「先ずはカノンを叩き潰す。そして、平和になったら皆で何処か遊びにでも行こうぜ」

「……平和になったら……」

「ん、どうした、あゆ?」

 悲しげな顔で答えるあゆを見て、祐一は疑問に思った。そんな祐一を見たあゆは、慌てて笑顔で取り繕う。

「う、ううん、何でも無いよ。……うん、そうだね。平和になったらボクもみんなと遊びに行きたいよ……鯛焼きも食べたいしね」

 あゆの言葉には切なる願いが込められていた。だが、その願いが叶う事は無いと、あゆ自身分かっていた。




                  Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第四十話       




 昼食後、祐一は自室で寛いでいた。名雪、香里、美汐は店の手伝い、佐祐理は舞とあゆの看病をしていた。祐一も手伝おうとするのだが、店に来る女性客に良い顔をされては……という心理の働いた彼女達に何かと理由を付けては断られていたので、本人は訳の分からないまま、今では大人しくしていた。舞達の看病にしても、寝ている女性の部屋に無闇に立ち入るべからず、と釘を刺されていた。

 そんな祐一が、何をするわけでもなくベッドに寝そべってぼんやりと天井を眺めていると、ドアをノックする音が聞こえた。祐一がドアを開けるとそこには、あゆが立っていた。

「あゆ?」

 あゆが水瀬家に来てから何日か過ぎていたが、彼女が祐一の部屋まで来たのはこれが初めてだった。

「どうしたんだ?」

「……うん、祐一君にお願いがあって」

「そうか。まぁ、入れよ」

 祐一が促すと、あゆも躊躇いがちに入ってきた。自分はベッドに腰掛け、あゆには座布団を勧める。座ったあゆは、落ち着かない所為かそれとも興味からか、祐一の部屋を見回していた。そんな様子に、祐一はあゆがまるで子犬か何かのように見えて微笑った。

「祐一君、何で笑うの?」

「いや、あゆの様子が犬みたいだなって」

「うぐぅ……」

「それで、何だお願いって?」

 このままでは埒が明かないと思った祐一が水を向けると、部屋の中を見回していたあゆも祐一に向き直った。その顔には真剣さが窺える。

「……行きたい所があるんだけど」

「行きたい所? 一人でか? そりゃ無理だ。街には……」

「分かってる。まだカノンの連中が居るかもしれないし」

「それだけじゃない。お前の身体の調子だって……」

「うん……だからね、秋子さんに相談したら、祐一君と一緒に行きなさい、って」

 祐一の心配は当然と言えた。秋子は祐一が一緒なら大丈夫みたいな事を言ったようだが、それでも祐一は、あゆが外出する事に難色を示した。

「だが……」

「お願い。どうしても行きたい……行かなきゃいけないんだ」

 尚言い募ろうとする祐一を遮るあゆの表情には、並々ならぬ決意が見て取れた。

「ふぅ……、分かったよ、一緒に行こう。だけど、調子が悪くなるようだったら直ぐに引き換えすからな」

「うん身体なら大丈夫だよ。ありがとう。(身体は、休んだ所でどうなるものでもないし)」

「あゆ?」

「う、ううん。何でも無いよ。じゃぁ支度してくるからね」

 自分の気持ちを悟られたくなかったあゆは、そういい残すとさっさと祐一の部屋を出て行った。祐一は、そんなあゆとのやり取り、彼女との会話から、以前にもこんな事があったのを思い出した。それは、今は亡き栞との出来事、そして栞は……。

「!! 俺は何を考えているんだ。まさか、な……」

 何故かあゆが栞とだぶってしまい、慌ててその考えを打ち消すように頭を振った。思いなおした祐一は、自分も出かける支度を始めた。

 玄関先で落ち合うと、祐一はあゆを待たせて、ガレージに行きバイクを持ち出して来た。あゆが何処へ行くつもりなのかは分からないが、歩いていくよりは良いだろうと思った。ヘルメットを渡されたあゆは、興味深そうに祐一の乗るバイクを見つめる。

「これに乗って行くの?」

「あぁ。怖いか?」

「ううん」

 言葉とは裏腹に、多少は怖い気持ちがあったのか、あゆはヘルメットを被ると躊躇いがちに祐一の後ろに跨り、背中にしがみついた。背中にしがみつく腕が少し震えている事に苦笑した祐一は、「大丈夫だ」と行ってあゆを安心させるとバイクを発進させようとした。だが、自分は大事な事を聞いてないのに気が付いて、あゆに尋ねた。

「そういえばあゆ、お前は何処に行きたいんだ?」

「あ……」

 あゆもまた、自分がどこに行こうとしているのか祐一に言わなかったのに気づいた。

「えっと、……先ずは商店街かな」

 商店街は本来の目的地ではないが、立ち寄りたかった場所だった。あゆが告げると祐一は、黙ってバイクを発進させた。走り出したバイクの速さに、少しばかり恐怖を感じたが、しがみつく祐一を信頼して、直ぐにその身を任せた。

 程なくして祐一達は商店街の入り口にやってくる。適当な場所にバイクを停めるとあゆの先導で歩き出す。だがあゆ自身、何かを探すように歩いていた。

「あゆ、何処へ行きたいんだ?」

「えっと……あ、あった!」

 あゆは周囲を見回しながら歩いていたが、目的の物を見つけると小走りで駆け寄った。あゆが駆け寄ったのは鯛焼きの屋台だった。
遅れて祐一も屋台に行くと、あゆが鯛焼きを注文している所だった。丁度焼きあがった所らしく、辺りに甘い匂いが漂っている。あゆは袋に入った鯛焼きを受け取り、代金を払おうと懐に手を伸ばした所で動きを止めた。

「どうした、あゆ?」

「うぐぅ……お財布忘れた」

 まさか逃げる訳にもいかず、小声で祐一に告げるあゆを見て祐一は、今日何度目かの苦笑を漏らした。あゆに代わって代金を支払うと、彼女を促して屋台を離れた。

「まぁ、これは俺の奢りでいいぞ」

「うぐぅ……ありがとう」

 言いながら項垂れるあゆの頭を撫でてやると、あゆの顔にも笑顔が戻った。あゆは、直ぐに鯛焼きを食べるかと思ったが、袋を大事そうに抱えたまま、バイクまで戻ってきた。そして、秋子が用意してくれたリュックに仕舞うと、次に行きたい場所があると言った。

「なんだ、鯛焼きを買いに来ただけじゃないのか?」

「うん。次は……」

 祐一とあゆが次に向かったのは、とある霊園だった。あゆは、これも秋子から聞いていた情報を頼りにある場所を目指す。程なくして一つのお墓の前に到着した。その墓石には『月宮家之墓』と刻まれていた。

「あゆ、ここは……」

「うん。お父さんとお母さんのお墓。今まで来られなかったから」

 訪れる者もなく、管理人がたまに掃除をしているだけのお墓は、随分と汚れていた。あゆは持っていたハンカチで精一杯綺麗に墓石を磨く。祐一も何も言わずにあゆを手伝っていた。掃除が終わると二人は、目を閉じてしゃがみ、無言で墓前に手を合わせる。

「(色々ありましたけど、今あゆはこうして元気に過ごしています)」

「(お父さん、お母さん……)」

 祐一が目を開けても、あゆは未だに目を閉じ、手を合わせていた。声を掛けるのも憚られたので、黙って立っていた。やがてあゆが立ち上がり歩き出す。

「もういいのか?」

「うん。……あ、忘れてた」

 そう言うとあゆは背中のリュックから鯛焼きを取り出して墓前に供えた。そして何事か呟くと、少し離れた所で待っていた祐一の所までやってくる。無言で歩いていた二人だが、霊園を出た所であゆが声を掛けた。

「祐一君、あと一つ行きたい所があるんだ。最後にもう一つだけ、いいかな?」

「ん、あぁいいぞ。今日はトコトンまであゆに付き合うから。それで、何処に行きたいんだ?」

「うん……あの場所に行きたいんだ……行かなきゃ」

「あの場所?」

 祐一はあゆの言う場所が何処なのか分からなかったが、あゆの表情から、とても大事な所だと見当を付ける。

「何処だ?」

「……学校」

 あゆの答えを聞いて祐一は最初、自分の通う学校の事かと思ったが、彼女の様子から違うと判断した。だが直ぐに答えに辿り着く。

「学校って……」

「うん、昔祐一君が連れて行ってくれた所。二人だけの学校。あそこに行きたいんだ」

「あゆ、あの場所は……」

「わかってる。でも、どうしても行きたいんだ」

 あゆの真剣な眼差しに、祐一は何も言えなくなる。あの場所へ彼女を連れて行くのは躊躇われたが、再度「お願い」と言われると、それ以上は何も言わずに、バイクに乗った。続けてあゆがバイクに乗ると祐一は、黙ってバイクを走らせる。

 バイクを走らせている間、二人に会話は無かった。商店街を抜け、街外れのあの森へと走っていく。やがて目的地が見えてくると懐かしさがこみ上げてきた。だが、同時に何かしらの違和感を感じていた。祐一と知り合って数回しか来ていない場所だが、それでも何処かおかしいものを感じた。加えて祐一の様子も変だった。先程から一言も喋る事無く、黙ってバイクを運転している。

 以前一人で来たときとは違い、森の入り口まで来た所で、祐一はバイクを止めて降りる。ヘルメットを脱いで黙って森の奥を見つめる。あゆもバイクから降りて祐一の表情を窺うが、その表情から祐一の苦悩が見て取れた。

「祐一くん?」

「……行くか」

 祐一はそう言うものの、歩調に躊躇いがあった。祐一の様子が先程からおかしい理由を推測したあゆは、その場に立ち止まった。あゆが付いてこないのを不審に思った祐一は、振り向いてあゆに声を掛ける。

「あゆ、どうかしたのか?」

「……ごめんなさい」

 あゆの、突然の謝罪に祐一は戸惑うばかりだった。

「どうしたんだ?」

「祐一君、怒っているみたいだったから」

「俺が怒る? 何故?」

「だって、さっきから何も話さないし……ボクがここに来たいって言ったから……ここはボクが怪我をした場所だし……だから……」

「違う」

「え?」

 言葉を続けられず俯いていたあゆに祐一は、強い調子で言った。驚いたあゆが顔を上げて祐一を見ると、その顔には苦悩が浮かんでいた。

「違うんだあゆ。別にお前がここに来る事に反対だから怒っているんじゃない。お前自身に怒っている訳でもない」

「じゃぁ、どうして……」

「それは……」

 祐一は背を向けると、黙って森の奥を見つめた。近くに祐一達以外人はおろか小動物の姿も無く、辺りは静まり返っている。

「なぁ、あゆ。どうしても行かなきゃ行けないのか?」

「え? う、うん」

 祐一が何故、今更そんな事を言い出すのか分からなかったが、あゆは力強く頷く。それを聞いた祐一が黙って歩き出すとあゆも祐一に続いて歩き出す。以前祐一がここを訪れて以来誰もここに来なかったのか、新たに降った雪が積もった道には、足跡一つ付いていない。新たな足跡を付けながら二人は進む。最初は、祐一の態度がおかしい事が気になっていたあゆだが、次第にこの森を見た時に感じた違和感の方が強くなってきた。祐一に問い質すことも忘れて、彼の後を付いていく。

 黙って歩く内に、開けた場所に出た。祐一はそこで足を止めると前方を見つめる。目的地に着いたのだが、あゆには祐一が視線を遮る格好で立っているので前が見えなかった。祐一の横を通って前に出たあゆが見たものは、開けた場所の中心にある、かつては巨木だったと思わせる木の切り株だった。

「え? あ……これ……」

 あゆは振り返って祐一を見るが、祐一の表情が、この場所に間違いが無い事を物語っていた。此処に来てあゆは、自分が先程から感じていた違和感の正体に気づいた。数回しか訪れていないこの森は、外からでもここに生えていた木が見えていた。その木が見え無かったのだ。でも何故? 直ぐにその理由に思い至った。

「この木が伐られたのって……ボクが落ちたから?」

 祐一は、呆然と佇むあゆに何も声を掛けてやれなかった。だが祐一の沈黙が、あゆの問いを肯定していた。

「ぅ……ぅぅ……」

 あゆの視界が滲む。自分が泣いているのを自覚するととめどなくあふれ出る感情を抑えきれずに、あゆは泣きじゃくった。

「ごめんなさい! ごめんなさいっ!! うぅ、ごめん……なさい」

 フラフラと切り株に近づいたあゆは、そのまま崩れるようにして切り株にしがみつく。そして再び泣きじゃくり、ごめんなさい、と繰り返していた。

「ボクが、落ちたから……怪我をしたから……伐られちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい……」

「あゆ……」

 祐一には、こうなるであろう事は分かっていた。心優しいあゆの事だから、自分の所為で木が伐られた事を知れば自分を責めると。そんなあゆを見たくなかった。辛い思いをさせたくなかった。だから祐一はこの場所にあゆを連れて来るのを躊躇った。無口になり、素っ気無い態度だったのも、決してあゆに怒っていた訳では無い。

 祐一は、切り株に縋りつき泣き続けるあゆを黙ってみつめていたが、意を決するとあゆに近づき、彼女の肩に手を掛けた。

「あゆ、もういい。もう自分を責めるな……。この木だって分かってくれるさ」

 本当の所など分かるはずも無いが、そう思うことによって、またあゆにそう思わせることによって、あゆの気持ちを楽にしてやりたかった。

「……うん」

 あゆは未だ目を真っ赤にし、時折嗚咽を漏らしながらも、ゆっくりと立ち上がった。涙を拭うと、もう一度「ごめんなさい」と呟
いた。

「あゆ、もう帰……」

 祐一が、あゆに声を掛けようとしたが、あゆは何かを思い出すように、ゆっくりと切り株の周りを歩き始めた。そして突然駆け出しある場所で立ち止まると、リュックから園芸用の小さなスコップを取り出して、地面の雪を退かしてから、地面を掘り始める。しかし凍った地面にスコップの先端は潜る事無く、僅かに土を削るばかりだった。それでもあゆは、何度もスコップを地面に突き立てている。

「あゆ、どうしたって言うんだ?」

「……埋めたんだ。埋まっているんだ、ここに。……あの日、祐一君が来る前に……大きくなったら掘り出そうって……」

 あゆの言葉を聞いて、祐一も昔を思い出した。


 この場所を見つけて以来、幼い祐一は木の近くに穴を掘り始めた。宝物を埋め、大きくなったら掘り出すつもりでいた。あゆと知り合ってからは、あゆも一緒になって穴を掘った。当時も地面が凍っており、子供二人の力では難航したが、それでも祐一の腕が肘まで入るくらいには掘ることが出来た。

 そしてあの日、一足先に来ていたあゆは、祐一が来るのを待っていたが、一向に現れないので我慢が出来なくなり、自分の宝物を収めた広口のガラス瓶を埋めた。


「あゆ……」

 祐一は、あゆの行動を見て当時を思い出した。宝物を埋めようとしたが、当日は帰宅の準備などに追われすっかり忘れていたが。

 地面を掘り続けているあゆに近づいた祐一は、彼女にその場を退くように言い、自分がその場に立つ。あゆは、何の道具も持たない祐一を不思議そうに見ていた。一方の祐一は拳を握り締めると、思いっきり地面を殴りつけた。大きな音がして、森の木々に止まっていた野鳥が一斉に飛び出した。驚いたあゆが見ると、殴られた地面はひび割れ、祐一の拳が手首まで地面に埋まっていた。

「さぁ、掘り出そうぜ」

 祐一は、あゆにそう言うと、凍った土の塊を退かし始めた。直ぐにあゆも参加して土をどかす。凍っていない箇所まで来ると、あゆはスコップを使い、地面を掘っていく。やがて、スコップの先に、土とも石とも違う手ごたえを感じた。丁寧に土を退かして行くと、目的の物が姿を現した。

「あった!」

 あゆは喜びに顔を輝かせて、目的の物を掘り出す。それは、広口のガラスのビンだった。蓋の金属部分は長い間土中にあったので錆び付いていたが、あゆが蓋を回すと、何とか開いた。中身を取り出して大事そうに見つめる。

「良かった……」

 中に入っていたのは祐一が昔プレゼントした、あの天使の人形だった。だが色はくすんで、肩と羽根の付け根が解れて、中身の綿が飛び出していた。それでもあゆは、人形を慈しむように抱きしめる。

「あゆ、そいつは……」

 あゆは抱きしめていた人形を祐一に見せた。祐一は、まさかここに人形が埋められたとは思っていなかったのか、少し驚いた顔をしている。

「腕と羽が取れかけているな」

「うん……埋める前の日に、その……壊しちゃって……」

 あゆが躊躇いがちに話し出した。自分で壊してしまったかのように話すが、祐一はあゆの様子から、誰かに壊されたのだと思った。だが口には出さずに、あゆの肩に手を置いて優しく話しかける。

「それでも大事にしていたんだな」

「だって、これは……祐一君がくれたものだから。ボクのお願いを叶えてくれたものだから」

「そうだったな……」

「帰ろう、祐一君。もう日が暮れるし」

「いいのか?」

「うん。行きたい所は全部回ったし。この人形も直したいから」

「あゆ、直せるのか?」

「……うぐぅ」

「ま、まぁ家に行けば誰か直してくれるだろう」

 秋子さんにでも頼むか、祐一はそう考えてあゆを促すと、森の出口へと歩き出す。あゆもスコップと人形を仕舞うと祐一の後に続いた。途中立ち止まって振り返り、もう一度切り株を見たあゆは「ごめんなさい。後人形を預かってくれてありがとう」と言い頭を下げた。


                         ★   ★   ★


 水瀬家
 戻ってきた祐一とあゆは、バイクをガレージに入れて家の中に入り、廊下に出た所で名雪と鉢合わせた。

「あ、お帰り」

「おう、ただいま」

「ただいま、名雪さん」

「ん? 名雪、店は良いのか?」

 エプロンを着けたままの名雪が家に居るのを疑問に思った祐一が、暗に「サボリか?」という含みを持たせた問いに、名雪が抗議するように答える。

「これから行く所だよ。祐一ってば意地悪だよ。それに今は香里が居るもん」

 頬を膨らませて抗議する名雪に苦笑しつつも祐一は、秋子の居場所を尋ねる。

「お母さんだったら、美汐ちゃんと一緒に買い物に行ってるよ」

 次いで、佐祐理は舞の看病をしているが、もうじきこっちにやってくると伝えた。

「あゆちゃん。どうしたの、その人形?」

 祐一は、秋子が戻るまで待つか、と考えていたが名雪とあゆの話し声が聞こえてそちらに向き直る。そこではリュックから人形を取り出したあゆと、人形を見つけた名雪が会話していた。

「壊れちゃっているね」

「うん……」

「あゆの大事な物なんだ。秋子さんにでも直してもらおうと思ってな」

 祐一がそう話しても、名雪はじっと人形を見つめて何か考えているようだった。

「ねぇ、祐一」

「ん?」

「この人形、私が直してもいいかな?」

「名雪がか?」

「お願い……」

 仲直りの証しにしたいんだよ。口には出さずに、心の中で付け加えると、名雪は真剣な顔で祐一とあゆを見つめる。

「いや、俺に言われてもな」

 名雪の様子に若干驚いた祐一は、持ち主のあゆを見た。するとあゆは即座に頷いた。

「うん、名雪さん。お願いできるかな」

「……うん大丈夫。これだったら直ぐに直るよ」

 そう言って大事そうに持っていた人形を名雪に渡した。一方、人形を確かめた名雪も笑顔で答えた。

「名雪、お前裁縫出来たのか?」

「う〜、酷いよ祐一。私だってお裁縫位できるよ。けろぴ〜だって自分で直したりするんだから」

 名雪が再び抗議すると、祐一は慌てて名雪を宥めた。そんな様子を見ていたあゆは、今自分は幸せだと感じていた。

「そ、それより名雪。店の方はいいのか? 香里一人じゃ大変だろ?」

「あ、そうだった。あゆちゃん、これは預かるね」

 店の事を思い出した名雪は、人形を置きに部屋に戻ると、取って返して店舗へと入っていく。あゆも与えられた部屋に戻り、祐一も自室に戻ろうとした所で、ガレージから何かの音が鳴っているのに気づいた。ガレージでは、祐一のバイクに付けられたあの機械が作動していた。機械を操作して地図を表示すると、商店街の一点が点滅している。場所を確認し、ガレージからバイクを出そうとした所で、店からやって来た香里と名雪が顔を出す。店舗にも同様の機械が置かれていて、それを確認した二人が慌ててやって来たのだった。

「相沢君!」

「分かっている」

「祐一、気をつけてね」

 二人の言葉を受けた祐一は、道路に出た所でバイクに跨り、商店街へと走らせた。


                         ★   ★   ★


 商店街
 既に日が沈みかけている夕暮れの商店街は、夕飯の材料を買い求める人達や、学校、仕事などを終えた人々で賑わっていた。そこへ突然カノンの戦闘員が現れ、今は恐慌状態に陥っていた。戦闘員達が店や車を破壊していく中、秋子と美汐は人々の避難誘導に当たっていた。戦闘員達は、専ら破壊活動に専念しているようで、人々を襲ったり、連れ去ろうとはしなかった。お陰で大した怪我人もなく人々を避難させる事が出来た。

「皆さん、こちらです」

「慌てないで下さい……あ、相沢さん!」

 商店街出口の一つで、秋子と美汐が誘導している所へ、連絡を受けた祐一がやって来た。二人の無事な様子に安堵した祐一は、状況を尋ねると、即座に商店街の中へバイクを走らせた。

「イーッ!」

 戦闘員を探しながらバイクを走らせる祐一に向かって、とある店舗の屋根に身を隠していた戦闘員が飛び掛ってきた。慌ててハンドルをきってかわすが、次々と戦闘員が飛び降りてくる。祐一はバイクを走らせて戦闘員の群れを突っ切ると、離れた所でバイクを止めて、連中と向かい合った。

「戦闘員だけか。ギルガラスは居ないのか?」

 怪人が現れない事を怪訝に思いつつも、やって来た戦闘員を打ち倒していく。

「イーッ!」

 短剣を振り上げて飛び掛ってきた戦闘員の腕を取り、身体を回転させつつ、相手の勢いを利用して地面に叩きつけると、腹部にパンチを叩き込む。

「イ゛ーッ」

 動かなくなった戦闘員には目もくれず、祐一は立ち上がると次の戦闘員と対峙する。戦闘員の突き出した短剣を仰け反って交わした。そこへ二人の背後から別の戦闘員が頭上から襲い掛かる。祐一は、短剣を突き出してきた戦闘員の腕と肩を取ると、頭上へと投げ飛ばした。空中で激突した戦闘員達は受身も取れずに落下する。

「イ゛ーッ」

 倒れている戦闘員に止めを刺し、次々と戦闘員を倒していった。やがて祐一の周りに誰も居なると、一息入れて辺りを見回し、緊張を解こうとした。だが、気配を感じて再び構えると気配の方を向いた。そこには、囚人が着る様な服装をした男女が立っていた。二十代半ばに見える男女は黙って祐一を見つめている。

「誰だ……?」

 戦闘員とは違う男女に、祐一は戸惑った。だが相手から発せられる気配は、殺気だった。女の目は殺気立ち、男の目は人間の目をしていなかった。目の位置には、赤一色で彩られた眼球のようなものが収まっている。更に男は荒い息づかいをし、開いた口からはだらしなく涎をたらしている。

「相沢祐一……」

「グ、ガガガ……」

 女は殺気の篭った声で呼びかけ、男は、獣の呻き声とも付かない声を発している。一方の祐一は、見知らぬ男女にこうまで殺気を向けられる心当たりはなく、戸惑うばかりだった。

「あなた達は?」

「……死んでもらうわ!」

「ゲゲーッ!」

 祐一の問いには答えず、女の宣言と同時に男が奇声を発しながら飛び掛ってきた。その跳躍力は明らかに常人離れしており、祐一を驚かせた。男が振り下ろしてきた腕を掻い潜ってかわすと、男は祐一の背後に着地する。と同時に振り返り様に腕ごと叩きつけるが、同様に振り向いていた祐一の腕に止められる。

「ガァッ」

「く、一体……」

 祐一は、男の力に驚いていた。男が更に力を込めたのを悟ると対抗しようとはせず、身体を入れ替えて受け流し、腹部を蹴って遠くへ転がした。

「ガァッ!」

 転がされた男は立ち上がって一際大きく吼える。すると男の身体に変化が起こった。顔が羽毛で覆われていき、頭部が鳥のものへと変わっていく。見れば、先程から動かない女も変身していた。こちらは顔こそ変わっていないものの、手足が鳥の鍵爪状に変化している。祐一は、その手足に見覚えがあった。つい先日戦った怪人、ギルガラスと同じ手足だった。
 
「!! これは……ギルガラスの!? カノンか!?」

「ギルガラス……そう、私達は……ギルガラスの改造データを得る為に改造された試作体よ!」

 女はそう言うと、怒りの篭った目で祐一を睨みつけた。

「じゃぁ、あゆと同じ……」

「あゆ? あぁ、私達の他にもう一人改造されてたわね。その娘がそんな名前だったかしら……でも、どうでも良い事よ。相沢祐一、 貴方に恨みは無いけれど、死んでもらうわ!」

 今度は二人同時に襲い掛かって来た。男は再び飛び上がって上空から、反対に女は地を這うように、低い体勢で走って来る。

「何故だ、貴女達はカノンに改造された犠牲者だろう? だったら俺は敵じゃない!」

 祐一は、叫びつつ後退した。女の下から振り上げてきた鍵爪を仰け反ってかわし、次いで男の攻撃は、仰け反った勢いでバク転でかわした。二人の息のあった攻撃に、祐一は防戦一方だった。尤も反撃の機会があったとしても、祐一は二人を攻撃する事はしなかった。あゆと同じでカノンの犠牲者だという想いが、祐一に攻撃を躊躇わせていたから。

「ええ、そうね。でも私達は貴方を殺さなきゃならないの。でなければ私達が死ぬのよ!」

「脅されているのか? だったら貴方達は俺が守る。だから……」

「ガァッ!」

 祐一の言葉を遮って。男が三度襲い掛かって来た。今度は走ってきて我武者羅に腕を振り回してくる。

「止めろ、俺は貴方達と戦いたくない!」

 男の腕が祐一の胸元を掠めた。祐一は思わず、男の次の攻撃を受け止め殴り飛ばした。殴り飛ばされた男は、女の所まで転がっていく。

「あなた!」

 女は駆け寄って男を抱え起こした。男は頭を抱え、苦しげに呻いている。

「グググ……」

「あなた、苦しいの? 大丈夫よ……アイツを殺せば助かるから。苦しくなくなるから。もう少しの辛抱よ」

 そう言う女の顔は、愛しい者に向ける労わりの表情をしていた。

「どういう事なんだ?」

「……別に私達はカノンに脅されている訳じゃないわ」

「じゃあ、何故……」

「あの娘から何も聞いていないの?……じゃあ教えてあげるわ。私達試作体はね、一定期間を過ぎると死ぬのよ。カノンから逃げ出 しても、裏切っても長く生きられ無いようにね」

「な!?」

 女が発した言葉に、祐一は絶句した。もし本当ならば、あゆも死んでしまうからだ。しかもそう遠く無いうちに。祐一が言葉を無くして佇んでいても、女は構わずに話を続ける。

「若干の個体差はあるようだけど。……助かる方法はただ一つ、連中に認められて再調整を受ける事よ。相沢祐一を殺す、それが認 められる条件なの。……でもね、再調整を受けて生き延びても、一生この身体のままなのよ! こんな化け物の身体でいなきゃならないのよ!」

「……」

 女の慟哭に、祐一は何も言う事が出来なかった。目の前の二人の事も気になったが、何よりあゆの事を考えていたから。女の方も話す事に夢中になっていて、祐一に襲い掛かろうとはしない。

「だけど、こんな身体のままでも生きていたい。この人に生きていて欲しい、元の意識を取り戻して欲しい……私達はされてないけど、この人は脳改造までされて、もう人としての意識は残っていないわ。辛うじて私の事は分かるようだけど……」

「グググ……」

「なんで、どうして私達がこんな目に遭わなきゃいけないの!? 私達が何をしたっていうのよっ!? 確かに、胸を張って言える様な真っ当な人生を送ってきたとは言えないけど、どうして……うぅ、なんでよぉ……」

 女は最早、祐一の方を見てはいなかった。男を抱きしめ、嗚咽を漏らしながら恨み言のように「何故」と繰り返していた。

「グァーッ!」

「!? あなた!」

 突然、抱き抱えられていた男が叫ぶと、女を振り払って立ち上がった。闇雲に腕を振り回し暴れ回っていたが、不意に糸が切れた人形のように崩れ落ちた。そして今度は、喉元を押さえてのた打ち回る。女は近づこうとするが不規則な手足の動きに阻まれて近寄れなかった。男は口や目などから、涎や血液、涙などあらゆる体液を流していたが、流出が収まるに連れて、動きも静かになる。

「あなた! そんな、もう限界なの!?」

 女は駆け寄って男を抱え起こすが、既に男の目に光は無かった。変化していた顔も、元の人間の顔に戻っている。女の必死の呼びかけに男は反応して顔を向け、震える手を伸ばしてきた。

「ぉ……」

「大丈夫、すぐに助かるから! ね、もう少し我慢して!」

「……ぉ、マえ、ヲ……タ……け……」

 男が伸ばす手を、女は元に戻した手で握り締めた。それと同時に男の首が力なく落ちた。

「あ、あぁ……あああぁーーッ!」

 遺体を抱きしめた女の号泣が人気の無い商店街に響いた。だが直ぐに泣き止むと、ゆっくりと立ち上がり、祐一を睨みつける。

「止めるんだ」

 祐一は、ゆっくりと近づいてくる女に呼びかけるが、女の方は足を止める事はせず、一定の歩調で近づいてくる。そして歩調に合わせるかのように、女の腕が再び変化していく。

「まだ助かるかもしれない……だから、貴方には死んでもらう!」

 女は叫んで一気に速度を上げて向かってきた。祐一は冷静に相手の動きを見て、攻撃を受け止めようと動いた。そして、女の腕が振り上げられた瞬間、女の動きが止まった。

「グ、がが……そ、そんな……」

 振り上げた右腕はそのままに、未だ人の形を保っている左手で喉を押さえた。膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢になる。

「ア゛、ア゛ァ……」

 振るえる右手を祐一に伸ばし、そのことでバランスを崩したのか、横に転がり仰向けに寝転がってしまう。しかし、顔と腕は祐一に向けられたままだった。祐一は駆け寄って、女の伸ばした腕を握り締めた。女の腕は既に元に戻っていた。

「オイ! しっかりしろ!」

 女の顔には怒りや憎しみの感情は無く、今は死への恐怖が浮かんでいた。目には涙を浮かんでいる。

「……イ、ヤ……し……タく……な……タ……す……テ……」

 次に女は、倒れている男に顔を向け、残った左手を必死に伸ばした。

「……ぁ……」

 何か言いかけるが途中で力尽き、女の顔と腕が垂れ下がる。祐一は、声を掛けたり揺さぶったりするが、女は何も反応しなかった。祐一は無言で女を抱き上げると、男の遺体の側に女を横たえて、二人の手を握り合わせた。そして少しの時間ではあるが、二人の冥福を祈る。

「(貴方達の無念はきっと晴らす)」

 祐一は立ち上がると急いでバイクに乗り、水瀬家へと走らせた。二人の様子を見て、あゆの事が心配になったのだ。今になって思えば色々と思い当たるフシはあった。時折見せた寂しげな顔や言動。それらの不安が現実となって祐一に圧し掛かってきた。

「あゆ!」


                         ★   ★   ★


 百花屋
 祐一が商店街でカノンの戦闘員達と戦っている頃、店内では不安がる名雪を香里が宥めていた。

「皆、平気かな……」

「秋子さんから無事だって言う連絡は入ったし、相沢君の事だもの。きっと大丈夫よ」

 とは言えアルマジロングの事もあったので、香里自身、一抹の不安を払拭出来ないでいた。大丈夫と言う言葉は、半ば自分に向けられたものだった。現在は店内に客の姿が無いので、こんな会話も普通に行われている。

「いらっしゃいま……あっ!」

 そんな折、丁度来客があったので、気持ちを切り替えて応対に出た香里だったが、入ってきた客の姿を見て驚きの声を上げた。名雪は客の姿を見ておらず、突然の香里の声に驚き自分も入ってきた客を見ると、再度驚く。

「あ!」

「ほっほっほ」

 百花屋の入り口に立っていたのは、一人の柔和な顔を浮かべた老人だった。端から見れば害意など欠片も見えない雰囲気を纏っているが、その正体はカノンの怪人・ギルガラスだ。名雪も香里もその正体を知っているので驚き、警戒する。

「な、何の用かしら? 生憎と仮面ライダーならいないわよ」

 香里は、カウンターから出ると、身構えて警戒しつつ老人に尋ねた。言葉通り今ここにはライダーはいないし、舞も怪我で未だに動けないでいる。何とか仮面ライダーが戻るまで時間を稼ぐつもりでいた。一方の老人は直ぐに襲い掛かるつもりは無いようで、何食わぬ顔で店内を歩き、適当な席に座った。

「知っている。俺が呼び出して、足止めをさせているからな。……此処に来た目的など、分かっているだろう?」

 老人の口調が、ギルガラスのものに変わる。それを聞いた名雪と香里に、一層の緊張が走った。香里は緊張と恐怖を無理矢理押し込めるように、軽口を叩いた。

「此処は喫茶店よ。何か注文でもするつもり?」

「イ、イチゴサンデーがお勧めだけど!?」

 名雪も香里に続いて喋るが、動揺は香里ほど上手く抑えることが出来なかった。だが老人=ギルガラスは二人の話を聞いて何か考え込んでから、口を開いた。

「そうだな……では注文しようか。あの小娘、月宮あゆをもらおうか」

「え? か、香里、あゆちゃんってウチのメニューにあったっけ?」

「バカ! 有るわけ無いでしょ!」

 動揺のあまり、妙な事を言った名雪を窘めた香里は、ギルガラスに向き直った。

「そんなものは無いわ。他を当たったら?」

 香里の言葉に気分を害した風も無く、ギルガラスは再度同じ注文を告げた。

「では、ここに連れてきて貰おうか。いるのだろう?」

 ギルガラスは言いながら立ち上がると、柔和な老人から本来の怪人へと姿を変えた。

「……お断りよ」

「ケケーッ! 出さぬと言うならそれでも良い。お前達を殺してゆっくりと探すとしよう。その方が仮面ライダーも苦しむからな」

「「う……」」

 ギルガラスはゆっくりと近づいてくるが、それが返って恐怖心を煽った。武器も無い状況では立ち向かう事も出来ないし、加えて先日の戦い――全く歯が立たなかった――の事が脳裏を過ぎり、二人の足を竦ませた。

「死ね」

「待って、ボクならここにいるよ!」

 ギルガラスが腕を振り上げようとしたとき、あゆの声が響いた。声の方を見れば、住宅へのドアを開けてあゆが立っていた。だがあゆは、額に汗を浮かべて荒い呼吸をしていた。先程別れた時とは違う様子に、名雪は何故か不安になった。

「二人は……ううん、二人だけじゃない。祐一君の大事な人は、殺させないよ」

 様子とは裏腹に歩調と口調はしっかりとしており、ゆっくりとではあるが、あゆも店内に入ってきてギルガラスの前に立つ。

「フン、出てきたか。まあいい、他の奴らはお前を始末した後で……」

「殺させないって言ったよ!」

 あゆの叫びと共に、彼女の背中から漆黒の翼が飛び出した。

「お前は……ボクが倒す!」


                         ★   ★   ★


 部屋に戻っていたあゆは机に向かうと、筆記用具を取り出して何か書き始める。それは自分が知りうる限りのカノンのアジトの情報だった。ここ数日書き連ねていたが漸く終わり、他に謎の人物から託されたディスクも副えて封筒に入れた。

「これで……う、ゲホッ」 

 立ち上がったあゆは、突然咳き込むとベッドに倒れこんだ。咳の音が外に聞こえないようにベッドに顔を押し付けて咳き込み続けた。漸く咳が収まったあゆがベッドを見ると……シーツが血で染まっていた。

「まだ……駄目だよ」

 自分にそう言い聞かせると、あゆは再び外出する格好をして部屋を出た。いよいよ命の尽きるときが来たのを悟ったあゆは、最後に祐一達の役に立ちたいと考えた。そして出た結論は、ギルガラスを倒す事だった。試作体の自分には、ギルガラスには無いある能力が与えられていた。それを使えば怪人を倒す事が出来る。だが、その前に自分の命が尽きては意味が無い。あゆは今のうちに家を出て、怪人と戦うつもりだった。

 事情を知らないあゆはまず、祐一が向かった商店街に行こうとしたが、廊下を歩いていると店の方から聞き覚えのある声がしたのでそちらに向かった。店では名雪と香里がギルガラスに追い詰められていた。それを見たあゆは、躊躇う事無く飛び出した。


                         ★   ★   ★


「俺を倒すだと?」

 あゆの言葉を聞いたギルガラスは面白くなさそうに言うと、あゆを睨み付けた。一方のあゆは怪人の視線に怯む事無く、睨み返す。名雪と香里は突然の事に戸惑い、あゆとギルガラスを見ている事しか出来なかった。

「そうだよ。……二人は下がってて」

 手振りで二人に下がるよう促したあゆは、ギルガラスをしっかりと見据えた。高をくくっていたギルガラスだが、あゆの態度に苛立ちだした。

「貴様如き試作品が、完成体の俺に勝てる訳が無いだろう!」

「ウワァァーッ!」

 ギルガラスは組んでいた腕を下ろして戦闘態勢を取ろうとしたが、その瞬間あゆが飛び掛ってきて、腕ごと身体を抱きしめた。あゆの両腕は怪人の背中でしっかりと握られ、翼を広げる事も出来なかった。ギルガラスは振りほどこうともがくがあゆの力は強く、解けなかった。

「クッ、離せ!」

「「あゆちゃん!」」

 両腕は解けなくても、お互いの体格差もありギルガラスが暴れるたびに、小柄なあゆは振り回されてしまう。名雪と香里も何とかあゆを助けようとするが、近づく事も出来ないでいた。振り回されていたあゆだったが、足が付いた瞬間しっかりと踏ん張って堪えると、顔を二人の方に向けた。

「名雪さん、香里さん。後、他の皆も……本当にありがとう」

 あゆはそう言うと、全身に力を込めた。すると彼女の翼が薄っすらと光を放つ。それは次第に強くなっていき。店舗を照らした。次に彼女は翼をはためかせると、ギルガラスを抱きしめたまま外へ飛び出していく。窓ガラスをぶち破って道路に出てきたあゆは猛スピードで空へと舞い上がっていった。

「あゆちゃん……」

 名雪も香里も、どうする事も出来ずに彼女を見送っていた。そこへ佐祐理と、彼女に抱えられた舞が血まみれのシーツを持ってやって来た。

 部屋で寝ていた舞の耳に、隣のあゆがいる部屋から呻き声のような音が聞こえてきた。その後あゆが出て行く気配がして、気になった舞は未だ痛む身体を無理矢理起こして様子を見に行こうとした。しかし佐祐理に止められので舞は事情を話し、彼女に肩を貸してもらいあゆの部屋へと向かった。そこで二人は、血まみれのシーツを見つけ、慌てて彼女を探しに来たのだった。

「あゆは何処?」

「あゆちゃんのベッドのシーツがこんなになってて……」

 舞と佐祐理がシーツを見せながら尋ねると、名雪と香里の表情が驚いた後、暗いものになった。香里達が感嘆に事情を説明すると、舞と佐祐理も驚きと不安が混ざった表情をする。あゆの姿は既に見えなくなっていて、今からでは追いかけることも出来ず、また祐一に知らせることも思いつかずに皆、あゆが飛び去った方を見ていた。


                         ★   ★   ★


 祐一は、水瀬家へとバイクを走らせていた。先程、改造された男女の話を聞いて、実際死ぬところを目の当たりにしてもあゆが死ぬなど信じたくなかった。今はとにかく、一刻でも早く彼女に会うために水瀬家へ向かっている。

「……あれは?」

 祐一の視界の先を、光る物体が横切った。それは徐々に高度を上げつつ視界を通り過ぎていく。祐一は飛行物体の正体を見極めようとバイクを止める。目に映ったのは異形の怪人とそれに抱き付いている翼を持った少女――。

「あゆ!?」

 祐一は叫ぶが、あゆに聞こえるはずも無く、あゆはそのまま飛び去っていった。慌ててバイクの向きを変えるとあゆを追いかけるべく、発進させた。幸いな事にあゆの進路に沿って道路は続いており、彼女をどうにか追う事が出来た。

「待ってろ。すぐに行くからな」

 上空を行くあゆを見ながら祐一は追跡を続け、やがて街外れまでやって来た。祐一の眼前には森が迫っていたが、あゆはその森の中へと飛び込んでいった。そこは、あの木が生えていた場所、祐一とあゆの思い出の森だった。祐一はバイクのスピードをあげて森へと急いだ。

 森の入り口まで来た祐一はバイクを降りると、中へと駆け出す。中の様子は先程訪れたときと変わってはいなかったが、森の奥からは、争うような物音がしていた。祐一は迷わず音のする方へと駆け出す。物音に加えて、言い争うような声は足跡の先、即ちあの木が立っている所から聞こえてきた。そこまでやって来た祐一が目にしたのは、暴れるギルガラスと、怪人に振り回されながらも、決して腕は放さないあゆの姿だった。

「えぇぃっ、離せ!!」

「うぐぅ。絶対に離すもんか!」

 言いながらあゆは腕に一層の力を込める。それにつられるように背中の翼も輝きを増していく。

「あゆ!」

 祐一が叫ぶと、あゆも祐一の方を見た。二人の視線が重なると、あゆは寂しげに笑った。

「祐一君……来たんだ」

「あゆ、離れろ! そいつは俺が倒す!」

 言うが早いか、祐一はあゆに向かって駆け出した。だがあゆの翼が輝きはためくと、周りの雪ごと祐一を弾き飛ばした。転がった祐一は即座に起き上がると、再びあゆに近づこうとするが、一定の距離から全く進めなくなってしまった。まるで見えない壁がそこに存在しているかのようだった。

「これは? あゆ!」

「……ごめんね、祐一君。コイツはボクが倒すから」

「止めろ! お前がそんな事する必要は無いんだ!」

「ううん。ボクは……もう長く生きられないから。最後に祐一君の役に立ちたいんだよ」

 あゆは語った。元々自分の命が長くない事を。既に祐一は知っていたが、本人の口から聞かされると改めてショックを受けた。まだ心の何処かでは、嘘であって欲しいと願っていたが、その願いは皮肉にもあゆ自身によって打ち砕かれた。

「ごめんね……」

「グググ……貴様如きに、この俺がぁ!」

 あゆの力が若干緩んだ隙を付いて、ギルガラスがあゆを引き離そうと力を込める。あゆは慌てて力を入れなおし怪人を拘束した。

「さっきから何だこれは? ち、力が入らん」

 ギルガラスは自分の体内を、何か得体の知れない力が駆け巡っているのを感じていた。それはあゆに掴まっていた時から感じているものだった。

「これが、ボクの能力だよ。ボクは試作品だからお前には無い力があるんだ。それは、自分のエネルギーを相手に与える事。只与えるだけじゃない。相手の身体のエネルギーバランスを崩して暴走させる事だって出来るんだ!」

 それには自分の命を全て掛けなければならない、あゆがそう言うとギルガラスにも驚きと焦りが浮かぶ。
 あゆの能力により、あふれ出たエネルギーが不可視の力場を形成し、風を巻き起こして、祐一を近付けさせなかったのだ。

「お前も死ぬぞ!」

「覚悟の上だよ!」

「あゆ、止めろ! 止めてくれ! まだだ、まだお前は生きていられるんだ! 生きていて欲しいんだ!」

 近付けないもどかしさに祐一は苛立ち叫ぶが、不可視の力場は祐一の前進を阻み続けた。あゆはギルガラスと話す時は厳しい表情をしていたが、祐一に向き合う時は悲しげな笑顔を浮かべた。

「何か謝ってばかりだけど……本当にごめんね」

 あゆからあふれ出すエネルギーの奔流が祐一の行く手を阻む中、変わらず寂しそうな笑顔を浮かべていた。

「祐一君……あの天使の人形、まだ一つ願い事が残っていたよね」

「あゆ?」

「最後のお願い、今此処で直接言うよ」

 祐一は奔流に晒されながらも、その場に佇みあゆ達を見ていた。風が渦巻き、祐一の髪や上着をはためかせるが、不思議とあゆの声は良く聞こえた。

「ボクの最後のお願いです」



 ボクの事……忘れてください



「!?」

「ボクが死んだら……また祐一君を悲しませちゃうよね、また苦しめちゃうよね。でもボクの事忘れちゃえば、最初からいなかったって思えば……だから……ボクの事、忘れてください」 

 祐一は、あゆの言葉を聞くと、荒れ狂う風に抗う事も忘れて立ち尽くした。その瞬間、一層強い奔流が走り、祐一の身体を吹き飛ばし地面に叩き付けた。二,三回転した所でなんとか堪えたが、起き上がることは出来ずにうつ伏せの体勢で、あゆの方を見た。彼女の背中の翼は、直視出来ない程に輝いていた。

「行くよ」

「は、離せェ!」

 あゆの背中の翼がはためき、次第に上昇してゆく。ギルガラスは暴れ、嘴であゆの背中を突き刺す。しかしあゆは、力を緩める事無く上昇を続けた。

「(祐一君……もう一度、一緒に鯛焼き食べたかったな)」

 最後にあゆは一度だけ下を見た。そこでは立ち上がった祐一が、自分を見て叫んでいた。

「あゆ、止めろぉ!!」

 祐一に微笑んだあゆは目を閉じると、最後の力を使った。

「……さよなら」

 その瞬間、あゆとギルガラスを中心に爆発が起こった。爆音は森一帯に響き渡り、夕暮れの迫る森をねぐらとしていた野鳥や動物達が一斉に逃げ出していた。

 祐一は爆発の瞬間目を背けてしまったが、爆音が止むと同時に見上げた。濛々と爆煙が漂う中、何かがゆっくりと落ちてきた。途中で二つに分かれたそれは、一つは祐一の足元に、もう一つは少し離れた所に落下する。祐一の足元に落ちてきたのは、ぼろぼろになったあゆだった。

「あゆっ!」

 あゆを抱え起こすが、あゆの目は閉じられぐったりとなっていた。祐一は何度も彼女の名前を呼び、身体を揺するが、あゆの目が開く事は無かった。

「……なんで……なんで、そんな……笑っていられるんだよ……」

 あゆの顔は薄汚れてはいるものの、安らかな笑顔をしていた。そして背中の翼は、エネルギーを使い果たした結果なのか、漆黒だったものが純白に変わっていた。祐一にはそれがまるで、天使の翼に思えた。

「う、うぅ……」

 あゆの亡骸を抱きしめ、静かに泣いていた。だがふと、落下したもう一つの物体の事を思い出して顔を上げた。祐一の視線の先には、あゆ以上にボロボロになったギルガラスがもがいていた。這いずりながら何とかこの場から逃げ出そうとしている。

「こ、こんな……バカな……この、俺が……」

 あゆのエネルギーが足りなかったのか、ギルガラスは大きなダメージを負いつつも、死んではいなかった。そんな怪人の姿を見た途端、祐一の中で何かが弾けた。あゆを横たえると、獣のような咆哮を上げる。

「ウオオオォォォーーーッ! ライダァーッ、変身ッ!!」

 祐一は仮面ライダーに変身すると怒りの赴くままに、逃げようとするギルガラスに襲い掛かった。怪人の肩を掴んで無理矢理起き上がらせると、肩にチョップを叩き込んだ。

「グェーッ!」

 手刀は怪人の胸元まで食い込んだ。堪らず悲鳴を上げるギルガラスに構わず、今度はパンチを顔面に叩き込む。

「グボゥ!」

 一撃で嘴はへし折られ、ギルガラスは殴り飛ばされ近くに生えていた木に激突する。ライダーは走り寄るとギルガラスを捕まえて、尚も殴り続けた。

「ウァーッ!」

 顔面、腹部等拳が届く所全てを殴り続けた。今や彼は相沢祐一でも仮面ライダーでもなく、只怒りのままに相手を殺戮せんとする、狂戦士と化していた。

 殴られて体が反転したギルガラスの背中を掴むと、飛び上がった。空中で怪人の背中に膝蹴りをいれるとその勢いで回転、怪人をうつ伏せにする格好で地面に叩き付けた。

「グ……ガ……」

 ギルガラスは既に虫の息だったが、容赦しなかった。更なる怒りを覚えると背中に足を掛け、両手で怪人の翼をそれぞれ掴み、引き千切った。

「ギャーーッ!」

 暴れるギルガラスを掴んで引き起こすと、今度は怪人の頭が下に来るようにして自分の頭上へと持ち上げながら、回転を付けて上空へと投げ飛ばした。

「トォッ!」

 きりもみ回転をしながら上昇していく怪人を追う様に、自分もジャンプする。空中で二回、三回と回転し、右足にエネルギーを集
めるべく意識を集中させる。全身を屈伸させるように動かしつつ右足を繰り出すと、その右足が輝きだす。
 
「アァァーーッ!」

 繰り出されたキックは、落下してきたギルガラスの身体を真っ二つに引き裂いて、爆散させた。遠くからみるとそれは、光の刃が怪人を切り裂いたように見えた。

「ハァ、ハァ……」

 怪人を倒しても尚怒りが収まらず、何にぶつけようかと辺りを見回していたが、あゆの姿が目に入った途端、自我を取り戻した。

「あゆ……」

 変身を解き祐一の姿に戻ると、覚束ない足取りで彼女の元まで歩いていく。再び彼女の遺体を抱きしめると、先程と同じように静かに泣いた。

「俺は……俺はまた、間に合わなかった。あゆを……助けられなかった……今度こそ、あゆを……」

 静かに泣き続ける祐一とあゆの亡骸を、今度は夕日が、赤く紅く染め上げていた……。


                         ★   ★   ★


 数日後・霊園
 東の空が明るくなってきた頃、ライダースーツ姿の祐一は、とある墓前で目を閉じ、手を合わせていた。墓石には『月宮家之墓』と刻まれている。お墓には花が手向けられ、線香が焚かれている。

 あゆは両親と同じ墓に埋葬された。此処に来てやっと家族一緒になれたのだった。

「……」

 祐一は、只ひたすらにあゆと彼女の両親の冥福を祈った。長い事祈っていた祐一だったが暫くした後顔を上げる。その顔に怒りや悲しみは浮かんでおらず、心安らかな表情をしていた。そして微笑むと、目の前にあゆがいるかのように話し出した。

「あゆ……ごめんな。お前の最後の願い、叶えてやれないんだ。言わなかったけどな、『前のお願いと反対する願いは無理』なんだ」

 彼女の最初の願いは『ボクの事、忘れないでください』。祐一はどれ程辛くとも、彼女の死を受け止めて生きていく道を選んだ。悲しむ事は何時でも出来る、今は一人でも多く、カノンに苦しめられている人々を救いたい。一日でも早くヤツラを滅ぼす。その決意をあゆの墓前で報告していた。

「それにな、これだけの物を残したら忘れられないよ」

 言って祐一は、懐から封筒を取り出した。それは、あゆが書き残したカノンの情報と、遺書とも言える内容――自分の身体の秘密、祐一への最後のお願い――の文章。今日祐一は、あゆの残した情報にあったカノンのアジトを潰すべく、一人旅立つ。この計画を秋子達に話した時は皆に反対されたが、祐一の決意が固いと知ると、必ず帰ってくることを条件に認めたのだった。今はその報告も兼ねてあゆの墓参りに来ていた。

「あとな、こいつなんだが」

 封筒を仕舞い、今度はポケットから天使の人形を取り出した。色あせているのは変わらないが、解れていた所は綺麗に修繕されている。

「名雪が綺麗に直してくれたよ。お前と一緒にしてやろうと思ったんだけどな、名雪が『まだ直してない、約束したから』って言ってな」

 あゆに持たせてやろう、と言い出したのは祐一だった。だが名雪が反対したのに加えて、先のあゆの書き置きに書いてあった『最後のお願いは自分が使ってしまうが、人形は貰って欲しい』の一文が祐一に決心させた。あゆにしてみれば、人形を託す=祐一を頼む、という事だったのかもしれない。ともあれ人形は遺される事になった。
 
「もう行くよ。カノンは必ず叩き潰す。見ていてくれ……全部終わったら、また来るからな」

 祐一は人形を仕舞うと立ち上がり、背を向けて振り向く事無く歩き出した。霊園の出口に止めてあったバイクに跨ると、エンジンをかけて発進させる。早朝の冷たい空気が祐一の身体を通り過ぎていく。

「……あれは?」

 最後に天使の人形を置いていこうと思い、立ち寄った水瀬家の前に秋子達全員がそろっているのを見つけた。祐一がバイクを止めると、皆が近づいてくる。祐一はバイクから降りなかったが、ヘルメットを脱いで皆と向き合う。まず声を掛けてきたのは香里と美汐だった。

「相沢君、今更止めはしないけど……」

「香里、心配するな。死んでいった皆の想いも背負っているんだ。そう簡単にくたばったりしないさ」

「相沢さん、どうかお気をつけて……」

「あぁ、大丈夫だ天野。……そうだ、皆で時々はあゆの墓参りをしてくれないか?」

「はい。あそこには真琴のお墓もありますから」

「家のお墓もあるわ。栞が眠る、ね……」

 祐一がそう言うと、皆が当然と言わんばかりに頷いた。香里と美汐も、例え真琴と栞の事が無かったとしても、あゆの墓参りはするつもりだ。香里と美汐の次は、舞と佐祐理が祐一の所へやって来た。

「祐一……やっぱり私も行く」

 漸く怪我も癒えた舞は、祐一同様ライダースーツに身を包んでいた。しかし祐一は、舞の言葉に首を振った。

「駄目だ。舞は皆を頼む」

「ぽんぽこ……」

「頼む」

「……はちみつくまさん」

 祐一の真剣な表情と口調に、舞は頷いた。舞が黙ると、次に佐祐理が悲しげな顔をして話しかけてくる。

「祐一さん……祐一さんには、佐祐理達の卒業式を見て貰いたかったんですけど……」

 破壊された校舎の修復も一応は終わり、今日卒業式を行う予定となっていた。祐一も卒業式を見たかったが、一日でも早く平和を取り戻したいと思い、準備が整った今日旅立つ事にした。

「佐祐理さん、ごめん。俺も二人の卒業式を見たかったけど……」

「残念ですけど、仕方ないですよね。祐一さん、絶対に帰ってきてくださいね」

「祐一、帰ってきて……」

「あぁ。舞もごめんな。卒業式見れなくて」

 舞と佐祐理が頷くと、最後に秋子と名雪が祐一の所へやって来た。この時間にしては珍しく、名雪はちゃんと起きていた。

「祐一さん」

「秋子さん。俺は必ず帰ってきますよ。秋子さん達は家族で……ここは俺の家だから」

「はい、待ってますね」

 今までに秋子とは充分に話をしており、ここで今更言う事は何も無かったので、秋子は黙って微笑んだ。

「祐一、これ」

 名雪はそう言って、持っていた物を祐一の眼前に出す。両手で捧げ持ったお盆の上には、九つの雪うさぎが並んでいた。

「雪うさぎ。皆で作ったんだよ。雪が少なかったから、大きいのは出来なかったんだけど……あゆちゃん、真琴ちゃん、栞ちゃんの分も作ったんだ」

「名雪……ありがとうな」

「うん。……でも、持っていけないよね。だから……帰ってきたら、受け取ってくれるかな? 私達の雪うさぎ」

「あぁ」

「約束だよ」

 祐一は、名雪の『約束』という言葉を聞いて、天使の人形を思い出した。人形を取り出して渡すと、ヘルメットを被りバイクのエンジンを入れる。そして皆を振り返った。

「じゃあ、行ってくる」

『いってらっしゃい』

 皆の言葉を受けた祐一は、振り返る事無くバイクを走らせた。朝日が照らす道をひたすら走っていく。

「カノン……お前達は、この俺が必ず叩き潰す!」




 Kanon 〜MaskedRider Story〜

 第一部 完




 後書き

 オワターー! はい、カノンMRS 40話をお届けのうめたろです。
 途中スランプに陥り全く進まない日々もありましたが、どうにか第一部完結まで漕ぎ着ける事が出来ました。
 今回のお話で、またしてもカノンキャラがあんなことになってしまいましたが……うぅ、ごめんよう。

 一話辺りの文章量がやたらと多い今回ですが、丁度区切りの四十話だったので無理矢理一話とさせていただきました。
 それにしても、連載打ち切り時によくある、「俺たちの戦いはこれからだ!」的な終わり方になってしまったなぁ……。

 で、でもこれで終わりではありません。もう少しだけ続きます。(と某漫画みたいな事を言ってみる^^;)
 今現在、鋭意製作中です。その際にはまた投稿したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

 では今回はこの辺で。最後に

 今作品を掲載してくださった管理人様

 今作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりに致します。

 ありがとうございました                             うめたろ


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