「まだ殺しはせん。こいつも連れて行け!」

 威力を抑えて、舞を気絶させたエイキングは、別の戦闘員に指示を出して彼女を運ばせた。エイキングの言葉を証明するかのように、戦闘員に担がれた舞は呼吸をしていた。その事が、一先ず秋子達を安堵させた。

「よし、引き上げるぞ。お前達はここに残り、他の者達も連れて来い!」

「イーッ」

 エイキングは別の戦闘員達に指示を与えると、秋子達を連れた者達と一緒に百花屋を出て行った。




                  Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第二部・四十二話
       



 百花屋前
 秋子達がエイキング達に連れ去られてから暫くして、浩平達が戻ってきた。にこやかに話す香里達や瑞佳達とは裏腹に、浩平の表情は優れなかった。その原因は彼女達と浩平の持ち物の差に起因している。

「……おい、何で俺が全員の荷物を持たなきゃイカンのだ!?」

 自分の分は当然として、何故か浩平は瑞佳達の分と更に香里と美汐の荷物まで持たされていた。

「浩平、私達はこれからお世話になる身です。香里さん達の荷物位持つのは当然です」

「……じゃあ、茜達の分まで持つのは何故だ!?」

「男性の甲斐性です」

 茜にキッパリと宣言され、浩平は何も言えなくなってしまった。瑞佳や香里達はそれでも自分達の分は持とうとしたのだが。皆の荷物を持たされ憮然とした表情の浩平だったが、その足取りは荷物の重さを微塵も感じさせなかった。

「あら、カーテンが下りてる?」

「変ですね」

 百花屋前まで来た時、先頭を歩いていた香里と美汐が店の異変に気づいた。今は休憩中だが、それでも店のカーテンを下ろすなど無かった筈だった。

「何かあったのかしら?」

 店の入り口まで来た香里は警戒しつつドアを開ける。カーテンが下りているのでもしやと思ったが、考えに反してドアはゆっくりと開いていく。

「秋子さん、名雪……?」

 香里は名前を呼びながらゆっくりと店内に入っていった。美汐達も彼女の様子を見て、周囲を警戒しつつ店内に入っていく。

「変ですね……あら?」

「どうかした?」

「ここ、床が焦げています」

 美汐が指した箇所を見ると、たしかに床板が黒く変色していた。他にも似たような箇所が幾つか見つかる。又テーブルの上に何も乗っていなかったり、位置がおかしい等異変が多々発見された。この頃には浩平達も店内に入っていて、周囲を見回していた。

「……家の方に行ってみるわ」

「イーッ!」

 香里が残った皆に言いながら住宅へのドアを開けると、そこに立っていた戦闘員が襲い掛かってきた。

「え? キャッ!」

「ふせろ!」

 浩平の鋭い叫びのままに、香里は咄嗟に身をかがめた。その空間を浩平の投げた砂糖瓶が飛んでいき、戦闘員に当たる。香里が下がると同時に浩平が飛び出し、怯んでいる戦闘員の襟首と腕を掴み、店舗の床へ投げつける。

「イ゛ーッ」

「浩平、後ろ!」

 追い討ちの手刀を叩きこんで戦闘員に止めを刺した所で、瑞佳の叫びが聞こえた。言葉通りに振り向くと、裏口と住宅の廊下から新たな戦闘員達が襲い掛かって来た。

「ちっ!」

 浩平は、倒した戦闘員の持っていた短剣を拾うと、横に構えて戦闘員の攻撃を防いだ。だがその隙に、裏口から現れた戦闘員が浩平に斬りかかって来た。

「やらせない!」

 香里の言葉と共に投げられたフォークが戦闘員の顔に当たった。それで倒されるような相手では無いが隙を作るには充分だった。浩平は相手の腹部に蹴りを入れて引き離すと、一歩踏み込んで、戦闘員に短剣を突き刺した。急所に刺さったのを確認する間も無く、香里がフォークを投げつけた戦闘員に向かう。短剣を持った腕を取り、自分に引き付けると同時に繰り出した肘を戦闘員の胸元に当てる。次いで首を掴んで振り回し、壁に叩き付けた。

「現れやがったな!」

「く、苦しい……」

 戦闘員が苦しげに声を上げた。突然の事態に半ば呆然としていた美汐だったが、今の状況が飲み込めてくると、押さえつけられている戦闘員に詰め寄った。

「秋子さんは、皆さんは何処ですか!?」

 その頃にはすでに香里は住宅の中に入っており、秋子達を探して家中を見て回っていた。

「言えよ」

「グ……い、言う。言うから……」

 浩平が力を込めると、観念した戦闘員が喋り始めた。彼が、常人では太刀打ち出来ないはずの戦闘員を押さえつけている事に、誰も疑問に思わなかった。只美汐と香里に関しては、余りの事態にその事まで気が回っていないと言うのが正しかった。

「そ、そいつらは……以前、アジトを……作った所に、連れて……行った。お、俺達は……残った連中を、連れて行く為に、残った」

「何ですって!?」

「家には誰も居なかったわ!」

 戦闘員の言葉を証明するように、香里が戻ってきて報告した。そして彼女の手には、リビングに無造作に置かれていた舞の刀が握られている。皆の視線が一斉に戦闘員に向く。

「アジトを作っていた所とは? 何の為に連れ去ったのですか!?」

「も、ものみの丘って、所だ……。全員を……い、生贄にする為に……」

「生贄!?」

「!!」

 生贄、という言葉を聞いた瞬間に香里と美汐は店を飛び出そうとした。だが、瑞佳と茜に止められる。

「どいて!」

「駄目だよ!」

「何故ですか!?」

「闇雲に突っ込んでは相手の思う壷です。落ち着いてください」

 普段は冷静な二人も、この時ばかりは瑞佳達の言葉に耳を貸そうとしなかった。取る物もとりあえず駆け出そうとする。しかし、再度瑞佳達が制止する。

「敵の本拠地だよ、きっと怪人もいるよ」

「そんな所へ只行っても秋子さん達を助けるどころか、貴女達も掴まって全員殺されてしまいます」

 彼女達の再度の説得を聞いて、香里達もやや躊躇いを見せた。浩平は瑞佳の話を聞き、締め付けている戦闘員を尋問した。

「どうなんだ、怪人は居るのか?」

「い、いる……。エイキングという、電撃と痺れ毒を操る改造人間だ。俺達は、そいつの指示で……」

 此処に来て、香里も美汐も飛び出そうとはしなかった。あの舞が居たにも関わらず攫われてしまったという事は、その恐ろしい怪人が強襲したに違いない。抵抗したが力及ばず、連れ去られてしまったのだ。諦めるという選択肢など最初から無いが、どうすれば秋子達を助けられるのか、という答えも考え付く事が出来ないでいた。

「(相沢君……)」

「(相沢さん……)」

「くそぉ、相沢と約束したのにな……攫われちまうなんて……」

「「え!?」」

 自分達だけでは力が足りず、つい最大の味方の事を考えていた香里と美汐に、浩平の呟きが聞こえた。自分達の考えていた名前と同じ名前が出てきた事に驚き顔を上げる。

「ですが浩平、助け出す事は出来ます。その人の言う事が本当なら、秋子さん達は無事の筈です」

「そうだよ! 名雪ちゃん達は絶対に助けるもん!」

 悔やんでいる浩平に、茜と瑞佳の激励が飛ぶ。浩平も二人の言葉を聞き、助けると言う決意を新たにした。そんな三人の様子を見ていた、浩平達を疑っている香里と美汐は戸惑いを隠せなかった。彼らに嘘が感じられなかったのだ。

「貴方達は……」

「ん? あぁ、俺達は疑われているんだったな」

 香里達の事は全てお見通し、といった感じで浩平が言うが、その態度に嫌味や怒りは含まれて居ない。浩平に続いて茜達も真剣に訴えかける。

「確かに私達は、貴女方に全てを話してはいません。ですが決して貴女方の敵――カノンの人間――ではありません」

「お願い、信じて。一緒に皆を助けようよ!」

「だけど、怪人が相手なのよ……どうすれば」

「ま、俺が居れば大丈夫さ」

「折原さん、貴方は一体……」

 美汐の問いに、浩平は笑みを浮かべて答えた。

「俺は……悪と戦う正義の味方ってところだな」


                           ★   ★   ★


 ものみの丘
 エイキングに掴まった秋子達は、ものみの丘の岩場に連行されていた。切り立った崖を背に、地面に突き立てた柱にロープで縛られている。全員特に怪我もなく舞も痺れから回復していたが、逃げ出す事は出来なかった。エイキング達は彼女達の前に立って様子を眺めていた。

「……使い道があるとか言ってましたが、私達をどうするつもりですか?」

 秋子が普段からは想像できない厳しい表情で問いかけた。エイキングも別に隠す風でもなく、秋子達に答える。

「お前達は、カノン新日本支部建設の生贄として、その命を捧げてもらう。仮面ライダーに潰された組織を立て直すのだ、ライダーに協力するお前たちの命を捧げれば、組織の力もより強固な物になるだろう」

「そんな!?」

 エイキングの返答に、秋子達は絶句する。拘束を解こうと身体を動かすが、ロープは一向に緩む気配を見せなかった。

「無駄な事は止めろ!」

 怪人が腕を振るって秋子達の足元に叩きつけると、火花と小石が彼女達の足元に当たった。威嚇が功を奏して、全員大人しくなってしまう。だが意志までは衰えず、怪人を睨んでいた。

「もうじきお前達の仲間もやってくる。全員揃ったら処刑を始める」

「香里達も!?」

 エイキングは皆の隣に突き立てた柱を見ながら宣言した。怪人を睨んでいた秋子だが、決心するとエイキングに話しかけた。

「私はどうなっても構いません。ですが、この子達の命は助けて下さい」

「お母さん、何て事言うの!?」

「秋子さん、駄目です!」
 
 秋子の提案に、まず名雪と佐祐理が反対した。舞も駄目、と言って秋子を見る。

「ふん、我らに逆らう者は誰であろうと容赦はせん。全員纏めて処刑する」

 エイキングは却下すると、再び腕を地面に叩きつける。

「……佐祐理達を殺しても、佐祐理達の意志を次いでカノンと戦う人達が出てきます」

「仮面ライダーが必ずお前達を倒す」

 佐祐理と舞の宣言を、エイキングはつまらなそうに聞いていた。そこへ、戦闘員が報告にやって来た。報告を受けたエイキングは満足そうに頷き、秋子達に向き直る。

「残りの者達も到着したようだ」

「……」

 程無くして、一台の有蓋付きのトラックがやってくる。近くに停止すると待機していた戦闘員達が、後部のドアを開けようと動き出す。エイキングも秋子達から離れてトラックへと歩いていく。

 その時だった。運転席のドアが開き、戦闘員が降りてきたが、突然動かなくなるとそのまま地面に倒れた。一番近くにいた別の戦闘員が不審に思い中を覗き込むと、突如現れたように見えた足に蹴り飛ばされた。

「イ゛ーッ」

 異変に気づいた残りの者が警戒を強める中、蹴った勢いのままに浩平が飛び出してきた。と同時に後部荷台ドアでも異変が起こる。戦闘員がロックを外し、ドアを開こうとした瞬間、中からドアが蹴り開けられる。戦闘員は運悪く巻き込まれて飛ばされた。

 ドアを蹴り開けたのは香里だった。ナックルガードとブーツを装備、腰にはナイフと銃を差した完全装備で、外に飛び出す。まだ呆気に取られている戦闘員を殴りつけ、蹴り飛ばす。

 浩平も次々と戦闘員を打ち倒していった。捕まえた戦闘員をトラックに叩きつけ、膝蹴りを入れた所で背後に気配を感じてその場を飛び退いた。一瞬前まで浩平がいた空間を、エイキングの腕が通り過ぎていき、戦闘員に当たった。

「イ゛ーッ」

 黒焦げになった戦闘員は悲鳴を上げて絶命した。

「お前達!」

「皆は返してもらうぜ」

 浩平は構えると、エイキングと対峙する。


「香里、と折原君?」

 名雪達は事態の変化に戸惑っていた。香里達がやってくるだろうという予想はついていたが、浩平までやってくるとは思っていなかった。しかも浩平が、素手で戦闘員を次々と倒していく事にも驚いていた。

「名雪ちゃん、大丈夫?」

「え、瑞佳ちゃん?」

 気を取られていた名雪に話しかけたのは瑞佳だった。見れば、秋子達の所にも美汐と茜が立っている。

「助けに来ました」

「直ぐにロープを解きますね」

 浩平達は、全員で秋子達の救出にやって来た。戦闘員にトラックを運転させ、浩平は助手席に隠れて後は荷台に乗り込む。浩平と香里が敵を引き付け、美汐達が秋子達を解放する計画だった。

「さぁ、行きましょう」

「イーッ!」

 トラックの近くまでやって来た彼女達に、戦闘員が襲い掛かって来た。しかし、美汐から愛用の刀を受け取った舞が飛び出して、戦闘員を斬り捨てた。だが皆が逃げ出した事に気づいた他の戦闘員達が彼女達を取り囲んだ。舞達は岩を背に立ち、秋子を庇うようにして武器を構えて戦闘員と対峙する。そこへ、香里と浩平も合流した。

「香里、折原君!」

「名雪、喜ぶのはこの場を切り抜けてからにしましょう。……それが一番の問題なんだけど」

「どうしよう?」

「そうね。でも、彼なら……」

 香里は名雪に話しかけつつ、視線は浩平に向いていた。なぜか、今の彼なら信じられる気がしたのだ。浩平の方はそんな視線を気にする風でもなく、皆を庇うように立っている。

「逃げられはせん。諦めてカノンの生贄となるのだ」

 戦闘員達が取り囲む中、エイキングの声が響く。

「へっ、生贄だとか言ってるが、お前達の本当の目的は彼女達じゃなくて、仮面ライダーなんだろ?」

「その通りだ。我らの敵、仮面ライダーの抹殺こそが至上の目的!」

 浩平の挑発じみた質問を、エイキングはあっさりと認めた。更には、その場にライダーがいるかのように腕を振るう。

「でも、ライダーは居ないよ?」

「……いるさ」

 名雪のふと漏らした呟きを、浩平は聞き逃す事無く答えた。

「え?」

「仮面ライダーは一人じゃない……ここにも居るんだぜ」

「浩平さん、何を……?」

 秋子達が見つめる中、浩平は前を向いたままではあるが、秋子達全員に聞かせるように言う。

「俺は……仮面ライダー!」

『!?』

 浩平の言葉に秋子達が驚く中、彼はそう言うと一旦構えを解いた。そして

 足を開いて立ち、指先を揃えた両腕を軽く左に振ってから、今度は右側に地面と水平になるように伸ばす。次に両腕をゆっくりと反時計周りに動かしていく。

「変身!」

 両腕が真上に来た辺りで止めると手を握り素早く振り下ろし、左腕は力瘤を作るように、右腕は胸の前に引き付けるように曲げる。

 すると浩平の腰にベルトが現れて中央のカバーが開き、中から風車が現れる。

「トォッ!」

 浩平が高くジャンプするとベルト中央の風車が回転しつつ発光し、その光は浩平の全身を包み込んだ。光に包まれた浩平が、トラックの上に着地すると光も消えた。そこには、秋子達のよく知る戦士の姿があった。

「……仮面、ライダー?」

 呟きは誰が漏らしたものか分からなかったが、姿はその言葉通り、多少の差異はあるものの――身体の横にある線が二本ではなく一本。白銀色ではなく、真紅色の手袋とブーツ――、まさに仮面ライダーの姿そのものだった。

「いくぜ!」

 浩平――ライダーはトラックから飛び降りると、近くに居た戦闘員の腕を掴んで持ち上げ、戦闘員の群れに投げ込んだ。怯んだ隙を付いて、秋子達の所まで戻ってくる。

「出たな、ライダー!」

 身構えるライダーに対し、エイキングも構えながら叫ぶ。それに呼応するように、戦闘員達も構えを取り、少しずつ包囲を狭めてくる。

「怪人は俺がやる。皆は……おい、聞いているのか?」

 秋子達は、今までの事にすっかり気を取られており、ライダーの呼びかけに反応出来なかった。茜と瑞佳だけが冷静に対応し、皆に呼びかける。

「事情は後で話します」

「今はこの場を切り抜ける事だけ考えようよ」

「えぇ、そうね」

 香里が一番早く我にかえり頷いて返した。他の皆も即座に気持ちを切り替えると、武器を構えなおして戦いに備えた。

「川澄さん、皆を頼んだ」

「はちみつくまさん」

「はちみつ? 何だそりゃ?」

「かかれっ!」

「イーッ!」

 ライダーが舞と話している最中に、エイキングの号令の元、戦闘員が襲い掛かって来た。ライダーは止む無く話を打ち切って、敵に立ち向かっていった。

「オリャッ!」

 無造作に繰り出したライダーの蹴りが、戦闘員の腹部に命中し、飛ばされた相手は、後ろに控えていた戦闘員を巻き込んで転倒した。巻き込まれなかった戦闘員が短剣を突き出して来ると、ライダーは半身に構えて右手で打ち払い、返す手刀で戦闘員を打ちすえる。ライダーは、今度は振り向かずに背後を蹴り上げた。背後に忍び寄っていた戦闘員はまともにこれを食らう。


 浩平ライダーの戦い方は、祐一ライダーのそれに比べて力任せで荒削りな戦い方ではあるが、次々と戦闘員を倒していく。大半の戦闘員が仮面ライダーに向かっていくが、残りの者は秋子達に襲い掛かっていた。

「このぉ!」

 名雪の繰り出した左のハイキックは、戦闘員の右腕に阻まれた。しかしブーツから流れた電流が戦闘員にダメージを与える。次いで彼女は、残った右足でジャンプして左足を軸に回転し、右の踵を相手の側頭部に叩きつける。

「イーッ!」

 左右から突き出された戦闘員の短剣を美汐はバックステップでかわし、戦闘員の腕が交差した一点を手の甲で払い上げる。体勢を崩した戦闘員それぞれに、ナックルガードのパンチを打ち込む。



 ライダーは、秋子達から離れつつ戦っていた。戦闘員の群れの中で手当たり次第という感じで彼等を倒していく。しかし、ほんの僅かな隙を突かれ、ライダーは戦闘員に掴まってしまった。

「ちっ、お前らに抱きつかれても嬉しくねぇんだよ!」

 ライダーは抱き付いてきた戦闘員を強引に引き剥がすとパンチを打ち込んだ。

「走れ、稲妻ァ!」

 そこへエイキングの攻撃がやってくる。ライダーは振り向かずに側転でこれをかわした。逃げ遅れた戦闘員が、エイキングの攻撃をまともに受けて黒焦げになる。エイキングもライダーを仕留めようと追ってきていた。そして戦闘員の大半を倒したライダーは、怪人と対峙していた。

「行くぞ、ライダー!」

 エイキングは左腕を鞭のようにしならせて、ぶつけて来る。ライダーは攻撃を飛び退いたり、或いは回転してかわしていた。かわされた腕は地面を穿ち、土煙を上げる。

「今……おっと!」

 ライダーは、エイキングが腕を引き戻すのに合わせて間合いを詰めようとするが、伸縮自在の腕のスピードが読めずに苦戦していた。

「死ね、ライダー!」

「イ゛ーッ」

 地面と水平に伸びてきた怪人の腕を、ライダーは身体を捻って交わした。腕はライダーの背後に居た戦闘員に命中し、黒焦げにしてしまった。

「これじゃ、近付けねぇ……」


 一方、戦闘員を倒した舞達は、トラックの影からライダーの戦いを見ていた。手助けをしたくとも、迂闊に飛び込めば返ってライダーの足を引っ張りかねなかった。

「ねぇ、これ使えないかな?」

 瑞佳が言いながらトラックの中から持ってきたのは、ワイヤーロープの束だった。一人では持ちきれずに茜と二人掛りで出してくる。

「……使えるかもしれないわ」

 秋子が自分の考えを述べると、少女たちは早速行動に出た。ワイヤーロープの両端に、舞の棒手裏剣を結びつけ、片方を地面に刺して、もう片方は舞が持つ。そしてエイキングに向かって狙いを定めた。今まさに腕が振るわれようとした瞬間、舞は棒手裏剣を投げる。
それは見事エイキングの腕に絡みついた。

「走れ、稲妻ァ!」

 エイキングは絡みついたロープを物ともせずに、再び腕をライダーに向けて振るった。舞の攻撃の意味を悟ったライダーは、今度はかわそうとせずに、真っ直ぐ怪人に突っ込んでいく。電流が腕を伝っていくが、途中、絡みついたワイヤーの方へと電流が流れて行く。

「何!?」

 電流を流しつくし、只の鞭となった腕を、ライダーはしっかりと受け止めた。

「このぉ!」

 肘と膝を上下から叩きつけて、エイキングの左腕を粉砕した。ライダーは間合いを一気に詰めると、怯むエイキングにパンチを打ち込む。怪人がよろめいた隙を付いて、大振りのパンチを放つが、これを読んでいたエイキングはこれを打ち払って、尻尾の毒針を伸ばしてきた。ライダーは仰け反ってかわすが、エイキングの放った蹴りをまともに食らって、間合いを離された。

 今度はエイキングが、転がったままのライダーに攻撃してきた。ライダーは頭上から振り下ろされる怪人の右腕を受け止めると、腹部に蹴りを入れて怪人がよろめいた隙に起き上がり、間合いを詰める。エイキングは身体がくの字に曲がった体勢から尻尾を伸ばして反撃するが、これはライダーの手刀で打ち払われる。

「オリャッ!」

 ライダーは怪人の頭部と左肩を掴むと連続で腹部に膝蹴りを叩き込み、投げ飛ばした。そして

「トォッ!」

 止めとばかりに、ライダーは高く飛び上がり

「ライダァーーーーッ」

 空中で一回転すると、強烈なキックを打ちはなった!

「キィーーーーック!!」

 キックが命中したエイキングは宙を舞って地面に激突し、爆散した。


                           ★   ★   ★


 水瀬家・リビング
 先日と同様に、秋子達は全員リビングとダイニングに集まっていた。エイキングを倒し全員無事に戻ってきたものの、部屋の雰囲気はどこかしら重苦しく、出された飲み物に手を付ける者もいない。皆、口を開かずに誰かが話し始めるのを待っている感じだった。
 だがこの重苦しい雰囲気も長くは続かなかった。浩平が口を開く。

「俺はカノンに改造された……改造人間だ」

 浩平は自分の両手を見つめ、呟くように話した。瑞佳も茜も、すでにその事は知っているので何も言わず、ただ悲しげに浩平を見ていた。

「しかし……」

 自分の話す事を整理出来たのか、浩平が黙った後を引き継いで秋子が尋ねた。

「仮面ライダーへの改造手術を行えるのは、世界でただ一人「水瀬健吾」だけです。でもあの人、健吾さんは……」

「まさか、生きているの!? ねぇ!」

 名雪が興奮しながら浩平に詰め寄ると、香里達に諭された。浩平は慌てた風も無く、落ち着いて首を振った。

「俺は、手術の直前から、相沢――仮面ライダーに助けだされるまでの事は何もわからねぇ。相沢は、その水瀬健吾って人が残したデータと仮面ライダーと怪人の戦闘記録から、カノンの科学者達が俺を改造したんじゃないか? って言ってたがな」

「そう、ですか……」

 予想通りの答えではあったが、名雪の問いに一縷の望みを掛けていた秋子の言葉に、力は無かった。だが落ち込む間も無く、次の疑問が不安と共に浮かぶ。

「水瀬健吾は、私の夫。そしてこの娘の父親です。……貴方をそんな身体にしたあの人を、あの人の技術を……恨んでいますか?」

「恨んじゃいないさ。そりゃ、最初に話を聞いた時には驚いたけどな。だが既にその人は死んでるって言うし、悪いのは技術を利用したカノンだ」

 浩平に断言され、瑞佳と茜も頷くのを見て、秋子達は安堵した。空気も重苦しさが薄れたのか秋子達以外も口を開いた。

「ごめんなさい。貴方達を疑っていたわ」

 最初に発言したのは香里だった。続いて他の皆も謝罪し頭を下げる。

「良いさ。別に怒っちゃいない」

「最初に話して頂ければ。如何して話してくれなかったのですか?」

 美汐が香里の次に発言する。浩平は今度は極まりが悪いといった風で、躊躇いがちに答える。

「その事についちゃ、俺達も謝らないとな。あんた達を信頼していなかったんだ」

「……」

「正直怖かったんだ。俺達の、特にこの俺の能力を受け入れてくれるのかが……。相沢から話は聞いていたが、やっぱり自分で確かめたかったんでな。場合によっては、正体を隠してカノンと戦っていたな」

「だけど、皆と出会って話す内に、良い人達だって分かったんだよ。香里ちゃんも美汐ちゃんも、秋子さん達が攫われたって聞いたら直ぐに飛び出そうとする位仲間を想っているんだもん。だからこの人達になら、全てを打ち明けても良いって」

「今まで話さなくて、申し訳ありません」

 瑞佳と茜が、浩平の後を継いで話して頭を下げる。更に、昨日百花屋に逃げてきた男を殺したのは戦闘員で、そいつは自分達が倒したと付け加えた。浩平達の謝罪は秋子達全員に受け入れられ、ここにきて部屋の空気も重苦しさは無くなっていた。

「じゃあ、如何して俺達がカノンと関わって、俺が仮面ライダーになったのかを話さなくちゃな」

 浩平がそういった途端、部屋の雰囲気がまた変わった。皆浩平の話を聞こうと、真剣な顔つきになる。




 後書き


 こんにちは、梅太呂でございます。カノンMRSの第二部をお届けです

 今回から新展開という事でONEから一部キャラを出して製作していきます

 未だ大雑把な展開が頭の中にあるだけなので細かい部分はこれからなのですが、頑張って完成させたい

 と思ってます。今後も楽しんでいただけたら幸いです

 今回はこの辺で

 最後に、この作品を掲載してくださった管理人様

 この作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにいたします
 

 ありがとうございます。                            梅太呂





 



 

 


 

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