中庭に金属同士が打ち合わさる甲高い音が響き渡る。影と数合切り結んだ舞は影の攻撃を跳ね上げると、返す刀で影を横薙ぎに払う。
斬られた影は声も無く崩れ落ちる。

「!?」

 その時舞は背後に殺気を感じた。振り向けば今まさに、忍び寄ってきた別の影が舞に襲い掛かってくる寸前だった。舞はかわそう
とするが、到底間に合う距離では無い。

「(やられる!?)」

 舞が観念して目を閉じようとした瞬間、視界に別の影が映った。

「祐一!?」

「させるかぁっ!」

「イ゛ーッ」

 攻撃が舞に当たる寸前に祐一は、舞が魔物と呼んだ謎の影――カノンの戦闘員――を殴り飛ばしていた。




                  Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第二十七話       




 戦闘員を殴り飛ばした祐一は、そのまま舞の元に走り寄った。

「舞、無事か?」

 頷くことで祐一に答えた舞は、即座に立ち直ると刀を構えて周囲を警戒する。祐一もまた舞と背中合わせに立ち、身構えて辺りを
見回した。

「イーッ!」

 木々の陰や常夜灯が照らす範囲の外から複数の戦闘員が現れて祐一達を取り囲む。

「舞、こいつらがお前の言う『魔物』で間違いないのか?」

「はちみつくまさん」

「(川澄博士は、昔からカノンの存在を知っていた?)舞、こいつらは……」

 祐一は舞に、魔物の正体を教えようとしたが、それを言おうとする前に戦闘員達が襲い掛かってきた。祐一は話すのを止めて
戦闘員達と対峙した。

「イーッ!」

 祐一は戦闘員が振り下ろしてくる短剣を持った腕を受け止めると、戦闘員の腹部にパンチを打ち込む。続いて、身体が折れ曲がり
下がった頭部を膝で蹴り上げた。

「イ゛ーッ」

 ふきとんだ戦闘員には目もくれずに次の相手と向き合った。次の戦闘員は無闇に向かってくるような事はせずに、短剣を構えたまま
慎重に間合いを計っている。やがて業を煮やした戦闘員が短剣を突き出してきた。祐一はそれを半身になってかわすと、戦闘員の腕を
とって自らは相手の懐に飛び込み身体を密着させて、戦闘員を地面に叩きつけるように投げ飛ばした。

「イ゛ーッ」

 頭から地面に叩きつけられた戦闘員は仰向けに倒れるとそのまま動かなくなった。

「舞は?」

 自分に襲い掛かってきた戦闘員を全て倒した祐一は、舞の方へと目を向けた。そこには戦闘員に囲まれている舞の姿があった。


                        ★   ★   ★


「……」

 舞は自分を囲んでいる戦闘員達、正面にいる相手以外を気配で察知していた。左右と後ろにその気配が感じられる。
正面、左右に背後。それらの殺気が徐々に高まっていく。舞は刀を大上段に構えていた。

『イーッ!』

 戦闘員達は、ほぼ同時に舞に斬りかかってきた。だが舞は自分の名の様に、舞うような一見緩慢な動きでこれをかわすと、
まず左の戦闘員を斬った。次いで右を、背後を、最後に正面を斬った。

『イ゛ーッ』

 戦闘員達は、これまたほぼ同時に崩れ落ちていく。辺りに戦闘員の気配を感じなくなったので、舞は刀を一振りした後、ポケットから
取り出した布で刀身を拭って鞘に収めた。

「舞」

 祐一は、舞が刀を鞘に収めた所で声を掛け、舞も祐一の所へやって来る。顔には僅かではあるが祐一を気遣う表情をしていた。

「祐一は平気?」

「あぁ、見ての通りだ」

 祐一は舞いに笑いかけたが、倒れている戦闘員を見て表情を引き締める。

「舞。こいつら魔物の事なんだが……」

 先程言いかけた、魔物の正体について舞に話し始めた。

「こいつらは『カノン』という組織の戦闘員だ。カノンってのは世界征服を企む悪の秘密結社なんだ。舞、お前が知っているのは
 この戦闘員だけか?」

「ぽんぽこたぬきさん。もっと恐ろしい姿をした魔物もいる」

「戦ったのか?」

「戦った事は無い。前に商店街で仮面ライダーが倒す所を見た」

「そうか(商店街というと、蝙蝠男か。あそこに舞もいたのか)」

「……祐一」

 今度は舞から話しかけてきた。その表情は今までにないくらい真剣だった。

「祐一は何で魔物の正体を知ってるの? お父さんも「魔物」としか教えてくれなかったのに」

 それは、答えを聞くまで絶対に引かない、という決意のあらわれでもあった。

「俺もこいつらとは関わりがあるのさ。舞の言葉を借りるなら俺も『魔物を討つ者』だから」

「祐一も?」

「あぁ。俺はこいつらカノンに家族を殺されたんだ。ニュースじゃ通り魔の犯行って事になってるけどな。家族だけじゃない、
 他にも大切な人達を殺されているんだ」

 祐一の心に、あの時感じた怒りと悲しみが沸き起こっていた。自然と握った拳に力が込められていく。

「復讐の為に戦っているの?」

「いや……たしかに復讐の気持ちはあるけどそれだけじゃない。カノンは多くの人達を苦しめている。俺はそんな人間の自由の為に
 魔物と……カノンと戦っているんだ」

 それから祐一は、舞にカノンについて色々と教えた。カノンは強大な組織である事、魔物というのはヤツらが作り出した怪人である事。
舞はそれらを黙って聞いていた。祐一が話し終えても暫くはそのままだったが、やがて口を開いた。

「祐一、それでも私は魔物……カノンと戦う」

「舞」

 祐一が舞にカノンのことを話したのは、舞に戦いを止めさせる為だった。だがそれは、舞の決意をより固めさせた。

「お父さんに『人々を守る為に戦え』といわれたし、それに……佐祐理も守りたいから」

「佐祐理さんか……」

 今日出会った、明るい笑顔の少女を思い浮かべる。

「分かったよ、一緒に戦おう。でも舞、戦闘員はともかく怪人は本当に恐ろしいヤツなんだ。無理はするんじゃないぞ。
 舞に何かあったら佐祐理さんが悲しむからな」

「はちみつくまさん」

 舞の決意は固く、覆せそうにないと思った祐一は、せめて一緒に戦おうと舞に提案した。舞もまた祐一と共に戦うと誓った。

「舞、一緒に戦うのは俺だけじゃない。他にも仲間はいる。明日にでもその人達に紹介するよ」

「その人達も強いの?」

「いや、だけど俺を支えてくれるんだ。俺の大事な人達だ」

「わかった」

 舞は頷くと、念のためにもう一度辺りを見回した。祐一も同様に気配を探ってみたが、祐一達の他に動く者の気配は感じられなかった。

「どうやら、ここにはコイツらだけのようだな……それにしても、こいつらは一体何をしていたんだ? 舞、分かるか?」

「知らない」

 戦闘員が何の目的もなくうろついていただけとは考えられなかった。何かの作戦があって、その為に学校に出たというのが妥当な
考えであった。

「もう少し学校を調べてみるか……舞はどうする?」

「祐一と一緒に行く」

「分かった。まだ他にいるかもしれないから、気をつけろよ」

「はちみつくまさん」

 祐一と舞は、もう一度校舎に戻って注意深く探索を始めた。

「そういえば舞は佐祐理さんの家で暮らしているんだよな?」

 廊下を歩きながら祐一は、夕食の時に秋子達と話して出てきた事を舞に聞いてみた。周囲を警戒しながらだったので、小声で話す。

「佐祐理さんの家とは、どういう関係なんだ?」

「私のお父さんと佐祐理のお父さんが知り合いだった」

 舞は気にした風も無く、祐一同様小声で直ぐに答える。それは祐一の疑問を完全に解消するものではなかったが、それ以上踏み込んだ
質問をする気にもなれず祐一は「そうか」とだけ答えて、また黙って周囲を警戒しながら歩いた。先程以上の時間を掛けて校舎内を探索
したが、怪しい気配も場所も見つからなかった。祐一達は学校を出るとバイクを止めてあった所まで戻ってきた。

「さて、これからどうするか……街中を見て回るか?」

 バイクに跨り、ヘルメットを手に取りながら祐一が舞に尋ねた。舞は既にライダースーツを着て、刀も竹刀袋に収めて背負っている。

「今日はもう出ないと思う」

 舞は確信に満ちた声で答えた。舞の話ではカノンの戦闘員が現れたのはここ一月ほどの事で、殆どが学校近辺に現れるとの事だった。

「じゃあ今夜はもう帰るか」

 時間を確認してみれば、もうじき日付も変わる時刻になっていた。

「舞は佐祐理さんの家に帰るんだろ? 佐祐理さんの家ってあの「倉田グループ」だったんだな」

「はちみつくまさん」

「よくそんな家から抜け出して来れるな。警備や監視の目だってあるだろうに」

「問題ない。家から離れているから。それに私を捕まえる事は出来ないから」

 舞の説明では、舞と佐祐理は本宅から少し離れた所にある別宅で暮らしているとの事だった。(それでも同じ敷地内にあるのだが)
それに舞の運動能力をもってすれば、警備や監視の目をくぐって行動するのは難しい事では無い。

「じゃあ佐祐理さんは、舞が夜出歩いているのを知っているのか?」

「多分知ってる。でも何をしているかは知らない筈……祐一」

 そこまで言いかけた舞を、祐一は手を上げて止めた。舞が何を言おうとしているか分かっていた。

「分かってる。佐祐理さんには秘密にしておくよ」

「ありがとう……佐祐理は巻き込みたくないから」

「ほんとに佐祐理さんの事を大切に思っているんだな」

「佐祐理は……私を受け入れてくれたから。祐一と同じように……」

 舞は昔のことを思い出したのか、少し寂しそうに言った。

「じゃあ……」

「あぁ、また学校でな」

 お互いに挨拶すると、それぞれ違う方向へバイクを走らせた。祐一はそれでも念の為に、見回りも兼ねて少し遠回りをして
水瀬家に戻った。


                         ★   ★   ★


 某所に存在するカノンのアジト

『アルマジロングよ、新アジト建設はどうなっている?』

 アジトの指令室にカノン首領の声が響く。首領の声を受けた一人の怪人が、レリーフの前に現れた。
名前が示す通りアルマジロの能力をもつ怪人で、全身はまるでタイルを敷き詰めたように青白い鱗甲板で覆われている。

「ハッ、計画は順調に進んでおります」

 アルマジロングと呼ばれた怪人は、レリーフに向かって恭しく頭を下げながら報告していた。

『ジャガーマンは仮面ライダーに計画を邪魔され、倒されてしまった。ヤツもろとも建設途中のアジトを爆破しようとしたが
 これも失敗に終わった。キサマの方には問題は無いな?』

「問題ありません。最近は周りをうろついている者もおりますが、我らの計画を察知することは出来ないでしょう」

『……抜かるなよ。失敗は許さぬ』

 その言葉を最後に、レリーフ中央部の発光も消えて首領の声も聞こえなくなった。アルマジロングは未だ頭を下げたままでその場に
立っていた。

「必ず成功させてみせる」

 誰もいない指令室で、アルマジロングは自分にそう言い聞かせていた。


                         ★   ★   ★


 水瀬家に戻った祐一は、ガレージにバイクを止めて、家の中に入った。家人の殆どは既に眠りに付いており、ひっそりと静まり
かえっている。祐一が廊下を通ってリビングに入ると、そこには秋子がいた。

「あら? 祐一さん、出かけていたんですか?」

 祐一が入ってきたのに気付き、そして彼の格好を見て、秋子が話しかけてきた。

「えぇ。すいません、言ってなかったですね。ちょっと学校まで」

 出掛けに誰にも会わなかったので、誰にも告げずに出てきたのだった。

「それは良いんですけど、何故学校に? それもこんな時間まで」

「えぇ、実は……」

 そう言って祐一は先程学校であった出来事を秋子に話した。

「カノンの戦闘員が居たんですか?」

 祐一の報告に秋子が驚く。今二人はリビングのソファーに座って話していた。

「はい、何をしていたかは分かりませんでしたが」

「偶然でしょうか? それとも何かの作戦中とか……」

「分かりません。ですが、警戒していた方が良いですね」

「そうですね。名雪達にも気をつけるように言っておきましょう」

 カノンの事はそれで一先ず置かれ、次いで舞の話になった。昔の事、昨夜の学校で出会った事、今夜あった事も全て話した。

「舞ちゃんもカノンと戦っていたんですか」

「はい。尤も舞はカノンの事を『魔物』と呼んでいましたが。父親からそう教えられていたようなんです」

「じゃあ、川澄博士はカノンの存在を知っていたという事になりますね」

「えぇ」

 祐一が黙ると、今度は秋子が話し始めた。それは川澄博士に関する事であった。

「健吾さんの残した物を調べていく内に分かった事なんですが、川澄博士は人の身体機能を高める研究をしていたようなんです」

「身体機能を高める、ですか?」

「はい。筋肉や反射神経などの運動機能の他に、免疫機能とかそういったものを強化するんです」

「強化するといっても、どうやって……」

「詳しくは分かりませんでしたが……」

「川澄博士は改造人間、というより強化人間の研究をしていたという事ですか」

「そうなりますね」

 川澄博士はカノンの存在を何故知っていたのか? 何故彼は娘である舞に戦えと言ったのか? 他にも様々な疑問が祐一の頭に
浮かんできたが、その問いに答えられる者はこの場に存在しなかった。

「祐一さん、どうかしましたか?」

 考え込んだ祐一を見て、秋子が気遣って声を掛けてきた。祐一は、即座に頭を切り替えて秋子に答える。

「いえ、何でもありません。川澄博士達の事は気に掛かりますが、今はカノンの目的を探る事が先決ですね」

 続けて祐一は、舞を秋子達に紹介すると伝えた。秋子も了承し、今日にでも(日付は既に変わっている)舞を連れて来る事にした。

「あの、祐一さん」

 それから暫くして、秋子が神妙な面持ちで話を切り出してきた。

「何でしょうか?」

「実は……」

 それは、ここ最近の秋子の行動についてだった。健吾の研究室に篭って何をしていたか話し始めた。

「そんな事をしていたんですか……」

「はい。少しは祐一さんの手助けに、いえ、どちらかと言うと祐一さんの足手まといにならないように、と思いまして」

「……分かりました。でも本当に……」

「はい、あの子達に無茶はさせませんよ。約束ですからね。それに『相沢祐一』として生活できる場所を守る。とも約束しましたから」

 祐一が彼女達を守ると約束したように、秋子達もまた祐一との約束を守ろうとしていた。だが、そう言う秋子の顔には僅かだが苦悩
が見てとれた。それに気が付いた祐一は、秋子に頭を下げる。

「すいません秋子さん。本当はこんな事したくは無かったでしょうに」

「良いんですよ」

 たしかに秋子としてはこんなことは出来る事ならしたくは無かった。だが、あえて選択したのだった。それから秋子は話を一旦区切ると、
居住まいを正して祐一を見つめながら話しはじめた。

「貴方は、カノンによって傷つき殺された人々は全て自分一人の責任だと思っていませんか? たしかに祐一さんは仮面ライダーで
 強い力を持っています。ですが、全てを背負い込もうとしてはいけません」

 そう話す秋子の顔には先程までの苦悩はない。代わりに優しくも厳しさを感じさせる顔をしていた。まるで母が子供を叱るように。

「秋子さん……」

「私達もいるんですから」

 自分達が平和に暮らし、『相沢祐一』として生きていける場所を作るだけでは無い。『仮面ライダー』と共に戦う事により、本当に
祐一を支える事になる。彼一人では抱えきれない悩みや苦しみを自分達も背負っていこう。秋子はそう決意したのだった。

「あの子達もそのつもりでカノンと戦うと言ったのですから」

「……はい」

 秋子の言葉に祐一は多くを語らず、その胸中とは裏腹に、ただ一言だけ返事を返した。そして無言のまま頭を下げるとリビングを出て
自室に戻った。


                         ★   ★   ★


 翌日、普段通りに登校した祐一は昨夜の戦闘跡を見た回ったが、痕跡の欠片も見つけることは出来なかった。学校内は明後日に
迫った舞踏会の準備などで慌しくなっており、表面上はごく平和な学園風景が広がっていた。
 昼休みになると祐一は、名雪達への説明もそこそこに、舞達が何時も昼食を食べている屋上入り口の階段踊り場へと向かった。
佐祐理も一緒だから昨夜の事は話せないだろうが、今日の帰りにでも秋子達に会わせようと、舞に話すつもりだった。

「あ……祐一さん」

「おぅ、祐一さんだぞ……って、あれっ、佐祐理さん一人?」

 階段を上ってきた祐一に気付いた佐祐理が声を掛けてきた。祐一も明るく挨拶を返して佐祐理の所までやってくるが、その場に
いるであろう舞の姿は無かった。

「あ……はい、舞は……その、今日はお休みなんです」

 佐祐理は言い難そうに答えた。その様子も昨日見せていた明るさは無く、何か悲しそうな雰囲気をまとっていた。

「休み?」

「はい……その、昨夜から風邪をひいてしまって……」

 佐祐理はやはり良いにくそうに話を続けた。祐一は佐祐理の話が嘘である事を見抜いていたが、それを追及しようとはしなかった。

「そうか。じゃあ今日は佐祐理さんと二人っきりか」

「ふぇっ!? あ……そ、そうですね」

 今頃その事実に思い至ったのか、佐祐理が驚きの声を上げると共に、彼女の顔も赤くなった。

「あの、えっと……舞が居なくて寂しいですか?」

「舞が居ないのは確かにさびしいけど……でも、佐祐理さんとももっと話がしてみたいと思っていたし。あ、佐祐理さんの方こそ
 俺と二人っきりで嫌だとか?」

「いえ、そんな事はありませんよ。只、男の人と二人っきりなんてことが滅多にありませんから、少し緊張してしまって」

「あはは〜」と笑いながら、佐祐理は赤い顔のまま喋り続けた。

「どうぞ祐一さん。座ってください」

 佐祐理に勧められるままに、祐一はレジャーシートの上に腰をおろした。前には既に昼食の収められた重箱が置かれている。佐祐理
が蓋を取ると中からは昨日と同じ、様々な料理が綺麗に並べられていた。

「さぁ、祐一さん。どうぞ召し上がってください」

 そういって勧めてくる佐祐理の表情は、どこか無理があるように思えた。何かを隠しているような、或いは何か悩み事が。その事が
気になっていた祐一だったが、それほど付き合いが深いわけでもなく、いきなりそんな事を聞き出すのが躊躇われたので、まずは
佐祐理の作った弁当を食べながら普通の話をする事にした。

「うん、やっぱり……あれ?」

「祐一さん、どうかしましたか?」

「うん、この玉子焼き……ちょっと焦げてるね」

「あ……ごめんなさい。ちょっと失敗しちゃいまいたね〜」

 それは、昨日食べたものより火が通り過ぎていた。良く見れば、他にも唐揚げなども揚げすぎているように思えた。落ち込んだ
佐祐理を見て、祐一はフォローを入れた。

「あ〜、でもさ。充分に美味しいよ。それにこれくらいの失敗だったら可愛いものだし」

「ふぇ? あ、ありがとうございます」

「可愛い」と言われて、佐祐理の顔も赤くなった。二人は暫く、料理の出来栄えについて話してた。それから話の流れは佐祐理の
家の事になっていった。

「佐祐理さんの家ってさ、あの『倉田グループ』だったんだな」

「えっ……はい、そうですよ」

 佐祐理は悲しげな表情を浮かべた。だがそれは「何か悩み」の為では無かった。

「むぅ、なにやら不満そうな顔……もしかして佐祐理さん」

「は、はい?」

「俺が佐祐理さんのことをお嬢様扱いしていないから不満とか?」

「ふぇ? あ、そ、そんな事はありませんよ〜。佐祐理はちょっと頭の悪い普通の女の子ですから。昨日のように接してくれた方が
 嬉しいです」

「そっか、良かった」

 祐一の言葉を聞くと、佐祐理の顔にも安心の色が浮かぶ。

「はい。舞と同じように……」

 舞、といった途端に佐祐理の表情が暗くなった。言葉も途中で途切れてしまう。祐一は、その続きを聞こうとはせずに
違う話題を切り出した。

「そ、そういえばさ……もうじき舞踏会があるんだよな。佐祐理さんは出るの? 俺は出るつもりだけど」

「え……あ、はい。祐一さんは踊れるんですか?」

「うん、一応ね。よかったら一緒に踊らないか?」

「あはは〜、いいですよ。ちゃんとエスコートしてくださいね」

「佐祐理さんは去年の舞踏会にも出たの? どんな感じだった?」

 祐一の質問に、佐祐理は去年の様子を詳しく語ってくれた。

「それでですね、舞が男の子の格好をして佐祐理と踊ったんですよ。舞と……」

 又しても、舞の名前が出ると佐祐理の表情が曇った。佐祐理に元気が無いのは、舞が原因に間違いなかった。祐一は意を決して
佐祐理に尋ねることにした。

「佐祐理さん。舞と何かあったの? 喧嘩でもしたとか?」

「あ……」

「舞が風邪で休んでいるっていうのは嘘だね?」

「……」

「良かったら話してくれないかな? 二人は親友なんだろ? その二人が喧嘩しているところなんて見たくないからさ」

「……佐祐理が悪いんです」

「佐祐理さん?」

「実は昨日……舞と言い合ってしまって……舞が……家を飛び出してしまったんです」

 そう言って佐祐理は、昨夜の舞との事を話し始めた。


                         ★   ★   ★


 深夜、佐祐理の家

 倉田邸の側にある駐車場に一台のバイクが入ってくる。いつもの場所にバイクを止めると、舞はヘルメットを脱いでバイクから
降りる。ここは倉田家管理の駐車場で、他にも屋敷に勤める者達の車などが数台停められていた。バイクからおりた舞は照明の
落とされた駐車場内を歩いて行き、セキュリティチェック付きの出口から倉田邸の敷地内に入った。そのまま慣れた様子で
進んでいく。監視カメラ等の位置は把握しているので見つからないように歩くのは容易かった。この家に住んでいる舞は、本来
そこまで警戒する必要は無いのだが、深夜に出歩いているのを見咎められれば何かと厄介である為にそうしているのだった。

 やがて前方に自分達が寝起きしている別宅が見えてくる。一般住宅並みの大きさのその家は舞と佐祐理の二人だけで住むには
些か大きかったが、舞の行動を佐祐理に気取られない為には都合が良かった。佐祐理の部屋の明りが点いていないのを確認した
舞は、玄関の鍵を開けて中へと入る。そして家を出るときに明りをつけたままにしておいたリビングに入ると、そこで舞は本来
その場に居ない筈の人物と対面した。

「舞」

「佐祐理」

 それは、この時間であれば既に休んでいるはずの佐祐理だった。シルク地のパジャマにガウンを羽織ってソファーに座っていた。
 何時ものチェック柄のリボンはつけておらず、髪の毛はストレートに流されていた。

「舞、こんな時間に何処へ行ってたの?」

「ちょっとコンビニまで行ってただけ」

 心配そうな佐祐理の質問に、舞は何でもない、という風にサラリと嘘で答えた。佐祐理もそんな嘘で騙される事は無く、質問を続けた。

「嘘だよ……舞、この所毎日出かけているよね? この前は帰ってきたのは明け方近かったし……」

 ここ最近の舞の行動はおかしかった。夜になると何も告げずに家を出て行き、夜遅く或いは夜明け近くになってから戻ってくる。
舞が自分や倉田家の人間に内緒で何かしているのは明らかだった。一度気になって舞に尋ねたことがあったが、何でもない、と
答えをはぐらかされた。その時はそれ以上追及する事は無かったが。

「今日ね、生徒会に呼ばれたの……舞なの? 最近夜の街をうろついている学校の生徒って」

 舞の事は信じたい。小さい頃からの親友だから。出会った当初はぎこちなかったが、それでも時間が経つに連れて打ち解けあい、
何でも話せる間柄になった。その舞が自分に隠し事をしている。一度は消したはずの疑問が再び燻りだしていた。

「……」

「舞……」

「生徒会長の久瀬さんに言われたの。『最近、夜の街をうろついている生徒は川澄さんだ』って。それに『学校にも行ってる』って。
 それで『彼女を止めて欲しい』って言われたの」

 佐祐理は舞に語りかけるが、舞は何も言わずに立っている。その表情からは、付き合いの長い佐祐理でも何も窺う事は出来なかった。

「ねぇ、佐祐理は何時だって味方だよ。舞の力になりたいの……だから教えて欲しいの。舞は一体何をやっているの?」

 舞が只単に夜遊びをしているだけならば、佐祐理もこれ程までに舞を問い詰める事はしなかっただろう(尤も舞がそんな事をする
とは思っていないが)。だが佐祐理は最近の舞の様子におかしいものを感じ取っていた。何となく自分を拒絶する雰囲気。
 それらのものが佐祐理を駆り立てていた。加えて、今日生徒会で言われた『舞が夜の街や学校をうろついている』という報告。

『舞は何か危険な事をしているのではないか?』

 佐祐理はそう結論付けた。であれば、生徒会に言われるまでもなく佐祐理は舞を止めなければならない。舞は一体何をしようとしている
のか? とにかくその答えを知りたかった。

「舞……」

「佐祐理には関係ない……私に構わないで」

 やっと口を開いた舞は、それだけ言うと部屋から出て行こうとする。

「舞!」

 佐祐理は慌てて立ち上がると、舞に追いすがり彼女の腕を掴む。咄嗟に舞は、つかまれた腕を振り払った。かなり強い力で振られた
腕は、佐祐理を転ばせるのに充分だった。

「キャッ」

 佐祐理は転んだ拍子に掴んでいた腕を放してしまう。

「舞……?」

 舞のとった行動が信じられずに、佐祐理は呆然と舞を見上げていた。

「佐祐理……」

 舞も自分の取った行動を後悔して佐祐理を見下ろしていた。佐祐理には怪我も無いようなので安堵したが、すぐに表情を引き締めた。

「ごめん……」

 それだけ呟くと、もう佐祐理には目を向けずに部屋を出て行った。部屋のドアが閉まり暫く立っても佐祐理は舞を追うどころか
立ち上がることすら出来なかった。やがて何か物音がしたので佐祐理が廊下に出てみると、舞が家を出て行く所に出くわした。
舞は佐祐理を見ようともせずに、玄関から出て行った。佐祐理もまた何も言えずに舞を見送っていた。


                         ★   ★   ★


「それっきり舞は戻ってこなくって……」

 佐祐理はろくに睡眠もとらずに舞を待っていたが、朝になっても舞は戻ってこなかった。倉田家の人達は舞が出て行ったことに
気が付いていなかった。佐祐理は舞のことは家の者達に任せて普段通りに登校した。

「そんなことがあったのか」

 祐一は、舞が戦う理由も佐祐理を巻き込みたくないという想いも知っていたし、舞との約束もあってその事を佐祐理に知らせる
ことは出来なかった。それに祐一自身としても佐祐理にはカノンとの戦いのことを教えたくはなかった。

「舞は一体何をしているんでしょうか……」

「……」

 本気で舞の事を心配している佐祐理に真実を告げる事が出来ない祐一は、黙っているしか無かった。祐一の態度を見た佐祐理が
不安げに尋ねてきた。

「あの……祐一さん。佐祐理の事怒ってますか?」

「ん? なんで?」

「舞と喧嘩しちゃいましたから……祐一さんは舞とお知り合いですし……」

「あ、いや違うよ。俺も、舞は一体何をしているんだろうな? って考えていたんだ」

 祐一の説明に、佐祐理の表情が幾分か和らいだ。続けて佐祐理が祐一に尋ねてくる。

「祐一さんも、舞が何をしているか知らないんですか?」

「ん……あぁ、知らない。舞と知り合いって言っても昔に何度か遊んだ事があるだけだし、昨日再会したばっかりだから。舞の事
 なら俺より佐祐理さんの方が詳しいでしょ?」

「そう……ですね」

「佐祐理さんは舞の親友なんだろ? だったらさ……舞の事、信じてあげなよ。悪いことはやってないって。俺も舞の事を信じるし」

「祐一さん……」

 祐一の励ましにも似た言葉に、佐祐理の顔にようやく明るさが戻ってきた。

「そうですね。佐祐理も舞の事を信じます」

「あぁ。いつかは佐祐理さんに訳を話してくれると思うよ」

「はい。でも……戻ってきてくれるでしょうか?」

「舞だって佐祐理さんの事を大事に思っているからきっと戻ってくるよ。俺も探すからさ、見つけたら良く話すように言うよ」

「祐一さん、ありがとうございます」

 それから二人は他愛もない話をしていた。そこへ誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。舞かと思ってそちらを見るがやって来たのは
舞ではなく、祐一の知らない眼鏡を掛けた男子生徒だった。同じように見ていた佐祐理はその生徒を知っているようで、声を掛けた。

「あ、久瀬さん」




 続く




 あとがき

 こんにちは、梅太呂です。カノンMRSお届けです。いつも定番な文面で恐縮です^^;

 今回はまぁ話の都合というか、そんなこんなで(何?)一話のみです。

 話の展開が遅めですが、戦闘シーンも少しは入ったし、もう少ししたらライダーも出ますのでお待ち下さい。

 短い後書きですがこの辺で。

 最後に

 この話を掲載してくださった管理人様

 この話を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにいたします

 ありがとうございました。

 では。                          梅太呂

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