「何なんだよ、あれは?」

男は起こった事が信じられなかった。今まであんな化け物は見た事が無かった。
いままで生きてきた中であれほど怖い目にあった事は無かった。他のチームとの抗争でも先陣きって飛び出し
何人もの相手をぶちのめしてきた自分が、あの化け物に怯えてただ逃げる事しか考えられなかった。
後少しで駐車場から出てこのまま逃げ切れる、男がそう思った時だった。突然肩を強い力で捕まれるとバイクから
引き剥がされた。バイクは横転し、火花を撒き散らしながら地面を滑っていった。そして漏れたガソリン
に引火してバイクは炎上した。

「ヒッ!」

後ろを見ると、先程の怪人蝙蝠男が自分の肩を掴んでいた。

「た、助けて……」

助けて。男は何時だってその言葉を聞く立場だった。そう言ってくる相手の願いを無視し暴行を加えてきた。
まさか自分がその言葉を言う時が来るとは夢にも思わなかった、同じようにその願いが無視される事も。

ガブッ!

「ギャーッ!」

蝙蝠男は男の首筋に牙を突き立てると血を吸い始める。男の意識が薄れていく中で最後に見たものは炎上する
自分のバイクだった。




               Kanon 〜MaskedRider Story〜    
                          第八話               




『あさ〜あさだよ〜、朝ご飯食べて学校にいくよ〜』

「ん……」

どこからか名雪の声が聞こえてくる、その声で祐一は目を覚ましていた。

「(名雪が起こしに来たのか? いやしかし、あいつは朝が弱いと言ってたし……まさか寝過ごした!?)」

慌ててベッドから体を起こすが、部屋の中に名雪の姿は見当たらなかった。

『あさ〜あさだよ〜、朝ご飯食べて学校にいくよ〜』

しかし、依然声だけは全く同じ調子で聞こえてくる。どうやら発生源は昨夜名雪に借りた目覚まし時計のようだった。

『あさ〜あさだ……』

パチン

「これか……」

目覚ましを止めると名雪の声も止まった。時計をよく見ると『録音』のスイッチがあり、目覚ましの音を記録出来るらしかった。

「あいつ、自分の声を目覚ましにしているのか? ……それにしても余計に眠気を誘う声だよな。よく起きられたもんだ」

ベッドからおりた祐一は部屋のカーテンを開けると朝の日差しが部屋を明るく照らした。

「今日もいい天気だな……寒いけど」

祐一が以前住んでいた所より寒い地域で真冬の早朝。しかも暖房の点いていない部屋はひどく寒かった。

「ま、そのうち慣れるだろ。さて、今日から学校か。着替えて……」

クローゼットに掛けられた制服を取り出した時だった。ソレは突然聞こえてきた。

『ジリリリリリリリリリリリリッ!!』

『ピピピッピピピッピピピッピピピッピピピッ!!』

『おきろーおきろーおきろー!!』

『ドッガーン!!』

『パラタタタタタタタッ、チュインチュインッ、ドガガガガガガッ!!』

『ヒューヒューヒュー、ドンドンドン、パフパフパフ!!』

『ヴォーン! ギイッ! 助けて〜! 出たなショッカー! ライダー変身! トォッ! 』

隣の名雪の部屋から突然のアラーム、爆発音、果ては何だか訳の分からない物の大合唱が響いてきた。それはすでに騒音公害
レベルといっても良かった。

「な!?」

祐一は驚いて廊下に飛び出した。音の発生元は間違いなく隣の名雪の部屋からだった。

「あいつ、目覚ましを止め忘れたのか? でも朝が弱いとか言ってたし……まさか! 寝てるのか!?」

このまま聞き続ければいかに祐一といえども参ってしまいそうだった。とりあえず名雪の在室を確認すべくドアをノックする。

ドンドンドン!

「おいっ、名雪! いるのか?」

考えて見れば祐一の声よりも聞こえてくる騒音の方がうるさいのだ。たとえ中にいても祐一の声が届くとは思えなかった。
中に入るべきか? 一緒に暮らす家族のような従兄妹とはいえ、同じ年の異性の部屋に入ることに躊躇した。
妹の部屋に入るのだって躊躇っていた祐一であったから。しかしこのままにしておく訳にもいかなかった。

「くそ……名雪、入るぞ」

一応断りを入れてからドアを開ける。すると、騒音は一層やかましく聞こえてきた。

「な……!」

部屋に入った祐一は言葉が出なかった。
部屋中のいたるところに置かれた数々の目覚まし時計……その全てが己の存在意義を高らかに主張し、部屋主を覚醒させる
べく奮闘していた。
だが……

「く〜〜……」

常人であれば耐えられる筈の無い目覚まし連合艦隊の攻撃を物ともせずに、名雪はデフォルメされた蛙のぬいぐるみを
抱きしめたまま穏やかな顔で眠り続けていた。

「マジか……」

この騒音の中で平然と眠る名雪に感心すべきか呆れるべきか迷ったが、祐一が始めにとった行動はこの部屋中に鎮座
している目覚まし連合艦隊を駆逐する事だった。

パチン、パチン、パチン……

『再抽せ……』

パチン

「これで全部か」

全ての目覚ましを沈黙させてから、祐一は未だ眠り続ける名雪を起こす事にした。

「おい名雪。朝だぞ、起きろ!」

「く〜〜……」

アレだけの騒音の中で眠っていた名雪が多少大きい声を出したところで起きるはずも無かった。

「名雪、起きろ!!」

ユサユサユサ……

今度は肩を掴んで揺すってみるが……

「うにゅ〜〜、地震だぉ〜〜……」

「起きろ〜〜〜っ!!」

ユサユサユサユサユサユサユサユサ……

「うにゅぅ〜けろぴ〜……」

そう寝言で呟くと、より一層蛙のぬいぐるみをきつく抱きしめる。この蛙が『けろぴ〜』らしかった。

「名雪っ!」

「う〜〜マグニチュード……」

「いいから、お・き・ろぉーーーーっ!!」

ガクンガクン!

祐一は名雪の上半身を起こすと前後だけでなく左右にも揺すっていた。その度に頭が首を支点に身体と逆の方向に
揺れて色々と危険だったが、それよりも従兄妹を目覚めさせるのに必死になっていた。

「……うにゅ?」

それから暫くして、ようやく名雪は目を覚ました。尤も半分糸目の状態で油断をすれば再び夢の世界へと旅立って
しまいそうではあったが、とりあえず身体を揺するのを止める。

「やっと起きたか」

「……あれ、ゆういち?」

「おう、祐一だ」

名雪は状況を把握してないらしく辺りを見回す。ここは自分の部屋だった。

「ゆういち、どうしたの?」

「あれだけの騒音を撒き散らしておいて何を言うか……まぁ、起きたんならさっさと着替えて下りて来いよ。
 早くしないと遅刻だぞ」

「うにゅ……」

それだけ言い残して部屋を出た祐一は自分の部屋に戻り着替えを済ますと、一階に下りて洗面所で身だしなみを整えた。
それからダイニングに向かうと、既に起きていて朝食の用意をしていた秋子に挨拶する。

「おはようございます、秋子さん」

「おはようございます、祐一さん。あの……名雪ですが……」

「ああ、一応起こしてきました。そのうち起きてくるでしょう……二度寝してなければですが」

それを聞いた秋子は驚愕した、いつも起こすのに苦労していた娘をこれほどの短時間で起こした祐一に。
祐一は秋子のそんな驚いた表情を見るのは初めてだった。

「あらあら……じゃあ今度から祐一さんに名雪を起こしてもらおうかしら」

「……勘弁してください」

口ではそう言いながらもこの家に世話になっている以上、そのくらいはするつもりだった。

「パンですけどいいですか?」

「はい」

「飲み物はコーヒーと紅茶がありますけど?」

「コーヒーをお願いします」

祐一が座るとほぼ同時に焼き上げられたトーストと、淹れたてで香ばしい香りのコーヒーが置かれた。注文を聞かれてから
間をおかずに出てきた事には疑問に思っても口には出さずに、まずはコーヒーを口に含む。

「……(美味いな。流石は喫茶店を経営しているだけのことはあるな)」

「どうですか?」

「美味しいです。これって店でだしているやつですか?」

「はい、オリジナルブレンドですよ」

「なるほど……店のほうはいつ頃から始めるんですか?」

「今日に食材の搬入がありますから、明日から始めますよ」

「そうですか。俺に出来る事があったら言ってください、手伝いますから」

「でも……」

「秋子さん達が俺の事を家族と思っているように、俺も秋子さん達を家族と思っています。遠慮しないでください。
 買出しくらいなら出来ますから」

「祐一さん……ありがとうございます」

言って秋子は微笑んだ。そうして祐一が食べ終える頃に、制服に着替えた名雪がやって来た。

「うにゅ〜、おはようございますぅ〜」

「おはよう、名雪」

「おう名雪、やっと起きてきたか」

「ゆういち、あさは『おはようございます』だよ〜」

「ああ、おはよう。名雪」

名雪が席につくと同じようにトーストが置かれる。名雪は傍らに置かれていたビンの蓋を開けるとヘラでビンの中身を
トーストに塗り始めた。

「ジャムか?」

「いちごジャムだよ〜。美味しいんだよ〜。お母さんの手作りなんだお〜」

「(だお〜?)」

「♪いっちご〜、いっちご〜」

妙な歌を歌いながらも塗りつける手を休めない。祐一は名雪の異常なまでの苺好きを思い出した。
名雪は苺ジャムを塗りつける。塗りつける、塗りつける、塗りつける、塗りつける…………

「……おい名雪、それは塗りすぎじゃないか?」

「え〜、だっていちごジャムだよ〜、美味しいんだお〜」

「…………」

「うにゅ〜、いちごジャムおいし〜」

「……なんでもいいから早く食べてくれよ。遅刻するぞ」

名雪はジャムで真っ赤に染まったトーストを、これ以上ないというくらい幸せな表情でゆっくりと食べている。

「秋子さん、あのジャム随分と水っぽいですね。市販の物はもっと固まってますけど?」

「えぇ。市販の物は流通や保存の関係上、添加物を加えてああして固めているんですよ。本来のジャムは軽く
 煮詰めるだけですから水分が多くなるんです。でもこちらの方が風味も残って美味しいんですよ」

「うにゅ〜。美味しいんだぉ〜」

「…………」

「あらあら」

ゆっくりと食事をする名雪、呆れる祐一、それを見て微笑む秋子。3者3様の朝が過ぎていく中、リビングのテレビが
朝のニュースを伝えていた。

『昨夜未明、○○市のスーパー○○店の駐車場で身元不明の遺体が発見されました。周囲に改造されたバイクがあること
 などから遺体は付近の暴走族グループの少年の者と思われ、警察で身元の確認を……』


                         ★   ★   ★


「で、なんで俺達は走って登校しているんだぁ〜〜っ!?」

「私は走るの好きだよ〜」

あれからゆっくりとしたペースで朝食を摂っていた名雪を待っていたが、ふと時計を見れば遅刻寸前の時間になっていた。
今日からは流石にバイクを使うわけにもいかず、こうして通学路を走っていた。

「大体、時間が無いのになんであんなにゆっくり食べているんだ!?」

「だって〜、いちごジャム美味しいんだよ〜。味わって食べたいよ〜」

「だったらもっと早く起きろよ!」

「う〜、努力はしているんだよ〜」

「努力するだけじゃなくて成果を見せてくれよ」

二人は走りながら会話をしていた。名雪は流石陸上部の部長というだけあって足が速く、また祐一との会話にも余裕が
感じられた。祐一も元から運動は得意だったし、改造人間となった今ではこの程度の事は楽に行えた。

「このペースで間に合うのか?」

「う〜ん、100mを7秒で走れば間に合うかな?」

「……とにかく全力で走れってことか?」

「ふぁいとっ、だよ!」

転校初日から遅刻は避けたかったので、祐一は全力で走った。昨日名雪に教わった通学路を走り続けると
見覚えのある建物が見えたのでそこで祐一は走るのをやめた。辺りには自分の他にも通学する生徒の姿が見える。
女子は名雪と同じ服装をしており、あれが本当にこの学校の制服だと納得させられた。ただケープのリボンの色が
違う女生徒もいて赤の他に青や緑のリボンをつけている生徒もいた。

「ふう、ここまでくれば間に合うかな? なぁ名ゆ……」

名雪に聞いてみるが、辺りを見ても隣を走っていたはずの従兄妹の姿は何処にも無かった。待っていると遥か後方から
自分を呼ぶ声が聞こえた。

「まってよ〜、ゆういち〜、はやいよ〜」

祐一は自分の迂闊さを悔やんだ。

「(また俺は忘れていたのか。自分が改造人間であるということを……)」

そうしているうちに名雪が追いついた。流石に疲れたらしく少し息を乱していた。

「う〜、祐一ひどいよ〜。置いて行くなんて〜」

「……あ、あぁ、悪い。遅刻したくなかったからな」

「う……」

自分を置いて先に行った祐一を責めていた名雪だったが、『遅刻』という一言で一気に苦境に立たされてしまい、
名雪は話を逸らそうと祐一の足の速さについて話し出した。

「で、でも祐一って足速いね〜。昔から運動とか得意だったもんね〜」

「!!……あ、あぁ。まぁな」

「祐一は、部活とかしないの? よかったら陸上部に入ろうよ」

「悪いが俺は部活をする気はない」

「え〜、なんで? そんなに足が速いのに勿体無いよ〜。一緒に走ろうよ〜」

「さっきまで一緒に走っていただろうが。それに今年はもう3年だぞ、いまさら部活を始めてもな」

「う〜……あれだけ速いんだから大会出れば良い成績だせるよ〜」

なんと言われても部活をするつもりは無かった。名雪の勧誘を断っていた祐一だったが、こちらにやってくる一人の女生徒
に気がついた。リボンは名雪と同じ赤色で腰まであるウェーブがかった髪の毛をしていた。

「おはよう、名雪」

「あ、香里。おはよう〜」

名雪は香里と呼んだ女生徒と挨拶をかわす。どうやら名雪の知り合いらしかった。

「久しぶりね」

「うん……あ、映画の約束、行けなくってごめんね」

「いいのよ……今度の事は大変だったわね」

「うん……」

祐一の家族の事について話しているのは間違いなかった。名雪と話していた香里だったが祐一に気がついて聞いてくる。

「さっきから気になっていたんだけど、後ろの彼は?」

「従兄妹の祐一だよ」

「あ……」

名雪よりも辛い立場にある本人を目の前にして、事件の事を話していたのを気にしたのか香里はバツが悪い表情になった。

「えっと、その……ごめんなさい」

「いいさ、気にしないでくれると助かる。周りにへんに気を使われると余計に辛いからさ……あ〜……」

そこまで言ってお互いに名乗っていないことに気づく。最初に口を開いたのは香里だった。

「香里よ。美坂香里、名雪の親友よ。よろしくね」

「相沢祐一だ。よろしくな、美坂さん」

「……香里でいいわよ」

「そうか。じゃあ俺の事も祐一でいいぞ」

「え、えっと……私は遠慮しておくわ、相沢君」

何故か顔を赤くしてどもる香里だった。と、そこで予鈴のチャイムが鳴った。話しているうちに結構な時間が過ぎていた。

「ぬ! イカン、このままでは遅刻だ。ここまで来てそれは洒落にならんぞ」

「そうね。急ぎましょう」

「あ、二人とも待ってよ〜」

3人は昇降口まで来るとそこで別れることになった。

「私達は教室に行くけど、相沢君は?」

「とりあえずは職員室だな」

「祐一、一緒のクラスになれるといいね」

「う〜ん、そうだな……」

「あら、私と一緒のクラスは嫌なの?」

「どういうことだ?」

「私と名雪は同じクラスなのよ」

「そうなのか」

それだけ話して二手に分かれた祐一達だったが数歩も行かないうちに祐一が名雪達を呼び止めた。

「なあ……職員室って何処だ?」


名雪に職員室の場所を聞くと、今度こそ二手に別れて歩き出した。職員室に入った祐一だったが中に人気は殆ど無く、
事務関係の職員が居るだけだった。職員に事情を尋ねると始業式で教師は出払っていると教えられた。仕方が無いので、
教師達が戻るまでその場で時間をつぶす事になった。


                         ★   ★   ★


某所にあるカノンのアジト。ここで昨夜の怪人、蝙蝠男が首領からの指令を受けていた。

「蝙蝠男よ、お前の性能テストは合格だ。捕らえた者たちも奴隷として働かせている。まずは、よくやった」

「ありがたきお言葉」

「お前の次の使命は相沢祐一の抹殺だ。ヤツは仮面ライダーと名乗り、我がカノンに反逆している。ヤツを殺すのだ!」

「ギギィーッ! 私一人で十分。必ずや仮面ライダーを倒してご覧にいれます!」


                         ★   ★   ★


始業式を終えて戻ってきた教師の一人に尋ねると、担任だという教員を紹介された。石橋という40前後の男の教師で、
今はその石橋の案内で自分のクラスへと移動していた。

「こんな時期に転校とはな。転校は初めてか?」

「いえ……家の都合で海外に居た事もありますから」

「……まぁ、その、なんだ……事件のことは聞いている。大変だったな……」

「いえ……その事ですがへんに気を使わないでください。その方が辛いですから」

「わかった…………よし、着いたぞ」

そんな事を話しながら歩いていると一つの教室に到着した。教室のクラスを示すプレートには『2−A』と書かれていた。

「じゃあ、呼んだら入って来い」

それだけ言い残して、石橋は教室に入っていく。廊下で待たされることになった祐一は、教室内の会話に耳を傾けた。

『ほらぁ、静かにしろぉ! ホームルーム始めるぞー!』

石橋の声で騒がしかった教室が静かになる。

『あー、突然だが今日は転校生を紹介するぞ』

『ウオオオオオオォッ〜!!』

静かだった教室が前より騒がしくなる。騒いでいるのは男子が大半だった。

『なにを期待しているかは大体分かるが……転校生は男だ』

『…………』

その一言で再び教室が静かになった。

『だが女子は喜んでいいぞ、なかなかの美形だ。俺は高得点をつけるぞ』

『えー、ホント!? 楽しみー』

『高得点って……先生、男色のケがあったんすかー? 奥さんが知ったら悲しみますよー!』

『えぇっ! そうなの!?』

『コラー、その発言は聞き捨てならんぞ! 今言った奴、後で俺のところまで来い』

『げっ、襲われる!?』

『ハハハハハハハハハハ』

教師も生徒も本気で言ってるわけではなく、只ふざけているようだった、明るくて仲の良いクラスだと推測できた。

『まあとにかくだ、本人を見てから各自で判断するように……おい、良いぞ。入って来い』

ようやく呼ばれたのでドアを開けて教室に入っていった。静まり返る教室の中を教壇に向かって歩いていく。教卓の前に
着くと立ち止まり、祐一はクラス全体を見回した。男女の比率は半々ほどで皆興味深げにこちらを見ていた。クラスの面々
を見ていた祐一だったが窓際の最後尾の一つ前の席に、よく見知った顔とつい先程知り合った顔を見つけた。
名雪と香里だった。名雪は嬉しそうに手を振っているし香里も笑いながら小さく手を振っていた。

「(あいつら……)」

「ほれ、自己紹介だ」

石橋に促された祐一は無難と思われる自己紹介をする事にした。

「相沢祐一です。中途半端な時期に転校してきましたが、宜しくお願いします」

それだけ言って軽く礼をする。




続く

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