それは突然の事だった。
それは自分の知らない事だった。
けれど、昔は知っていた。
遥か昔、一組の男女がいた。
二人は互いを愛していた。
その気持ちに偽りはなかった。
けれど、背負った業が二人を引き裂いた。
人々の様々な思惑と恐怖が二人を引き裂いた。
それが運命だったのかは分からない。
だが、彼女は涙した。
絶望を知り、全てを捨てた。
幸せも、喜びも、愛しさも。
全てを捨てて彼女は世界から消えた。
後に、深い悲しみを湛えた羽根を残して。
それは、幾千の時を経ても変わる事はなかった。
その思いは、遺志に関係なく世界に影響を与えていた。
それは誰にも知られず、止める事の出来ない歯車となって動き続ける。
そして、それは確実に多くの人々の運命を変えつつあった。
仮面ライダー
LEGEND・BLOCKADE
中編
「深き思惑」
気がつくと目の前には木製の天井が見えた。
身を起こし、まだ眠気の残った目を擦って周囲を見渡すと明らかに自分の部屋とは違う、見慣れない広い和室だった。
「ここは…」
「ぎにゃああああああああああああああーーー!!!」
起きあがった少女は突然の悲鳴にも似た叫び声に驚きながら、その声に聞き覚えがある事に気づく。
「…八雲君?」
彼女、青海水鳥は立ち上がって声のした場所を探しに行く為に部屋から出ようとフスマを開ける。
フスマを開けた瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは
いわゆる卍固めというものを掛けられている青年と怒りに満ちた表情のお坊さんの姿だった。
全ての間接が完璧に決まっていて青年は抜け出す事は出来そうもない。
「この煩悩息子があああああ!! 朝帰ってみればー! 何をしてたんじゃぁぁあああああああ!!!」
「ギブギブギブギブギヴ!!!!」
「あ…あの〜?」
「ん? おお、水鳥ちゃんお早う」
卍固めを決めながら挨拶する和尚。あれだけ騒いでいたのにも関わらず聞き取れるとは、かなり耳が良いのかもしれない。
「ぉ、おう゛ぁょ〜」
卍固めを掛けられている青年、八雲も精一杯挨拶をする。やや顔色が危なく見える事が本人の状態をよく表している。
「水鳥ちゃん、この馬鹿息子に変な事されなかったかい?」
「変な事?」
言われて水鳥は人差し指を唇に持っていって考え事をする仕草をする。
「確か、昨日は八雲君が誕生日プレゼントをくれて…それから…夜の山に入って……それで…」
前日の事を口に出しながら思い出していく内に、段々声が小さくなっていく。
なぜかよく分からないが、山に入ってからの記憶が上手く思い出せない。
思い出そうとすると徐々に体中に恐怖感が沸き起こってくる。
「このBA・KA・MU・SU・KOがぁあああああああ!!!」
「ごぉああああああああああああああああああ!!?」
水鳥の反応に勘違いした和尚は技のかけ方を更に強くし、外国人風に叫んだ。
「ジョナサンて誰じゃぁああああああああああ!!!」
「何の事だぁああああああああああああああ!!!!!?」
・・・
闇の中、どれも黒に近い円形に並んだ色とりどりの鳥居に人影が集まっている。
その中心には青白い炎のような光球がなんの支えもなく浮かんでいる。
『…で? 誰が行く?』
闇の中、どれかの人影が発した言葉が小さく響き渡り、雑談が始まった。
『別に俺がいってもいいぜ? この力がどんくれぇ凄ぇのか試してぇしよ』
『無闇に力を使うの良くない』
『そうよ、馬鹿みたいに暴れて組織とかにばれたら面倒じゃない』
『んなもん全部ぶっ潰しゃいいだろうが!!』
『やれやれ』
『誰が出ても別に構う事ないだろ』
段々と言い争うような形になってきた頃、一つの人影が中心の光球に向かって歩み出る。
『俺が行く!!』
その人影は腕をピンと上げて大声で名乗り出た。
その声に騒いでいた人陰も静かにして顔を向ける。
『変幻闘神、砕刃か』
『テメェも暴れたい口か?』
『ふ、この健康第一の俺を新米ヤンキーと一緒にするな』
『んだとこの野郎!?』
―≪ヤメロ≫―
『…チッ』
闇の中から響いてきた声に喧嘩腰だった人影が渋々後ずさる。
―≪策ハ在ルノカ? 奴ト主ガ戦エバ千日手トナルヤモシレン≫―
『心配は無用だ、この秀才は今世紀では頭脳を使う』
『じゃあ次行く人、決める』
『おい! 俺の頭脳を信用しないのか!?』
『だって…』
『ねぇ?』
時折失笑も混じりながら全く当てにしていない素振りで話しをしていく。
『なら見ていろ。封月のヤツを倒して俺の輝かしい頭脳を証明してやる!!』
そう言った陰はその場から姿を消した。
残った面々もその場から消えて自分の本来居るべき場所へ戻っていく。
何名かはその場に残り、それぞれ暇潰しに自分の作業を始める。
その内の一人は何をするでもなく中央の光球を睨むように見ながら、手に持った鍵を真上に放り投げて、落ちてきたところを視線を移す事無くキャッチするという事を繰り返し、やがて静かに目を閉じて横になった。
・・・
堤防沿いの道路を八雲と水鳥は二人並んで歩いていた。
「はぁ〜…あのオヤジ…本気で締めやがって」
「ご、ごめんね…八雲くん」
文句を言いながら肩を回す八雲に水鳥が謝る。
あの後、暴走する和尚に水鳥が誤解だということを伝え、それで八雲は卍固めから抜け出すことができた。
そして、和尚に何故水鳥が八雲の部屋に寝泊まりしていたのか問いただされたが、本当のことを答えるつもりのない。
もとい話しても信用されないような出来事なので、八雲が適当且つ巧みな話術によって誤魔化した。
納得仕切れていない住職だったが、八雲に水鳥を家に送るように言って今に至る。
「いや、水鳥の所為じゃないから気にする事ないって」
「でも…」
「それに、謝らなくちゃいけないのは俺の方だしな」
「え?」
(しまったぁ!?)
八雲の言葉に足を止める水鳥。
そこで八雲は自分の発言を後悔して動きを止める。
「…そういえば水鳥は昨日の事を覚えてないんだよな?」
「…うん」
家での会話で水鳥が昨日の事をよく覚えていない事が分かり、このまま夢だったことにしようとも考える。
(けど…ヤツらが何時襲ってくるのか分からねぇ以上、話しといた方が面倒がないか)
全て話す事によって余計な不安を持たせたり、自分も恐れられるかもしれないがその時はその時に考えれば良い。
そう結論づけた八雲は水鳥に昨日起こった出来事を話す事に決めた。
「水鳥…昨日何があったか…聞く気はあるか?」
「えっ?」
「出来れば俺も言いたくはないけど…このまま隠してるのも何か後味が悪いって言うか…」
後の言葉に言い淀む八雲に対して水鳥は静かに頷いた。
「分かった…じゃぁ、かくかくしかじか!!」
「……ごめんなさい…正直解らない」
「そりゃそうだ」
やはり話すと決めても、いざとなると尻込みしてしまうものである。
八雲は中々言い出す事が出来ずに頭を掻き、水鳥は急かすこともなく八雲の言葉を待っている。
何も言えない状態が数十秒続くその場所に一人の男性が近づいていった。
「やあ、ボク斉藤」
「やぁ斉藤君」
突然現れたその男は、最近声優が代わった有名なアニメキャラ(通称青狸)の声まねをして話しかけてきた。
そんな斉藤に八雲は知り合いにするのと同じ様に挨拶を返す。
「友達?」
「いいや、全然知らねぇ」
顔も知らない相手が話しかけてきても友人のように会話する。
それはまだ良いが、その後ハッキリと知らないと言うのはどうだろう?
八雲の言葉の意味に少し呆ける水鳥。
対して斉藤と名乗った男は気にしてないとでも言うように目を瞑って笑みを作る。
「何だ、デート中だったか?」
「今は違うな」
「今はって」
デートと言う言葉と八雲のハッキリした答えに水鳥は恥ずかしくなって声を上げる。
「ほう、違うのか…かなりもてそうな顔してるのにな〜。その娘は違うのか」
「ほっとけ」
違うのかといわれて八雲は不貞腐れたように言う。
「やっぱり男は顔なのか?」
「ふっ当たり前だろ?」
言いながら八雲は首を斜め45°に向けて爽やかな笑みを浮かべる。
「斜め45°ってのがポイントだな」
「へぇ、良く解ってるな」
そう言うと二人は互いに数歩進んで歩み寄る。
「なんかキミとは近いモノを感じるよ」
「俺もだ」
そう言って二人は手を差し出して堅く、熱い握手を交わした!!
ガシィ!! という音が鳴るその場所で、ただ一人水鳥だけ展開に付いていけず呆けた表情で二人を見ている。
「で、斉藤君は俺たちに何の用?」
「おっと、忘れていた」
戯けて手を離しまがら八雲から離れる斉藤。
出会ってからすぐに友情を交わし、友達感覚になっている感じである。
「ひじょ〜に言いにくいんだがな」
「ああ」
「その子を殺すか、俺達の仲間に戻るか選んでくれないか? 封月」
「なっ!?」
その言葉に驚く八雲。
この瞬間、男同士の友情は五秒経たずに崩壊した。
斉藤の顔を見てみると今までのふざけた表情とは違い、明らかな敵意を放っている。
「まさか、お前もあいつ等の仲間か!?」
「ああ、俺はその娘を奪還する為に放たれた刺客さ」
「穏やかに話し合いに来たってわけじゃなさそうだな…どうして、お前達は水鳥を付け狙うんだ?」
水鳥を後ろに追いやり、庇うように前に立つ八雲。
「お前は聞かない方が良い。俺も恨みはねえが、その娘の首は貰い受ける。それがお前達の為だ」
「ふざけんな!! とにかく水鳥に手ぇ出しやがったらブッ飛ばすぞ!!」
「お前達が理由を知らなくても俺は知っているんだ。ゆえにその娘は渡してもらうぞ」
「そんな事、させるかよ!!」
「俺と戦るつもりか? ま、邪魔するならこの拳で黙らせるだけだがな」
そう言うと斉藤の筋肉が膨張するように大きく、異常に膨れ上がっていく。
そして、斉藤の姿は八雲の倍以上の体格、分厚い筋肉に被われた異形の怪人の姿に変化した。
「そ、そんなんでビビルとでも…」
巨漢となった相手の威圧感に押されながらも虚勢を張る。
今の彼にはそれが精一杯の抵抗であった。
「へっへへ、更に絶望的なことを教えてやろうか? 今は昼間、つまり月の恩恵を受けれないお前は変身することができない!!」
今現在考えていた事を指摘されて、更に気持ちが押されながらも八雲は何とか平静を保とうとする。
「へっ生憎変身の仕方すら知らないもんでね」
「…普通そう言うことは黙っているもんだぜ?」
「あっ…」
「八雲くん…」
確かにその通りだ。
普段なら自分の弱みを見せるようなヘマはしないのだが、自分でも判らない位かなり錯乱しているのかもしれない。
その場にヒューっと短い風が吹き、妙な空気が生まれる。
「なら親切に教えてやろう。お前の変身する為の印…解印の仕方を」
「なんだって?」
異形となった斉藤の言葉に疑問の声を出す。
「俺の手の振り方を鏡合わせの様に真似てみろ!!」
「はぁ?」
「力が欲しいんだろう?」
斉藤の言葉に八雲は黙って考える。
確かに力は欲しい…
けれど、どうしてこいつは俺にそんな事を教えるんだ?
信用するわけじゃないが、色々と怪しい。
でも、水鳥を守るには力は必要だ。
こいつの様な化け物の力…
それを手に入れる為なら…駄目もとで従うのも良いだろう。
「…ああ」
「なら、俺の動きに合わせろ」
そう言うと斉藤は声付きで解印の仕方を教え始める。
まず右手を頭の上に高く掲げ、そこから右腰の方に下げた後素早く左肩方面に伸ばす。
その手を右側に水平に動かし、同時に左手も腰の位置から頭の上に高く掲げる様に移動させ、最後に伸ばした両手を左腰に叩きつけるように引きつける。
それはまるで五望星を描くような動きだった。
「さぁ、やってみろ!!」
「分かった」
八雲は斉藤に教わった通りに腕を動かし、一挙一動に精神を集中させていく。
そして、残りの動作が両手を腰に叩きつける手前の所まで来た時、八雲の腹部に白色の宝玉の付いたベルトが出現する。
「あれぇ!?」
ベルトの出現に斉藤が驚きの声を上げるが、八雲は構わず変身の動作を行う。
「…変身!!」
八雲がそう言って両手を左腰に叩き付けると宝玉から弱い光が放たれ、その光が彼の体を包み込みその姿を変えていく。
しかし、その変化は前日のものと違っていた。
皮膚は深緑に変化し、体も深緑の分厚い筋肉が鎧のように体を覆いながら全身に広がり硬化していく。
頭も全体が深緑に変化し、二本角は昼間の月のように白色に変化しているが、丸い大きな目は明るい緑色のままだ。
だが、その姿は生態的で外見だけ見ると禍々しいものがある。
「何故変身できる?」
「お前が教えたんだろうが…」
その姿を見た斉藤は疑問を口に出し、水鳥は驚きの表情で緑色の怪人となった八雲を見ている。
「まあいい。最後にもう一度だけ聞く…その姿を見られてもお前はその娘を守るのか?」
「男が惚れた女を守るのは当たり前だろう?」
(ふっ…男だな)
八雲の答えに苦笑しながら、斉藤は構える。
「口で言っても聞かないようだな、行くぞ! 二枚目!!」
言うや否や、斉藤は異形の戦士に掴みかかりに行き、戦士はそれを真っ向から受け止め、押し返そうとする。
「くっ」
「予定とは違うがこのまま一気にやらせてもらうぞ!!」
体格の差からか、徐々に斉藤が異形の戦士を追い遣っていく。
「へへ…悪く思うなよ。どこの組織でも裏切り者には死、あるのみだ」
グン!!
「ぐぅ……!!」
斉藤がさらに力を込め、戦士は地面に片膝をつく。
「八雲君!!」
「!?」
声のした方を見ると水鳥はすぐ近くで二人の戦いを見守っていた。
確かに水鳥は八雲の変化に驚いていた。
八雲の変化した姿を見た事により、昨夜の記憶が鮮明に戻って半ば放心状態に陥っていた。
だがこの瞬間、八雲の危機を見た時、自分でも意識しないまま彼女は叫んでいた。
「負けないで!!」
「おっしゃぁあああああああああああああ!!!」
咆吼を上げながら戦士は斉藤を一気に押し返す!!
「なにぃ!!?」
ザザザザザザザザザ!!
最愛の人の声援で心身共に充実した戦士は、力を引き出すのを現すかのように斉藤を押し返していく。
「ぐおおおお!?」
どんどん後ろに追い遣られ驚愕の声を出す斉藤。
「うおらぁああああああああああああああ!!!!」
組み合ったままの状態で戦士は斉藤を無理矢理投げ飛ばした!!
ブゥン!!
ダガァン!!
「たらぼぉ!!」
地面に叩き付けられて苦痛の声をだす斉藤。
何とか起きあがろうとするが上半身だけしか動かず、やがて大の字になって倒れた。
それを見届けた後、戦士は水鳥に向き直る。
「…これが俺が話したかったことだ」
その言葉をきっかけに昨夜あったこと、自分が水鳥を襲ったことも含めて全部水鳥に話した。
「どういう訳か知らないけど、あいつ等はキミを狙ってる。」
「…」
「…けど俺はこの力を制御して必ずキミを守ってみせる!! これだけは信じて欲しい」
少しの間、水鳥は考え込むように黙っていたが、改めて八雲に顔を向けて口を開く。
「…八雲くん、そんな事より怪我はない?」
「そ、そんな事って…」
意を決して話した事をそんな事と言われて少し落ち込む。
「確かに突然の事で驚いてるし、戸惑いもあるけど…」
「けど…?」
「…ナイショ」
そう言いながら口元に指を持っていく仕草をする。
それを見た八雲は散々悩んでいたのが馬鹿らしくなり、肩の力が抜ける。
同時に変身も解けて、ついでに肩の荷が下りたような気持ちにもなった。
「何だよ? 気になるだろ」
「それより、怪我は?」
「続き教えてくれたら元気になる」
「あんまり無理しないでね」
そう言うと水鳥はタッと駆け出した。
「あ、こら! 誤魔化さないでくれよ!!」
慌てて水鳥の後を追いかける八雲。
その後、いい年した男女が浜辺で追いかけっこしているという目撃情報が出たが、関連性は不明である。
・・・
「…行ったか」
戦いのあった場所から二人が離れて数分経過し、大の字で横になっていた斉藤が起き上がる。
首を動かして肩を鳴らしていると、後ろから二つの人影が現れ彼に話しかけた。
「だらしねえ、闘神ともあろうヤツがなんてざまだ。」
「む、テメェは同業者の申河に奪兎」
振り返ると昨夜の八雲や蜘蛛女が変身した姿と同じような姿をした二人組が立っている。
その姿は黒に近い茶色い体に同色の大きな瞳を持つ怪人と、濁った白色の体に同色の丸い瞳を持つ怪人だった。
二人の腰にはやはり、瞳と同色の黒に近い色の宝玉のあるベルトがあった。
「なんだよ、あの糞みたいな戦い…いや、お遊びはよぉ?」
「情けねぇったらありゃしねぇ。あの娘は俺達がやるぜ」
そう言い捨てると二人は八雲と水鳥の去った方に歩き始める。
「ちょっと待て」
「なんだ? 腰抜けは引っ込んでろ!!」
「使命の為なら別に構わないが、お前達はただ暴れたいだけだろう?」
「それがどうした?」
振り返った二人に対して斉藤は呆れを交えながら忠告する。
「そんな馬鹿に奴は倒せないぜ」
「んだと手前!?」
「裏切り者の前にお前からぶっ殺すぞ!?」
「と言うか…最初からそのつもりだろう?」
斉藤の言葉に簡単に怒りだす二人。
それに怯まず斉藤は話を続け、三人は距離を取るように後ろ足で下がりながら離れる。
「手前は前から気に入らなかったんだよ!!」
「別に好かれたいと思わないがな」
言葉が終わると同時に奪兎と呼ばれた濁った白色の怪人が斉藤に飛び掛る。
その強靭な脚力は一瞬で斉藤との距離を詰めるが、斉藤はその突進を思い切り仰け反って交わす。
斉藤は仰け反った姿勢から両手を地面に突き、足を曲げて反動をつけて自分を飛び越える奪兎の腹部を両足で蹴り上げる!
ドグァ!!
「ぐっ!?」
予想外の事に奪兎は受身を取れずに上半身から地面にぶつかり倒れる奪兎。
その隙に斉藤は奪兎を蹴り上げた反動でバク転をする様にして元の体制に戻る。
「こちらも変身させてもらうぞ!!」
そう言うと斉藤は両手を頭の上に掲げ、すぐに両腰の方に落とす。
すると、斉藤の腰に澄んだ青色の宝玉のあるベルトが出現する。
「悠長に待つ馬鹿いるかよ!!」
叫びながら申河は斉藤に向かって走り出す。
奪兎もその動きを見ながら体を起こし、斉藤に飛び掛る機会を窺っている。
二人に構わず斉藤は腰に落とした両手を胸元で交差するように移動させ、次に両手が重なるよう前方に半円を描いて移動させる。
そして、両手を胸の前で重ねた後、叫びながら両手を腰に叩き付ける!!
「変身!!」
それに反応するかのようにベルトの宝玉が光り出し、斉藤の体を変化させる!
それと同時に二体の怪人は同時に斉藤に飛びかかっていく!
「死ねやぁ!!」
「うらあ!!」
グオン!!
脅威の跳躍力、素早さから殺意の拳が放たれた瞬間。
斉藤の姿が消えた!!
「「なにぃ!!?」」
少なくともこの二人にはそう見えた。
斉藤は二人が襲い掛かってきた瞬間に飛び上がり、二人の攻撃をかわしていたのだ。
次の瞬間、虚しく空を切った二人の拳の上に斉藤の影が被さる。
そして斉藤は上空で後ろ宙返りをした後、体を捻り全身のバネを使って横回転しながら腕を横薙ぎに振るう。
その際、彼の五本の指が鋭い青い光を放つ!!
「「!!?」」
「必殺! 風車爪襲拳!!」
ザザシュウ!!
一閃。
反射的に二人が上を見上げたのと同時に、青き光の爪が彼らを切り裂く!
その傷口からは断と絶に似た青色の印字が順番に浮かび上がり、徐々に光を増していく。
「馬鹿…バァ!!」
「な…ゼヴァ!!!」
ド・ドグォォオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーン!!!!
傷口に現れた印字が一際輝き、二人は爆発する。
爆炎の中から蜘蛛女の時の様に、二つの光の柱が空に向かって立ち上り消えていった。
その事には目もくれず、地面に着地した斉藤は立ち上がる。
彼の姿は青黒い第二皮膚に両腕、両肩、両足、胸部が深い青色の生体装甲。
頭部は黒い仮面の様で牙の様な口を持ち、額から二本の鋭い刃の様な角が生えた戦士に変化していた。
だが、その丸く大きな瞳は先の二体や蜘蛛女とは違い、青く澄んだ輝きを放っている。
「ごめんな、と言いつつ反省はしない」
「それで良いのか」
斉藤の呟きに背後から声が掛けられる。
驚きながらも声に反応し、空かさず構えを取りながら振り返る。
振り返ると、そこには斉藤と同じ年位いの長髪の青年と少女が連れ立って歩いてきていた。
「お前達を送ってきていたとは…俺も随分疑われたもんだな」
「待てよ、こっちは戦うつもりは無いって」
「……」
ファイティングポーズを取ろうとしている斉藤に対して青年が答える。
少女の方は関心があるのか無いのか良く分からないポーカーフェイス。
その言葉と様子に、斉藤はゆっくりと構えを解く。しかし、姿はまだ青い戦士のままだ。
「なら、何の用だ?」
「ただ気になっただけだって……ただ…何でわざわざアイツに解印の仕方を教えたんだ?」
「変化の術だけで事足りると思ったんだ」
「…本気?」
斉藤の言葉に少女が呟くように話しかける。
「当然だ!! 変身せずとも結構な筋肉だからな。俺は」
少女が小声で尋ねるのに対して斉藤は大声で威張る。
変化の術とは自身の体を様々な姿に変えることが出来る幻術の一種だ。
先ほど八雲と戦ったとき、斉藤はこの術を自分の体に使って戦った。
だがこの術、斉藤は変身時のような怪力までは引き出す事できず、先ほどは筋肉に見合った“人間”の腕力で戦っていたのだ。
まあ、高位の術者が使えば話は別なのだが…
「…馬鹿じゃない?」
小声だがはっきりと言い放つ少女。
その声は呆れているのか、馬鹿にしているのか判断しかねる声質だった。
確かに、今五体満足でいられるのは、八雲・封月が力を行使できない昼間だった事が幸いしている。
一歩間違えれば死んでいたのだから。
「ハッキリ言うなよ…た、確かに変身できないとタカを括っていた俺も悪いが…」
「ハァ…」
必死に弁解しようとする斉藤に対し、盛大なため息をつく少女。
顔を上げて一度斉藤の顔を見た後、何も言わずにその場から離れていった。
二人はその様子をその場を動かずに眺める。
やがて、彼女の姿が見えなくなると長髪の青年が口を開く。
「…で? 何をしたかったんだ?」
「いや、昼間なら変化の術だけで大丈夫だと思ったんだ」
「キミはバカはするけど、馬鹿じゃないだろう?」
「誉めてるのか?」
「さあ? で、どうするつもりなんだ? このままだとアイツと同じ反逆者扱いされるぞ」
その言葉に斉藤は考え込むような表情をする。
やがて、意を決したように長髪の青年に顔を向けて話し始める。
「お前になら話しても大丈夫か」
呟きながら斉藤は変身を解いて元の姿に戻る。
「本当の所、ヤツにはまだ彼女を守っていてもらおうと思ってな」
「どういう事だ? それはこっちの使命に逆らう事だろ」
「そうだ。だが、俺達の本当の使命は世界の調和を魔物の力を持って守ることだ」
「だから全員であの娘を…」
「確証はないんだが…俺達の中に別の裏切りを画策しているやつがいる」
その言葉に長髪の青年は眉をひそめる。
「別のって…どういう意味だ?」
「俺達“制縛”の敵はあの少女だけじゃないだろう?」
「まあ、そうだな」
そう…この世界には人外の力を研究、行使する組織が世界中に存在している。
行動理念は違えども、彼等もその内の一つに入るのだろう。
だが、彼等は同士ではあるが、組織というわけではない。
“制縛”
それは彼等の目的であり、彼等が自身に背負った業。
“制縛”は遥か昔から闇で動く人外の者達、組織を人知れず殲滅する事を使命としている。
しかし、人外の者達に対抗するには自らも人ならざる力を持たなければならない。
彼らは物心つく前から人外の力を移植され、人ならざる者達を滅ぼす為に行動している。
それが、彼等が生まれる以前から背負わされた業であり使命。
時には潜入、情報収集も行っているがほとんど個人活動で、その場で殲滅するのが常だ。
“制縛”の人員はその使命を果たす為に同じ力を持つ者と組んでいる。
そんな考えをしている者がほとんどで、彼らのような親しい関係は珍しい。
彼らの中には時折、身に宿した魔物の力に心を浸食されてただの化け物に成り下がる者が出るときもある。
先程の二人も、心を身に宿した力に浸食されていた状態だったのだ。
だから斉藤は躊躇無く二人を封印することにしたのだ。
「誰かは知らないが…他の組織と内通しているやつがいる」
「何の為に?」
「それは分からん……だがこの先、組織絡みとは違う…何か別の意思も関わる戦いになる。そんな気がする」
「…これから、どうするつもりだ?」
長髪の青年の言葉に答えず斉藤は何歩か移動する。
「しばらくの間、俺は姿を眩まして情報収集に専念するつもりだ」
「ちゃんと頭領に知らせてから行った方が良いんじゃないか?」
「大丈夫だ。あの娘の守護をしなければ敵視されないだろう。ただ抜けたヤツに無駄な戦力を割きたくはないだろうからな」
斉藤の言葉に長髪の青年は「そうか」と言って答えてそっぽを向く。
そして、ほんの少し悪戯を思いついたような顔をして斉藤に話しかける。
「でもそんな話…俺が内通者だったらどうするんだ?」
その言葉に斉藤は小さく笑う。
「お前は自分からそんな事をするほど器用じゃないだろぅ?」
青年は斉藤の信頼しているのか、馬鹿にしているのか判断しかねる言葉に顔をしかめる。
「まぁ、こっちは何も命令を受けてないから干渉はしないよ」
そう言うと青年は背を向けて歩き去ろうとする。
数歩進んだ頃でピタリと止まり、斉藤に顔だけ向けて話しかける。
「ただ…命令が来たら……その時は容赦しないからな」
「分かっているさ…だが、俺の前にお前はアイツと戦う事になるぞ」
「だろうな」
「良いのか? 確かアイツはお前の…」
「関係ないね」
斉藤が言い終わる前に青年が言い放つ。
「今の俺は如月津雲だ」
「そうか…分かった」
そう言うとお互いに反対側に歩き出す。
「じゃあな…親友!」
「…」
『恥ずかしいやつだ』と口に出すのは憚られた。
そんな事を考えながら津雲は斉藤と反対側に歩いていく。
津雲はポケットから鍵を取り出し、手元で遊ばせながら。
斉藤はこれからの先の事を考えながら。
それぞれ自分自身の選んだ道を進もうとしていた…
・・・
薄暗い何処かの部屋の中、その中心に一人の少女が佇んでいた。
彼女は津雲と一緒に斉藤の様子、否、八雲の様子を見に行った少女。
手には古ぼけた何かの古文書らしきものを持ち、その足元からは何かの魔法陣の様なものが敷かれている。
その魔方陣は青い光を放ち、彼女の周り中空には円を描く様に幾つか青い火の玉が浮かんでいる。
当の本人は目を瞑り、何かの呪文の様な言葉を呟く。
暫らくすると、彼女は言葉を止めてゆっくり眼を開いた。
同じ様に足元の魔法陣と周りの火の玉も消える。
「やっぱり…これだけじゃ限界がある」
彼女は目を伏せて落ち込んだように話す。
その瞳には僅かに悲しみの色を湛えていた。
「あまり…やりたくないけど……でも」
そう呟くと彼女は部屋の中央から移動し、何所からか占いで使うような水晶玉を取ってくる。
それを片手に持ち、もう片方の手は指二本を立てて目を瞑った。
数秒後、その水晶に八雲と水鳥の姿が映し出される。
彼女は、またゆっくり眼を開いて水晶に映し出された二人を見つめる。
「守りきれなかったり…もう少し調べても駄目だったら…その時は」
そう呟くと水晶の画面を消して、元の場所に戻しにいく。
彼女は分かっていた。自分がやろうとしている事が愚かな事だと…
世界に関わる事に比べればいかに小さく大きな罪だという事も…
その顔には恐れ、不安、疑問、悲壮、様々な感情が表れていた。
だが、彼女は知ってしまった。代償を払えば如何なる事も可能にする力の存在を…
それを手にする為にも、もう少し時間が必要だ。
力を使わずに済む術を見つける時間。
もしくは翼の少女を手に入れる時間…
だが、望む時間が来れば世界は終わる…
けれど、時間は止まらない…
望んでも…望まなくとも……
運命の歯車は…遥か太古の昔から動いているのだから―――――
決められた運命を背負わされた者達。
世界の闇を封ずる為に背負わされた業。
それとは関係なく、それぞれの思想・思惑が動き出す。
様々な思いの流れに晒される水鳥。
一体彼女は如何なる業を背負っているのか?
そして、八雲と津雲はどんな関係があるのか?
全ては遥か太古より受け継がれた恐怖の産物…
仮面ライダー
LEGEND・BLOCKADE
「甦りし封印」
前編
Close.
NEXT/STAGE
Coming Soon!!