「祐一さん……ちょっといいですか?」

疲れた表情をしながらも秋子はしっかりとした声で祐一に言った、まるでなにかを決意したかのように。

「……はい」

秋子の様子から大事な話だと推察した祐一は、秋子の反対側のソファーに座って、秋子が話し出すのを待った。

「祐一さん、単刀直入に聞きます……貴方が仮面ライダーなんですね?」

「!!」




               Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                       第十一話               





「貴方があの蝙蝠男と戦い、私達を救ってくれたんですね」

「そうなんでしょ、祐一? 私もそんな気がしてたから……」

やはり秋子は見破っていた。だが祐一はそれを認める訳にはいかなかった。カマをかけているかもと思いあくまで違うと
言おうとした。

「秋子さん……」

「貴方が何故その事を隠そうとしているのかは知りません、ですが」

秋子は祐一が何か言おうとするのを遮って話を続けた。

「仮面ライダーと名乗る人が乗っていたバイク。サイクロンと呼んでいましたね、私はあれを知っていますから。あれは
 健吾さんが造ったバイクです……そして祐一さん、貴方が「使わせて欲しい」といったあのバイクの別の姿です」

「何故、それを?」

そこまで知られては隠す事など出来なかった。いわれてみればそうだった。サイクロンはこの家で造られた筈だ。
秋子が知っていてもなんら不思議は無かった。さらに秋子は驚くべき事を告げた。

「だって……造り上げたのはあの人ですが、サイクロンの設計をしたのは私ですから」

「秋子さんが!?」

「はい、これでも機械は得意でしたので。尤も最初は普通のバイクとして設計したのですが」

秋子は昔を懐かしむように喋っていた。




『健吾さん! このバイク、何時の間にこんな性能になっているの!?』


『いやぁ、つい……な。ハハハ』


『つい。って……こんな性能のバイク、誰が乗りこなせるっていうの? 最高時速500キロよ?』


『……正義の味方のヒーローとか? ほら、ヒーローにマシンって付き物だし』


『何処にいるんですか?』


『う…………だって……こんなスーパーマシンを造ってみたかったんだよぅ!』


『はぁ……何を子供みたいな事を……(でも健吾さんらしいわ)……仕方ないわね』


『おお、さすが我が愛すべき妻よ! 分かってくれたか。早速だが手伝って欲しい所が……』




「(健吾さん……)」

「秋子さん……」

「あのサイクロンの事を知っているのは健吾さんと私だけです。あれは世界に一台しかない物です。
 それを祐一さんと仮面ライダーが乗っている……」

「違いますか?」と秋子は話を締めくくった。次いで話を引き継いだのは名雪だった。

「あのね、祐一……上手くいえないけど同じなんだよ。その、昨日祐一に乗せてもらったバイクと今日乗ったサイクロンと
 なんか同じに感じたんだよ。あとね……なんか、祐一と仮面ライダーが同じだって感じたの……」

名雪は理屈や推理したわけでもなく、ただ直感で祐一がライダーではないかと感じていた。

「秋子さん……名雪……たしかに、俺が仮面ライダーです」

とうとう祐一は認めた。自分がライダーであると。

「私達は知りたいんです。祐一さん、一体貴方に何があったんですか? 何故仮面ライダーと名乗ってあんな事を?
 あの蝙蝠のバケモノは一体? それに……あの人について何か知っているんじゃないですか? 話してほしいんです、全てを」

「お願い、祐一……」

秋子は一気にまくしたてた。健吾の失踪を初めとする、これまでに起こった様々な出来事。全ては目の前の甥が語ってくれると
確信していた。祐一もまた、ついに話す時が来たのを悟っていた。話さなければならない時、それは今だと。

「……解りました、全て話します。ちょっと待っていてください」

そう言うと祐一は2階に上がって自分の部屋に入った。そして机の引き出しの奥から小箱を取り出して中身を取り出す。
それは、あの時託された健吾の指輪だった。

「健吾さん……」

それをポケットにしまうと、秋子達のところに戻った。

「お待たせしました」

先程と同じように秋子達と向かい合う。

「全てを話します……ただ、二人には辛い話になりますが」

それだけ前置きしてから祐一は話し始めた。



自分が偶然カノンという組織の研究員を助けて、それにより捕まってしまったこと。

カノンは悪の組織で、様々な兵器や改造人間を作り出している事。

そして、そこで健吾に会った事。


「健吾さん、あの人が居たんですか!? それで今は何処に? 無事なんですか!?」

「お父さんは!? ねぇ、祐一!」

大人しく話を聞いていた秋子と名雪が突然身を乗り出して聞いてきた。だが祐一は落ち着いたままで残酷な真実を告げる。

「健吾さんは……亡くなりました。カノンに殺されたんです」

「「え…………」」

二人は祐一の答えを聞くと動かなくなった。そして徐々に祐一の言葉が理解できる。

亡くなった…………死んだ…………殺された?

理解できると、ふらふらと先程まで座っていたソファーに再び、崩れるように座った。

「なぜ……」

その言葉しか出てこなかった。健吾が失踪して以来様々な憶測や心無い噂が秋子達の耳に入ってきた。その中には勿論
健吾の死亡を伝える物も含まれていた。だが秋子はそんな話は信じなかった。絶対健吾はどこかで生きていると信じていた。
実際健吾は生きていた。だが……死んでしまった。何故、どうして?

「なぜ……」

言葉を繰り返す。祐一は二人とは目を合わせずに、俯いたまま話を続けた。

健吾に会った後に自分が瀕死の重傷を負った事。

その自分を救うために健吾が自らの手で自分を改造人間、即ち仮面ライダーに改造した事。

カノンのアジトから脱出の際に健吾が殺された事。


それだけを言うと祐一は秋子達に目を向ける。

「そんな……あの人が…………祐一さん……なぜ……あの人は……」

「…………」

秋子は自分の感情を整理できなくなっており、名雪に至っては喋る事を忘れたかのようにただ黙って座っていた。
そんな二人に話を続けるのは酷だったが、祐一は健吾の最後の様子を秋子達に告げねばならなかった。

「そして……」

一通り話し終えた祐一はポケットから指輪を取り出した。

「これを渡して、最後に「すまなかった」と……」

指輪を秋子の前に置いた。秋子は目の前に置かれた物が何かわかると震える指でそれを掴み、眼前に持ってきた。

「これは……あの人の……」

大きさこそ違うが、自分が普段肌身離さず着けている物と同じ結婚指輪だった。秋子は指輪を握り締めると…………


泣いた。

「う、うう……うわああああああああああぁーーーーーーーーーーーっ!!!」

嗚咽を堪えることなく、湧き上がる感情に身を任せてただ泣き続けた。祐一は、秋子のこんな姿を見るのは初めてだった。
祐一の記憶にある秋子は何時だって優しく微笑み、祐一は子供心に強い女性(ひと)だと思っていた。先日の祐一の家族が
死んだ時も、涙こそ見せたが悲しみを堪えて気丈に振舞っていた。その秋子が今は祐一の目の前で子供のように、
涙を拭おうともせずに泣きじゃくっていた。

秋子の慟哭が水瀬家のリビングに響いていたが、それも暫くすると収まった。

「うう……わ、わたし……は」

涙を拭おうともせず、時折嗚咽に声を詰まらせながら秋子が喋りだした。

「わたし……は、どう、したら……どうしたら、いいんですか?」

「秋子さん」

「あの人が……そ、そんな……事を……していた、なんて。それに……ゆ、祐一さんの……身体を……うぅ…………私は、
 何をしたら、いいんですか? 祐一さんに、何と言ったらいいんですか?」

最愛の夫の死。それに祐一の身体の事。どちらか一つでも秋子の心に深刻なダメージを与える。それが同時に
降りかかったために、秋子の心は壊れてしまいかねなかった。

秋子には健吾を恨んだり憎んだりする事は出来なかった。彼が罪を犯していたなら共に償う、そう考えていた。それほどまでに
夫を愛していたから。だが如何すればいいのか? 目の前の祐一にどんな謝罪の言葉を言えばいいのか?
「ごめんなさい」「許してください」……そんな言葉では足りない気がした。

「何も……」

「え?」

「何も言わなくていいですよ、秋子さん」

「祐一さん?」

祐一の優しい態度と言葉に秋子は戸惑った。自分達家族を罵倒してくるのではないか? そう思ったから。

「健吾さんは言ってました。『私はどうされようとも構わない。だが二人は……秋子と名雪は許してやって欲しい。
 二人は何も知らない事だ。何の関係も、罪も無い』と」

「じゃあ、あの人を……?」

「いえ。確かにこんな身体になった事は悲しいですけど、俺は健吾さんを恨んでなんていませんよ。勿論秋子さん達を
 責めるつもりもありません」 

「……本当?」

口を開いたのは今まで黙っていた名雪だった。祐一をしっかりと見据えて話している
    
「本当にお父さんの事恨んでないの?」

「ああ」

「じゃあなんで……なんでお父さんの事助けてくれなかったの!? 祐一は仮面ライダーなんでしょ、強いんでしょ!?
 私やお母さんは助けてくれたじゃない! なんで……やっぱりお父さんの事恨んでいたの? だったら私も謝るよぉ……
 だから……お父さんの事、助けて欲しかったよぉ……うぅ……」

「名雪……俺は……」

健吾を恨んで見捨てたわけでは無かった、最後まで助けようとした。だが結果として健吾の命を救う事は出来なかった。
その事が祐一に重く圧し掛かった。

「すまない……」

「え?」

「祐一さん?」

祐一が頭を下げた。その突然の行動に名雪も、そして秋子までもが驚いた。

「すまない……健吾さんの事を恨んで見捨てたわけじゃない。だが結果として健吾さんを助けられなかった。それに自分の
 家族も護れなかった。これだけの力がありながら……」

「祐一さん、じゃあ姉さん達は……」

「はい…………カノンに殺されました。通り魔の犯行じゃなかったんです」

またしても明らかになった事実に秋子も名雪も再び言葉を失う。

「今日だって……蝙蝠男に殺された人達を救うことが出来なかった……」

自分を責める祐一を見て、名雪は激しく後悔した。父を見捨てた? そんな事があるはず無い!
小さい頃、自分も逃げ出したいのを堪えて野良犬から守ってくれた。今日もまた蝙蝠男から守ってくれた。
そんな祐一に自分は何を言った? 父を失った悲しみのあまり自分を見失っていた。
名雪は、祐一が嘘をついているとは考えなかった。昔から自分をからかうことが多かったが、こんな嘘を言う祐一では
ないと知っていたから。

「……ごめん」

「名雪?」

「ごめんなさい……祐一だって頑張ってくれたんだよね。それなのに私は……祐一を責めるような事言ってごめんなさい
 祐一だって……ううん、祐一の方が、辛い……はず、なの……に……うぅ……ヒック……ごめんなさい……」

後は言葉にならず、名雪は泣き続けた。

「無力な俺だが、この戦いをやめる訳にはいかないんだ。健吾さんとも約束したんだ。カノンと戦いヤツらを滅ぼすと。
 秋子さんと名雪を守ると」

確かに自分がいかに強い人間であろうとも全ての人を救うことは出来ない。だが、自分が戦う事で救える命もあるはずだ。
戦わなければその命すらも失われてしまう。だから自分はこの力を使う、と祐一は決意した。

「……それから後の事は秋子さん達も知っての通りです。今まで話せなくてすいませんでした」

そう言って祐一は話を終えた。祐一が話し終えると、秋子が確認するように質問した。

「……祐一さん。貴方が以前から言っていた『やらなければいけない事』というのは、そのカノンという組織と戦う
 事なんですね?」

「はい」

「私は……いえ、私達は何をしたらいいんですか? 祐一さん、貴方の為に私達は何が出来ますか?」

「そうだよ……私だって祐一の為に何かしたいよ……」

秋子も名雪も祐一の力になりたいと言った。その想いは祐一にも伝わってきた。

「何も……何もしなくていいんですよ」

「え?」

「そんな事は考えなくていいんですよ。俺は秋子さんにも名雪にも責任を負わせるつもりはありませんから」

祐一はそう答えたが、秋子は納得しなかった。

「祐一さん……責められるより、赦される事のほうが辛い時もあるんですよ。祐一さんが責めなくても自分で自分を赦せない
 んです、あの人もそうでしょう。ですから私はあの人が犯してしまった罪、それを少しでも償おうと思います。
 だって……家族ですから」

「秋子さん……」

「それに私は今、カノンに復讐したい気持ちなんです……おかしいですね。前に祐一さんには『復讐なんていけませんよ』
 と言ったのに……私に出来る事があったら教えて欲しいんです」

秋子は真剣だった。だが祐一は秋子達を復讐に駆られるままにしておく事は出来なかった。

「だったら……普段通りでいてください」

「祐一さん?」

「秋子さん、自分で言ったでしょ? 『復讐しようなんていけない。生き残った人は死んでしまった人の分まで生きるんだ』
 と。そうしてください」

「祐一……」

「名雪だって言ったろ? 『もし何かあったら悲しい』って。俺だってそうだ、それに健吾さんだって悲しむ。健吾さん
 は言ってたよ『秋子と名雪には幸せに暮らして欲しい』と…………カノンとは俺が戦います。でもそれは
 『相沢祐一』としてではなく『仮面ライダー』として戦います。復讐する為ではなく、救える命を救う為に。
 復讐の気持ちが無いわけじゃありません。でもそれだけじゃ救えない命もあります。だから俺は皆が平和に暮らして
 いける為に、人間の自由の為にカノンと戦います。『仮面ライダー』として」

「私達は……」

「だから二人には……二人には俺が『相沢祐一』としていられる場所を作ってほしいんです。俺のことを家族だと言ってくれた、
 本当に嬉しかった。今でも俺の事を家族だと思ってくれるならそうしてください。いつもの明るい名雪でいて欲しい。
 いつもの優しくて強い秋子さんでいて欲しい」

祐一は秋子と名雪を見つめる。名雪は何も言わず、秋子は……寂しげに笑った。

「祐一さん…………私は、貴方が思っているような強い女じゃありませんよ……」

「秋子さん?」

「私は弱い女なんです……あの人が居なくなったとき、私は悲しみにくれました。どうしたらいいのか分かりませんでした。
 お酒に溺れて全て忘れようともしましたし、誰でもいいから男の人に身を任せてしまおうか、とも考えました……ただ
 そうしなかったのは、あの人がいつか必ず帰ってきてくれると信じていましたから。それに、娘が……名雪がいましたから」

そう言いながら秋子は隣に座っている名雪の肩を抱きしめた。名雪は秋子に抱かれるままにしていた。

「お母さん……」

「この事を支えにして、なんとか祐一さんの言う強い女を演じていたに過ぎないんですよ。でも、もう健吾さんはいない……
 もぅ、私は……」

名雪の肩を抱いていた秋子は今度は縋りつくように、娘の肩に顔をうずめた。

「秋子さん……まだ俺を家族だと言ってくれますか? 名雪も……どうだ?」

祐一の独白にも似た呟きは、だがしっかりと秋子達に聞こえた。

「え?……はい、勿論です」

「う、うん。当たり前だよ」

「だったら……支えますよ。俺は健吾さんの代わりにはなれませんが、それでも二人の心の支えになりますよ。だって支え
 あってこその家族でしょ?」

「……うん、そうだね」

名雪が祐一の言葉に強く頷く。そして今度は逆に、名雪が母の身体を抱きしめた。

「私だってお母さんを支えるよ。祐一より頼りないけど……でも、私はお母さんの支えになっていたんでしょ? だったら
 今まで以上に頑張るから。お母さん、ふぁいとっ、だよ!」

「祐一さん……名雪……」

顔をうずめていた秋子は、祐一と名雪の顔を交互に見る。二人とも穏やかに微笑んでいた。

「秋子さんが強い女を演じているだけの弱い女だというのなら……演じ続けて下さい」

「祐一さん……」

「酷い事を言ってるかもしれません。でも、秋子さんにはどんな時でも優しく微笑んでくれる、俺の知っている秋子さんで
 いて欲しいんです……お願いします」

秋子は名雪から離れると、祐一に向き合って言った。

「……分かりました。祐一さんがそう言うのなら。でも、演じ続けることが出来なくなるときがあるかもしれませんよ?」

「その時は、俺を頼ってください。俺も二人を頼りにする時があるでしょうから」

「はい……ありがとうございます」

秋子はそう言って祐一に頭を下げた。そして「ただ……」と話を続ける。

「ただ……今すぐという訳にはいきません。あの人、健吾さんの死を悲しむ時間を下さい……今夜一晩……いいですか?」

祐一に異論があるはずもなかった。自分だって肉親の死から立ち直るのに随分時間がかかった。しかも、未だ完全には
立ち直れないでいる。だからいくらでも待つつもりだった。

「はい」

ふと時計を見れば結構な時間が経っていた。

「今日はもう遅いですから、これからの事を考えるのは明日にしましょう。今日はもう休みましょう」

祐一はそう言うと立ち上がり、2階の自分の部屋へと向かった。勿論自分だって健吾の死は悲しい。だがこの問題は
個人で、或いは秋子と名雪の二人で整理をつけなければいけないと思った。
祐一が自分の部屋の前まで来たとき、名雪が階段を上ってきた。

「祐一……あの……ごめんなさい!」

そう言うと、名雪は深々と頭を下げた。

「お父さんの事で祐一を責めちゃって……本当にごめんなさい」

「名雪、そのことはもういいんだ。健吾さんを助けられなかったのは事実だからな……俺の方こそごめんな。でもまだ俺を
 家族だと思ってくれるなら、俺を赦してくれるなら、秋子さんと同じようにいつもの名雪でいてくれ」

「うん……頑張るよ……今日はお母さんと一緒に寝るね。お休み、祐一」

「ああ……お休み」

名雪は一階へと下りていき、祐一もまた自分の部屋に入り明りもつけずにベッドに潜り込む。身体は疲れ切っていたが
祐一は眠る事もなく、長い時間ただぼんやりと暗い部屋の天井を見つめていた。

「二人とも……大丈夫かな?」

今夜、祐一が話したことは二人の心を壊してしまいかねないものだった。実際あの秋子があそこまで取り乱していたのだから。
もし二人が悲しみのあまり命を……そう思うと居ても立ってもいられずに部屋を出て、一階の秋子の部屋に向かった。
一階の秋子の部屋の近くまでくると、祐一の耳に秋子と名雪の泣き声が聞こえてきた。それに交じってお互いを労わる声も
聞こえてきていた。暫くそうしていたが二人の様子に死ぬという気配はなく、安心した祐一は自分の部屋に戻り
今度こそ睡魔に身を委ねた。


次の日
祐一は目覚ましが鳴る随分前に目が覚めた。服装が昨日のままだった事に気づいたので、着替えを用意してシャワーを浴びた。
蝙蝠男にうけた傷や消耗した体力は回復しており、身体のどこにも変調は無かった。

着替えを終えた祐一がリビングに行くと秋子は起きていて、昨日と同じように朝食の準備をしていたが

「おはようございます、祐一さん……」

「秋子さん……?」

祐一は目の前にいるのがあの秋子だとは一瞬信じられなかった。髪の毛は乱れ、肌に艶も無く、目は充血しており、顔色も
良いとはいえなかった。祐一のそんな態度に気がついたのか秋子が「眠っていませんから」と説明した。
さらに祐一は、秋子の吐く息に微量ながらアルコールの匂いがするのにも気がついた。

「これは……お酒ですか?」

「はい、鏡を見たらあまりにも酷い顔色だったので……」

今朝鏡を見た秋子は、自分の顔色の悪さに驚いた。乱れた髪、充血した目。蒼白ともいえる顔色……こんな状態では
祐一に余計な心配をかけてしまうと思い、手櫛で髪を整えると顔色だけでも回復させようと台所の奥に閉まってあった酒を
飲んだ。

「でも酔う程飲んでいませんし、お酒に逃げた訳じゃありませんから……大丈夫ですよ」

そう言ってくれたことで祐一は安心した。秋子さんはなんとか立ち直ろうとしている。自分は「弱い女」だと言ったが
充分秋子は強い人だと思えた。

「名雪はどうしていますか?」

「名雪は泣きつかれて今はまだ寝ています……あの子も大丈夫ですよ。自分だって悲しいのに私を励ましてくれて……祐一さん
 や私の力になるって言ってくれて……本当に強い子です」

「はい……そうですね」

朝食の用意を終えた秋子は、祐一にこれからの事について話した。

「祐一さん。今日は学校へ行きますか?」

「そのつもりだったんですが、秋子さん達のことも心配ですし……」

「私達なら平気ですから、今日は学校へ行ってください」

「……はい」

「名雪は今日は休ませます。それに私も……今日からお店を再開する予定でしたが、こんな状態では無理なので……」

「わかりました」

昨日の今日で営業再開できるような精神状態ではないだろうし、今の秋子を人前に出すのは憚られた。

「今日は……名雪と二人だけでこれからの事について話し合おうと思います。ですから祐一さん……」

「はい……ただ、秋子さん……」

「大丈夫ですよ」

祐一が何を心配しているのか悟った秋子は、祐一の言葉を遮る。

「祐一さん……私も名雪も死んで責任を取ろうなんて考えていませんから」

今出来る精一杯の微笑で祐一に答えてもう一度「大丈夫ですから」と言った。

「はい……そろそろ学校に行きますね」

時間は多少早かったが祐一は登校することにして、秋子に見送られて家を出た。
随分と時間に余裕があったので祐一は歩いて登校していく。途中商店街を通るときに昨日の惨劇の名残を見ていった。
破壊された店舗や看板、炎上した車の後や被害者の残した血痕……それらがいまだ残されていた。
辺りにはロープで区切られ、制服警官が警備にあたっている。
祐一の他にその場にいた野次馬の話から、この事件は全国ニュース等では火災事故として扱われている事、
事実を知る住民達の間では、これは火事ではなく蝙蝠のバケモノがいて、さらにそれと戦った謎の人物がいた事などを知った。
学校に着いても生徒達の間ではその話ばかりだった。誰が怪我をしたとか、誰の家族が亡くなったとかいう話も聞こえる。
それらの話を耳に入れながら祐一は考えていた。

「(以前戦った蟷螂男は人々を眠らせていたが、蝙蝠男は堂々と姿を晒していた……カノンも本格的に動き出したのか?)」

教室に入った祐一は昨日に比べて生徒の数が少ない事に気づいた。早く来すぎたか? と時間を確認してみたがそんな事は
無く、昨日の一件で欠席者が多いのだろうと思った。祐一が自分の席につくと既に登校していた香里が声を掛けた。

「おはよう、相沢君」

「おはよう、香里」

「名雪はどうしたの?」

祐一と同居している親友の姿が見えないことを疑問に思った香里が尋ねた。

「香里、昨日の商店街の一件を知っているか?」

「えぇ……知っているわ、それがどうしたの?」

「ああ、名雪と秋子さんがそれに巻き込まれてな。今日は休みだ」

「えっ? そ、それで二人は無事なの!?」

祐一の話を聞いた香里は席を立ち、祐一に詰め寄った。

「ああ、秋子さんが捻挫したが大丈夫だ。名雪も怪我はしてない……ただ精神的に、ちょっとな」

名雪たちが事件に巻き込まれたと聞いた時は慌てたが、祐一が大丈夫だというのを聞いて普段の落ち着きを取り戻した。

「そうなの……でも精神的に参っているのなら……心配ね……相沢君は二人に付いているべきじゃないの?」

「ああ……だが、秋子さんに暗に「二人きり」にして欲しいと頼まれてな」

「そう……」

次いで二人は昨日の事件のことを話した。

「でも、本当なのかしらね、あれは火事なんかじゃなくってバケモノが現れて人を襲ったっていうのは? オマケにそれと
 戦った仮面ライダーって人もいるそうじゃない」

「香里は信じていないのか?」

「実際に見たわけじゃないからなんとも言えないけど……でも目撃者もいるんだし、その人達が集団幻覚を見たというのも
 考えられないわね……名雪たちはどうなの、見たの?」

「……あぁ、バケモノも仮面ライダーも両方見たと言ってる……」

祐一が一瞬見せた悲しみの表情は、香里に気づかれる事は無かった。

「そう、だったら信じるわ。名雪も秋子さんもそんな嘘を言う人達じゃないもの……まったくどうなってるのかしらね?
 一昨日の暴走族騒ぎの事といい、今回の事といい……」

その後、担任の石橋がやってきてHRが始まった。石橋は昨日の商店街の一件により休んでいる者が多数いる
ことから今日は臨時休校になることを伝えた。

「そういうわけだから、今日は大人しく家に居るように。以上だ」

石橋が教室を出て行くと、生徒達は早速帰宅しようとする者や友人達と噂話に興じる者で騒がしくなった。祐一は帰宅する
事にした。ああは言ったものの一抹の不安が頭から離れなかったから。

「相沢君」

校門を出た所で、追いかけてきた香里に呼び止められた。香里が来るまで待ち、それから歩きながら会話を続ける。

「ちょっといいかしら?」

「どうかしたか?」

「名雪と秋子さんだけど……これから様子を見に行っても大丈夫かしら?」

香里は純粋に二人の事を心配しているようだったが、今二人はこれからのカノンとの事について話しているはずだ。
それを香里に聞かせるわけには行かないので祐一は断る事にした。

「それなんだが……もう少し落ち着いてからにしてくれないか? まだちょっとな……」

「わかったわ。二人には心配していたと伝えてくれるかしら」

「あぁ。すまんな……そんな訳だから店の再開もまだ先だ」

「仕方ないわよ」

祐一と香里は昨日別れたところまでやってくるとお互いに挨拶してそれぞれの家に帰っていった。途中商店街を通って
行くが登校時とあまり変わるところは無かった。相変わらず野次馬の姿も見え、中には祐一の学校の女子生徒の姿もあった。

「ただいま」

「おかえりなさい、祐一さん」

祐一が帰宅すると、秋子が今朝よりは幾分か回復した顔色で出迎えた。

「随分と早いですけど、学校は?」

「今日は臨時休校だそうです。HRでそう言われて……まだ何処かで時間をつぶしてきた方がいいですか?」

早く帰ってきたので、まだ秋子達の話が終わっていないだろうと思って祐一が尋ねるが秋子は首を振った。

「いえ、大丈夫ですよ……祐一さん、上がってください」

秋子に促されてリビングへいくと、既に名雪も起きていてソファーに座っていた。名雪もまた疲れた顔をしていたが
祐一を見ると微笑んだ。

「名雪、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

「香里が二人の事を心配していたぞ」

「そっか……香里に心配かけちゃったね……後で電話するよ」

そう話しながら祐一は昨夜と同じソファーに座った。名雪の隣に秋子も座り、話し出した。

「祐一さん、これからのことですけど……やっぱり私達もカノンと戦います」

「秋子さん!?」

秋子と名雪の目は真剣で強い意志が感じられた。

「健吾さんの遺志を継ぎたいんです。といっても直接戦えるわけじゃありませんから祐一さん、貴方の戦いを手伝わせて
 ほしいんです。復讐の為ではない、救える命を救う為に……お願いします」

「支えたいんだよ」

秋子が頭を下げると、今度は名雪が話しを続けた。

「私だってお父さんの遺志を継ぐよ。『仮面ライダー』と『相沢祐一』の両方を支えたいの。私達家族だもん。
 ね、祐一お願い。私達も手伝わせて」

名雪も続いて頭を下げる。二人の真剣な思いが伝わってきた。

「秋子さん、名雪…………分かりました。でも決して無茶な事はしないで下さい。俺は二人を守ると健吾さんに約束しましたから」

二人は顔を上げると祐一に感謝した。

「分かっています。残された人は死んでしまった人の分まで生きなければいけませんからね」

その秋子の微笑みは疲れてはいるものの、いつもの秋子のあの優しい微笑みだった。

「祐一さん、サイクロンの整備は私が出来ますから任せてくださいね」

「お願いします」

「祐一、私は……え〜っと…………うぅ〜、お母さ〜ん」

「名雪、貴方は祐一さんが『相沢祐一』としていられるようにしてあげるのよ。『仮面ライダー』として戦う祐一さんが
 『相沢祐一』として生きていけるようにね。私もそうするから」

「うん、でも私に出来ることがあったら言ってよね、祐一」

「ああ、その時は頼むよ」

祐一は二人の強さを改めて知った。ありがたかった。この二人が居る限り自分は人間『相沢祐一』として生きていけると。
また『仮面ライダー』としての戦いも一人ではない、と。

祐一はカノンとの戦いに新たな闘志を燃やした。




続く




後書き?(何故疑問系)

こんにちは、うめたろです。

カノンMRS 10〜11話お届けにあがりました。

なんとか話も一区切りつけることが出来ました、ヤレヤレ一安心。

でも話におかしい箇所がないかと不安だったり(ガクガクブルブル)

まぁ、変なところがあったら反省しつつ今後の執筆に活かせて……いけたらいいなぁ(ぉ

一話毎の話を少し長くしてみました。(約1・5倍)せめてこの位にはしなければと思いまして……

気になる所で終わらせたいとか、邪な事(ぉぃ)を考えていたりするので話の長さが変わることがあるかもしれませんが

ご了承下さいm(_ _;)m

今回の話は構想当初は「名雪編」としていたのですが、何故か(?)秋子さんが目立つ話に^^;

私自身はメインよりもサブヒロインたちのほうが好みだったりするので、

今後も似たような事になるやもしれませんm(_ _;)m

今回でてきた謎の美少女(?)ですが、正体バレバレではありますがあくまで謎の美少女という事で^^;


最後に


この作品を掲載してくださった管理人様

この作品を読んでくださった皆様に感謝して後書きを終わりにさせていただきます


ありがとうございました

では                             うめたろ

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