<ISDO特別病院 一週間前>
玄関ロビーを抜け、外に出たその青年は太陽の光を眩しそうに手で遮ると口元に笑みを浮かべた。
「フッフッフ……さっすが俺。予定よりも一週間も早く退院とはな………」
不敵な笑みを浮かべながら青年が一歩前に足を踏み出した時だった。
何の脈絡もなくそこに一台の車が突っ込んで来たのは。しかもかなりのスピードで。それはまるで彼を狙っていたかのように、実際にはそんなはずがあるわけないのだが、彼を豪快に吹っ飛ばしてから急停止した。
「ふぐおっ!?」
錐揉み回転しながら吹っ飛ばされ、地面に落下する青年。
「あああっ、だ、大丈夫ですか!?」
青年を吹っ飛ばした車から慌てた様子で、だが何処かおっとりとした感じで一人の女性が降りてくる。ISDOのブルーとホワイトを基調とした制服を着た女性は倒れてピクピクしている青年の側にしゃがみ込むとその顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ……大じょ……」
青年がそこまで言いかけ、不意に口を閉じた。彼の視線の先には丁度しゃがみ込んだ女性の膝の先があり、その奧にちらりと見えている白いもの。瀕死になりながらも彼は思わずそこを凝視していた。
「……あの」
「……あ、俺なら大丈夫ですからそのままじっとしていて欲しかったり……」
「祐一さん、このままだと本当に死んじゃいますよ?」
そこまで来てはっとなり、身を起こす青年。その額からはだらだらと血が流れ落ちていた。おまけに足の感覚がない。どうやら折れてしまっているようだ。
「フッ……佐祐理さん、俺はそう簡単に死にませんよ」
精一杯カッコつけてから青年、相沢祐一は意識を失ってその場に崩れ落ちた。
それを見た倉田佐祐理が悲鳴を上げる。

これが一週間前。

<ISDO特別病院 10:29AM>
松葉杖をつきながらその青年は玄関ロビーを抜け、外に出てきた。片足にはまだギプスがつけられており、頭にも包帯が巻かれている。本当ならばまだ退院出来るような状態ではない……のだが、彼の本来の職務がそれを許してはくれなかった。
青年の名は相沢祐一。
ISDO特別作戦部主任カノンレンジャー司令官にしてカノンベースの指揮官でもある。
地球を狙う謎の敵に果敢にも単身戦闘を挑み、返り討ちにあった彼は全治3週間という負傷を負い入院していたのだ。もっとも最後の1週間は別の理由で入院していたのだが。
それはともかく前もって3週間しか療養を許可されていなかった為、彼は未だ完治しない身体でもって退院してきたのだ。
「まぁ……これ以上休むと秋子さんに悪いしなぁ」
そう呟くと、そこにまた一台の車が突っ込んで来た。
「うおっ!?」
慌ててその場から飛び退く祐一。先週は突っ込んでくる車に気付かず、あえなく跳ね飛ばされてしまったが、流石に二度も同じへまをする訳にもいかない。これ以上の入院を許してくれるとは到底思えなかった。
だが、彼は一つ忘れていたことがある。今、彼は片足にギプスをはめている。つまりはまだその足は折れたままだと言うこと。
「ぐおおおっ!?」
ギプスをつけたままの足で着地した祐一は思わず悶絶してしまう。その場に倒れて転げ回ってしまう。その姿は何とも無様であった。
「あ、あの〜……」
未だ転げ回り悶絶している祐一にそっと、恐る恐る声をかけてくる女性がいる。誰あろう、ISDOの制服を着た倉田佐祐理であった。
困ったような笑みを浮かべながら彼女は転げ回っている祐一を見つめている。
その視線に気付いた祐一はさっと何事もなかったように立ち上がり、乱れた髪の毛をさっとかき上げてみせた。
「これはこれは佐祐理さん、お久し振りです」
「一週間前にもお会いしましたよ?」
「……そうでしたっけ?」
「はい。祐一さんを轢いたの、佐祐理ですから」
あっさりと、そしてにこやかにそう言う佐祐理。
「………」
思わず沈黙してしまう祐一。
「……あ……えっと、その節はすいませんでした」
自分が言ったことに気付いたらしい佐祐理はそう言って祐一に向かって頭を下げた。
「ああ、いやいや。あれは油断していた俺が悪かったんですよ。佐祐理さんに非は一切無い」
祐一はそう言うと佐祐理の手を取り、その甲にそっと口づけた。何ともキザな仕種である。
「ところで祐一さん」
「何でしょうか?」
「痛くないんですか?」
佐祐理の視線が下を向く。つられたように祐一も下を向くと、しっかりとギプスを着けた足で立っている自分の足が見えた。
「……フッ」
引きつった笑みを浮かべる祐一。それでも何とかキザっぽい仕種を忘れない。そっと前髪をかき上げる。
「俺は無敵です……」
そう言う祐一だが、何処から見ても顔は真っ青、無理をしているのがありありと解ったので佐祐理はまた困ったような笑みを浮かべるしかなかったのであった。

奇蹟戦隊カノンレンジャー
FIFTH ACT.巨大ロボ、出撃!


<要塞艦ヴェルドリンガ 11:35AM>
月の衛星軌道上に浮かぶ要塞艦ヴェルドリンガ。
地球を狙う謎の侵略者達の母艦である。その内部のとある一室で妖軍師ナモンアは何やら祭壇を前に儀式を執り行っていた。背後には要塞艦ヴェルドリンガの誇る5大軍団長の残りの4人が控えており、じっとナモンアの行っている儀式を見守っている。
だが、4人の将軍の4人ともがあまり興味なさそうにしていた。むしろ退屈、何でこの場に自分が居なければならないのか疑問だと言う感じで。しかしながらこの場にいるのはこの要塞艦ヴェルドリンガの最高指揮官である大元帥トギーアの命令によるもので、逆らう訳にもいかず、4人はつまらなさそうにしていながらもその場に残っているのであった。
ナモンアの不気味な声が室内に響き渡る。
あからさまに不快そうな顔をしているのは傭兵師団主将、姫将軍リオカーだ。どうやらこのナモンアの声が物凄く癇に障るらしい。苛々と手に持った鞭を叩いている。
「……落ち着け、リオカー」
小さい声でそう言ったのはリオカーのすぐ隣にいるアンドロイドだった。機甲兵団団長、猛将軍クイーバである。アンドロイドであるクイーバにはこのナモンアの行っている儀式など理解しようがない。理解などする必要すらない。だが、事をややこしくすることは好まなかった。
「……フン、あんたはいいわね、アンドロイドで。こんな訳のわからない儀式に付き合わされたって何とも思わないんでしょうから」
やはり小さい声でリオカーがクイーバに言い返す。
そんな二人をギロリと睨み付けたのは二人の反対側、丁度正面にいる獣人軍団統帥、獣将軍ガイター。彼もかなり苛々しているようで、いてもたってもいられないのを必死で堪えているようだ。
「やかましいぞ、二人とも……」
低い声で威圧するように言うガイター。
「……あん? やるっていうのかい?」
挑発するようにガイターを睨み返し、リオカーが一歩前に出ようとするが、それをクイーバが制した。
「よさんか、二人とも」
落ち着いた声でそう言ったのは残る一人、武人集団大将、豪将軍ゴラド。彼だけは只退屈そうにしているだけで特に苛々しているような様子はなかった。もはや悟りきっている、そんな感じすらさせている。
「止めるな、ゴラド! この女、一度きっちりと解らせてやる必要がある!」
ガイターがそう言って腰に吊してある大剣の柄に手をやった。
それを見たリオカーも手に持った鞭を振るう。
まさに一触即発、そう言った雰囲気がその場に作り出されたその時、いきなりナモンアが大きな奇声を発した。
「ヘアッ!!」
すると、いきなり祭壇が炎に包まれ、そして一瞬にして崩れ落ちた。その後に残されたのは不気味な一つ目の怪物だった。
「……フフフ……成功じゃ」
ナモンアが満足そうにそう言い、後ろにいる4人を振り返る。
「随分と待たせてしまったようじゃの」
「フン、何だか知らんが……一体何だその生物は?」
ガイターが挑戦的な口調でそう言い、一つ目の怪物を指さした。
「子奴か? ……子奴こそ、我らが必勝の為に欠かせぬ奴よ」
そう言ってククッと笑みを漏らすナモンア。
「答えになってないよ、妖軍師! こんな奴の為に我らの貴重な時間を割かせたとでも言うのかい!?」
手に持った鞭でバシッと床を叩き、リオカーがナモンアを睨み付けた。どうやら苛々の限界に来てしまっているらしい。
と、その時だ。
いきなり部屋のドアが開き、中に大元帥トギーアが入ってきた。相変わらず立派な造りのマントに軍服、顔には半分だけの仮面。全身からは物凄い程のオーラを発している。
「……どうやら成功したようだな、妖軍師」
トギーアが一つ目の怪物を見てそう言い、満足げに頷いた。
「ははっ、大元帥閣下のご期待に添えたこと、このナモンア、一安心で御座います」
恭しくトギーアに向かって一礼するナモンア。
「大元帥閣下、お聞かせ願いますか?」
そう言ったのはリオカーだ。
「何だ、姫将軍?」
「一体あそこの一つ目、何なんですか?」
それはおそらくその一つ目の怪物を呼び出したナモンア以外誰もが抱いている疑問であった。
「フフフ……ナモンア、まだ話しておらなんだか」
「申し訳御座いません、大元帥閣下……姫将軍、それに他の将軍もよく聞くがいい。お主らが言う一つ目の怪物、これこそ暗黒宇宙に住まう怪生物イーダキョだ」
自慢げにそう言うナモンアだが、ゴラドを除く3人はそれを聞いても驚きもしない。いや、どっちかと言うとよく解っていないと言う感じだ。その中でゴラドだけが唸り声をあげていた。
「うむむ……まさかそれが噂に聞くイダーキョとは……」
「知っているか、ゴラド!?」
クイーバがそう言ってゴラドを見ると、ガイター、リオカーの二人もゴラドの方を見た。
「暗黒宇宙の中でもかなり特殊な場所にのみ生息すると言う幻の生命体……それがイダーキョだ。その特殊能力の為か、過去相当数が乱獲され、もはや絶滅したものだと思っていたが……」
「絶滅などはしておらぬ。只、もはや生き残っているイダーキョはごく僅か、だがな」
ナモンアがそう言ってふわふわ浮かんでいる一つ目の怪物、イダーキョに手を伸ばす。だが、イダーキョはまるで嫌がるかのようにその手をすり抜けてしまった。
「……決して人には懐かぬ……それがイダーキョ……」
不気味な笑みを浮かべるナモンア。
「ところでその特殊能力というのは何だ?」
「……意外と無知だな、獣将軍。貴様も宇宙のあちこちを戦い回っていたのではないのか?」
質問してきたガイターに向かって少し馬鹿にしたような目を向けるナモンア。
ギリリと歯ぎしりしてナモンアを睨み付けるガイター。この地球に来る以前も彼は宇宙の各地で獣人軍団を指揮して暴れ回っていた。それなりの知識は彼も持っているはずなのだ。つまりナモンアはガイターのことを力だけしか能のない奴と馬鹿にしたのだ。
「フッ……まぁいい。このイダーキョの特殊能力……百聞は一見に如かず、と言う言葉が地球にはあってな。フフフ……」
不気味な笑みを浮かべるナモンア、そしてトギーア。

<採石場 14:19PM>
「何か前の時と同じパターンだよ……」
ガックリとした声で呟いたのはカノンレッド、月宮あゆである。
舞台は前回の序盤と同じく採石場。まぁ、今時こう言う採石場が残っているのか結構疑問であるが、あまり気にしては話が進まないのであると言うことにしよう。
今回の敵は流石に前回とは違っていた。前回は機甲兵団の戦車型ロボット・ドルパオレだったが今回はいかにも貧弱そうな骨だらけの怪物だった。妖軍師ナモンア率いる妖鬼旅団の最下級のメンバー・骨鬼。手には巨大な白骨を持ち、それをまるでバトンのように振り回しながら戦闘員・パッタシーを率いてカノンレンジャーに向かっていく。
「クケケケケケケケー!!」
奇声を発しながらカノンレンジャーに襲いかかる骨鬼。
「バニティリッパー!!」
カノンパープル、川澄 舞がそう言って手に専用の武器であるバニティリッパーを持ち、骨鬼の攻撃を受け止めた。細身の西洋刀のように見えるバニティリッパー、だがその強度は並の刀剣の比ではない。何と言ってもISDOの誇る超最先端科学の粋を極めた技術でもって作られた剣なのだ。とりあえず地球上にあるものならば切れないものはない、らしい。
骨鬼の手にある白骨を受け止めたカノンパープルがキッと骨鬼の髑髏にしか見えない顔を睨み付け、思い切りその腹を蹴り飛ばした。
「クケケー!!」
何故か奇声を上げながら吹っ飛ばされる骨鬼。
その間に他の4人は次々とパッタシーを薙ぎ倒していく。
前回の戦いからようやく配備された共通武器・カノンブレイダーのガンモードを駆使して次々とパッタシーを倒していくのはカノンブルーこと水瀬名雪とカノンピンクこと美坂 栞。二人ともなかなかの射撃の腕前で、次々と迫り来るパッタシーを撃ち抜いていった。
「……か、感動ですっ!!」
カノンブレイダーを見て、本当に嬉しそうにカノンピンクが呟く。体力の無さでは随一のカノンピンクこと栞だが、その彼女に与えられた特殊装備は攻防一体型の装備ブライトネスストールで、これが何故か近距離用だったので常々不服を言っていたのだ。「遠距離戦用武器が欲しい」と。この共通装備であるカノンブレイダーはまさに彼女が待ち望んでいたものに他ならないのだ。
「これで……これで無茶な接近やらなくても済みますっ!」
「済まないと思うよ〜」
本気で感動しているカノンピンクに困ったような感じで言うカノンブルー。おそらくマスクの下では困ったような笑みを浮かべているのであろう。
一方、残る二人、カノンレッドとカノンイエローこと沢渡真琴はカノンブレイダーをソードモードにしてパッタシーに向かって飛び込んでいっては次々と斬り倒していた。
この二人、特にカノンイエローは接近戦を得意としている。元々運動神経だけは妙な程いい真琴がスーツの力を得て更に強化され、その動きは野獣もかくやと言う程になっている。パッタシー程度では彼女の動きを止めることは出来ないのだ。
そしてもう一人、カノンレッドだが、特に接近戦が得意という訳ではない。専用の装備もバスターライフルと射撃系であるが、彼女ははっきり言って射撃は物凄く下手である。しかしまぁ、射撃よりは接近戦の方がマシなので接近戦を行っているのだ。それでも普通人よりは強いし、パッタシーに後れを取ることなど無い。後れを取られたらそれはそれで困るのだが。まぁ、これもきっとカノンレンジャー訓練教官である七瀬留美の努力の賜物だろう。
「フフ〜ン、弱い弱いっ! やっぱり真琴ってば強いじゃない!」
自らが倒したパッタシーを見てカノンイエローが自慢げに呟いた。
「ハァハァハァ……何とかだよぉ……」
ぐったりとして肩で息をしているのはカノンレッドだ。今回、かなりの数のパッタシーがいたのでそれを倒すのに体力の大半を使ってしまったようだ。まだまだ体力の面では不安が残る。戦闘技術の面でも。課題はたくさんありそうだ。
「なぁにやってんのよ、あゆ! さぁ、とっとと行くわよ!」
カノンイエローがそう言って駆け出すのを見て、慌ててカノンレッドが続く。
カノンパープルはまだ骨鬼と激闘を繰り広げていた。両手に白骨を持ち、右から左から襲いかかる骨鬼に対し、カノンパープルはバニティリッパー一本でその攻撃を受け、流し、時折反撃する。鋭い突きが骨鬼を襲い、思わず後退してしまう骨鬼。
「トォッ! ブルースーパーキックッ!!」
後退した骨鬼に向かってカノンブルーが必殺の威力の籠もった跳び蹴りを放つ。
カノンブルー、水瀬名雪は元々陸上の選手である。スーツにより更に強化された彼女の脚力ならばコンクリートだって破壊することが容易い。そのキックをまともに喰らって骨鬼は大きく吹っ飛ばされた。
「チャンスです! カノンレンジャーボール、行きますっ!」
「え〜、あれやるのぉ?」
カノンピンクの提案にあからさまなまでに不服の声をあげたのはカノンイエローだ。
前回の戦い以降カノンレンジャーボールをきっちりと完成させる為に何度となく特訓が行われたのだが、それでも完全な成功にはほど遠かった。今でも成功率は50%を切るだろう。
「失敗しそうな気が……」
カノンパープルも少し弱気な声を出す。
「失敗を恐れていては何も出来ません! それに何となくですがここでやっておかないと話が進まないような気がしますし!」
何故か力説するカノンピンク。
「うぐぅ……前の時も思ったけど、栞ちゃん、なんでそう言うことを……」
「さぁ、ぐだぐだ言ってないでやりますよ! カノンレンジャーボール、セット!」
カノンレッドが何か言いかけるのを制するかのようにそう言ったカノンピンクが手に5色に彩られたボールを持つ。そのボールを軽く上に放り投げると素早く手ではたく。
「真琴さんっ!」
飛んできたボールを上手くレシーブするカノンイエロー。
「名雪っ!」
レシーブされたボールを上へとトスするカノンブルー。
「舞さんっ!」
タッと地を蹴ってジャンプしたカノンパープルがトスされたボールを思い切りはたき落とす。
「あゆっ!」
「うぐぅ、これで決め、だよっ!」
そう言って落ちてくるボールに向かってダッシュするカノンレッド。だが、何もないはずなのに何故か彼女は何かに蹴躓いてしまう。
「うぐぅっ!?」
カノンレッドの身体が宙に舞い、そして落下してきたボールが綺麗に彼女の顔面を直撃し、上手く軌道変更したボールが骨鬼に向かって突っ込んでいく。
5人のエネルギーを集めたカノンレンジャーボールが光を放ち骨鬼に命中、そして次の瞬間大爆発が起こった。
あまりにもあっさりとした勝利。吹き飛ばされた骨鬼の骨が辺りに散乱する様子を見ながらカノンレンジャー達は思う。
「……やっぱり真琴達って強いんじゃない!」
「何と言うか当たり前の展開ですね。正義の味方が負ける訳無いんです」
「………」
「……とりあえずこれで又一安心だね」
「うぐぅ……」
思い思いの様子でその場を去ろうとするカノンレンジャー達。
だが、その時だった。
突如天から稲妻が降り注ぎ、地面に直撃したのは。そして、その場に出現する一つ目の怪物、イダーキョ。
ハッと振り返る5人の前でイダーキョはその巨大な一つ目の視界に骨鬼の破片を捕らえ、そこに目掛けて怪しげな光線を発射する。
その光線に照らされた骨鬼の破片がごそごそと動き出し、元の姿を形作るのにそう時間はかからなかった。
「……再生した!?」
驚きの声をあげるカノンピンク。
だが、それだけで止まらない。再生した骨鬼の姿が見る見る間に巨大化し、思わず呆然となって見上げてしまう5人。
「……な、何、あれ?」
「お、おっきくなった?」
「………びっくり」
「……うぐぅ」
カノンピンクを除く4人が呆然と呟く。
「は、は、反則です、こんなの! 勝てるわけないじゃないですか!!」
一人怒ったようにカノンピンクが言う。
巨大化した骨鬼はそんなカノンレンジャーを見つけると容赦無く襲いかかってきた。巨大な足を振り上げ、5人を踏みつぶそうとする。
「わわわ〜っ!!」
慌てて逃げ出す5人。
いくら何でもこれでは分が悪すぎる。等身大の相手ならいくらでも出来るが巨大化した敵にどうやって立ち向かえと言うのか。とりあえず相手に対する有効打がない以上、今は逃げる他手はない。
「ど、どうしよう?」
逃げ回りながらカノンレッドがカノンピンクの方を見る。
「どうしようって言われてもどうしようもありませんっ!!」
「逃げていても勝ち目無いよ〜」
横からのんびりした声で言ったのはカノンブルー。この二人程切羽詰まった様子がないのは体力に自信があるからか。
「そう、逃げていても勝ち目はない……」
カノンブルーの言葉を聞いていたのかぽつりと呟くカノンパープル。手に再びバニティリッパーを持つと巨大化した骨鬼を振り返った。そして気合いを入れてジャンプ。バニティリッパーを思い切り振りかぶって斬りかかろうとするが、骨鬼はまるでうるさい蝿を手で追いやるかのように手を振ってカノンパープルを叩き落としてしまう。
「舞さんっ!!」
地面に叩きつけられたカノンパープルに慌てて駆け寄るカノンブルー。物凄い勢いで叩きつけられたせいか、ぐったりとなり、気を失ってしまったカノンパープルを抱きかかえるとカノンブルーはその場からダッシュした。次いでそこに振り下ろされる骨鬼の巨大な足。どうやら間一髪だったようだ。
「あゆさん、バスターライフルで奴の目を狙ってください!」
「うぐぅ、わかったよ!」
カノンピンクの指示に頷き、カノンレッドが専用武器のバスターライフルを手にする。
「連射モードにして撃ってくださいね。下手な鉄砲数うちゃ当たるって言いますから」
「うう、酷いこと言われてるよう……」
そうは言いながらもカノンレッドはバスターライフルの照準を骨鬼の頭にセットした。そしてすかさず引き金を引く。
バスターライフルから発射された無数のエネルギー弾が骨鬼の顔面に直撃するが、巨大化している骨鬼にはあまり効いていないらしい。おそらく蚊に刺された程度なのだろう。鬱陶しそうに手で顔面に当たるエネルギー弾を払っているが、その手をかわした一発が見事に骨鬼の目に命中、巨大化しても目は目なのだろう、思わずよろめいてしまう骨鬼。
「今です、ここは一時撤退しましょう!」
カノンピンクの判断に誰も逆らわない。骨鬼がよろめいている隙に5人はその場からさっさと撤退するのであった。

<要塞艦ヴェルドリンガ 15:19PM>
先程の戦闘の様子をモニターで見ていたナモンアを除く軍団長の4人は息を飲んでいた。
妖軍師ナモンアが暗黒宇宙から呼び出した怪生物イダーキョの持つ特殊能力の凄さに4人とも言葉もないらしい。
「フフフ……どうじゃ? このワシがわざわざ労力を使って呼び出したイダーキョ、恐れ入ったか?」
「むうう……っ」
唸り声をあげたのはガイターだった。
「まさかこれほどとは……死んだものすら生き返らせるとは……」
感心したように言うゴラド。
「……それを知っていたからあんな奴を出したのかい?」
ギロリとナモンアを睨み付けるリオカー。
「……実験台と解っていたから妖鬼旅団でも最下級の骨鬼を使った……それだけではあるまい?」
クイーバがあまり興味なさそうに、だが、ちらりとナモンアを見てそう尋ねる。
「フフフ……どうやら調べたようじゃの、姫将軍に猛将軍……そこにいる頭の足りん奴らとは違うようじゃの」
「ぬううっ!!」
「何とっ!?」
ナモンアの嫌味に思わず腰の大剣の柄に手をかけるガイターと座っていたイスから腰を浮かすゴラド。
「あのイダーキョとか言う奴はね、確かにああやって死んだ奴さえ復活させ、巨大化させる力を持っているわ。でも一つだけ代償があるのよ」
ナモンアが自分で説明する気がないらしいと解ったリオカーが説明を始める。
短時間ではあったが骨鬼が地球に送られ、カノンレンジャーと戦闘を始めるまでに時間があった。その空いた時間を利用してリオカーはクイーバと共にイダーキョについて調べたのだ。そして解ったこと、それは……。
「代償……?」
ガイターが首を傾げる。
「ええ、あの一つ目から放たれる光線を浴びたものは巨大化する……でもそれと引き替えにその命のエネルギーを極端に奪われてしまう」
「それが代償だ。巨大化する、な」
リオカーに続けてクイーバがそう言う。
「……では……そう易々と巨大化出来ぬと言うことか」
納得したかのようにゴラドが頷きながら言った。
「だが……巨大化すりゃああの小娘共何の手も出せなかった……それで充分じゃねぇか?」
ガイターがそう言って一同を見る。
確かにその通りだった。巨大化した骨鬼にカノンレンジャーはどうすることも出来ず只逃げ回っていただけなのだから。
「……では獣将軍、お主が自ら巨大化してあの小娘共を倒すか?」
「何だと!?」
「巨大化したら最後、その命は尽きる……それほどのリスクを……お主は簡単に背負えると言うのか?」
「………チッ、仕方ねぇ……あれは最後の切り札ってことだろ! 解ったよ!!」
不機嫌そうにそう言い残し、ガイターはその部屋から出ていった。
「……本当に解っているのかしらね、あの単細胞?」
リオカーがガイターが出ていった扉の方を見ながら呟く。
「さぁな……」
そう言ってクイーバは葉巻を取り出した。すっとどこからか取り出したマッチで葉巻に火をつけると、口と思しき場所にくわえる。
「何にせよ、気にいらんな妖軍師。死ぬと解っていて自分の配下を実験台にするとは」
ゴラドがそう言ってナモンアの方を見ると、ナモンアは不敵な笑みを浮かべてゴラドの視線を受け止めた。
「では豪将軍、お主の部下ならば良かったのか?」
「何と……!?」
「フフフ……姫将軍、お主の配下の傭兵ならばどうだ? 猛将軍、お主の配下のロボットならば構わないか?」
「……なっ!?」
「……!?」
リオカー、クイーバの両名が不敵な笑みを浮かべているナモンアの方を見る。その目には少なからず敵意が込められている。
「フフフ……自分の部下が可愛いのは誰とて同じよ……ワシはあえて自分の配下である妖鬼旅団からイダーキョの力を見せるべく、最も適している奴を選んだのだ。お主らに悪いからの……フフフ」
ナモンアにそう言われてゴラド達は黙り込んだ。
イダーキョの特殊能力の正体も知らずに自分の部下を実験台にされては確かにかなわない。確かにそうなのだが、特殊能力とその代償を知りながら平然と部下に出撃を命じるナモンアの心の内も計り知れない。一体こいつは何を考えているのか?
「フフフ……まぁ見ておれ。骨鬼の命が尽きるのが先か、あの小娘共が死ぬのが先か……楽しみじゃわい」
そう言ってまた不気味な笑みを浮かべるナモンアであった。

<カノンベース 15:32PM>
何とかあの場を脱したカノンレンジャーの5人はその基地であるカノンベースに辿り着くと安堵の息をついていた。
とりあえず負傷したカノンパープル・舞を医務室へ搬送し、残る4人はその足で司令室へと向かった。
この先どうすればいいか全く解らない。巨大化した敵にどうやって立ち向かえばいいのか全く解らない。4人の心に不安が影を落とす。
司令室の自動ドアが開き、4人が中に入ると室内にある巨大モニターでは動かなくなった骨鬼が映し出されていた。まるで冬眠でもしているように微動だにしない骨鬼。それはエネルギーを溜めているかのようにも見えた。
「厄介なことになったわね」
一段高くなった司令席に座っている七瀬留美がそう呟いた。
実際には彼女はカノンレンジャーの訓練教官で、今のところ赴任してきていないカノンベース指揮官、ISDO特別作戦部主任の代理を務めているに過ぎない。だが、現状ではこのカノンベースの事実上の指揮官となっている。
「まさか相手にああ言う力があるとは思ってもみなかったわ……」
「油断……ですよね?」
「充分に考えられたと思いますけどねぇ?」
「何せ相手は宇宙からの侵略者だし」
留美の呟きにオペレーターズがひそひそ話し合っている。勿論、留美に聞こえないように、だ。
「七瀬さん、何かいい対策無いかな?」
そう言ったのは名雪だ。
「前みたいな特訓じゃはっきり言って勝ち目無いと思いますからその辺しっかりとお願いします」
続けて栞。
「う〜ん、そうねぇ……」
困ったように顔をしかめ、腕を組む留美。
「とりあえずISDO本部に連絡してみるわ。何か対策が出来るまで解散。今は休養してなさい。何時また出動するか解らないしね」
「了解……」
何となく解っていた答えに落胆を隠せない4人。
ここに帰ってくれば何とかなるのではないかと言う甘い期待があっただけに、現実の厳しさに打ちのめされてしまう。
あからさまに落胆したようにとぼとぼと司令室を出ていく4人を見送り、留美は本当に困ったようにため息をついた。
「果たしてどうするべきか……困ったわねぇ……」

カノンベースの中は意外と居住性が高い。
室内訓練場やアスレチックルームなどがあれば更衣室やらシャワールームやらもある。勿論カノンレンジャーの5人にはそれぞれ個室が与えられているし、ここに勤めている職員にも個室が与えられているぐらいに。食堂に至ってはかなりのジャンルを揃えているぐらいだ。ついでに言うと何故か大浴場まで完備してるのだから凄い。とにかくむやみやたらと福利厚生の面に金がかけられているのだ。
そんなカノンベースの中でも一部の職員しか入れない場所がある。司令室もそうだが、分析室や解析室にはそれ相応のスキルを持った者しか立ち入れないことになっている。勿論装備開発室なども。例外は指揮官クラスの者とカノンレンジャーの5人だけ。まぁ、カノンレンジャーの5人はそう言うところに近寄ろうともしないのだが。
さて、司令室を出てシャワーを浴びるとか食事に行くとか言っていたあゆ達と別れた名雪は半分眠ってしまっているような頭でふらふらと通路を歩いていた。本人は自分の部屋に向かっているつもりだったのだが、何時の間にやら彼女は一般職員が立ち入りを禁止されている区画に入り込んでしまったらしい。気がつけば周囲の雰囲気ががらりと変わっていた。
まるで工場か何かのような機械が一杯の広い部屋。いや、むしろ格納庫と言った方がいいのかも知れない。
何となく入ってはいけない部屋に入ったような、そんなドキドキ感を持って名雪は歩き出した。よく見ると忙しそうに動き回っている職員達がいる。皆何処か汚れたツナギ姿で忙しそうだ。誰も名雪には気付かない。
そんな彼らの邪魔をしてはいけないと思った名雪がふと顔を上げると上の方の部屋に見たことのある人影を見つけた。いや、見たことがあるどころではない。自分の身内ではないか。自分の想い人ではないか。
その部屋に行こうと彼女が近くにあった階段を登りだした。何と言っても久し振りに会うのだ。これまでずっと入院していて、その病院に出入りすることを禁じられていたのだ。会えなかったから、より一層会いたさが募る。想いが募る。とにかく全力で、必要以上に力一杯階段を登りきった名雪がその部屋のドアを開けると、そこにいた青年と彼と何か話し合っていたらしい中年の男、そしてもう一人、ISDOの制服を着た女性が一斉に振り返った。
「祐一っ! 会いたかったよぉっ!!」
そう言って名雪が青年に飛びつく。気のせいか視界に杖のようなものが見えていたがそんな事は気にしない。彼に会えたことが嬉しくて嬉しくてたまらないのだ。
「な、名雪ッ!?」
青年がいきなり自分に飛びついてきた名雪を見て驚きの声をあげる。そして同時に彼はそのまま、飛びついてきた名雪の勢いに押されるように後ろに倒れ込んだ。
「ぐおおおっ!?」
苦悶の声をあげつつ。
「あちゃー………」
見てられないとばかりに手で顔を覆う中年男。
もう一人いた女性も思いきりため息をついている。
青年が苦悶の声をあげている間も名雪はまるで猫にでもなったかのようにごろごろと頬をすりつけていた。
「あの……名雪さん、離してあげないと祐一さんが死にそうなんですけど……」
流石にこのままでは本当に青年が可哀想なので女性がそっと声をかけると名雪がハッと顔を上げた。そしてゆっくりと振り返り、そこに女性と中年男の姿を確認すると真っ赤になって慌てて青年から離れるのであった。
「ぬおお……」
今だ悶絶している青年。どうやら倒れた拍子にギプスをはめている方の足を強く打ち付けてしまったらしい。流石にごろごろと無様にのたうち回ったりはしていないようだが、かなりの激痛が彼を襲ったことに違いはない。
「おいおい、大丈夫かい、主任さん?」
中年男がそう言って倒れている青年に手を差し伸べる。
「ああ、さんきゅ、技師長……」
差し出された手を取り、何とか青年は起きあがった。また足から走る激痛に顔をしかめながら、それでも声をあげるようなことはしなかった。流石、この場に女性が、妙齢の、しかもかなりの美人が二人も揃っているだけのことはある。
「全く……無茶はいけねぇぜ、お嬢ちゃん」
中年男がそう言って名雪の方を見る。
「す、すいません……わたし、久し振りに会えたからちょっと浮かれちゃって……」
申し訳なさそうに頭を下げる名雪。
それを見た中年男が慌てたように手を振った。
「おいおい、待ってくれよ。あんたが謝るべきなのは俺じゃなくってこの主任さんだろう?」
「あ、そ、そうですね……ゴメンね、祐一……」
今度は青年の方に向かって名雪が頭を下げる。
が、青年はそんな彼女の肩に手を置くとにっこりを笑みを浮かべてみせた。
「なぁに、謝ることはないさ、名雪。さっきのは油断していたんだよ、この俺がな。何時いかなる時でも隙を見せてはならない……それが戦士ってもんなのにな」
そう言うと青年はさっと前髪をかき上げてみせた。
「祐一ぃ……かっこいいよぉ……」
何かウットリとしたような視線を青年に送る名雪。
そんな二人を見て思わずため息をつく中年男。
「また始まった……これさえなきゃ立派な人なんだがなぁ」
「まぁまぁ……これもまた祐一さんの魅力の一つですから」
中年男のぼやきをなだめるかのように女性が言う。
「さて、予想外の客の到来だが……まぁ、構わないだろう。技師長、話を続けてくれるか?」
青年がそう言って中年男の方を振り返る。
今更改めて説明する必要はないだろうが、この青年こそこのカノンベースの責任者にして指揮官、そしてカノンレンジャー司令官、正式にはISDO特別作戦部主任、相沢祐一その人である。
そして一緒にいた女性は倉田佐祐理。ISDOの職員の一人、正確な部署は今の所誰も知らない。祐一も詳しいことは知らないらしいが、今はこのカノンベースに所属しているようだ。病院まで祐一を迎えに来た佐祐理が彼と共に今、この場にいると言うのは彼女の身分がそれなりに高いものである証拠だろう。
さて、もう一人。この中年男はこのカノンベースを設計、建造したISDO工業セクションに在籍する石橋蓮太郎と言う男で今はカノンベースの技術部の総責任者を勤めている。この基地で使われている様々なメカの大部分がこの石橋によって手が加えられており、前回、前々回と見事に壊されたあのジープにしても、前々回に名雪が乗って出動させられた特殊バイクにしても、彼の作品の一つであった。祐一達は彼のことを尊敬の念を込めて”技師長”と呼んでいるのだ。
「……まぁ、構いませんがね。さっきの話に戻るとこいつはまだ完全に完成はしちゃいねぇってことでね」
そう言って石橋技師長は今いる部屋から見える格納庫の方をちらりと見やった。
「俺としちゃあ、こんな不完全なものを実戦に出したくはないってことですよ」
「まぁ、確かに技師長の言う通りだがな。今は非常事態だ。多少のことは目をつぶってもらわないと」
「ところで一体何が完成していないんですか?」
3人の話を聞くとも無しに聞きながら、名雪は格納庫の方を見やった。その部屋には大きな窓があり、そこから格納庫が一望出来る。そしてその格納庫にあるものを見て、名雪は息を飲んだ。そこにあったものは……。

<採石場 21:34PM>
すっかり夜、空には月が出て周辺を照らし出している。
その月明かりにまるで反抗するかのようにパッパッとサーチライトが点灯し、踞ってぴくりともしない巨大骨鬼を照らし出した。
「……ありゃ確かに凄いな」
呟くようにそう言ったのは動かない巨大骨鬼を監視する為にわざわざ派遣された防衛軍の隊長である。首に下げた双眼鏡で動かない骨鬼の様子を伺いつつ、周囲に展開している部隊に指示を出している。
「第3小隊はもっと右に展開させろ。動き出したらすぐに奴を包囲出来るようにな。ここから奴を出したらあっと言う間に街だ。それだけは防がないとな」
「しかし……本当に驚きですね。ガキの頃見た怪獣映画も真っ青ですよ」
隊長の隣にいた副官がやはり双眼鏡を片手にそう言った。
「これが怪獣映画ならもう一匹ぐらい出てきて戦ってくれるんだろうがな」
「でもそうなると我々の出番が無くなりますよ」
「何言ってる。怪獣映画なら我々の扱いはもっと酷いもんだよ。下手をすれば何の活躍の場もないままやられるだけだ」
「そうならないことを祈りましょう」
軽口を叩き合う隊長と副官。
その間も巨大骨鬼はぴくりとも動かない。まるで眠ってしまっているかのように。いや、本当に眠ってしまっているのかも知れない。
とにかく、採石場は静かであった。
まぁ、戦車の動く音とかが響いていたのだが。

<カノンベース司令室 23:01PM>
「それじゃお疲れさまで〜すっ」
司令室の入り口の自動ドアの前でそう言って頭を下げるのは3人組のオペレーターズ。例によっていつもの3人組だが、どうやら勤務の交代時間のようであった。
一応この司令室には様々な情報が随時送られてくるのでオペレーターは24時間態勢で対応しなければならない。しかしながらオペレーターをしているのは人間、休憩しなければとてもじゃないが保たない。当たり前のことだが、ここでも交代勤務制は採用されているらしい。
「は〜い、お疲れさま〜」
そう言ったのは相変わらず司令席に座っている七瀬留美だった。一応勤務時間と言うものがそれなりに定められているのだが、彼女クラスになるとそう言うものは結構無視される傾向が強い。と言うか、事態がそれを許さないことの方が多い。そう言う訳で彼女は未だその席に座ってどうすればあの巨大化した敵に立ち向かえるかずっと考えているのであった。まぁ、ここの指揮官がいない以上、彼女がその責務にあるのだから仕方ないと言えば仕方ないことだが。
さて、もう何時間も考えているが良いアイデアは全く浮かばなかった。一応ISDOの本部にも報告はしてあるが向こうからは何も言ってこない。すなわちこっちで何とかしろと言うことだろう。このカノンベースに集められているのはISDOの中でも最高峰のスタッフばかり、自分達だけで何とかアイデアをひねり出せと言うことか。
「……全く……いい加減なものね」
そう呟いてため息をつく。
「こんな事で地球を本当に守れると思っているのかしら……?」
首を傾げながらくるりとイスごと反転して、背中側にあった大きなモニターを見やる。
そこに映し出されているのは相変わらずぴくりともしない巨大骨鬼の姿だった。防衛軍のサーチライトに照らし出されているにもかかわらず死んでいるかのように動かない。
「……こいつも一体何を考えているのやら……ハァァ……」
ガックリと肩を落とし、留美がまたため息をついた。
折角巨大化したのにあの採石場にじっと踞ったまま一歩も動かない。まるで眠っている……いや、死んでいるかのように。一体それに何のメリットがあると言うのか。
考えることが山のようにある。何で私が考えなければならないのか。こう言う仕事はここの本来の指揮官が考えるべきことのはずだ。一体どうして、何で私が。徐々に考えがそちらの方へとシフトしていく。私は只の訓練教官なのに。どうしてこんなに頭を使わなければならないのか。何と言うか怒りがこみ上げてくる。
「一体何やってるのよ、あいつはっ!!」
思わず口に出し、デスクをどんと叩く留美。
その音に思わず交代したばかりのオペレーターズがビクッと身体を震わせ、恐る恐る留美の方を振り返った。
留美はまだ怒りが治まりきっていないように肩をピクピク震わせている。おそらく顔は物凄い形相になっているのだろう、本人は全く自覚していないようだが。
そんな留美を見たオペレーターズは留美に気付かれないように自分達の仕事に戻り、そして彼女の怒りの矛先が自分達に向かってこないよう戦々恐々としながら次の交代時間までを過ごすのであった。

<採石場 05:20AM>
夜が明け、陽が昇り始めた頃。
今までぴくりともしなかった巨大骨鬼が朝陽を浴びたその瞬間、まるで眠りから覚めたかのように動き出した。
「隊長、目標が動き出しました!!」
ずっと骨鬼の様子を伺っていた防衛軍の隊員がそう叫んで隊長を振り返る。
机の上に突っ伏して居眠っていた隊長と同じような姿勢でやっぱり居眠っていた副官がその一言に飛び起き、一斉にテントの外へと飛び出していった。確かに先程の隊員の言う通り、骨鬼は大きく朝陽に向かって伸びをしている。
「おお……目覚めたのか……」
「……感心している場合じゃない。攻撃用意! 奴をこの採石場から一歩も外に出すな!!」
感心している副官にそう言うと、隊長はすぐさまテントに戻った。
「航空部隊の発進を要請しろ! それとついでにISDOにも連絡を入れておいてやれ!」「ついで、ですか?」
無線機の前にいた隊員がそう尋ね返すと隊長はこっくりと頷いた。
「どうせ何処かから監視しているだろうからな。ほっといても来るんだろうが一応だ、一応」
「一応ですね」
「ああ、そうだ。一応、だ」
「了解しました」
そう言って隊員が無線機を操作する。
程なくして近くの航空基地から発進してきた戦闘機が採石場の上空に飛来した。朝焼けの空をバックに勇壮なる戦闘機隊が巨大骨鬼に向かって攻撃を開始する。更に地上からは戦車隊が砲撃を開始していた。
突然上下から攻撃を受けた巨大骨鬼は慌てふためくが、すぐに気を取り直すと両手にそれぞれ巨大な骨を持ち、その骨を振り回して戦闘機隊を撃墜し始めた。
「……まさに怪獣映画さながらの光景ですね」
次々と撃墜されていく戦闘機隊を見ながら副官が呟く。
「多分次は戦車隊が蹴散らされるんですよ」
副官の言う通り、戦闘機隊を全て撃墜した骨鬼は次に足下にいる戦車隊を蹴散らしていった。文字通り、足で、蹴散らしていったのである。
「あああ……せ、戦車隊が……」
呆然となる隊長の前で戦車隊が次々に蹴散らされていく。
「こりゃまた見事なまでに蹴散らされていきますなぁ〜」
やけにのんびりとした口調で言う副官。
「な、何を言っているか! すぐさま増援を要請するんだっ!!」
顔を真っ赤にして隊長が怒鳴り声をあげる。
その間にも戦車隊は次々と蹴散らされていた。それはもう何の為す術もなく、一方的に、圧倒的に。まさしく無敵の怪獣に立ち向かう自衛隊の如く。
「了解致しました、隊長殿!」
副官がそう言って敬礼する。
と、その時だ、骨鬼によって蹴り飛ばされた戦車が一台、本部となっているテントの側に落着した。
「うわわっ!!」
慌ててテントの中に逃げ込む隊長。
一方副官はと言うと多少バランスを崩したものの転倒することもなく、衝撃に吹き飛んだ帽子をそっと拾い上げてから骨鬼を見上げてニヤリと笑ってみせた。
「派手にやってくれるじゃないの……さて、あのお嬢様方は何時来るんだろうねぇ?」
そう言った彼の頭の上でまるで触覚のように飛び出した髪の毛が風に揺れていた。

<カノンベース 05:31AM>
巨大骨鬼が動き出したとの報告は防衛軍の連絡よりも先に別ルートからカノンベースにもたらされていた。はっきり言ってしまえば防衛軍に隠れてずっと様子を伺っていたISDO諜報部。ちなみにカノンレンジャーの活躍を何時もどこからから録画しているのはISDOの情報部である。
「遂に動き出したわね……」
目の下に隈を作った留美がその報告を聞いてニヤリと壮絶な笑みを浮かべた。どうやら一睡もしていないらしい。寝不足やら苛々やらで既に精神の一部が壊れかけているような気がしないでもない。
「全くいい手段は思い浮かばなかったけどこのまま見ている訳にもいかないし……ここは連中の気合いと根性にかけましょ……」
そう呟いてカノンベース内に通じる内線のスイッチを入れようとした時だった。
『カノンレンジャーはすぐに格納庫に集合! 繰り返す、カノンレンジャーはすぐに格納庫に集合!!』
ハッと思って留美が顔を上げる。
今、このカノンベースでカノンレンジャーに直接指令を下せるのは指揮官代理の留美のみのはずである。にもかかわらず、この自分を通さずにカノンレンジャーの5人を招集した奴が居る。一体誰が……そう思って司令席から立ち上がると彼女も格納庫へと向かった。
カノンベースの最下層にある格納庫、そこに呼び出されたカノンレンジャーの5人がやってきていた。
「何でこんな所に……?」
普段は全くこう言う場所に出入りしないからだろう、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回している栞が呟く。
同じようにキョロキョロ、そしてそわそわしているのは真琴。何か探検したくてたまらなさそうだ。
「うぐぅ………」
何故かびくびくしているのはあゆ。どうやら格納庫内の暗がりが怖いらしい。半ば涙目になっている。
「舞さん、本当に大丈夫?」
「………はちみつくまさん」
頭と左腕に包帯を巻いている舞に向かって心配そうに尋ねているのは名雪。前回の出動時に負傷した舞だがどうやらここまで回復したらしい。しかしながらまだ完全に回復はしていないようだ。
この格納庫のことを知っている名雪は、だからか格納庫内部よりも負傷していた舞のことを気にかけているようだ。ここに集められたと言うことは、これから出動だと言うことだ。この傷では満足に戦えないのではないかと言う不安がある。何しろ彼女はカノンレンジャーの中でも最も高い戦闘力を持っているのだから。
そこに司令室からやって来た留美が現れた。
「あんた達……揃っていたのね」
5人が既に集合したいたことを意外そうに言う留美。それはそうだろう、まだ朝の5時半過ぎだ。この5人が眠っていたとしても何の不思議もない。特に名雪は。
「……まさか名雪まで起きていたとは思わなかったわ、正直ね……」
「それは酷いよ、七瀬さん……」
「ところで何でここなんですか?」
そう尋ねてきたのは栞だった。どうやら彼女はここに集合するように招集命令を出したのが留美だと思っているようだ。
「生憎だけど、ここに集合するように言ったのは私じゃないわ。だから私もここに来たんだけど……」
そう言いながら留美が周囲を見回すと、薄暗かった格納庫内にパッと照明がついた。それも測ったように一斉に。
突然明るくなったのでその場にいた6人は思わず手で目を覆ってしまう。
「待たせたな、お前ら!!」
格納庫内に響き渡る声。
その声に6人が顔を上げると格納庫内に鎮座している巨大な物体の上に一人の男が立っていた。片手には松葉杖、空いている方の手には何故かマイクを持って。
「あ、あれは……」
「祐一くんっ!」
「祐一さんっ!」
「祐一っ!?」
「祐一ぃっ!!」
「……祐一?」
あゆ、栞、真琴、名雪、舞の5人が一斉に声をあげる。その横では留美が思いきり額に手を当ててため息をついていた。
「ハァァ……こう言うことだった訳ね……本部から何も言ってこないのは」
そんな彼女の落胆はよそに何か巨大なものの上に立っている相沢祐一はマイクを片手に器用に松葉杖をついた方の手で足下を指さしている。
「こいつがお前らの新しい力だ! こいつであの骨野郎をぶっ倒してこいっ!!」
「あう〜、何で祐一が命令するのよぉっ!!」
真琴がそう言うと祐一はさっとマイクを持った手で前髪をかき上げた。
「そいつはな……俺がここの総責任者、お前らの司令官だからだっ!!」
言いながらビシィッと真琴に向かって指を突き付ける祐一。
思わずガーンとそれにショックを受ける真琴、そしてあゆ。
「……何であんたまで驚いているのよ?」
じと目であゆを見た真琴がそう言うとあゆは「てへへ」と笑って誤魔化した。

とりあえずその巨大な何かにあゆ達は乗り込み、その上に立っていた祐一は留美を伴って管制室に移動した。
『いいか、そいつはお前らの脳波でコントロールされる。だから操縦とかややこしいことは一切抜きだ』
コックピットらしい場所に辿り着いたあゆ達に無線でそう話しかける祐一。
『武器とかはボタンを押す必要が多少あるがほとんど問題ないだろう……ちなみに変身しておかないと使えないからな』
「うん、解ったよ」
そう答えてあゆが空いているシートに座った。前に3つ、後ろに2つシートが用意されているうちの前の、しかもど真ん中。
「……何であゆがそこなのよ?」
そう言ったのは真琴だった。どうやら彼女もそこに座りたかったらしい。
「だってボクがレッドだし……一応リーダーだし」
答えながらあゆはさっさとシートベルトをつけてしまう。
「真琴はそんなの認めないわよ! だいたいレッドがリーダーである必要性はないんだし!」
「そうですよね。最近のスーパー戦隊はレッド以外のリーダーが居ますし」
真琴に同意したのは栞だった。
「それに私達の場合……どう見ても私が一番指示とか出してますしねぇ……」
言いながらちらりとあゆを見る栞。
確かに彼女の言う通り、あゆは自分でリーダーだと言う割にほとんど指示を出したりはしない。まぁ、周りが言うこと聞きそうに無いと言うこともあるのだが、それ以上に栞の方が先に色々と指示を出すのだ。しかも結構それが的中している。
「うぐ……と、とにかくここはボクッ! 今日は絶対に譲らないよっ!」
珍しく強気にあゆが言う。
「あの……とにかく座ったらどうかな? 場所はまた後で考えればいいんだし」
そう言ったのは後ろの席にちゃっかり座っている名雪だった。隣には舞が座っている。どうやら二人は前に行こうという気がないようだ。
「早く行かないと防衛軍の人も大変だろうし……」
「やだ! 真琴は真ん中がいいの!!」
「私が一番指示とか出すんだから私が中央ですっ!!」
「うぐぅ、譲らないって言ってるじゃないかぁっ!!」
『おまえらいい加減にしろっ!!』
いきなり大音量で響き渡る祐一の怒鳴り声。どうやら無線の音量を向こう側で勝手にいじれるようだ。
『また今回も時間が押しているんだっ! さっさと出動しろっ!!』
「うう、今回もまた巻きなんだね……」
「……仕方ありませんね……今回だけですよ、私が折れるのは……」
「後でちゃんと話しつけるんだからね!! いいわね、あゆっ!!」
まだぶつぶつ言っている栞とあゆに堂々と宣言した真琴がそれぞれあゆの左右のシートに座った。
全員がシートベルトをつけたのを確認してから、一斉にブレスレットをつけている左腕を高く掲げる。
「ミラクルチェンジャー、セットオン!!」

その声を管制室で聞いていた祐一はさっとマイクを口元に持っていくと高らかに宣言した。
「カノンジェット、発進っ!!!」

あゆ達を乗せた巨大なもの、それはISDOがその科学技術の粋を結集して作り上げた大型ジェット戦闘機・カノンジェットであった。カノンベースの最下層にある格納庫から続く地下滑走路を通り巧みにカモフラージュされた発進口からカノンジェットが飛び出していく。
ちなみにどうして変身してからでないとこのカノンジェットは動かないのか。実は彼女たちが着ているスーツが脳波をカノンジェットに送っているのだ。だからスーツがないとかノンジェットは全く動かない。そしてもう一つ。スーツを着ていないと、この常識外れのカノンジェットの加速Gに身体が耐えられないのだ。
「うぐぅ……潰されるよぉ……」
「あう〜〜」
「えう〜〜」
「………っ!!」
「………く〜」
何か一人寝ているような気がしないでもないのだが、とりあえず5人を乗せたカノンジェットが朝焼けの空を切り裂き、巨大骨鬼が暴れている採石場へと向かわずに何故か明後日の方角を向いて飛んでいくのであった。

<採石場 05:59AM>
巨大骨鬼の猛攻の前に防衛軍はもはや壊滅寸前だった。
御自慢の戦車隊は見事に蹴散らされ、援軍の戦闘機隊もあっさりと撃墜されてしまっている。傍若無人に暴れ回る骨鬼を止める術はもう残されていなかった。
「おおお……せ、戦車隊が……」
涙目になった隊長が壊滅寸前の戦車隊を見ながら呆然と呟く。
まさかここまであっさりと自分の部隊が壊滅寸前に追い込まれるとは思っていなかったであろう。この後、一体どういう風に責任を取ればいいのか、考えるだけで怖い。いや、それ以上にこのまま骨鬼が市街地の方へと進み、街に多大なる被害が出ればその責任が全て自分にかかってくるのではないか。冗談ではない。そんな事になれば自分は首を吊るほか無いではないか。
「え、援軍はどうした!? ISDOは何をしている!?」
そう言ってテントの方を振り返る隊長だったが既にテントの中には誰もいなかった。一瞬ぽかんとなる隊長の後ろで巨大骨鬼の足が踏み降ろされる。その衝撃に隊長の身体が宙に舞った。どうやら気がついていなかったのは彼だけで、他の隊員達はこちらに向かってくる骨鬼に気付き慌ててその場から逃げ出したようだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
慌ててその場から逃げ出す隊長。
次いで、テントの上に巨大骨鬼の足が振り下ろされ、テントが踏みつぶされる。
かくして防衛軍は壊滅したのであった。

<採石場上空 06:21AM>
防衛軍が壊滅してから約20分後、ようやく例の採石場の上空にカノンジェットがやって来た。信じられないようなスピードで。
「や、やっと来たか……」
もはやボロボロになった隊長が空を見上げて呟いた。だが、彼はそのすぐ直後に思い切り後悔することになる。
飛来したカノンジェットはそのまま物凄い勢いで採石場の上を飛び去っていたのだ。物凄いソニックブームを残して。
「うおおおおおおっ!?」
そのソニックブームに吹っ飛ばされる防衛軍の生き残りと巨大骨鬼。

5分後。
おそらくは何処かでUターンしてきたのだろう、カノンジェットが再び採石場の上空に飛来した。その姿を見上げながら何とも嫌な予感を覚える防衛軍の生き残り達。果たして、その予感は見事に的中する。
シャレにならないくらいのソニックブームを残してカノンジェットはまたも採石場の上を飛び去っていった。
「うぎゃあああああっ!!」
またしてもソニックブームに吹っ飛ばされる防衛軍の生き残りと骨鬼。

それから約30分の間、同じ事が繰り返されるとは誰が思ったであろうか。おそらく誰も、カノンベースにいる祐一達ですらもそんな事は予測していなかったに違いない。

<カノンベース 07:02AM>
司令室にあるモニターでその様子を見ていた祐一は口をぽかんと開けて絶句していた。
モニターに映し出されているこの映像は一体何だ? 何かの冗談か? それとも俺は何か悪い夢でも見ているのか? ああ、そう言えばここ最近カノンジェットの調整とかで寝不足気味だったっけ?
「現実よ、現実……」
呆れ返るのを通り越して既に何処か達観した感のある留美が呆然としている祐一に向かってそう言い、自らもため息をついた。
「認めたくないのは解るけどね」
「……か、カノンジェットは連中の脳波で動かせるんだぞ? 止まれと思えば止まるはずだ。そんな簡単なこと……」
「意外とあの加速Gに耐えられてなかったりして」
「う……」
留美の発言に何となく嫌な予感を覚える祐一。
マッハを超える速度を持つカノンジェット、その加速Gは並みのものではない。だからこそ変身してからでないとカノンジェットは動かせないのだが、まさかそっちの方に問題があるとは。やはりまだまだ課題の多い連中だ。
そんな事を考えながら祐一は頭を抱えていた。
「……今度の特訓メニューに加えておくわ、耐G訓練」
「そうしてくれ……」
そこはかとなく頭痛を感じながら祐一はデスクの上のインカムを手に取り、装着した。そしてため息をつきつつ、無線のスイッチをONにする。
「あー……聞こえるか、お前ら?」

<採石場 07:05AM>
また採石場の上空を飛び去ったカノンジェットのコックピットの中に祐一の声が飛び込んできた。何処か疲れを感じさせながら。
『あー……聞こえるか、お前ら?』
「う、うぐぅ……」
「あう〜……」
「えう〜」
「………」
「……く〜」
約1名程何か違うような気がするが、とりあえず息も絶え絶えな感じでそれぞれが返事をする。
『……とりあえずな、スピードを落とせ』
「どうやればいいのよぉ?」
そう言ったのはカノンイエローだ。
『カノンジェットはお前らの脳波で操縦するって言っただろ? 簡単なことだ。そう思えばいい』
「………つまり”止まれ”と思えば止まる訳ですね?」
今度はカノンピンクが口を開いた。ようやくこの現状を打破出来るという期待が込められているのか、嬉しそうな口調で。
『つまりはそう言うことだ。理解が早くて助かるぞ、栞』
コックピットにそう言う祐一の声が響くのと同時にいきなりカノンジェットが失速しだした。どうやらカノンピンクの一言で皆が同時に(約1名を除いてだが)同じ事を考えたらしい。すなわち、「止まれ」と。皆、カノンジェットの加速Gにもうガマン出来なくなっていたらしい。
「わ〜、ダメダメ!!」
カノンレッドがそう言って手をばたばた振る。
何とかジェットエンジンを再点火し、カノンジェットがスピードを取り戻した。だが、同時にコックピットに物凄い加速Gが再発生する。
「うぐぅ……」
「あう〜」
例によって妙な声をあげるカノンレッドとカノンイエロー。
『……なぁ、お前ら……何で全力で飛ぼうとするんだ?』
呆れたような祐一の声。
『それなりに速度を抑えりゃGも何とかなるだろ?』
「……そう言えば」
ハッと気付いたように顔を上げるカノンピンク。
ちなみにこうやって会話している時点で又採石場の上を通過してしまっていたのだが、誰もそれに気付いてはいなかった。だが、カノンジェットは大きくUターンしてまた採石場の方へと向かう。今度は流石にそれなりに速度を落として。
「や、やっとこれで戦えるのね……」
ハァハァと肩を大きく上下させながらカノンイエローが言う。どうやら今までのことで相当体力を消耗してしまったらしい。それは他の3人も同様だった。只一人、発進した直後くらいから夢の世界へと突入しているカノンブルーを除いて、だが。
「……見えてきた」
ぽつりとカノンパープルが呟く。
確かに彼女の言う通り、カノンジェットの前方に採石場が見えてきた。何度となくその上を超音速で通過していた為、採石場は既に見る影もない程になっていたが。ちなみにソニックブームに吹っ飛ばされまくっていた巨大骨鬼は倒れたまま身体をピクピク震わせている。他にも地上では防衛軍の生き残りがばたばたと倒れ伏していたが、それは流石に見えなかった。
「祐一君、攻撃、どうやるの?」
『司令と呼べ……まぁいい。今回ははっきり言ってこいつのお披露目だ。いきなりだがとっておきをみせてやるんだ!』
「とっておき?」
『ああ、とっておきだ。カノンジェットは……』
「あ、解った! 変形出来るんでしょ!」
嬉しそうにそう言ったのはカノンイエローだ。
『お、真琴にしちゃなかなかやるな。そう、カノンジェットは変形……』
「これであいつと互角に戦えますね!」
「大きさが同じなら負けない」
「よぉし! やるよぉっ!!」
「………く〜」
祐一の言葉を遮っていきなり盛り上がる一同(約1名除く)。
「で、どうすればいいの?」
そのカノンレッドの一言でいきなり盛り下がった。豪快にシートの上でずっこけるカノンイエローとピンク。
「な、何を今更言っているんですか!!」
「あんた今までのこと何も聞いてなかったの!?」
「うぐぅ……」
左右から思い切り怒鳴られ、思わず小さくなるカノンレッド。
「このカノンジェットの操縦は私達の脳波で行っているって祐一さんは言っていました。と言うことは」
「真琴達が”変形しろ”と考えれば変形してくれる訳。解った?」
カノンピンク、次いでカノンイエローからそう言われてカノンレッドがポンと手を打った。
「なるほど、すっごいねぇ〜」
『………ちょっといいか?』
「何?」
「どうしました?」
『悪いんだが……変形だけは別にやらなくっちゃいけないことがある。あゆ、お前の席の上にレバーがあるだろ?』
言われてカノンレッドが上を見上げると確かに天井から一本のレバーが降りてきていた。
「あるよ」
『それを思い切り引きながら、こう叫ばないと変形しないんだ。”ミラクルチェンジ、カノンレンジャーロボ!!”ってな』
「さ、叫ぶの!?」
戸惑ったような声をあげるカノンレッド。
「う……それはちょっと恥ずかしいかも……」
「……ちょっと遠慮したいですね」
「……………」
「く〜………」
相変わらず夢の世界に突入中の一人を除く残り3人も何とも戸惑ったような様子だった。
ここまで脳波で操縦出来ると言うのに一体どうして変形の時だけ”レバーを引き”、”叫ばない”といけないのか? 言葉自体はそれほど恥ずかしいものではないが、何と言うか叫ばないといけないと言うのがどうにもイヤだ。それが4人の共通した意見である。これほど短時間でこの面子の意見が一致したことはおそらく希有であろう。
「……あゆさん、任せました」
「これを成し遂げられるのはあんたしか居ないわ、あゆ」
左右からぽんぽんとカノンレッドの肩を叩きながら言うカノンピンクとカノンイエロー。その後ろではうんうんとカノンパープルが激しく頷いていた。
「え? ええ!?」
戸惑ったように左右を見るカノンレッドだが、果たして誰も助けてくれなかった。いや、周りにいる全員(一部除く)が共謀者なのだからどうしようもない。
「ま、真琴ちゃん、そう言えば真ん中座りたいって言ってたよね!?」
「な、何のことかしら〜?」
カノンレッドがそう言いながらカノンイエローを見るとカノンイエローはさっと別の方向を向いてしまった。
「し、栞ちゃん、指示出すの上手かったよね?」
「ゲホッゴホッ……ああ、急に身体の調子が……ここはお任せしました、あゆさん」
今度は逆方向にいるカノンピンクを見るカノンレッドだが、カノンピンクはわざとらしく咳き込みながら顔を背けてしまう。
更に後ろのシートに座っている二人を見る為振り返るカノンレッドだが、片方はすっかり夢の中、もう片方は無言で見つめ返されるのみ。こうなるともはや諦めるほか無い。ため息をつきつつ、正面を向いたカノンレッドは仕方なさそうに天井から降りたレバーに手をかけた。
「み、ミラクルチェンジ、カノンレンジャーロボ……」
『声が小さい!』
容赦無く飛ぶ祐一の怒声。
「み、ミラクルチェンジ、カノンレンジャーロボ!」
『まだまだ! もっと大きい声で気合い入れて!!』
「み、ミラクルチェンジ! カノンレンジャーロボ!!」
半ばやけくそ気味にカノンレッドが叫び、同時にレバーを引く。
するとカノンジェットが更に速度を落とし、変形を開始し始めた。その変形が完全に終わるまでほんの数秒。ジェット機型からあっと言う間に人型ロボットへと変形を完了する。しかも空中で。
そこは丁度採石場の真上だった。
人型に変形したことによって推力を失ったカノンレンジャーロボが降下、と言うか落下していく。
「うわわわっ!!」
「きゃああっ!!」
カノンレンジャーロボのコックピット内で悲鳴が飛び交う。
「く〜……」
それでも一人は完全に熟睡しているようだが。
とりあえず落下していくカノンレンジャーロボ、その真下に未だ倒れたままの骨鬼が居た。ここまで来ると結論はもうおわかりであろう。
落下するカノンレンジャーロボの下敷きとなる巨大骨鬼。その身体を構成する骨が次々と崩壊し、そして次の瞬間大爆発を起こした。
その爆発の中、すっくと立ち上がるカノンレンジャーロボ。
「カノンレンジャーロボ、見参です!」
「さぁ、今度は負けないわよぉっ!!」
コックピットの中でそう言うカノンピンクとカノンイエロー。
だが、二人、いや熟睡しているカノンブルー以外の4人の目には敵の姿が映らなかった。まぁ、自分達が下敷きにして倒してしまったから当然であるが。もっともそんな事は全く知らない4人はキョロキョロと周囲を見回していた。
「あれ?」
「何処行ったんでしょう?」
「きっとあれよ! 真琴達が怖くなって逃げ出したのよ!」
「………」
カノンイエローの発言にコクコクと頷くカノンパープル。
何か激しく勘違いしているようだが、とりあえずは今回もまた何とか世界の平和は守られたようである。
何かカノンレンジャーロボが全く活躍していないような気がするがその辺はスルーした方がいいのだろう、きっと。しかし、これで良いのかどうかはやはり激しく疑問が残るのであった。
何はともあれ、この連中しか世界を守れないのだから仕方ないのだ。
とりあえず頑張れ、カノンレンジャー。
「………く〜」
いや、マジで。

This Story Is End.
To Be Continued Next Story.


後書き
作者D「連続ですね、カノンレンジャー」
かおりん「どう言う風の吹き回しかしら?」
作者D「いや、何となくネタを思いついてあったので一気に書いてみました」
かおりん「例によって行き当たりばったりね」
作者D「予定は常に未定なのですよ、かおりん様」
かおりん「はいはい、それじゃ今回の話に行きましょうか」

作者D「さて、前回の後書きにて書いてあった”スーパー戦隊らしいもの”とか”定番のあれ”とかですがそれは今回初登場となった”カノンレンジャーロボ”のことなのでした」
かおりん「そもそも”スーパー戦隊シリーズ”は複数のヒーローとスーパーロボットが共に活躍してこそのものらしいわね」
作者D「そう言う意味では”ゴレンジャー”と”ジャッカー”は含まれないはずなんですけどね。それがいつの間にか一緒くたになっていると」
かおりん「一緒くたって、あんた……」
作者D「まとめられた、と言うべきでしょうか? まぁ、確かに戦隊ヒーローはゴレンジャーが初でしょうし」
かおりん「……ところでちょっと聞いておきたいことがあるんだけど?」
作者D「かおりん様のその手の言葉から始まる質問は何時も痛いところをついていてイヤですが」
かおりん「(無視して)今回のタイトル、偽りありまくりよね?」
作者D「………あー………」
かおりん「どうなのよ?」
作者D「……そここそ今回の話の肝でして……」
かおりん「………」

作者D「さて、次回予告っぽいものですが」
かおりん「そう言えば無いわね?」
作者D「次回が何時になるのか全く解りませんが、とりあえずネタだけはあるようなのでまたその内です」
かおりん「全然次回予告じゃないし」
作者D「だって先にやらなきゃいけないことがたくさんあって……」
かおりん「いいからさっさと書く!!」

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