「美汐……」
「話して……くれませんか?」
「真琴は……」
言いよどむ真琴を見て、美汐は余程の事だと察した。祐一が話していた、何か恐ろしい目に会った事とも関係があるのだろう。
だが……
「真琴、私は貴女の事を大事な親友だと思っています。貴女に何があったとしてもその気持ちに変わりはありません」
美汐の目は真剣だった。そして優しさに満ち溢れていた。真琴はそんな美汐の目を知っていた。幼き日に、そしてずっと
見てきた目だったから。
「うん、わかった……」
暫く黙っていた真琴だったが、やがて少しずつ話し始めた。
「美汐、あのね……真琴は……もう、普通の身体じゃないの……真琴は、改造人間なの……」
Kanon 〜MaskedRider Story〜
第二十一話
「真琴……?」
美汐にはさっぱり理解が出来なかった。目の前の親友は何を言っている? 普通の身体じゃない? 改造人間?
日常生活では聞いた事の無い単語が真琴の口から飛び出していた。
「な、何を言っているのですか? 改造人間って……」
「普通の人間の身体じゃないの……さっきの……カノンのヤツらに改造手術されたの……あの、バケモノと一緒の改造人間なのよ」
真琴はもう一度同じ事を言う。
「そんな……」
今度は漸く美汐にも理解できた。先ほどのバケモノ−−祐一は怪人と言っていた−−と同じ身体……偶然の再会を果たした
少女が……信じたくは無い。信じたくは無いが、あの戦闘員達を倒した動きは到底普通の人間に出来る事では無い。
美汐の冷静な部分はそう判断していた。
「でも、貴女のその姿は……」
「うん、普通は人間の姿なの……でもね……」
真琴は言葉を続けなかったが、その先は美汐にも分かった。『今の自分とは違った姿になってしまう』と。
「何故……どうして、貴女が……そんな事に……」
美汐は傷の痛みも忘れていた。それほどまでに真琴の告白は衝撃的だったから。真琴は話を続ける。
真琴が引き取られた先の家の伯父も伯母も優しくて温かい人達だった。夫婦には子供が無く、真琴は実の娘以上に可愛がられて
育った。真琴もそんな優しさに触れて、両親を喪った悲しみも徐々に癒されていった。美汐と会えなくなった事が悲しかったが、
時折来る手紙を何よりも楽しみにしていた。新しい学校で友達も出来て真琴は幸せに暮らしていた。
だがある日、真琴の伯父が小さいながらも経営していた会社の業績が悪化した。原因も分からないままたちまち苦しくなり、
このままでは一家心中も止む無し、というところまで追い詰められてしまった。ところが、である。
意外なところから救いの手が差し伸べられる。ある条件と引き換えに無担保、無利子の融資が受けられることになった。
その条件とは……真琴をある組織へと引き渡す事。
真琴は部活動こそしていなかったものの、運動能力に秀でているものがあった。その真琴に目をつけたある組織が、融資と
引き換えに彼女を引き取りたいと申し出た。
「それは……人身売買じゃないですか!?」
「うん……でもね、そうするしかなかったの……でないと伯父さんや伯母さん、それに会社の人達も……真琴、みんなが
好きだったから……」
美汐が怒りの声を上げるが、真琴は寂しげに笑うだけだった。それを見た美汐もそれ以上何も言えなくなる。
「でね……その組織っていうのが『カノン』だったの」
その交換条件を一番最初に承諾したのは他ならぬ真琴だった。養父母は優しかったし会社の従業員達も皆良い人達で家族みたいに
付き合っていた。真琴は皆が好きだった。だからその条件を飲んだ。皆は反対したがそうするしか方法が無かったので、最後は
泣きながら謝っていた。
「みんな……どうしているかなぁ」
「…………」
懐かしそうに話す真琴に、美汐は何も言えなかった。手紙を出しても宛先人不明で戻ってきてしまうことから、もうその家は
無いのだろうと思っていた。
真琴も美汐も知らないことだが、養父母はカノンに奴隷として捕らえられていて、暫く後に死亡していた。
会社も倒産してしまった。元々会社の業績が悪化したのも裏でカノンが糸を引いていた為であった。
真琴の話は続いていた。真琴は、とある無人島に秘密裏に建設されたカノンの施設に連れてこられ、そこで戦闘訓練等を
受けて生活していた。逃げ出そうにも回りは海で、見える範囲に陸は無い。監視の目も厳しく、外に出ることすらままならなかった。
「でもね、そこでも仲の良い友達とか出来たんだよ」
そのアジトには真琴の他にも何人の人達が連れて来られていた。老若男女、健康、不健康な者問わず、様々な人達がいた。
そんな中で真琴は幾人かの友達が出来た。
「しばらく生活していたんだけど、変なことがあったの……」
時折、戦闘員達が真琴達のいる施設にやってきては何人か連れ出していった。それは真琴が仲良くなった人だったり、
会話をしたこともない人だったりと様々だった。真琴の前には、連れてこられて間もなくだったが、真琴と仲良くなった同じ歳
くらいの青年が連れて行かれた。
「でね……連れて行かれた人達は二度と戻ってこなかったの……それで、ある日真琴もそこから連れ出されたの……
そして……そこで改造手術を受けたの……バケモノみたいな身体にされちゃったの……」
真琴は座り込んでいた。真琴は震える自分の身体を抱きしめるようにして、俯いて話している。手術室に連れてこられた時の
様子が思い浮かぶ。自分を取り押さえている戦闘員、手術台の側に控えている冷たい目をした科学者達。真琴は抵抗するが
それも空しく、手術台に寝かされて拘束される。そして……
「う、うぅ……」
「真琴っ! もう良いです。もう良いですから」
苦しみ始めた真琴を見て美汐は、真琴を抱きしめた。自分が聞きたいと望んでおきながらこれ以上真琴に辛い事を
思い出させたくなかった。後悔していた。真琴がこれほどまでに辛い目にあっているとは思いもしなかったから。
「うん……」
美汐に抱きしめられて、真琴もどうにか落ち着きを取り戻していた。真琴も優しく抱きしめ返した。
「そうだったのですか……でも一体なぜカノンはそんな事を?」
「うん……連中は世界征服を狙っているんだって。その為に色んなものを作り出しているの。でも真琴は逃げ出したの、それで
連中が追ってきたみたいなの」
「世界征服……」
「でもその為には祐一が邪魔なの。だから真琴に『相沢祐一を許すな』って記憶を植えつけたの」
「何故、相沢さんが?」
「……わかんない」
真琴はその理由を知っていた。相沢祐一はカノンに刃向かう仮面ライダーだから。だが嘘を付いた。美汐にこの事を話して
いいのか分からなかったから。
「相沢さんも狙われているなんて……大丈夫でしょうか?」
自分達を逃がす為に戦っている祐一を心配していた。最初は祐一の事を信じていたが真琴の話を聞いて再び不安になった。
祐一は真琴のような力は持っていない(と、美汐は思っている)から、あの戦闘員や怪人に勝てるとは思えなくなったのだ。
「祐一なら、大丈夫……」
「真琴?」
「祐一なら平気よ。(……真琴より強い、仮面ライダーなんだから)」
真琴は小さい声で、だがはっきりと言った。それで美汐の不安も治まっていた。もう一度あの青年、祐一を信じる気になった。
「そうですね。何にせよ、とにかくここを離れましょう」
「うん」
「……真琴、良く話してくれました。ありがとうございます」
「美汐……真琴が恐くない?」
それは、真琴が一番恐れている事だった。自分はあのジャガーマンと同じバケモノだ。その事を知ったら美汐は
自分を拒絶するかもしれない。そう心配していたが、美汐は真琴の目を見ながら言った。
「真琴、私は言いましたよ。『私は貴女の事を大事な親友だと思っています。貴女に何があったとしてもその気持ちに
変わりはありません』と。大丈夫です、私は貴女の味方ですよ」
「美汐、ありがとう」
言って二人は森から出ようと歩き始めたが、数歩の進まない内に真琴が足を止めた。すぐに気が付いた美汐も足を止めて
真琴を振り返る。
「真琴、どうかしたのですか?」
「……あのね、美汐。もう一つ言わなきゃいけない事があるの」
「何でしょうか?」
「うん……真琴はね、狐の力を持った改造人間なの。それで実験で狐と合成されたんだけど……その狐っていうのが……」
「真琴……?」
真琴に再会した時に懐かしい気持ちはあった。だが同時に、ずっと一緒にいた雰囲気も僅かだが感じていた。それが、
言いよどむ真琴の顔を見て強くなってきた。その感覚の理由を確かめようと真琴に近づいた時だった。
「見つけたぞ!」
「「!?」」
真琴と美汐が、突然聞こえてきた声のする方を見る。そこには、木の枝の上に立ってこちらを睨んでいるジャガーマンの
姿があった。
「戦闘員どもでは相手にならなかったか」
ジャガーマンは倒されている戦闘員達を見下ろしながらニヤリと笑う。その時に見えた牙が凶悪な光を放つ。
「何時の間に……」
いくら話しに夢中になっていたとはいえ、美汐も、改造人間である真琴も全く怪人の接近に気が付かなかった。
「俺様は密林の王者、ジャガーの力を持つ怪人だ。気配を殺して獲物に接近するなど容易い事だ」
「くっ……」
美汐は自分の迂闊さを呪った。立ち止まって話などせずにすぐに逃げるべきだった。だが、今更どうしようもなかった。
折角祐一が時間稼ぎをしてくれたというのに……。そこまで思考した美汐は、ハッと気が付いた。
「貴方がここに来たという事は……相沢さんはっ、相沢さんはどうしたのですか!?」
「相沢祐一か……ヤツなら今頃地獄の底だ!」
「!! そんな……」
美汐は目の前が真っ暗になる思いだった。あの先輩が死んだ? 自分達を助ける為に……。なのに自分達は逃げ切る事も出来ず
にこうして追い詰められている。真琴と再会できたのは嬉しいが、こんな事なら夢であって欲しかった。だが幾ら頭を振っても
目の前に突きつけられた現実は何一つ消えなかった。
「美汐っ、みしおっ!」
真琴の声に我に返る。普段の美汐は冷静で成績も優秀であるが、この時ばかりは現状を打開する方法を見出せないでいた。
「さて……俺様の任務は、そこの改造体をカノンに連れ帰る事だ。大人しく俺様と来い!」
ジャガーマンはそう告げると、真琴を指差す。
「い、嫌よ! 誰があんな所に……真琴は絶対に帰らないんだから!!」
真琴は震えながらも、ジャガーマンを見据えて気丈に振舞う。そして美汐を庇うように前に出た。
『美汐を守りたい』その想いが真琴の恐怖を押さえ込んでいた。
「ほう、我々カノンに逆らうか……脳改造が完全では無いと聞いていたが……」
ジャガーマンも真琴の気配が変わったのを察したのか、自身も身構える。それを見た真琴は体制を低くして力を溜めながら、
後ろにいる美汐に話しかけた。
「美汐……アイツは真琴が抑えるからその隙に逃げてね」
「真琴!」
「アイツの狙いは真琴だから……でも美汐も狙われるかもしれない。だから、上手く逃げてね」
「まこ………」
「じゃあね…………ウァーッ!」
言いかける美汐を遮って別れの言葉を言った真琴は叫んでから、溜め込んだ力を一気に解放して近くの木へと跳躍し、
更にその木を蹴ってジャガーマンへと飛び掛っていった。
ブゥンッ!
ジャガーマン目掛けて振り下ろされた手刀は、寸での所でジャガーマンにかわされる。ジャガーマンは後方の木の枝に
飛び移っていた。真琴は先ほどまでジャガーマンが立っていた枝に着地する。
「このぉっ!」
再び真琴がジャガーマンに飛び掛る。蹴った反動で枝が揺れて、積もっていた雪が地面に落ちていく。
バッ!
突き出された貫手を、ジャガーマンは仰け反ってかわす。そのまま後ろ向きに倒れていくが、驚くべき身体の柔軟性を
発揮して、自分が立っていた枝を両手で掴むと鉄棒のように回転して、攻撃した後の真琴の背中を蹴りつける。
ドガッ!
「あぅっ!」
蹴りつけられた真琴は地面に叩きつけられる。それに続いて先ほどの雪も地面に落ちた。回り終えたジャガーマンは、
再び枝の上に立っていた。
「真琴!」
美汐は立ちすくんだまま叫んでいた。真琴を助けたいが、自分の力ではあのバケモノに対抗などできない。かといって親友を
見捨てて逃げる事も出来ずにいる。
「うぅ……」
美汐の叫びに、朦朧としていた真琴の意識がハッキリする。即座に立ち上がって頭を振ると、ジャガーマンを見上げた。
「無駄だ。諦めてカノンに戻れ!」
確かに今のままでジャガーマンに勝つのは無理だった。となれば姿を変えるしかないが……真琴は先ほどから動かずにいる
美汐を見る。逃げていて欲しかった、美汐に自分の変わった姿を見せたくなかったから。
「でも……しょうがないよね」
一度美汐に目を向けてからそういって自分を納得させると、真琴は吼えた。
「ウォーーーッ!」
それはまさに獣の声だった。吼えた真琴の身体に変化が現れる。
目が光を放ち釣りあがっていく。口元には牙が生え、爪も伸びていく。
全身が体毛で覆われて体が変化していき、それにつれて服も脱げ、或いは千切れていく。
四つん這いになった真琴に、大きな尻尾が生える。
「ガァッ!」
再び吼えるとそこには、人間の少女ではなく、一匹の大きな狐がいた。
★ ★ ★
「真琴……」
美汐は、真琴が変わっていく様子を見た。最初、こちらを悲しげな顔で見つめた後に何か喋ったかと思うと、突然吼えた。
そして真琴の姿が次第に変わっていき、終には一匹の大きな狐に変化してしまった。
「本当に、貴女は……」
美汐は、まだ心の何処かで真琴が普通の人間だと思っていた。だが、目の前で起きた事はそんな想いを木っ端微塵に吹き飛ばした。
真琴が変身する直前に自分を悲しげに見た訳も分かっている。真琴が変身した姿を見て、自分が真琴を拒絶するのでは?
と思ったのだろう。しかし、自分は真琴の親友だ、何があっても真琴の味方だ。その気持ちになんら変わりは無かった。だから
「大丈夫ですよ、真琴」
それだけを美汐は、真琴に向かって呟いていた。
★ ★ ★
「大丈夫ですよ、真琴」
美汐の呟きは、変身した真琴に届いていた。それを聞いた真琴はもう迷わない、頭上の怪人を排除する事に全力を傾ける。
ダッ!
真琴は跳躍して木に取り付くと、一気にジャガーマンのところまで駆け上がった。間合いに入った所で前足を振り下ろす。
ガキィッ!
先程より速い攻撃をかわしきれずに、真琴の前足の爪がジャガーマンの胸部プロテクターを掠める。
「チッ」
ジャガーマンは舌打ちしつつ、またもや背後の木の枝に飛び移った。真琴もまた木の枝に立ち、毛を逆立てて相手を威嚇していた。
「ガァッ!」
真琴は吼えながらジャガーマンへと飛び掛る。だが、ジャガーマンは真琴が到達するより早く、横の木へと飛ぶ。
それを見た真琴は木の枝に乗ることはせずに、木の幹を蹴ってジャガーマンへと追いすがる。
だが、ここで初めてジャガーマンが反撃にでた。飛んだジャガーマンは枝に着地せずに、真琴と同じように木の幹を
蹴ると、真琴目掛けて飛んで来、その腕を振り下ろしてくる。
「!!」
不意をつかれた真琴も慌てて前足で、ジャガーマンを攻撃する。
ズバッ!
真琴の攻撃は空をきり、ジャガーマンの爪は真琴の右前足を切っていた。
「キャウンッ」
悲鳴を上げた真琴は、空中でバランスを崩して雪の残る地面に落ちる。だがすぐに起き上がってジャガーマンを見上げた。
「ファハハ、キサマごときではこの俺様には勝てん」
そう笑いながら、木の上から飛び降りてゆっくりと真琴に近づいてくる。
「ウゥ……」
真琴は体制を低くし、威嚇のポーズを取っている。変身した事で人間の理性より動物の本能が強くなっており、その本能が
目の前の怪人に恐怖していた。だが、真琴の目には未だ諦めの色は浮かんでいなかった。
「まだ諦めないか……ならば、キサマを殺す!」
ジャガーマンの殺気が膨れ上がった。真琴をその爪で引き裂こうと、ゆっくりと構えを取る。
「ガァッ!」
それより先に真琴がジャガーマンへと飛び掛った。左前足を振り上げるが、それはジャガーマンの右手で阻まれる。
「甘いな!」
一瞬動きの止まった真琴のがら空きの腹部に、ジャガーマンのパンチが打ち込まれる。
ドゴォッ!
そしてジャガーマンは右手一本で真琴を振り回し、美汐の側の木に投げつけた。
ドガァッ!
「キャウンッ!」
真琴は背中から木の幹に激突し、その場に崩れ落ちた。
「真琴ッ!」
美汐の叫びを聞いた真琴は、体を震わせながらも起き上がりジャガーマンを睨みつける。
「ウゥ……」
唸るが、先ほどまでの力強さは無かった。今の攻撃で真琴の力は大幅に削られてしまったが、それでも逃げるわけには行かなかった。
今の自分では逃げ切る事は出来ないだろうし、何より美汐を、大切な人を守らねばならなかったから。真琴は力を振り絞って
ジャガーマンと対峙する。未だ残る意思でなんとか身体を支えていた。ジャガーマンは邪悪な笑みを浮かべながら近づいて来る。
「観念して……」
「ガァッ!」
ジャガーマンが言いかけた時に、真琴がまたしても飛び掛る。だが、ダメージが残っているのか先ほどまでのスピードは無く、
簡単にジャガーマンに首を掴まれてしまった。前足を振り回すが、リーチの差もあり真琴の攻撃は相手に届かなかった。
「フン……」
ギュゥッ
「ガァ……」
ジャガーマンが首を絞めると、真琴の口から苦しげな声が漏れる。右前足は先ほどの攻撃により殆ど動かなくなっており、
残った左前足で自分の首を絞めているジャガーマンの左手を引っ掻こうとするが、ジャガーマンの右手に掴まれてしまった。
「まだ逆らうか……そういえば、あの時もこうやって最後まで抵抗していたな」
「あの時……?」
ジャガーマンの呟きに美汐が反応した。その声が聞こえたのか、ジャガーマンは美汐に顔を向けると話し始めた。
「キサマはこの改造体の知り合いらしいな。コイツを処分したら、キサマも仲良くあの世に送ってやる。その際の土産話に
教えてやろう……この被験体の小娘と合成した狐は、以前俺様がこの丘で捕まえたものだ」
「…………」
美汐はジャガーマンの話を黙って聞いていた。だが、ただ聞いていた訳では無い。隙あらば真琴を助けようとしていたのだ。
しかし、ジャガーマンもそれがわかっているのか隙など見せない。尤も隙を見せて美汐が向かってきた所で如何様にも対処
出来るし、第一美汐が妙な動きを見せれば、首を絞めている腕に力を込めて首の骨をヘシ折ってやれば良い。ジャガーマンは
そう考えていた。
話は続く。ジャガーマンはある作戦行動で戦闘員を伴ってこの丘に来ていた。その行動にこの丘に棲む動物達が邪魔だったので
殺して回っていた。そんな時、一匹の狐が仲間を守ろうとするかのようにジャガーマンの前に立ちはだかった。だが、
ジャガーマンに敵うはずも無く、たちまち捕獲されてしまった。すぐに殺さなかったのはカノンの科学者達が実験用の動物を
欲しがっていたのを思い出した為であった。この狐の他にも何種類かの動物を捕獲させ、作戦を一旦中止して引き上げていった。
「そいつと被験体の小娘を合成して誕生したのがコイツだ……そういえば、その狐は鈴のついた首輪をしていたな」
「!!」
ジャガーマンは最後の言葉を、別になんでもない、ただ付け加えただけといった感じで話したが、それは美汐にとっては非常に
重要な事だった。
「そ……そんな……それじゃ、真琴は……マコトは……」
親友である人間の真琴
最近まで一緒に暮らしてきた狐のマコト
その一人と一匹が同じ存在となって目の前に居る。自分が感じた懐かしさや、一緒に居た感覚の正体はこれだったのか。
美汐の思わず漏らした声が聞こえた真琴は、首を絞められながらも美汐の方へなんとか顔を向ける。その目が、ジャガーマンの
話が真実だと語っていた。
「……話は終わりだ」
そう言うとジャガーマンは、真琴の首を折るべく力を込める。
「真琴ぉーーっ!!」
美汐の絶叫が森の中に響いた。あとほんの少しでも力を込めれば首の骨が折れるというその時だった。今まで動かなかった
真琴の右前足が、自分の首を絞めているジャガーマンの腕を引っ掻いた。
ガリッ!
「クッ」
手傷を負わされたジャガーマンは思わず、首を掴んでいた手を放してしまった。
「このぉっ!」
怒りに燃えたジャガーマンは崩れ落ちる真琴の顎を蹴り上げる。
バキッ!
次いで真琴の左前足を掴んだままの右手を振り回して、先ほどと同じように、今度は遠くの木へと投げつけた。
ドガァッ!
「キャゥン……」
頭から木に激突した真琴は、弱々しく鳴くとその場に崩れて動かなくなった。更に真琴の身体の上に、木に積もっていた雪が
落ちて、真琴の身体にかかる。
「真琴ッ! マコトーーッ!」
美汐の必死の叫びにも真琴は反応しない。ただ僅かに身じろぎしているのが見て取れたので、死んでいない事だけは確認できた。
それを見た美汐は真琴の下に駆け寄ろうとするが、それはジャガーマンによって阻まれてしまった。
「小娘、逃がさん。お前もアイツと一緒にあの世に送ると言ったはずだ」
「あ、あぁ……」
真琴に引っ掻かれて、怒りの篭った目を美汐に向ける。美汐は追い詰められた獲物のように震えていた。一歩、二歩と下がって
いくが木にぶつかってしまう。もうどうしようも無かった。今日だけで何度も死を間近に感じながらも、その都度助かってきたが
今度もまた助かるという保障は無い。美汐は観念して目を閉じた。
だが、今回も助けはやって来た。
「待てぃっ!」
ヴォォォンッ!
力強いサイクロンのエンジン音とともに、仮面ライダーがジャガーマンと美汐の間に立ち塞がった。ライダーがやってくる直前に
ジャガーマンは後方の木の枝に飛び乗っていた。
「仮面ライダー、生きていたか!」
「ジャガーマン、この子に手出しはさせん!」
サイクロンから降りたライダーは、美汐を背後に庇うとジャガーマンを見上げた。
「天野、遅くなってすまない」
「……貴方が、仮面ライダー?」
仮面ライダーの噂は美汐も聞いていた。商店街での一件、最近では○市のビルで起こった火災の時にも現れたという謎の戦士。
それが今自分の目の前にいる。そして自分を守り、ジャガーマンと戦おうとしていた。
「天野、真琴はどうした? 無事なのか?」
その言葉に美汐はハッとなる。何故ライダーが自分や真琴の名前を知っているのかは気にも留めずに、真琴が投げ飛ばされた
方を見る。ライダーも、美汐のそんな動きにつられて同じ方に目を向けた。するとそこには一匹の大きな狐が起き上がり、
ライダーに向かって身構えていた。
「あれは……カノンの怪人か?」
「違いますっ、あれは……」
身構えて狐を警戒しながら言うライダーの疑問を、美汐が否定しようとしたときだった。
「ガァーーーッ!!」
力を振り絞るかのように大きく吼えた狐は、ライダーへと襲い掛かってきた。
★ ★ ★
「真琴ッ! マコトーーッ!」
真琴の意識は朦朧としていたが、美汐の声だけはハッキリと聞き取っていた。起き上がろうとするが、身体が自分の意思に反して
思うように動いてくれない。
「(みし、お……美汐は……大事な、親友……守らなくちゃ……)」
暫くすると、痛みは残るがどうにか身体を動かせるレベルに回復していた。身体に積もった雪を払いのけ、美汐の方へと頭を向ける。
そこには美汐と、バイクに乗った人物の姿があった。その人物はバイクから降りると、何か美汐と話している。
「(あれは……仮面ライダー?)」
仮面ライダーを認識した途端に真琴の頭に激痛が走る。姿を変えたことか、それとも先ほど木にぶつかったショックからか、
真琴の記憶は再び混乱してきていた。
「(うぅ……仮面ライダー……カノンの、敵……)」
それはカノンに植えつけられた認識であったが、混乱している真琴にはそうと判断出来ない。仮面ライダーはカノンの、いや
自分の敵だと判断する。
「(美汐があぶない!!)」
ライダーが美汐の側に居る、美汐を助けなければ! その想いが真琴に新たに力を与えた。ダメージの残る身体を叱咤して
ライダーに向かって身構えたその時、美汐とライダーがこちらを向いた。ライダーは自分を見て身構えている。
真琴は、完全にライダーを敵だと認識していた。ジャガーマンの事は既に真琴の頭の中に無く、美汐を守るためにライダーへと
飛び掛っていった。だが……
「(美汐を守る…………みしお?………誰?……前にいるのは……敵?……そう、みんな……敵だ!)」
急に記憶が曖昧になり、自分が何の為にライダーへと向かっているのかハッキリしなくなっていた。ただ敵を倒す、それだけ
が真琴を動かしていた。最初に攻撃する相手は……
「ガァーーーッ!!」
★ ★ ★
「ガァーーーッ!!」
狐が吼えたかと思うと物凄いスピードでライダーに迫ってくる。ライダーは空中へと飛び上がった狐を迎撃しようとパンチを
繰り出そうとするが、
「やめてくださいっ! あれは……」
美汐の叫びに、一瞬だが気を取られてしまいタイミングを逃してしまった。
ドガッ!
「グァッ」
ライダーは狐の体当たりを受けて、雪の残る地面を転がった。仰向けに倒れたライダーの上に狐が乗り、ライダーの両肩を足で
抑えて噛み付こうとした。
ガシィッ!
ライダーは肩を押さえられながらも、なんとか眼前で狐の首元を掴んだ。目の前には鋭い牙が光を放っていた。
「クソッ……」
「フハハ、良いぞ! そのままライダーを噛み殺してしまえ!!」
木の上からジャガーマンが狐をけしかけていた。元々は自分が真琴を処分するつもりだったが、真琴の行動を見て気が変わった。
このまま真琴とライダーを戦わせた方が良いと思ったのだ。相打ちにでもなってくれれば首領の命令も果たせ、更にはカノンの
障害であるライダーも排除できて一石二鳥である。どちらか一方が生き残ってもダメージは負っているだろうから楽に倒せる
だろう、そんな計算もしていた。
「(コイツの相手をしていたら、ジャガーマンが天野を……)」
ライダーは自由に動く足を狐の腹部に入れると狐を蹴り上げて、自分から引き離した。蹴り飛ばされる格好になった狐は
背中から地面に落ちる。
「キャウンッ」
その間にライダーは立ち上がって狐と対峙した。そして攻撃しようと駆け出すが目の前に美汐が飛び込んできた。
「天野?」
「止めてくださいっ!」
美汐はライダーの前に立つと、行く手を塞ぐように両手を広げた。
「天野、そいつは!」
「止めてください、この子に攻撃しないでくださいっ!」
普段の物静かな美汐からは想像できない激しい口調だった。真剣な表情でライダーと向かい合っている。
ここは一歩も通さない、その決意が見て取れた。
「そいつはカノンの怪人……」
「違いますっ! この子は……この子は私の大切な親友ですっ、真琴という私の親友なんです! 怪人なんかじゃありません!」
「なっ!?」
美汐の口から出た事実に、ライダーは言葉を失った。
続く
後書き
こんにちは、カノンMRS20,21話お届けに上がりました
うめたろです。
次回予告をつけようかとも思いましたが、ついつい書きすぎてネタバレに
なりそうだったので、見送らせていただきます。m(_ _)m
今回は、様々な戦闘シーンを盛り込んで見ました。
バイクでの戦いとか(仮面ライダーならこれは外せないかと^^;)
ライダー以外の戦い(真琴)等
上手い事、情景やスピード感が伝わっていれば良いな〜と思いつつ
一生懸命製作しました。
これからも皆様に面白かったと言ってもらえるよう努力いたします。
今回はこの辺で
最後に
今作品を掲載してくださった管理人様
今作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにいたします
ありがとうございました
では うめたろ