仮面ライダーMAKINA

〜蘇る九頭竜伝説〜

第二話

  その時、水瀬名雪は本当に幸せだった。誰にでも自慢できる立派な母親がいる。新しく出来た可愛い妹が二人居る。一緒に笑える親友が居る。一人の少年を通じて多くの友達ができた。そして何よりその少年が傍に居てくれる事が何よりも嬉しかった。
  その時まで、水瀬名雪は本当に幸せだった。
  その少年、相沢祐一は彼女の同じ年の従兄弟だった。子供の頃から名雪は祐一に片思いをしていた。七年ぶりに会った少年はもうあの頃の子供ではなくなっていたが、その優しさは変わっていなかった。七年ぶりに町に戻ってきた彼はその優しさと想いで幾つかの心と命を救った。そして名雪も彼に心を救われた一人だった。
  名雪達が高二を終えた冬休み。祐一は両親と妹の居るアメリカに向かった。父親の仕事が一段落したので一時帰国する事になり、祐一が迎えに行く形になったのである。そして、結局日本に戻ってきたのは祐一の妹、相沢郁代だけだった。
  飛行機事故。
  祐一達の乗る旅客機がアメリカ領空で乱気流に呑まれ、外壁の一部が剥がれると言う事故が起きた。旅客機はなんとか無事近くの空港に着陸したが、数百の乗客の内三十人余りが行方不明となってしまった。そして、その中に相沢祐一とその父親、裕馬と母親、春子の名があった。


  「あゆちゃん、もうすぐ時間だよ?」
  水瀬家の玄関で名雪は靴を履きながら祐一のお陰で出来た二人の義理の妹の内の一人を呼ぶ。
  「うぐぅ、待ってよ名雪さん」
  応える声と共に赤いカチューシャで栗毛を纏めた少女が二階から降りてくる。
  二人は華音市の大学の一年生である。
  二人はこの後商店街にある喫茶店、百花屋で友人達に会うことになっている。
  行方不明になった従兄弟、相沢祐一の無事を信じる者達の集りであり、今日はその中の一人倉田佐祐理が何かあるらしい。
  家を出た二人が百花屋についた時にはもう他のメンバーは揃っていた。
  「遅いわよ?名雪。二度寝でもしてたの?」
  そう言ったのは茶色のウェーブした長髪の女性、美坂香里だった。名雪の中学の頃からの親友である。
  その隣には妹の栞がバニラアイスをつついている。
  その他に一年後輩の天野美汐、一年先輩で今回皆を集めた倉田佐祐理がいる。皆、二年前祐一を通じて知り合った仲で、親友であり恋のライバルと言う関係だった。そして今ここに居ないが名雪のもう一人の義理の妹、沢渡真琴と、佐祐理の無二の親友川澄舞が加わるのだが、真琴は保母のバイトが、舞は急用と、ここに居ない。
  ちなみに本来栞は高三のはずだが一年の殆どを入院生活で過した為一年留年して高二である。
  一先ずメンバーが集まったので佐祐理が話を切り出す。
  「今回皆さんを呼んだのは祐一さんの行方についてです」
  その一言に皆真剣な表情になる。佐祐理が個人で雇っている情報屋だけが新しい情報の源である。
  「以前郁代ちゃんから聞いたマサチューセッツ州のミスカトニック大学ですが確かに祐一さんはそこに在学していたそうです」
  ミスカトニック。事故の後郁代の教えてくれた祐一の過去。
  祐一はこの大学を飛び級で入学、二つの学科で卒業していたと言うのだ。祐一は目立つ事を嫌うので敢て隠していたのだろう。更に、医学と考古学を修めている事も分かっている。
  「それで去年に祐一さんに酷似した人を目撃した人がいたそうです」
  他の一同が息を呑む。
  「その情報、信頼出来るんですか?」
  聞いたのは美汐だった。このメンバーの中で最も冷静な人物である。
  「信頼できそうです。証言は祐一さんの学友だった方からだそうです」
  そして佐祐理は一息付いてから続ける。
  「祐一さんと一緒に一之瀬ことみさんと言う方が目撃されています。祐一さんと同じでミスカトニックでの、特に祐一さんが卒業してからは唯一の日本人として有名なのだそうです」
  もう一人有名人が居る事で目撃者の印象は強くなる。見間違いと言う可能性は減るだろう。
  佐祐理の話ではこの人物が祐一の何らかの情報を持っているのは確かである。そして彼女が二週間前、大学を休学し日本に来ているらしい。
  「つまり、調査を重点を日本に移すと言う事ですか?」
  これは香里。それに佐祐理が頷く。
  残りの話は主に佐祐理の報告で終わった。



  美坂香里は今日この町に来る予定の従姉妹を迎える為に商店街前の駅前広場に向かっていた。妹の栞も付いて来ようとしたが途中で帰宅せざるを得なかった。栞は一時期命に関わる重病だった。それも二年前、祐一の引き起こした奇跡の一つで完治したがその後、事もあろうか栞がそれを漫画にしてとある出版社に投稿したのである。で、何がどう言う訳か少女漫画雑誌に連載が始まってしまった(しかも他の奇跡もインタビュー済みでシリーズとしてかなり持つ)のである。後になって知った香里が知って連載しているのを見て、その絵の上達ぶりにむしろこっちが奇跡の効果なのではと本気で思った。
  それはさて置き駅に着いた香里は駅前で早くも目的の人物を見つけた。白いライダースーツを身に纏ってベンチに座っている銀髪の女性。その横にシルバーのオンロードバイクが立ててある。
  「智代!」
  香里は手を上げてその女性、坂上智代を呼ぶ。それに気付いた智代は小さく片手を挙げそれに応える。
  「久しぶり、香里」
  「ええ、高校入学以来かしら」
  香里は智代の隣に座る。
  「そうか、そんなに長い間会っていなかったか」
  「ええ。でもあなたの喋り方は変わらないわね」
  「変わらないさ。変えようと思ってもいないしな」
  智代の男のような喋り方は昔からだ。その理由を香里は知らないが智代のその男より男らしい性格には良く会っていると思う。理由と言える程の何かが有るのかどうかは知らないが。
  「ところで栞は来てないのか?」
  「栞ね、締め切りと担当さんに追われて忙しいのよ」
  智代はそうか、と苦笑いする。連載が始まって一年と少し、アニメ化の声が上がるほど人気らしい。ともなると当然忙しくもなろう。
  「それじゃそろそろ行きましょ?流石に北国の夏でもそろそろ暑いわ」
  「そうか?私は余りそう感じないが」
  「そりゃ関東と比べちゃそうでしょう」
  2人とも笑いながらベンチを立つ。その瞬間頭の中をノイズが走ったような感覚を智代は感じた。
  「これは・・・」
  「ん?どうしたの、智代」
  「い、いや、なんでもない」
  二度目になる感覚に不安に駆られてしまう。
  それと同時にある違和感を感じた。
  「ところで香里」
  「なに?」
  「この駅・・・この時間は使う人間が殆どいないのか?」
  そう言われて香里も気が付いた。
  周りに一人の人間もいない事に。
  「ちょいとそこの銀髪のお嬢さん♪」
  突然後ろから声を掛けられ身構えてしまう。
  そこに立っていたのは二十代に見える蒼い髪を耳元に切り揃えた女性だった。香里はこの女性がどこか名雪やその母秋子に似ていると感じた。
  「な、何か・・・」
  戸惑いながらもなんとか応える智代。
  「いや、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですけど、お嬢さん近頃悪い夢に悩まされていませんか?」
  「!」
  「それか〜、常識的に考えて有り得ないもの見ませんでしたか?例えば半漁人みたいなのとか♪」
  「あ、貴女は一体・・・」
  女性に危険な何かを感じ香里を引っ張り後退る。香里は怪訝に思いながらそれに従う。
  「う〜ん、そんなに警戒しないでよ。別にとって食おうって訳じゃないんだからさ〜」
  女性は楽しそうに言う。とてもとても。それに二人は得体の知れない恐怖を感じていた。
  智代が如何すべきか悩んでいると背後からバイクのエキゾーストが近ずいてくる。
  「嫌な匂いを感じて戻ってくれば、大物が出てきたな」
  二人が振り返るとそこにいたのは紅い、禍々しくも雄々しい生物的なアメリカンバイクに跨った紅き銃士マキナだった。
  「ひっ」
  異形の戦士を初めて眼にした香里は思わず声を出してしまう。智代は香里を引っ張って広場の植木の向こうに隠れる。対して女性はマキナを見て顔を綻ばせる。そして両手を広げ叫ぶ。
  「会いたかったわ、愛しのマイサン!さあ!このマザーの胸に飛び込んで・・・・!」
  言葉が終わる前にマキナの手首から伸びた触手が女性の胸を貫く。
  「・・・いや、胸に飛び込んで来いってのは全身であって一部でなくてね〜、ゆう・・・うごっ!」
  今度は反対のてから伸びた触手が口から後頭部を貫通する。
  「その姿で!その声で!俺の名を呼ぶな!」
  怒りと憎しみを込めた声だった。どこまでも暗い声だった。
  そこにもう一つのエキゾーストが近ずいてくる。智代と香里が振り向くと蒼いオフロードバイクとそれに乗った人間だった。そのシルエットは智代や香里以上に女性を強く主張している。フルフェイスヘルメットを被り、長い黒髪をメットから出た所で紫のリボンで結んである。女性はバイクの前輪を持ち上げウィリーにし、マキナを突き飛ばす。触手から離れ貫かれていたハイドラと呼ばれた女性の体が地に落ちる。
  突き飛ばされたマキナは立ち上がるとバイクの女性を睨みつける。対する女性は顔がヘルメットに覆われて見えないがマキナを向いている。
  「何のつもりだ!フーガ!」
  怒りに声を荒ぶらせるマキナ。女性はそれに臆する事もなく問い返す。
  「・・・それはこちらの台詞・・・何故人を襲った?マキナ・・・」
  「本気で言ってるのか?お前も匂いを感じて来たんだろ!?その発信源くらい判れ!」
  「貴方が貫いた人は普通の人間・・・そう感じる」
  それを聞いたマキナは舌打ちし紅い魔銃を取り出す。
  「魔導を知らない素人がっ」
  それに反応した女性はバイクから降り、腰を落とす。そして腰に蒼いベルトが現れる。マキナの物と酷似し、バックルの中心に蒼い宝玉。その中心に風を表す三本の横波線模様。女性は右手を左肩の上まで持って行き、そして切り下すように振り下ろす。
                          「変身!」
  声と同時に青い風が女性を覆う。その中の女性は瞬時に巨大な石のような物に覆われる。それが風に削られていき、一人の剣士を形作って行く。
  風が散るとその下から現れたのはライダースーツに中世西洋の騎士の甲冑を連想させるデザインのプロテクターを身に着けた仮面の剣士、フーガ。仮面の眼の部分は西洋兜のフェイスガードのようになっており、その下に青緑色の複眼があり、その口元は表情のない無機質な物になっている。
  「・・・貴方が人を襲うなら、私が貴方を討つ!」
  声と同時に宝玉から蒼い光の玉が現れそれが展開して風を表す魔法陣になり、その中から青い柄のトゥーハンドソードが現る。それを手にフーガは右半身を前に剣を隠すように構える。
  「退け!今はお前の相手をしている暇は無い!」
  「・・・何を言ってるの?」
  「つまりはあんたみたいな小物なんて相手する暇ないんだって。察しなよ、小娘」
  突然背後からの声。フーガが振り向くと先ほどマキナに貫かれていた筈の女性だった。
  「・・・なんで・・・」
  驚くフーガ、忌々しげに舌打ちするマキナ。それに対して女性は楽しそうに笑う。
  「それはそれとしてせっかくの親子の団欒を邪魔しちゃ〜駄目だっておね〜さん思うのよ。邪魔すんじゃないよ!」
  声と共にフーガを蹴り飛ばす。
  「!!?」
  人間を遥かに凌駕する反応神経と動体視力を持ちながらフーガは反応すら出来なかった。驚きの余り受身すら取ることが出来なかった。
  「さ〜て、愛しの我が子との団欒の前に先ずはこの悪い子を懲らしめないとね〜♪」
  言って右手を平を突き出す。その周囲の空間が蜃気楼の揺れ双頭の槍が現れる。その柄は水色で魚の鱗のような形状になっている。次に左手の指を鳴らす。すると周囲のマンホールの蓋が弾け飛び、中から数体の半漁人が這い出てくる。
  「じゃあゆうちゃん、寂しいかもしれないけど先ずはその子達で我慢してね。お母さん先にこの子をお仕置きしてから遊んであげるからね♪」
  「呼ぶなと言っている!!」
  魔銃をハイドラに向け、撃つ。だがその炎の弾丸がハイドラに届く前に一振りの鎚に掻き消される。見ると通常の半漁人に混じり、武器を持った鮫型のディープ・ワンがいる。
  「・・・上位種かよ」
  十体近いディープ・ワンに囲まれたマキナを微笑まし気に見て、次に剣を杖代わりにし立ち上がるフーガに眼を向ける。
  「・・・貴女は・・・一体何?・・・貴方達は何?」
  「あら?あの子から何も聞いてないの?じゃあ、自己紹介。
   我はルルイエの館が守護者の一人、ハイドラ!古代メソポタニヤが豊穣と海の神ダゴンの妻。この星での復権を目指す古の種族!そして汝ら門番どもの永久の仇敵也!」
  ハイドラはフーガに槍を向けた。





  **後書き**
  一先ず内容の話。
  敵らしい敵が現れました。しかもボスキャラの一人です。重要キャラです。頭のネジ緩そうです。でも強いのです。
  そして、カノンキャラも登場。まだ顔見せ程度ですが。
  あと結構皆さん気になっているらしいフーガの活躍ですが取り敢えずは次回です。今回は変身シーンで勘弁です。こちらの変身も色物です。マキナよかましかも知れませんが。
  次回は殆ど戦闘になると思います。そしてフーガの初の本格的な戦闘シーンです。
  
  で、補足
  この第二話、一話と同じ日です。
  そしてディープ・ワン。これは他のライダーで言う戦闘員です。そんなに強くありません。充分化け物ですけど。これにも幾つかバリエーションがあります。普通の半漁人が一番下っ端です。

  さて、他に555やエアのキャラはまだちょっと先になります。

  それはそれとして、最近始めたバイトがきついです。朝8時から夜10時まで休憩なし。交通も片道一時間以上かかるし。MAKINA書く体力が〜。

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