それは突然の事だった。
それは私達の知らない事だった。
けれど、彼らは知っていた。




遥か昔、多くの力を持つ者達がいた。
その者達に野心は無かった。
その気持ちに偽りはなかった。
けれど、その力がその者達の平穏を打ち砕いた。
過ぎた力は人々を恐怖させ、その者達を追いやった。
それが宿命だったのかは分からない。
だが、人の心は表裏一体。
遥か昔恐れられた力を利用しようと企む者が現れ始める。
巻き込まれるのは何も知らない者。
知る者は己の罪を黙認して正義を語る。
代償など関係なく
後に、深い悲しみを生み出す事を知りながら。



それは、幾千の時を経ても変わる事はなかった。
その思いは、遺志に関係なく世界に影響を与えていた。
それは誰にも知られず、止める事の出来ない歯車となって動き続ける。
そして、人は気付かぬ内に同じ様に動き続けている。
流れに翻弄されるように。
















仮面ライダー
LEGENDBLOCKADE
後編
「漆黒の闇」













ザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!
「ウォォォオオオオオオ!!」
「フゥヌウゥゥゥゥゥ!!」
今宵は三日月、いや、それとは逆向きの二十六夜と呼ばれる夜。
人気の無い夜の山の獣道を、二体の異形の戦士が組み合いながら駆け抜けていく。
その内、緑色の戦士…に変身した八雲。
もう片方は、緑色の戦士と酷似した姿に深く黒に近い灰色をした身体と山羊の様な角を持った異形の戦士。
二人は組み合い回転しながら走る。
「いい加減、あの娘を庇うのは止めろ!! 新月!!」
俺はそんな名前じゃねぇっつってんだろ!!」
ブゥン!! グイッ! バキィ!!
一際回転を付けて相手のバランスを崩し、八雲はそのまま力任せに引っ張って拳を叩き込む。
「くっ! やる!!」
相手も一瞬怯むが、すぐに体制を整えて反撃してくる。
拳の連打に今度は八雲が攻めあぐねて後方に下がる。その隙に山羊角の戦士は片手で印を作って構えを取った。
「我、内に住まう魔に求むは呪の行使! その力、我が角に宿り悪鬼を貫く槍と成り、敵追い射抜け!!」
呪文を唱え終わると山羊角の戦士の角が高速で伸び、八雲に襲い掛かっていく。
「くっ!!」
ダンッ!!
真っ直ぐ伸びた角を横に動いてかわし、八雲は飛び蹴りを突き出す。
ガキィッ!
「ヌゥ!!」
山羊角の戦士は跳び蹴りを角で受け止め八雲を弾き飛ばす。
着地しながら八雲は一抹の焦りを感じていた。
(くっそ…やっぱり力が落ちてやがる!!)
初めて戦った時より力が出ない事を感じ取り、早期決着を付ける為に腹部に力を溜める。だが、腹部にあるベルトは半分以上輝きが失せており、力を込めても三日月形に輝かせるのが精一杯のようだ。
「ウォオオオオオオオオオオアア!!」
それでも力を込める様に両腕を頭の上で交差させて再び勢い良く腰に落とすと、三日月形に輝く宝玉から同形の緑色のエネルギー刃が現れ左脇側で静止。それを抜刀する様に構え、引き抜くように指先でエネルギーをなぞっていく。その動きに合わせるようにエネルギー刃はさらに濃い緑色の輝きを放ち、右手が前に置かれるとそれを追う様にエネルギーの刃も前面に移動する。
『激・天・光・陣…封滅刃ァアアアアアアア!!』
そして、刃が前に来た所で両拳を右腰に持ってきて構え、一気に押し出してエネルギー刃を打ち出す。
「ぬぅん!!」
ギィン! バシュゥウウ!!
山羊角の戦士はそれも角で叩き落とそうとしたが、逆にエネルギー刃によって切り裂かれ、身体に光の刃の直撃を受ける。
「ぐ…ぉお!?」
山羊角の戦士が苦悶の声を上げ、その身体に緑光の切り傷から封に近い印字が浮かび上がり動きを封じる。
八雲は一気に駆け出しながら右手を手刀の形に伸ばし構える。すると、手刀にした手が緑色の光に包まれ剣の様な鋭さを表す。
「ウオオオオオオオオオ…ラァ!!」
斬!
 緑色の閃光となった右手が光刃の跡をなぞる様に振り降ろされ山羊角の戦士を切り裂く!!
その傷口からは封の印字と重なる様に刃の印字が浮かび上がる。
「何故…あ・の娘は…」
「!?」
ドッグオオオオオオオオォォーーーーーン!!
山羊角の戦士が何か言い終わる前に凄まじい轟音が轟き光の柱が空に向かって立ち上る。
「…クソッ!!」
バキィ!
爆発の名残を見ながら八雲は近くの木を叩く。人外の力で叩かれた木は幾らか身を砕かれる。
ここ数日、八雲は水鳥を護る為に戦ってきた。だが、その全ての相手から何の情報も聞き出せない。
(アイツ等はどうして水鳥を襲うんだ? それに…ここ数日最初の時より力が出せない)
日を追う毎に少しずつだが力が衰えている。
そして自分の体に表れる異常。
その事に対する焦り、そして胸中に渦巻く妙な不安が彼を苛立たせる。


・・・

闇の中、黒に近い色とりどりの鳥居が円形に並ぶ空間。
だが、そこにある鳥居は最初の頃より数が大きく減り、同じくその場に集まっていた人影も大分数が減っている。
その事に気付きながら如月津雲は数日前に主のいなくなった鳥居を眺める。
『大分数が減ったわね』
『そうだな』
他の人陰が淡々と話を始める。だが、そこには特に何も感じていないような話し方をするものばかりだ。
津雲は他の人影の言葉を聞きながら友人の言葉を思い出す。
―誰かは知らないが他の組織と内通しているやつがいる―
斉藤の言っていた言葉が現実味を帯びてきたと実感する。
裏切り者の封月と戦いに行った者以外に、他の組織を調査しに行った者達が最近になって急激に姿を消しているのだ。
周りの鳥居が消える事がその物の命、または力の消失を知らせている。最近になってようやく内部に裏切り者がいるのではないかと危惧されるようになったが、元から纏まりのない集団だけに調査は難航しているらしい。
何人かが内部調査を行っていたようだが、その後の事は知らないしあまり興味もない。漠然と不安に思うがその時はそのときだ。自分は命令に従う事に徹しよう。そう思い寝転がろうとした所で中央にある青白い炎の光球が一際燃え上がる。
―≪闇羽ハイルカ?≫―
『はいはい…今度は何の御用ですか?』
闇の中から響く声に青黒い鳥居の上に座っている人影がだるそうに答える。
―≪封月ハモウドウデモ良イ…アノ翼ノ継者ヲ連レテクルノダ≫―
『封月はどうでも良い?』
その言葉に闇の中にいる人影達は疑問の視線を光球に向ける。だが、長はそれ以上何も言わない。
『分かりましたよ…けど実行は新月になるまで待っていただけませんか?』
―≪構ワン…ガ、ソレホド有余ハ無イ≫―
「分かってますよ」
そう言うと闇羽と呼ばれた陰は鳥居から飛び降り、手を付きながら着地するとその場から移動し、闇の中へ消えていく。
―≪天羽ヨ、オ前モ準備ヲシテオケ≫―
「えっ?」
―≪幾人モノ封印ガ無クナリ…モハヤ時間ハ残サレテイナイノダ≫―
「…分かりました」
そう返事をした時、あまり乗り気でない自分に気づく。
本音を言えば会うのも嫌なのだが、命令がきたなら仕方ない。
津雲は闇羽が任務を終えてくれればと思いながらも立ち上がる。


・・・

「さてと…どうすっかな」
学校の教室、自分の机に肘をつき手で頬を支えながら八雲はとてつもなく迷っていた。
彼は今頭をフル回転させながら何を閃かせようと必死になっている。
そんな彼に一人の少女が近づいていく。
「八雲君」
「お、水鳥か」
「なにか考え事?」
「ちょうど良い所に来てくれたよ。ちょっとこれ、見てくれないかな」
心配そうに訪ねる水鳥に八雲は手元にある紙を渡す。
渡された紙には様々な名前が書かれ、水鳥はその一部を口にしながら読んでいく。
「ライガ、トウキ、ヤクモ、レツ…?」
「俺の変身した時の名前、あいつ等が付けた名前なんて名乗りたくないから色々考えたら出るわ出るわ」
「もしかして…これをどうするか悩んでたの?」
「ああ」
ハッキリと答える八雲に思わず苦笑いになる水鳥。
反面、水鳥は自分の為に戦っている八雲が変わらないでいてくれる事に少し安心していた。
「やっぱりここは平成っぽく行くべきか…それとも」
「なに…してるの?」
「うお!?」
「きゃ!?」
突然横から腰まで掛かるやや青みがかった長髪の少女が二人に話しかけてきた。
あまりに気配がなく、不意をつかれて驚く二人はその少女に向き直る。
「夜狐さん」
「澪か…驚かすなよ」
夜狐澪、八雲達と同学年だが別のクラスの美の付く少女。
無表情でほとんど人と接し話す事がないのだが、八雲が興味本位で友好関係を半ば強引に作ったのだ。
八雲と水鳥は澪の事を周りに誤解されやすい優しい子と認めているが、それでも彼女から話しかけてくる事は珍しい事だ。
「なに…してるの?」
「ああ、新ライダーの名前を考えてたんだ」
「…ライダー?」
「そうだ、夜狐さん何か良さそうな名前無いかな?」
そう水鳥に振られて澪は口元に手を持っていき、何かを考える仕草をする。
「…セル」
「なんだか漫画っぽい名前な気が…」
「どういう意味なのかな?」
「…頑張って」
「あ? ああ」
水鳥の質問に答えず、それだけ言うと澪は離れ、そのまま教室から出て行った。
脈絡の無い会話に曖昧な返事をしながら八雲と水鳥はその後姿を見送る。
「何を頑張れば良いんだ?」
他の学友よりは分かっているつもりの二人でも、時々澪が何を考えているのか分からない。
「でも、夜狐さんから話し掛けてくれるなんて珍しいよね」
「そうだな…折角だし記念にそれを名乗るのも良いかもしれねぇな」
澪が話しかけてくる珍しさに浮かれていた二人は気付かない。
教室を出る前。
澪は誰にも聞こえないほどの声でこう呟いていた。

「頑張って…あの人達を引き付けて」

一瞬だけ彼女は無表情から何かに迷っているような険しい顔をしていた。
そのほんの僅かな変化に気づくものは誰もいない。


放課後、八雲は水鳥を家まで送り届ける。
「じゃ、今日はここまでだな」
「うん、また明日」
挨拶を交わして八雲は自分の家へと帰る。
この行為自体はほとんど日課の様なものになっていたが、水鳥を家に送る度八雲は彼女の家の事を考える。
以前、自分が変身できる事を話した時、彼女も自身の事を詳しく話してくれた。
今、彼女が住んでいる家は本当の親の家ではない。
家の前に捨てられている所を今世話になっているおじさんが拾ってくれたらしいが、それでも水鳥は幸せだと言う。
確かにあの優しくて大らかなおじさんなら虐待はないだろう。そう考えた時、八雲は自分の家の事を考え始める。
「そう言えば…俺は何時から和尚の所で世話になってるんだ?」
自分を育ててくれている和尚は本当の親ではない。
気になって昔の記憶を思い出そうと必死に昔の事を考える。
「あれ?」
そこで、妙な違和感が湧き上がる。
昔住んでいた場所、そこから寺に引き渡されるまでの経緯、その全てが曖昧になり思い出せない。
「…ま、良いか。昔の事なんて」
そう結論付けた八雲だが、不意に記憶の断片とも言えるようなものが頭に浮かぶ。
確か…自分には兄弟がいたような気がする。だが、なぜ今日に限ってこんなにも気になるのだろうか?
「…」
八雲は一旦立ち止まり、振り返って水鳥の家を見上げる。
不安が消えない。
八雲はポケットから携帯電話を取り出してある場所に掛ける。しばらくして、電話の向こうからしわがれた声が聞こえ始めた。
「あ、和尚? ちょっと我侭言って良いかい?」


・・・

カンッカン…コッコッコ……
「…行ったか」
物陰に隠れながら青い戦士に変身した斉藤が呟く。
「にしても…ここはあそこと空気が似てるな」
斉藤はとある施設に潜入し調査を行っていた。
その内にこの施設全体に、制縛の鳥居の空間と似た雰囲気が感じ取れる事に気付く。
その事を不審に思いつつ隠れながら施設を進んでいくと、不意に妙な感覚が湧き上がる。
「なんだ? この感じは?」
何かの力の波動を感じ取り、立ち止まってその出所を探るように意識を集中させていく。
暫らく力の出所を探っていると、とても馴染みのある力が感じ取れた。
「これは…まさか!?」
力を感じ取った斉藤は焦りを感じ、見つかる事も覚悟しながら一気に走り出す。

どうにか何者にも見つかる事無く、力を感じ取った一つの個室に辿り着く。
入ってみるとそこは幾つかの透明なケースが置かれた、まるで霊安室の様な薄ら寒い空気を感じさせる部屋だった。
「これは!?」
斉藤はケースの中を覗き見て驚きの声を上げる。
なんと、そこには中には自分の同僚とも言える人物達が安置されていたのだ。
直後、斉藤は全身に鳥肌が立つ様な感覚に苛まれた。
(ここに居たらヤバイ!!)
すぐに斉藤は駆け出し、廊下の見える部屋のガラス戸に向かって飛び込んでいく。
確実に察知されるだろうが構わない。それよりもこの場にいる方が危険だと感じ取り、ガラス戸に向かって跳躍する。
ガッシャァァアアアアアアン!!
音を立てながらガラス戸を突き破り、破片を飛び散らせながら廊下に飛び出した。

筈だった。

「何だと!?」
着地した時、そこは廊下ではなく元いた部屋が全て左右対称になった部屋だった。
今突き破ったガラス戸を振り返ると、何事も無かったかのように傷一つ付いてない。
「これは…結界か」
―コッ―
すぐ後ろの方で何者かの足音が聞こえ、反射的に振り返ろうとする。
ズルッ ガク!
「ぅ!? なんだ…体が?」
左回りで振り返ろうとしたのに、身体全体が自分の意思と間逆に動きバランスを崩す。
一瞬何が起こっているのか分からなかったが、すぐに部屋を含めたこの異常が人為的なものだと気付く。
「この結界の所為か!」
 その事に気付いてもどうしようもなく、段々と軽い足音がゆっくりと近づいてくる。
 恐らくこの結界の術者だろう来訪者は、斉藤の目の前まで立ち止まり口を開く。
「無駄な事…しないで」
淡々と話しかけられた斉藤はその声に聞き覚えがある事に気付く。
「私の鏡生結界からは…逃れられない」
「まさか…お前があいつ等をやったのか?」
声の主に気付き、内心驚きながらも斉藤は意思と間逆に動く頭を何とか上げる。
対して斉藤の正面にきた少女は無表情に、だが僅かに迷いを秘めた眼で答えた。
「…貴方には…関係ないでしょ?」
「口封じされそうな時に黙ってられるか」
「大丈夫…少しの間…大人しくしてもらうだけだから」
そう言うと少女はポケットから手鏡を取り出し、それを斉藤に向けて掲げ空いた手で印を結んでいく。すると、目の前の彼女の姿がまるで万華鏡に映したように何重にも増えていく。恐らく鏡を使った術を行使しようとしているのだろう。
斉藤は何とか離脱したいが、身体が思う様に動けない為どうしようもない。
「くそっ!」
「鏡界静止」
―ピキィィイイイイイイン―
手に持った鏡から眩しい光が放たれ、光は部屋全体を包み込んで部屋の内部の動きを止めていく。


・・・

夜の12時を過ぎた時間、八雲は水鳥の家の近くで張り込みをしていた。
月の出ている夜は感覚が冴え渡り、直感的に水鳥の危険を感じ取る事ができたが今夜はどうなるか分からない。
今までも何回か張り込んでいた事もあり端から見るとストーカーそのものだが、その点は八雲はもう諦めている。
「さてと…今夜はどう来る?」
そう呟きながら八雲は空を見上げる。
空は雲も無ければ月も無い。正しく暗闇と呼ぶに相応しい夜空だった。
(今夜来られたらマズイかも知れねぇな)
昼間から感じている不安がまだ消えずに纏わり付くが、それでも逃げるつもりは毛頭無い。
色々と考えるのに少し疲れた様な気がして、一息つきながら近くの民家の壁にもたれ掛かる。
―ヒュゥッ―
空気が変わったとでも言うのだろうか?
一陣の風が吹いた時、八雲は嫌な胸騒ぎを感じながら勢い良く壁から離れる。
「まさか!?」
ガッシャァアアアアアアアン!!
八雲が呟いた直後にガラスを破壊する音が夜闇に響き渡った。
「なっ!?」
予想外の展開に一瞬動きが止まってしまう。
今までは互いに人目につくのを嫌い、人気の無い場所や時間を狙って隠密活動を続けていた。だから、これだけの強攻策に打って出るとは思わなかったのだ。甘かったと悔やんでも後の祭りだが、悔やまずにはいられなかった。
僅かな間に異形の影は人、おそらく水鳥を脇に抱えて飛び立っていく。その姿は女性を浚うヴァンパイアを彷彿させていた。
「行かせるかよ!!」
八雲は考えがすぐに気を引き締めてバイクに跨り、一気にアクセルを回して後を追いかけていく。

ブォオオオオオン!!
「ちっしつこい」
水鳥を抱えている異形の戦士は追いかけてくる八雲を見やり舌打ちする。
数分ほどバイクを疾走させていくと、水鳥を抱えた陰はゆっくりと降下し始めた。
「あそこは…」
その陰が降りた場所。そこは水鳥の誕生日、最後に向かった森の中だった。
気を引き締め、八雲はアクセルを回し森の暗闇を突き抜けていく。

キキィィイッ!
森の奥深くに進んだところで、八雲はバイクを止める。
(………いる!!)
殺気というものだろうか?
何となく周囲の空気が変わったような気がして、神経を研ぎ澄ましバイクから降りて周囲を見渡す。
自分を突き刺すような感覚が全身に感じ取れる。どうやら水鳥をさらった相手はここで自分を迎え撃つつもりのようだ。
バッ ドガァ!!
「がっ!?」
思い切り背後から殴られ一瞬息が止まり前に吹き飛倒れる八雲。
「っく!!」
横に転がり上半身だけ起こして襲撃者を捜す。だが、周りには風に揺れる木々しか見あたらない。
ただでさえ光がなくて周りが見えないのに、多くの木々が襲撃者の姿を完全に隠してしまっている。
(さっさと終わらせるか)
水鳥を適当な木に降ろした襲撃者、闇羽は印を切る。
「印・裂・昇・翼・陣・刃!!」
闇羽が印を切ると両腕にコウモリの翼のような鋭い鰭が現れ、闇羽はそれらを掴んで抜き、八雲に向かって投げつけた。
「!?」
鰭が木々と触れて発した僅かな音に反応して八雲は身を屈めた。
ザッギギィイン!!
「ぐっ!?」
それでも避けきれずに両肩に鰭が触れて服が切り裂かれて前のめりに倒れ込む。
「八雲君!?」
水鳥が叫ぶが明かりがない事と木々に阻まれている事も相まって八雲の姿を確認できずに不安が募る。
声が聞こえているのかいないのか、八雲は倒れたまま動かない。
「死んだか?」
木の上から飛び降り、確認の為に闇羽は八雲に近づいていく。
ザッザッザ…
闇羽は八雲の一歩手前まで近づくが八雲は反応しない。
「呆気ないな…こっちとしては楽だけど」
そう言い放つと闇羽は止めを刺すべく手を振り上げる。
グアッ ドゴォ!!
「!!?」
拳が振り下ろされる瞬間、八雲は素早く転がって避けた為に闇羽の拳は何も無い地面を砕く。
「オラァ!!」
バキ!!
「ぐ!?」
「かぁっってぇぇ〜!!」
渾身の拳の一撃を叩き込んだ八雲だが、相手の強度に逆に手を痛めてしまう。
「チッ掠っただけだったか!」
「うお!」
闇羽が腕を横薙ぎに振るうのを危なっかしく後ろ飛びでかわす。
「くそ! 変身しないと話しにならねぇ!!」
言いながら八雲は右手を頭の上に高く掲げ、そこから右腰の方に下げた後素早く左肩方面に伸ばす。
そこから更に水平に右へ、同時に左手も腰の位置から頭の上に高く掲げる様に移動させると、八雲の腰に宝玉のついたベルトが現れる。
だが、ベルトの宝玉は完全に黒く染まり輝きが無い。
(出来るか!?)
不安を感じながら八雲は伸ばした両手を左腰に叩きつけるように引きつけ叫ぶ。
「変身!!」
そう言って両手を左腰に叩き付けると宝玉から黒い光が放たれ、その光が彼の体を包み込みその姿を変えていく。
「何だと? 月が無くても変身出来るのか!?」
闇羽は驚きの声を上げながら八雲を見る。
その姿は月が出ている時とも、昼間に変身した姿とも違っていた。
皮膚が黒く、胸部、両肩、両腕、両足には青黒い装甲に覆われている。
その装甲も両肩は肩口が飛び出したような肩当、若干薄めの鎧の様なボディアーマーに変わり、頭部も刃の様な二本角は銀色に、丸く大きな瞳は青く、赤いラインの無い仮面に変化していた。
ベルトは変わらず輝きの無い黒い宝玉が付いている。
「へっこれで条件は互角だな」
青黒い姿に変化した八雲は闇羽を真っ直ぐに見据える。
光が無い為、先程まで闇羽の姿が分からなかったが、変身した今ではハッキリとその姿が分かるようになった。
黒に染まった丸い瞳に蝙蝠の翼を逆さにしたような四本角。青黒い皮膚に黒いボディアーマーに手甲、足甲。
どうやら背中に蝙蝠の羽らしきものが付いているようだ。
「さて、さっきやられた分…思い切り返させてもらうぜ」
静かにそう言い放つと、夜闇と混ざってその場から八雲の姿が掻き消きえた。
「なんだと!?」
八雲が移動せずに目の前で姿を消した事に動揺する闇羽。
(この俺が知覚出来なかっただと!?)
闇羽は蝙蝠の特徴を持つ魔物の力を宿した戦士。
だからどれだけ周りが暗かろうが、相手が何所に隠れようが関係なく相手を見つけ出す事が出来る。
なのに今八雲が何所に消えたのかを分からなかった。
更に今神経を張り巡らせても何所に要るのか知ることが出来ない。それが闇羽に異様な恐怖を与える。
「っく…どこだ!? どこに隠れている封月!!」
「もうその名前で呼ばなくて良いぜ」
不意に聞こえた八雲の声に向かって、闇羽は一気に跳躍して拳を突き出す。
だが、その拳は虚しく空を切るだけに終わる。
「良く覚えときな…俺は仮面ライダー」
「なに?」
「仮面ライダーセルだ!!」
「ふざけた事を言う!!」
闇羽は声の聞こえる場所に向かって飛び掛っていくが、全て空振りに終わり苛立つ。
「あくまで姿を見せないなら、炙り出してやる」
そう呟き闇羽は両手で印を結び言葉を紡いでいく。
「爆、乱、声、共、振、鳴、滅!! 必殺・蝙声破砕之共鳴ィイイイ!!」
闇羽が叫びながら掌を前に翳すと、その掌から無数の蝙蝠が現れ超怪音波を発しながら飛んでいく。
蝙蝠達が通ると周辺の木々が蝙蝠達の超怪音波によって粉々に散っていく。
「さあ、早く出てこないとここら一帯の木が粉々になるぞ?」

(あれは厄介だな)
八雲こと仮面ライダーセルは闇羽の左後方の木の陰に隠れて様子を伺っていた。
あの技をまともに喰らえば自分は一溜まりも無いだろう。
「ま、何とかなるか」
今の自分は満月の時ほど腕力がないだろうという事も変身した時に知覚できた。
そして、今の自分の力も大まかに把握している。先程姿を完全に消し去ったのもその御陰だ。
「やるか!」
セルは手をグッパと開き閉じる動作をして後ろ腰に持っていく。
そこには小さめの黒い銃身のボウガンが備え付けられていて、セルがベルトから取り外すと全体が少しだけ膨張し大きくなる。
ボウガンの肥大化が終えると、セルは一気に茂みから飛び出した。
「そこにいたか!!」
セルの姿を見つけた闇羽はすぐに無数の蝙蝠を放つ。
それに対して、セルはボウガンを闇羽の後方にある一本の木に狙いを絞る。
「行け!!」
セルが念を込めるとボウガンの弓状の砲頭部分が打ち出される。
音を立てて飛ぶ砲頭からは極細の光りの糸の様なものが伸び、ボウガンの砲身に繋がっているそれは蝙蝠や闇羽を超えて一本の木に巻きつく。確かな手応えを感じるとセルは大きく跳躍して蝙蝠をやり過ごし、念を込めて光りの糸を巻き込む。
光りの糸で自分を木に引き寄せて素早く闇羽の後ろに回り込み、砲塔をボウガンに戻してまた跳躍。
「逃がすか!!」
「逃げるかよ!!」
闇羽は手をセルの方に向けて蝙蝠達をけしかけていく。
セルはボウガンを闇羽に向けて、バネを引く。
するとベルトにある金色の輪が二つ取り外れ、一つはボウガンの横腹に取り付き一つは砲塔の前中空に留まった。
砲塔の手前中空で留まった金色の輪は白く輝き、輪の中には疾に近い印字の後に封の印字が浮かび上がる。
「喰らえ!!」
ボウガンの引き金を引くと金色の輪が二つとも高速回転し、連続して六つの光りの針を打ち出していく。
ドドドドシュ!! ドシュ!! ドシュウ!!!
打ち出された光りの針は蝙蝠の集団を貫き、全て闇羽の胸部を貫いた。
針が刺さった場所からは封に近い印字が浮かび上がると、続いて針に近い印字が浮かび上がる。
「う?! グ…ゥ……ばかな…」
闇羽はそれだけ呟くとゆっくりと仰向けに倒れ爆発。続いて太い光りの柱が空に向かって立ち上った。
爆発が収まり闇羽の姿が無い事を確認すると、セルはボウガンを元の大きさに戻して後ろ腰に付け直す。
「水鳥はどこだ?」
「八雲くん!!」
セルが周りを見渡すと自分の後方にある木の太い幹の上から、水鳥が不安げな表情で周囲を見渡しているのが見えた。
戦闘が終わった事は解ったようだが、八雲が無事なのかまでは分からず不安なようだ。
セルは水鳥が無事な姿を見て安堵し、跳躍して水鳥の直ぐ隣の幹に着地する。
「水鳥、無事か?」
「八雲君? 無事だったの?」
「ああ、俺が負ける訳ないだろ?」
「良かったぁ…」
「こっちのセリフだって…よっと」
「え?」
苦笑しながらセルは水鳥を下に降ろすために彼女を抱き上げ飛び降りる。
「ぅきゃ!?」
「大丈夫か水鳥?」
「八雲くん…いきなりぃ…」
「ま、これもヒーローの特権ってやつだな」
抱き上げられたまま、いわゆるお姫様抱っこが恥ずかしいのか水鳥は顔を赤くしながら八雲を上目遣いで見上げる。
八雲は水鳥の反応が楽しいのか至極満足そうに笑って水鳥を地面に降ろす。少しの間二人は見つめ合い何か特別な空気が作られていく。
どちらからともなく、口が動き出そうとする。
その時。
―ヒュォォォォォ…―
「!?」
「八雲くん?」
セルは突然感じた気配に警戒しながら水鳥の前に出る。
真っ直ぐ正面を見据え、森の奥からやってくる何かに対して体が緊張するのが分かる。
(何だ? もう次のヤツが来たのか!?)
ザッザッザッ……ザッ…ザッ…ザ…
セル達の数メートル手前で新たな来訪者は立ち止まる。
黒い皮膚に胸部、両肩、両腕、両足に黒い装甲。
両腕には幾重に重ねられた蛇腹の銀手甲、背中には上半身に掛かるだけの黒い翼を持っているようだ。
頭も金色の三対の羽が広がった様な角を持ち、中心に小さな宝玉が填め込まれ、丸く大きな赤い瞳をした黒い仮面。
その来訪者の姿は角の形状と全身の色の違いはあれど、その姿は夜、月の出ている時のセルとかなり酷似していた。
「もう次のヤツか…面倒臭い」
「面倒臭いのはこっちだ」
セルに似た戦士は小さく呟くとズンズンと歩いてセル達に近づく。
すぐさま相手の行為に反応したセルは腰からボウガンを抜き放ち、引き金を引く。
パシュパシュパシュパシュパシュ!!
―ト、トトス、トス、トス―
全ての針が黒い戦士に命中し、その体に吸い込まれる。
「なんだ?」
針が命中した所に文字は浮かび上がらず、黒い戦士の体は徐々に木の様に変わっていく。
シュウウウウゥゥゥゥゥ…パン!
「うわっ!?」
全身が木に変化した瞬間、戦士だったものは一気に破裂して視界を塞ぐ。
「くっ…まさか…変わり身の術!?」
思考が混乱しながら事態を把握した時、背筋が異様な寒気を感じ取った。
「!?」
ズガン!!
セルは咄嗟に反応して振り向くと、鈍い音と衝撃が自身の身体に響き渡る。
セルの目の前には右手の手甲が剣の様に伸びた、蛇腹状の手甲を振り切った黒い戦士の姿。
その蛇腹状の剣の先端には赤々とした液体が付着していた。
「ァ…ガッ!!?」
―ブシュァ!!―
セルの身体に刻まれた左肩から腹部に掛けての鋭い切り傷から血飛沫が飛び散る。
踏ん張る事もできず、崩れ落ちるように倒れこむセル。
黒い戦士は一瞬だけぎこちなく、だがすぐに倒れるセルを避けてその様子を冷ややかに見下ろす。
「ぅ…ッグ……!!」
―チャッ―
セルは必死に立ち上がろうと手を突くが、そこに黒い戦士の剣が眼前に突きつけられる。
「まって!!」
すぐ隣から水鳥が飛び出して間に入り、黒い戦士を呼び止める。
「貴方達は私を狙ってるんでしょう?」
「…ああ……そうだ」
黒い戦士は顔を水鳥に向け、水鳥も正面からその赤い眼を見据える。
「なら…私が貴方達の所にいくから……これ以上八雲くんに…手を出さないで」
黒い戦士は何も言わずに頷き、剣を八雲の眼前から離して元の重手甲に戻す。
そして、黒い戦士はゆっくり手を水鳥の肩に置いて後ろに方向転換させて歩き出させる。
「ま…て……」
「…八雲くん」
セルは重く感じる体を僅かに動かしながら水鳥に話しかける。だが、そのダメージによって体はすぐに元の人間のものに戻ってしまう。
「だ…めだ……んなの」
必死に身体を動かそうとするが、体は言う事を聞いてはくれない。
「八雲くん」
水鳥は振り返ってセルの元に駆け寄っていく。
黒い戦士はそれを咎めず、黙って様子を見ている。
「み…どり…」
「ごめんね…私の所為でこんなに傷付いて…酷い目にあって」
「そん…な…と……」
八雲はそんな事はない。そう言う事さえ出来ないのかと悔しさが込み上げて来る。
そんな八雲に水鳥は胸元から以前八雲がプレゼントしたネックレスを取り出す。
「この月光石…私が捨てられてた時から持っててお守り代わりにしてたんだけど…八雲くんにあげる」
そう言って水鳥は八雲の手にネックレスを握らせる。
そして、涙を貯めた目を閉じながら八雲の手を自分の両手で包む。
「ありがとう…そして……」


―さようなら―


その言葉を言い終えた時、繋がれた手は離れていった。
八雲の手から温もりが離れ、徐々におぼろげになっていく。
「…行くぞ」
「…はい」
呼ばれて水鳥は黒い戦士の元へ歩いていく。
(まだだ…俺はまだ戦える!!)
八雲はその様子を必死に睨みつけるが、叫ぶ事さえままならない。
(そんなヤツについて行くなよ! おい!)
心の中で怒り叫ぶ。
(さようならって何だよ!? お前はそれで良いのか!? そんな事認められる筈ないだろうが!!)
その想いを感じ取ったように水鳥が振り返る。
彼女の瞳には明らかな悲しみの涙が浮かんでいた。だが、八雲の顔を見ると、それを隠そうとする様に顔を伏せて歩き去ろうとする。
(くそぉ…動け! 何でも良いから動いてくれよ! まだ…まだ何も伝えてないじゃないか!!)
「み…ど…りぃぃいいいい!!!」
「!?」
八雲の叫びに水鳥と黒い戦士は驚き振り返る。
「か…ならず……必ず…俺が…助けに行くから……待ってろ!!」
揺ぎ無い決意を秘めた眼で真っ直ぐ水鳥を見据えて言い放つ。
「…ん」
水鳥は悲しみ以外にも様々な感情を混ぜた涙を貯めながら頷く。
その様子を黙ってみていた黒い戦士は一枚の札を取り出し、額に持っていって念を込める。
札は弱く青い光りを発しながら点滅し、黒い戦士はそれを無言で八雲に投げつけて眼前の地面に突き刺す。
「?」
「…行くぞ」
黒い戦士がそう言い放ち、二人は夜の暗闇に消えていく。
それは八雲も意識が朦朧としているからなのか、黒い戦士の術なのか知ることは出来ない。
(待ってろ……絶対に…俺が…)
そこで八雲は地面に突っ伏し、意識は深い闇に落ちていった。









・・・








暗い部屋の中、八雲達のやりとりが水晶に映し出されている。
その水晶に少女が手を翳すと水晶の映像が消える。
「やっぱり…駄目だった」
彼女は落ち込んだように、だが淡々と話す。
彼に新しい名前を聞かれた時、提示した名前。
あれは組織が水鳥を捉えるのが先か、自分が別の方法を見つけられるのが先かの競争という意味。
洒落として付けたのだ。
どうやら自分は競りに負けたようだ。
こうなれば数日後には封印の儀式が行われ、水鳥はこの世からいなくなり封印された力は媒介を失いこの世に現れる機会を逃してしまう。
自分の目的の為にはそれを阻止しなければならない。
彼女は覚悟を決めると、ポケットから小さなピラミッド状の機械を取り出しその頂上を軽く押す。
―ピッ…ザッザザ…―
『Please answer the name of god's flag concerning all of us.』
雑音が途切れて機械で合成した声が聞こえてくる。
これに答えれば、もう後には引けない。
いや、もうとっくに後に引けない事を自分はやってしまっているのに何を迷っているのだろう。
不意に、八雲と水鳥の二人並んだ時の幸せそうな顔を思い出す。
目を伏せて首を振り、その笑顔を振り払う。
そして彼女、夜狐澪はゆっくりと口を開いた。
「People worship the Odin.」
『……狐か』
少しノイズが鳴った後、先程とは違う若干青年の声質を思わせる声が聞こえてくる。
「もうすぐ…翼の継者がこっちにくるから」
「分かった。では、儀式の日が分かったら知らせろ。何小隊か改造体を連れて行く」
「…わかった」
返事を返し、澪は通信を切って短く、だが深い溜息をつく。



これでもう戻れない。
あの二人と関わった平穏な日常を演じる事も、この制縛にいる事も…








今、この時確実に…
何かが始まる為の鍵が動き出した。













深く傷付き水鳥を奪われた八雲。
内部の動きを探り、返り討ちにあった斉藤。
ただ与えられた使命を果たした津雲。
そして、何かを企む夜狐澪。
制縛は全てを破滅を防ぐ為と言って水鳥を拘束する。
八雲は水鳥から受け取った月光石を胸に制縛に乗り込んでいく。
だがこの問題は制縛内では終わらない。
何時の時代にも力を求める者は存在する。
全ては幾時も絶える事の無い人の欲望故に…









仮面ライダー

LEGENDBLOCKADE

後編

「漆黒の闇」

Close.

NEXT/STAGE



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