自分は彼に恋をしたのだろうか? 普段は聡明な彼女もこればかりは簡単に答えを出せなかった。

自分の親友であり、彼の従兄妹でもある名雪は彼にはっきりとした気持ちを持っているだろう。
以前から何度となく話に聞いていたから。
商店街で起きたバケモノの事件から暫くは何か考えていたようだったが、今では同じように祐一の事を話す。

妹の栞はどうだろう?
昔から身体が弱く、数年前からは病状が悪化して入退院を繰り返す日々。その中でTVドラマや恋愛小説のような恋に憧れた。
祐一を運命の人だという。果たしてそれは、単にドラマみたいな恋に憧れているだけなのか、それとも本当に一目惚れなのか?
おそらく後者だろう。あそこまで明るい笑顔の栞を見たのは香里の記憶の中にも多くは無かったから。

果たして自分は……


「うっ」

自分の気持ちに戸惑っている所に、栞のそう呻く声が聞こえた。香里が振り返ると、栞が自分の胸を抑えて蹲るところだった。

「栞っ!?」

慌てて栞の所へ駆け寄る。栞は意識が朦朧としているようで、何か言おうとするが言葉にならなかった。

「栞、栞っ!」

呼びかけるが返事はない。とにかく祐一を呼ぼうと店の外を見るが、そこに祐一の姿は無かった。

「相沢君? 一体何処に……」

ズズズズン……

その時、鈍い音と共にビルが揺れだした。




               Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                       第十四話       




「な、何よ。何が起こったの?」

蹲る栞の肩を抱きながら呟いた香里の問いかけに答えるものはいなかった。ビルの揺れと共にあちこちから爆発音や何かが
崩れるような音も聞こえてくる。更には天井の照明も点滅を繰りかえした後に消えてしまった。

「とにかく外に……」

そう言って栞を支えながら店の外にでた香里が見たものは、火の手が上がりあちこち崩れた通路、そして逃げ惑う人々の姿だった。

「一体何が……」

人々は我先にと、押し合いへし合いながら逃げていく。誰も香里たちに注意を払う者は無かった。

ズズン……

後ろから聞こえた大きな音に振り向いてみると、店の天井の一部が落下していた。そのことが引き金になったのか、
立ちすくんでいた店員達が逃げ出そうと出口へ殺到する。

「えっ……ちょっと!」

「どいて!」

香里が避ける間もなく、彼女達を突き飛ばして店員達も我先に逃げ出していった。

「きゃっ」

突き飛ばされた際、栞を庇ったために香里は受身も取れずに床に身体を打ちつけた。

「痛っ!」

背中を打った痛みに顔をしかめるが、堪えて栞の様子を窺う。栞は弱々しく呼吸をするだけで、意識があるのか分からなかった。

「ハァ……ハァ……」

「栞、しっかりして!」

香里は起き上がると、栞を抱きかかえた。辺りからは相変わらず何かが崩れ落ちる音がしていた。さらに火の勢いも増して
きていて、煙も充満し始める。

「とにかく、逃げないと……」

栞の背中と膝下に手を入れて抱き上げる。そのまま出口がある方へと歩いていく。香里は非力な方ではないが、
小柄な栞とはいえ人一人を抱いて歩くのは困難だった。加えて通路には人々の荷物やら崩れた瓦礫が散乱して足場も悪く、
照明もないので思うように進めなかった。誰か助けを、と周りを見回しても既に人影は見当たらなかった。

「栞、しっかりするのよ。すぐ病院に連れていくから!」

「……」

自分が助かるかも分からない状況でも栞を励まし続けた。そして幾らも進まないうちに香里は何者かに行く手を阻まれた。
黒づくめの服を着て、手には短剣を持っている。カノンの戦闘員だった。

「な、何よ。貴方は?」

香里の問いかけにも答えずに、ジリジリを香里たちに迫ってくる。どうやら自分達を殺すつもりだった。
逃げられないと悟った香里は近くの壁に栞を寄りかからせると戦闘員と向かい合った。

怖い、逃げ出したい、香里は素直にそう感じていた。だがそれは出来ない。自分だけでなく栞を連れて逃げなければならない。
自分がいなくなったら栞はどうなる? 自分が守らなければ! 病弱で泣き虫だった栞をずっと守ってきた。格闘技だって学んだ。
それらの想いが支えとなって、香里は戦闘員と対峙していた。

「イーッ!」

振りかぶって来た短剣を持った腕を、頭上でクロスさせた両手で受け止めると、がら空きの腹部に回し蹴りを叩き込む。
戦闘員が怯んだ隙に、顔面に渾身のストレートを打ち込んだ。

ドガッ!

戦闘員はよろけて香里から離れた。だが、すぐに回復すると再び短剣を構えて香里を睨み付ける。

「効いてないの? 急所に入ったのに」

香里は戦闘員のタフさに驚いた。殴った自分の手の方が痛いくらいだった。戦闘員は間合いを詰めてくると、香里はその分
後退していく。そして今まさに戦闘員が襲いかかろうとしたときだった。

ズバッ!

「イ゛ーッ……」

何かを切り裂くような音が聞こえたかと思うと突然戦闘員が動かなくなり、バタリと倒れた。戦闘員の背中には切り裂かれた
跡があり、そして戦闘員の後ろには別の影が立っていた。左手は鋏状で頭頂部には蠍の尻尾を思わせる物が付いていた。

カノンの怪人・蠍男だった。

「ば、バケモノ?」

戦闘員はまだ人に近い姿をしていたからなんとか立ち向かう事も出来た。だが、今目の前にいるのはまさにバケモノと呼ぶに
ふさわしい姿をしていた。本能的な恐怖が香里を後退させる。だが蠍男は何もしようとはせずに、その場に立っていて
こちらをじっと見つめているだけだった。

「…………」

「な、何よ……」

火の勢いはさらに激しくなっていて、退路は無くなっていた。残るのは前方しかないがそこには蠍男が立っている。
香里がどうやってこの場を切り抜けようかと考えていたその時……

「香里、栞っ!!」

炎を掻き分けるようにして祐一が現れ、二人を庇うように蠍男の前に立ちはだかった。

「相沢君!」

祐一が現れた事で緊張がほぐれたのか、香里はその場にへたり込んでしまった。

「二人とも無事か? 早く逃げろ!」

振り返らずに言った祐一の言葉にハッとなる香里。慌てて栞の所に駆け寄ってみると、栞は相変わらず弱々しく
呼吸しているだけだった。

「相沢君……栞が、栞が!」

栞を抱きかかえた香里は、それだけしか言えなかった。祐一は、その声の様子から栞が危ないと分かった。
であれば、一刻も早く目の前の怪人をかわしてここから脱出しなければならない。

「相沢祐一」

そこで初めて目の前の怪人が喋った。左手の鋏を見せ付けるように構え、明らかな殺気を漲らせていた。

「キサマはこの俺…………蠍男が殺す!」

蠍男が襲い掛かってきた。祐一は蠍男の左手を両手で受け止めると、身体を回転させて相手の勢いを受け流す。
そして追撃とばかりに蠍男の腹部を蹴りつける。そのままの勢いが付いた蠍男は近くの店舗に突っ込んだ。

「香里!」

その隙に祐一は、二人の元へ駆け寄る。栞を抱き上げようとした祐一だったが蠍男が飛び出してきたので、
やむを得ず再び蠍男と対峙した。

「(くそ、やはり変身するしか……)」

香里達の前で変身する事に躊躇っていた。自分は目の前にいる蠍男と同じ改造人間だ。その事を知った香里達が
自分を何と言うだろうか、何と思うだろうか……

「(だがっ、俺は誓ったんだ! 救える命を救うと。香里と栞は守ってみせる!)……香里、お前達は俺が守る」

「相沢君?」

意を決した祐一は変身する。

足を開いて左腕を握り腰に構える。右腕は指先を揃えて左上に真っ直ぐに伸ばす。

「ライダー……」

右腕を時計回りに旋回させて右上に来た辺りで止める。

「変身ッ」

今度は逆に、右腕を腰に構えて左腕を右上に真っ直ぐ伸ばす。すると祐一の腰にベルトが現れて中央の風車が回転する。

ベルト中央の風車が発光し、その光は祐一の全身を包み込んだ。

光が収まるとそこには祐一が変身した戦士−−仮面ライダー−−がいた。

「仮面ライダー!」

「行くぞ、蠍男!」

目の前で変身した祐一を、香里は呆然と眺めていた。

「相沢君が……仮面ライダー……?」

怪人は祐一の事を仮面ライダーと呼んだ。
仮面ライダー……以前、地元商店街で起こった謎のバケモノによる惨殺事件、そのバケモノを倒したと噂される謎の戦士。
その正体は、親友の従兄妹で自分が最近知り合った相沢祐一……

「相沢君が……何故?」

香里が呟いている間も、ライダーと蠍男の戦いは続いている。

「死ね、ライダーッ!」

蠍男は左手の鋏を袈裟切り、逆袈裟と振り回してくる。その大振りの攻撃を最小限の動きでかわしたライダーは蠍男が三度
振り上げたその隙に一気に懐に飛び込み右手で鋏を受け止めて、左のストレートを胸元へ撃ち込んだ。さらに蠍男を担ぎ上げて
投げ飛ばした。投げ飛ばされた蠍男はすぐに起き上がると、近寄ってくるライダーに向かって頭頂部から針を飛ばしてきた。

ヒュッ!

キィン!

ライダーは立ち止まって針を弾く。背後には香里達がいる為にかわせなかった。続けて二度三度と針が飛んでくるが
全て弾き飛ばしていた。

「ウオオッ!」

蠍男が叫びながら突進してくる、間合いに入ると今度は鋏を素早くライダーの首元めがけて突き出した。ライダーはそれを
一歩踏み込んでから右下に屈んで回避する。次に、振り下ろすように突き出された攻撃は、今度は踏み込んだ足をバネにして、
後ろに飛んでかわす。そして、ライダーが攻撃に転じた。蠍男に飛び込んで行き、蠍男も鋏を突き出す。

「オオオッ!」

「ライダーッ、パァーンチッ!!」

バキィッ!!

ライダーの拳と蠍男の鋏が激突して、蠍男の左手が手首の辺りまで破壊された。

「グオオオッ!!」

蠍男は破壊された左手を押さえて転げまわっていた。それが収まると、一層憎しみの篭った目でライダーを睨み付けた。

「ゆ、許さねぇ……テメェは必ず殺すっ! 覚えてろっ!」

だが自分の不利を悟った蠍男は、ライダーに背中を向けると逃げ出した。

「待てっ!」

「栞っ!!」

後を追おうとしたライダーを香里の悲痛な叫びが止めさせた。ライダーがそちらを向いて見たものは、血を吐く栞とその栞を
抱きかかえて妹の名前を呼び続ける香里の姿だった。

「栞……う、ゴホッゴホッ」

火災により煙が充満し、さらにはガスまで発生しているのか香里も咳き込む。

「くっ……」

蠍男の追撃を諦めたライダーは二人の所へ駆けつける。栞は血の気も失せてぐったりとなっている。ただ僅かに上下する胸が
まだ栞が生きている事を証明していた。

「一刻も早くここから出ないと……サイクロン!」

ライダーが自分の愛機の名前を呼んだ。すると、炎の壁を突き破ってサイクロンが現れてライダー達の前で停まる。

「さぁ早く、栞を!」

まず自分が乗ってから香里を促した。香里もその言葉に弾かれたように行動する。栞をライダーの後ろに乗せて、自分は
さらにその後ろへ座る。そして自分とライダーの背中で栞を挟みこむ。

「いいわよ!」

しっかりとライダーにつかまりながら言うとライダーはサイクロンを発進させた。サイクロンは瓦礫の散乱する通路を
ものともせずに進んでいく。その中で香里は、ただ妹の無事だけを願っていた。


                         ★   ★   ★


病院の集中治療室
その前の廊下に設けられた椅子に、祐一と香里が座っていた。祐一は腕を組んだまま黙っており、香里は祈るような格好をして
目を閉じて栞の名前を繰り返し呟いていた。
部屋の中ではベッドに寝ている栞が医師達の懸命な治療を受けていた。

「……すまない、香里」

沈黙が続く中、祐一はそれだけ言った。その声に香里は顔を上げて前を見たまま答える。

「相沢君……貴方の所為じゃないわ……」

それきり再び沈黙が訪れる。次に口を開いたのは香里の方からだった。

「それにしても驚いたわ……相沢君が仮面ライダーだったなんて……」

今は栞の事が心配だったが、何か別の事を話してでもいなければ不安に押しつぶされそうだった。

「あぁ、話せる事じゃ無かったから今まで秘密にしていたんだけどな」

「今は話してくれるわよね? 貴方の事、あのバケモノ達の事……」

祐一は躊躇った、それらの事を話せば香里をカノンとの戦いに巻き込むことになるだろうから。

「香里、話せばお前達を巻き込むことにもなりかねない。だからこれ以上は関わらない方が……」

「もう巻き込まれているわ。それに巻き込まれたにせよ自分から首を突っ込んだにせよ、もう私は事件の当事者なのよ。
 関わった者として事情くらいは知っておきたいの」

「……わかった」

祐一は今までの事をかいつまんで話した。

あのバケモノ・怪人を操る組織があること。
自分はそれと戦う改造人間であること。

「改造人間……相沢君が……あの怪人と同じ……」

「そうだ…………香里……俺が……怖いか?」

香里はその問いには答えずに別の質問をした。

「名雪は……秋子さんと名雪はこの事を知っているの?」

「あぁ、二人とも知っている」

「そうなの……」

香里が何か言いかけた時に、廊下の影から一組の男女が現れてこちらに向かってきた。

「香里!」

中年男性が香里を見つけると足早にやってくる。その後に同年代の女性も続いて歩いてきた。

「お父さん、お母さん」

それは香里達の両親らしく、女性は香里によく似ていた。香里から「栞の様子が今までより酷い」と連絡を受けていた
所為か、両親とも顔色はすぐれなかった。

「それで栞は?」

「いま、治療を受けているわ」

その時、父親が祐一の事に気が付いて話しかけてきた。

「君は?」

「相沢祐一と言います、香里さんとはクラスメイトです。すいません。俺が付いていながら……」

祐一の名前を聞いた父親の形相が一変し、祐一に飛び掛って襟首を締め上げると壁に押し付けた。

ガツッ!

「お前かッ!? お前が栞を……!」

更に襟首を締め上げてきた。祐一の力を持ってすれば簡単に振りほどけるが、栞のことで負い目を感じていた為に
そうしようとはせずに、されるがままになっていた。

「お父さん、止めて!」

「あなた、栞の病気は相沢さんの所為じゃないでしょ!」

娘と妻に止められると、父親もそのことに気が付いて、祐一から手を離した。

「すまない……相沢君。どうかしていた……」

「いえ、良いんです」

「ごめんなさいね、相沢さん。栞が貴方と出かけることを凄く嬉しそうに話していたものだから……
 あの子が「どうしてもあの店にいきたい」って……みんなが心配していたのに……」

それきり四人の間に会話は無かった。香里の両親も隣に座って、今は時が過ぎるのを待っていた。
暫くして治療室のドアが開き、治療にあたっていた医師が出てきた。それを見た両親が駆け寄って尋ねる。

「先生、娘は……栞は……?」

医師は答えにくそうな顔をしており、すぐには返答しなかった。

「その事でお話があります。ご家族の方は、こちらへ」

そう言って出てきた治療室の隣の部屋へと案内した。案内される途中で、香里が祐一を見る。

「あの、相沢君……」

「あぁ、俺の事はいいから」

「ごめんなさい」

それだけ言って香里は両親の後を付いていき、香里達が部屋に入るとドアが閉じられる。廊下に一人だけになると祐一は
椅子に座りなおして待っていた。辺りはしんと静まり返っていたが、祐一の強化された聴覚には部屋の会話が聞こえてきた。


香里達が通された部屋からはガラス越しに治療室の様子が見えた。
忙しく動き回る医師や看護師達がいる。そして部屋の中央のベッドに栞が寝ていた。
顔には酸素マスク、腕にはいくつもの点滴の針、そして身体中に取り付けられた様々な計測機器の端子。
先ほどは栞の呼吸で確認できたが、今は栞に取り付けられた計測機器のモニターの映し出す数字等が、
栞が生きている事を表していた。

「栞……」

変わり果てた妹の姿を見て香里が呟く。両親も同じ行動をとった後は医師に問いかけた。

「それで、娘は、栞は……どうなんですか?」

父親が震える声で尋ねる。自分でも薄々感じてはいたが認めたくは無かった。しかし医師の言葉は父親の推測を裏付ける
ものだった。

「大変申し上げにくいのですが……残念ですが、娘さんの命はもう……」

「なぜっ! 何故なんですかっ!? どうしてあの子が!!」

「お母さん、落ち着いて!」

香里は取り乱す母を宥めた。自分だって叫びたかった、医師に問い詰めたかった。だが母が先に叫んだ為に自分は冷静に
なれた。とにかく自分だけは冷静でいようと思った、どこまでそうしていられるか自分自身分からなかったが。

「申し訳ありません。現在の医学ではどうしようもないんです」

「そんな……今までは上手くいってたじゃないか!? 調子も良くなって、退院だって」

「病気の進行を食い止めていたに過ぎないのかもしれません」

医師も自分の無力さに嘆く思いだった。

「じゃあ……じゃあ、後どれくらい……」

「生きられるんですか?」そう続けられなかった。言ってしまえば妹の死を、香里自身で認めることになってしまうから。

「おそらく……もって今月一杯……」

「!! そんな! 栞は次の誕生日まで生きられないって言うのか!?」

「何故、何故あの子が……」

両親の悲痛な叫びが室内に響く。「何故あの子が……」と泣き崩れる母を優しく抱きとめる父。香里も力なく壁に
寄りかかっていた。

「もう、どうしようもないんですか?」

それは果たして本当に自分が言った言葉なのか? 香里には、自分ではなく何処か遠くの誰かが喋ったような気がした。

「医学に携わる者の言葉としては情けないですが……後は『奇跡』を信じるしか……」

「奇跡って……起こらないから奇跡って言うんじゃないですか」

「……我々も最善を尽くします。彼女自身も生きようとしています、ご家族である貴方がたも最後まで諦めないで下さい」

医師はそれだけ言うと一礼してから部屋を出て行った。


室内での会話が聞こえていた祐一には、僅かではあるが栞が助かる可能性に思い当たっていた。
それは医師の言った「現在の医学では……」という言葉。それに引っ掛かりを覚えたのだ。
「現在の医学」それに似た言葉を自分は何処かで聞いていた筈だ、思い出せ! 祐一は自分の記憶を必死に辿った。
記憶の糸を辿り、ついに思い出した。健吾と再会したときに彼が言った言葉だ。

『カノンの科学力は現代のそれよりも進んでいてね』

現在よりも進んだ技術を持つカノン、連中なら栞の病気を治す方法を知っているかもしれない。ヤツらのアジトに行けば、
薬か何か見つかるかもしれないし、医学の研究者を連れてきてもいい。最低でも何かしら治療の手がかりになる資料でも
見つけられれば……そう考えていた。

だが場所が分からなかった。蝙蝠男の事件以来、祐一達の住む街の近くにもあると思われるアジトを、以前健吾に託された
データも参考にして探し回っているが未だに発見できない。健吾も詳しい場所は把握出来なかったのか、データにも大まかな
場所しか載っておらず捜索は難航していた。

「けれど、見つけるしかない……」

祐一はそう言って己の手を強く握り締めた。

ドアが開いて先ほどの医師が廊下に出てきた。医師は祐一に目礼した後、去っていく。部屋の中では香里と父親が泣き崩れる
母親の両脇を抱えて、椅子に座らせているところだった。母親を座らせると、香里は後を父に任せて廊下へと出てくる。

「相沢君……」

「……聞こえていた」

「そう……あの子は……もう……」

それだけ言うと、もう耐え切れなくなったのか香里の目に涙が浮かぶ。壁に寄りかかり、今にも崩れ落ちそうだった。

「香里!」

祐一は香里の側に駆け寄ると両肩を掴んで支えた。

「香里、お前がそんなことでどうする! 最後まで諦めるな!」

「相沢君……?」

香里は崩れ落ちそうなのを堪えて、涙が浮かんだ目を祐一に向けた。

「でも、医者は……奇跡を信じるしかないって……奇跡なんて、起こらないから奇跡って言うんでしょ……」

「……俺はそうは思わない……僅かでも起きる可能性があるから奇跡って言うんじゃないのか?
 俺も出来る限りの事はする。栞を助けるんだ」

「相沢君……あの子の事が……好きなの?」

祐一は自分の気持ちと向き合ってみる、だが答えは既に出ていた。

「栞の事が好きなのは間違いない。でもそれは恋愛感情とかじゃなくって家族とか、親しい者に感じる「好き」だろうな。
 栞と接していて、玲奈と……妹といたような気分になれた」

「思い出して……辛くないの?」

「辛いさ。けどそれより、もう一度妹に会えた……そんな気持ちになれたからな、感謝している。栞にも……香里にも」

「相沢君……」

「ただ……栞には悪いけど、今の俺が誰かを愛することはないだろうな。だって俺は……」

香里は何も言わなかった。だが先ほどまで祐一に支えられていた身体は、今は自分の足で立っていたし、涙を浮かべては
いるもののその目には力が戻ってきていた。

「俺は……」

「その先は言わないで良いわ」

「改造人間だから」そう言おうとする祐一を止めた。自分の肩に置かれている祐一の手に自分の手を重ねる。

「貴方は「相沢祐一」。そうでしょ?……それが、さっきの私の答えよ」

「香里……」

「しっかりしなさいよ! 栞だって頑張っているんだし、私達が落ち込んでいちゃ駄目なんでしょ。自分で言ったじゃない」

「……何だか立場が反対になっちまったな」

「そうよ。相沢君が落ち込みだすから、私が落ち込んでる暇が無くなったじゃないの」

そう言ってお互いに笑った。

「わかったわ、私も最後まで諦めない」

「ああ、それでこそ香里だ」

香里は涙を拭い、もう大丈夫だと判断した祐一は香里から離れて向き合った。

「とりあえず、両親を立ち直らせないとね。相沢君はこれからどうするの?」

「香里や栞の側にいたいんだが、俺はこれからやることがあるんだ。だから……」

祐一も、本当は栞の側に居てやりたかった。だがここに居ても栞の為に何かしてやることは出来ない。自分が出来ること
と言えば、カノンのアジトを見つけて栞の病気を治す方法を見つけることだった。

「こっちは大丈夫だから」

「すまない……何かあったらすぐに連絡してくれ。さっきの蠍男が現れるかもしれないしな」

「ええ、そのときは頼むわね……正義の味方さん」

「うっ」

「ふふふっ」

そう言って二人は別れた、お互いにやるべき事をやる為に。
病院の外へ出た祐一は早速、携帯電話で秋子に連絡を取った。今の時間帯ならまだ店にいるはずなので百花屋に電話する。

『はい、毎度ありがとうございます。百花屋です』

「秋子さんですか? 祐一です」

『祐一さん!? 無事なんですか!? さっきからTVのニュースで、あのビルが火事だって……』

よほど心配していたのか、秋子が一気にまくしたてる。

「秋子さん、落ち着いて下さい! 俺も栞も香里も無事ですから」

それを聞いた秋子は、ようやく落ち着きを取り戻していた。

『良かった。ニュースを見て本当に心配……香里ちゃんもいたんですか?』

「えぇ、偶然会いまして」

『そうですか……って、ちょっと、名雪!?』

何か揉みあうような音と話し声が聞こえた後、電話のスピーカーから大きな声が聞こえた。

『祐一!! 無事なの!? 怪我は!? 栞ちゃんは!? 香里もいたってどういう事なの!? 香里も無事なの!? ねぇ!!』

名雪らしい声は先ほどの秋子以上の声とペースでまくしたてた。

「名雪、とにかく落ち着け。俺の話を聞け! いいか、とりあえず皆無事だ。それはいいな?」

『え? う、うん』

「詳しいことは帰ってから話すが……そのことでちょっと秋子さんに話があるんだ。悪いが代わってくれ」

祐一がそう言うと、電話の向こうでは渋々といった感じで名雪が秋子に受話器を返していた。

『祐一さん?』

「秋子さん、さっきも言った通り俺達はとりあえず全員無事です。ビルの火事はカノンの仕業でした」

『そうですか……ひょっとして記念式典に出席する人達を狙ったんじゃないでしょうか?』

「そうかもしれませんね」

秋子の推測に祐一も同意した。続けて秋子の話によると、あのビルの騒ぎでの死亡者は今の所はいないとのことだった。
それに一先ず安心した祐一は栞の事を話した。

「そんな!! 栞ちゃんが……朝はあんなに……」

電話の向こうで秋子が絶句する。栞のことを告げて気が重くなった祐一だが、続けて電話をかけた本来の目的について話した。

「秋子さん、俺はこれからカノンのアジトを探しにいきます。それでですね、秋子さんには……」

言いかける祐一だったが、聡い秋子には既に自分のすべき事がわかっていたので先に言った。

『分かってますよ。健吾さんの研究データに何か手がかりが無いか調べてみますね』

「お願いします。ところでお店の方は大丈夫ですか?」

あれだけ騒いでいたので少し心配になって聞いてみた。

『平気ですよ。今ちょうどお客さんはいませんから』

それだけ聞くと、何かあったら連絡をしあうと話してから電話を切った。
栞に残された命は少ない、一刻の猶予も無かった。祐一はカノンのアジトを探すべくバイクを走らせた。

「栞……待ってろよ」


                         ★   ★   ★


カノンのアジト
指令室ではライダーに左腕を破壊されたままの蠍男が首領から叱責されていた。

『バカモノ! 作戦を失敗したのみならず、仮面ライダーに腕を破壊されておめおめと逃げ戻ってくるとは……』

「も、申し訳ありません。首領……」

蠍男は腕を抱えて平伏していた。

『蠍男、キサマには失望したぞ……』

首領の声に冷たいものが交じる。それを聞いた蠍男に恐怖が走る。失敗した者の末路は死……蠍男は首領に懇願した。

「ま、待ってください首領! もう一度俺にチャンスを!! アイツを、仮面ライダーを誘き出して殺す作戦が
 あります!! どうか、お願いします!!」

『…………』

「首領!」

『よかろう……蠍男よ、もう一度チャンスをやろう。左腕の再生手術も許可しよう。だが、今度失敗したら……良いな?』

「ハハッ! ありがとうございます」

蠍男は立ち上がるとレリーフに向かって一礼する。その目には激しい復讐の炎が燃えていた。

「(相沢祐一……仮面ライダー。テメェは必ず殺してやる)」




続く




あとがき〜〜あとがきっ(何?


え〜、後書きはいらんかね〜、ってしつこいですね。ゴメンナサイm(_ _;)m

こんにちは、うめたろです。ライダーの新作、お届けです。

まずはお礼を。

専用ページ感謝です。『専用』というからにはやはり私自身、赤く塗って角つけて3倍の性能を出さなければ!

と思い、赤く塗り始めた時点で(塗ったのかよ!)勘違いに気づきましたが、なんとか製作頑張りました。

どうにか話を進める事ができてなんとか一安心です。この先の展開も一応決まったので順調に書いて

……いけたらいいなぁ(ォィ

3倍は無理でも、30%UPとか……イヤイヤ、せめて0・3倍に……って減らしてどうするよ^^;

ま、まぁ、つまらない冗談はさておき、今後とも見捨てずにいて頂けると有難いです。

今回の後書きも短めですがこの辺で。

最後に

私の作品を掲載&専用ページ開設してくださった管理人様

私の作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにしたいと思います。

ありがとうございました

では。                        うめたろ

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース