「仮面ライダー」相沢祐一は改造人間である

彼を改造させた「カノン」は世界征服を企む悪の秘密結社である

仮面ライダーは人間の自由の為にカノンと戦うのだ




               Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                       第十二話       




蝙蝠男の事件から十日あまりが過ぎていた。人々の心は少なくとも表面上は落ち着きを取り戻し壊された商店街の街並みも
復興されつつあった。
そして祐一達は……


「なんで俺達は今日も走って登校しているんだぁ〜〜〜〜っ!?」

「うにゅ〜、遅刻しそうだからだよ〜〜〜〜」

朝の冷たい空気の中をひたすら学校に向けて走り続けていた。

「名雪! 俺は確かに言ったさ。『いつも通りの名雪で居てくれ』って! だがなっ、朝が弱いのだけは変わってくれ! 
 早く起きてくれ〜〜っ!!」

「う〜、努力はしているんだよ〜」

「前にも言ったろ! 努力するだけじゃなくて成果をみせてくれっ!」

祐一は以前とは違って名雪に合わせて走っていた。その顔には焦りの表情が浮かんでいる。一方、元凶である名雪は遅刻寸前
だというのに微笑んでいた。何故なら一旦カノンとの戦いが始まればこんな日常は送れなくなる。だから平和で、祐一と一緒に登校
できるこの時間が嬉しかった。

「名雪っ、時間は? 間に合うのか!?」

「う〜ん、サイクロンに乗れば間に合うよ!」

「時速500キロなんて出せるかぁ〜〜〜っ!!」

とにかく祐一達は走り続けた。やがて校門に差し掛かった辺りで予鈴が鳴る。ラストスパートとばかりにダッシュをかけ、
昇降口で靴を履き替えると嵐の如く廊下を疾走し階段を2段抜かしで上る。コーナリングでは靴のグリップの限界に挑戦し、
立ち上がりで一気にトップスピードに戻す。そして、教室に飛び込むと足でブレーキをかける。

キキキーーーーッ!!

キーーンコーーンカーーンコーーン

摩擦熱で煙が出そうな勢いで停止すると同時にチャイムが鳴った。

「今日は間に合ったか(チッ……)、相沢、水瀬。席につけ、HRはじめるぞー」

どことなく悔しそうな石橋に言われて自分達の席に向かう。途中クラスメイトの話が耳に入ってきた。

「今日は間に合ったから俺の勝ちだ、学食オゴリな」

「くっそー」

「相沢君が先に入ったから私の勝ちよ」

「う〜、水瀬さんの3連敗かぁ……」

二人の朝の登校はすでにクラスではイベントと化していた。祐一は心で泣きながら席についた。
HRが始まり、今日の連絡事項などを石橋が告げていく。

「以上だ」

石橋が出て行き教室中が授業の準備等で騒がしくなった頃、香里が朝の挨拶をしてきた。

「おはよう相沢君、相変わらずギリギリの登校をしてるわね。もっとも、運動できていいのかもね」

「香里も体験してみるか? 今ならキャンペーン中につき、名雪を起こすところから出来るぞ?」

軽い冗談のつもりで言ってみたが、それを聞いた香里は俯き、視線を祐一から外すとため息混じりに言った。

「以前、体験した事があるわ…………直ぐに挫折したけど……」

「そうだったのか……」

「えぇ、だから相沢君……貴方の苦労は分かるつもりよ……貴方を尊敬するわ」

「分かってくれるか、香里」

「えぇ……」

「う〜、二人とも酷い事言ってない?」

「「そんな事ないぞ(わ)」

「ううぅ……」

二人の息のあった攻撃を受けた名雪はガクリと項垂れた。祐一はそんな名雪を苦笑しつつ見ていたが、ふと周りが静かなのに
気がついて見渡すと、教室には祐一達の他に誰もいなかった。

「あれ? クラスの皆はどこいった?」

「そういえばそうね。やけに周りが静かだと思ったら……いけないっ! 一時間目の授業は移動だったわ!」

「わ、もうすぐ始まっちゃうよ。遅刻だよ〜」

気が付いて慌てる香里に、表情だけ見れば全くそうは見えないが慌てている名雪が続いた。

「何っ!? クラスの連中は俺たちを見捨てたのか!? くそ、とにかく急ぐぞ!」

三人は授業の用意をすると、廊下を爆走した。

「畜生! 朝走って登校して、また走るのか〜〜〜!!」

「私は走るの好きだよ〜〜」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

なんとか遅刻は免れた。その後の授業も『眠り姫』の異名を持つ名雪がその名に恥じぬ(?)様を見せ付けたりしていたが
概ね平和な時間が過ぎていき、放課後になった。

「祐一、放課後だよ!」

HRを終え、名雪が声を掛けてきた。周りは帰宅する者や部活に行く者などで騒がしくなり始めていた。

「ああ」

支度を終えた祐一も帰宅する為に席から立ち、名雪達に声を掛ける。

「さて、帰るか……名雪達は部活か?」

「うん、そうだよ」

「私は、今日は部活は無いわ」

「そうか、じゃあ一緒に帰らないか?」

「えぇ、いいわよ。今日は妹のお見舞いに行くから百花屋にも寄っていきたいしね」

香里の妹の様子が気になった名雪は香里に尋ねて見た。

「栞ちゃん……最近の様子はどうなの?」

「最近は調子がいいみたい。退院できるかもしれないわ」

香里が嬉しそうに答えると、名雪もまた喜んだ。

「そうなんだ、良かったね。あ、そろそろ行くね。私も近いうちにお見舞いに行くけど、栞ちゃんによろしくね」

「えぇ、ありがとう」

名雪が教室を出て行くと、それぞれ支度を済ませた二人はまだ残っているクラスメイトに挨拶して帰った。
その帰り道、祐一は栞が病気で入院という話から思い出した、同じように入院しているという北川について香里に聞いてみた。

「なぁ、そういえば北川って奴はまだ入院しているのか?」

「そうらしいわね」

「らしいって……お見舞いとか、行かないのか?」

「行かないというより行けないのよ。相当重い病気らしくて何処か遠い病院に移されたらしいの。病院の場所も分からないし」

香里の答えは曖昧だった。実際クラスメイトが北川の家族に尋ねても同じような答えしか返ってこなかったし、最近は
その家族にすら連絡が取れなくなることが多かった。

「まぁ、そのうち元気になって戻ってくるでしょ」

「そうか」

二人はそれ以上話すこともなく百花屋に到着した。祐一も香里に付き合って住宅ではなく、店舗の入り口から中に入った。


♪カランカラン

「あら、いらっしゃい香里ちゃん。おかえりなさい、祐一さん」

「秋子さん、こんにちは」

「ただいま、秋子さん」

店にやって来た祐一達を見て、キッチンにいた秋子が声をかけると祐一達もそれぞれ挨拶をした。

「秋子さん、今日は栞のお見舞いに行くのでいつものアイス貰えますか」

「はい、じゃあ少し待っててね」

そう言って秋子は準備を始めた。店内には音楽が流れ、ゆったりとした雰囲気を出していた。学校帰りの生徒や近所の人達の姿も
見えており、繁盛しているようだった。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます……えっと」

「お金ならいいのよ」

秋子が渡した箱を受け取って代金を払おうとしたが、秋子に止められた。

「え? でも……」

「これは私から栞ちゃんへのお見舞い。だからお金は要らないわよ」

秋子はそう言ってにっこり笑った。

「すいません」

「私は滅多にお見舞いに行けないから……元気になったらまた遊びに来るように伝えてね」

「はい、ありがとうございます」

香里も笑って頭を下げた。

「祐一さん」

「なんですか?」

「実は……香里ちゃんに渡したアイスなんですが保冷用のドライアイスを切らしていまして、充分な量が入っていないんです。
 このままだと病院まで保たないので香里ちゃんを病院まで送っていってくれませんか?」

それだけで祐一は理解した。秋子がドライアイスの在庫を切らすとは考えにくいし、今の季節ならアイスもそう溶けたりしない
だろう。つまりは「祐一さんも栞ちゃんのお見舞いに行ってあげてください」ということだと。

「それはいいんですけど、お店のほうは?」

「大丈夫ですから」

秋子にそう言われたので、祐一は香里と病院に行くことにした。

「わかりました……香里、俺も妹のお見舞いに行ってもいいか?」

一応香里に聞いてみるが、香里は快く承諾してくれた。

「外で待っててくれ、すぐに準備してくる。バイクで送ってやるからさ」

「いいの?」

「ああ、だから住宅の方へまわって玄関前に居てくれ」

そういい残して祐一は家の中へ入って準備をする。ガレージからバイクを出して、待っていた香里にヘルメットを
渡して後ろに乗せた。

「しっかりつかまっていろよ」

「え、えぇ……」

顔を赤くしながらも祐一にギュッとしがみつく

「…………」

「どうかした、相沢君?」

「そんなにしがみつくと……い、イヤ……なんでもない。そ、それより香里、どこの病院だ?」

香里の案内によると栞が入院しているのは、先日秋子達が診察を受けたあの病院だった。


病院の駐車場にバイクを止めると香里と一緒に病院の中へと入っていく。この街では一番大きな総合病院であり、本来なら
病院スタッフや入院患者、外来の患者であふれかえっているはずだが、診察時間も終わりに近いのか人々の姿は疎らだった。

「こっちよ」

香里が先に立って歩いていく。何度も訪れているせいかその歩みに迷いはなかった。途中、エレベーターを使い病室のある階
へとあがる。エレベーターを降りた先にはスタッフステーションがあり、顔見知りらしい看護師が香里に声をかけた。

「あら、香里ちゃん」

「こんにちは」

「妹さんのお見舞いね……あら、そっちの彼はひょっとして香里ちゃんの彼氏? 栞ちゃんに自慢するつもりなの?」

「え……ち、違います! か、彼は……その……」

普段のクールビューティーな雰囲気は無く、しどろもどろになる香里に代わって祐一が「友達です」と説明した。
一応は納得してくれた看護師と挨拶を交わしてから栞の病室へと向かう。
栞の病室がある廊下に来たときだった、病室から出てこちらに歩いてくる一人の少女と出会った。
軽くウェーブした髪を肩口辺りまで伸ばしたその少女は祐一達の学校の制服を着ており、ケープのリボンは緑色、一年生だった。

その少女が自分の知り合いだと分かった香里が声を掛ける。

「あら、美汐さん」

「こんにちは、香里さん」

美汐と呼ばれた少女は立ち止まり、頭を下げて丁寧な挨拶をした。

「栞のお見舞いに来てくれたの? いつも悪いわね」

「いえ、友達ですから……そちらの方は?」

祐一に気がついた美汐が尋ねてきた。

「香里のクラスメイトで最近転校してきた相沢祐一だ。よろしくな」

「相沢さんですか、私は天野美汐と申します。以後お見知りおきを」

今度は祐一に向かって、やはり礼儀正しく頭を下げた。その雰囲気につられてか祐一も軽く会釈をした。美汐の顔を見た
祐一は、彼女のどこと無く寂しげな顔が気になった。

「美汐さん、よかったらもう少し居ない?」

「いえ、今日はこれから用事がありますので失礼します。栞さんに宜しくお伝え下さい」

引き止める香里にそれだけ言うと、美汐は三度頭を下げて香里達がやってきた方へと歩いていく。やがて姿が見えなくなった頃
祐一が美汐の印象をーー寂しげな表情の事は言わずにーー香里に語った。

「随分と礼儀正しい子だな。イヤ礼儀正しいというか……なんかこう、オバサン……」

「相沢君。その先は言わないほうがいいわよ、特に本人の前ではね。『物腰が上品』だと言ってあげて」

祐一が何を言わんとしたのか察した香里が釘を刺してきた。だが祐一も負けてはいなかった。香里が何故素早くそんな
事を言えたのか察した祐一はニヤリと笑うと反撃を開始した。

「ほほぉ、随分早い反応だな? さては香里もあの天野って子に同じ印象を持っているんだな?」

「……ノーコメントよ」

一筋汗を流しつつ、香里は祐一から逃げるようにして栞の病室へ歩いていった。
入室患者を示すプレートに『美坂 栞』と書かれた病室のドアの前にきた香里がノックをすると、中から「はい、どうぞ」
という声が聞こえた。

ガラガラ

「栞、具合はどう?」

そう言いながら入っていく香里に続いて、祐一も「失礼します」と断ってから病室に入った。個室となっているその病室は
洗面所や簡単な入浴施設も整っていた。室内は落ち着いた色合いの内装で統一されており、ベッドが一つあってそこに
一人の少女ーー栞ーーが寝ていた。

「あ、お姉ちゃん。来てくれたんですね」

そう言って栞は起き上がって布団の上においていたストールを羽織る。身体の動きにあわせて肩口で切り揃えられた髪が揺れた。

「調子はいいみたいね」

「はい。えっとこちらの人は……」

祐一に気がついた栞が香里に尋ねようとしたが、それは途中で止まった。その青年に見覚えがあったから。祐一もまた驚いていた。
その少女の容姿に、ストールに見覚えがあったから。

「正義の味方さん!」

「雪だるま女!」

お互いを指差して呼び合った。

「運命の再会です……って、何ですかその「雪だるま女」って? せめて「あの時の美少女」って呼んでくださいっ」

「いやぁ、だって……なぁ?」

「そんな事言う人嫌いです」

「ちょ、ちょっとあなた達! 知り合いだったの!?」

一人取り残されていた香里が叫ぶと二人は一先ず言い合いを止めて、祐一が知り合った経緯を説明する。

「そう……そんな事があったの」

納得した香里だったがすぐに表情を改めて、栞を叱った。

「でも栞、なんでそんな時間に外に出歩いているの!」

「えぅ! だって……最近は身体の調子もよかったし……」

「だからって……」

「ま、まぁいいじゃないか。こうして元気になりつつあるんだし……えっと」

二人の仲裁に入った祐一だが、ちゃんと自己紹介をしていない事に気がついた。察した栞がこれ幸いとばかりに祐一に
自己紹介をする。あの夜の時とは違って元気そうに挨拶した。顔色も幾分かは良さそうに見える。

「えっと、美坂栞といいます。私の事は栞って呼んでください。高校一年生の15歳、2月1日で16歳になります。
 好きな食べ物はアイスクリームです」

「相沢祐一だ。最近転校してきた香里のクラスメイトだ。俺の事も祐一でいいぞ」

「では祐一さんって呼びますけど……祐一さんってひょっとしてお姉ちゃんの恋人ですか?」

「な!? 何言ってるの、栞! か、彼は……クラスメイトよ! 最近転校してきた名雪の従兄妹よ!!」

「でも、お姉ちゃんが男の人を連れてきたのって初めてだし、お姉ちゃんの事呼び捨て……名雪さんの従兄妹さんなんですか?」

香里から聞いた「名雪の従兄妹」という言葉から連想される印象と目の前の祐一がもつ雰囲気との違いに言葉を失う。

「本当に?」

「ああ、そうだぞ」

栞の態度に納得出来るような出来ないような……釈然としないものを感じつつも祐一が肯定する。

「お姉ちゃん……」

「分かるわ、栞……余りにも違うものね。でもね栞、しばらく彼と接していれば「やっぱり名雪の従兄妹だ」って
 実感できるわよ」

「どういうことだ?」

「言葉通りよ」


                         ★   ★   ★


その頃、病院から離れた学校のグラウンドでは……

「くちゅん!」

名雪が可愛らしいクシャミをしていた。

「う〜」

「あら? 水瀬さん、風邪でもひいた?」

それに気づいた部活の友達が話しかけてきた。

「う〜ん、そうかな?……くちゅん!」

「ひょっとして誰かが噂してるんじゃないの? 水瀬さんもすみにおけないよね〜」

どこかからかうような話し振りに、名雪は照れていた。

「え? そ、そうかな? そんな事ないよ〜。(でも、祐一が噂していてくれたら嬉しいな)えへへ〜」

「水瀬……さん?」

「えへへ〜〜」

名雪は幸せそうな顔だった。因みに、その顔のまま後片付けをしていたので部員達には引かれていた。


                         ★   ★   ★


病室で話していた姉妹だったが、栞が姉の持っている箱が気になって期待に満ちた目で質問した。

「お姉ちゃん……その手に持っているものは……」

「えぇ、百花屋のバニラアイスよ」

期待通りの答えが得られた栞は満面の笑みを浮かべた。

「嬉しいです。お姉ちゃん大好きです」

「はいはい……今日のは秋子さんからよ、会ったらお礼を言っときなさいね」

「そうですか、わかりました。早速食べましょう」

「今すぐは駄目よ、もうすぐ夕食の時間でしょ。食べるならその後でさらに医者の許可が出てからにしなさいね」

香里はベッドの脇に置かれた冷蔵庫の上の戸ーー冷凍庫ーーを開けてアイスを閉まった。

「そんな事言うお姉ちゃん嫌いです」

「あなたねぇ……」

文字通り、掌を返したように変わる姉への評価に香里は呆れるしかなかった。

「あ、お姉ちゃん。美汐さんに会いました? さっきまで来てくれてたんですけど」

栞が先程会った少女について聞いてきた。

「えぇ、さっき廊下であったわよ。用事があるとかですぐ帰ったけど。宜しく伝えてくれって、名雪達も宜しくって」

「美汐さん、最近元気が無いんです。飼っていたペットが居なくなったとかで……」

そういった栞の顔も寂しそうになる。祐一は、先程美汐が見せていた表情の理由を悟った。

「(それであの子は……)」

「そうね……何か力になれることがあったら協力するわ。だから栞は心配せずに良くなることを考えなさい。退院出来る
 かもしれないんでしょ?」

親友の事を気にしている栞に、香里が慰めるように優しく声をかけた。栞の方も退院が嬉しいのか明るく答えた。

「はい、このまま行けば近いうちに退院出来そうなんです。そしたら遊びにも行けます」

「でも、完治するまでは無茶な事は駄目よ」

「う……百花屋でアイスを食べるならいいですよね?」

「まぁ、それくらいなら」

「デートとかも出来ますよね!?」

「あまり無茶な……って、相手はいるの? デートって一人で出来るものじゃないのよ?」

「えぅ……お、お姉ちゃんだっていないじゃないですか」

「う……私の事はいいのよ! と、とにかく、相手もいないあなたがデートなんて考えなくていいのよ」

「うぅ……そうだ、相手ならいます! 祐一さん!」

今まで姉妹の仲の良さを感じさせる会話をただ聞いていた祐一に、栞が話を向けてきた

「ん、何だ?」

「祐一さん、私が退院出来たらお祝いにデートしてください。祐一さんは運命の人です、今決まりました!」

「栞、何言ってるの。いきなりそんな……」

「別にお姉ちゃんの恋人ってわけでもないんですよね? だったらいいじゃないですか。ね、祐一さん」

「今日会ったばかりでしょ?」

「先日会いました。それに時間なんて関係ありません『一目会ったその日から、恋の華咲く時もある』って言うじゃ
 ないですか。ね、祐一さん」

焦る姉と必死に訴えてくる妹の様子に苦笑しつつ、祐一は了承した。

「まぁデートかどうかはともかく、何処かに遊びに行くくらいならいいぞ」

「はい、ありがとうございます……夜の病院で出会ったカッコイイ人と美少女はやがて恋に落ちるんです! そして……」

両手を胸の前で組み合わせ、やや上に目線を向けながらなにやら妄想の世界に入った栞を見た祐一は、額に汗をかきつつ
香里の隣へ行く。

「なぁ、香里。お前の妹って……」

「相沢君。栞はね、入院生活が長かったの。それでTVや本を読んでいる事が多かったんだけど……恋愛物ばかり見ていた
 せいかそういうものに凄く憧れているのよ」

「そういえば、初めて会った時も「ドラマみたいです」とか言ってたな」

会話する二人の横で栞は

「やっぱり夜は夜景の綺麗なホテルのラウンジで、ワイングラス片手に愛を語らうんです……そして二人は一緒の夜を……」

いまだ妄想に浸っていたがそのままにしておくわけにも行かず、なんとか栞を現実に戻した。
その後も主に祐一に関する話題がでたり(祐一の家族の事件は話さなかった)、姉妹の事を話したりと時間が過ぎていった。
面会時間も終わりに近づいており、香里達は帰ることにした。

「もう時間ね、そろそろ帰らないと……じゃあ栞、また来るからね」

「またな、栞」

「はい。また来てくださいね、祐一さん…………と、お姉ちゃん」

「……相沢君、もう来なくていいわ。アイスも持って帰るわね」

「ほんの軽い冗談じゃないですか〜」

「ふふふ。とにかく、幾ら調子が良いからって出歩いてちゃ駄目よ」

「はい」

香里はもう一度「それじゃあね」と言って病室を出て、祐一も軽く挨拶をして香里に続いた。
途中、看護師に挨拶をした二人は、並んで病院の廊下を歩いていた。

「明るい妹だな。最初会ったときは、もっとおとなしい感じの子だと思ったんだけどな」

「あれが本来のあの子よ」

会話の中心は、やはり栞のことだった。色々なことを話していく。

「昔から時々病気をしていたけど必ず入院する程じゃなかったわ。でも何年か前から容態が悪くなってきて入退院の繰り返しなの」

「今日騒いだ事で容態が悪くなったりしたら申し訳ないな」

「大丈夫よ。最近は本当に良い状態が続いてるから」

「なら良いんだが」

「……ありがとうね、相沢君」

「お礼を言われるような事はしてないぞ?」

「今日あの子があんなに元気だったのは貴方のお蔭よ。あんな栞を見たのは本当に久しぶりなの……だから、ありがとう」

香里も先程の栞に負けない位の嬉しそうな顔で礼を言った。

「ふふ、流石は『正義の味方』ね」

「う……今考えると我ながら恥ずかしい事を言ったもんだ」

「いいじゃないの、カッコイイわよ……ドラマみたい」

「ぬぅ、姉妹揃って同じ台詞を言うか」

外に出るとすっかり日が落ちており、辺りは暗くなっていた。常夜灯があたりを照らす。

「今日は助かったわ。ありがとうね」

「いいさ。ところで帰りはどうするんだ?」

「いつもは、タクシー使ってるんだけど……」

「わかった……送っていくよ」

香里は何か言いたそうな目をしていた。それの意味するところを察した祐一は苦笑しつつも、了承する。もっとも香里が
何も言わなくても祐一はそうするつもりだった。

「こうなったら、最後まで面倒見ないとな……バイクを持ってくるから待っててくれ」

「ありがと」

その後祐一は、香里を家まで送り届け水瀬家に戻った。祐一が帰る頃には名雪も帰宅していて、暫くして夕食になった。

「祐一さん、栞ちゃんの様子はどうでした?」

気になっていたのか、夕飯の時に秋子が尋ねてきた。

「えぇ、調子は良いみたいですよ。退院できるかもって言ってましたから……それにアイスのことも凄く喜んでましたよ」

「そうですか、それはよかったです」

祐一の話を聞いた秋子も名雪も我が事のように喜んでいた。


それから数日後の早朝、祐一は歩いて登校していた。

「嗚呼……朝こんなにゆったりとした気分で登校できるなんて……」

祐一はしみじみと呟いた。今日は珍しく名雪が早く起きてくれたので余裕を持って家を出られたのだ。

「だが、これが本来の登校の在り方なんだよな〜」

「う〜祐一、酷いこと言ってない?」

「そんな事ないぞ。ただこれからもこんな日が続いてくれたらな〜と思っているだけだ」

周りには同じように登校する生徒達も見受けられた。だがその生徒達は祐一達を見かけると途端に焦りだし、時計を確認
する者、慌てて走り出す者など様々だった。

「あれは……水瀬先輩!? やばい、遅刻か!?」

「嘘だろ! 今朝ちゃんと時間は確認してきたのに……急げ!」

「時計が狂っているの? それともまだ私は寝ているの?」

どうやら名雪の遅刻ぶりはクラスのみならず、学校中に知れ渡っているようだった。

「名雪……お前ってやつは……」

「みんな酷いよ〜」

周囲の反応を見るにつけ、祐一の朝の晴々とした気分は一気に霧散してしまった。

「名雪!? 嘘でしょ!? こんな時間に……」

突然後ろからそんな驚きの声が聞こえた。振り返ってみれば、まさに「信じられない」という顔をした香里が立っていた。

「そんな……私は夢を見ているの?」

「う〜、香里酷いよ。私だってちゃんと起きるときだってあるんだから」

親友のあまりの言い草に名雪が頬を膨らませて抗議する。もっとも可愛らしい顔立ちの為に全く迫力は無かったが。

「夢じゃないぞ、香里」

「よかったわ。折角栞が退院できたっていうのに、夢だったらたまらないわ」

それを聞いた香里が安心する。また「栞が退院」というのを聞いて祐一達も驚いていた。

「退院したのか。それで、今はどうしているんだ?」

「後ろに居るわよ」

香里に言われるまま、そちらを見ると制服姿の栞が立っていた。

「おお、栞。いつからそこに?」

「酷いです。最初からいました」

栞も名雪のように抗議をするが、やはり可愛らしい顔立ちの為に全く迫力が無かった。
 
「いやぁ、制服姿の栞を見るのは初めてだからな」

「まぁ、いいです。それより祐一さん、名雪さん。おはようございます」

まだ挨拶をしていない事に気がついた祐一達はそれぞれ挨拶を交わしてから、一緒に登校していた。栞は嬉しかった、好きな
姉と約一月ぶりに登校できるのだからいつにも増して明るかった。香里もまた本当に嬉しそうに笑っていた。

「そういえば、この学校って舞踏会があるんですよね。楽しみです」

唐突に栞がそんな事を言い出した。初耳だった祐一もその話題に乗った。

「ほぅ、ぶとう会か。それはまた……」

「相沢君、分かってると思うけど戦う武闘会じゃないわよ」

祐一が何か言おうとするより先に香里の指摘が入った。自分の言わんとしたことを見透かされた祐一は惚けるしかなかった。

「ハハハ、シッテイルサ……」

「祐一さん……」

「祐一……」

「相沢君……」

三人の言いようの無い視線に耐えられなくなった祐一は強引に話を進める事で逃げた。

「そ、それにしてもこの学校はそんな事をするのか」

「えぇ、生徒会が主体になって運営するのよ。体育館を使ってね。飾り付けや料理、演奏なんかも生徒中心で行うわ」

「それにね〜、参加する生徒は全員ドレスやタキシードで盛装するんだよ〜」

「ほう、本格的だな」

香里と名雪の説明を聞いて祐一も多少は興味が出てきたので話を続けた。

「名雪達は去年は参加したのか?」

「ううん」

「参加してないわ」

あれだけ詳しく説明したのだから参加していると思ったが帰ってきた答えは否だった。

「どうして?」

「だって、私踊れないし……ドレスは……お母さんに言えば用意してくれたかもしれないけど」

「興味なかったからよ」

それぞれ不参加の理由を言った。

「ふ〜ん、俺は興味あるし参加してみようかな」

祐一の何気ない一言だったが、それを聞いた名雪たちは目を輝かせた。

「ゆ、祐一……参加するの?」

「ん? あぁ、まだ決めたわけじゃないけどな」

「あ、相沢君……踊れるの?」

「ああ、一通りはマスターしているぞ」

祐一は海外に居た頃、同じように学校主催のダンスパーティーに参加した事もあり、また、なぜかこの方面にやたらと
詳しい母親にみっちりとしごかれていた経験があった。

「じゃ、じゃあ祐一さん。私も参加しますからゼヒ私と踊ってください」

栞が意気込んで祐一に言う。香里達も声にこそ出さないがその目が「私とも踊って!」と語っている。

「踊れるのか?」

「「「教えて(下さい)!」」」

今度は三人揃って声をだす。その迫力に後退しつつも、祐一はなんとか答える。

「ま、まぁ空いてるときにでもな。秋子さんも踊れるだろうからそっちでも教わってくれ」

推測ではあるが、母の妹である秋子もダンスはできるだろうと踏んでいた。

「それにしても楽しみだなぁ……香里達のドレス姿」

「はい。祐一さん、楽しみにしててくださいね」

「栞か……う〜ん……」

姉妹の身体つきを頭の中で比較しながら祐一が呟く。

「……そんな邪で失礼な事を考えている人嫌いです」

そんな事を話しているうちに学校につき、それぞれの教室へと向かう。その後も昼食時には栞が退院祝いのデートを
祐一に迫り、名雪達が慌てるなど騒がしかった。



ある日の昼休み

「なぁ、栞」

「なんですか? 祐一さん」

「なんでこんな寒い中でアイスを食べているんだ? しかも外で」

「私、バニラアイスが好きですから」

「そういう問題か?……ってまだ食べるのか? しかもそれ、何処から出した?」

「ポケットですよ」

「……(四次元?)」




帰り道で

「栞の趣味は絵を描くことか」

「はい、これが最近の自信作です……祐一さん、何で身構えるんですか?」

「あ……いや、その……なんと言うか、随分と前衛的な絵だな。で、これは何の絵だ?」

「お姉ちゃんです」

「……(怪人・わかめ女?)」

「祐一さん、どうしました?」

「これ……香里には見せたのか?」

「はい、そしたらお姉ちゃん凄い剣幕で怒り出して……何故でしょうか? 自信作だったのに」

「…………」



商店街のゲームセンターで

「…………」

「初めてみたな、もぐら叩きで0点というのは……」

「そんな事言う人嫌いです」




騒がしくも平和で楽しい時間が過ぎていった。




続く




後書き

こんにちは、梅太呂です。

ライダーMRS 12話をお届けします。

今回から新しい話です。話の導入部なのでのんびりした展開ですがご了承くださいm(_ _;)m

それはさておき(ぇ、前回登場した謎の美少女は栞でした(バレバレ^^;)

さて、このあとの展開ですが…………どうしよ(汗)……い、一応プランはあるんだっ……ほ、ホントデスヨ……

な、なんとか書き上げていこうと思ってますので、物凄く長く、かつ温かい目で見守っていただけたら幸いです。

今回は短いですがこの辺で。

次の話もなるべく早くに投稿できるように頑張ります。

最後に

この作品を掲載してくださった管理人様

この作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにさせていただきます。

ありがとうございました。

では。                                うめたろ





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