないんだからな!!)

―それで逆らい続けるつもりか?―

(ああ、お前のようなヤツには分からねえだろうが…俺はこんなところで止まるつもりは無い!)

八雲の答えに本当に呆れたように溜息を吐く。

―全く…自分勝手な所は相変わらずか―

(そんな勝手やった事ねぇよ)

―…もういい、さっさと行け―

(っは?)

―気付かなかったのか? この結界、もう亀裂が出来てるぞ―

(なっマジか!?)

―後はお前の霊力が決壊を壊せるかどうかだ―

それだけ言うと津雲は背を向けて歩き出す。

(おい待て、どういうつもりだ?)

―こっちはどうでも良いんだけど…アイツがな―

(だからどういう事だよ)

再三の質問に津雲はようやく足を止めて振り返る。

―言っておくけど…あの娘は返せない。それだけは伝えとく―

(なっ何なんだよ、それ!?)

―取り戻したいんなら自分でやれって事だろ…じゃぁな―

(お、おいコラ手前!)

八雲は真意を問い質そうと罵声を上げるが、津雲はそれ以上答える事無く闇の中へ消えていった。

(あ…あ・の・く・そ・や・ろォォオオオオオ!!!!)





      ビキィ!!





・・・



「うそ…?」

予想外の事態に思わず声がこぼれてしまった澪。

本当に驚いたような表情をして、頭の獣耳を動かして八雲の力を探り続ける。

有り得ないと思っていた。だから、自分の気の迷いかとも思い八雲の力を再度探ってみた。

彼女の脳裏には卵の殻を破ろうとする雛鳥の様に、躯に張り巡らされた結界がひび割れていく様子が映し出されていた。





・・・



―ピ…ピキ……キ…キキ…ビキィ!!―

身体を覆う翼の結界が次々とひび割れ、その傷跡が増える度に身体も小刻みに動く。

彼は背中にある一筋の亀裂から、まるで蛹から蝶に羽化するように中から殻を打ち破ろうと力を込める。



『ぅ……ぅ…ぅぅうぉおおオオオオオオオオアアアア!!!』

―ビキ…ビキビキビキビキ…!!―

―バキィィイイイイイイイイイイン!!―



身体を覆う殻を振り払うように、彼は縛めの結界を打ち破った。

全身を覆っていた殻は振り払われ、粉々に砕け散って辺りに飛び散っていく。

「ゼェ…ハァッハァ…ハァ…ッハッハ…」

荒く息を吐いて地面に肩膝をつく。

結界を破るのにかなり体力を消耗したらしく、元の人間の姿に戻り大量の汗が滴り落ちる。

暫らくその場に留まり息を整えていく。

そして、呼吸が整ってくると大きく息を吸って深呼吸を行なう。

「―――ハァ〜…」

二度ほど感覚を縮めながら、深呼吸を繰り返す。

落ち着き、汗も止まり始めたのを自覚するとゆっくり立ち上がり、決意を日また瞳で正面を見据える。

「…行くか」





・・・



「…貴方達ね…手伝ったのは」

「まあな。この後色々と面倒な事が起こりそうなんで、その保険だ」

「余計な事しないで!」

一般の人より小さいが、明らかに怒りを込めて叫ぶ澪。

その事に若干驚きながらも斉藤は油断無く身構える。

「貴方達を殺してでもあの娘を連れて行く」

「盲目したな」

斉藤の言葉に怪訝な表情をする澪。

「その目当ての娘はすでに安全な場所に連れている」

「…!!」

そこでようやく澪は周りを見渡し、水鳥と天羽がいない事に気付く。どうやら先程の会話の間に連れて行かれたらしい。

僅かに苦々しい表情をすると、斉藤に向き直る。

「そこまで表情を変える所を見れるとは、少し得した気分だ」

「…ふざけるのも其処までにして」

怒気を含めて武器を斉藤に向け、身体から気がたぎり、黒い煙の様なオーラが立ち上る。

それに対しても斉藤は気にした様子を見せず、不適に腰に手を当てて掛かって来いと言わんばかりの態度だ。

二人の間で沈黙が訪れ、嫌に重たい空気が場を支配する。

「ギギー! 何をしている女!!」

「っち」

「…あなた達」

破壊されている扉から身体の一部一部が機械化された鹿の様な異形の怪物が二人に近付いていく。

後に続いて次々と異形の姿をした怪物達が暗い広間に入り込み、扉を塞ぐように立ち並ぶ。

それを待ってから鹿の姿をした怪人が一歩前に出て澪に顔を向ける。

「例の女は手に入ったのか?」

その問いに先程と変わって、澪は無表情になり冷めた眼を斉藤と鹿怪人に交互に向ける。

そして、足を一歩後ろに下げて振り返り、怪人達に向かって歩いて行く。

「…邪魔者がいるから…片付けといて」

それだけ言って澪は壁を作っている怪人達を無視して真っ直ぐ歩いてく。

怪人達は少々困惑しながら道を空けて澪の姿を見送るが、澪は一度も振り返る事無くその場から去っていった。

「さて…と」

斉藤が呟き、それに反応して怪人達が振り返りながら戦闘態勢を取る。

怪人達の姿勢とは違い、斉藤は余裕綽々といった様子で怪人達を見渡す。

「キサマが何者か知らんが…我々の邪魔をするなら死んでもらう」

「在り来たりなセリフだな…もうちょっと気の利いたことは言えないのか?」

「ふん。その減らず口がいつまで続くかな」

一触即発な空気が生まれ、双方一歩ずつ歩み寄っていく。

その時、遠くから何かの音が近付いてくるのが聞き取れた。

「何だこの音は?」

「来たか」

何事かと辺りを見渡す怪人達。斉藤の方は予想が付いているのか笑みを浮かべている様に見える。

直後、激しい轟音を響かせて壁が砕け散り、そこから一つの影が飛び出してくる。

「ヌォオオ!?」

影は怪人達を数対弾き飛ばし、集団から離れると急ターンして怪人達に向き直り止る。

「何者だ!」

「…殻から生まれた愛の戦士って所かな?」

おどけた調子で話す乱入者。

それは、愛する者を護る為に暗き闇より蘇えった戦士、愛機のハリケーンヴォルフに跨った仮面ライダーセル。

その姿は黒い強化皮膚に深緑の装甲をした両肩、両腕、両足。そして胸に銀色の宝玉のついた金色のボディアーマー。頭の中心には赤いラインに中心に小さな宝玉が填め込まれ、その金色の鋭い刃の様な二本角を持ち、緑色の丸く大きな瞳をした黒い仮面。腹部のベルト中心部の宝玉は、全体から明るい緑色の輝きを放っていた。

「彼女を返してもらうぜ」

この場にいる者の姿からして味方ではないと判断したセルはバイクから降りて構える。

そこで視線の先、自分が破壊した壁の方の地面からノッソリと起き上がる影を捉えた。

「と…とんでもない登場を咬ましてくれたな」

「お前は…さ……さ…」

セルは指を震わせながら、ゾンビのように起き上がった斉藤を指差す。

「佐野くんか!?」

「斉藤だ!!」

どうやら斉藤は立ち居地が悪く、先程のセルが突貫した際に怪人共々轢かれていたようだ。

当のセルは斉藤の事をすっかり忘れていたらしい。

「まあ良い、お前達どっちも来るのが遅かったな」

「なに?」

「どういう事だ!」

斉藤の言葉にセルと怪人達は驚きの声を上げる。

「お前達が求めている少女は、すでに安全な場所へ避難させた。ここにはもう何も無い」

「ならば貴様の口から聞き出せば良い事だ」

鹿怪人が周りの者を代表して口を開く。セルもその意見に賛同しており、その場にいる全員が斉藤に攻撃を加えようと身構える。

「俺はあの娘を守護する事を決めた。そう簡単にはいかんぞ」

「おい、ちょっと待て! 水鳥を狙っておいてよくそんな事が言えるな!!」

「事情が変わったんだ。今の俺はあの娘の守護者(ガーディアン)だ」

「そちらの事情は知らんが、両方とも死ぬがいい!!」

斉藤とセルの口論に構わず、鹿怪人は腕を大きく振って他の怪人に攻撃の合図を伝える。

怪人達は待ってましたとばかりに走り出し、斉藤とセルに襲い掛かっていく。

「この程度の相手で!!」

「邪魔すんじゃねぇ!!」

拳に自身の眼、宝玉と同じ色をした力を込めた一撃を叩き込む二人。

二人に襲い掛かっていった怪人達は一方は大きく上体を伸ばし、一方は錐揉み回転しながら吹き飛ぶ。

「っく、怯むな! たかが二人に我等が負ける筈がない!!」

一瞬怯んで足の止まった集団に鹿怪人が叫んで活を入れる。

「死ねい! 愚かな選択をした者め!」

「なにが愚かだ!! 俺は水鳥を助けるだけだぁ!!」

セルの咆哮と共に胸の月光石が強く輝きを放ち、身体全体に力を漲らせていく。

湧きあがる力を解放するように怪人達を殴り、蹴り、掴み投げ、また蹴り飛ばす!

斉藤も襲い掛かってくる怪人達を徒手空拳を活用して怪人達を突き貫き、払い、引っ掻き、引き裂く!!

「おい、お前の名前は!」

「俺か? 俺は仮面ライダーセルだ!」

「違う! 人の時の名前だ!」

「男には名乗りたくないんだが…八雲…大空寺八雲だ!!」

迫り来る怪人達を叩きのめしながら、親指を立てて自分を指差すセル。

斉藤も突進してきた怪人を避け、回し蹴りで蹴り飛ばしセルに顔をセルに向ける。

「大空寺! あの娘は俺の仲間が保護している。自分で護りたかったら生きてここを突破しろ!!」

「あ? どういう意味だ!?」

「こういう意味だ!!」

セルの言葉に答えると斉藤は駆け出し、拳を大きく振り上げて近くの壁に向かって思い切り突き出した。

突き出された拳は壁を突き破り、斉藤はそこに自身の霊力を注ぎ込んでいく。

すると、コンピュータにデータが流れるかのように壁に青い線が流れていった。

線が壁全体に流れていったと思った次の瞬間、激しい揺れが部屋全体…いや、山全体に沸き起こった。

「な、なんだぁ!?」

「ここはもう直ぐ崩壊する! 脱出しないと生き埋めだぞ!!」

「ナニィ!?」

「な、マジかよ!?」

斉藤の言葉と大きな揺れに驚き、慌てるセルと怪人集団。

その反応を見ようともせずに斉藤は出口へと向かって走っていった。

「あ、テメエ待ちやがれ!!」

「っく、ヤツを追うぞ! 第2小隊のものはそこのヤツを殺しておけ!!」

「邪魔だぁあああああ!!」

命の危険に晒される命令に全く抵抗せずに従い、怪人達はセルに組みかかって行った。

セルはすぐさま反撃するがその間にも揺れは大きくなり、屋根が崩れて小さな土砂崩れも起きる。

「俺はこんな所で…死ねないんだぁあああああ!!」





この日、巨大な地震により一つの山が崩壊した。





・・・



<コレデ天ノ封印ハ護ラレタ…ダガ、代ワリニ地ノ封印ガ解ケルカ>

闇の中、蝋燭の様に小さな炎が空中に留まり点滅する。

その近くには何の光にも照らされることも無く佇んでいる、漆黒色をした一本の大樹がある。

<数千年ノ時ヲ堺ニ繰リ返サレル戦イ…今世紀ハコレマデヲ上回ルモノト成ルダロウ>

≪だが…それを運命と諦めるつもりは無い≫

何かが小さな炎に語り掛ける。がそこには小さな炎以外には何も無い。

その声は炎の意識が生み出した幻聴なのか、それとも別の要因なのかは当事者にしか分からない。

<貴行ノ想イト螺旋ノ繋ガリ…結果ハ解リ切ッテイル>

≪確かに螺旋には終わりが無い…けど、それは人の想いも同じだ。どれだけ時が経ってもその想いは誰かに受け継がれていく≫

そこで会話は終わり辺りが沈黙。徐々に小さな炎は消えていきやがて完全に消滅する。

最初からそこには何も無かったかのように、静寂が辺りを包み込む。

残っているのは重く佇む漆黒の大樹。



暫らくして大樹の周りの壁の一部、三方から一つ一つ小さな光が浮かび上がる

それらの光は徐々に水が流れるように、何かの文字の様な形を作っていった。

そこに映し出されたのは三つの文字。

天…地…人。

文字が浮かび上がった瞬間、中から何かが生まれるかのように大樹が大きく脈動した。





・・・

―人―



とある商店街。

その一角で一人の少年が怪訝な表情をしながら、今にも雨が降り出しそうな空を見上げている。

「ユー君、どうかしたの?」

「あ、いや…雨が降りそうだなと思って」

「ホントだ、嫌な天気だよね〜」

二人が空を見上げた先には、暗く重量感のある分厚い雲が覆っていた。

風が二人の髪を揺らし、雲の間からは時々光が浮かび上がり轟音を響かせる。

それは、まるで何かを知らせようとしているかのようだった。





・・・

―地―



同時刻、どこかの病院。

その一室で一人の少年と少女が窓の外を眺めている。

外は気が大きく揺れるほど風が強く、空は暗く重たい雲に覆われて今にも雨が降りさしてきそうだった。

「なんだか嫌な天気ですね」

「うん、そうだね。もしかしたら…嵐が、来るのかもしれない」

少年の言葉を待っていたかのように、ポツポツと雨粒が病室の窓を濡らし始めた。

風も強まり、窓から見える外の木々もその身を大きく揺らしていった。





・・・

―天―

制縛が集まっていた山が崩壊してから数日後。

「よっと」

登山にでも出掛けるのかという程大きいリュックサックをバイク後部に乗せる。

その時、海から穏やかな風が吹いて彼の頬を撫でる。振り向いた先では、海が太陽の光を反射して美しく輝いていた。

「準備は整ったのか?」

「ああ、後は泊まる場所だが…それはその時考えるよ」

八雲の言葉に和尚は「そうか」と答えて一つの封筒を差し出す。

「選別じゃ、持ってけ」

「金か? サンキュー、ありがたく貰っていくよ」

「嫌にアッサリしとるのはツッコまんが…行く当てはあるのか?」

「まったく無い!!」

硬く握り拳を作り、胸を張って答える八雲。その様子に和尚は呆れて溜息を吐く。

行く当ては無い。山の崩壊から逃れて少し経ったが、あれ以降奴等がどうなったのかは分からず仕舞いだ。

山の崩壊に国の機関が調査に訪れたが、あそこでの戦いに関する情報が出る事は無かった。

「北じゃ」

「ん?」

「ワシの古式占いだと、北に運命を左右しかねん程の何かがあると出た」

「ふーん。当てにならないと思うけど、闇雲に探すよりは良いかもね」

そう言って軽く微笑み、バイクに跨りエンジンを掛ける。

「じゃ、行ってくる!」

「おう。学校には上手く言ってあるから帰って来んでも良いぞ」

和尚の言葉に苦笑しながら親指を立てて答え、バイクを一気に発進させる。

水鳥を狙った奴等、それと敵対していた謎の怪人達。

自分の変化もそうだが、もしかしたら世界規模で何かが起こっているのかもしれない。

と、考えてみたが今はどうでもいい事だと八雲は思う。

今は大切な人を取り戻す。ただそれだけだ。























叶わなかった誓い。

けれど、それはまだ果たせない誓いではない。

制縛と敵対していた組織。

闇の中で浮かんだ文字。

それは何を意味するのか?

今後、彼が進む道には何が待ち受けているのだろうか?

何かが確実に動き始めている。

それが如何なるものなのか。

それは誰も知らない。

それでも人は突き進む。

己の信じた道をひたすらに。

















仮面ライダー

LEGEND・BLOCKADE

旅立ち編

「暗躍の裏…誓いと旅立ち」

Close.

NEXT/STAGE

MaskedRaider

Cross Story

The

LEGEND SMASHER




Coming Soon!!



あとがき



ようやく一段落着いた。って良く分からない閉め方だな自分。

駄目だなぁ〜。やっぱり適度に収めないと自分の首絞めるだけだね。

もう一杯一杯。

ちなみに言っておきますが、八雲の戦いはこれで終わりではありません。他で出ます。

出るにしても結構後になるかと思います。このまま続けようかと思った時もありましたが、半予定通りここで区切ります。

色々出てきた組織とかもストーリーの中で度々出しますが、競演までにはやっぱり時間掛かります。

ストーリーの前に今後文章減らして如何に解りやすくするか。それを課題にしてスマッシュを進めようと思っています。

と言うか、これを終わらさないとスマッシュに集中出来ませんでした。

相変わらず中途半端な文ですが、この辺りで閉めに入りたいと思います。

最後まで読んでくれた皆様、掲載してくださった管理人様。

本当にありがとうございます。

これからもお付き合い戴けたら幸いです。

それでは。

作者より。

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース