<カノンベース食堂 12:29PM>
地球を守る正義の味方・奇蹟戦隊カノンレンジャーの秘密基地カノンベース。
そこで働いている職員はかなりの数に上る。当然の事ながらそのほぼ全てが上部組織・ISDOから出向している様々なスペシャリストだ。だが、中には全くISDOとは関係のない職員もいる。例を挙げればカノンベース内の清掃員だったり格納庫などで働いている整備員だったりするのだが、ここ、カノンベース内の食堂で厨房を任されているスタッフもやはりISDOとは関係のない人々であった。しかし、一体どう言うコネで集められたのか、シェフとしての腕前はかなりのものであり、何時もお昼頃になるとこの食堂は人で一杯になる。
この日、このカノンベースで一応もっとも偉い司令官である相沢祐一は司令室のオペレーターズを伴って昼食を取りにやってきていた。
4人掛けの丸テーブルに陣取り、この食堂で一番人気と名高いAランチの乗ったトレイを前にして、彼は3人のオペレーターズを見やった。
「さぁ、今日は俺の奢りだから気にせずに食べてくれ」
「そりゃまぁ気にしませんけどぉ」
そう言ったのはオペレーターズの一人だ。彼女の前にも祐一と同じくAランチの乗ったトレイ。
「奢りだって言ってもAランチですもんねぇ〜」
「もっといいもの食べさせてくれると思ったのに」
残る二人もそう言って3人が同時に「ねぇ〜」と言ってため息をつく。
「お前らな、ここでAランチって言ったらかなりの人気メニューなんだぞ。俺だって久し振りなんだから文句言うな」
ちょっとこめかみをピクピクさせながら祐一が言う。
確かに彼の言う通りこのカノンベースの食堂でAランチと言えばかなりの人気メニューであり、売り切れになることもしばしばである。だが、その理由の最たるものは何と言っても値段の安さだろう。相当いいものを使っていそうなのにたったの500円。これでは人気もでて当然である。
「まぁ、確かに司令のおかげで食べられますけど……」
オペレーターズの3人は今までで一度もこのAランチを食べたことがない。ただの偶然なのだろうが、そんな事を言っていたのでわざわざ祐一が早めに来て確保しておいたのだ。まぁ、久し振りだったので本人が食べたかっただけ、と言う気もしないでもないのだが、わざわざ他の3人分も確保しているあたりこれも彼の人気取りの一環なのだろう。
「それじゃ文句ないだろ」
「う〜ん……」
まだ何処か不服そうなオペレーターズの3人。
「何だよ、まだ何か文句あるのか?」
流石の祐一もちょっとムッとしてきたようだ。
それを敏感に感じ取ったオペレーターズの3人は慌てて取り繕ったような笑顔を浮かべて目の前のAランチに箸を付けるのだった。
何とも微妙な空気を漂わせながら祐一とオペレーターズの昼食会が始まる。
と、そこに本日の特訓午前の部を終えたカノンレンジャーの5人がわらわらとやって来た。
どの顔も疲れ切っている。どうやら今日の特訓のメニューは朝からかなりきつめだったようだ。
「あう〜……」
「うにゅ〜……」
「うぐぅ……」
前を歩く3人はガックリと肩を落として、そして少し遅れて更にぐったりと成り、もはや自分の足で歩くことすらままならない美坂 栞を背負った川澄 舞が疲れたように歩いている。
とりあえず空いているテーブルを見つけると5人はイスに座ると同時にテーブルの上に突っ伏した。
「は、ハードだったわ、今日は特に……」
そう呟いたのは沢渡真琴。
「か、カノンジェットが完成してから何か今まで以上にハードになったね……」
息も絶え絶え、と言う感じでそう言ったのは水瀬名雪。
「うぐぅ……もう身体保たないよぉ……」
半泣きなのは月宮あゆ。
「………ハァァ」
ため息をついたのは舞。
栞にいたってはもはや喋る元気すらないようだ。
そんな5人を遠目に見ながら祐一は、一体どう言う特訓メニューが組まれているか密かに心配になるのであった。いざ戦闘と言う時にあの調子でははっきり言って何の役にも立たないのだから。

奇蹟戦隊カノンレンジャー
SIXTH ACT.燃えろ、友情バトル!!

<市街地 14:19PM>
平和な町に突如現れた謎の小型UFO。
見事なまでに小型の為、ISDOの誇るレーダー網にすら引っかからず、そのUFOはあっと言う間に日本のとある街の上空にまで降下してきていた。で、地元住民の通報によりようやく警察やら防衛軍やらが出動、同時にISDOへと出動要請が出されたのが今から1時間半程前。
小型UFOは着陸もせず、まるで何かを待っているかのようにふわふわ漂っている。その下には完全装備の防衛軍の部隊が展開しており、更にその周囲を警察が囲っていた。もっとも町中なので戦車などは出動出来ず、いるのは自動小銃などを持った防衛軍の人々と、彼らを運んできた特殊装甲車のみである。警察は余り関与したくないようで、野次馬などを遠ざけることに専念しているようだ。
「一体どう言うつもりだ、あれは……」
忌々しげに地上から小型UFOを見上げる防衛軍の隊長。よく見れば前回、巨大骨鬼に散々な目に遭わされた人である。前回はかなりの大部隊を率いていたのに今回は一部隊だけ。どうやら前回の責任を取らされて降格されてしまったらしい。
「ISDOの連中は出動したのか?」
部下に向かってそう尋ねると、部下はしっかりと頷いた。
「はい、出動したそうです!」
「……ちゃんとこの場所は伝えてあるな?」
「はい、もちろんであります!」
「……ならいいんだが……」
何となく不安になる隊長。
何せ前回が前回である。自分の率いていた部隊は壊滅、その上ISDOからやって来た巨大ジェット戦闘機の巻き起こしたソニックブームに何度も何度も吹っ飛ばされたのだから。今回は市街地の中だから、まさか前回同様あの巨大ジェット機でやってくると言うことはあり得ないだろうが……それでも嫌な予感がしてならない。何と言っても、出動要請が出されてから1時間半も経つのにISDOの連中がやってこないと言うことがその嫌な予感を増長させていた。
ちなみに、ISDOに出された出動要請はそのままカノンベースに伝えられ、すぐさまカノンレンジャーの面々が出動することになったのだが、彼女たちはものの見事に道に迷っていたと言う。
閑話休題。
一体何を考えて上空を漂っているのか、小型UFOは降りてこなければ何処かへ行ってしまう気配も見せない。その為に防衛軍の隊長もどうするべきか頭を悩ませていた。
防衛軍とはその名の通り外敵から一般市民を守る為の軍隊であり、その性格上、先制攻撃をすることは認められていない。流石に威嚇射撃などは認められているが、それをこの市街地のど真ん中でやる訳にもいかず、いや、それ以前に威嚇射撃したところで通じる相手なのかどうかさえ疑問であったのだが。
「せめて何らかのアクションを起こしてくれればなぁ」
隊長がそうぼやいた時、いきなり小型UFOが降下し始めた。
「そ、総員退避!!」
慌てて叫ぶ隊長。その命令と同時にさっと円形状に防衛軍が後退し、その空いたど真ん中に小型UFOが着陸した。
着陸した小型UFOを防衛軍が取り囲み、更にその周囲を警官隊が包囲した。静かな緊張感がその場に張りつめる。
と、小型UFOの上部が開き始めた。
それを見ながら、更なる緊張感が防衛軍に走る。一体中から何が出てくるのか。おそらくは宇宙人だろうが、果たして友好的な宇宙人なのか、それとも悪の宇宙人なのか。おそらくは後者の可能性が強いような気もする隊長である。とりあえず部下には銃を構えさせ、いつでも発砲出来る体勢をとらせておく。
小型UFOの上部が完全に開ききり、中から不気味な姿の宇宙人が姿を現した。その宇宙人は大きく伸びをすると、周囲の防衛軍の隊員達を見回した。
「ふわぁぁああ、ちょっと寝過ごしちまったようだぜ……さて、少し眠気覚ましの運動でもさせて貰うかな?」
宇宙人はそう言うと右手に反り身の剣、左手にショットガンを持って小型UFOから地上へと降り立った。そしてニヤリと壮絶な笑みを浮かべる。
「じゅ、銃撃開始!!」
隊長が慌てたようにそう言い、周囲にいた隊員達が一斉に発砲を開始した。
周囲から降り注ぐ銃弾の雨の中、宇宙人は軽やかに宙に舞い、その銃弾をかわすと左手のショットガンを構え、引き金を引いた。その一撃で数人の防衛軍隊員が吹っ飛ばされてしまう。
「う、撃て! 間をおかずに撃つんだ!!」
隊長が叫び、自らも持っている拳銃の引き金を引く。
今度は右手に持っている剣を目にも止まらぬ速さで振り回し銃弾を全て切り落とす宇宙人。全ての銃弾を切り落とすと、ニヤリと壮絶な笑みを浮かべて防衛軍の隊員達を見回した。
「ヒ、ヒィィィィィッ!!」
宇宙人の余りにも常識外れの強さに悲鳴を上げて逃げ出す防衛軍の隊員達。
「こ、こらぁ! 勝手に逃げるなど……」
逃げ出す隊員達を見て隊長が怒鳴り声をあげるが、それでも隊員達の逃亡は止まらない。更に防衛軍の外側にいた警官隊も宇宙人の信じられないと言うか信じたくない強さを見て三々五々、逃亡を開始していた。
「全く、これだからISDOなんぞにでかい顔をされるというのだ!」
ふと気がつけばその場に残っているのは責任感の強い隊長一人。自分の部下達のあまりもの不甲斐なさに憤慨する隊長だが、そんな彼の背後に宇宙人がすっと音もなく忍び寄ってきた。
背後から感じる異様な気配にゆっくりと隊長が振り返ると、目の前に宇宙人が立っており、ニヤニヤと笑ってこちらを見下ろしていた。
「ひ、ひぃぃっ!!」
情けない悲鳴を上げて後ずさる隊長。それでも拳銃を構えただけ逃げていった隊員達よりもマシだろう。だが、彼が構えた拳銃は宇宙人の目にも止まらない剣技によってあっさり分解されてしまう。
「おおおっ!?」
目の前でシャレにならないものを見せられ、もはや呻くしか出来ない隊長。
「へへへ、逃げ出さなかっただけあんたはマシだ。だがこの程度じゃ準備運動にもならねぇ」
ニヤニヤ笑いながら宇宙人がそう言った。そしてゆっくりと右手の剣を振り上げる。
振り上げられた剣を見ながら隊長は、もうダメだ、と思った。あれを振り下ろされれば一溜まりもない。脳裏に浮かぶのは妻と我が子の姿。先立つ自分を許してくれ、せめて我が子はこんな訳のわからない連中と戦うような道にだけは進んでくれるな、等と考えているとけたたましいエンジン音、ブレーキ音が聞こえてきた。
視線を音の聞こえてきた方向へと向けるとちょっと先の角から物凄いスピードで一台のジープが飛び出してきているではないか。しかもそのジープは全くスピードを落とすことなくこちらへと向かってきている。
「お、おい! 待て待て待てっ!!」
両手をばたばたと振り回してそう叫ぶ隊長。
そんな隊長の様子に、宇宙人が訝しげな顔をして振り返ると猛スピードで走ってきたジープが宇宙人の乗ってきた小型UFOに激突していた。
あまりにも突然のことに流石の宇宙人も思わずぽかんとしてしまう。
宇宙人と隊長が呆然と見ていると小型UFOにぶつかった前部から煙を噴き上げているジープの中から5人の女性がふらふらと降りてきた。
「あいたたた……だからこれで行くのはいやだったのよ!」
何処かにぶつけたらしい額を手で押さえながら真琴がそう怒鳴る。
「そんな事言ってもこれしか移動手段がありませんし」
妙に冷静にそう言ったのは栞である。上手く受け身をとったのかそれとも誰かをクッション代わりにしたのか、彼女自身は無傷である。
「だったらせめて運転手変えなさいよ! 舞の運転だとこうなるの、解ってたでしょ!!」
「でも免許持ってるの舞さんだけだしね〜」
憤っている真琴に名雪がのんびりとした声でそう言うと、何故かその隣で舞がVサインを出していた。
「もう、名雪もあゆも免許取りに行ってるんでしょ!! だったら交代するとかなんか無いの!?」
「ダメだよ〜、まだ仮免取ったばかりだし」
「うぐぅ……ボクはまだまだだよ……」
更に憤る真琴に困ったような笑みを浮かべて答える名雪とちょっと哀しげな顔をするあゆ。
「ああ、もう!!」
思わず地団駄をふむ真琴。
そんな5人のやり取りを呆然と見ていた宇宙人がハッと我に返った。
「な、な、何だ、お前らは!?」
思わずどもってしまったのはまだ本調子を取り戻していない証拠だろう。
宇宙人に呼びかけられた5人は揃ってその宇宙人を見ると顔を見合わせた。それから5人で小さな円陣を組み、何やらぼそぼそ話し出す。
「あれって宇宙人ですよね?」
「多分そうだと思うよ」
「じゃ、敵?」
「だと思う……」
「でも通報受けたのって確かUFO……」
「そのUFOから降りてきたんじゃないかな?」
「じゃ、そのUFOはどこに行ったの?」
「あの宇宙人さんを降ろして何処かに行った……」
「何で宇宙人だけ残してUFOが消えるのよ」
何か激しく見当違いのことを話し合っている5人。
自分の質問を完全に無視されていた宇宙人は段々苛々してきたらしく、今度は大声で怒鳴った。
「お前ら、この俺を無視してるんじゃねぇっ!!」
流石にその怒鳴り声で5人は顔を上げて宇宙人の方を見た。だが、すぐに互いに顔を見合わせ、またひそひそ話モードに突入する。
「何か言っているみたいだけど?」
「とりあえず例の下っ端戦闘員がいないからいつもの敵なのかどうか判断出来ませんね」
「何となくいつもの敵って気もするけど」
「実は別の敵で、新たに地球を侵略に来たとか」
「何にせよ敵なら倒す……」
「そうだね」
どうやらようやく結論に達したようである。5人は円陣を解くと、一列に並んで宇宙人と向き合った。
「やっとまともにやる気になったか……お前ら、一体何者……」
「その前に!」
宇宙人が何か言いかけるのを遮るようにして栞が手を突き出した。ビシッと宇宙人を指さして尋ねる。
「あなた、敵ですね!?」
その余りにも突拍子のない問いに思わずその場で豪快にこける宇宙人と防衛軍の隊長。
「お、お前らはこいつを見て味方だと思えるのか!!」
防衛軍の隊長が怒鳴ると、それもそうかと5人が頷き合った。中にはポンと手を叩いている者までいる。具体的に言えば舞だが。
「な、何なんだ、お前らは!!」
すっかりペースを乱された宇宙人がそう言うと5人は今度はキリッと表情を引き締めて頷き合った。そして左手首に装着したブレスレットを構える。
「ミラクルチェンジャー、セットオン!」
同時に叫び、ブレスレットのボタンを押した。次の瞬間ブレスレットが光り輝き、その光の中、5人の身体を強化スーツが覆っていく。
「カノンレッド!!」
「カノンブルー!!」
「カノンイエロー!!」
「カノンピンク!!」
「カノンパープル!」
5人が次々と名乗りを上げた。
「天から降り立った5つの希望!!」
バッと5人が揃って右手を天に向かって突き上げる。
「奇蹟戦隊!! カノンレンジャー!!」
5人の声が揃い、一斉にポーズを取る。例によってその背後でタイミングよく爆発が起こった。まるで誰かがタイミングを計っていたかのように。
それを見た宇宙人はしばしの間呆然としていたが、やがてニヤリと笑みを漏らした。
「面白れぇ……この俺の相手をしてくれるって訳か……」
楽しそうにそう言うと、宇宙人は地を蹴ってジャンプした。もう用はないとばかりにその場に防衛軍の隊長を残して。
「……来る!」
「見たら解るって」
さっと散開する5人。それぞれ手に共通装備のカノンブレイダーを手にしている。5人が5人ともガンモードにし、こちらに向かってくる宇宙人に向かって発砲した。
着地した宇宙人はすぐさまジャンプしてカノンブレイダーから発射されたエネルギー弾をかわすと、空中で左手に持っているショットガンの引き金を引く。
「きゃああっ!!」
「………っ!!」
ショットガンから発射された散弾を浴びて吹っ飛ばされるカノンピンクとカノンパープル。
「舞さんっ! 栞ちゃんっ!!」
吹っ飛ばされる二人を見て、カノンブルーが声をあげる。
そんな彼女の前に宇宙人が降り立ち、思い切り蹴り飛ばした。
「名雪さんっ!!」
「このぉっ!!」
蹴り飛ばされたカノンブルーを見て声をあげるカノンレッドと、宇宙人に向かって突っ込んでいくカノンイエロー。
「甘いな」
突っ込んで来たカノンイエローをあっさりと弾き返し、右手の剣で斬りつけようとする宇宙人だが何とかカノンイエローはその一撃をかわして後退した。
「何、こいつ……強いじゃない!」
カノンイエローがそう言うとカノンレッドが大きく頷いた。そして手に専用装備であるバスターライフルを構える。
「真琴ちゃん、援護するから突っ込んで」
「はぁ!? 何で真琴が突っ込まなきゃいけないのよ?」
カノンレッドの提案にカノンイエローがあからさまなまでに不服そうな声を出して振り返った。
「さっき見た通りあいつは滅茶苦茶強いのよ! 何で真琴だけが突っ込んでいけないとダメなのよ! そう言うことはあんたが先にやってから言いなさいよ!」
そう言ってビシィッとカノンレッドに指を突き付けるカノンイエロー。
「な、何でって……」
指を突き付けられたカノンレッドはカノンイエローの迫力に正直言ってびびっていたが、それでもここは譲れないらしく弱気な声で言い返す。
「真琴ちゃんの専用武器って接近戦用じゃない。ボクの専用武器は遠距離戦用だし。だったら真琴ちゃんが突っ込んでいくのが当然じゃないかぁ」
「あんたのは遠距離戦用って言ったって一個も当たらないじゃない! この間の射撃訓練の成績言ってみなさいよ!」
「う、うぐぅ……それは確かに悪かったけど、それでも真琴ちゃんよりはマシだよ!」
「う……確かに10発中1発しか当たってなかったけど……」
「ボクは10発中2発は当ててたもん」
「それって偶然上手くいっただけじゃない! だいたいあんたに援護だけはして貰いたくはないわね!」
「な、何でだよ!?」
「あんたに援護して貰うと後ろから撃たれそうだからよ!!」
「そんな事しないもん!!」
「いーえ、あんたならやるわ!」
「しない!」
「する!」
目の前にいる宇宙人そっちのけで口げんかを始めるカノンレッドとカノンイエロー。
それを見てまたも宇宙人は呆然としてしまう。まさかこの自分を前にして仲間割れをし始める相手など今まで何処の星にもいなかったからだ。一体何なのだ、こいつらは。
と、その時だ。いきなり何処からともなく発煙筒がその場に投げ込まれてきたのは。しかも一本や二本ではない。いきなり複数の発煙筒が投げ込まれ、周囲はあっと言う間に煙に覆い尽くされる。
「な、何だ、この煙は!?」
宇宙人が驚きの声をあげた。
少し経ってその煙が晴れると、そこには宇宙人を残し誰も姿もなくなっていた。カノンレンジャーの5人以外にも逃げ遅れていた防衛軍の隊長さえも。
「……フッ、まぁいい。奴らの力の程度は知れた」
宇宙人はそう言うと自分のUFOへと戻っていった。

<カノンベース 16:02PM>
市街地での戦闘を監視していたISDO警備部の面々の機転のおかげで何とかあの場から脱出することの出来たカノンレンジャーの5人を前にして、祐一はため息をつくほか無かった。
「まぁ……警備部の連中が機転を効かせて発煙筒を投げ込んでくれたから良かったものの……何だ、あの様は?」
彼の後ろにあるモニターでは謎の宇宙人相手にやられる一方のカノンレンジャーが映し出されている。
「こいつは確かに強いが……なんて言うか、それ以前に色々と問題があるな……特にあゆと真琴」
呆れたようにそう言って祐一は未だ不服そうな真琴とあゆを見やった。互いに顔も見たくないらしくぷいとそっぽを向いている。
「真琴は悪くないもん」
「ボクだって」
「何よ、あんたがあんな無茶なこと言うから!」
「ボクは一番いい方法を考えただけだよ!」
「あんたのその頭で考えた方法なんかどうせロクなものじゃないわよ!」
「だったらたまには真琴ちゃんが作戦を考えたらいいじゃない! そのちょっと足りない怒りっぽい頭でさ!」
「何ですってぇ!! 誰がちょっと足りない頭よ!!」
「へへぇ〜、自覚があったんだ」
「あんたの頭よりは遙かにマシよぉっ!!」
「言ったなぁっ!!」
あの宇宙人の前と同じくまたケンカを始める二人を見て、祐一ははぁとため息をついた。とりあえず助けを求めるように隣に立っているカノンレンジャー訓練教官である七瀬留美の方をちらりと見る。
彼女もため息をつき、首を左右に振る。これはどうしようもないと言いたげだ。
「……とりあえず解散。おって指示するまで待機だ」
何やら諦めの境地で解散を命じ、祐一は3度目のため息をつくのだった。
ゾロゾロ出ていく5人を見送ってから祐一は留美の方を向く。
「こんな事をお前に言ってもどうしようもないと思うが……」
「なら言わないで。何が言いたいかだいたい解るから」
留美はあえて祐一と視線を合わせようとはせずにそう答えた。
「解るなら何とかしてくれ。あの調子だとこれからの戦いに物凄く悪影響をもたらすぞ」
「そうかも知れないけど、それは私の仕事じゃないわね。むしろあんたの仕事でしょ?」
相変わらず視線を合わせないまま留美にそう言われ、祐一はうっと唸り声をあげる。
「私は敵のデータを分析して貰って何とか対策を練るわ。あんたはその間にあの二人の仲を取り持つこと。これで行きましょう」
「勝手に決めるな。ここの司令官は俺だぞ」
少しムッとしたように祐一が言うが留美は何処吹く風である。先程までモニターに映しだしていたVTRのディスクを取り出すと、それをケースに収めて司令室から出ていこうとした。
「おい、七瀬」
「何?」
祐一の声に足を止める留美。
「そっちの方はよろしく頼むわ。俺はそっちにまで関わっていられなさそうだし」
「どっちの方が難問かって言うとあんたの方だと思うけどね。まぁ、任されたわ」
そう言って手を振り、留美は司令室から出ていった。
それを見届けた祐一は丁度これで4度目のため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
(こりゃ秋子さんが胃薬飲んでいたって言うのも解る気がする……)
何となく目頭を手で押さえ、首を左右に振るのであった。

<要塞艦ヴェルドリンガ 16:33PM>
いきなり乗り込んできた小型UFOに要塞艦ヴェルドリンガの内部は騒然となっていた。
下級戦闘員パッタシー達は小型UFOの入ってきた格納庫に集結し、小型UFOを警戒するように取り囲んでいる。その様子は地球上と全く変わらなかった。
小型UFOの上部ハッチが開き、中から宇宙人が姿を現す。
「はっはっはっ! 警戒するな! 俺は敵じゃねぇ!!」
宇宙人は小型UFOから降りると、豪快な笑い声をあげ歩き出した。
その余りにも堂々とした態度にパッタシー達は思わず道を開けてしまう。
二手に分かれたパッタシーの間を悠然と歩いていく宇宙人だが、その行く手に黄金の鎧を着た獣将軍ガイターが現れた。手には例によって大剣を持ち、臨戦態勢を取っている。
「テメェ……何者かは知らねぇが、ここで好き勝手はさせねぇ!!」
そう言ってガイターが体験を振り上げた。
「やめな、ガイター! そいつはこの私が呼んだのさ」
ガイターの背後から鋭い声と共に鞭が伸び、ガイターの大剣を持つ手に絡みつく。
ちらりとガイターが振り返ると、そこには姫将軍リオカーが立っている。手にはガイターの手を絡め取っている鞭を持っていたが、すぐにガイターの手から鞭を解いた。そしてゆっくりと、優雅に歩いてくる。
「遅かったじゃない、クッディリー。何処で油を売っていたのかしら?」
リオカーが正面に立っている宇宙人、クッディリーに向かってそう言うとクッディリーは肩を竦めてみせた。
「ヘヘッ、約束の時間にはまだ間があったんでね。あの星を見に行っていたのさ」
「そう……で、どうだったのかしら?」
「大したことねーな。この俺の手にかかりゃあんな星一日で手に入れてやるぜ」
「ほう……随分と自信過剰だな、貴様」
そう言ったのはガイターだ。流石に大剣は鞘に収めているが、相手を威圧するかのように睨み付けている。
「あの星を一日で手に入れられると言うならやってもらおうではないか」
「フフッ、まぁそう焦んなさんな。まずは契約と行こうぜ、姫将軍様よ」
クッディリーはニヤリと笑みを浮かべてそう言うと、馴れ馴れしげにリオカーの肩に手を回した。だが、その手はあえなくリオカーによって払われてしまう。一瞬払われた手を見てきょとんとした表情を浮かべるクッディリーだが、すぐにまたニヤリと笑い、ついで、大声で笑い始めた。
「はっはっは! 気に入ったぜ、あんた! あんたの為にあの星、俺が手に入れてやる!!」
豪快に笑うクッディリーを見て苦々しげな表情を浮かべるガイター。
一方、リオカーは少しムッとしたような表情を浮かべていたが、やがて無言で歩き出した。まだ笑っているクッディリーを一瞥すると、ついてこいとばかりに首を振ってみせる。
奧へと続く通路へと消えていくリオカーとクッディリーを見送りつつ、ガイターは忌々しげに舌打ちを漏らすのであった。

<カノンベース 17:42PM>
一度皆と別れた真琴はしばらくの間自分の部屋に籠もっていたが、そろそろ夕飯時と言うこともあり部屋から出て、食堂へと向かった。いつもなら他の誰かと一緒に行くのだが、今日に限っては誰とも会いたいと思わなかったので一人でとぼとぼ歩いていく。
「よぉ、真琴。何処行くんだ?」
いきなり声をかけられ、真琴が顔を上げると祐一が壁にもたれて立っていた。キザっぽく前髪をかき上げ、歯をキラーンと光らせ、ニッコリと笑みを浮かべながら。
「何だ、ゆーいちかぁ……」
真琴は祐一を見ると、はぁとため息をついた。
「おいおい、随分な扱いだな」
そう言って歩き出す真琴に祐一は苦笑を浮かべ、彼女と並んで歩き出す。
しばらく無言で歩いていたが、やがてその沈黙に耐えられなくなったように真琴が足を止め、祐一を振り返った。
「一体何なのよ! 何か話があるならさっさと言えばいいじゃない!!」
語気荒くそう言うときっと祐一を睨み付ける。
睨み付けられた側の祐一は少し肩を竦めて見せただけで、あっさりとその視線を受け流してしまう。真琴ぐらいの少女に睨み付けられたところで少しも怖くないと言うことなのだろう。
「まぁまぁ、そう怒鳴るな。ちょっとお前に見せたいものがあってな。付いて来いよ」
祐一はそう言うと、さっさと歩き出した。後ろを振り返ることはしない。まるで真琴が付いて来ることを確信しているかのようだ。
真琴は少しの間、歩いていく祐一の背を見ていたが、やがて仕方なさそうに彼の背を追いかけ始めた。

<カノンベース 17:51PM>
カノンベースの下層へと向かうエレベータの中、行き先すら教えて貰ってない真琴は不服そうに頬を膨らませながら同乗者である祐一を見つめていた。
ニヤニヤ笑っている、あの笑みの下では一体何を考えているのか解らない。昔はもう少し解りやすかったのだが、何時の頃からか彼が何を考えているのか全くわからなくなった。そう、あれは……ISDOの何らかの実験に参加すると言って出ていったあの日から。
一方、祐一はエレベータの表示を無言でじっと見つめている。目的の場所はもう少し下の階層にある。果たしてそこにまだいるのかどうか、それに関しては少々自信がないのだが、あえてそれは表情には浮かべない。
エレベータが停止する。ほとんど衝撃がないのはISDOの誇る最新技術のおかげだろう。こう言うところには無駄と思えるほど気を遣うのがISDOと言う組織なのだ。
「さて、ここだが……お前も来たことあるだろ?」
そう言って真琴を見ると、彼女は視線を逸らせながら小さく頷いた。その様子からここには滅多に来ないことが瞬時に理解出来てしまう。
「……お前な、自分が射撃が下手だって事をちゃんと解ってるか?」
「わ、解ってるわよぉ……」
やはり視線を合わせようとはしない真琴。よく見れば冷や汗もかいている。
「……七瀬から聞いたんだが……射撃の成績、一番悪いのはお前だってな。本当に解ってるか?」
「………解ってる……つもり」
「……つもりでどーする、つもりで。全く……」
やや呆れたような顔をしながら祐一は奧へと歩き出した。渋々という感じで付いていく真琴。
二人の行く先には射撃訓練場がある。カノンベースの中でもかなりの下層部分にあるのは騒音やら誤射に対する対策の為であった。実はこのカノンベースが稼働する前、ISDO基地の射撃訓練場で何処かの誰かが派手な誤射をやり、周辺施設にかなりの被害をもたらしたと言う事件があり、その為に周囲に被害が出なさそうな格納庫よりも更に下層の部分を射撃訓練場としたのだ。
射撃訓練場の隣にある監視ルームのドアを開けると、中には先客がいた。
「あら、いらっしゃい」
そう言って振り返ったのは留美だった。
「よぉ、邪魔するぜ」
軽く片手をあげ、そう言った祐一は空いているイスを自分の方に引き寄せるとその上に腰を下ろした。それからドアのところで立ち尽くしている真琴を振り返る。
「何そんなところでボケッと立っているんだよ。ほら、さっさと入ってこい」
そう言って手招きする祐一。
だが、それでも真琴は入ってこようとはしなかった。どうやら一緒にいる留美に臆しているらしい。それもそうだろう、留美はカノンレンジャーにとっては鬼の訓練教官なのだから。
「……あたし、少し席外すわ」
そう言って留美が立ち上がった。
「悪いな、七瀬」
「別に構わないわよ。まぁ、後でこの埋め合わせはして貰うつもりだけど」
出ていこうとする留美に向かって申し訳なさそうに言う祐一だが、そんな彼に留美は軽く笑みを返してそう言い、そのまま監視ルームから出ていった。彼女と入れ違いになるように真琴が中に入って来、先程まで留美が座っていたイスに腰を下ろした。
しばらくの間、二人は口も開かず、じっと闇に包まれた射撃訓練場を見つめている。どうやら誰かがいて、射撃の訓練をやっているようだがそれが誰だかまでは解らなかった。
「……ねぇ」
沈黙に耐えかねたのか真琴が先に口を開いた。
「何だ?」
祐一はじっと闇の中、射撃訓練を行っているであろう誰かを見ているようだった。視線はそこから外さず、だが真琴の呼びかけにはちゃんと答えている。
「何で……連れてきたの? 射撃訓練でもやらせるんだと思ってたけど」
「……お前に見せたいものがあっただけさ。それに……今更射撃訓練なんかやらせたって無駄だろ。お前はお前の長所を伸ばした方がいい」
そう言って祐一が立ち上がり、射撃訓練場の中を指さした。その指の先では誰かが射撃訓練を行っている。祐一にはあれが誰だか解っているようだ。
真琴が彼の指先を追うように視線を向け、目を凝らすと、今も必死に射撃訓練を行っているのが誰かすぐに解った。
「……あゆ……?」
驚いたように祐一の方を振り返る真琴。
「まぁ、そう言うこった。あいつもあいつなりに色々と努力しているってな」
頷いてそう言う祐一に、真琴はまた射撃訓練を行っているあゆを振り返った。
持っているのはバスターライフルと同じ大きさの銃。訓練用にわざわざ技術部が作り上げたレプリカバスターライフルだ。発射するのが練習用の弾丸である以外は本物のバスターライフルと全く一緒である。
さっきから何度も何度あゆはレプリカバスターライフルを構えては引き金を引き、弾丸が無くなると新たな弾丸を装填し、また引き金を引くという作業を繰り返している。しかしながら、レプリカバスターライフルから発射された弾丸の命中率は果てしなく悪かった。10発中2発当たればいい方だ。的はまだまだ綺麗なものである。
「………命中率は相変わらずのようだけど?」
「まぁ、それはあれだ、まだまだ努力が足りないって事でな」
じと目でこちらを見つめてくる真琴に対し、祐一はさっと視線を逸らせていた。
「しかしまぁ、何にせよ、あいつはあいつなりに頑張っているんだ。少しは信用してやったらどうだ?」
「……?」
「さっきも言ったがな。真琴、お前の一番の長所はその身の軽さだ。お前がフォワードであゆがバックス、これはこれで一応理想的なフォーメーションなんだぞ?」
「で、でも……」
「あいつの射撃能力の低さは……解る。痛いほど解る。だが、それを努力で補おうとしているんだ、少しは信頼してやれ。それが仲間ってもんだ」
真剣な眼をしてそう言う祐一だが、真琴は何も答えようとはしなかった。それどころか、ダッと駆け出し、その場から逃げていってしまう。
「あ、おい、真琴!」
呼び止めようとする祐一だが、時既に遅し。彼女はそのまま廊下を走り去っていってしまう。
「……やれやれ」
ぽりぽりと頭をかく祐一。その顔には困ったような表情が浮かんでいる。果たしてどうしたものか。流石に思いつかない。
「”やれやれ”じゃないわよ。どうする気なの、一体?」
そう言いながら留美が中に入ってくる。少し彼を非難するような目をしながら。
「まぁ……なるようになるさ。何時だってそうやって何とかなってきたんだからな」
誤魔化すように祐一は笑みを浮かべながらそう答えるのであった。

<要塞艦ヴェルドリンガ 12:34PM>
要塞艦ヴェルドリンガの中にあるとある一室から豪快な笑い声が聞こえてくる。五大軍団の一つ、傭兵師団主将・姫将軍リオカーがわざわざ呼び寄せた宇宙傭兵クッディリーの声だ。
そこに苛々しながらクッディリーを呼び寄せた張本人である姫将軍リオカーがやってくる。彼女は乱暴にドアを開けると手に持った鞭を打ち鳴らしながら中に入ってきた。
「おう、これはこれは……姫将軍殿では御座いませんか。御機嫌麗しゅう」
クッディリーが立ち上がり、リオカーを迎え入れようとするが彼女はまた派手に鞭を打ち鳴らすときっとクッディリーを睨み付ける。もし、視線だけで相手を殺せるならばこの時のリオカーの視線はまさしくそれが可能であっただろう。それほど険しい視線でクッディリーを睨み付けている。
「何が”御機嫌麗しゅう”だ、クッディリー!!」
語気荒くそう言うと、リオカーは同じ部屋にいた下級戦闘員パッタシーやこの要塞艦ヴェルドリンガで幹部クラスの世話をする為に集められた女性型宇宙人達に出ていくように命じた。
「やれやれ……御機嫌麗しいどころか随分と御機嫌斜めのようですな、姫将軍殿」
リオカーの険しい視線に肩を竦めながらそう言うと、クッディリーは先程まで座っていたイスに腰を下ろした。そしてサイドテーブルの上に置いてあるグラスを手に取る。中にはまだ琥珀色の液体が残されていたが、それを口に運ぶ前にリオカーの手にある鞭が唸りを上げて飛び、グラスを打ち砕いた。中に残されていた琥珀色の液体が飛び散り、クッディリーの頬と手を濡らす。
「おかげさまでね、すこぶる御機嫌斜めだよ」
手元に鞭を引き戻しながらリオカーが言い放った。
「一体何時になったら地球を征服してくれるんだい? 私はお前を遊ばせる為にここに呼んだ訳じゃないんだよ!」
「フッ……あんな星いつでも征服出来るっていっただろ? この俺、宇宙最強の傭兵、クッディリー様の手にかかりゃあんな星なんざ……」
「ならば今すぐにやって貰いたいものだな、クッディリーとやら」
「おう、口先ばかりじゃねぇことを証明して貰おうじゃねぇか」
クッディリーの発言を制しながら姿を見せたのはリオカーと同じく五大軍団の一つを率いる豪将軍ゴラドと獣将軍ガイターの二人。両者ともニヤニヤと笑みを浮かべている。どうやらクッディリーの実力を見くびっているようだ。
「ふん……あんたらの言うなりになるってのは気にいらねぇが……他ならぬ姫将軍殿のお達しだ。ちょっくら行ってくるかね」
そう言ってクッディリーが立ち上がる。首をコキコキ鳴らしながら回し、ゆっくりと歩き出す。
「まぁ見てな。あんたらの軍団員が苦戦した連中、俺があっと言う間に倒してやるからよ」
自分の前を塞ぐガイターに向かってそう言い、ニヤリと笑うクッディリー。
ムッとなるガイターを押しのけ、クッディリーはそのまま格納庫へと向かっていった。自らが乗ってきた小型UFOで地球へと向かうつもりなのだ。
「ふん、気にいらん奴だ!」
「よりによってあのような奴とは……奴が自らの宣言通り地球を征服したらどうする気だ、リオカー?」
ゴラドがリオカーを振り返るが、リオカーは口元を歪めてニヤリと笑うだけだった。
「……まぁ、その時はその時か。大元帥閣下のご沙汰を待つのみ……」

<カノンベース 13:04PM>
ISDOが誇る衛星軌道監視レーダー網。
前回はそのレーダー網をあっさりと抜けてきた小型UFOだったが、前回の反省を早速活かし、より監視の網を狭めていたので今回は地球に到達する前にその存在が探知されていた。そしてレーダー網を管理しているレーダー基地からすぐさまカノンベースへと警報が伝えられる。
「レーダー基地より通達! 前回と同タイプの小型UFOが大気圏内に突入しました!」
レーダー基地から伝えられたことをすぐさま報告するオペレーター。
「で、場所は?」
司令席から尋ねる祐一。その声はあくまで冷静だ。
「前回と同じく日本上空です! おそらくは前回と全く同じ場所に降下するのではないでしょうか?」
通達に続いて送られてきたデータを元に小型UFOの降下先を推測したデータを持って振り返る別のオペレーター。
「よし、カノンレンジャーに出動命令を出せ! 今回は前みたいに一時間半も敵は待ってくれないぞ……多分」
「了解! カノンレンジャーの皆さん、直ちに出動してください! カノンレンジャーの皆さん、直ちに出動してください!!」
祐一の命を受け、カノンベース内に館内放送をかけるオペレーター。
一応、この三人は別人である。
それはさておき、この館内放送をカノンレンジャーの5人はそれぞれ全く別の場所で聞いていた。
あゆは相変わらず下層にある射撃訓練場。
舞はいつもの訓練場。
名雪は食堂。
真琴は自分の部屋。
そして栞は何故かジープなどが置いてある格納庫。
「……フフフ、遂に来ましたね……今度こそリベンジです!」
ギュッと拳を握りしめる栞。その目は何故か異様に燃えていた。

<市街地 13:27PM>
前回に降り立った町中と全く同じ場所に小型UFOはまた降り立っていた。
今回は前回と違い防衛軍も警察も出動してきていない。どうやら前回、宇宙人一人に派手に防衛軍がやられてしまったので今回は始めからISDOに任せてしまおうと言うつもりらしい。
「ケッ、出迎えも無しかい、今日は」
小型UFOから降りたクッディリーは周囲に誰もいないのを見、つまらなさそうに呟いた。あの弱っちい連中でも準備運動代わりにはなる。
「まぁいいか。それじゃまずはここから始めるか……」
さっと何処からともなく反り身の剣とショットガンを取り出すクッディリー。ゆっくりと歩き出し、そして後方から聞こえてくるエンジン音に足を止める。何となく嫌な予感がする。ゆっくりと振り返ると、こちらに向かって猛スピードで突っ込んでくる一台のジープの姿が見えた。
「あ、あれは……!!」
何時か見たジープに思わず足を引いてしまうクッディリー。
そのジープはスピードを全く落とさないまま、クッディリーを豪快に跳ね飛ばすといきなりUターンして今度は小型UFOに向かって突っ込んでいった。例によって小型UFOにぶつかり、前部から煙を噴き上げながら停止するジープ。その中からやはりふらふらと降りてきたのは5人の女性だった。
「ま、またか、貴様ら……」
思わず頭を抱えるクッディリー。まさか一度ならず二度までも自分の自慢の小型UFOにジープをぶつけてくるとは。
「や、やっぱり運転変わって貰うべきだったわ………」
フラフラしながら降りてきた真琴がそう言う。
「で、でも、一応計算通りです……」
やはりフラフラと目を回している栞。
「と、とにかく行くよ、みんな!」
栞と同じように目を回しつつもあゆがそう言い、左腕を天に掲げる。
「ミラクルチェンジャー、セットオン!」
同時に叫び、ブレスレットのボタンを押した。次の瞬間ブレスレットが光り輝き、その光の中、5人の身体を強化スーツが覆っていく。
「カノンレッド!!」
「カノンブルー!!」
「カノンイエロー!!」
「カノンピンク!!」
「カノンパープル!」
5人が次々と名乗りを上げた。
「天から降り立った5つの希望!!」
バッと5人が揃って右手を天に向かって突き上げる。
「奇蹟戦隊!! カノンレンジャー!!」
5人の声が揃い、一斉にポーズを取る。例によってその背後でタイミングよく爆発が起こった。まるで誰かがタイミングを計っていたかのように。
「でやがったな、カノンレンジャー……今日はきっちりやってやるぜ」
クッディリーがそう言って駆け出そうとすると、それを制するかのようにカノンピンクが手を前に突き出した。
「その前に!!」
鋭いカノンピンクの声に思わず足を止めてしまうクッディリー。
「前の時は全く何も出来ないままだったのが私としては非常に悔しくてなりません。ですのでこれは前回のお礼です! どうぞ受け取ってください!」
カノンピンクはそう言うと何処からか何かのスイッチのようなものを取り出した。
それを見たカノンイエローとカノンレッドが思わずカノンピンクから距離を取ってしまう。
「し、栞ちゃん、そ、それは……」
「あんた、まさかまた………」
「フッフッフ……前回のリベンジです……」
そう言ってスイッチを押すカノンピンク。
次の瞬間、彼女たちが乗ってきたジープが小型UFOを巻き込んで大爆発を起こした。
どうやら格納庫にいた栞はどこからか持ち出した火薬をジープの中に大量に仕込んでいたらしい。よく小型UFOにぶつかった時に爆発しなかったものだ。そう考えると思わず青くなるカノンピンク以外の4人であった。
そしてもう一人、燃え上がる小型UFOとジープを見て呆然としているものがいる。そう、小型UFOの持ち主であるクッディリーだ。今まで宇宙傭兵として様々な星間戦争に参加してきたクッディリーだが、その側には常にあの小型UFOがあった。あの小型UFOは自分用にカスタマイズし、今や彼の相棒、半身と言っても過言ではないものだ。それをああもあっさり破壊されるとは。
「お、おのれ、小娘共……!!」
自分の半身ともいえる小型UFOを破壊され、怒りに燃えるクッディリー。ショットガンを構え、カノンレンジャー5人に向かって突っ込んでくる。
「行くよ、みんなっ!!」
そう言って最初に飛び出したのはカノンブルーだ。その後を追うようにカノンパープルが専用装備であるバニティリッパーを構えながら続く。
「ウオオラアァァァッ!!」
雄叫びをあげて右手に持った剣を振り回すクッディリーだが、カノンブルーはとっさにジャンプして剣をかわし、その後頭部に容赦のない蹴りを叩き込む。
思わずよろけるクッディリーに接近したカノンパープルがこれまた容赦無く斬りつけてきた。だが、それは何とか剣で受け止めることに成功する。
「この……俺を甘く見るなっ!」
そう言ってカノンパープルを蹴り飛ばすとすかさず振り返り、着地したばかりのカノンブルーに向かってショットガンの引き金を引く。
「こっちこそ甘く見ないで欲しいです!」
カノンピンクがクッディリーとカノンブルーの間に割って入り、すかさずブライトネスストールを広げた。広げたブライトネスストールがショットガンの弾丸を全て受け止める。
「有難う、栞ちゃん。助かったよ〜」
「そう思うなら今度ちゃんとお礼してくださいね。具体的には祐一さんを諦めて貰えれば……」
「それとこれとは話が別だよ、栞ちゃん」
真面目なような、そうでないような話をしながら二人はクッディリーから離れた。
「今度は真琴達の番よ! あゆ、しっかり援護しなさい!」
「え……?」
カノンイエローにそう言われて思わず尋ね返してしまうカノンレッド。
「援護しなさいって言ったのよ!いい、ちゃんと援護しなかったら承知しないからね!」
そう言ってカノンイエローが駆け出した。手には専用装備であるバニシングクロウを装備しながら。
それを見たカノンレッドは小さく頷くと専用装備であるバスターライフルを取り出し、構えた。
「バスターライフル連射モード! 行くよっ!!」
そう言って引き金を引くカノンレッド。バスターライフルからエネルギー弾が次々と発射され、そのエネルギー弾は前を走るカノンイエローの背や後頭部に次々と命中した。
思いもよらない方向からの攻撃を受け、吹っ飛ぶカノンイエロー。
いきなり味方からの攻撃を受けて吹っ飛んだカノンイエローを見て、思わず硬直するクッディリーと攻撃してしまった当の本人であるカノンレッド。
「……えーっと……」
カノンレッドがカノンイエローに何か声をかけようとすると、いきなりカノンイエローががばっと起きあがった。そしてゆっくりと振り返ると、つかつかとカノンレッドの方へと歩み寄っていく。
「あ、あ、あ、あ……」
「あはは〜………」
「あんたねぇっ!! いくら射撃が下手でも限度ってもんがあるでしょうに!!」
物凄い勢いで怒鳴り出すカノンイエロー。
「よりにもよって何!? 何で敵じゃなくって真琴な訳!? 何か真琴に恨みでもある訳?」
怒鳴りながらカノンレッドに詰め寄るカノンイエロー。その迫力にカノンレッドはたじたじとなる。
「狙うならあいつでしょ、あいつ! 何で真琴の後頭部に当たる訳なのよ! 説明してくれる!?」
「え、え〜っと……」
困ったような声を出すカノンレッド。彼女としてはカノンイエローを狙ったつもりは毛頭無い。毛頭無いのだが、余りにも射撃が下手な為に間違ってカノンイエローに命中してしまったのだ。果たしてそれを説明したところでカノンイエローの怒りが消えるとは思えない。いやむしろ火に油を注ぐ結果になりそうな予感がする。
「………」
じっとカノンレッドを睨み付けるカノンイエロー。はっきり言って怖い。いかにも怒ってますと言うオーラが全身から立ち上っているようにさえ思える。
「えっと……その……」
何と言えばいいのか解らず言い淀むカノンレッド。
「お、おい、そこのお前ら!!」
二人の後ろからクッディリーが声をかけてきた。
「お前らの相手はこの俺だろう!? 何で仲間割れ……」
「うっさいわね! ちょっと黙ってなさい!!」
何か言いかけたクッディリーをその一言で遮り、カノンイエローはカノンレッドに更に詰め寄る。
「さぁ、早く説明しなさいよ」
「う、うぐぅ……だから、その、今のは……」
やっぱり言い淀んでしまうカノンレッド。本当のことは決して話せないだろう。ここは何とか上手く誤魔化さなければ。
「え〜っと……あ、あれ何かな?」
さっと明後日の方向を指さすカノンレッドだが、カノンイエローは見向きもしなかった。
「さ、流石だね、真琴ちゃん……」
呻くような声を出し、じりっと後ずさるカノンレッド。
「あんな超古典的な作戦に引っかかる方がどうかしているわよ……」
思い切り呆れたような声のカノンイエロー。心なしか肩も少し落ちている。どうやら本気で脱力してしまったらしい。
「……で、さっきの答えはどうなのよ?」
どうやら話はうまくそれてくれたらしいと思い、ほっと胸を撫で下ろしかけたカノンレッドに向かって容赦無く話を元に戻すカノンイエロー。
「う、うぐぅ……」
どうにも答えられなくて本気で困り出すカノンレッド。小手先の誤魔化しはどうやら通じないらしい。どちらかと言うと誤魔化せないと言う事実の方が困る。
クッディリーや残るカノンレンジャーの3人はその様子を呆然と見ているだけだった。何と言うか誰も話しかけられるような雰囲気ではない。
「ど・お・な・の・よ?」
わざわざ一字ずつ区切って嫌みったらしく言うカノンイエロー。どうやらだいたい見当はついているらしい。と言うかつかない方がおかしい。
「あ、あの……そんな事している場合じゃないと思うんですけど」
恐る恐るカノンピンクが声をかけるがカノンイエローはきっと彼女を睨み付けて黙らせる。もはや仲間にすら容赦無い。
「えう〜……」
「さぁ、どうなのよ!?」
鳴き声をあげるカノンピンクを背にカノンイエローがカノンレッドにギリギリまで詰め寄った。もはや顔がぶつかる寸前である。おそらくマスクの下は物凄い形相だろう。それが見えなくて幸いだとカノンレッドは密かに思った。
「え、え〜っと……」
何となく顔を背けてしまうカノンレッド。
しかし、その行為はカノンイエローの疑念を確信に変えるに充分な行為だった。
「や、やっぱりあんた……あれは本気でやったのね!?」
「わ、わざとじゃないよぉっ!! まさか真琴ちゃんに当たるなんて夢にも思わなかった……あ」
カノンレッドが自らが漏らした言葉に硬直する。決して言ってはいけないと自ら思っていた言葉。
「あ……あ……あ……」
ピクピクと肩を振るわせてカノンイエローが何かを言いかける。
何が言いたいのかはだいたい解る。解るだけにカノンピンク、カノンパープル、カノンブルーはさっと自分の耳を塞いだ。
「あんたって奴はぁッ!!!」
物凄い大声で怒鳴るカノンイエロー。その声の大きさは周囲に住宅の窓が震えたほどだ。拡声器もないのにここまでの大声が出せるとは、カノンイエローの怒りの程度が解るというものである。
「何、あの地下の射撃訓練場で必死にやってた練習は!? 全く無駄だった訳!?」
「あ、あれは……」
「やっぱりあんたには才能がないのよ、才能が! そう、射撃に関するセンスが全く無いの! もうやめなさいよ! あんたなんて努力したって無駄! 弾の無駄遣いもいいところ! だいたい何で味方にぶち当てるのよ! 援護するから行けって初めに言ったのはあんたじゃない! 出来ないならそんな事言うなっての!!」
容赦無く大声で捲し立てるカノンイエロー。
しかし、並べられたその非難の言葉に、流石の間レッドもカチンと来てしまう。
「な、何だよ真琴ちゃんだって!! ボクより射撃下手な癖に全く練習とかしない癖に!」
いきなり反撃を開始するカノンレッドに思わず怯んでしまうカノンイエロー。
「真、真琴は射撃なんか練習しなくってもこの身の軽さで十分やっていけるんだから!」
「身の軽さだけ? 頭も充分軽いんじゃないの〜?」
すっかり馬鹿にしきったようなカノンレッドの言い方にカノンイエローも流石にむかっとなる。
「よくも言ってくれたわね、この味方撃ち女!」
「何だよ、この身も軽ければ頭も軽い、怒鳴ることぐらいしか能のない真琴ちゃん?」
「何ですってぇ……この役立たず!」
「突っ込んでいくしか能のない真琴ちゃんに言われたくないよ〜だ!」
「誰が突っ込んでいくしか能が無いだ! あんたなんか敵にすら当たらないじゃないのっ!」
何とも低レベルな言い争いを始める二人。
そんな二人を見て、さっきから完全に無視されていたクッディリーが苛立たしげな声をあげた。
「ええ〜い、この俺を無視するなぁっ!!」
そう言ってつかつかと未だ言い争いを続けているカノンレッドとカノンイエローに向かっていく。
「お前らの相手はこの俺だと……」
「うるさ〜いっ!!」
「今大事な話の途中なんだから邪魔するなぁっ!!」
そう言って近寄ってきたクッディリーにバスターライフルとバニシングクロウの一撃を容赦無く叩き込む二人。しかも互いに睨み合いながらだから物凄い。
至近距離から容赦のない攻撃を食らって吹っ飛ばされるクッディリー。全く予想していなかっただけにそのダメージは想像以上に深いらしく、立ち上がれない。
それを見たカノンピンクがポンと手を打ってカノンパープルとカノンブルーを振り返った。
「舞さん、名雪さん、今がチャンスです!」
「……え?」
思わず尋ね返したのはカノンブルーだった。ぼけーとカノンレッドとカノンイエローの言い争う様子を眺めていた彼女はどうやら半分寝ていたらしい。
「チャンスですって言ったんです! 今のうちのカノンレンジャーボールをあいつに叩き込みましょう!」
「確かにチャンス……でも成功するかどうか……」
ちょっと不安そうにカノンパープルが言う。
相変わらずその成功率は低いカノンレンジャーボールだ。今までは何とか幸運も手伝ってか成功しているが今度の敵は生半可な敵ではない。いくらダメージを受けているとはいえ、カノンレッドとカノンイエローがあんな調子で果たして成功するかどうか。
「大丈夫です! 何となくですが巻いていますので多分上手くいくはずです!」
根拠不明の自信たっぷりにカノンピンクはそう言い放つとさっとカノンレンジャーボールを取り出した。
「行きます、カノンレンジャーボール、バージョン2! セット! 舞さんっ!」
カノンピンクが5色に彩られたボールをカノンパープルへとパスする。
「名雪っ!」
飛んできたボールを身体を回転させながら裏拳で叩くカノンパープル。
「真琴っ! それにあゆちゃんっ!」
勢いを増して飛んでくるボールをオーバーヘッドキックの要領でカノンブルーが上手く方向転換させた。そのボールの行く先には未だに睨み合い、唸り合っているカノンレッドとカノンイエロー。
「うるさぁいっ!!」
「うるさいよっ!!」
二人の声が重なり、飛んできたボールを二人の手が同時に捕らえた。それは全くの偶然だったのだろう。二人とも意識してそう言うことが出来るタイプではない。と言うか、今の状態ではやろうと思っても絶対に出来ないだろう。
そして、二人の手が同時に捕らえたボールは更に勢いを増し、ようやく起きあがろうとしていたクッディリーに向かっていく。
かなりご都合主義的だが、それでも5人のエネルギーを集めたカノンレンジャーボールが光を放ちながらクッディリーを直撃、次の瞬間大爆発が起こった。
「ほら、上手くいきました」
爆発を見ながらカノンピンクがカノンパープル、カノンブルーを振り返る。
と、その時、突如天から今妻が降り注ぎ、地面に直撃した。稲妻が消えた後、その場に一つ目の怪物、イダーキョが出現していた。怪物はその巨大な一つ目の視界にカノンレンジャーボールを食らって吹っ飛ばされたクッディリーの姿を捕らえると、そこに目掛けて怪しげな光線を発射する。
「あ……あれって……」
ちょっと嫌な予感を覚えるカノンブルー。いや、彼女だけではなく、未だに睨み合いを続けている二人を除いた皆がそう思ったであろう。
怪しげな光線に照らされたクッディリーが再生し、あっと言う間に巨大化する。
「や、やっぱり〜!!」
巨大化したクッディリーを見て、慌ててその場から逃げ出すカノンレンジャー達。

<カノンベース司令室 14:01PM>
モニターで巨大化したクッディリーを見た祐一はニヤリと笑うとさっと立ち上がった。そして前髪をすっとかき上げ、それからビシィッと指をモニターに向かって突き付けて声高々と命令を下す。
「カノンジェット発進準備!!」
「了解、カノンジェット、発進準備にかかります!」
「司令室より格納庫、カノンジェット発進準備願います!」
「発進用カタパルト、オープン! ゲート、3番から8番までクリア!」
オペレーターズが口々に報告連絡を行う。
「カノンジェット、発進準備完了しました!」
オペレーターの一人が振り返って祐一にそう報告する。
「よし! カノンジェット、発進っ!!」
祐一がそう言うのと同時に格納庫内のカノンジェットのエンジンに火がつき、自動操縦でカノンジェットが発進していく。

<市街地 14:06PM>
カノンベースを発進したカノンジェットはあっと言う間に市街地の上空に辿り着いていた。
巨大化したクッディリーはやってきたカノンジェットを見るとさっとショットガンを構え、すぐに引き金を引いた。発射された弾丸がカノンジェットに直撃するが、全く動じない。
「流石はカノンジェット……ってどうやって乗り込むの?」
上空を飛ぶカノンジェットを見上げるカノンブルー。
『5人揃ってジャンプしろ。カノンジェットが拾ってくれるはずだ』
司令室にいる祐一からの無線が入る。
「ジャンプ?」
「それで届くんですか?」
『大丈夫だ、俺を信頼しろ』
「本当に大丈夫なの〜?」
疑わしげな声を出すカノンイエロー。
『いいからさっさとやれ!』
祐一の怒鳴り声が無線を通して響いてくる。
その声に渋々ながら5人が横に並び、一斉にジャンプした。すると、カノンジェットが急降下してジャンプした5人を拾い上げる。そして5人はあっと言う間にコックピットに送り込まれるのであった。
「さてと、それじゃ後は任せましたよ、あゆさん」
シートに腰を下ろすなりそう言うカノンピンク。
「え?」
「そうね、ここから先はあんたに任せたわ。頑張ってね」
素っ気なくそう言い、顔を背けたのはカノンイエロー。
「ええ?」
「それじゃあゆちゃん、頑張ってね〜」
呑気な声でそう言ったのはカノンブルー。
「えええ?」
「後は任せた……」
ぼそっと小さい声で、しかし、しっかりと意志を込めて言うカノンパープル。
「ええええ〜?」
「うるさいわね。基本的にこれはあんたが動かさなきゃいけないんでしょうに」
「そうですよ。あゆさんがもっとも適性が高かったんですから」
「そう言う風にシステム書き換えたって祐一も言ってたよ」
いきなり操縦を任されたカノンレッドは困惑するばかりだが、他の面々はどうやらそう言うことになったらしいと言うことをちゃんと知っているようだ。知らなかったのは当のカノンレッド、あゆだけと言うことらしい。
「い、何時の間に決まったの、そんなの?」
「この間の訓練の時に七瀬さんが言ってたよ」
「き、聞いてないよ、そんなの!!」
「聞いてないあんたが悪い」
辛辣な口調のカノンイエローをカノンレッドが睨み付ける。
しかし、そんな事をしている間もカノンジェットは巨大化したクッディリーの周囲を飛び回っているのだ。かなりの高速で飛んでいるカノンジェットだが、そろそろその動きを捕らえられても不思議はない。
『何時までやってんだ! 早く攻撃しろ!!』
苛立ったような祐一の声が聞こえて来、ようやくカノンレッドはまだ敵がいることを思い出した。
「こ、攻撃って言っても……」
『装備とかはちゃんと教えただろ! それと名雪、舞、栞、真琴もちゃんとフォローしてやれ! あゆ一人じゃすぐに煮詰まっちまうぞ』
「はぁ〜い」
やや不服そうに返事したのはやはりカノンイエローだった。
「とりあえずこの状態で戦うよりも変形した方がいいと思いますが?」
「そ、それもそうだね……よし、変形するよ!」
カノンレッドがカノンピンクの指示に従い、何故か少し躊躇いながらそう宣言すると天井から一本のレバーが降りてきた。
「ミラクルチェンジ! カノンレンジャーロボ!!」
そう叫びながらカノンレッドがレバーを引く。
するとカノンジェットがカノンレンジャーロボへと変形を開始した。その変形が終わるまでほんの数秒、ジェット機型から人型のロボットへとあっと言う間に変形を完了する。流石に前回と違い、今回は自由落下ではなく、足の裏にあるバーニヤを噴かせてゆっくりと降下していった。
「カノンレンジャーロボ、見参です!」
何故かカノンピンクが高らかに宣言し、巨大クッディリーと対峙するカノンレンジャーロボ。
巨大クッディリーが手に持ったショットガンをカノンレンジャーロボに向け、引き金を引いた。発射される散弾。だが、カノンレンジャーロボは少しよろけただけで、少しのダメージも与えられてはいない。
全く無傷のカノンレンジャーロボを見て、驚きの表情を浮かべる巨大クッディリー。
「今度はこっちの番だよっ! ミサイル発射!!」
カノンレッドがそう言い、ボタンを押すとカノンレンジャーロボの腹の部分が開き、そこからミサイルが発射された。
しかし、巨大クッディリーは何処からともなく反り身の剣を取り出すとミサイルを両断してしまう。
「流石ですね……当たるとは思っていませんでしたが」
「何せあゆだもんね〜」
「うぐぅ……次はこれ、ビッグブーメランッ!!」
カノンピンクとカノンイエローの揶揄を聞き流しながら別のボタンを押すカノンレッド。
するとカノンレンジャーロボの両足の側面に折り畳まれていた翼が外れて合体し、巨大なブーメランとなる。ビッグブーメランを片手に持ったカノンレンジャーロボがドシドシと足音を響かせながら巨大クッディリーに近寄っていく。
「ちょ、ちょっと、あゆ、何する気なのよ!?」
どんどん巨大クッディリーに近寄っていくのを見たカノンイエローが驚きの声をあげた。
「これでも喰らえぇっ!!」
カノンレッドの叫び声と共にビッグブーメランを振り上げるカノンレンジャーロボ。どうやらビッグブーメランを投げるのではなく直接殴る為に近寄ったらしい。勢いよく振り下ろされたビッグブーメランだが、巨大クッディリーはあっさりとその一撃をかわしてしまう。
「あ、あれ!?」
余りにも勢いよすぎて思わずたたらを踏むカノンレンジャーロボ。
巨大クッディリーがその背にキックを叩き込み、あっさりと地面に倒れるカノンレンジャーロボ。
「な、何やってんのよ!」
思わず怒鳴り声をあげてしまうカノンイエロー。
「あんた本気で役立たず!?」
「うぐぅ……こんなはずじゃ……」
おそらくマスクの下では涙目であろうカノンレッドがそう言ってカノンレンジャーロボを起きあがらせた。
「と、とりあえずブーメランは投げるものであって殴る為のものじゃないと思います……」
何故か目を回しているカノンピンクがそう言うと、カノンレンジャーロボは手に持っていたビッグブーメランを巨大クッディリー目掛けて投げつけた。その投げ方は素人丸出しだったが、それだけに巨大クッディリーは避けることが出来なかった。ビッグブーメランの直撃を受け、ひっくり返る巨大クッディリー。
「今度は……奇跡剣!!」
カノンレンジャーロボが腰に手を当てると、そこに巨大な剣が出現する。その大きさはカノンレンジャーロボに合わせている為かかなり巨大である。”奇跡剣”と銘打たれたその剣こそカノンレンジャーロボ最大最強の武器なのだ。
奇跡剣を構えたカノンレンジャーロボがジャンプした。
「行くよ! 必殺、奇跡剣、一刀両断斬り!!」
降下する勢いをも利用した必殺の一撃が巨大クッディリーに襲いかかる。
とっさに持っていた剣を掲げて受け止めようとした巨大クッディリーだが、その剣をも叩き折り、カノンレンジャーロボの一撃が巨大クッディリーをまさしく一刀両断にした。
真っ二つにされた巨大クッディリーが大爆発を起こす。

<要塞艦ヴェルドリンガ 16:34PM>
地球を見渡せるバルコニーのある部屋で、リオカーは赤い液体の入ったグラスを傾けていた。何やら物憂げな顔をしているのは自分の雇った宇宙傭兵がカノンレンジャーに敗れたからだろうか。
「フン、口ほどにもなかったな!」
そう言いながら部屋に入って来たのはガイターだ。ガイターに続いてゴラドも入ってくる。どうやら二人ともクッディリーがやられた様を見ていたらしい。
「しかし……」
ゴラドは何か考えているかのようにしきりに首を傾げている。その目がグラスを口に付けているリオカーを捕らえた。
「リオカー、聞かせて貰いたいことがある」
「答えられることなら答えてあげるわ」
ゴラドの声にリオカーはグラスを置いて応じた。
「何故……奴を見殺しにしたのだ? 奴はお前の配下ではないのか?」
先程からゴラドが気になっていたのはそれだった。わざわざ自分で呼びつけておいた宇宙傭兵なのに戦闘員であるパッタシーをつけることもなく、フォロー一つすることなく一人で送り出す。やられそうになっても何の手助けもしない。見殺しにしたと言われてもおかしくはないだろう。
「見殺し? 違うわね」
しれっと答えるリオカー。
「あいつは自分一人で充分と言った。だから何の手助けもしなかった。私は自分の部下を信頼しているからね」
「フフフ、それはそうだな!」
楽しそうにガイターが言う。
「後、あいつは油断したのさ。あの小娘共なんかすぐに倒せると思ってね。その油断があいつの死を招いたのさ」
「……確かに」
リオカーの返答に小さく頷くゴラド。
「……まぁ……あいつが気に入らない奴だったってのもあるけどね………」
そのリオカーの呟きはガイターにもゴラドにも届くことはなく、宇宙の闇の中へと消えていった。

<カノンベース 17:43PM>
夕焼けに照らし出されているカノンベース。
戻ってきたカノンジェットの整備に忙しそうに立ち回っている技術部の職員達。
技師長に呼び出されてまたもジープを破壊したことを怒られている栞。
自分の部屋のベッドの上ですっかり夢の中に突入している名雪。
訓練場の中、剣道着姿で正座し黙想している舞。
司令室内でお喋りに興じているオペレーターズ。
執務室内で今回の民間への被害状況やらの報告を受けている祐一。
それらを見て回りながら真琴は誰かを捜しているかのように歩き回っていた。そして、ようやく目的の人物を見つける。そこはカノンベースの屋上にある展望室だった。
「やっと見つけたわよ」
真琴がそう言うと、先に展望室にいたあゆが振り返った。
「真琴ちゃん……?」
「全く随分探したわよ……」
そう言いながら真琴はあゆの隣にまでやってくる。そして彼女に持っていた紙袋を手渡した。
「はい、あげる」
「……?」
紙袋を受け取ったあゆは中を開けてみて、驚いた。紙袋の中には真琴の大好物の肉まんが入っていたからだ。
「……えっと……あんたが努力しているのは認める。まだまだ足りないと思うけど……」
照れているのかそっぽを向きながら真琴がそう言う。
「真琴ちゃん……」
「か、勘違いしないでよ! まだ真琴はあんたがリーダーなんて認めた訳じゃないし、あんた自身も認めてないんだからね!!」
「……ボク、たい焼きのほうが良かったなぁなんて……」
あゆの全く見当違いの言葉に真琴ががくんと肩を落とした。
「あ、あんたねぇっ!!」
落とした肩を怒らせ、真琴はあゆに詰め寄っていく。
「人の好意を何だって思ってんのよ、あんたはっ!!」
「うぐぅ……そう言うつもりじゃ……」
「問答無用!!」
あゆに掴みかかっていく真琴。
今度は口喧嘩だけでは済みそうにも無さそうだ。更に止める者もいない。どうやら心ゆくまで二人のケンカは続けられそうだ。

まぁ、何だかんだで地球の平和は守られたようである。
今度こそカノンレンジャーロボが活躍出来たのでそれはそれでよかったのだろうがその戦い方はまだまだだ。
この調子でこいつらに地球の平和を任せていいものかどうか疑問が残るのだが、地球を守ることが出来るのはこいつらだけなのだから仕方ないのかも知れない。
とりあえず頑張れ、カノンレンジャー。

This Story Is End.
To Be Continued Next Story.


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