「スイッチ?」

「お前の身体の中にエネルギーを巡らせるスイッチがある。それは動作を行う事によって起動する。動作はお前の記憶の中にある筈だ」

 祐一に教えられた浩平は、自分の記憶を探ってみた。すると、ある動作が思い浮かぶ。

「こいつは……何時の間に俺の記憶の中に……?」

「折原……いいな? 護るべき物があるなら、迷うなよ!」




                  Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第二部・四十四話




 船着場では、カノンの戦闘員達がその場にいた漁師達を殺し、街に行こうとしていた。そこへ祐一と浩平がやってくる。二人はバイクを降りると、戦闘員に戦いを挑んでいく。

「イーッ!」

 祐一は、戦闘員の突き出すナイフを蹴り上げると、がら空きの腹部に蹴りを入れる。飛ばされた戦闘員は後ろの仲間を巻き込んで倒れる。そこへ駆け寄って倒れた戦闘員に止めを刺す。次に祐一は、戦闘員の持っていた短剣を拾うと、投げつけた。その方向には浩平に後ろから襲い掛かろうとしていた戦闘員がいて、短剣はそいつに突き刺さる。

「イ゛ーッ」

 浩平は目の前の戦闘員を殴り飛ばすと、祐一がナイフを投げた戦闘員を捕まえて海へ投げ飛ばした。次にバックステップをして忍び寄っていた戦闘員の攻撃をかわし、相手の顔面を蹴り上げる。

「こいつらで全部か?」

「いや、まだ何人かいたはずだ。それに怪人の姿もない……おい!」

 祐一は、倒れている戦闘員の襟首を掴んで引き起こすと、怪人達の行方を尋問する。だが、戦闘員は何かを言う前に事切れてしまった。とりあえず、街中に向かおうとバイクに乗った所で、遠くから爆発音が聞こえてきた。音の聞こえてきた方角を見て、浩平が叫んだ。

「あっちは寮のある方だ!」

「急ぐぞ!」

 祐一はエンジンを掛けてバイクの向きを変えると、浩平の案内する通りにバイクを走らせた。そして寮が見えてくると同時に炎と煙が上がっているのも確認できた。逸る気持ちを押さえつつも、祐一と浩平は寮に急いだ。辺りに民家などはなく、林の中に設けられた道をひた走る。

「ガブガブゥ!」

「イーッ!」

あと少しで到着という所で、木の陰から戦闘員達が飛び掛ってきた。祐一はスピードを上げて回避したが、前方に怪人らしき者が立ちはだかっていたので、バイクを止めた。現れたのは、サイギャングではなく鮫型の怪人だった。

「怪人か!」

 全身は青く、鋸鮫のシルエットをしている。前頭部は鋸刃のように細かい刃が沢山付き、鋭く尖った角が生えており、頭頂部と後頭部には、刃物のような幅広の角が生えている。左腕は鋭く尖っていてそれを祐一達に向けるように構えていた。腰にはカノンのベルトが巻かれている。

「俺はギリザメス! 相沢祐一、折原浩平。二人とも此処で死んでもらうぞ!」

 怪人が腕を振るうと、戦闘員が一斉に襲い掛かってくる。止む無く二人共バイクから降りて迎え撃つ。祐一はヘルメットを脱いで戦闘員に投げつけると、怯んだ隙に接近して右足で足払いを掛ける。戦闘員を転ばした勢いのままに、足を時計回りに回転させて踵落としを相手の喉に打ち込んで、道路に叩きつける。

 浩平は、戦闘員の横薙ぎの短剣を屈んで回避すると、低い体勢のままタックルする。戦闘員を道路に転がすと、自分は相手に馬乗りになって、連続で顔面にパンチを叩き込んだ。

「ガブガブゥ!」

「!!」

 背後に殺気を感じた浩平は、振り向く事無く横に転がった。浩平が今まで居た空間を、ギリザメスの頭部の角が通り過ぎていき、倒れた戦闘員に突き刺さった。浩平が起き上がるより先に、角を引き抜いた怪人が今度は左腕を突き出してくる。浩平は起き上がる事も出来ずに、転がって怪人の攻撃をかわし続けた。

「折原!」

 浩平に向かって突き出されたギリザメスの腕を、祐一が蹴り上げた。腕を蹴り上げられた所に、祐一のパンチが決まり、怪人は後退する。その隙に浩平は起き上がっていた。

 祐一は一歩踏み出すと、足を開いて左腕を握り腰に構える。右腕は指先を揃えて左上に真っ直ぐに伸ばす。

「ライダー……」

 右腕を時計回りに旋回させて右上に来た辺りで止める。

「変身ッ」

 今度は逆に、右腕を腰に構えて左腕を右上に真っ直ぐ伸ばす。すると祐一の腰にベルトが現れて中央の風車が回転する。

 ベルト中央の風車が発光し、その光は祐一の全身を包み込んだ。

 光が収まるとそこには祐一が変身した戦士――仮面ライダー――がいた。

 ライダーは身構えると、ギリザメスと対峙したまま後ろの浩平に言う。

「折原、ここは俺が引き受ける。お前は早く皆の所へ!」

 ライダーの言葉を受けた浩平は、寮の方を見る。建物が燃え、黒い煙が立ち上っていた。

「あのバイクを使え。サイクロンだ」

 次いで、自分達が乗ってきたバイクを見るとそこには、形を変えサイクロンとなった機体があった。

「行かせるか!」

「運転は出来るな? 早く行け!」

 襲い掛かってくるギリザメスの腕を掴んで食い止めると、ライダーは浩平の方を見て叫んだ。動き出した浩平はサイクロンに跨るとエンジンをかけ、バイクを走らせた。

「なんてマシンだ!?」

 このマシンは自分のバイクの性能を遥かに凌駕していた。加速が物凄く、油断していると引き剥がされそうになる。だが浩平はこのマシンを操って見せた。最高速度までは出せないが、それでも相当のスピードで寮に向かった。

「みんな、無事でいてくれ!」


                           ★   ★   ★


 建物が燃え盛る中、由起子、瑞佳、茜の三人が逃げ惑っていた。春休み中で寮生の殆どが帰省していたが、実家が近くにあった二人は寮に残っていた。現在は突然上がった火の手に驚きつつ、無事に合流して外に避難しようとするが、逃げる先々で火の手が上がり迂回を余儀なくされている。

「こっちも駄目ね」

 前方で燃え上がる炎を見て、先頭を行く由起子が呟く。自分達がやって来た廊下も炎に包まれ、三人は炎の壁に挟まれてしまう。熱気と煙が彼女達に纏わり付こうとしていた。

「参ったわね……」

 煙を吸わないように、身体を伏せながら忌々しげに通路を見つめる。

 突然の出来事だった。数日前に母親と出かけた浩平達のことを考えつつ、部屋で寛いでいた由起子の耳に大きな爆発音が聞こえてきた。慌てて飛び出した時には、既に火の手が上がっていた。部屋に戻って電話を掛けるが何故か通じず、止む無く由起子は寮に残っている二人を呼びに行った。瑞佳と茜も同様に、部屋に居た所で爆発音を聞き由起子の下へ駆けつけた。直ぐに合流出来たものの、脱出が困難な状況に陥っていた。



「由起子さん」

「大丈夫、必ず助かるから」

 心配そうに近寄ってくる瑞佳と茜にそう微笑みかけながら、必死に打開策を考えていた。子供の居ない由起子にとって、寮生達は自分の子供同然だったし、皆も自分を慕ってくれている。そんな子供達は、命と引き換えにしてでも助けるつもりだった。その時、天井が一部崩れて、炎の壁に降り注ぎ、僅かだが隙間が出来た。開けた視界の先に、窓が見える。

「行くよ!」

 迷っている暇は無かった。由起子は立ち上がって茜と瑞佳の腕を掴むと、炎の壁に突っ込んだ。二人も躊躇う事無く彼女に続く。熱気が三人の肌を炙るが、構わずに走りぬけた。しかし走り抜けた所で瑞佳が天井の破片に足を取られて転んでしまう。

「瑞佳!?」

「だ、大丈夫だよ……げほっ」

 直ぐに起き上がるが、煙を吸ってしまい咳き込んだ。茜が肩を貸し、再び窓を目指して進む。だがもう少しで辿り着くという所で、横の壁が破られ、異形の怪人が飛び込んできた。

「な、何!?」

「ギギィ!」

 飛び込んできた怪人――サイギャングを見て、恐怖に駆られた三人はへたり込んでしまう。逃げようにも、背後は炎の壁が再び行く手を阻んでいた。

「折原浩平は何処だ?」

 驚いた事に、その怪人は人の言葉を話した。また炎の近くに立っているにも関わらず、熱がる様子も無い。怯える三人だったが、浩平の名を聞くと、僅かだが震えが止まった。

「浩平なら居ないわよ。どうしたって言うの……?」

 怯えつつも、二人を庇いながら由起子が目の前に立つ怪人に尋ねる。

「そうか、ならお前達は人質だな」

「!!?」

 サイギャングは、冷たく言い放つとゆっくりと三人に近づいてくる。

「フギャー!」

 手を伸ばして由起子を捕まえようとしたサイギャングの足に、外から飛び込んできた猫が噛み付いた。

「あぁ!」

 それは、瑞佳が拾ってきた猫だった。猫好きの彼女は捨て猫を見つける度に拾ってきては、寮で世話をしているのだった。全て彼女一人で面倒を見、また猫の方でも彼女の言う事は良く聞いているので、由起子も浩平達もうるさい事は言わなかった。その猫が必死に怪人に牙を突きたてている。

「フン!」

 しかしサイギャングには、文字通り歯が立たず表面を引っ掻くだけに留まっていた。サイギャングはつまらなそうに足を振るうと、猫は外に蹴り飛ばされてしまう。

「そんな……」

 蹴飛ばされた猫を見て、瑞佳が悲しげな声を上げる。直ぐにでも駆けつけたかったが、目の前の怪人はそれを許しはしないとばかりに立ちはだかっている。

「諦めろ」

 今度は、崩れてきた天井がサイギャングを直撃する。天井だけでなく、燃え盛る梁や床板の一部も落下して来た。大したダメージにはならなかったが、怪人は一瞬だが怯んだ。瑞佳は立ち上がり、床板と一緒に落ちてきた消火器を掴む。高温に晒されていたそれは、掴んだ瑞佳の腕を焼く。顔を顰めるが構わずに消火器をサイギャングに投げつける。見事に命中した消火器は破裂し、周囲に中身をぶちまけた。

「何!?」

「二人とも、早く!」

 恐怖で身動きの取れなかった由起子と茜は、勇気を振り絞って立ち上がり、サイギャングの脇をすり抜けて外へ飛び出した。瑞佳も後に続いた。

「あ、猫ちゃんが!」

 逃げ出そうとした瑞佳の視界に、先程蹴り飛ばされた猫が映る。瑞佳は躊躇わずにそちらに駆け付けて猫を抱きかかえた。

「良かった、生きてる」

「瑞佳!」

 茜が呼ぶ声に反応し、彼女の方へ戻ろうとする。だが、壁をぶち破って外にでたサイギャングに阻まれる。

「あ……」

 猫を抱えたまま、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまう。

「よくもやってくれたな……人質は、あいつらがいれば良い。お前は殺す!」

 怒りの篭った目をした怪人が、両腕を振り上げてゆっくりと近づいてくる。怪人の腕にどれ程の力があるかわからないが、おそらく瑞佳の頭は、簡単に砕かれてしまうだろう。それともあの角で貫かれてしまうのか? 瑞佳は観念したように、きつく目を閉じる。次第に周囲の音も、抱いている猫のぬくもりも手の痛みも感じなくなる。全ての外部情報を遮断した瑞佳の脳裏に浮かんできたのは、幼馴染の姿だった。

「(浩平……)」


 浩平の母親が行方を晦まし、親戚の由起子に引き取られてこの街にやってきた時に、浩平と瑞佳は出会った。妹のみさおと二人で遊んでいた時に瑞佳の方から声を掛けた。とても寂しそうにしていたのが気になった。まずみさおが瑞佳に懐き、最初は打ち解けなかった浩平も次第に話すようになり、瑞佳を通じて茜を始め多くの友達を作っていった。

 浩平は、母親が居なくなった寂しさが紛れてくると、本来の明るい性格を取り戻して、様々な悪戯をするようになった。その度に瑞佳は浩平を諌め、時には巻き込まれながらも世話を焼いていた。それがどのような気持ちからくるものなのか、分からない瑞佳ではなかったが、表面上は只の幼馴染を装っていた。高校に進学しても浩平の奇行は止まらず、瑞佳達の気苦労は絶える事が無かった。しかし瑞佳も茜も、何処と無く嬉しそうだった。

 そんな浩平も数日前、妹のみさおの治療のために、数年ぶりに姿を見せた母と共に何処かへ出かけてしまった。彼はまた戻ってくると言っていたが、もしかしたら母と暮らすようになって、ここには帰ってこないかもしれない……。みさおの病気が治るのは嬉しいが、彼らと一緒に過ごせなくなるのは悲しい事だった。瑞佳も茜も浩平の側に居たくて、親に無理をいって由起子の寮に住むようになったのだから。


「……死ね」

「浩平!」

 冷酷なサイギャングの声が聞こえると、瑞佳はより強く前を閉じて幼馴染に名前を呼んだ。怪人は哀れな少女の頭を砕こうと腕を振り上げ、思い切り瑞佳に叩きつける。

「!!」

 由起子も茜も顔を背け目を閉じる。が、何時まで待っても惨劇を示す音は聞こえてこなかった。恐る恐る目を開け、瑞佳の方を見る。そこには、怪人を蹴り飛ばした青年の姿があった。


 瑞佳は目を閉じ、最後の瞬間を待っていた。だが何時まで待ってもその瞬間は来ない。何か物音が聞こえたがそれは自分に怪人の拳が叩きつけられた音では無い。

「おい、瑞佳! 大丈夫か?」

「(え?)」

 自分の良く知る声。だがそれは、今此処に居ないはずの人物の声。もしかしたら、もう二度と聞く事が出来ないかもしれない幼馴染の声。瑞佳はそっと目を開けて、自分を庇うように立つ青年を見た。

「……浩、平?」

「あぁ、折原浩平だ」

 浩平は瑞佳を見ていうと、直ぐに向き直った。浩平の視線の先では、サイギャングが起き上がっていた。

「浩平!」

「話は後だ。早く逃げろ!」

 浩平に言われるままに、瑞佳は立ち上がり由起子達の居る所まで走っていく。浩平は見送る事無く、身構えてサイギャングと対峙した。

「現れたか!」

「ふざけた真似しやがって。テメェは許さ……おわぁ!?」

 サイギャングは腰を落とすと、低い体勢で突進してきた。驚いた浩平は間一髪で攻撃ををかわす。サイギャングは走り続け、庭木にぶつかり、頭の角で貫いてしまう。怪人が角を引き抜いて振り向くと、穴の開いた木は音を立てて折れてしまう。

「ギィッ!」

 次にサイギャングは一声叫ぶと、飛び上がって上空から浩平に襲い掛かった。浩平は紙一重でかわし、怪人が着地した瞬間を狙って蹴りを繰り出すが、それは怪人の手に受け止められた。サイギャングは腕に力を込めて足を握りつぶそうとする。浩平はもう片方の足で怪人の腕を蹴り、力の緩んだ隙を付いて足を引き抜いた。サイギャングが起き上がり様に振り回した腕をしゃがんでかわした浩平は、続けて放たれた怪人の回し蹴りをバク転でかわして間合いを取る。

「くそっ」

「どうした、お前の力はそんなものか?」

 浩平はサイギャングの攻撃をかわし、幾度となく打撃を与えるがどれ一つとして有効打にならなかった。次第に浩平の心に焦りが生まれる。このままでは怪人に勝てないのは明白だった。一方のサイギャングは余裕たっぷりの様子で浩平に襲い掛かってくる。

「(こうなったら……だけど……)」

 自分には強大な力がある。しかし浩平はその力を瑞佳達の前で使う事に躊躇っていた。自分は人間であって人間でない、改造人間になってしまった。その変わり果てた姿を見たとき、彼女達は何と言うだろうか? 恐れ、拒絶されるかもしれない。今では心の拠り所となっている皆に拒絶されるのが怖かった。その迷いが浩平に、少しずつ後退させていた。

「しまった!」

 サイギャングとの戦いで、抉られた地面に足を取られた浩平にサイギャングのタックルが決まる。角を回避したものの、肩口からの突進を受けた浩平は、防御する間もあらばこそ瑞佳達の所まで飛ばされた。

『浩平!』

 由起子と瑞佳、茜が彼の元に駆け寄って抱き起こした。

「皆、離れてろ!」

 浩平は立ち上がると、彼女達を庇うように前に出る。身構えるがこのままではどうしようもない事を自分自身、良く分かっていた。そこへ、戦いの音と共に現れた仮面ライダーの声が飛ぶ。

「折原! お前はその人達を護るんじゃないのか!? 護りたい人がいるんだろ、護りたい物があるんだろ? そしてお前には護れるだけの力がある。だったらその力を使え、躊躇うな!」
 

                           ★   ★   ★


 浩平が寮に向かった直後、ライダーとギリザメスの戦いも始まった。腕を掴まれたギリザメスが回し蹴りをライダーの腹部に叩き込む。怯んだライダーの肩を掴むと、引き剥がすように投げ飛ばした。ライダーは流れに逆らわずに、自分から飛んで地面を転がり、間合いを取った所で身を起こす。

「ガブガブゥ!」

 ギリザメスは左腕を振り回して襲い掛かってくる。ライダーは袈裟、逆袈裟と来る怪人の攻撃を、左右へ身を動かして避ける。次いで正面から繰り出された突きを手刀で打ち払う。ライダーはパンチを打ち込むが、これはギリザメスに受け止められる。反撃とばかりに再び突き出された怪人の腕は、ライダーに受け止められた。お互いの攻撃が止められ、力が拮抗したかのように動きが止まるが、ギリザメスは頭の角で攻撃してきた。ライダーはしゃがんで回避すると、自ら後ろに倒れこみ、巴投げの要領で怪人を投げ飛ばした。その際にお互いの両手も離れ、怪人は道路を転がっていく。お互い即座に立ち上がり、再び構えを取って対峙する。

 ゆっくりとギリザメスが動くのに合わせてライダーも歩き出す。お互い一定の距離を保ったまま、徐々にスピードを上げていく。突然怪人が止まると、ライダー目掛けて飛び込んできた。頭部の角を突き出し、矢のように迫ってくる。

「くっ!」

 ライダーは勢いのままに走りぬけ、怪人の攻撃を回避した。ギリザメスはライダーの脇を通り過ぎ、道路わきに生えていた木々を数本薙ぎ倒した所で止まる。

「トォッ!」

 今度は、ライダーがギリザメスに飛び掛る。背を向けている怪人に手刀を叩き込むが、それはかわされる。側面に回りこまれたライダーだが、怪人の方を見ずに出した前蹴りが決まり、ギリザメスは飛ばされる。ダメージを受けた怪人は、ライダーに背を向けて林の中へ逃げ出した。

「待てぃ!」

 ライダーもギリザメスを追って林の中を駆けていく。

「ガブガブゥ!」

 木々を避けながら逃げていたギリザメスが突然立ち止まると振り返り、先程と同様に角を突き出して飛び込んできた。丁度ライダーの両脇に木が生えており、回避を諦めたライダーは、両手を伸ばして怪人の肩を掴んで攻撃を受け止めたが、勢いに押されて数歩後退する。ライダーは一瞬自分の方に怪人を引き付けた後、突き飛ばす。離れた空間を埋めるように、ライダーは怪人目掛けて蹴り上げた。ギリザメスは身体を半身にして回避し、ライダーの足を掴むと力任せに投げ飛ばす。ライダーは地面を転がり、身を起こそうとするが、それより早く近づいて来た怪人に圧し掛かられる。

「死ね!」

 自分の頭部目掛けて突き出された怪人の左腕を、首を動かしてかわす。怪人が腕を引き抜くより先に、今度はライダーのパンチが相手の顔面に当たる。その隙にライダーは身体の位置を入れ替え、自分が上になる。ギリザメスも負けじと、攻撃しては身体を入れ替えた。数回転した所で、下になったライダーがギリザメスの腹部を蹴り上げ、引き剥がす。お互いに身を起こして対峙した所で、ライダーは周りの景色が変わっているのに気づいた。何時の間にか林を抜け、浩平達の住む寮の庭に飛び出していたのだ。怪人の背後には、燃え盛る寮と、数人の人影が見えた。

「折原!」

 女性達を庇うように立っている浩平と、その前に立つサイの怪人を見たライダーが叫ぶ。その隙にギリザメスが襲い掛かり、ライダーに組み付く。ライダーは怪人の腹部にパンチを入れて引き剥がし、追撃とばかりに相手の腕を掴んで振り回して投げる。間合いが開いたのを狙って、ライダーは浩平達の所へ駆けつける。だが、即座に起き上がった怪人が追いかけてきたので、ライダーは向き直り、首だけを浩平達の方に向ける。そちらでは、依然として怪人と浩平の睨み合いが続いていた。何故か躊躇っている様子の浩平を見たが、ギリザメスの所為で駆けつける事が出来ないライダーは叫んだ。

「折原! お前はその人達を護るんじゃないのか!? 護りたい人がいるんだろ、護りたい物があるんだろ? そしてお前には護れるだけの力がある。だったらその力を使え、躊躇うな!」


                           ★   ★   ★


 ライダーの叫びを聞いた瞬間、浩平は決心した。大切な人達を護る、みさおが「皆で仲良く暮らせたらいいね」と言っていたこの世界を、人々を護る。その為にこの力を使うと。浩平は微笑むと前を向いたまま、後ろに居る皆に静かに話しかけた。

「由起子さん、瑞佳、茜。大丈夫だから」

「え……?」

 浩平の、今まで見たことの無い態度に三人は、今の状況も忘れて戸惑っていた。そんな三人に、浩平は静かに語りかける。

「俺は、こんな姿になっちまったけど……」

「何を……?」

「それでも、皆を護る……この力を使う!」

「浩平……?」

「変身するんだ!」

 彼女達を振り返る事無く、浩平は足を開いて立ち、指先を揃えた両腕を軽く左に振ってから、今度は右側に地面と水平になるように伸ばす。次に両腕をゆっくりと反時計周りに動かしていく。

「変身!」

 ライダーが言う通り叫びながら、両腕が真上に来た辺りで止めると手を握り素早く振り下ろし、左腕は力瘤を作るように、右腕は胸の前に引き付けるように曲げる。

 すると浩平の腰にベルトが現れて中央のカバーが開き、中から風車が現れ回転しつつ発光し、その光は浩平の全身を包み込む。光が消えると、浩平の姿が変わっていた。

「いくぜ!」

 変身を終えた浩平は、サイギャングに向かっていった。


 瑞佳達は、目まぐるしく変わる状況の変化に、取り乱す事は無かった。だがそれは単純に、付いていけなかっただけなのかもしれない。或いは、既に感覚が麻痺しているのかも知れなかった。

 突然の火事と謎の怪人の襲撃。危機を救ったのが、数日前に居なくなった浩平。怪人と戦う浩平の所に現れた、別の怪人と緑の仮面の戦士。仮面の戦士が叫ぶと、浩平は変身して戦士と同じ姿になった。その浩平が今はサイの怪人と戦っている。

「何が……どうなっているのでしょう?」

「さぁね……」

 茜も由起子も、そう会話するのが精一杯だった。今は、仮面の戦士と鮫の怪人、変身した浩平とサイの怪人と言う戦いの図式が出来上がっている。

「本当にあれ、浩平なの?」

 由起子がふと呟いた疑問に、瑞佳は確信めいた口調で答えた。

「あれは……浩平だよ」

 瑞佳の声に、茜も頷く。困惑しているのは事実だが、あれが自分達の知る折原浩平であるのは間違いなかった。雰囲気、仕草、話し方……。ずっと側で見てきた自分達が見間違えるはずも無い。そう付け加えると、由起子も確信する。

 何故あんな姿になったのか? 別れてから浩平に何があったのか? みさおはどうしたのか? 聞きたい事は沢山あった。だが今はただ、浩平の勝利を願っていた。


                           ★   ★   ★


 浩平に叫んだ後も、ライダーとギリザメスの戦いは続いていた。近くに人がいるのを確認し、そちらに怪人が行かないように牽制する。ギリザメスが繰り出した蹴りを半身になってかわしつつ踏み込んで、カウンター気味に左の裏拳を顔面に叩き込む。転んだギリザメスにパンチを打ち込もうとするが、怪人が足払いを仕掛けてきたので、ライダーは飛び上がって回避した。怪人は転がって間合いを取った所で起き上がる。

「ガブガブゥ!」

 再度ギリザメスがライダーに襲い掛かる。今度は左腕を連続で突き出してきた。

「くっ」

 ライダーは怪人の攻撃を左右にかわして反撃に出ようとするが、怪人も今度は慎重になって隙を見せなかった。ライダーは徐々に後退していく。そしてライダーは、まだ燃えていない建物の壁際まで追い詰められた。此処に来てもギリザメスは大振りの攻撃をする事なく、ライダーの動きを見て腕を突き出す。だが、ライダーの胸元目掛けて突き出された腕は、寸前の所でかわされる。

「何!?」

 ライダーが素早くしゃがんだ所為で、ギリザメスにはライダーが消えたように見えた。ライダーは左右の動きを多用していたが、突然上下の動きに変化した事により、慣らされていた怪人の目は、相手を見失ってしまったのだ。

「ライダァーッ、パァーンチッ!」

 立ち上がりながら繰り出したパンチは、ギリザメスの腕を粉砕する。

「ライダァーッ、チョォップッ!」

 続いての手刀で、怪人の角を切り落とした。自分の武器を連続で破壊されたギリザメスは、残った右腕で頭を押さえて悲鳴を上げながら暴れまわった。

「トォッ!」

 止めとばかりに、ライダーは高く飛び上がり

「ライダァーーーーッ」

 空中で一回転すると、強烈なキックを打ちはなった!

「キィーーーーック!!」

 キックが命中したギリザメスは宙を舞って地面に激突し、爆散した。


                           ★   ★   ★


 変身を終えた浩平は、サイギャングに向かっていった。だが浩平が攻撃を繰り出すより早く、怪人が突進してくる。かわせば自分の後ろにいる瑞佳達が危ないと判断した浩平は、サイギャングを受け止めようと立ち止まった。突進してきた怪人の角と肩を掴んで足に力を込める。

「くっ……」

「何!?」

 僅かに後退したものの、浩平はサイギャングの突進を受け止めていた。一方の怪人も、自分を受け止めた事に驚愕し、角で浩平を貫こうと更に力を加えてきた。

「くそぉ……負けるかぁ!」

 背後に居る瑞佳達を護ると誓った浩平は奮起し叫ぶ。腕に力を込め、サイギャングの角を持ち上げる。怪人の上体を起こすと、肩を掴んでいた手を放し、怪人の顔面にパンチを打ち込んで横へ投げ飛ばす。

「ぐぉぉ」

 投げ飛ばされたサイギャングは、堪らず地面を転がり浩平から離れた所で立ち上がる。だが怪人が身構えた時既に、浩平が間合いに入っていた。

「テメェは……絶対に……赦さねぇ!!」

 浩平は叫びながら、連続でパンチを叩き込む。よろめく怪人に止めとばかりに大振りのパンチを撃つがかわされ、逆に懐に入られてしまう。サイギャングはしゃがんだ体勢から立ち上がる勢いを利用してパンチを撃つが、浩平は仰け反ってかわす。次いで棒立ちの状態に近い浩平に、怪人は回し蹴りを撃つ。蹴りは浩平の腹部に決まる。

「……何!?」

 浩平の身体がくの字に曲がり、サイギャングはダメージを与えた事に満足して足を引き抜こうとするが、浩平に足を掴まれてしまう。

「効かねぇよ!」

 浩平は掴んだ足を持ち上げてサイギャングのバランスを崩すと、怪人の足を払って転ばせた。次に怪人の両足を掴むと、振り回し、充分に速度が乗った所で、頭上に掲げてから地面に叩きつける。

「ライダァーーーーッ、キィーーーーック!!」

 ライダーの方を見ると、ライダーが怪人を倒す所だった。飛び上がって空中で回転し、キックを放つ。ついライダーを見てしまった隙をサイギャングは見逃さず、手元の土を掴んで浩平に投げつける。思わず顔を覆ってしまい、手を放してしまう。

「ギギィ!」

 サイギャングは低い体勢からタックルをし、まともに食らった浩平は転んでしまう。

「死ね!」

 怪人が突き出した角を、浩平は寝転んだ状態で両手で受け止めると、怪人の腹部を蹴った勢いを利用して投げ飛ばす。即座に起き上がり、怪人の攻撃に備えた。投げられたサイギャングは少し離れると、又しても突進してきた。

「いい加減に……」

 浩平は角を片手で掴んでサイギャングの身体の向きを強引に変えた。

「しやがれ!」

 次いで軽く飛び上がってから、手刀をサイギャングの角の根元に叩き付ける。

「グアァァーーッ!」

 角を折られたサイギャングは地面を転げまわる。浩平は怪人を掴んで立たせると殴り飛ばした。

「(よし、あの技で)トォッ!」

 止めとばかりに、浩平は高く飛び上がると、先程見たライダーのキックを真似る。

「ウォォーーッ!」

 空中で一回転すると、強烈なキックを打ちはなった!

 キックが命中したサイギャングは宙を舞って地面に激突し、爆散した。


                           ★   ★   ★


 翌日
 怪人を倒した後、漸く到着した消防隊の活躍によって建物の火災は消し止められた。幸いにして焼けた部分はそれほど多くなかったが、由起子達は事後処理に追われ、浩平と落ち着いて話が出来るようになったのは、翌日になってからだった。今は延焼を免れた一室に、祐一含め全員が集まっていた。

 部屋の中は沈黙が支配していた。事情を話さねばならないことは重々承知してはいるが、浩平が話し出すきっかけを掴めないまま、時間が過ぎていく。由起子達も、浩平を急かすような事はせず、時折祐一に視線を向けたりしながら、じっと彼が話し出すのを待っていた。祐一の事は浩平から簡単に説明があり、自己紹介もしたものの、由起子達が向ける視線には、疑問や警戒といったものが含まれている。

「あれから何があったかって言うとだな……」

 重苦しい空気を振り払うかのように、浩平が口を開いた。只その口調は部屋の空気のように重い物だった。

 母に連れて行かれたのはカノンのアジトだった事
 カノンは世界征服を企み、様々な兵器、改造人間を作り出している組織だという事
 そして、自分も改造されてしまった事
 母も殺され、みさおも連中の実験の犠牲となって死んでしまった事
 ここに居る祐一も、改造人間――仮面ライダー――で、自分はライダーに助けられた事……。

 浩平が頭の中で整理しながら話し、時折祐一が補足を交えた。

「……」

 浩平達の話が一通り終わると、部屋の雰囲気は更に重苦しい物になる。瑞佳達は口元を抑えて俯いていた。そうしなければ、泣き叫んでしまいそうだったから。しかし押さえ切れなった嗚咽が時折漏れてしまう。まさか浩平の身にそんな事が起きていたとは夢にも思わなかった。みさおが元気になり、家族全員仲良く暮らしていくものだと思っていた。あわよくばこの街に戻ってきて、また今まで通りに過ごせれば良いと。

「世界征服だとか、怪人だとか……普通じゃ考えられない話よね」

「ですが、本当の事なんですね……」

「浩平が……みさおちゃんが……」

 各自、気持ちを落ち着けるのに暫くの時間を要した。時間が過ぎて行き、やがて由起子が口を開く。

「まぁ、実際に関わったからには信じるしかないわよね。あ、そうそう浩平」

「何?」

「言うのが遅れたけど、お帰り。それと、助けてくれてありがとうね、相沢君も」

「お帰り」

「浩平、お帰り」

「……ありがとう、みんな」

 幾分か気持ちが落ち着いた由紀子たちがお礼を言うと、浩平も礼を返した。浩平は、改造人間となってしまった自分に、皆がどう接してくれるのかが不安だった。皆を護る、その為なら自分が改造人間である事を明かしても構わないと決心したものの、「化け物」と呼ばれて拒絶されるのでは? という不安を振り払う事が出来なかった。しかし彼女達が浩平に向ける視線は、以前と全く変わる所が無かった。

「俺は……もう、普通の人間じゃない。みんなの知っている折原浩平じゃない。だから、皆に拒絶されるんじゃないか、怖がられるんじゃないかって……」

 礼の意味が分からなかった由起子達に、浩平が訳を話した。それを聞いた彼女達は優しく微笑んだ。

「浩平」

「ん?」

「浩平」

「何?」

「浩平」

「だから、皆して何だよ?」

 皆に名前を呼ばれ、困惑する浩平に、瑞佳が微笑みながら言う。

「『浩平』って呼ばれて返事したよね?」

「あぁ」

「だから、貴方は浩平なんだよ。私達の知っている『折原浩平』だもん」

 瑞佳の言葉に、由起子も茜も頷いていた。浩平がもう一度礼を言うと、部屋の空気も幾分か軽くなった。浩平が皆に受け入れられると、突然祐一が席を立った。

「相沢?」

「折原、お前はこれからどうするかを皆と話し合うんだ。俺は外に出ている」

 今までの事は受け入れてもらえた。次は今後の事を浩平達で決めなければならない、秋子達が自分達だけで考えたように。祐一は部屋を出て行こうとしたが、ドアに手を掛けた所で浩平達に振り向き、真剣な面持ちで告げる。

「折原、お前が力を使わずに、普通の人間としてここで皆と静かに暮らしたいなら、それでも構わない。だがな……もしお前がその力を使って人類の敵に回るなら……カノンと同様の存在に、或いはヤツラの仲間になるというなら……俺はお前を全力で破壊する」

 祐一はそれだけ言い残し、部屋を出て行った。

「相沢……」

「……浩平」

 祐一の出て行ったドアを見つめ、浩平が呟く。そんな浩平を見て、瑞佳達が不安げに声を掛けると、浩平は皆の不安を払拭するように明るい声を出した。

「心配するなって、俺はカノンにこれだけの事をされたんだぞ。連中の仲間になんかならねぇし、人類の敵とやらにもならねぇよ」

「では、どうするのですか?」

「浩平……ここで前みたいに皆で暮らそうよ。ね?」

 茜の質問、瑞佳の懇願に浩平は真剣な表情になって答えた。

「俺は……カノンと戦う」

 瑞佳達の前で変身した時から決めていた。この力を使ってカノンと戦い、人々を護ると。復讐の為だけではない、復讐の気持ちが無い訳ではないが、それよりも先ず人々の自由と平和の為に戦う。全ての人を救える筈も無いが、自分や相沢が戦う事で確かに救われる命もある。

「これは、アイツの受け売りだけどな」

 戦いの後、浩平が祐一に「何の為に戦っているのか?」と質問して、帰ってきた答えがそれだった。自分も祐一の答えに同調し、
今こうして皆の前で自分の決意として語った。

「(だけど……)」

 先の言葉に加えて祐一は「偉そうな事を言ってるが、俺は何度か怒りで我を忘れ、復讐の為だけに戦った事がある」と寂しげに話した。精神感応で伝わる深い悲しみに、浩平は何も声を掛けられなかった。

「浩平?」

「ん? あぁ、俺がこんな事言うのは変か?」

「ううん、そうじゃなくって。何か考え込んでいるみたいだったから」

「あぁ、今後の事を考えていたんだ」

 祐一の事は話さず、これからの事を皆に話した。

「俺は此処を出て行く。そしてカノンと戦う」

 瑞佳と茜の目には、彼を引きとめようという意志が窺えたが、どう説得していいのか分からず、又おそらく彼の決意を覆す事は出来ないとも感じたので何も言わなかった。由起子は浩平に同意した様子で、頷くと彼に尋ねる。

「浩平。行って戦ってくるのは良いけど、全部終わったらちゃんと帰ってきなさいよ」

「え? 戻ってきて……良いの?」

「当たり前でしょ、此処はあんたの家なんだから」

 躊躇いがちに聞く浩平とは対称に、由起子ははっきりと答えた。次に彼女は意味有り気に瑞佳と茜を見つめる。二人とも何か考えていたようだが、頷くと茜が話し出した。

「浩平、いつ旅立つのですか?」

「ん? まぁ相沢と一緒に行くつもりだから、早い方がいいよな」

「そうなんだ、じゃあ支度を急がないといけないよね」

「瑞佳。俺の支度だったら、別に手伝ってくれなくても……」

「私達の支度だよ。由起子さん、猫ちゃん達のことですけど……」

「あぁ、いいよ。瑞佳がいなけりゃこれ以上増える事もないだろうし」

「お、おい! お前達も来るつもりなのか!?」

 さも当然のように話す彼女達の様子に、浩平は慌てた。だが彼女達の決意は変わらずに、逆に浩平を心配する。

「浩平、朝は起きられる? ご飯は?」

「う……」

「はぁ〜、だから心配なんだよ。相沢さんにも迷惑かけそうだもん。だから付いていくよ」

「ですね」

「うるさいぞ、だよもん星人! あと茜、朝が弱いのはお前も一緒だろうが!」

「はい、瑞佳に起こしてもらわないといけませんから、彼女が行くなら私も浩平と一緒に行きます」

「どういう理屈だよ」

「それに浩平、貴方が間違った――相沢さんが言われた――方に力を使わないように監視しないといけませんから」

 二人の気持ちは嬉しかったが、明らかに危険な旅に巻き込む事は出来なかった。浩平は何とか説得しようとしたが、二人の決意は固く、翻意させることは出来なかった。

「本当に危険なんだぞ?」

「分かってるよ」

「大丈夫です」

「わかった。でも、相沢が駄目といったら諦めろよ」

 浩平は、せめてこの二人だけは自分が全力で護ろうと誓った。次に由起子を見る。彼女もまた、微笑んで浩平を見ていた。浩平の決断に満足している様子だった。

「あぁ、あたしは行かないからね。まだ此処には護らなきゃいけない子供達がいるんだから……行ってきなさい」

「由起子さんの方も、気をつけて」

 浩平がそう言うと、由起子は微笑んだまま彼の頭を軽く小突いた。

「あんたに心配されるような由起子さんじゃないわよ」

 それは、昔から何かと自分に気を使おうとする浩平に対し、由起子が決まってする行為だった。

「……でも、何かあったら何処からでも助けに来なさい。あと、相沢君に迷惑かけるんじゃないわよ」

「……あぁ」

 変わらない彼女達の優しさに感極まった浩平は、涙を悟られないように、急いで部屋を出て行った。


                         ★   ★   ★


 外に出た浩平は涙を拭いて表情を改めると、祐一の姿を探した。祐一はバイクの整備をしており、浩平には気づいていない様子だったので、自分から声を掛ける。

「決まったか……で、どうするんだ?」

 整備の手を止め、こちらに向き直る祐一に、浩平は真剣な面持ちで答える。

「俺は……カノンと戦う!」

 自分も祐一の戦いに連れて行って欲しい事

 瑞佳と茜も同行したいと申し出ている事も告げた。

 共に戦う事は勿論、意外な事に祐一は瑞佳達が同行する事に付いてもあっさりと了承した。そのかわり、彼女達の事はきちんと守れ、と付け加えた。

「それと……俺も名乗れるか?」

 短い質問だったが祐一は意味を理解し、答えた。

「カノンと戦うのなら、人類の自由と平和のために力を使うと言うのなら……お前も名乗れ、『仮面ライダー』を!」

「あぁ……俺は……『仮面ライダー』だ!」


                           ★   ★   ★


 水瀬家・リビング

「……俺は仮面ライダーを名乗り、相沢と一緒に行動したり時には別行動を取ってカノンと戦っていたんだ。途中、カノンがヨーロッパで活動を始めたって情報を得たんで、あいつは向こうに行き、俺達がこの街に来たって訳さ」

 浩平達の話が終わり、皆一息入れようと出されていた飲み物で喉を潤す。飲み物の温さが話の長さを物語っていた。

「分かりました。浩平さん、瑞佳ちゃん、茜ちゃん。ありがとうございます」

 話してくれた事、助けてくれた事等全てを含め、秋子が浩平達に頭を下げると名雪達も倣う。

「こちらこそ、ありがとうございます。私達を受け入れてくれて」

 お互いに礼を言い、そしてこれからは共に戦う仲間としてよろしくお願いします、と続ける。

「でも、ちょっとややこしいね」

 話が一段落ついた所で、名雪が困った顔をして言い、皆の目が向いた所で名雪が話し始めた。

「祐一も折原君も仮面ライダーでしょ? 一人ならともかく、二人揃ったらどっちかを呼ぶときに困るよ」

「あぁ、それなら……相沢が仮面ライダー一号、俺は仮面ライダー二号だ」

 色々考えたが、結局簡単な呼び方に決まったと付け加えた。名雪達もその呼び方に納得したようで、それぞれに頷いていた。

「これからはこの俺、仮面ライダー二号の活躍にご期待下さい、って所だな」

 浩平の口調は明るく、おどけていたが目に宿る意志は強い物だった。秋子達も新しい味方を向かえ、カノンとの戦いの決意を新たにした。




 後書き


 こんにちは、梅太呂です。久しぶりの投稿となりますカノンMRS44話をお届けです。

 なんか出だしが前回と同じですが^^;

 ようやく本編に……と行きたいのですが、番外編、というか閑話みたいなものを挟む予定です。

 制作はこれからなので、またいつ投稿できるか疑問ですが(汗 気長にお待ちいただければ幸いです。

 今回の後書きはこの辺で。

 最後に、この作品を掲載してくださった管理人様

 この作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにいたします
 

 ありがとうございます。                            梅太呂










 




 


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