「真琴?」

 家の奥に呼びかけるが返事が無かった。いつもであれば美汐と祐一が帰宅するなり、奥から走ってきて抱きつくのだが、今日は
姿を現す様子がなかった。

「おかしいな……出かけている筈は無いし」

 真琴は人としての理性は残っていて、祐一達のいう事はちゃんと守っていた。「自分達が戻るまで大人しく待っていろ」という
言いつけ通り、家の中を歩き回る事はあっても勝手に外に飛び出したり、秋子の仕事の邪魔をするようなことも無かった。

「とりあえず、秋子さんの所に行ってみるか」

「私は真琴の部屋に行ってみます」

 そう言ってお互いの目的地へと向かってすぐの事だった。

「真琴!?」

 祐一が店舗へと続くドアを開けようとすると、美汐の悲鳴にも似た声が聞こえた。祐一が声のした方に向かうと、
美汐が廊下に座り込んで、ぐったりとなっている真琴を抱きかかえていた。

「天野!」

「あ、相沢さん……真琴がっ、真琴が!」




               Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                       第二十三話




 祐一は、ひどく慌てた様子の美汐を宥めると真琴を見た。真琴は目を閉じてハァハァと荒い呼吸を繰り返していた。額には
汗が浮かび、顔も赤くなっていた。美汐が何度も呼びかけるが、全く答える様子はなかった。祐一は真琴の額に手を当ててみる。

「酷い熱だ。とにかく部屋に運ぼう」

 祐一はそう言って真琴を抱き上げると、真琴が使っている部屋に歩いていく。呆然としていた美汐だったが、すぐに我に返ると
祐一の後を負った。真琴を部屋に運んで布団に寝かしつけると、祐一は美汐に指示を出した。

「俺は秋子さんに知らせてくるから、天野は真琴の様子を見ていてくれ」

 そう言うが早いか、美汐の答えも待たずに部屋を出て行った。すぐに百花屋に入ると秋子を呼ぶ。

「秋子さん、真琴が熱を出して倒れてしまって……意識も無いんです」

「わかりました」

 秋子はそれだけ言うと、店に出てきた香里と名雪に一言二言指示を出すと、すぐに住宅へと入っていった。祐一もまた
取って返すと洗面所に行き、タオルを数枚と水を入れた洗面器をもって真琴の部屋に向かった。

「祐一さん」

 秋子は既に部屋の前に居た。手には真琴の着替え一式を持っている。秋子の手際に感心しつつ、祐一は彼女と部屋に入った。
室内では真琴が苦しそうに喘いでおり、美汐が真琴の手を握りながら真琴を呼び続けていた。

「酷い熱……汗も凄いですから着替えさせたほうが良いですね」

 真琴の具合を見た秋子が言った。祐一はそれを聞くとすぐに部屋を出る。

「美汐ちゃん、手伝って」

「はい」

 室内では、秋子と美汐が真琴を着替えさせていた。


「祐一さん、良いですよ」

 暫くして、中から秋子の呼ぶ声がしたので祐一は部屋に入る。真琴は眠っていたが、先程よりは呼吸が落ち着いていた。

「どうですか?」

「少しは落ち着いたようですが……」

 祐一の問いに、真琴を見つめながら答えた。真琴の額には濡れタオルが乗せられていた。

「すいません。気が付かなくって……私が真琴ちゃんのことをもっと良く看ていれば……」

 秋子がそう言って祐一と美汐に頭を下げた。

「秋子さんの所為ではありませんから、顔を上げてください」

「そうですよ」

 美汐と祐一が秋子にそう言うと、秋子も顔を上げた。三人揃って真琴を見つめていた。真琴の呼吸は元に戻り、今は穏やかな
表情で眠っている。

「どうやら落ち着いたようですね……私はお店に戻りますが、何かあったらすぐに呼んでくださいね」

「あ、私は……」

 百花屋に戻ろうとする秋子に、美汐が何か言おうとしたが先に秋子に言われた。

「美汐ちゃんは、ここにいて真琴ちゃんを看ていてあげて。お店なら大丈夫だから。祐一さんも、お願いしますね」

「……すいません」

「はい」
 
 美汐と祐一が返事をすると、秋子はもう一度「お願いしますね」と言い残して部屋を出て行った。その後、店を終えた
秋子達と交代で真琴を看ていたが、真琴は依然眠ったままだった。


                         ★   ★   ★


 翌日のまだ朝日も昇らぬ時間……そんな時間に、真琴は唐突に目を覚ました。熱は下がっており、身体にだるさは残るものの
充分動けるまでに回復していた。枕元のスタンドが最低限の明りを灯す中、上体を起こして辺りを見回す。自分は布団に
寝かされていた。ふと下を見るとタオルが布団の上に落ちている。自分の額に乗せられていたのが、起きた拍子に落ちたようだ。
それには構わずに横を見てみると、もう一組の布団が敷かれていて、誰か眠っていた。

「あぅ……」

 布団から出て、眠っている人を覗き込んでみる。自分の知っている顔だった。たしか名前は……

「みし、お……」

 そうだ、自分の親友の美汐だ。そこで真琴は昨日の事を思い出していた。

「(このへやで美汐がかえってくるのをまっていた。すこしさびしかったけど、ときどきは秋子さんもきてくれたし、
 祐一がかってきてくれたマンガもあったから、たいくつしなかった。美汐と祐一がかえってくれば真琴とあそんでくれる。
 美汐たちがかえってくるじかんになったから、でむかえようとへやをでたところで、からだがおかしくなった。
 からだがあつくなってめがくらみ、たおれてしまった。あとのことはおぼえていない)」

 そう考えつつ、美汐の寝顔をじっと見つめていた。その気配を感じたのか、美汐は身じろぎをすると目を開けた。

「……」

 薄暗い中、加えて寝起き直後という事もあって美汐は自分を見ている者が誰か分からなかった。すぐに目も慣れ、頭もハッキリ
してくると自分を見ている者の正体が分かった。

「真琴!?」

 隣で眠っているはずの少女が自分を見ている事に驚いた美汐は、慌てて起き上がると真琴と向き合った。

「真琴! 大丈夫ですか? 気分は悪くないですか? どこかおかしいところは!?」

 美汐は真琴の身体中を撫でたり見回しながら、そうまくし立てた。額に手をあてて熱を計ったりもした。

「う、うん……へいき」

 美汐の様子に戸惑いつつも、真琴は美汐を安心させようとそう言った。

「そうですか……よかった」

 その言葉に安心した美汐は真琴に笑いかけた。どうやら熱も下がったようだ。お互いに微笑み合っていたが真琴は何か
言いたそうにしていた。

「真琴?」

「いっしょに、ねて……いい?」

 真琴がたどたどしい口調で美汐に聞いてきた。それはまるで幼子が母親に甘えるかのようだった。美汐は「良いですよ」
と言って微笑み、真琴の為に場所を空けてやった。真琴は嬉しそうに布団にもぐりこむと美汐に抱きついた。

「……あったかい」

「真琴も温かいですよ」

「みしお……すき」

「私も真琴の事が好きですよ」

 二人は抱き合って、お互いの温もりを感じていた。暫くそうしていたが、真琴は美汐から離れると寝返りをうって窓の方を見た。
窓には厚いカーテンが掛かっていたが、真琴はそれにも構わず外を見ているかのようだった。

「真琴、どうしたのですか?」

「そと……いきたい」

「外ですか? 今からですか?」

 美汐が確認するかのように真琴に聞くと、真琴は美汐に向き直って強く言った。

「うん、まこと……そといきたい! みしおと……さんぽ、いきたい!」

「(そういえば、マコトも散歩を楽しみにしていましたね)」

「みし、お……?」

 考え込んでいる美汐を見て、真琴は不安な気持ちになった。我侭をいって美汐を困らせてしまったのか? 美汐が自分を嫌いに
なってしまったのか? そんな気持ちが渦巻いていた。真琴の考えを察したのか、美汐は真琴に笑いかけた。

「わかりました。行きましょう」

「うん!」

 そういって二人は起き上がると着替え始めた。美汐は学校の制服に着替え、真琴は以前秋子に用意されたのと同じデザインの
服を着ていた。真琴が気に入った様子だったので、秋子は同じものを用意していた。美汐は真琴の髪を梳かして髪の毛を
ツインテールに纏めた。そして二人ともコートを着て準備を終えた。

「さて、行きましょうか。皆さんはまだ寝ていますから静かにしましょうね」

「うん、わかった」

 お互いに小声で会話すると、言葉通り静かに行動する。真琴達が寝ていたのは、前に真琴が寝ていた2階の部屋ではなく、健吾の
研究室のある離れだったので玄関まで距離があった。だが、誰にも気づかれる事なく玄関までたどり着くと、靴を履いて外に
出て行った。


                         ★   ★   ★


「ん……」

 自室のベッドで、秋子は目を覚ましていた。娘には遺伝しなかった寝起きのよさを存分に発揮して、すぐに意識が鮮明になる。
傍らに置かれた時計を見るがその針は、何時も彼女が起きる時間よりも早い時を示していた。

「こんな時間に目が覚めるなんて……」

 偶にはこんな事もあるか、と思いなおして少し早いが朝食の準備をしようと起き上がった所で、秋子は何か奇妙な胸騒ぎに
捉われた。自分にも説明の付かない感覚だったが、秋子は最近この不安に似たものを味わっていた。それは、姉達がカノンに
殺された時に感じたものだった。

「まさか……」

 そうと悟った秋子は着替えもせずに部屋を飛び出した。真っ直ぐと真琴と美汐が寝ている部屋へと急ぐ。部屋の前まで来ると
静かにドアをノックする。

 コンコン……

「美汐ちゃん、起きてる?」

 暫く待ってみるが返事はなかった。再度ノックをして声を掛けるが結果は変わらなかった。美汐の寝起きの良さは、ここ数日で
秋子も分かっていたので、まだ眠っているという事は考えられなかった。

「入るわね……」

 そう断ってから、ドアを開けた。だが室内には誰もおらず、布団の側にキチンと畳まれたパジャマが置かれていた。

「美汐ちゃん?……真琴ちゃんも、何処に……」

 秋子は室内を見回していたが、机の上に一枚の置き手紙らしきものがあるのを見つけた。
手にとって見ると−−どうやら美汐が書き残したらしい−−丁寧な文字で


『真琴と一緒に外へ散歩に出かけます
 
 何か記憶が戻るかもしれません

 すぐに戻るので心配なさらないで下さい    美汐』

 と書かれていた。「心配なさらないで」とあったが、秋子の不安は未だ心の中で燻っていた。秋子は手紙をもったまま
部屋を出て祐一の部屋へと向かっていった。

「祐一さん!」


                         ★   ★   ★


 外の空気は身を切るように冷たく、真琴達の吐息を白くさせていた。真冬のこの時期は日の出も遅く、空には未だ星が瞬いていた。
そんな人通りもない道を真琴と美汐は歩いていた。

「真琴、寒くないですか?」

 美汐が、隣を歩く真琴を気遣った。

「さむいけど……へいき、たのしい」

 時折寒さに身を震わせるものの、真琴は笑顔で美汐に答えていた。そして行くあてもなく街中を歩き続けていた。

 くぅ〜〜……

 暫くすると、お腹の鳴る音がした。美汐が音のした方をみると、真琴が自分のお腹を抑えていた。

「おなかすいた……」

 その真琴の様子に、思わず笑みがこぼれた。だが無理もなかった。熱を出して倒れてから何も食べていなかったのだから。

「そうですね……この先にコンビニがありますから、そこで何か買いましょうか」

 美汐はコンビニで肉まんを購入した。病み上がりともいえる真琴に食べさせても良いか迷ったが、真琴が強く希望したので
購入したのだ。コンビニを出た二人は公園へと向かった。それは以前祐一と真琴が、商店街を歩いたときと同じ行動だった。
同じようにベンチに座って肉まんを食べる。

「おいしい……」

「えぇ、美味しいですね」

 冷えた身体に、肉まんの熱さが心地よかった。それでも真琴は時折「さむい」と漏らしていた。

「ふふ、もう少しして春が来たら温かくなりますよ」

「あぅ……はる……まこと、はる……すき」

「真琴……」

 美汐は、昔も真琴とこんなやり取りをしたのを思い出した。




 幼い日の事……
 ものみの丘で二人並んで座って、肉まんを食べている


『肉まんは美味しいけど、寒いよ』


『ですから、家に帰ってから食べようと言ったんです』


『でも、早く食べたかったし〜。うぅ、寒い』


『ふふ、もう少しして春が来たら温かくなりますよ』


『春が来て……ずっと春だったらいいのに……』


『ホラ、マフラーをしっかり巻いて。首元をしっかり覆っていれば結構違いますよ。それから……』


『……なんだか、美汐って「オバサンくさい」よ』


『失礼ですね。物腰が上品と言ってください』


『あぅっ! み、美汐が恐い……』




「うぅ……」

 静かに泣いている美汐を見て、真琴は心配そうに尋ねてきた。

「みしお……どこか、いたいの?」

 美汐は涙を拭いながら真琴に「大丈夫ですよ」微笑みかけた。

「さて、これからどうしましょうか……」

 もうそろそろ戻ったほうが良いかもしれない。置き手紙は残してきたが秋子達も心配するだろうと思った。見れば東の空が
薄っすらと白み始めていた。星々もその光を弱めつつある。

「真琴、そろそろ……」

 美汐が、戻りましょうと言いかけたが、真琴は美汐の袖を掴んで何か言いたそうにしていた。

「真琴?」

「みしお……おか、いきたい」

「おか……ものみの丘ですか?」

「うん……いこう?」

 そう言うなり、真琴は立ち上がって美汐の袖を引っ張っていった。美汐はそれに抗う事はせずにおとなしく付いていった。


                         ★   ★   ★


「(天野……真琴、何処にいるんだ?)」

 祐一は、まだ夜の明けきらぬ街中をバイクで走り回っていた。秋子に起こされた祐一は、美汐の置き手紙をみると、すぐに
二人を探しに出た。秋子の胸騒ぎもあったし祐一も、また真琴が狙われるかもしれないと思っていた。
途中立ち寄ったコンビニで真琴達らしい人物の情報を得ると、公園へと向かった。だがそこには誰もいなかった。

「ここにもいないか……」

 後の心当たりは二つあった。即ち、天野の家と、ものみの丘。

「丘は、カノンのヤツらがまた出てくるかもしれないな……いってみるか」

 祐一はそう言うと、バイクを丘へと向けて走らせた。途中、一台のバイクとすれ違う。祐一は気にすることもなく走り
去ったが、相手はバイクを止めると振り返って祐一を見ていた。黒いライダースーツが示す身体のラインは、その人物が
女性である事を示していた。竹刀袋を背負っている。ヘルメットを脱いで現れたのは、祐一と同じ位の歳の少女だった。
サイドの髪はそのまま流していたが、後ろ髪は根元辺りでリボンで束ね、ライダースーツの中に納まっていた。

「……」

 少女は、祐一の走り去った方を見ていたが、やがて興味を無くしたのか、ヘルメットを被ってそのまま走り去った。


                         ★   ★   ★


 祐一がものみの丘へ向かっている頃……
 真琴と美汐は丘に到着していた。朝日も昇り始め、視界も良くなってきたので麓の森を抜けるのにはさほど苦労しなかった。
だが、先日の事を思い出したのか、二人の足取りは重かった。それでも帰ろうと言い出さなかったのは、真琴が希望した事
でもあるがなにより美汐自身、もう一度真琴とこの丘に来たかったから。

「真琴、着きましたよ」

「うん……」

 二人は森を抜けて、丘陵地帯に到着した。そのまま歩いて行き、広大な丘陵の中に一本だけ生えている木の根元に座った。
そこは昔、二人でよく来ていた思い出の場所だった。朝日が丘全体を照らしていく。その光景に二人して見入っていた。

 ゴゴゴ……

 二人が座っている地面の下から何か振動が伝わってきた。それに驚いたのか、森に住む鳥達が飛び出していた。

「地震でしょうか?」

「みしお……?」

 不安がる真琴を抱きしめて、美汐は周囲を見渡していた。振動はすぐに収まり、後には以前と変わらぬ風景が残されていた。

「何だったのでしょうか? 皆さんが心配するといけませんからもう戻りましょうか……真琴?」

 美汐が、戻ろうと真琴に声を掛けたが真琴はそれに答えずに、じっと耳を澄ましていた。

「なにか、くる」

 真琴がそう言った直後だった。丘陵の向こうに複数の人影が現れたかと思うと、こちらに向かってきた。

「あれは……カノンの戦闘員」

 美汐がそう言って逃げようとするが、それより早くカノンの戦闘員達に囲まれてしまった。真琴を背後に庇い戦闘員達と向き合う。

「迂闊でしたね……」

 以前ジャガーマンが、ここで作戦行動をしてると話していたのを思い出していた。だがそれをすっかり忘れていたことを悔やんでいた。

「小娘。俺様に殺されにきたか」

 戦闘員達の後ろから、ジャガーマンが現れた。その顔と腕には、真琴によって付けられた傷跡が残っていた。また胸部には
新しいプロテクターを身に付けている。

「あぅ……」

 ジャガーマンを見た途端、真琴の怯えが酷くなった。美汐の背中にしがみついて震えている。そのジャガーマンは
憎しみの篭った目で真琴を睨みつける。

「助からんと思っていたが……今度こそ息の根を止めてやろう」

「貴方達はこの地で一体何をしようというのですか?」

 近寄ってくるジャガーマンに向かって、美汐は牽制のつもりで質問した。ジャガーマンは足を止めると、美汐に答えた。

「どうせ死ぬ身だ、教えてやろう。カノンのアジトをこの地下に建設するのだ。それを邪魔するものは誰であろうと始末する」

「なっ!?」

 ものみの丘にアジトを建設する、それを聞いた美汐は愕然とした。ここは真琴との思い出の場所。自分にとって大切な場所。
そんな場所をカノンのような連中に汚されたくなかった。

「そんな事……させません!」

「もう遅い。すでに建設は始まっているのだ!」

「なんですって!?」

 祐一達から聞いてはいたが、カノンという組織の強大さを改めて思い知らされた。ジャガーマンが、もう話は終わった、
とばかりに近づいてきた。朝日を受けて怪人の牙、爪が光を放つ。

「待てぃっ!」

 ヴォォォンッ!

 遠くから制止の声とエンジン音が聞こえてきた。それは真琴たちを探していた祐一だった。こちらに向かってバイクを走らせている。

「む、戦闘員達よ!」

 ジャガーマンの指示で戦闘員達が祐一の前に立ちはだかり、それを見た祐一はアクセルを噴かして戦闘員達に突っ込んでいく。

 バキッ!

「イ゛ーッ」

 迫り来る戦闘員をバイクで蹴散らしながら、祐一は真琴達の所までやって来た。バイクから降りて二人を庇うように立ち、
ジャガーマンと対峙する。

「相沢祐一、またしても我々の邪魔をするか!」

「相沢さん、カノンはここの地下にアジトを造ろうとしています!」

 美汐の言葉を聞いた祐一は、改めてジャガーマンを見た。

「ジャガーマン、アジトはこの俺が叩き潰す!」

「えぇいっ! 返り討ちにしてくれるわ!」

 そう叫ぶなり、ジャガーマンが襲い掛かってきた。爪で引き裂こうと腕を振り下ろしてくる。祐一はそれを掻い潜ると
ジャガーマンの背後に回りこんだ。そして無防備な背中に攻撃しようとするが、寸前、ジャガーマンが振り向かずに足を
蹴り上げてきたので仰け反って回避した。その隙にジャガーマンは祐一に向き直り、素早い貫手を何度も繰り出してきた。

「クッ!」

 攻撃は素早く、祐一はかわすので精一杯だった。それでも避けきれずに攻撃の幾つかは祐一の身体を掠めていく。

「死ねっ!」

「!!」

 ジャガーマンが止めとばかりに、腕を大きく引いた。祐一はその動きに合わせて懐に飛び込み、ジャガーマンを掴んで
投げ飛ばした。しかしジャガーマンは空中で反転して着地する。

「おのれっ!」

 ジャガーマンが忌々しげに祐一を睨み付けた。祐一も構えをとり……

 祐一は足を開いて左腕を握り腰に構える。右腕は指先を揃えて左上に真っ直ぐに伸ばす。

「ライダー……」

 右腕を時計回りに旋回させて右上に来た辺りで止める。

「変身ッ」

 今度は逆に、右腕を腰に構えて左腕を右上に真っ直ぐ伸ばす。すると祐一の腰にベルトが現れて中央の風車が回転する。

 ベルト中央の風車が発光し、その光は祐一の全身を包み込んだ。

 光が収まるとそこには祐一が変身した戦士−−仮面ライダー−−がいた。

「いくぞっ!」

 お互いに走り出して繰り出した手刀がぶつかり合う。

 ガシッ!

 ライダーの振り上げた右手とジャガーマンの振り下ろした左手が拮抗している。不意にジャガーマンが力を抜いてライダーの
攻撃を受け流した。ライダーは攻撃の勢いのまま身体が流れて、ボディががら空きになった。そこへジャガーマンの前蹴りが
くるが、ライダーは仰け反ってかわし、そのままバク転をして間合いを取り直した。

「ガアァッ!」

 ジャガーマンが吼えると、恐ろしい速さでライダーに向かってきた。直進せず横とびをして、かく乱させながらライダーに迫る。

「速いっ!」

 ライダーはジャガーマンの動きを目で追うのが精一杯だった。右に飛んだかと思うと既に左側に居た。そして何度目かの跳躍の後、

「こっちか!?」

「遅いぞっ、ライダー!」

 すでに背後に回っていたジャガーマンが、ライダーの無防備な背中を蹴りつけた。

 ドガァッ!

「ぐぁっ!」

 まともに食らったライダーは数歩よろめいた。ライダーが振り向くよりも早く、ジャガーマンはライダーの正面に回りこんで
いてライダーにパンチを撃つ。

 バキッ!

「ぐっ!」

 今度は後方へとよろめいた。なんとか転倒は避けたが、更に数歩後退していた。ジャガーマンはライダーの周囲を円を描く
ように走り回り、ライダーをかく乱した。

「(なんとかヤツの動きを捉えなければ……)」

 自分の周りを走っているジャガーマンに対応して、こまめに向きを変えながら思案していた。

「(こちらから動いてもヤツのスピードには敵わない……ならば!)」

 ジャガーマンが攻撃してきた瞬間を狙うしかない、そう考えたライダーは動くのを止めて、ジャガーマンの気配を感じることに努めた。

「観念したか……一思いに殺してやろう!」

 ジャガーマンはライダーの背後に来ると、走っていた勢いを殺さずに向きを変えてライダーに飛び掛った。

「(今だ!)」

 ジャガーマンの攻撃が届こうとした瞬間、ライダーはしゃがんで相手の攻撃を避けた。自分の頭上を飛んでいくジャガーマン
の腹部に、立ち上がりながらのパンチを放つ。だがその攻撃はジャガーマンが寸前で身を捻ったので、掠めるのがやっとだった。

「外したか……」

 ジャガーマンはライダーに向き直り、構えを取っていた。ライダーも相手の動きを警戒して構えて対峙する。


                         ★   ★   ★


 ライダー達の戦いを、美汐と真琴は黙って見ていた。ライダーは、ジャガーマンの動きに翻弄されて苦戦していた。

「仮面ライダー……」

 美汐は呟くようにライダーの名を呼び、真琴は黙って立っていた。だが、不意に真琴が美汐に寄りかかってきた。

「真琴?」

 呼びかけるが返事はなく、美汐は真琴の顔を覗き込んだ。真琴は目を瞑り、息を荒くしていた。そのまま倒れようとしたので
美汐は真琴の身体を支えて座り込んだ。額に手をあててみると、酷く熱かった。

「真琴!」

 真琴に強く呼びかけるが、変わらずに返事は無い。熱が下がったとはいえ外に連れ出すべきでは無かった、美汐がそう悔やんでいた
時だった。真琴が薄っすらと目を開いて美汐を見つめた。

「真琴っ!」

「み、し……お……」

 お互いに名前を呼び合う。片方は力強く、もう片方は弱々しく。

「み、しお……ご、めん……ね。ま、こと……もう、みしお……と、あ……そ、べない……」

「な、何を言ってるのですか?」

 真琴は自分の身体の異変に気が付いていた。自分は改造人間としては不完全だったのだ。脳改造だけでなく、身体の方も。
それがアジトで再調整を受ける前に脱走してしまった。その所為で変調をきたして、発熱となって現れた。
 そして、戦闘でジャガーマンから受けたダメージが、真琴の身体の変調に拍車を掛けていた。自分に残された時間はもう……。

「もう……まこ、と……だめ、だ……から……」

「真琴……いけません……そんな事を言ってはいけません!」

「みし、お……あり、がと……ね」

 真琴はそう言うと、美汐から離れて立ち上がった。美汐は何故か、真琴が離れていくのを止められなかった。

「真琴、一体何を……」

「らいだー、を……ゆーいち、を……たすけ、なきゃ……」

 そして真琴は変身を始めた。以前と同じように身体が変化していく。変化が終わるとそこには人間の少女ではなく、一匹の
大きな狐がいた。

「ガァッ!」

 狐が吼えた、それと同時に

 ブチッ……

 チリン……

 身体に最後まで付いていたリストバンドが千切れて落ち、鈴が鳴った。まるで別れを告げるかのように……

「……」

 ダッ!

 真琴は一瞬だけ美汐を見つめると、あとはもう振り返らずに戦いの場へと走っていった。

「真琴!!」

 美汐は叫び、見ているしか出来なかった。千切れたリストバンドを拾い上げ、それを握り締めた。


                         ★   ★   ★


 ライダーとジャガーマンの戦いは続いていた。ジャガーマンのスピードに翻弄されつつも、何度か攻撃を繰り出すが
掠めるのが精々だった。逆にジャガーマンの攻撃は何度もライダーの身体を傷つけていた。ジャガーマンはまた同じように、
ライダーの周りを回っていた。

「(クッ……このままでは……)」

「止めだっ!」

 ジャガーマンが飛び掛ってきた。痛みで一瞬鈍った思考の為にライダーの対応が遅れた。ライダーが向き直った時には
既にジャガーマンの間合いだった。鋭い爪がライダーを引き裂かんと唸りを上げる。

「ガァッ!」

 だが、その瞬間にライダーたちの間に割り込んでくる影があった。それは真琴だった。真琴はライダーの盾になろうと
ジャガーマンの爪の前に己の身体を晒した。

「真琴っ!?」

「えぇぃ!」

 ジャガーマンは突然の乱入者に驚きつつも、構わずに立ちふさがる邪魔者をその爪で引き裂いた。

 ズバァッ!

「ガゥッ……」

「真琴っ!」

 ライダーの悲痛な叫びが響く。切り裂かれ、落下していく真琴と一瞬だが目が合った。その目を見た瞬間、ライダーは真琴
の行動の意味を理解した。真琴が命を賭けて作ってくれたこの隙を、無駄にする訳にはいかなかった。

「ライダーッ、パァーンチッ!!」

 バキィッ!

 真琴を攻撃して隙の出来たジャガーマンに、渾身のパンチが炸裂した。プロテクターを破壊して、ジャガーマンを吹き飛ばす。

「グオォォッ!」

 吹き飛ばされたジャガーマンは地面の上を転がった。ようやく身を起こすが、今の一撃でプロテクターは完全に破壊され、
自身も大きなダメージを受けていた。

「おのれっ!」

「ジャガーマン! 決着をつけてやる!」

 真琴のことは心配だったが、今は真琴の行動を無駄にしない為にもジャガーマンを倒すほうが先だった。ライダーは
ジャガーマンへと駆け寄った。ジャガーマンはライダーにパンチを繰り出すがそれはライダーの振り下ろした手刀に
打ち払われた。ライダーは打ち払った手刀を返して、ジャガーマンに打ち付ける。

「ライダァーッ チョォップ!!」

 バキィッ! バキィッ!

 最初は胸元へ、次いで腹部へと連続でライダーチョップが炸裂した。再びジャガーマンが吹き飛ぶ。そして、

「これは真琴の分だ! トォッ!」

 ライダーは高く飛び上がり……

「ライダァーーーーッ」

 空中で一回転すると、強烈なキックを打ちはなった!

「キィーーーーック!!」

 ドガァァッ!!

「グァーッ!!」

 キックが命中したジャガーマンは宙を舞って地面に激突し、爆散した。


                         ★   ★   ★


「真琴っ!」

 ジャガーマンを倒したライダーはすぐに真琴の所へと駆け寄った。真琴は狐ではなく、人間の姿に戻っていた。
真琴を抱え起こしたライダーは真琴の状態に言葉を失う。胸元から腹部にかけて大きく切り裂かれた傷、そこから流れる
大量の血……改造人間とは言え、明らかに致命傷だった。

「真琴っ!」

「……ぅ……」

 ライダーの呼びかけに、真琴は薄っすらと目を開く。その目は、ライダーがもう何度も見てきた目だった。
 健吾の、玲奈の、栞の……死に瀕している者の目だった。

「真琴っ、なんで……なんであんな真似をしたんだ!?」

「まこ、と……ゆー、いち……に……ひ、ど……い、こと……しちゃ、った……から……」

 カノンに植えつけられた記憶とはいえ、祐一を殺そうとしていた。そのことを真琴は謝りたかった。

「そんな……だからって!」

「ご、めん……ね……ら、いだー……うっ、ゴホッ」

 喋り終えた真琴がむせると、血を吐き出した。真琴の顔からも血の気が失せていく。

「真琴……」

 ライダー達の所へやって来た美汐が、真琴の変わり果てた姿を前に立ちすくんでいた。顔が青ざめて、身体も震えている。

「天野……」

 ライダーが天野の名を呼ぶと、はじかれたように動き出し、ライダーに代わって真琴を抱きしめた。

「真琴、真琴!」

 ライダーは黙って二人を見ていた。

「ら、い……だー……」

 真琴が口を開いた。だがその声は先程より弱くなっていた。

「真琴、もう喋らないで!」

 美汐が涙を流しながら懇願するが真琴はそれに構わず、震える手である方を指し示した。

「あっち……に……カノ、ンの……アジ、ト……が、ある……の……」

「分かるのか!?」

「あ、いつ……ら、の……こえ、と……か、き……こ、え……たの……お、ね……が……い……こ、の……お、か……を……
 まも、って……」

「あぁ、分かった」

「み、し……お、の……こと、も……うっ、ゴホッ!」

 再び真琴が血を吐いた。顔色は蒼白になっている。

「あぁ、任せろ。カノンのアジトは必ず叩き潰す。この丘も、天野も俺が守る」

 その言葉を聞いた真琴の口元がかすかに歪む。笑ったつもりだった。

「あ……り、がと……らい、だー……ゆー……い、ち……」

 そこまで言うと真琴は喋り疲れたのか、あとは弱々しく呼吸しているだけだった。ライダーはすぐに行動に出た。
立ち上がってサイクロンを呼ぶ。

「天野、真琴のことを頼む」

 それだけ言い残すとライダーはサイクロンに乗って、真琴が指し示した方へ走っていった。

「ライダー……お気をつけて……」

 美汐は、走り去るライダーの背中にそう声を掛けた。

「み……ぉ……」

 真琴が美汐の名を呼ぶが、殆ど声になっていなかった。

「真琴……また遊びましょう、肉まんも沢山買ってあげますから……」

「あ、り……と……」

「それに、もうすぐ貴女の好きな春がやってきますよ……だから……」

 すでに真琴は目を閉じていたが唇だけが動き、何かを言おうとしていた。美汐は耳を近づけて聞き取ろうとした。


『春が来て……ずっと春だったら……いいのに……』


 真琴は最後にそう言った。言い終えた真琴の身体から力が抜けた……

 以後、美汐が何度呼びかけても真琴が答えることは無かった……

「真琴……」

 真琴の身体を抱きしめ、美汐は静かに涙を流し続けた。


                         ★   ★   ★


 丘を走っていたライダーは、すぐにカノンのアジトらしき入り口を見つけるとサイクロンに乗ったまま突入した。

「邪魔だッ!」

「イ゛ーッ」

 ライダーは、時折現れる戦闘員を蹴散らしながらアジト内を進んでいった。内部は作業が始まったばかりらしく、所々土が
むき出しの箇所が数多くあった。

「手術室は無いのか!?」
 
 真琴の治療が出来る部屋を探しているライダーの耳に、人の声が聞こえてきた。

「……こっちか?」

 声のする方へ走っていった。するとそこには地下牢に多くの人が閉じ込められていた。ライダーはサイクロンから降りて牢屋に近づく。

「た、助けてくれっ!」

 ライダーの姿を見た人々は、あるものは格子にしがみついて助けを求め、またあるものはライダーの姿に怯えて牢屋の奥で震えていた。

「貴方たちは……」

「た、頼む! ここから出してくれっ! 家族の元へ返してくれっ!」

「(カノンに捉えられた人達か)大丈夫です。今ここから出してあげます」

 ライダーの言葉を聞いた人達は皆黙ってしまった。自分達の願いが聞き届けられたのが信じられない、という顔をしていた。

「あ、あんたは……?」

「私は『仮面ライダー』、カノンと戦う者です。……少し下がっていてください」

 ライダーはそう言って人々を牢の奥に下がらせると、チョップで格子の鍵を壊して人々を解放した。

「さぁ、早く!」

 扉が開くと人々は外に飛び出し、ライダーの周りに集まった。ライダーは人々に手術室のようなところは無いか?
と尋ねたが、連れてこられたばかりらしく、その様な場所は知らないという答えが返ってきた。

「な、なぁ。ここからどうやって出たら良いんだ?」

 一人の男が不安げに聞いてきた。

「(この人達をこのままには出来ないな……)このマシンに付いていってください……行け、サイクロン!」

 ライダーが指示を出すと、サイクロンは人々が付いていけるスピードで出口に向かって走り出した。人々は口々に「ありがとう」
とライダーに礼を言いながらサイクロンに付いて走り出した。それを見届けたライダーはアジトの探索を続けた。

「ここでも無いか……」

 目的の部屋を見つけられないまま、ライダーはアジト内部を探索していた。そして整備されたアジトの一画にくると、
そこにあった部屋に飛び込んだ。その部屋は、かつて祐一が首領に引き合わされる為に連れてこられた部屋と同じだった。

「ここは……指令室か!?」

 ライダーが室内を見回すと、正面に掲げられたレリーフが発光して、首領の声が聞こえてきた。

『久しぶりだな、相沢祐一……いや、仮面ライダー』

「カノンの首領! ここにいるのか? 姿を見せろ!」

『ハッハッハ、私はここには居ない』

「クッ……」

『仮面ライダー……キサマがここまで我がカノンに反逆するとはな……』

「俺は必ずキサマ達の野望を叩き潰すっ!」

 ライダーはカノンのレリーフを見ながら叫んだ。まるでそこに首領がいるかのように。

『ライダー、そうはいかぬ。キサマは今ここで死ぬのだからな』

「何っ? どういう事だ!」

『今からここを爆破する。建設途中のアジトを失うのは痛いが、アジトはここだけでは無い。それにキサマの命と引き換えなら、
 充分釣り合いがとれるというものだ』

 首領がそう言うと、ライダーが入ってきた扉が閉まる。ライダーが駆け寄って扉を叩くが、扉は何も反応しなかった。

『ハハハ、さらばだ仮面ライダー。キサマが居なくなれば、我が世界征服の野望は果たされたも同然だ』

 首領の言葉が終わると同時に、カノンのレリーフが爆発した。その爆発が引き金になったのか、アジトのあちこちで爆発が始まった。

「ライダーッ、パァーンチッ!!」

 ドガァッ!

 ライダーは扉を破壊すると通路に飛び出して、出口へと向かった。途中、人々を外まで誘導し終えて戻ってきたサイクロンに
乗ると、爆発の続くアジトから脱出していった。


                         ★   ★   ★


 ズズズズン……

 激しい地響きが、丘を揺らしていた。遠くから複数の人の声も聞こえる。だが美汐はそんな事も聞こえていないかのように
真琴の亡骸を抱きしめていた。どれほどそうしていただろうか? 美汐は自分の側に立つ人影に気がついて顔を上げた。

「天野」

「相沢さん」

 それは変身を解いた祐一だった。美汐の様子から、真琴が既に死んでいる事を悟り、言葉も無く立ちすくむ。

「俺は……」

「貴方の所為ではありませんよ、相沢さん」

 何か言おうとする祐一を遮って、美汐は話し続けた。

「真琴の事で、ご自分を責めるのは止めてください。栞さんの時もそうだったのでしょう? 香里さんから聞きました。
 ……香里さんが何と言ったのかも」

「……」

「相沢君さん、貴方はこれからもカノンと戦い続けるのですよね? だったら真琴の死に立ち止まらないでください。
 この子が幸せに生きて行くはずだった世界を守って下さい……真琴の事を想うなら……」

 それは、かつて香里が祐一に言ったのと同じ言葉だった。

「相沢さんは……どうか、強くあってくださいね」

 そう言うと、真琴の身体を引き寄せて静かに泣きはじめた。

「伝承の……」

 美汐がポツリと漏らしたその言葉が祐一の耳に届いた。

「ん?」

「伝承の通りになってしまいました……」

「伝承?」

「はい。このものみの丘には一つの伝承があるんです」

 そう前置きして美汐は、この地に伝わる伝承を語り始めた。




                 この丘に住む狐は、物の怪……妖狐だと言われてるんです

                 時折、人恋しさに人里に下りてきては人と触れ合う
 
                 そして人の温もりを知った妖弧は人の姿になって、その人に会いにくるんです

                 己の全てを……記憶と命を代償にして
  
                 妖弧と触れ合った人もまた、温もりを与えられるのですが……

                 力の全てを使い果たした妖弧は……消えてしまうんです

                 後は、その人に深い悲しみだけが残されるんです……




「真琴と別れて、寂しかった私の元にマコトが現れて……そのマコトが居なくなったと思ったら……記憶を無くした真琴が、マコトと
 一緒になって私の元に帰ってきてくれて……そして……」

 美汐は話を終えた。こぼれた涙の雫が、真琴の上に落ちる。

「天野……」

 祐一達の間を風が吹き抜けていく。その風に揺られて、美汐の持っていた鈴が音を鳴らす。真琴の死を悼むように……

 チリン……チリン……

 それは、風と鈴が奏でる鎮魂歌……




 続く




 後書き

 (16話後書きより)「私自身暗い話や悲しい話がすきな訳では無いのですが……」

 説得力無いですか? でもホントなんです、信じて(うるうる)

 こんにちは、うめたろです。カノンMRSの22、23話で「真琴編」完結、お届けです。

 今回の言い訳^^; ですが、「ものみの丘の妖狐の伝承」を話の締めにもってこようと思った為に

 このような展開になりました。ご了承くださいm(_ _)m
 
 次回からは新展開というか、また別のお話になります。といっても全体の繋がりはありますが。

 またお付き合い頂ければ幸いです。

 今回はこの辺で

 最後に

 今作品を掲載してくださった管理人様

 今作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを

 終わりにさせていただきます

 ありがとうございました。

 では。                          うめたろ

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