「ああ、心配ない。今度は負けないさ」

 ライダーの自信に満ちた言い方に美汐は安堵した。もう一度、お願いします。と言ってライダーに刀を渡した。

「佐祐理さんも待っていて欲しい」

 ライダーは近くで執事と会話していた佐祐理にも声を掛ける。

「分かりました。気をつけてくださいね」

「ああ、大丈夫さ。皆を連れて無事に戻ってくるから」

 ライダーは竹刀袋を背負うとサイクロンに跨り、学校へと走っていった。




                     Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                             第三十五話       




 学校・体育館

「!?」

 渾身の力を込めて振り下ろされた舞の刀は、久瀬のかざした掌によっていとも簡単に受け止められていた。と同時に何か硬い物に
叩き付けたような音が響く。

「そんな攻撃ではこの俺に傷一つつける事も出来んぞ」

 恐怖にも似た感情を覚えた舞は慌てて久瀬から離れた。久瀬は舞を追撃するでもなく、刀を受け止めた自分の掌を見つめながら言った。
久瀬の言うとおり掌には血が出るどころか、かすり傷一つ付いていなかった。

「久瀬、貴方は……」

「そうだ。この俺は普通の人間ではない。改造人間だ」

 舞は黙って、今度は刺突の構えを取る。久瀬の目を狙うつもりだった。だが久瀬は大して警戒するそぶりも見せずに、舞を見下すよう
に立っていた。

「……ハァッ!」

 短い気合の声と共に舞が駆け出した。そして刀を突き出そうとした時だった。

「!?」

 横合いから何かが空気を切り裂いて舞の元に飛んできた。舞はそちらに目を向ける事無く、気配だけを頼りにそれを打ち払った。そこで
初めて舞は突進を止めて、飛んできた物を見る。それは鋭利な鎌に似た刃物で根元には鎖が付いている。鎖を目で辿っていくとその先には
二階席に立っている怪人が居た。鎖は怪人の左腕から伸びている。全身緑色の姿で頭部は赤い目と触覚があり、背中には蟷螂の羽。

「ギィーッ!」

 怪人――蟷螂男――は、鎖を巻き取って鎌を左腕に戻すと二階席から飛び、久瀬の前に降り立つと舞に向かって構えを取った。その時、
二階のガラスが割れる音と共に何かが体育館に飛び込んで来る。ソレは羽をはためかせながら蟷螂男の近くに着地した。更には通路の奥
から二体の異形が現れ、最後に天井からも一体の異形が糸のようなものを伝って下りてくる。

「「「「ギギィッ!!」」」」

 蝙蝠男、ジャガーマン、蠍男、蜘蛛男だった。

「あれは!?」

「そんな……ライダーが倒したはずなのに」

 蠍男と蝙蝠男の姿を知っている香里達が驚きの声を上げた。

「蠍男……北川君なの?」

 カノンに捉えられ、怪人にされてしまったクラスメイトの名前を呟く。それを聞きつけた久瀬が香里達に聞こえるように話し始めた。

「そういえば、コイツのオリジナルはこの学校の北川とか言う男だったな」

「オリジナルって……じゃあ?」

「こいつらは、データを元に再生産された粗悪なコピー品だ。同じ蠍男ではあるが中身は全くの別物だ」

「「「「「ギギィッ!」」」」」

 粗悪品であれ何であれ、恐ろしい怪人であることには変わりがない。それが五体もいるこの状況は最悪と言ってよかった。舞達は
言葉もなく立ちすくんでいた。

「だが、この俺は違うぞ。カノンの科学陣がその技術の粋を集めて作り出した最強の怪人なのだ!」

 久瀬がそう言って顔前に両手をかざした。すると彼の両腕に鱗のような物が浮き出てきて、それが全身に広がっていく。

「ウオオオオッ!」

 叫んで両腕をどけるとそこには、舞達の知る久瀬の姿はなく、一体の怪人の姿があった。

「お前は!」

「そうだ。アルマジロングだ!」

 久瀬――アルマジロングはさらに一声吼えると舞を威嚇するように構えを取り、他の怪人達も舞達を取り囲むように動き出す。

「グガガ……」

「ギギギ……」

 酷く不鮮明な笑い声を上げながら、ある怪人は腕の刃物をちらつかせ、またある怪人は威嚇するように腕を動かして舞達を包囲
していた。

「香里、どうしよう?」

「……」

 名雪が寄り添ってくるが、香里にもこの状況を打開する方法は思いつかなかった。ジリジリと舞の所へ追い詰められていく。舞も
この場を切り抜ける手は持ち合わせていなかった。

「(ヤツを倒せなくても隙を作れればその間に二人を……)」

 舞は正面に立つアルマジロングを見据えていた。ライダーキックさえ通じなかった相手に自分の刀が通用するとは思えなかったが、
何とかして隙を作り、名雪達だけでも無事に逃がそうと考えていた。

「ハァッ!」

 舞は気合の声と共に駆け出し、アルマジロングの脇に立つ蟷螂男に切りつけた。しかし蟷螂男は余裕を持ってその斬撃をかわす。
だが舞のその斬撃は囮だった。蟷螂男が避けた事でアルマジロングまでの道ががら空きになる。舞はすかさず空いた空間に走りこみ、
アルマジロングの顔面に刺突を放つ。しかしその刺突は予測済みだったのか余裕をもってかわし、さらに一歩後ろへ下がった。

 初太刀をかわされた舞だが、即座に体勢を立て直すと勢いを殺さずに今度は横薙ぎの斬撃を放つ。アルマジロングは今度はかわそう
ともせずに予想される刃の軌道上に腕をかざした。鋼鉄の刃と怪人の腕が交錯する。すると甲高い音と共に、舞の刀が中ほどで折れた。
折れた先端は空中を回転しながら飛んで、体育館の床に突き刺さった。

「フン。そんな刀がこの俺に通用すると思ったのか?」

「お父さんの刀が……」

 アルマジロングがつまらなそうに呟くが、舞には聞こえていなかった。呆然と折れた刀を見つめている。

「舞さん!!」

「!?」

 舞は名雪の声に我に返って正面を見る。アルマジロングが自分に向かって拳を繰り出していた。

「クッ」

 寸での所で後方に飛び、拳は折れた刀で防御したが威力は凄まじく、舞は血を吐きながら名雪達の所まで飛ばされた。

「「舞さんっ!!」」

 二人とも駆け寄るが、後ろ手に拘束されている為に舞を抱え起こす事は出来なかった。

「うぅ……」

 呻き声を上げながらも舞はなんとか起き上がり口元の血を手で拭うと、殴られて更に刀身が短くなった刀を構える。その目には
未だ戦う意思を宿していた。

「舞さん」

「(二人とも、私が隙を作るからその間に逃げて)」

 舞が心配し駆け寄ってきた名雪達に聞こえるように囁くと、二人から驚きと制止しようとする声が上がる。

「そんな!?」

「駄目だよっ、もうすぐライダーだって来てくれるよ!」

 名雪達の声にも構わずに、舞はゆっくりと二人の前に立った。怪人たちは全員舞の前方に立ち塞がっていて、後方はがら空きに
なっている。出入り口までは遠いが、自分の活躍次第で二人がそこまで走る時間を稼げるはずだと計算していた。

「(佐祐理……祐一……)」

 最早そうとは呼べないような形状になった刀を構えながら、舞はここにいない自分の大切な人の事を考えていた。

「覚悟を決めたようだな。いいだろう……望み通り殺してやる!」

 アルマジロングが叫ぶと同時に、舞も覚悟を決めた。

「(佐祐理……ごめん、もう佐祐理を守れない。でも祐一がきっと佐祐理を守ってくれるから。祐一……佐祐理を、皆をお願い。魔物を
  ……カノンを倒して)」

 更に舞は一歩踏み出した。身体の痛みは耐えがたかったが、意志の力でそれをねじ伏せる。

「私の想いが、佐祐理と祐一と共にありますように!」

 自分の言葉に力を得ると、舞は怪人達の下へと走り出した。そのまま近くにいた蠍男に切りつけるが、それは怪人の鋏に簡単に止め
られてしまう。そのままの状態が続くが、次第に怪人に押され始める。柄を両手で持ち、必死に堪えている舞の左腕に、蜘蛛男の糸が
絡みつく。

「!!」

 蜘蛛男が糸を出した腕を振るうと舞の身体は、まるで重さが無いかのように軽々と宙を舞い、床に叩きつけられる。

「グッ……」

 床に叩きつけられながらも離さなかった刀を振るって糸を切り、舞は立ち上がった。

「そろそろ終わりにしてやれ」

 アルマジロングが指示を出すと、怪人達は自分の得物――爪や鎌、鋏――を見せ付けながらジリジリと舞に近づいてくる。そして
あと僅かで怪人の爪が舞の身体を引き裂こうとした時、体育館の壁をぶち破ってサイクロンが飛び込んできた。

「舞!!」

 飛び込むや否や舞の姿を見つけた仮面ライダーが、彼女の元へとサイクロンを走らせる。今まさに舞を引き裂こうとしていた
ジャガーマンは、突進してくるライダーを見るなり慌てて飛びのいた。その隙にライダーは舞を抱きかかえて走り去り、名雪達
の所でサイクロンを停める。

「「ライダー!」」

 名雪と香里は、無事なライダーの姿を見て歓喜の声を上げながらライダーに駆け寄った。舞もまた言葉にこそ出さないが、
その顔には安堵の笑みが浮かんでいた。ライダーは抱えていた舞を降ろすと三人を安心させるように言う。

「遅くなって済まない」

「もう、大丈夫なの?」

 色々と聞きたい事はあった。怪我の事、特訓の事……。それら全てを含める意味で名雪は一言だけ聞いた。

「あぁ、もう大丈夫だ」

 ライダーも一言で答えると、名雪と香里を拘束している手錠を引き千切って二人を解放し、怪人達に向き直った。

『ギギギ……』

「お前達は死んだはず……」

「ライダー、あいつらは再生怪人よ。カノンがまた作り出したみたいなの」

 香里が説明する。ライダーが怪人達と睨みあっていると、怪人達の間からアルマジロングが姿を見せた。

「……来たか、仮面ライダー。今度はキサマを確実に葬ってやる」

「アルマジロング……俺は負けない!」

「フハハ! キサマの攻撃はこの俺に通用しない事をもう忘れたのか!? 加えて今回はこの再生怪人達も相手なんだぞ。キサマには
 万に一つの勝ち目も無い!」

 先日の一件がある為、アルマジロングは余裕に満ちた声で答える。しかも今回はライダーを苦しめたかつての怪人達が揃っている。自分
で言った通りライダーには万に一つの勝ち目もないはずだった。

「久瀬……」

「何!? 舞、どういう事だ?」

 ライダーは舞のふと漏らした言葉が気にかかり、問い質す。

「ライダー、アルマジロングは久瀬」

「……本当なのか?」

 その言葉は舞ではなく、前方に立つアルマジロングに向けられたものだった。信じたくない思いを込めて問いかける。

「そうだ」

 だが帰ってきた言葉は無情にも舞の言葉を肯定するものだった。

「仮面ライダー……いや、相沢祐一。学校でキサマや川澄舞と話している時、殺気を抑えるのには苦労したぞ」

「久瀬……お前もカノンによって改造されていたのか。お前も北川や真琴と同じ、カノンの犠牲者なのか」

 友人になれたかもしれない男と戦わなければならない事に、ライダーは深い悲しみを覚えた。北川、真琴に続いてこの男も……。
そんな想いが心の中を駆け巡っていた。

「それは違うぞ、ライダー。この俺は自ら望んで改造手術を受けたのだ!」

「なっ!? 何故……」

「カノンは強大な組織だ。必ず世界を征服する。その中で俺は絶対的な地位につく為に、改造人間になった!」

 久瀬――アルマジロングの言葉にライダーのみならず、舞達も大きなショックを受けていた。まさか自ら望んでカノンに協力する者が
いた事が、ましてやそれが自分達のよく知る人物だった事に驚いた。

「お前は……」

「そしてライダー、お前を倒せば俺はカノンの幹部になれる。その為にもキサマにはここで死んでもらうぞ! 先日のダメージは回復し
 たようだが、完全な状態のキサマを倒してこそ、俺は幹部に相応しい実力を持つと証明出来る!」

 アルマジロングの声を合図に、二階席から戦闘員達が飛び降りてくる。ライダーは隣に立つ舞を見る。

「舞、まだ戦えるか?」

「はちみつくまさん。でも……刀がもう使えない」

 殆ど柄だけになった刀を見て言う舞に、ライダーは背負っていた竹刀袋を渡す。

「ライダー、これは?」

「佐祐理さんからだ。新しい刀だ」

「佐祐理が……」

 言いながら袋から刀を取り出す。柄も拵も自分が使っていた物と同じ作りになっていた。

「名雪達を守ってやってくれ。怪人達は俺が倒す」

 舞は頷くと古い鞘を引き抜いて、代わりに佐祐理から貰った刀を腰に差した。
 
「かかれぇ!」

『イーッ!』

『ギギィッ!』

 アルマジロングの指示を受けた戦闘員と怪人が一斉にライダー達に向かってきた。

「いくぞ!」

 ライダーがサイクロンに乗ったまま群れに突っ込んでいくと、壁の如く前方に立ちはだかっていた戦闘員達が、サイクロンに引き
裂かれるように左右に分かれていく。ライダーはそのまま走りぬけると反転、再度群れに突っ込んでいき、怪人や戦闘員達をかく乱
していた。

「エエィッ、何をしている!」

 素早く動き回るライダーを捉えられないことに業を煮やしたアルマジロングが叫ぶ。ライダーは群れを抜け出すと、今度は反転する
事無く走り去り、自分が飛び込んできた穴から外へ出て行く。

「逃がすな!」

 アルマジロンがそう叫んでライダーを追うと、他の怪人達もその後を追った。ライダーは体育館を飛び出して校庭に出ると、中央辺りで
サイクロンを停めた。

「ギギィーッ!」

 空を飛んできた蝙蝠男が、上空からライダーに襲い掛かって来た。

「トォッ!」

 ライダーはサイクロンから下りると、ジャンプして蝙蝠男を迎え撃つ。ライダーは蝙蝠男の振り下ろしてきた右腕を掴むとそのまま
地面へと投げつけた。蝙蝠男は受身も取れずに地面へと叩きつけられる。

「ライダァーッ、チョォップ!!」

 ライダーは着地ざまに蝙蝠男にライダーチョップを叩き込む。攻撃を受けた蝙蝠男は動かなくなった。

「ガァーッ!」

 蝙蝠男を倒したライダーの背後からジャガーマンが襲いかかってきた。ライダーは振り向く事無く横に転がって攻撃を避けると、
即座に立ち上がってジャガーマンと対峙する。

「グァーッ!」

 ジャガーマンは左右に飛び、ライダーをかく乱しながら近づいてきた。ライダーはその動きに翻弄されつつも、冷静に相手の動きを
追っていた。ジャガーマンはライダーの右側に飛ぶと、今度は飛び上がらずに低い体勢でライダーに走り寄り、右腕を振り上げた。

「クッ」

 ジャンプして空中から襲い掛かってくると思っていたライダーは一瞬反応が遅れた。慌ててかわすが、胸元を浅く爪が掠めていく。
立ち上がったジャガーマンが追撃をかけてきた。今度は左腕を振り下ろしてくる。ライダーはバックステップでこれをかわした。

「グォーッ!」

 間合いを取ったライダーに、横合いから蠍男の鋏が突き出される。ライダーはしゃがんでかわすとそのまま足払いを繰り出した。
蠍男はかわせずに転んでしまう。ライダーがパンチを繰り出そうとするが、蠍男は頭頂部から針を飛ばして牽制してきた。ライダーは
止む無く再びバックステップで怪人から離れる。

「!!」

 突然ライダーの背後から何かが空気を切り裂いて飛んできた。振り向きざまに右手で打ち払うが、それはライダーの腕に絡みついた。
それは蟷螂男の左腕の鎌だった。鎖の先には蟷螂男が立っている。

「グガガ」

 ライダーが手刀で鎖を断ち切ろうと左腕を振り上げるが、その左腕にも何かが撒き付いて動きを封じた。

「ギギギ」

 蟷螂男の反対側から、蜘蛛男が糸を飛ばしてライダーの左腕を封じていた。

「しまった!」

 蜘蛛男と蟷螂男が腕を引っ張るとライダーの両腕も引っ張られるが、そうはさせじと両腕に力を込める。三者の力が拮抗しているのか
動きは無い。だが、これによりライダーの動きは封じ込まれてしまった。体勢を立て直したジャガーマンと蠍男がゆっくりとライダーに
近づいて来る。

「このままでは……トォッ!」

 ライダーが地面を蹴って上空へと飛び上がる。蟷螂男と蜘蛛男は、それぞれ鎖や糸を伸ばす間もなくつられて空へと舞い上がる。
ジャンプしたライダーが空中で両腕を頭上で交差させるように振り上げると、その動きに追随するかのように二体の怪人は、ライダー
を飛び越えて頭上で激突した。怪人達より先に着地したライダーは自分を拘束している鎖と糸を掴むとハンマー投げの如く振り回して、
怪人達を倒れている蝙蝠男の上に叩き付けた。

「「グガァーッ」」

 鎖と糸を断ち切って自由を取り戻したライダーは、改めてジャガーマンと対峙した。ライダーの後ろには蠍男が立っている。

「ガァーッ!」

 雄叫びを上げながらジャガーマンが襲い掛かってきた。右手を揃えた貫手を繰り出してくる。ライダーは避けつつ手刀でこれを
打ち払って、返す手刀で、ジャガーマンの胸を打つ。そして、ライダーが振り向かずに後ろへ蹴り上げた右足は、忍び寄っていた
蠍男に命中し蠍男は蹴り飛ばされる。その隙にライダーはジャガーマンにパンチを打つ。

「ライダーッ、パァーンチッ!!」

 プロテクターを破壊されたジャガーマンはその場に倒れこむ。ライダーはジャガーマンを掴むと、蝙蝠男たちが倒れている所へ
ジャガーマンを投げ飛ばした。

「後は……」

 ライダーが振り向くと、起き上がった蠍男が鋏を構えてこちらに向けて突進してきた。蠍男は鋏を振り回し、或いは突き出して
ライダーに襲い掛かる。ライダーはそれらをかわしつつ後退していく。

「今だっ!」

 蠍男の振り下ろされた腕を受け止めたライダーは、そのまま後方に倒れこんで、巴投げの要領で蠍男を投げ飛ばす。

「サイクロン!」

 ライダーに投げ飛ばされ、起き上がった所に誘導されたサイクロンにぶつかって、蠍男は地面を転がっていく。ライダーは蠍男に
走り寄ると、蠍男に一発、二発とパンチを打ち込む。

「トオッ!」

 最後にライダーは蠍男を掴むと、怪人達が倒れている所へ投げ飛ばした。

「ヤツは……アルマジロングは何処だ?」

 再生怪人を全て倒す間にも、アルマジロングは一向に姿を見せなかった。周囲を見回すライダーだったが、背後に殺気を感じてその場
を飛びのいた。そこへ一瞬遅れて何か大きな物体が激突する。それは球状に変身したアルマジロングだった。

「アルマジロング!」

「ふん、再生怪人では相手にならなかったか」

 アルマジロングは変化を解くとつまらなそうに呟いた。ライダーに向き直ると再び話し始める。

「しかしライダー、あの程度の力では、この俺には勝てんぞ」

 ライダーは答えずに無言で構えていた。それからどちらからともなく、お互いに円を描くようにゆっくりと動き始めた。

「いくぞ!」

 歩みを止めた両者は同時に叫んでから走り出し、描いた円の中央辺りで互いの拳を激突させた。


                         ★   ★   ★ 


 体育館
 ライダーたちが飛び出した後、舞達三人は戦闘員達と戦っていた。舞は今までのダメージが残っているので動きが鈍っていたが、
それでも戦闘員の攻撃を刀で受け止め、或いはかわして切りつける。新たな刀は前の物よりも切れ味が勝っていた。名雪と香里もまた
奮戦していた。ここ最近祐一に習っていたとはいえ格闘は素人レベルの名雪だが、持ち前の運動神経で巧みに戦闘員の攻撃をかわし、
キックを当てていく。そこへ香里が止めを刺す、というパターンで戦っていた。二人とも邪魔になるドレスのスカートを外している。

「ふぅ……全く次から次へと……」

 香里が一息入れながら呟いた。額には汗が浮かび、戦いの激しさを物語っている。だがそれは明らかな隙であり、見逃す戦闘員では
なかった。

「イーッ!」

 戦闘員が短剣を突き出してくる。香里は半身になってこれををかわしつつ相手の懐に飛び込む。そして左手のナックルガードで
短剣を打ち払い、右の肘を戦闘員の顔面に叩き込んだ。怯んだ戦闘員にとどめの左ストレートを打ち込む。

「!?」

 本来ならそこで戦闘員は倒れるはずだったが、そうはならなかった。一瞬驚いた香里だが即座にその理由を知った。

「しまった! 弾切れ」

 ナックルガードに取り付けられた炸薬は四つあったが、今までの戦いで全て撃ち尽くしていた。右も同様で既に普通のナックルガード
程度の効果しか無い。

「イーッ!」

 急いで先端部を交換しようとするが、それより早く立ち直った戦闘員が香里に短剣を振り下ろしてくる。

「キャァッ!」

「なゆキィ〜〜ック!」

 その時、名雪の可愛らしい声と共に繰り出された飛び蹴りが戦闘員に炸裂した。キック本来の威力に加えて、接触した金属板から
電流が流れる。バチバチッ! という音と共に火花が発生して戦闘員に更なるダメージを与えた。

「イ゛ーッ」

その攻撃で戦闘員は倒れて動かなくなる。

「香里、危なかったね。大丈夫?」

「え、えぇ。平気だけど……何なのよ、その『なゆキック』って?」

「私の必殺技だよ。ライダーキックみたいにカッコイイ名前が欲しかったから考えたんだよ」

「あなたねぇ……」

 どうコメントして良いやら迷いつつも、香里はナックルガードの先端部を交換している。名雪を呆れた目で見ていた香里だったが、
途端にその表情が険しいものに変わる。

「名雪っ!」

「わ!」

 突如香里は、名雪に向かってパンチを繰り出した。名雪もまたその理由を悟ったので即座にしゃがむ。繰り出されたパンチは背後
から名雪に襲いかかろうとしていた戦闘員の顔面に当たった。

「イ゛ーッ」

 ナックルガードが当たると先端部の炸薬が爆発して、戦闘員を吹き飛ばす。今までより強い威力に香里は驚くが、単発式に切り替え
ていなかったので全ての炸薬が一度の爆発し、威力が強くなっていたのに気が付いた。

「わ! 凄い威力だね。『かおりんパンチ』」

「かおりんパンチって……」

「言葉通りだよ。香里だってカッコイイ技の名前欲しいと思って私が考えたんだよ〜」

「やめてちょうだい……」

「え〜、カッコイイのに〜」

 ここは戦いの場で、話の内容もかけ離れているが、二人の会話の雰囲気はまるで普段の日常生活のそれといって良い雰囲気だった。
しかしそんな雰囲気を踏み躙るように新たな戦闘員が襲い掛かる。慌てて身構える名雪達だったが、戦闘員が突如動きを止めたので
自分達もつい動きを止めてしまう。

「イ゛ーッ」

 断末魔の声を上げて倒れた戦闘員の背後には、刀を横薙ぎに振り抜いた舞が立っていた。

「二人とも、油断したら駄目」

 舞の言葉に気持ちを引き締めた二人は、改めて周囲を見回す。が、既に戦闘員は全滅しており、体育館には舞達三人がいるのみだった。
辺りに戦闘員の気配が無い事を確認した舞は、刀を拭うと鞘に収める。ソレをみて名雪と香里もそれぞれ緊張を解いて一息つく。名雪は
全く初めての実戦だったし、香里は以前戦闘員と戦った経験があるが、ここまで本格的な戦闘は名雪同様初めてだった。その所為か、
二人とも座り込んでしまう。言葉も無く座り込んでいたのだがそれは疲労だけでなく、加えてある種懺悔にも似た想いが心の中にあった。

 改造され、最早常人では無くなってしまったカノンの戦闘員。だが元はごく普通の人間だった者を殺めてしまった……。最中はそんな
暇もなかったが、こうして戦いが終わってみるとその事に気付かされてしまう。

「仕方ない……で済む問題じゃないけどね」

「香里?」

 香里には、名雪の心情は手に取るようにわかった。彼女は親友で付き合いも長く、性格も把握していた。それに香里も同じ想いでいた
から。自分を納得させる為、また親友を励ます意味でも香里は言葉を続ける。

「たしかに彼らも犠牲者よ。でもね、だからって罪も無い人々を傷つけて良い理由なんてないわ」

「……」

「私は最後まで戦い続ける。罪があるなら全て終わった後に受けるわ。これってライダーが言ってた事だけどね」

「そうだね」

 香里の言葉の意味を考えていた名雪だったが、やがて口を開いた。香里が立ち上がるのを見て、自分も立ち上がりながら言葉を続ける。

「祐一と……仮面ライダーと一緒に戦うって決めたんだもんね。それは罪も一緒に背負うって事だよね。うん、私も最後まで戦うよ」

「はちみつくまさん。私も一緒」

 二人の会話に舞が加わり、三人は見詰め合って一つ頷いた。それでお互いの意志は伝わった。

『共に戦おう』と。

「ライダー、大丈夫かな?」

 名雪の呟きに、香里も心配そうな表情になる。ライダーは『大丈夫』とは言ったが先日の負傷を目の当たりにしているだけに、不安は
拭えない。

「行ってみましょう」

 名雪達を促して外に出ようとした香里だったが、舞が動こうとしないので不審に思い尋ねた。

「あの、舞さん。どうかしましたか?」

「ぽんぽこたぬきさん……。ライダーならきっと大丈夫、それより……」

「それより?」

「名雪も香里もずるい」

「「え?」」

 名雪も香里も、舞の発言の意味が分からなかった。ライダーの所へ駆けつけるのも忘れて舞を見る。

「私も『なゆキック』みたいなカッコイイ名前が欲しい」

「……あ、えっと……」

 何か言いかけた香里だったが、突然外から大きな音が聞こえて来ると話すのを止めた。名雪と舞も校庭の方を見ている。

「今のは……」

「校庭よ。行きましょう!」

 香里が先頭をきって走り出すと、名雪と舞もそれに続いた。その中で舞は「後で祐一と佐祐理に考えてもらおう」と決めていた。
そして校庭に出た三人が見たのは、折り重なって倒れている再生怪人と、互いの拳を激突させているライダーとアルマジロングの
姿だった。


                         ★   ★   ★


 校庭
 互いの拳をあわせながら、ライダーとアルマジロングは力比べをするかのように押し合っていた。

「オオオッ!」

 ライダーの力が勝っているのか、アルマジロングの拳は徐々に押され始めた。怪人に焦りが浮かぶ。そしてライダーがこのまま
押し切ろうとしたとき、不意にアルマジロングは力を抜いて拳を逸らした。ライダーの上体が流され、無防備な身体を晒してしまう。
そこへアルマジロングの蹴りがきまる。ライダーは腹部を蹴り上げられて後退してしまい、アルマジロングはさらに追撃とばかりに
パンチを連続で繰り出してきた。

「死ねッ、ライダー!」

 止めとばかりにアルマジロングが大降りのパンチを放ってくるが、ライダーはそれをかわすと相手の腕を掴む。更にはもう片方の
手で怪人の肩を掴んだ。

「ライダァーーーーッ」

 アルマジロングの頭が下に来るようにして自分の頭上へと持ち上げながら、回転を付けて投げ飛ばす。

「きりもみシューーーートッ!!」

 投げ飛ばされたアルマジロングは激しく回転しながら落ちていくが、その途中で球体に変身する。球体は地面に激突するが、直ぐに
怪人形態に戻ると、何事も無いかのようにライダーに言う。

「無駄だ」

「クッ……」

「いくぞっ!」

 アルマジロングは再び球体に変身すると、ライダーに向かって転がってくる。ライダーは寸での所で回避するが、球体も即座に方向
転換をしてライダーに迫る。球体は今度はバウンドすると、ライダーの頭上から襲いかかってきた。これもなんとか回避するが球体は
まるでゴムボールのように跳ね返ってライダーを追いかける。ガードする間もあらばこそ、ライダーはその攻撃を食らってしまう。

「グァッ」

 スピードが乗っていなかったのでさほどでは無いが、以前食らった時のような衝撃がライダーを襲う。弾き飛ばされたライダーは数回
地面を転がって漸く止まった。なんとか立ち上がるが、また攻撃を受ければ以前のようになるのは確実だった。一方のアルマジロングは、
球体のままライダーに言う。

「ライダー、次でとどめだ」

 迫ってきた球体をなんとかかわしたライダーだったが次の瞬間、背筋が凍りつく思いになった。

「な!?」

 後ろを見ればそこには、壁に開いた穴の前に舞達が立っている。ライダーは何時の間にか先日の屋上と同じ状況に追い込まれていたのだ。

「みんな、そこから離れろ!」

 アルマジロングはその場を離れようとしていた舞達に接近する。そして近くで跳ね上がると頭上から舞達に襲い掛かった。

『キャァッ!』

 三人は揃って悲鳴を上げ、観念したかのように目を閉じた。だが球体は三人にぶつからず、サイクロンが開けた穴の横に激突し、そこ
にもう一つ大きな穴を開けていた。球体は体育館を横切り反対側の壁にぶつかって止まった。

「……?」

 何時まで待っても衝撃が襲ってこないのを疑問に思った舞達が目を開けると、そこにはライダーが立っていた。

「ライダー」

「無事か?」

 ライダーは飛び上がっていた球体を間一髪ライダーキックで弾き飛ばしていた。だがアルマジロングにダメージらしいダメージは無く、
球体の進行方向を変えるのが精々だった。そう会話している間にも壁から抜け出たアルマジロングが又しても襲い掛かってきた。

「トォッ!」

 ライダーは三人を抱えるとジャンプして攻撃をかわし、離れた所に着地した。三人を下ろすと、庇うように前に出る。アルマジロング
は先程と同じ場所まで来ると回転をやめ、怪人形態に戻る。

「往生際が悪いな……だが次はそうはいかんぞライダー」

 アルマジロングの言葉に、三人から離れようとしていたライダーの動きが止まった。

「キサマと女達との距離が離れれば、まずその三人から殺す!」

「何だと!?」

「無論俺の攻撃をかわしても後ろの女達に当たる。……お前達も動くな!」

 今度は、ライダーに代わってその場を離れようとした舞達に、アルマジロングは鋭い警告を発した。自分達が、ライダーを助ける
どころか足枷になっているのを苦々しく思うがどうしようもなく、舞達はその場から動く事が出来なかった。

「諦めてこの俺に殺されろ、ライダー」

 サイクロンを呼ぼうにも、ここからは少し距離がある。その僅かな時間でアルマジロングはこちらにやってくるだろう。打つ手が
無かった……いや、一つだけあった。

「(あの技でヤツを倒すしかない)」

 特訓で編み出した技。まだエネルギーに余裕はあるので繰り出す事は出来る。しかし、

「(本当にあの技で倒せるのか? もし倒せなかったら……)」

 自信はあったが、いざ使うとなると一抹の不安は拭えなかった。

「「「ライダー」」」

 不安な気持ちのライダーに後ろから皆の声が掛けられる。それは自分を信頼しきっている声だった。それにライダーの心が反応する。

「(そうだ、皆はこの俺を信じてくれた。俺も、自分を……この力を信じるんだ!)」

 決意したライダーは一歩踏み出すと、アルマジロングに叫んだ。

「アルマジロング! 俺は……負けない!」

「ライダーッ、死ねェッ!」

 アルマジロングは球体に変身すると、今まで以上のスピードで迫ってきて跳ね上がり、空中からライダーに迫り来る。

「トォッ!」

 ライダーもジャンプして空中で二回、三回と回転し、そして右足にエネルギーを集めるべく意識を集中させる。

「電光ぉーーッ」

 全身を屈伸させるように動かしつつ右足を繰り出すと、その右足が輝きだす。

「ライダーーキィーーーーック!!」

 その右足が迫り来る球体と激突した。周囲に凄まじい音が響いて両者が弾き飛ばされる。ライダーは空中で回転してバランスを取り
無事に着地するが、その途端に虚脱感に見舞われて、膝をついてしまった。

「ライダー!?」

「だ、大丈夫だ」

 先日のことを知っている舞が慌てて駆け寄ってきてライダーを抱え起こした。ライダーは舞の手を借りて立ち上がるとアルマジロング
が飛ばされた方を見る。

「ヤツは……」

 アルマジロングは怪人形態になっていて、倒れている怪人達の側に立っていた。一瞬ライダーの心に、倒せなかったか? と焦りが
生じる。

「グ、グア……」

 アルマジロングの呻き声と共に、何かひび割れるような音が聞こえてくる。徐々に激しくなりやがて、何かが壊れる音が校庭に響き
渡った。それはアルマジロングの甲羅が破壊された音だった。

「オ、オレ……ハ……」

 その言葉を最後にアルマジロングは倒れ爆散した。その爆発によって、倒れていた怪人達も共に爆散する。

「勝った……」

 怪人達が爆散する様を見てライダーが呟くが、その声は勝利したというのに、どこか悲しげだった。

「終わったわね」

「うん、やっと終わったよ」

「……まだ終わってない」

 お互いを労っている名雪と香里に水を差すように、舞の静かな声が響く。

「舞踏会に参加していた皆の姿が無い。きっとカノンのアジトに連れて行かれた」

「「あ!」」

 それを聞いて、香里達も思い出した。

「だが舞、カノンのアジトといっても……」

「久瀬君が……アルマジロングが言ってたわ。学校の地下にアジトを建設しているって。きっとそこよ」

 香里が、久瀬との会話の中で得ていた情報をライダーに話した。それを聞いたライダーは学校内に入っていき、程なくして中庭で
地下アジトへの入り口を見つけた。

 数刻後、学校の地下から地響きと、くぐもった爆発音が聞こえてくる。それはカノンアジトの壊滅を示すものだった。地上では助
かった生徒達の安堵する声が聞こえていた。


                         ★   ★   ★


 生徒、教師、警備員に被害の出たこの事件は、謎のテロリストによる襲撃事件としてマスコミを大いに賑わせた。だが決して、この
事件の真相に関わる組織の名前が出る事は無かった。舞台となった学校は校舎の損傷が酷くて暫く休校になり、また久瀬と言う家が火
事により全焼、家人は全員死亡というニュースが地元発行の新聞に掲載されていた……。


                         ★   ★   ★


 水瀬家・ダイニング

「あはは〜、どうですか?」

「祐一……似合う?」

 百花屋のエプロンを着けた佐祐理と舞は、目の前に座る祐一に尋ねた。笑顔で尋ねてくる二人――舞は親しい者でなければそうとは
分からない程変化に乏しいが――とは対照的に、祐一は何となく渋面だった。それは決して自分の前に置かれたコーヒーの所為では無い。

 ある日の早朝、起きてきた祐一を出迎え、コーヒーを出してきたのがこの二人だった。他の者は二人の後ろから微笑みかけている。
尤も名雪だけは、又しても祐一が起こすのを忘れた所為で未だ眠りの園の住人だったが。

「二人とも、その格好は……」

 とりあえず出されたコーヒーを啜りつつ、二人に尋ねた。

「百花屋のエプロンですよ」

「佐祐理さん、それは分かってるよ。如何して二人がそれを着ているのかが聞きたいんだけど?」

「ここで働くから……秋子さんの了承は貰った」

「そうなんです。舞も佐祐理も一緒に百花屋でアルバイトする事に決めたんです」

 予想された答えではあったが、祐一を驚かせるには充分だった。

「アルバイトって……どうして?」

 佐祐理はこの街、いや日本でも有数の資産家の娘である。そんな必要は全く無い筈だ。祐一のそんな考えを悟ったのか、佐祐理が
何時もの明るい調子で答えた。

「実はですね。舞と佐祐理は高校を卒業して大学に入ったら、家を出て二人で暮らそうって決めていたんですよ。その生活費や学費
 も自分達で稼ごうって。尤も今までも二人で暮らしていたようなものですけどね。まだ卒業前ですけど、この機会にもう倉田の家
 を出る事にしたんです」

 そう言う佐祐理は『倉田家の佐祐理』ではなく、あくまで一人の少女『倉田 佐祐理』だった。隣に立つ舞と共に生きていこう、
そんな決意が感じられた。

「それでアルバイト先と住む所を探していたんですけど、丁度良いと秋子さんに誘われまして」

 祐一は秋子を見るが、秋子は頬に手を当てて何時もの如く微笑んでいた。

「……えっと、住む所ってここ?」

「いえ、でもここから見えますよ。ホラ、あのアパートです。秋子さんに紹介していただきました」

 佐祐理が指差すその先には、道路を挟んで斜向かいに立つ小奇麗な二階建てのアパートがあった。

「えっと、でもここからだと大学って遠いんじゃ……?」

「電車で二駅のところにある大学だから、ここからでも通える」

「舞と佐祐理は同じ大学なんですよ」

 言われて見れば、割と近くに大学があったのを思い出した。

「受験のほうは大丈夫なの?」

「二人とも、もう去年のうちに推薦で決まってましたから。今度の事件で舞の推薦が取り消されないかと不安でしたけど」

「……」

 黙って舞を見ていた祐一に、舞のチョップが炸裂した。

「舞、痛いぞ!」

「祐一、何か失礼な事考えていた」

「あはは〜、駄目ですよ祐一さん。舞は成績も良いんですよ」

「……ゴメンナサイ」

 祐一の考えは佐祐理にも見抜かれていた。そう三人が話している間にも朝食が運ばれ、名雪を除く全員が席に着いた。


「あ、そうだ祐一さん」

 食事もあらかた終わった頃、佐祐理が「良い事思い付きました」と言わんばかりの表情で祐一に話しかけてくる。

「な、何?」

 何処と無く嫌な予感を感じつつ、祐一は先を促した。

「はい。祐一さん……佐祐理達と一緒に暮らしませんか?」

「えっ?」

「えっ?」

「ゑ゛っ?」

「あらあら」

 香里、美汐、祐一、秋子が四者四様の驚きを見せる中、佐祐理は何時もの笑顔のままだった。それは立ち直った香里と美汐が祐一に
冷たい視線を向けても変わらなかった。

「あ、あの〜佐祐理さん。それは一体どういう……」

「はい。舞と同じで祐一さんも佐祐理にとっては”大事な人”ですから一緒に暮らしたいって思ったんです。何時でも一緒にいられる
 んですよ、素敵だと思いませんか?」

「あ〜、いや、その……」

「ふぇっ……駄目ですか?」

 佐祐理の目に涙が浮かぶ。それを見た祐一は罪悪感を覚えるが、秋子のように即座に『了承』する事も出来なかった。

「祐一、佐祐理を悲しませたら駄目」

「舞、お前は良いのか!?」

「祐一と一緒に暮らすの……かなり嫌いじゃない」

「舞……お前もか」

 祐一の縋るような問いかけに、舞は頬を赤くして答えた。それは舞とさほど付き合いの深くない秋子達でも、はっきりとわかる
程の変化だった。

「相沢君……」

「相沢さん……」

「祐一さん……」

 香里と美汐からは冷たい視線が、秋子からは何処と無くこの状況を楽しんでいるような視線を受けながら、祐一は頭脳を総動員して
佐祐理達の説得にあたった。

「でも佐祐理さん。女性二人暮らしの所に男の俺が転がり込むのはホラ、世間的にもマズイというか……」

「あはは〜、祐一さん。今の状況だって然程変わらないじゃないですか」

「ぐ……」

 言われて見れば確かにそうだった。親戚とはいえ女性が二人暮らしの所へ居候し、現在は美汐と香里も居るこの状況も『祐一の言う
世間的にマズイ』ものであった。

「それと……祐一さんには、責任を取って貰いたいです」

「は!? セ、責任っ!?」

「はい、アノ日……祐一さんに、汚(けが)されてしまいましたから……」

 伏目がちになる佐祐理を見ながら祐一は、身に覚えなど無いがそれでも、必死で心当たりを探していた。香里と美汐だけでなく、今や
舞も冷たい視線を向けている。やがて心当たりに思い至る。それは特訓中、新必殺技のキックで岩を粉砕した際に砂埃で佐祐理が汚れて
しまった事だった。

「ち、違うっ! 誤解だ!! あれは、キックで岩壊して、砂埃で、汚(よご)れて!」

 何一つやましい所などないはずなのだが、祐一はしどろもどろになって皆に弁解していた。

「あらあら祐一さん、どうするんですか? この家を出て行ってしまうんですか? そうなったら私も寂しいです。でも、ちゃんと責任
 は取らないと……」

「(秋子さん、絶対この状況楽しんでるよ……)」

 こういう所は流石母の妹だと実感するが、何もこんな場面で血縁を証明して欲しくなど無かった。香里と美汐の冷たい視線、舞と
佐祐理の期待に満ちた視線に追い詰められた祐一に、最早逃げ場は無かった。しかし意外な所から助けが現れた。それは秋子と同じ、
血縁による者の助けだった。

『ジリリリリリリリリリリリリッ!!』

『ピピピッピピピッピピピッピピピッピピピッ!!』

『おきろーおきろーおきろー!!』

『ドッガーン!!』

『パラタタタタタタタッ、チュインチュインッ、ドガガガガガガッ!!』

『ヒューヒューヒュー、ドンドンドン、パフパフパフ!!』

『ヴォーン! ギイッ! 助けて〜! 出たなショッカー! ライダー変身! トォッ! 』

 二階の名雪の部屋から突然のアラーム、爆発音、果ては何だか訳の分からない物の大合唱が響いてきた。

「(名雪のやつ、今日も休校だっていうのに目覚ましをセットしていたのか!?)」

 休校だから目覚ましなど必要ないのに、と毒づくがこの時ばかりはそれが天の助けのように思える。

「あ! 俺、名雪を起こしてきます。じゃっ!!」

 背中越しに口々に自分を呼ぶ少女達の非難の声を受けながら、祐一は起きていれば確実にあの非難の声に加わっているであろう
従兄妹を起こすべく、部屋を抜け出していた。あわてる祐一にはこれが只問題を先延ばしにしている事に気が付いていない。また、
名雪を起こせば、さらに問題の火が大きくなる事にも気付いていなかった。




 続く




 後書き

 はい、皆さんこんにちは。梅太呂です

 カノンMRS35話お届けです。

 舞編完結です。いや〜、ここまで長くなるとは自分自身思っても見ませんでした(ォィ

 回想が長いなーとか、まぁ佐祐理さんの話もあったからなーとか、色々な要因は多々ありますが、反省すべきところは

 次に活かせ……たら良いな、と(汗

 舞編ですが、ライダー敗れる→特訓して新技を会得→敵に勝つ。という仮面ライダー伝統(?)の話を盛り込みた

 かったのでこんな話になりました。次回以降でもこの技が……出るかどうかは未定です(オイ

 それらもさておき、今回は次回の話の予告とも言うべき女の子は出てきませんでした。と言うより話の都合上出せませんでした

 とは言え、あと一人なので誰の話になるかはもうお分かりかと思いますが。一応話の大筋も決まり現在製作中であります

 しかしながら、次はちょっと一休みしまして番外編みたいなものをお送りするつもりです。こちらはコメディというか、シリアス

 とはちょっと外れたお話になる予定です。本編共々合わせてお待ちいただけたら幸いです

 今回はこの辺で

 最後に、この作品を掲載してくださった管理人様

 この作品を読んでくださった皆様に感謝して、後書きを終わりに致します

 ありがとうございました                            梅太呂










 



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