仮面ライダー カブト

-Pulse of evolution-

エピソード000  切っ掛け


  「・・・お・・・おおぉ・・・」
  少年、相沢祐一は今感動していた。表現の言葉も見つからないくらいに。まあ、それはそうだろう。アニメや特撮にしか存在しないであろう、如何にもな秘密基地の中にいるのだ。14歳の少年にとってこれほど胸躍るシチュエーションがあろうか。
  彼の連れて来られた部屋はお約束的な司令室だった。普通の建物の三階程はあるだろう部屋の壁には巨大なモニターがあり、今は待機状態であるのかZECTの文字が入ったロゴマークが映っている。その下には数十台にも及ぶパソコンが置かれ、オペレーターっぽい人たちが何か作業をしている。
  「んっふ〜、どうかな息子よ。母の職場を見た感想は」
  祐一の隣でなかなかに豊かな胸を、自信満々に張り周囲の人の視線を集めている見た目二十代前半の女性の名は相沢春子。腰まである青い髪を項で束ね、人の良さが滲み出るような優しい容貌に丸くて小さいフレームの眼鏡を掛けている。尤もその表情は悪戯小僧のそれであるが。
  「・・・まさか母さんが世界征服を企む悪の秘密結社の一員だったとは」
  「はっはっは、解って言ってるだろマイサン」
  さも残念そうに腕を組みながら言う祐一。春子はその背を笑いながら叩く。
  「っつかこんなとこに呼んどいて何の用だ?」
  朝起きて学校に行こうとしたら母親に拉致られ「変身ヒーロー誕生の瞬間を見せてやる」、とここに連れて来られた。普通に考えて部外者が来て良い所ではないだろう。それとも何か、俺は気付かない内にこの能天気母に改造でもされて既に関係者になっているとでも言うのか。・・・もしそれだけの技能があればやりそうで怖いな、ウチの母は。
  「今朝言った通りさね。変身ヒーローの誕生の瞬間を見せてあげるのよ」
  何かしらの作業を続ける人たちを見つつ、薄い笑顔で答える。そして祐一はすぐにその言葉の裏にある事実に行き着く。ヒーローが必要な状況とは即ち、
  「・・・何と戦うために?」
  息子の質問に母がニヤリと笑った。



  4年前、渋谷に一つの隕石が落ちた。それにより渋谷の街は壊滅、復興は進まず危険という理由で隔離地域になっている。
  ただ、真実はそれだけでは終らない。その隕石には地球外生命体潜んでいたのである。地球上の虫や甲殻類に似たそれらは人に擬態する能力を持ち、人に紛れ人を襲い喰らっているのである。この影なき侵略者はワームと呼ばれた。人類はその危機に気付く事もなく日々を過ごしている。
  だが、それを予見していた者たちも居た。渋谷隕石より早く、14年前に東京湾に落ちた小型の隕石。そこから発見されたワーム以外の地球外生命体によると思われる、暗号状態で発見されたメッセージ。そして順次発見された2つの昆虫の形をした意思を持つ、ゼクターと名付けられたメカ。それらを拠り所にZECTは創られたのである。人類を影から守る為の超法規組織として・・・・・・



  「・・・そしてそこの兵器開発部の主任を務める天才科学者がこの母という事なのさ」
  大方の事情を説明し、春子は自分の腕時計を見やる。
  「・・・ようし、皆。そろそろ時間だ」
  顔を上げた春子が声を弾ませて、宣言する。それに呼応してオペレーター(だと祐一は思っている)の一人がマイクに向かいアナウンスに入る。
  『これよりマスクドライダーシステム、ZOZ−01カブトの起動実験を開始します。手の空いている方は最寄のモニターにて、実験状況を放送しますのでご覧ください。繰り返します・・・・・・』
  アナウンスの途中から壁の巨大モニターの画面がZECTのロゴからメタリックな4畳くらいの部屋に金属の机。その周囲をカブトムシのような形のメカが飛び回っている。カメラの位置は机の斜め上からだろうか。そしてその右下に小さなサブウィンドが開き、映っているのは隕石らしいもの、恐らくは東京湾の小型隕石とやらか。
  「あの飛んでるのが?」
  「ええ、オリジナルライダーゼクター。ZOZ−01、カブトゼクターよ。マスクドライダーシステムの変身ツール。ZECTの戦力の中核を担うのもよ」
  そしてギィィ、と錆びた金属音がして次にコツコツという音が続く。最初の音は部屋の扉、後のは人の靴の音だろう。そして画面の下の方から現れる男。すぐさま幾つかのサブウィンドが開き、複数のアングルでその光景が映し出される。
  司令室に居る全員が、事情を詳しく知らない祐一さえ雰囲気に呑まれて固唾を呑む。だがその時職員の一人がコードレスの電話の受話器を持ってきて春子に渡す。
  「連絡なら後にしなさいよ」
  露骨に嫌という感情を表情に出して職員に文句を言う。
  「いえ、情報部から至急相沢主任にと・・・」
  春子は、申し訳なさそうな言葉に舌打ちして受話器を受け取る。
  「あー、ハイハイ、相沢です。何の用ですか?こんな嫌がらせみたいなタイミングで・・・・・・なんですって?・・・」
  話している母親の顔色が青くなる。
  「・・・母さん?」
  心配した祐一が声を掛けるが、春子にそれに応える余裕はなかった。緊急事態を示す警報のスイッチを叩き、オペレーターのインカムを奪い、付いているマイクに怒鳴るように放送を流す。
  『カブトの起動実験は中止する!その男はワームだ!戦闘要員はそのサンプルを捕獲しろ!非戦闘要員は避難だ!急げ!』
  春子が受けた連絡はカブトの適格者を迎えに行ったメンバーが駅のトイレでその死体を見つけたというものであった。
  モニター内のカブトゼクターは警報ブザーと放送に反応したかのようにその角で壁を突き破って逃げていった。壁が薄く、どうやらトラックのコンテナのような所だったらしい。そして男の姿が変化する。
  背中が大きく膨れ、虫の蛹のようなざらついているような緑の外皮、顔にあたるであろう部分は髑髏のようである。それに手足が付き、左手は伸びた鉤爪のようになっている。その姿を見て祐一が上擦った声を出す。
  「・・・母さん、あれ?」
  「そう、あれ」
  至極あっさりした遣り取りだったが互いの言いたい事はよく分かっていた。あれがワーム、人に擬態する人類の敵なのだと。
  「主任!大変です!本部内にワームの反応が複数!」
  他のモニターを操作していた女性が叫ぶ。
  「ちっ、本部がまだ本稼動する前に入り込まれるなんて・・・・・・これじゃ捕獲どころじゃないわね。本部内の者に逃げるように連絡なさい」
  春子は舌打ちしながら指示を飛ばす。
  「研究部から連絡!保管されていた全ゼクターがワームに反応、逃走しました!全てロスト!」
  「んな!?」
  これには春子も絶句するしかなかった。
  「・・・・・・な・・・な、ZOZシリーズも、私の造ったZCZシリーズもか!?」
  ゼクターが全て消えたという事は彼女の長年の研究成果が失われた事、更には現時点でのワームに対抗する手段が失われたという事である。
  ショックを隠せず狼狽し、ふらつく春子を祐一が支える。事態が事態なので話に置いていかれている祐一だがまずい事になっている事だけは理解できた。だから、
  「母さん、今はどうすればいい」
  切っ掛けを与える。些細なものでも、例えそれが他人にとって焦りを与えるだけものでも、切っ掛けさえあれば母は直ぐに思考を切り替えられる。そしてどんな事にでも対処できる事を知っている。相沢祐一は相沢春子を信頼している。
  そして春子は息子の声に応える為に自分を落ち着かせる。一度深呼吸すると一番近くにあるパソコンの机の裏に手を伸ばす。取り出されたのは拳銃だった。万一の為、本部の所々に武器が隠されているのである。
  「進入したワームの詳細は分かるか!」
  「え?か、数は十を超えます、なれど詳細不明!」
  「戦闘部隊の展開状況は!」
  「既に第3、第6小隊壊滅、現在第1、第4、第5小隊交戦中!」
  冷静さを取り戻した春子は、凛とした声で状況を報告させていく。返ってくるのは危機を知らせる情報ばかり。
  「全く、お偉方がまだ入ってきてない時に、全部私の責任になるじゃない」
  報告を聞き終わった春子は毒づいた。だが祐一にはこれが春子がやる気を出す時の癖だという事を知っている。春子は拳銃に実弾が装填されていることを確認すると宣言する。
  「これより全人員に通達する。我らは当施設を放棄する。戦闘要員は時間を稼ぎつつ脱出させるように伝えろ!」
  毅然とした春子の態度に祐一だけでなく他の職員たちも、緊張した面持ちながら力強く頷く。何人かは春子と同様にして拳銃を手にする。そして春子が先頭になって司令室のドアを開ける。
  目に入ったのはワームに薙ぎ倒されていく、武装した男たち。聞こえたのは絶え間なく放たれる銃弾の音だった。
  ドアの直ぐ近くの通路で戦闘が起こっていたのだった。十数人のコンバットスーツの戦闘員がアサルトライフルやマシンガンで2体のワームを攻撃するが、衝撃で仰け反るだけでダメージを与えているようには見えなかった。そしてその内一体がドアの前にいる春子たちに気付き、彼女たちに向かいだした。
  春子は咄嗟に祐一を背に隠し、ワームに銃弾を放とうとする。だがその前にワームの腕でなぎ倒されてしまう。
  「母さん!」
  祐一はすぐさま春子の元に駆け寄る。他の職員たちは拳銃でワームを撃つが、アサルトライフルでも効かない外皮に拳銃の弾が通じる筈もなかった。
  その場にいた者たちの注意はワームに向けられていた。生き残る為に。だから気付けなかった。モニターのサブウィンドウの一つに映っていた隕石が淡く、碧に発光している事に。
  銃弾を弾きながら職員たちを次々と薙ぎ倒していく。その光景に祐一は焦りを覚える。他の人たちには悪いが母親だけは無事に脱出させたいと思っていた。隙を見つけて春子を連れ出せないかと。そして春子も同様に祐一を逃がしたかった。
  「母さん、俺がアイツを止めるからその内に逃げてくれ」
  祐一が肩を貸し、立ち上がらせた春子に囁くように伝える。春子はその言葉に一瞬呆然としてしまう。そして止める間もなく祐一は駆け出した。銃を撃っていた最後の職員が薙ぎ倒され、丸腰の者しか残らなくなってしまったからである。
  祐一は歩いてくるワームに体当たりし、足にしがみ付いてその動きを止める。14歳の子供といえどもその全体重をぶつけるのは意外に強い衝撃になってワームの動きを止めたのである。
  「祐一!やめなさい!逃げて!」
  春子が悲鳴のように叫ぶ。だが、祐一は放す訳にはいかなかった。
  「母さん、早く!」
  祐一はもがくワームに必死にしがみ付いている。それを引き剥がそうと、ワームは鉤爪になっている左手を振り上げる。
  「祐一!」
  だが、その手を何かが弾いた。衝撃でバランスを崩したワームが倒れこみ、祐一も倒れるがすぐさま立ち上がると春子の元へ駆け戻る。そして、それの正体を見た。それは鈍く光る銅のカブトムシ。消えたカブトゼクターと酷似した存在だった。
  「私の知らないゼクター・・・三つ目のオリジナルゼクター!」
  気付き、春子はモニターに目を向ける。案の定隕石が発光しているのが映っていた。という事はやはり祐一を助けたのは隕石から現れたばかりのゼクターということになる。
  そのゼクターは祐一のの周囲をゆっくり飛び回る。まるで祐一を慰めるように、守るように。
  ふと、祐一が右手を差し出す。そうしろ、と目の前のカブトムシに言われた気がして。カブトムシのゼクターは祐一の右手首の周りを一周する。すると祐一の右手に腕時計のような、ゼクターと対になる変身ツールライダーブレスが現れる。そしてカブトムシが自らその上にやや斜めに納まる。そして、次に如何するべきか、直接頭に流れてくるように理解した。手の甲を見せるように右手を顔の横にかざし、左手でやや内側に倒れているゼクターを真っ直ぐに直しながら宣言する。
  「変身!」
  『ヘンシン』
  ゼクターから電子音が主の命令を復唱する。そしてゼクターの周囲から六角形のブロックが波紋のように波及し、ボディアーマーを形成していく。
  「これが、マスクドライダー・・・」
  春子が、変わり行く息子の姿を見て呟く。
  『チェンジビートル』
  変身が完了し、電子音が響く。
  そこに立っているのはマスクドライダーとしての息子の姿だった。
  黒いボディスーツの上に黄銅鎧を纏う。右肩には二本の角。そして翠の複眼にケンタウロスオオカブトムシのようなV字に割れた角。
  黄銅のライダー、ケタロスの姿だった。





  日常の影に巣食うドッベルゲンガーの化け物。人知れず、されど確実に日常を侵食していく怪蟲。そして、これは影から人々を守った戦士たちの物語。


  「カニ、スバル、フカヒレ、今クワガタのメカが俺の部屋で飛んでるって言ったら信じるか?」
  「あ、何言ってんだ。ヘタレメーターが振り切れて頭が・・・ってうおーーー!マジで青いクワガタメカがレオの部屋で飛んでるだとぉ!」
  「おぉ、これはアレか、宇宙人の侵略の予兆か!?それとも地底人か!?とにかくすごいイベント起きて・・・へぶ!」
  「うるっせぇんだよ!ダボが」
  「へぇ、坊主もねぇ。俺も来る途中で赤いカブトムシを拾ったんだが、やっぱ運命?」
  「・・・そういう冗談はやめてくれ」


  望んで戦士になった者、巻き込まれ戦士となった者。いずれも同じ。譲れないものを手に戦った。


  「あれ、よっぴー、アレ何かしら?」
  「えと、ト、トンボ?凄くメカっぽいけど・・・」
  「・・・・・・結構可愛いわね。キミこっちおいで」
  「エ、エリー・・・って、ホントに来た〜」


  友を、夢を、理想を。信じるべきは己の正義。信念を持って駆け続けた。


  「・・・佐祐理、これ、なに?」
  「ふぇ?サソリさん、かな?ちょっとロボみたいだけど珍しいね」
  「・・・はちみつくまさん。ちょっとかわいい」


  時代を全力で駆けた、少年少女の物語。
  「仮面ライダーカブト」、3年後、時代は加速する。










  **後書き**
  ども、久しぶりの投稿です。待ってた方、お待たせしました(まじで)。そうでない人は見捨てないで。

  さて、世の中には不思議な事がいっぱいあります。皆さんも一回や二回は何か経験あるのではないでしょうか?
  唐突に何言うんだ、と思うかもしれませんがこの作品が俺にとっての不思議な出来事だったりするんです。
  元々マキナ書いててスランプって気分転換に別の書こうとした訳ですよ。で、初心に戻る意味も込めて小説で初めて扱った三国志をバサラ風に書いてみようとしたら出来上がったのがこれ。カノン、つよきすの設定改変カブト。何処で如何間違ったのか。やはり、フルフォース聞きながら書いたのがいけなかったのか。

  まあ、気に入ったので連載しようと思ったわけですが。という事で内容補足とカブトの設定変更点をネタばれにならない程度に。
  この時点でZECTはまだ活動がちゃんと始まっていない状態です。ゼクトルーパー装備すらまだ未開発。ゼクターに関しては大きく2種類に分けています。隕石から発見されたZOZ(ゼクト・オリジナル・ゼクター)シリーズと、それを研究してZECTが造ったZCZ(ゼクト・コピー・ゼクター)シリーズ。で、エピソード000現在存在するゼクターは「ZOZ−01カブト」「ZOZ−02ガタック」今回発見された「ZOZ−03カブティック」。ZCZが「ZCZ−01ザビー」「ZCZ−02ドレイク」「ZCZ−03サソード」といった感じです。ここいら辺にはちゃんとストーリー上意味を持たせてます。
  次に各ゼクターと対になるベルトなどの変身ツールはゼクターが出す、という感じにしました。劇中で唐突に出てきたり消えたりしてましたから、ベルトとか。
  で、今回逃げたゼクターの行方が書かれてないものはまあ一週間くらいで適格者を見つけられなかったということで。

  とまあ今回はこんな感じで。この作品、目指すは「学園ライダー」という感じで。それでは次回。

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