「……あ、あれを!」

 美汐は、あゆの声が上空から聞こえたの思い出し、その方向へと目を向ける。そこにあゆと名雪の姿を見つけ、香里に知らせる。香里もほぼ同時にあゆ達を見つけていた。

「え……」

 二人を見つけた香里と美汐は、上空を見つめたまま言葉を無くす。そこには気を失ったらしい名雪と、彼女を抱えたあゆがいたが、あゆの背中から……

 ギルガラスと同じ、漆黒の翼が生えていた。




                  Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第三十九話       




 上空から力強い羽ばたき音が聞こえてくる。それは、気を失った名雪を抱えているあゆの背中の翼が出していた。

「な……」

 カノンと関わった事で、常人よりは非日常的な光景には慣れていた筈の香里と美汐も、目に映る光景に言葉を失っていた。
二人が呆然と立ち尽くしている間にあゆは、翼をはためかせながら、ゆっくりと地面に降りてくる。

「香里さん、美汐ちゃん。名雪さんを!」

 名雪を抱えたままのあゆに呼びかけられると、二人とも弾かれたようにあゆ達の所へ駆け寄る。あゆに抱えられた名雪は未だ気を失っているものの、命に別状は無いようだった。ただギルガラスに掴まれていた首が赤くなっている。

「名雪!」

「ぅぅ……」

 香里は、あゆから名雪を引き取ると声を掛ける。声が聞こえたのか名雪は、苦しそうに呻いた。

「大丈夫、直ぐに意識も戻るよ」

 名雪の様子を見たあゆが、香里を安心させるように話した。

「あゆさん、その……背中の……」

「これは……」

 美汐の言いかけた質問に、あゆは口篭る。背中の翼は、あゆの服を裂いて彼女の背中から生えていた。先程まで大きく広がって
いた翼は、今はたたまれている。

「ボクは……!!」

 何か言いかけたあゆだったが、急に話を打ち切ると即座に翼を広げ、上空へと舞い上がる。そこには、あゆ達に襲いかかろうと急降下して来るギルガラスが居た。ギルガラスの振り下ろした腕を、あゆは両手で受け止めた。しかし力の差もあり、攻撃を受け止めきれなかったあゆは地面へと叩きつけられる。それを見たギルガラスはゆっくりと地面に降り立つ。

「うぐぅ……」

 叩きつけられたあゆも、苦しそうに咳き込んだりしながらも、なんとか立ち上がってギルガラスをにらみ付けた。しかしその身体に力は無く、どうにか立っているという状態だった。

「飛行能力の試作品が逃げ出していたのか。……まぁいい」

 ギルガラスがつまらなそうに喋った呟きは、香里達の耳にも届いていた。

「さっきからあゆちゃんの事を試作品って言ってるけど、どういう事よ?」

 香里はギルガラスに尋ねるが、あゆがカノンに捕らわれていたこと、そして今目の前に立つあゆの背中の翼から大よその見当は付いていた。しかし、そんな事を認めたくない想いが、香里に喋らせていた。ギルガラスは香里に一瞥をくれると話し出した。

「その娘は、この俺のデータを得る為に改造した試作体の一人だ」

 他にも試作体はいるが、あゆだけが脱走に成功した事、あゆと仮面ライダーの抹殺の命を受けて自分がやって来た事を喋っていく。

「フン、試作体の分際で脱走などと分不相応な事をしやがって……。お前達、力の無いものは大人しく我らの為の犠牲になっていればいいのだ」

 ギルガラスはあゆを見ながらつまらなそうに呟き、最後にそう締めくくった。その様子を見、話を聞いていた香里と美汐の中で怒りが頂点に達し、彼女達は銃を構えながら叫んだ。

「貴方達はぁーーーっ、人の命を何だと思っているのよーーーっ!!」

「許せませんっ!」

 カノンの実験の犠牲になった栞、改造された真琴。そしてまた一人、あゆ。彼女達を想う心が普段の香里達からは想像も出来ない叫びを上げさせていた。二人同時に撃った弾丸は、ギルガラスの顔や体に命中するが、今までと同じく、大した効果を上げていなかった。それでも二人は怯まずに撃ち続けた。

「フン、貴様達から先に殺してやる!」

 ギルガラスは、銃弾を物ともせずに香里達に向かってくる。しかし、いくらも行かぬうちに横合いから飛び出してきた何かとぶつかって、弾き飛ばされた。

「や……やらせない、よ」

 ギルガラスを弾き飛ばしたのはあゆだった。自分の飛行能力を活かして体当たりをしたのだ。ギルガラスは地面を二,三回転がると即座に起き上がり、あゆを怒りの目で睨みつける。

「小娘がぁっ!」

「ハァ……ハァ……」

 叫ぶギルガラスとは対称的に、あゆはいかにも疲労困憊といった風で立っていた。その様子に、香里と美汐も動きを止めて見入っていた。あゆの様子は明らかにおかしかった。先程地面に叩きつけられたダメージはあるだろうが、それを差し引いても疲労の度が過ぎているように思えた。額には汗が浮かび、呼吸も荒く顔色は青ざめている。

 そんなあゆの事情はお構いなしに、ギルガラスがあゆに突っ込んできた。怪人の振り下ろした腕を、あゆは両手で受け止めた。
力が拮抗しているか思えたが、それも一瞬のことでジリジリとあゆの腕が下がっていく。あゆは全身を伸ばすようにして対抗していたが、基本能力の差はどうしようもなかった。

「うぐぅ……」

 ギルガラスが腕の力を不意に緩めたので、あゆの身体が伸び上がる。その隙を突くかのようにして、ギルガラスはあゆに回し
蹴りを放った。防御も回避も出来なかったあゆは蹴りをまともに食らって飛ばされた。地面を数回転がってようやく停止したが、
あゆは起き上がることも出来ずに、蹴られた腹部を押さえて蹲っていた。

「梃子摺らせてくれたが、これで終わりだ」

 ギルガラスがゆっくりとあゆに近寄っていく。香里達はなんとか食い止める方法は無いかと考えたが、思いつく事はなく、黙って状況を見守るしかなかった。

 しかしそこへ、この状況を打ち破るかのように力強いバイクの走行音が聞こえてきた。ギルガラスも香里達も音のする方へ目を向け、やってきた者が何者か判明すると、怪人には苛立ちが、香里達には安心の表情が浮かんだ。なぜなら、やってきたのは香里達が最も信頼する味方――祐一だったから。 


                         ★   ★   ★


 名雪達がギルガラスに襲われた頃、祐一も商店街に来ていた。こちらは佐祐理と舞の付き添いで、荷物持ちのような事をさせられていた。あゆの身の回りの物の他に佐祐理達の生活品も買うのが目的だった。買い物は直ぐに終わったものの、意外とかさばる物が多くバイクで来ていた祐一達がどうやって帰ろうかと思案していると、突然祐一バイクに取り付けられた機械が鳴り出した。
祐一が機械を操作し、ディスプレイを見ると周辺の地図が映し出され、ある一点が点滅している。それを見た祐一の表情が険しくなった。

「祐一さん、どうかしたんですか?」

 祐一の様子に気づいた佐祐理と舞が近寄ってきて、同様に覗き込むと真剣な顔になる。

「これは……」

 祐一の周りの者の誰かに、緊急事態が発生したことを示すものだった。彼女達全員には秋子が作った発信機が渡されており、スイッチ一つで、祐一のバイクに取り付けられた装置に、居場所を知らせることが出来た。そしてこれは、携帯電話などを使う時間も惜しい、又使えない状況での使用に限られていた。つまり、これを使っているという事は、なんらかの緊急事態が発生した事を示している。


「まさか、カノンが現れたんでしょうか?」

 状況を察した佐祐理が不安そうに話す中、祐一はバイクに跨ってエンジンをかける。地図の光点が示す場所はここから少し離れた公園だった。

「わからないけど、とにかく直ぐに行って見るよ」

「はい、佐祐理達も直ぐに行きますから」

 答えた佐祐理の後ろでは、舞が自分のバイクから荷物を降ろしていた。それを見た後で、地図の場所をもう一度確認した祐一は、バイクを発進させた。

 商店街の通りを抜けて、目的の公園が見えてきた所で祐一は、何者かが戦っている様子が目に入った。そこでは鳥の姿をした怪人が、倒れている人物にむかってゆっくりと歩いていく所だった。

祐一は、それだけを確認すると、ハンドルから手を放し、上体を起こして腰を浮かす。

 そして、左腕を握り腰に構える。右腕は指先を揃えて左上に真っ直ぐに伸ばす。

「ライダー……」

 右腕を時計回りに旋回させて右上に来た辺りで止める。

「変身ッ」

 今度は逆に、右腕を腰に構えて左腕を右上に真っ直ぐ伸ばす。すると祐一の腰にベルトが現れて中央の風車が回転する。

「トォッ!」

 祐一が高くジャンプするとベルト中央の風車が発光し、その光は祐一の全身を包み込んだ。祐一が空中で回転を終える頃、光も消えて祐一を仮面ライダーへと変身させていた。そしてまた祐一のバイクもサイクロンへと変化していた。変身したライダーはそのままサイクロンに跨ると、加速して怪人の所へ急いだ。

「仮面ライダー! 現れたか!」

「新しいカノンの怪人か」

「俺は貴様達を抹殺する為にやって来た、ギルガラスだ!」

 倒れているあゆ達には目もくれず、やって来たライダーに標的をあわせるようにギルガラスが構えると同時に、ライダーもサイクロンから降りて、怪人と対峙した。

「みんな無事か? 早くここから逃げろ」

 ライダーはギルガラスに隙をみせないようにしながら、香里達に叫ぶ。倒れたままのあゆと、名雪の様子が気になったが怪人と対峙しているので、駆けつける事は出来なかった。

「助かったけど、連絡していないのに、どうしてここが分かったのかしら?」

「……良かった、間に合った……」

「名雪!?」

 香里の疑問に答えたのは、漸く意識を取り戻した名雪だった。未だ苦しそうではあるが、はっきりとした声で呟く。

「私が、呼んだんだよ」

 名雪はそう言ってポケットから、発信機を取り出した。ギルガラスに掴まって上空へと連れて行かれる前に、スイッチを押して祐一を呼んでいたのだった。香里達も同様の物を持っているので直ぐに理解し、ライダーに言われたとおりにこの場を離れるべく、動き出す。美汐はすぐさま倒れているあゆに向かって走り出し、名雪を抱えて起き上がった香里も、あゆの所へ向かう。

「あゆさん、大丈夫ですか?」

 美汐があゆに呼びかけながら彼女を抱え起こすが、あゆは美汐の声に答えず、荒い呼吸をしているだけだった。あゆの顔に血の気は無く、びっしりと汗が浮かんでいた。抱え起こした美汐の腕には、異常に高まったあゆの体温が伝わって来る。続いてやってきた香里と名雪も、一目見てあゆの様子がただならぬ事だと悟った。

「とにかく、此処を離れましょう」

 香里は、自力で歩けるようになった名雪から離れると、美汐と二人であゆを抱えて急いでこの場を離れた。しかし公園を出て幾らも進まぬ内に、行く手をカノンの戦闘員達に阻まれた。

「イーッ!」

 戦闘員達は、威嚇するように短剣を構えると、ゆっくりと近づいてくる。あゆを抱えた状態の香里と美汐、また武器を失った名雪では戦う事も出来ずに、後退するしかなかった。戦闘員達は彼女達を半包囲して、徐々にその輪を狭めてきた。公園の入り口まで追い詰められてしまった所で、道の向こうからバイクのエンジン音が聞こえてきた。香里達と戦闘員達が音のする方に目を向けると、一台のバイクがこちらに走って来た。フルフェイスのマスクを被っているので顔は見えなかったが、名雪達は直ぐに誰か分かった。

「舞さん、それに佐祐理さんも!」

 祐一に遅れて、舞と佐祐理も漸く公園に辿り着いた。状況を把握した舞は後ろの佐祐理に声を掛ける。

「佐祐理」

「うん」

 それだけで二人の間には意志の疎通がはかれた。佐祐理はシートの横に括り付けられていた竹刀袋を手に取った。その間もバイクは走り続け、戦闘員達の中へと突っ込んでいく。戦闘員達が避けて出来た隙間を通って、舞達は名雪達の所へやって来てバイクを止めた。

 バイクから降りた舞はヘルメットを外すと、戦闘員達へと走り出した。戦闘員達は、舞が丸腰なのを見て一瞬ではあるが油断してしまった。舞は一人の戦闘員の前まで来ると、間合いの外から飛び上がり、右手を真上に伸ばす。そこには、佐祐理の投げた舞の刀が寸分違わずに飛んできていた。右手でしっかりと柄を掴むと、舞は戦闘員に斬りかかった。自由落下の勢いも加わった斬撃は、戦闘員の構えた短剣ごと、戦闘員の身体を真っ二つに切り裂いた。

 舞の意表をついた行動に気を取られた他の戦闘員が立ち直るより早く、舞は次の行動に出た。次の標的を定めた舞は、斬り終えた直後の低い体勢のまま走り出し、間合いに入った所で身体を伸ばして切り上げる。漸く我に返った戦闘員は碌な行動も取れずに、一刀に切り捨てられていた。

 二人目の戦闘員が斬り捨てられた所で、漸く他の戦闘員も動き始めた。標的を舞に絞って動き出した。一方の舞は次の標的に定めた戦闘員に向かって走っていく。お互いの得物にリーチ差がある所為か、戦闘員は舞とは切り結ぼうとはしなかった。それどころか舞に背を向けて逃げ始めた。誘うかのような逃走に、舞は乗ってきた。足を速めて戦闘員を追いかける。

「イーッ!」

 舞の周囲への注意が疎かになったと見たのか、他の戦闘員が横合いから舞に斬り付けた。

「イ゛ーッ」

 だがそれは、佐祐理の撃った銃弾で阻まれる。撃たれた戦闘員は倒れて動かなくなった。舞は決して周囲の警戒を怠っては居なかった。当然他の戦闘員が自分を包囲しているのを察していた。罠だと見切っていたが、自分の信頼する人――佐祐理が援護してくれる、そう確信していたから舞は目の前の敵に集中できた。そして佐祐理は見事に舞の信頼に答えた。舞は倒れた戦闘員には目もくれずに、眼前の敵に一気に接近すると、相手が短剣を構えるより速く刀を突き出して仕留めた。

 舞と佐祐理の連携によって、大した時間も掛からずに戦闘員達は全滅した。

「皆さん、お怪我はありませんか?」

 敵が居なくなったことを確認してから銃を収めた佐祐理が尋ねてきた。舞は未だ周囲を警戒しながら、香里達の所へやってくる。

「えぇ、私達は大丈夫です。助かりました」

「祐一は?」

「公園で怪人と戦っています。でも、あゆちゃんが」

 舞の問いに答えた名雪があゆの事を話すと、二人の視線があゆに向かう。美汐と香里に抱えられたあゆは、相変わらずの様子だった。二人とも、一目見ただけであゆの様子が只ならぬ事を悟った。

「私が行って来る。佐祐理は皆をお願い」

「気をつけてね。佐祐理達は戻っているから」

 佐祐理に後のことを任せると、舞はライダーを援護すべく公園内へと走っていった。


                         ★   ★   ★


 公園内

 名雪達が去った後の公園では、ライダーとギルガラスとの戦いが続いていた。空を飛べるギルガラスの攻撃に対し、ライダーは有効な反撃手段を持たず、以前の蝙蝠男戦のように苦戦を強いられていた。上空から急降下で襲い来るギルガラスの攻撃を何とかかわして反撃しようとするが、その時には既にギルガラスは上空へと舞い上がっている。

「クケーッ!」

 雄叫びと共にギルガラスが急降下してきた。ライダーは、今度はかわすのではなく受け止めようと、迫り来るギルガラスの正面に立つ。ライダーは、ギルガラスを何とかして捕まえて攻撃をするつもりだったが、ギルガラスの行動も今までとは違っていた。
自分を真っ向から受け止めようとするライダーの手前で水平飛行から上体を起こすと、背中の翼を前面に羽ばたかせた。それにより自分に急制動をかける。更にはライダーへの風圧による牽制、羽根を矢のようにして飛ばす攻撃も兼ねていた。

 ギルガラスの起こした突風に煽られたライダーはよろめくが、直ぐに体勢を立て直して、飛んでくる羽根を叩き落した。だが、その隙に近寄ってきたギルガラスには対しきれずに、殴り飛ばされてしまった。地面を転がるライダーにギルガラスが追い討ちをかける。ライダーは無理に起き上がろうとはせずに、地面を転がってギルガラスの攻撃を避けた。

「くっ」

 ライダーは攻撃をかわし続けていたが、次第に大きな木の下に追い詰められていく。そして、ギルガラスが振り上げた腕がライダーに向かって振り下ろされた。ライダーは相手の動きを見極めると、転がるのを止めて、ギルガラスの腕を受け止めた。すかさず、怪人の腹部に蹴りを叩き込む。腕を持った状態から巴投げの要領でギルガラスを投げ飛ばすと、ライダーは起き上がってギルガラスに向き直る。ギルガラスも即座に立ち上がり、ライダーと対峙する。

 ライダーはギルガラスが空中に飛び上がる間を与えないよう、即座に飛び掛った。ギルガラスの両肩を掴むと振り回して、怪人の背後の木に叩き付ける。

「グァッ」

 ライダーは更に右膝蹴りをギルガラズの腹部に入れ、身体がくの字に曲がった体勢のままギルガラスを投げ飛ばす。ギルガラスはそのまま地面を転がって、ライダーから離れた。ライダーは追撃しようとするが、牽制で飛ばしてきたギルガラスの羽根に阻まれてしまう。少し離れた所でギルガラスは起き上がったが、先程のダメージが残っているのか、少し足元が覚束なかった。ギルガラスは再び上空から攻撃をしかけようと舞い上がるべく翼を動かした。だがそこへ、刀を振りかぶった舞が飛び掛ってきた。

「ハァッ!」

 舞は気配を殺し、ライダー達が戦っている近くの木に上って様子を窺っていた。そして、ギルガラスが逃げようとしているのを見て、怪人へと攻撃を仕掛けた。

「おのれっ!」

 ギルガラスは飛び上がるのを止めて、頭上の舞へと翼を振り回した。突風と羽根が、空中で身動きの取れない舞に襲い掛かった。
飛来する羽根の幾つかは刀で防いだが、数本が舞の腕や身体に刺さる。さらに、まともに突風の影響を受けた舞はバランスを崩してしまう。その状態で、飛び上がってきたギルガラスに掴った舞は怪人の振り回すままに、地面へと投げつけられた。

「グッ……」

「舞!!」

 地面に叩きつけられた舞に追撃をしようと、ギルガラスが急降下してきた。だが、飛び込んできたライダーに阻まれた。ギルガラスに飛び掛ったライダーは、相手の両肩を掴むと腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

「ライダーッ、ニーブロック!!」

 次にライダーはギルガラスの身体を反転させて背中から、地面へと投げつけるが、途中ギルガラスは、空中で体勢を立て直し、上空へ舞い上がると、既に着地していたライダーを怒りの篭った目で睨み付けた。しかし、ダメージが未だ抜け切らないこの状況では、自分の不利は否めなかった。苦境を悟ったギルガラスは上空から翼をはためかせ、ライダーに羽根の牽制をする。ライダーは叩き落して羽根を避けた。ギルガラスは、その隙に背を向けて飛び去った。

「ライダー! 勝負は預けるぞ!」

 今からではサイクロンを使っても追跡は困難と判断したライダーは、怪人を追おうとはせずに、舞を抱え起こした。舞は苦しげな顔をするものの、意識ははっきりとしており、一先ずライダーを安心させた。

「舞、大丈夫か?」

「はちみつ……くまさん。怪人は……?」

「逃げられた」

 ライダーが目を向けた方向に、舞も目を向ける。日も傾き始めている空に、小さくなっていく怪人の姿が見える。

「追う?」

「いや、止めておこう。今からでは追いつけるか分からないし、舞の事も心配だからな」

「ごめんなさい。私の所為で……」

「良いんだ」

 ライダーは変身を解いて祐一に戻ると、舞を抱き上げた。舞は意識はあるものの、ダメージで身体が殆ど動かせなかったので、祐一に抱き上げられるままだった。

「舞、皆は無事か?」

「はちみつくまさん。でも、あゆが……」

「!! そうだ。あゆは大丈夫なのか!?」

 漸くあゆの事を思い出した祐一は駆け出した。

「状態は分からない。佐祐理達が、水瀬家に連れて行った筈」

「そうか。直ぐに戻ろう」

 祐一達は止めてあったバイクに乗り、水瀬家へと向かった。


                         ★   ★   ★


 水瀬家
 バイクで水瀬家へと急ぐ祐一は、途中タクシーで水瀬家に戻る名雪達と合流した。家に戻った祐一達は、秋子に事情を説明するなり、あゆと舞を治療室に運び込んだ。あゆは依然として意識が戻らず、舞も家に着くなり気を失ってしまった。二人の手当ては秋子と佐祐理に任せ、祐一達は一足先にリビングへと戻ってきていた。そこで祐一は香里から事の経緯を聞く事にした。香里は名雪が操られた事は話したが、名雪の想い――あゆへの憎しみや嫉妬――は話さなかった。

「あゆまでが……そんな……」

 あゆが実験体として改造されていた事にショックを隠せない祐一は、そう言ったきり黙りこんでしまう。カノンに連れて行かれ、そこで目を覚ました事を考えれば、その可能性も充分あったのだが、あえて祐一は考えないようにしていた。

「(祐一……)」

 名雪は、黙り込む祐一を見ていたが、堪えるようにぎゅっと唇を噛んでいた。

「(私がいけないの!)」

 そう叫びたかった。無論あゆの怪我や、改造された事に関係がある訳では無いが、あゆを恨んだ事等を叫んでしまいたかった。
しかし、香里達に止められていた。

「そんな事をしたら、一層相沢君を苦しめるわ」

「それに、あゆさんもまた苦しむと思います」

 諭された名雪は、祐一とあゆの事を想い、堪えるしかなかった。元々嘘や隠し事が苦手な性格でもある名雪にとって非常に辛かった。より強く、血が滲む程に唇を噛み締めた。そうしなければ、叫んでしまいそうだったから。祐一は、そんな名雪の様子にも気づかずに自分の両手を握り締め、見つめていた。香里と美汐も又、祐一と名雪の双方に掛ける言葉も見つからず、リビングは沈黙に支配されていた。

 そこへ、舞の手当てを終えた佐祐理が、秋子より先に戻ってきた。佐祐理は部屋に入った途端、重苦しい空気を感じたのか、何も言わずに、空いているソファーに座った。重苦しい雰囲気を払拭したいと想ったのか、意を決した香里が佐祐理に話しかけた。

「佐祐理さん。二人の容態ですけど」

「はい、舞の方ですけど……」

 舞は幸い命に別状は無かったが、暫くは安静が必要との事だった。常人であれば、下手をすれば死にかねない負傷だが、強化された身体のお陰で、その程度で済んでいた。舞は一先ず安心というので、部屋の空気は幾分軽いものになっていた。

「あゆさんの方は、まだ秋子さんが付きっきりで看ています。……あ、駄目ですよ祐一さん」

 佐祐理は、話を聞くなり部屋を飛び出そうとした祐一を止めた。今祐一が行ってもあゆと話せる訳ではない、佐祐理達の目がそう言ってるようだった。祐一は再びソファーに座る。

「相沢君、あまり気に病むものじゃないわ」

「香里……」

「貴方がそんな顔をしているとね、辛いのよ、苦しむのよ……皆が」

 皆が、と紛らわせたが、香里は辛そうにしている名雪を庇う為にそう言った。だが全くの誤魔化しではない。香里達全員、祐一を心配していた。

「そうか……すまん」

 自分の気持ちに整理がついた訳ではないが、祐一は辛そうな顔をするのを止めた。香里達に心配をかけたこともそうだが、
名雪の思いつめたような様子にも、申し訳なく思った。

「名雪も、ごめんな」

「え?……う、うん……」

 祐一は、名雪の態度を誤解していて、香里達もそれを悟ったが誰もそれを正そうそはしなかった。それからは、誰も発言する事も無く、重苦しい雰囲気は、あゆの治療を終えた秋子が来るまで続いた。


                         ★   ★   ★


 治療室
 祐一達がリビングで話している頃、秋子と佐祐理はあゆと舞の手当てをしていた。先ず先に舞の処置を終えると、佐祐理は舞を別室に連れて行った。あゆの処置は秋子に任せた。自分には手に負えないというのもあったし、祐一達に現状を報告することもあって、舞を別室に寝かしつけるとリビングに戻った。

「……」

 あゆの手当てを続ける秋子の表情は暗いものになっていた。あゆの身体を調べる内に、彼女の身体が普通ではない――改造されている――事に気付いたからだ。あゆが運び込まれたときに話は聞いたが、改めて自分の目で確認すると、悲しくなるのだった。

「(この娘も、カノンの犠牲者なのね)」

 秋子は、一通りの処置を施し終えると、眠っているあゆの横に座り、彼女が目覚めるのを待っている。あゆの容態は、運び込まれた時とは違って今は顔色もよく、呼吸も落ち着いたものになっていた。


「……ん」

 秋子が見つめる中、あゆが声を出した。秋子が呼びかけると、あゆがゆっくりと目を開けた。

「あゆちゃん。気分はどう?」

「……秋子、さん?」

 目が覚めたあゆだが、自分が今どういう状況にいるのか戸惑っている様子だった。

「ここは…?」

「私の家よ」

「……えっと、ボクはたしか……」

 そこまで言って、自分がこうなった経緯を瞬時に思い出した。

「!! そうだ! 怪人が現れて、それで……皆は!?」

 上体を起こしたあゆは、秋子に縋りついて尋ねた。秋子は慌てず、あゆに「大丈夫よ」と言って微笑みかけながら、ゆっくりとあゆを寝かしつけた。

「大丈夫よ。祐一さんが、仮面ライダーが怪人を追い払ってくれたわ。怪我をした娘もいるけど、皆無事よ」

「そう、ですか」

 秋子の話を聞いたあゆは、秋子に促されるまま、再び横になる。目覚めたものの、身体には倦怠感が強く残っており、身体を動かすのが辛かった。黙ってあゆの様子を見ていた秋子だが、彼女の身体について聞いた。

「あゆちゃん。その……貴女の身体の事なんだけど……」

「あ……はい。もう分かっていると思いますけど、ボクは……改造されているんです。カノンによって……」

 前置きしてからあゆは、先日は話さなかった自分の身体について話し始めた。

「といっても、完全な改造人間じゃなくて、ボクは……あのギルガラスの改造データを取る為に、試験的に改造されたんです」

「……」

 自分の他にも、同様に改造された者が居る事などを話し、秋子は黙って聞いていた。そこまで話したあゆだったが、突然黙ってしまった。余程言いづらい事だと悟った秋子が、優しく話しかける。

「あゆちゃん、もう良いわ」

「ううん、話さなくちゃいけない事だから……秋子さん、これから話す事は……祐一君には黙っていて下さい」

「あゆちゃん……?」

「ボクの……ううん、試作改造された人達の身体の事なんだけど……試作体ってヤツらが呼んでいる身体には、ある処置がされて いるんです」

「……」

「……一定期間を過ぎると、身体の機能を停止する……死んでしまうんです」

「!! そんな……何故?」

「処分の手間を省いて、更にはどういう症状が現れて死んでいくかを見る為でもあるんだって……あとカノンから逃げ出しても、 助からないように……カノンに忠誠を誓えば、助けてもらえるみたいだけど……」

 あの日、あゆがカノンから逃げ出そうとした日の事が脳裏に浮かぶ。


 ―― このまま死ぬか、忠誠を誓うか? ――


 忠誠を誓えば、生き延びられるだろうが、記憶も消されてしまうかもしれないし、二度と祐一に会えなくなる。だがこのままでは……。その時落雷があり、咄嗟の判断であゆは逃げ出したのだった。

「なんとかこの街までやってきて、祐一君に会えて……でも、やっぱり会わない方が良かったのかな……」

「あゆちゃん、何を……」

「だって、ボクは長く生きられないから……もうすぐ死んじゃうから……さっき能力を使った事で余計に消耗しちゃったし……
 ボクが死んだら、祐一君をまた悲しませちゃう、また苦しめちゃう……ボク、ボクは……」

 そう言うと、きつく目を閉じてシーツを握り締めた。秋子は、あゆに辛い事を話させた事を後悔し、せめて彼女をこれ以上悲しませないよう、優しく抱きしめた。

「ごめんなさい、辛い事を話させて……」

 今は亡き母に抱きしめられているような気になったあゆは、今まで堪えていたものが一気に噴出したかのように泣き出した。秋子も嘆かずには居られなかった。と同時に、あゆの強さに感心していた。

「(自分が死んでしまう事への恐怖は一言も漏らさないで、祐一さんを悲しませる事を恐れているなんて……)」

 自分は、あゆを救う事は出来ない。だが、あゆの為に出来るがあれば何でもやろう。秋子はそう決意した。先ずは、あゆを休ませるべく、彼女を別室に移した。また、あゆの身体のことは自分一人の胸にしまっておく事にした。


                         ★   ★   ★


 カノンのアジト
 薄暗い指令室の中で、ライダーにやられた傷を修復し終えたギルガラスが、頭を垂れていた。怪人の頭上では、カノンのレリーフが掲げられており、その中央部が発光すると共に、首領の声が聞こえてきた。

「ギルガラスよ」

「……」

 首領の声は落ち着いていたが、それだけに恐怖心を煽り、ギルガラスの側に控えている戦闘員は元より、ギルガラス自身も、頭を上げる事が出来ないで居た。今までは臆する事無く首領に接していたが、今回の失敗をうけ、流石のギルガラスも萎縮している。

「ギルガラス、ライダーに受けたダメージは治っているな?」

「……ハッ、首領のお陰で、再手術をして頂き、もう大丈夫です」

 失敗した者は死あるのみ――。それがカノンの掟だった。任務失敗を理由に粛清された者を見て、また今回自分自身も任務を果たせ無かったので、処分されるのでは? そんな恐怖に捕らわれたギルガラスだったが、意外にも首領は怪人を咎めたりせず、それど
ころか、再手術を許可してくれた。まだ自分は見捨てられていない、しかしそれも何度もある事ではない。悟ったギルガラスは、首領に呼ばれたのを聞くと、次の任務こそは決死の覚悟で望もうと思った。

「……貴様のするべき事は分かっているな?」

「今度こそ……必ずや仮面ライダーを抹殺してご覧に入れます」

「次は無いぞ……役に立たぬ者を何時までも生かしておく私では無いからな」

 首領の声に変化は無いが、ギルガラスには首領の声が物理的圧力を持って、自分に圧し掛ってくるように感じた。圧力に耐えかねたのか、ギルガラスが慌てたように自分の作戦を話し出した。

「首領、私に考えがございます……」

「……話してみよ」

 ギルガラスの話に興味を持ったのか、首領が尋ねてきた。ギルガラスの話を聞き終えた首領は黙っていたが、直ぐに許可を出した。

「いいだろう。……だが、あの者達が言う事を聞くかな?」

「命を助けてやる、とでも言えば裏切る事も無いでしょう」

「やってみろ」

「ハハッ」

 首領の許可を得たギルガラスは一礼した後、踵をかえして部屋を出て行く。もう後が無い怪人の顔には悲痛なまでの覚悟が宿っていた。


                         ★   ★   ★


 水瀬家
 それからは、あゆにとって初めての平穏な日々が続いた。両親が死に、木から落ちて意識を失って、目覚めればカノンに捕らわれていた彼女にとって、今のこの時間は心から寛げるときだった。時折身体の変調が起こるものの、勤めてそれを隠し、何事も無いように振舞っていた。

 祐一は、あゆが改造されていることを、本人の口から改めて聞かされた時はショックだったが、あゆ自身が明るく振舞うのを見て、悲しんだり苦しんだりするのは、少なくとも表面には出さないようにしていた。他の者も――名雪は、まだぎこちなさが残っていたが――あゆには優しく接していた。

 唯一あゆの身体の事を知っている秋子は、普段は皆と同じように振舞っていたが、一人きりになると事の重さに押し潰されそうになっていた。だが決して諦める事はせず、彼女を救う手立てを探して、研究に励んだ。祐一達には「まだ治療が必要」と偽って、あゆの身体を調べたりもしたが、有効な手立ては見つからず、時間だけが表面上は穏やかに過ぎていった。

 そんなある日の事、家に居た祐一はキッチンから焦げ臭いにおいを嗅ぎ取った。

「なんだ?」

 急いで駆けつけた祐一がキッチンで目にしたのは、オーブンの前で落ち込んでいるあゆだった。手にはオーブンから取り出したらしき物を持っている。

「あゆ、どうした。それに何だ、この臭いは……」

「うぐぅ……」

 半ば涙目のあゆが祐一に差し出したものは、黒い石の様な物体だった。それが、オーブン皿に幾つも載せられている。

「これは……碁石か?」

「違うよ、これはクッキーだよ!」

「碁石クッキーか?」

「うぐぅ……焼くのに失敗しちゃって……」

「この臭いの原因はそれか」

 祐一はそう言いながら、キッチンを見回す。見れば先日自分がクッキーを作った時と同じ道具や材料が並べられている。次に祐一は、窓を開け、換気扇を回す。日差しはでているが、まだ冷たい空気が室内へ入り込んでくる。

「一人で作っていたのか?」

「最初は秋子さんと一緒に作っていたんだけど……」

 きっかけは、あゆと舞を見舞った祐一が持ってきたクッキーだった。クッキーの美味しさに感心したあゆが自分も作って祐一に食べさせたいと思い、秋子に頼んだ。即座に了承した秋子に教えを受けながら、途中まで一緒に作っていたが、最後の仕上げは自分でやりたかった。また秋子もそうさせてあげようと思い、席を外したのだった。

「どこで間違えちゃったのかな」

「オーブンの設定温度が高すぎたんだな……。最高温度に設定してあるぞ。クッキーは、物によって焼く温度や時間が違うんだが、 3百℃じゃどんなクッキーも消し炭だぞ」

「うぐぅ……、温度が高い方が早く出来ると思って……」

「俺でも流石にコイツは食えないな」

「……」

 祐一の指摘に、あゆは益々落ち込んでしまった。落ち込むあゆを見て祐一は、にっこり笑うと、励ますようにあゆの頭を撫で始めた。

「ハハ……。まぁ、次は失敗するなよ」

「え?」

「また挑戦するだろ? すぐに上達はしないかもしれんが、何回もやっていれば上手く作れるようになるって。楽しみにしているか らな」

「祐一君」

 笑顔で励ます祐一を見て、言葉少なげに「うん」と答えたが、胸中は複雑だった。不完全な改造人間の自分に残された時間はそう多くない。祐一がそれを知れば、どれだけ辛く、悲しい思いをさせるのか? だがあゆはそれを言葉には出さず、違う事を口にした。

「とりあえずは、これを片付けなくっちゃ」

「いいのか?」

「うん。もうすぐお昼でしょ。そっちの準備もしなくちゃ」

 祐一とあゆが片づけを始めた頃、秋子もキッチンに戻ってきた。

「あゆちゃん、上手に出来……あらあら」

 キッチンの現状を見て、事態を把握した秋子は苦笑しつつも暖かい目であゆを見つめた。謝ってくるあゆに「いいのよ」と言いながら、二人に混じって片づけを始める。

「時間はあるんだから、少しづつ上達していけば良いんだよ。ね、秋子さん?」

「え? えぇ……そうですね」

 あゆの事を知る秋子は、祐一の言葉に躊躇いがちに返答する事しか出来なかった。その後、昼食の準備も手伝おうとしたが、秋子に休むように言われ、祐一とあゆはリビングに移動していた。特に会話するでも無く、用意してきた飲み物を黙って飲んでいた二人だったが、不意にあゆが口を開いた。

「ここの人は、皆優しくて良い人だね」

「あぁ。そのお陰で俺も随分と救われているよ」

 あゆの、心底そう思っているのは表情からも窺える発言に、祐一も笑顔で答える。時折、自分が改造人間であることの悲しみや苦しみ。更にはカノンとの戦いの辛さに押し潰されそうになっても、彼女らの言動に随分と励まされてきた祐一だった。尤も彼女達にしてみても、祐一の存在に何かと救われているのだが。祐一のそんな笑顔を見て、次いでリビングで付けっ放しになっていたTVを眺めた。そこでは何かのドラマを放送していて、登場人物の少女が幸せそうに笑っていた。TVを見ていたあゆは話を続ける。

「ボクも……」

「ん?」

「改造されなかったら、ボクもあんな風に幸せになれたのかな……」

「あゆ……」

「ボクは、改造人間としても中途半端だし……(それに、近いうちに死んじゃうし……)無理だよね」

「なれるさ」

 あゆの身体の事を知らず、又心の中までは読めるはずも無い祐一は、力強く断言した。

「祐一君」

「なれるさ、あゆ。お前が俺と同じ改造人間だとしても、お前は幸せになれる。いや、ならなきゃいけないんだ」

 真剣な顔で話していた祐一だったが、一旦言葉を切ると今度は笑顔で話し始めた。

「先ずはカノンを叩き潰す。そして、平和になったら皆で何処か遊びにでも行こうぜ」

「……平和になったら……」

「ん、どうした、あゆ?」

 悲しげな顔で答えるあゆを見て、祐一は疑問に思った。そんな祐一を見たあゆは、慌てて笑顔で取り繕う。

「う、ううん、何でも無いよ。……うん、そうだね。平和になったらボクもみんなと遊びに行きたいよ……鯛焼きも食べたいしね」

 あゆの言葉には切なる願いが込められていた。だが、その願いが叶う事は無いと、あゆ自身分かっていた。




 続く




 後書き

 こんにちは、梅太呂でございます。カノンMRSの39話をお届けです。

 ようやく話も佳境に入りましたが、早々にラストに向けて進めていくつもりです。

 あゆがどうなるのかは、察しがついているかとは思いますが、ネタバレ禁止の方向で宜しくお願いします。

 今回はこの辺で。

 最後に

 今作品を掲載してくださった管理人様

 今作品を読んでくださった皆様に感謝して

 後書きを終わりにいたします。

 ありがとうございました。                梅太呂

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