それは…数年前のことだった。
「じゃ、おれはコイツを使うからおまえはそっちな」
「ん…」
とある家庭に、二人の兄弟がいた。
その二人は、普通の家庭にいる兄弟だった。






「…!!」
「泣くなよ。わるかったって…ほらコイツの場合これがあっただろ?」
二人は取り立てて仲が良くも悪くも無い、兄弟だった。
比較的優しい両親に育てられて育っていた。
だが、いつしか二人は離れ離れになっていた。
なぜそうなったのか。
本人達には分からなかった。



二人が再びであった時。
それは、対決の時だった。
圧倒的な力の差を見せ付けられて。
彼は血の繋がりのある家族の存在に気付いた。
それが、今後どんな運命を呼ぶのか。
それは誰にも解らない。















仮面ライダー

LEGENDBLOCKADE

終編

「崩壊の序曲」













守りたいものがあった…守ると自分自身にも誓った。
それなのに…守れなかった。
彼女の手が離れていく。それを繋ぎ止める事の出来無い自分が不甲斐なかった。
「うっ…ぐ…!!」
必死に伸ばそうとする腕は動かなくて、彼女が闇の中へと連れ浚われていく。
不意に彼女が後ろを振り向いた。
次の瞬間、炎の嵐が沸き上がり辺り一面を焼き尽くしていった。
炎は全てを飲み込み、全てを多い尽くしていく。
闇も…自分の体も…彼女の姿さえも……


「み…ど・りぃいいいいいい!!?」
飛び跳ねるように八雲は仰向けになっていた体を起こす。
大量の汗を書きながら、彼は荒い息を吐いて周囲を見渡す。
「ここは…俺の家?」
息が落ち着いてきて、自分の今現在の状況が分かってきた。
どうやら自分が住んでいる寺の自室の布団で寝かされていたようだ。しかもご丁寧に寝巻きに着替えさせられている。
だが、自分は昨日山の方で戦って敗れ、気絶していた筈なのに一体誰が?
もしかしたら、自分が敗れた事も夢だったのではないかと思えてくる。
「ぐっぁあ!? っく!!」
体を動かそうとした瞬間、左肩口から腹部にかけて電撃が通るように激しい痛みを感じた。
この痛みから自分の大切なものがさらわれた事が夢ではなく現実だと示している。
痛みに身をよじるが、それが返って身体全体に痛みをもたらしていく。
「……く…っぅ…ぐうぅぅぅ!!!」
「…なにを騒いどるのだ馬鹿者」
「ぉ…しょう…?」
声のした方に顔を向けると八雲の育ての親である和尚が、食器を載せたおぼんを持って立っていた。
あまりの痛みで和尚が近づいていた事も気付かなかったらしい。
「三日間も寝てボケたか?」
「みっ!?」
和尚が発した言葉に驚きを隠せない八雲。
水鳥が連れ去られてからそれ程時間が経っているとは正直認めたくなかった。
それだけ時間が経って水鳥が無事でいられるのか気が気でないし、自身の怪我の状態も相まって少し頭が混乱している感じだ。
八雲の顔つきの変化を感じ取った和尚は深く溜息をついて、神妙な顔つきで八雲を見据える。
「遅くなったら探してくれと言った矢先に…お前はなにをやらかしとった?」
「…別に」
八雲は和尚には自分の闘いの事は話していない。だからと言う訳でもないが、そっぽを向いて答えない事に決める。
和尚はおぼんを近くにある机に乗せると、づかづかと八雲に近づいて胸倉を掴み挙げる。
「ぃだだただだだたたただだだ!!?」
「お主な…そんな珍妙な怪我をして隠し通せると思うか?」
八雲の苦痛を無視して和尚が呟く。
胸倉を掴み上げた拍子にボタンが幾つか外れて、八雲の肌が垣間見えるようになった。
そこから先日切り裂かれた部分、刃の傷口部分が全て鱗の様に、固型した紫色の羽根に覆いつくされていた。
「…なにがあったか…話してみんか? こういった類の奇怪現象ならお手の物じゃ」
「…分かったよ」
やむを得ずといった感じで八雲は項垂れ、これまでの経緯を話し始めた。


・・・

暗い闇の中、その空間のとある一角に水鳥は閉じ込められていた。
閉じ込められていると言っても特に体を拘束されているわけでもなく、机とイスにベットがある質素な部屋を自由に動けるようだ。
イスに座りながら水鳥は自分の置かれている状況について考えてきた。
なぜ自分がさらわれなければならなかったのか。さらった者は自分をどうするのか。
しかし、最後に思うことは八雲がどうなったのかと言う事だった。
「八雲くん…」
「…心配…か」
ふと漏らした小さな呟きに答える、こちらも小さな声。
それは部屋の外から聞こえ、水鳥を連れ去った戦士、津雲が呟いたものだった。
「…はい」
水鳥を連れ去りこの部屋へ閉じ込めてから、津雲はその監視を命じられて以来、壁に背を預けながら水鳥の話し相手をしていた。
「俺たちは体内に魔の力を宿している分、変身してなくても人より頑丈で治癒も早い。あれなら多分何日かすれば治ると思う」
「そうですか」
津雲はただ淡々と話すだけだが、水鳥は連れ去られてから少しでも話をする度に津雲の気遣いと思える優しさを感じ取っていた。
見張りの為だけなら別に話をする必要はないし、彼等にとって自分は忌むべき存在で近くにいるのも嫌な筈。
なのに、彼は自分の気持ちが暗くなると、途切れ途切れに話しをして気を紛らわせてくれる。
「あの…」
「ん?」
「どうして私と話してくれるんですか?」
「煩かったか?」
「そんな事ないです。そうじゃなくて、貴方達にとって私はあまり歓迎されない筈じゃないんですか?」
「まあ、そうだな」
津雲は一旦深く溜息を出して天を仰ぐ。
「ただ…何となく」
そう話す津雲の表情は見る人がいれば、どこか疲れたようにも見えただろう。
実際、あまり人と話しをしない為に喉が枯れてきている事もあるが、本当の所津雲は自分自身に問答していた。
ほとんど巻き込まれただけの少女を、これから生贄にする様な行為をする手伝いをしたと言う事。
それをただ命令されたからという理由で正当化しようとしている自分。心の奥からこれで良いのかと尋ねてくる。
今まではただ命令に従う事に疑問など沸かなかった。それにこれまでは人でない者が相手だった為に罪悪感はあまり沸かなかった。
今回は違う。自分と同じ、運に見放されたというべき人間。何も知らない少女が相手なのだ。
「…ありがとう」
「え?」
「何だか…気を使ってくれてるみたいだから」
「…ん」
まさかお礼を言われるとは思わず、津雲は曖昧な返事を返す。
と、そこに長い髪のツインテールヘアをした一人の女性が近づいてきていた。
その人物が近くに来ると津雲は右手を軽く上げて挨拶し、相手も手を挙げて答える。
「封印の儀式が決まったわよ、今日の夜亥の時」
「わかった…なら、それまでここに居るよ」
「気をつけなさいよ…その子もだけど…なにか企んでる奴がいるなら儀式の時を狙うと思うから」
「分かってる」
「ならいいわ。アンタの力は私達の中でも本当に上位にあるし…そんな心配はしてないわ」
そう言うと女性はさっさとその場から立ち去っていく。それを見届けると津雲はその場で腰を下ろす。
「面倒な事になるかな」
呟いて、また深い溜息を吐く。
これから行わなければならない事は、かなり面倒な手順が必要だと自分達を纏める長に聞いている。
それに加えて裏切りだの襲撃だの、あるかどうかも分からない不安要素が出されてはため息も出る。
(まあ、そんなのよりも…一番最初にアイツが来るだろうな)
居場所は知らないだろうと思い、この場所に来るための手段は餞別に渡してきてやった。
なぜ態々自分達に危険を招くような事をしたのか、自分でもよく分からない。
もしかしたら、友人が話していた裏切り者に対する布石のつもりだろうか。騒ぎが大きくなればそれに乗じて現れるとも限らないだろう。
あと自分に出来ることは時間が来るまで、ただ待つだけだ。


・・・

和尚に問い質された八雲は全てを話した。
自分が人外の力を持ち同じ力を持つものが水鳥を狙い、戦って破てしまった事全て。
「なるほど…となると、その体の羽は傷を癒すかさぶたみたいなものか」
「最初に聞くことがそれかよ…ま、ちょっと違うけどそんなもんだ」
八雲は何故こんなものが出ているのか知っていたが、あえて黙っている事にした。
この傷口を塞ぐように現れた羽根は、本来戦うべきでない仲間と戦った事に対する力の戒め…呪いとも言うべきものだった。
彼が変身して制縛と戦い続ければ、いずれ羽根が体中を被い尽くして自身を封印。生ける屍と化すだろう。
それは、遥か昔に施された呪い。魔を滅ぼす為に裏切る事を許さない制縛の掟。
「それで…どうするつもりだ?」
「当然、水鳥を連れ戻すに決まってんだろ!!」
「あっさり負けたのにか?」
「ぐっ…次は負けねぇよ!!」
力の差は重々承知している。けれどこのままじっとしている訳には行かなかった。
たとえ自分の身に何が起ころうと、何もしない方が歯痒く思えるのだから。
「当てはあるのか?」
「うっ…」
言われて八雲は、自分が奴等の本拠地を知らない事に気付く。
その反応を見て、和尚は懐から一枚の札を取り出して八雲に差し出す。
「お主が倒れていた場所にこんなのが落ちていたが…関係ないか?」
「…これは」
差し出された札を手に取ると八雲の脳裏に軽い衝撃が走り、意識が遠くに運ばれるような感覚に見舞われる。
周りの景色が段々と暗くなり、やがて何もない真っ暗な空間が目の前に広がっていく。

『な、なんだ!?』
―オ前ガ、新タナ主カ?―
『なに?』
後ろから話しかけられた事に驚きながら振り向くと、そこには青い炎が毛の様に燃え盛っている狼らしきものが存在していた。
『お前は一体…?』
―我ハ契約二従イシ獣魔…前主、天羽ヨリ貴行ヲ制縛ノ元ヘト導ク命ヲ承ッタ―
『制縛…って、水鳥が連れてかれた場所か!? そこに俺を連れて行ってくれるのか?』
―オ前ガ我ガ主ニナルナラ、我ハソノ命ニ従オウ―
『……分かった。渡りに船だ、お前の主にでも何でもなってやるよ』
―ナラバ我ニ名ヲ授ケヨ…サスレバ我ハ何時如何ナル時モ汝ト共ニ在ロウ―
『名前か…分かった。飛び切りセンス良いのを考えてやるよ』
そう言うと八雲は「うーん」と呻りながら考え始める。
青い炎…炎…爆炎…疾風…獣…僕…狼…
『よし、決めた! お前は今日からハリケーンヴォルフだ!』
―覇理気炎暴流風カ…覇王ノ理ヲ持ツ炎気ノ暴風流…ト言ウ事カ―
「凄い無理があると思うんだが…?」
―契約シヨウ。我、覇理気炎暴流風ハ何時如何ナル敵ヲ前ニシヨウト、汝ト共ニ在リ汝ノ命ニ従ウモノ也―

言葉が終わると八雲の意識が薄れていき、同時に周囲も白く染まっていく。


「どうした? 何か分かったのか?」
「えっ? あ、まあな…」
どうやら時間はそれ程経っていなかったらしい。
手元を見てみると手に持った札が淡い光を放ち、出発を心待ちにしているように見えた。
「和尚…俺行ってくる」
「待たんか」
勢い良く立ち上がろうとした八雲の肩を和尚は右手で掴んで止め、左手で膝裏を引っ張って無理やり座らせる。
「なっなにすんだよ!?」
「落ち着かんか。別に行くなとは言わんが、せめて飯は食っといた方が良いぞ」
「んな暇ねえよ!!」
「八雲」
凄みを利かせた和尚の声に思わずたじろぐ八雲。
「昔から護身術の稽古をしてる時に言っとるだろう。ワシ等大空寺に伝わる武術は、空気の動きに身を合わせるように広大な心を持てと」
「そんな事言いながら良く虐待してくれたよね」
「ほとんどが自分の所為だろうが…教育的指導、愛の鞭じゃ」
和尚はただの寺の住職ではなく武術も嗜んでおり、近くの道場で臨時の指導を行なっている時もある。
その恩恵を受けて八雲も武術のたしなみはあるのだが、ほとんど若さ、今では変身後の怪力に頼った力任せのケンカ殺法だ。
「兎に角、飯を食わねば戦はできん。さあ食え、ほれ食え、とっとと食え」
「あぁもう、分かったよ!」
荒々しく和尚の運んできた食事を食べていく。正直腹の中は空っぽの状態だったので、あっという間に全てを平らげる事ができた。
「おかわり!!」
「行かんのかい!?」
一度食事を口にした事で、空腹感が引き起こされてしまったようだ。
八雲の空腹感が満たされるまで、後数分を要した。


食事も終えて裏手の物置小屋の前でバイクに跨る八雲。首に水鳥に渡された月光石のはまったペンダントを架けてハンドルを握る。
「じゃ、行ってくるぜ」
「うむ、ちゃんと水鳥ちゃんを助け出してくるんだぞ」
「当たり前だよ」
明るい表情で答える八雲。
ヘルメットを被って気を引き締め、ハンドルを強く握り締めてバイクを発進させた。
本堂正面にある木製の扉を出て行った所で札を取り出し、額の所に掲げる。
「憑凱!!」
八雲が念を込めて叫ぶと札が青い炎を発して燃え上がりながら焼き消え、バイク共々八雲を包み込みその姿形を変えていく。
やがて炎から飛び出すとバイクは銀狼を連想させる様な姿、ハリケーンヴォルフに変化し、八雲もまた仮面ライダーセルへと姿を変える。
その姿は生態装甲の目立つ深緑の筋肉の不完全な姿。だが、余程時間が経っていたのか、もう夕闇が辺りを包み込んでいく。
それに合わせる様にセルの姿も徐々に色合いが変わり、胸部が金色のボディアーマーに変化していった。
「行くぞ! ハリケーンヴォルフ!!」
―ヴォオオオオオオオオオン!!―
ハリケーンヴォルフは狼が吼える様に呻りを上げてセルを戦場に導いていく。
(待ってろよ水鳥…今すぐ助けに行くからな!!)


・・・

駆ける…駆ける…駆け抜ける。
人のいない道を駆け抜け、セルは水鳥の誕生日以来度々訪れていた山道を突き進んでいった。
(まさか…この山の中に本拠地があるのか?)
今まで戦いが終わった後に考えなかった訳ではないが、山と言ってもそれ程広いものではなく、一般の人もよく散歩にくる場所に人外の者が集まっているとは思えなかったのだ。
だが、今日この山に入ってから妙に身体がざわめく様な感覚がある事にセルは気付く。
それが何かは彼には分からない。けれど、今の彼にはそれで十分だった。
何の為にこの力を渡したのかは分からない。だが、わざわざ自分から居場所を知らせてくれるならこちらに不都合はない。
一刻も早く愛するものを助けたい。その為には無駄に探し回って時間を喰う訳にはいかなかったのだから。

―主ヨ―
「ん? 今の声は…ハリケーンヴォルフか?」
一瞬、どこから声がしたのか解らず驚いたが、すぐその声に聞き覚えがある事に気付き感心しながら呟く。
どうやら契約したらそれで終わりと言う訳ではなく、幾らかサポートも行なってくれるようだ。
セルの心情に関わらず、鋼の銀狼は自分が知りえた情報を伝え始める。
―我等ガ向カウ場マデ、人外ノ者ガ大多数存在シテイル模様ダ―
「大多数!? ってあいつ等そんなデカイ組織なのか?」
―奴等ト言ウノガ制縛ナラバ間違イダ…コレハ、ソノ者達ト敵対スル勢力ノ一ツダロウ―
「…何かややこしい事になってきたな」
敵を倒し水鳥を救うという面倒な状況に、更に別の組織が現れるとは予想できる訳が無い。
「っと、ちょっと待てよ…」
そこでセルは思案する。
水鳥を連れ去った組織に別の組織が向かっているなら、恐らくそう遅くない内に戦闘が始まるだろう。
上手くいけばその騒ぎに紛れて水鳥を救出する事が出来るかもしれない。
―北西・北北東ノ方向ニテ気、霊力ニ乱レガ発生…戦闘ニ突入シタ模様―
鋼の銀狼が伝える言葉にセルは心の中で笑みを浮かべる。自分が願う通りに事が運べるかもしれないという期待がそこにはあった。
本来なら自分一人で多くの敵を相手にしなければならなかった筈。それが、上手い具合に騒ぎが起こって敵が乱れてくれている。
「渡りに船、棚から牡丹餅とはこの事だな」
これなら上手く往けそうだ。
予想外の事態だが確実に運は自分に向いている。そう思ってセルは高ぶる気を抑えながら、走る速度を上げて山道を走りぬいていく。
だが、彼は誤認していた。

制縛と戦闘を行なっている集団の狙いは制縛ではなく、そこに連れ攫われた水鳥であると、彼は夢にも思わなかった。


・・・

暫らくバイクを走らせていくと、遠めに彼方此方で爆音の様な音が小さく聞こえてくる。
おそらく近くで複数の戦闘が行なわれている事が伺える。
セルは神経を集中して周囲を警戒し、ハンドルを握る手に力を込めていく。
「キー!!」
「オラァ!!」
ドゴォ!!
木の陰から飛び出してきた黒尽くめの相手は、セルに拳を叩き込まれて呻き声を上げる間も無く弾き飛ばされた。
「ちっやっぱり戦闘は避けられないか」
正面を見据えるセルが呟いた先には全身黒尽くめの集団が待ち構えていた。
眼前に見える7〜8人集まった黒尽くめの集団は、その手にライフル銃をセルに向けて構え発砲していく。
瞬時にハンドルを切って迂回して銃撃を避けると、勢い余って木にぶつかりそうになってしまう。
空かさず車体を持ち上げ、木を駆け上がるように車体の方向を集団に向け直して突進していく。
集団はライフルを構えなおすが、発砲する前に鋼の銀狼が中央から突っ込み集団を弾き飛ばしていった。
「雑魚に構ってる暇はねぇんだよ!」
吐き捨てるように叫ぶと更にスピードを上げようと、姿勢を低くし前傾姿勢になってバイクに身を近づける。
「!?」
嫌な気配を感じ、思い切りハンドルを切ってバイクを止める。
ドドドドドドドドドン!!!
直後、目の前の地面に何かが飛来し、連続して爆発を起こす。
「なんだ!?」
腕を振るって煙を払い、何かが飛んで来たであろう正面を見据える。
その視線の先に、決して忘れない、忘れられる筈のない敵がゆっくりと一歩一歩、歩きながら現れる。
「まさか…本当に来るとはな」
「当然だろ…やられたまま黙ってられる程、人は出来てないもんでね」
目の前にはセルと酷似した姿の戦士、天羽が黒い羽を指の隙間に挟んで道を塞ぐように立ち塞がる。
「久しぶりに兄貴に会ったってのに…随分な挨拶してくれたよな」
「こっちは別に兄貴と思ってない」
セルがバイクから降りると、二人はゆっくりと一歩一歩近づいていく。
「…まあ、お前がどう過ごしてたかなんて気にしてないが…この前の落とし前は付けさせてもらうぜ」
「アンタのそういう高圧的な態度も変わらないな」
「今度は負けねえ…」
「昔とは違うんだよ…力の差みたいなのがあった…昔とは…ね」
「…」
それからは言葉を交わす事無く歩み寄っていく。
お互いに後一歩踏み出せば、ぶつかり合うという所で互いに立ち止まる。
「…」
数瞬…互いに睨み合う。
その間に、二人の周りで大量の葉っぱが舞い散っていく。


一つの葉っぱが二人の視界から互いの姿を隠す。


そして…次に互いの姿を確認した瞬間。


それが戦いの合図となった。


『ウォオオオオオオオオオオア!!』

ドグァアアアアアアアアアアアン!!!


互いに足を踏み出し、体重と勢いを込めて繰り出した拳がぶつかり合う!!
力は互角なのか双方腕に強烈な痛みと痺れを感じ取り、お互い押し切るのを諦め少し前屈みになって力を込めて後方へと飛び下がる。
「ハァア…セイ!!」
セルは着地するとすぐに天羽に向かって跳躍して回し蹴りを放つ。が、それは上体を少し動かしただけでかわされ、入れ替わりに天羽が拳を突き出す。それを顔面寸前で拳を掴み逆に空いた拳を突き出すセル。だが、天羽は動じる事無く同じ様に拳を掴んで受け止める。
「…前とは違うな…どういう事だ?」
「クゥォォォオオオオオオオ!!」
いぶかしむ天羽に対し、セルは獣の様な気迫を見せて押し切ろうとする。
力を込めていくセルの瞳が最初の頃の様に若干黒に近い紫色の輝きを発していく。
「そうか…魔の力を解放して月の欠けた分の力を埋めようとしたのか…馬鹿な奴だ…な!」
呆れたように呟き、足を一歩引いてセルのバランスを崩して前のめりにさせ、そこに膝蹴りを喰らわせる。
「ぐっ!…ぉぉおオオオ!!」
後方によろけたセルは更に後方に跳躍し、一本の木を足蹴にして三角飛びの要領で飛び上がり天羽に蹴りを突き出していく。
「丑・辰・未・戌・子・卵・亥・寅!!」
天羽が言霊を唱えながら指で立て横斜めと印を切り、全ての工程が終わると額の角が紫色の放電現象を起こし、正真正銘の雷となってセルに襲い掛かる。
ヴァヂヂヂヂヂヂヂチチチチィ!!
「グァアアアアアアアア!!!」
セルの体をヘビが絡め取るように雷が空中で静止させ、激痛を与えていく。
「ぅオオオオオオオ!!」
セルは精神をベルトの左右両腰に集中させ、両手をそこに叩きつける。すると、光の輪が現れ肥大化、高速回転してチャクラムのように空中を動き雷を断ち切って天羽へと向かっていく。
「午・酉・辰・亥・寅・辰・午!!」
天羽は再び言霊を唱え、印を切って黒い羽を人差し指と中指で挟んで口元に持っていき、振り払うように口から手を離し息を吐き出す。
すると、火炎放射器から放たれた様な、ドッチボールより若干大きめの炎の玉が飛び出し二つの光の輪と激突、激しい爆発が舞い起こる。
「くゥオオオオオオオオオ!!」
「ふん!」
セルは腹部に力を込めて三日月形のエネルギーを作り出してそれを日本刀の様な武器に具現化させ、天羽は腕を横なぎに振るって蛇腹状の剣を作り出し構え駆け出す。
「オァアアアアアアアア!!」
ガキィイイイイイン!!
ガキッギ…ギチギチギチギチギチギチ!!
互いの剣が鬩ぎ合い火花が散る。
二人の気迫によるものか、はたまた単純に風が吹いたのか。多くの葉と土煙が二人を中心に渦巻いていく。
その間、徐々に呪いが働きだしているのかセルの腕が徐々に紫色の羽根、鱗に侵食されていくのが見える。
「…そんな力で…そんな力で何か変えられると思ってるのか?」
「ああ!?」
「昔からそうだが…やっぱりアンタは口先だけだ!!」
言いつつ天羽は更に詰め寄り、セルの腹部に膝蹴りを見舞う。
「グゥッ!?」
堪らず呻き声を上げながらセルは後ずさり片膝をつく。
「人を助けるなんて変化があったかと思ったけど…口から出ただけの言葉か」
「なに?」
「本当に心から大切に思ってるなら…そんな戦い方しないだろ」
「どういう意味だ…」
「昔から自信家なアンタらしい戦い方だ…あの人と付き合ってたのも…ただ優越感に浸りたかっただけじゃないのか?」
「違う…俺はそんな理由で水鳥を助けるんじゃない」
「どうだかな!」
強く言い放つと同時に蛇腹剣の付いた腕を垂直に振り下ろす天羽。
ガキッ!!
「!?」
「俺が…俺が水鳥を助けたいのは…!」
セルは振り下ろされた剣を左手で掴み、握り潰さんばかりに力を込めていく。
「アイツが俺を好きでいてくれて…俺が…俺がアイツを好きだからだ!!」
キィィイイイイイイイイイイン!!
「なんだ! この光は!?」
突然セルの胸元が目映く輝きだし、同時にセルの瞳も元の綺麗な緑色へと変わっていく。
同じ様にベルトのも満月の時と同じく、満月の様な輝きを取り戻していった。
セル自身も知らなかった事だが、この光は月光石が今まで蓄えていた月の光を開放しているものだった。
首に下げていた月光石が変身した時に体と融合し、セルの強い意思に反応して輝きだしたのだ。
「アアア!!」
「グッ!?」
セルが突き出した拳が天羽の身体に打ち込まれ、大きく吹き飛んでいった。
「だから、俺はお前なんかに手間取ってる暇はないんだ!」
「良いのか? このままだと…あと少しもすればアンタは只の石像になる」
「構うか!!」
「…そうか」
腕を振り払って答えるセルに天羽は静かに答え立ち上がり、腕を横に伸ばす感じで剣を構える。
セルも握り拳を作ってエネルギーを拳に貯めていく。それに比例するかのように、身体が羽根の鱗に侵食されていく。
その速さは今までの比ではない。恐らく長くは持たないだろう。
(一撃で決めるしかない!!)
セルは焦りから、天羽はセルの気迫から互いに一撃で決着をつけようと出方を伺う。
ジリジリと、僅かにすり足で動きながら二人は互いの隙を伺った。
そして、決着を付ける為に互いが同時に動き出した。
「ゥウオオオオオオオオオオオオ!!」
「ァアアアアアアアアアアアアア!!」
ガキッ!
バギィイイイイン!!
緑色に輝く拳と蛇腹剣が激しい音を出してぶつかり合う。
そして、突き出された拳は…
「グフッ!?」
蛇腹剣を真っ二つに叩き折り、天羽の腹部に深く突き刺さる!!
「ぉおアアア!!」
セルがドッシリと腰を低く構え、更に拳を押し込んでいく。
グンッという音が鳴ったような気がした瞬間、天羽の身体がくの字に折れ曲がって大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
セルは荒い息を吐き出しながら拳を降ろして呟く。
「俺は…ここで止まる訳には……いかないんだ」
天羽が立ち上がらないと判断すると、セルは危うい足取りで愛機の元へ歩いて行く。
その背中は全て紫の鱗に覆われ、本当に羽根が生えている様に見えるほどに広がっていた。
「行くぞ…ハリケーンヴォルフ」
短く呟き、セルは思い体を支えるように鋼の銀狼のハンドルを掴んで一気に走らせる。
その様子を天羽は倒れたまま、横目で見ながら見送った。
「…何をやっているんだか」
それはセルに対しての言葉だったのか、それとも自分に対するものだったのか。
自分自身も判断する事ができない言葉を、天羽は思わず仰向けのまま呟いていた。


・・・

セルは鋼の銀狼が導くままに巧妙に隠された洞穴へと突入し、そこにいる異形の異形の怪人達をも蹴散らしていった。
そして、洞穴に入ってからまた暫らく走っていくと、妙に拓けた空間に辿り着く。
そこの中心部の地面には、大きな魔方陣、形的には八方陣と呼ばれる光の線が輝いていた。
「ここは…どういう場所なんだ?」
セルが呟くと八方陣の中央に勾玉が重なったるように線が追加され、その上に青黒い炎の光球が現れる。
―キタカ…封月―
「テメエが親玉か…」
正面から炎の光球を見据え、威圧するように一歩踏み出す。
「水鳥を何所にやった?」
―…少々予定ヲ変更サセネバナラナクナッタ―
「誰もテメエの予定なんて聞いてないんだよ!! 水鳥をどこにやったって聞いてるんだ!!」
炎の光球は食って掛かるセルの言葉には全く耳を貸さず、ただ淡々と自分の意思のみを伝える。
―御前ノ行動ガ、功ト成スカ成ラナイカ…確カメテヤロウ―
その瞬間、青い炎の光球が物凄い勢いでセルに突進していく。
その動きに反応できず、セルはまともに炎の光球にぶつかり、全身が黒い炎に包まれていった。
「ぐぉおおおおおおおお!!?」
炎に包まれるとそれに反応したのか、羽根状の鱗が凄まじい勢いでセルの体を侵食していく。
鱗が覆いつくしていく部分から徐々に体の動きが鈍くなり、やがて全く動けなくなってしまう。
―運命ニ抗ウナラバ…コノ呪詛ヲ経チ切ッテミセヨ―
「ぐっ…く……!」
自分の身に起こった異変に驚きながら、為す術も無く…セルの身体は紫の鱗に覆いつくされてしまった。
―コノ呪ハ長キニ渡ル運命ノ鎖…ソレヲ絶チ切レネバ貴様ハ鎖ニ絡ミ捕ラレ、夢幻ノ闇ヘト堕チルダロウ―
動かない身体。薄れ行く視界。ざわめく心。
(み…ど……――――――)
やがて、完全に一個の物質と化した彼の意識は深い闇へと呑まれていった。











辿り着いても想いが遂げられるとは限らない。
例え必死に行動しても、それが実るとは限らない。
何をしても、何を求めても、その答えは変わらない。
結果が答えたものが、何時も幸せとは限らない。
それでも、何かをしなければ何も変わらない。
彼はそれを解っている。
それ故に今も抗っている。
けれど、宿命は彼を縛りつけ、その身を閉じ込める。

彼が戦うべきは別の者。
守るべき人も其処に居る。
全てを知り得ぬまま、運命に翻弄されたまま。
少年は闇へと飲み込まれてしまうのか?
全ては事が終わるまで分からない。








仮面ライダー

LEGENDBLOCKADE

終編

「崩壊の序曲」

Close.

NEXT/STAGE

旅立ち編

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