<ISDO秘密基地 10:31AM>
ISDOのブルーとホワイトを基調とした制服をぴしっと着こなした一人の女性が同じ制服を着たより若い女性からの報告を聞いていた。二人の制服にほとんど違いはないが、肩の所の階級章と胸元のIDカードの色にやや違いが見られる。
「と言うわけで前回の街の被害総額はもうとんでもない額になるそうです」
「・・・・・・」
「まぁ、ISDOの財政部門やその他国際機関からもすぐに援助金がでるそうなので復興には問題ないと思われますが・・・副司令、どうかしましたか?」
報告書から目を離し、思わず額に手を当てている副司令・水瀬秋子に問いかける女性職員。
秋子はふうっと大きく息を吐いてから女性職員の方を見て、続きを促した。
「はい。前回の戦いで負傷した相沢特別作戦部主任ですが全治3週間の重傷だそうです。尤も本人は至って健康そうで同じISDO特別病院の看護婦にちょっかいをだしては殴られ、入院期間を徐々に伸ばしているそうですが」
はぁぁぁぁぁぁ・・・と更に深いため息をつく秋子。
女性職員はそれを気にせず更に報告を続ける。
「尚、特別作戦部の例の5人ですが、毎日のように相沢主任の病室に行っては騒ぎを起こしており、苦情と被害届が毎日のように特別作戦部に送られて来ているそうで特別作戦部としては非常に迷惑だという申し出がありました。今日の報告は以上です」
そう言って報告書を閉じる女性職員。
秋子はもうため息どころではなくなっていた。豪快に頭をデスクの上に突っ伏してしまっている。
「水瀬副司令、大丈夫ですか?」
至って事務的に聞いてくる女性職員。
「・・・まず相沢特別作戦部主任を隔離。その後特別作戦部付けの5人に相沢主任の退院まで近付かないよう命令を出しておきなさい。それから出動コールにはすぐに反応するよう徹底しておく事!以上です・・・」
それだけ言うと物凄く疲れたように秋子はデスクの上に突っ伏してしまった。
「了解しました。ではこれで失礼します」
女性職員はそう言って机に突っ伏してしまっている秋子に向かって一礼すると彼女のプライベートオフィスから出ていった。
秋子はしばらくの間そのまま机の上に突っ伏していたが、やがて顔を上げると、また深くため息をついた。
謎の侵略者が現れたと言うのに街の復興の資金援助などと言っている場合なのだろうか。確かにこちらの対応が遅れたと言うのはあるが、何もそこまでする必要が本当にあるのかどうかは疑問である。この先、一体何回街が破壊されるかわかったものではないのに。
問題はまだある。
謎の侵略者との戦いに備えて結成された特別作戦部、その実質的なトップである相沢祐一は前回の戦いで重傷を負い、現在入院中。これではいざと言う時の対応が遅れたりする可能性がある。まぁ、全治3週間と言う話だからその間、自分が兼任して頑張ればいいのだろうが問題はそれよりも先程職員からの報告にあった事である。
「看護婦にちょっかいを出しては殴られ、入院期間を徐々に伸ばしている」
本当に彼に地球を守る部隊のトップ格だと言う認識があるのだろうか?
見た目健康そうだと言うならさっさと退院して陣頭指揮を執ってもらいたいものである。
副司令である自分には他にもやらなければならない仕事が山のようにあるのだ。それにあの5人をちゃんと指揮出来るかどうかの自信もない。
あの5人。
彼女たちもまた問題だ。
全員が全員、祐一に惚れているので彼の容態が心配なのだと言う事はわかる。だからと言って毎日のように押し掛けて騒ぎを起こしてくるのはやめて欲しい。おまけに連絡用の通信機にもなっているブレスレットをしてない事も多い。まだ彼女たちは正式にISDOのメンバーになってはいないのだからある程度は仕方ないとも思うのだが、それでも一応地球を守る最後の砦なのだ。そこの所の認識をきっちり持って貰いたいものである。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
深々とため息をつく秋子。
彼女の悩みの種はなかなか尽きない。
 
奇蹟戦隊カノンレンジャー
SECOND ACT.奇蹟戦隊、誕生!
 
<ISDO特別病院 11:47AM>
ISDO秘密基地の敷地内にある白亜の建物、それがISDO職員専用の特別病院である。
国際科学防衛組織であるISDOの職員には普段の研究や訓練などで怪我人が出る事も珍しい事ではない。たまに事故などで重傷者が出る事もあるのでこのISDO特別病院はかなり優秀なスタッフが揃えられていた。
ISDO特殊部隊改め特別作戦部主任である相沢祐一もこの病院に入院して治療を受けていた。
「何をする〜!!は〜〜〜な〜〜〜せ〜〜〜〜!!!」
祐一の叫びが隔離病棟へと続く廊下に響き渡る。
「俺が一体何をしたぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼をストレッチャーにくくりつけ、無言で運んでいるのはISDOの屈強な警備員だ。祐一が叫ぼうと藻掻こうと何をしようと全て無視して彼を運んでいく。
「隔離するならせめて美人の看護婦をつけろぉぉぉぉぉっ!!」
祐一の叫びも空しく、隔離病棟のドアが閉じられる。
「えっと一応副司令の命令でしたので、申し訳ありませ〜ん」
閉じられたドアを見ながら笑顔でそう言ったのは同じISDOの制服を着た倉田佐祐理であった。
「とりあえず完治するまで出さないようにお願いしますね」
ドアの外に顔を出した警備員にそう言うと、佐祐理は廊下を戻り、普通病棟に戻っていった。
普通病棟を抜け、ロビーにまで来ると、数人の看護婦と押し問答している人影があった。
「ダメです!相沢さんには会えません!!」
「ちょっとで良いんだよ!」
「何も迷惑かけるような事しませんから!」
「そーよそーよ!真琴達が何時迷惑かけたって言うのよ!!」
こうして押し問答をしている時点で既に迷惑をかけているような気がしないでもないが当の本人達は全然気がついていないらしい。
佐祐理は看護婦達の側に来ると、にこやかな笑みを浮かべて看護婦達と押し問答をしている3人の女性の間に割って入った。
「はいはい、そこまでです」
「な、何よ!あんたは関係ないでしょ!!」
3人の女性のうち、栗色の髪の毛をリボンで括っている女性が佐祐理を見てそう言うが、佐祐理はそれを無視して看護婦達の方を向く。
「ここは佐祐理に任せてください。あなた達は自分のお仕事に戻ってくださって構いませんから」
「わかりました、お願いします」
看護婦は佐祐理の胸元にあるIDカードを見て、そう言い、一礼して彼女の本来の仕事に戻っていった。
それを見届けてから佐祐理は3人の女性の方を向いた。
「月宮あゆさん、沢渡真琴さん、そして美坂栞さんですね?」
佐祐理に名前を呼ばれて、驚いたような表情を浮かべる3人。
「な、何で私達の名前を?」
そう言ったのはストールをまとった女性、美坂栞。
佐祐理はにっこりと笑みを浮かべ、頷いた。
「あなた方はこのISDO基地ではもうすっかり有名人ですから。さて、あなた方カノンレンジャーに水瀬副司令からの通達があります」
そこで佐祐理は笑みを引っ込めた。
「水瀬副司令って確か・・・」
赤いカチューシャをした女性、月宮あゆが隣に立つ栗色の髪の毛をリボンで括っている女性、沢渡真琴に耳打ちする。
「名雪のお母さんだっけ?」
「確かそうだったと思いますけど・・・実は物凄く偉い人だったんですね、名雪さんのお母様って」
栞もそのこそこそ話に参加し、誰も佐祐理の方を見なくなる。
佐祐理の額にぴしっと青筋が立った。
「よろしいですか、皆さん?」
少し表情が強張りながらも佐祐理は努めて優しく言った。少なくても本人はそのつもりであった。それが成功しているかどうかはまた別問題として。
「は、はいっ!!」
思わず3人揃って返事してしまう。
「では水瀬副司令からの通達です。これはあなた方だけではなく、後の二人にも伝えておいて欲しいんですがよろしいですか?」
佐祐理は改めて一旦咳払いしてからきわめて事務的な口調で話し始めた。
コクコクッと頷く3人。
「相沢特別作戦部主任が退院するまであなた達カノンレンジャーのメンバーは一切接触する事を禁じるそうです。それとミラクルチェンジャーは常に装備携帯しておく事。以上です。よろしいですか?」
佐祐理が笑顔でそう言い終えると、3人の顔に明らかに不満の色が伺えた。
「え〜何で何で〜、どうして真琴達が祐一に会っちゃダメなのよ〜?」
「うぐぅ、どうしてだよ? 何で祐一君に会っちゃダメなんだよ?」
「そうです、そんな事言う人、嫌いです」
3人が口々に言うのを聞いていた佐祐理の笑顔がぴきっと引きつった。
「だいたい真琴達はこの地球を救った英雄なのよ。ここにとっちゃ恩人みたいなものじゃない」
「そうだよ!あれからあの怖い人たちも全然来ないし、ボク達が頑張ったおかげだと思わない!?」
「そうです!だから私達が祐一さんに会うというのは当然の権利だと思います!」
更に引きつる佐祐理の笑顔。
と、そこに佐祐理と同じISDOの制服を着た女性が姿を見せた。
その女性は3人の姿に気がつくと、すっとその後ろに立ち、ぱんぱんと手を叩いた。
「はいはい、そこまで!あんた達はこれから訓練の時間よ!!」
その声に3人がびくっと身体を震わせた。
3人がゆっくりと振り返るとそこには竹刀を持った一人の女性の姿。
ISDO特別作戦部所属、七瀬留美。
一応特別作戦部預かりとなっている彼女らカノンレンジャーの訓練教官である。
「さぁ、今日もビシバシいくわよぉっ!!」
留美は嬉しそうにそう言うと引きつりまくっている顔をしている3人を引っ張って訓練施設へと去っていく。
佐祐理はそれを見て、ほっと息を吐いた。
あのまま3人の文句を聞いていたら何時こっちが怒鳴り出すかわかったものではなかった。そう言う意味では留美に感謝するべきなのかも知れない。それに先程の副司令からの通達というか命令も留美から伝えさせればきっと聞くだろう。
「そうですね、その方が楽ですから」
佐祐理はそう言うとまた笑みを浮かべて歩き出した。
 
<ISDO秘密基地内訓練施設 14:43PM>
あゆ、栞、真琴の3人がグラウンドのトラックをヘトヘトになりながら走っていた。
「ほらほら、気合い入れて走れ〜!!」
留美が竹刀を振り回しながら叫ぶ。
ちなみに彼女はトラックの外においてある椅子に腰掛けていた。見ているだけなのである。
「そ、そりゃ、見ている、だけなら、元気よね・・・」
ハァハァ荒い息をしながら真琴が呟く。
「ほ、本当だよ・・・」
同じくあゆもヘトヘトである。
栞に至っては既に限界を突破しているようで何処か明後日の方向を見つめがらヘラヘラ笑みを浮かべながら走っていた。
「栞、やばいんじゃない?」
「元々病弱だからね、栞ちゃんは・・・」
こそこそ小声でそう言い合う真琴とあゆ。
だが、当の栞は側で二人がそんな会話を交わしていようと何をしようと全く気がついていないようだ。もはや完全に意識が何処か別次元に行ってしまっている気配がある。と言うか、そもそも七瀬という教官は栞が病弱である事を知っていてこんな事をやらせているのだろうか。だとしたら酷い教官もいたものである。
その七瀬教官だが、ちらりと時計を見て、小さく頷いた。
「よーし!ランニングはここまで!!」
大きい声で留美が叫ぶと、あゆ、真琴の両名はその場に座り込んでしまった。栞に至ってはそのまま崩れ落ちるかのように倒れ込んでいる。
「・・・栞ちゃん、生きてる?」
倒れ込んだ栞の側まで地面を転がって近寄ったあゆが尋ねると、栞は顔を少しだけ上げて死にそうな声で彼女に向かって手を伸ばした。
「み、水・・・」
「はい」
そう言って真琴が差し出したのは何故かグラウンドを這っていたミミズ。
それを見て容赦なく崩れ落ちる栞。
「ああ、栞が本格的にダウン!?」
「この状況で良くそんな冗談が出来るよ・・・」
驚きの声をわざとらしくあげている真琴に対してあゆが半眼になって言う。
「あんた達!10分休憩の後武道場に集合!」
留美はそう言うとさっさとグラウンドから去っていく。
それを見ながらべーっと舌を出す真琴。
「全く、これだからおばさんはイヤなのよ」
「あれ、でも教官さんって確かボクと同じ歳だって・・・」
小首を傾げながら言うあゆ。
「えーーーーー!!!!!あれで真琴と一つしか違わないって言うの!?」
信じられないと言った感じで大声を上げる真琴。
ちなみに栞は未だに倒れ伏したままである。
 
<ISDO特別病院隔離病棟 15:32PM>
祐一は大人しくベッドの上で寝転がって天井を見上げていた。
一般病棟とは違い、意識して抑えられた照明、窓にはめ込まれている鉄格子、ドアも厳重なロックがかけられ、廊下には見張りの警備員が立っている、まるで牢獄のような病室。これで医者の巡回がなければ本物の監獄だろう。
そう思いながら寝返りを打つ。体中に痛みが走るが耐えられる範囲のものだ。構わずドアに背を向ける祐一。
そっと目を閉じる。
脳裏に甦るのは半年前のあの惨劇。
多くの人命とテクロノジーを奪った謎の襲撃者。
唯一生き残った自分は必死になってトレーニングを繰り返してきた。あの、謎の襲撃者に一矢報いる為に。謎の襲撃者に対する復讐の為に。
だが。
現実はどうだ。
一矢報いるどころかいいようにやられて今は病院のベッドの上。
半年前の惨劇を起こした謎の襲撃者と今回現れた侵略者が同じとは限らない。しかし、祐一は何故か同質のものをあの侵略者達から感じ取っていた。
だからこそ、せめて敵の一人でも道連れに出来れば良かったのに。
「くっ・・・」
きつく閉じた目に悔し涙が浮かぶ。
あの時、死んでいった仲間に誓ったではないか。必ず敵を倒す、と。この命が燃え尽きたとして、この身が滅んだとしても、必ず敵を倒す、と。
なのに・・・。
「何も出来てないじゃないか、俺は!」
思わず声を荒げてしまう祐一。
「俺はっ!!俺はっ!!!」
 
<太平洋上ISDO特殊研究所 半年ほど前>
そこは地球防衛の為に極秘裏に組織された国際科学防衛組織「INTERNATIONAL SCIENCE DEFENSE ORGANIZATION」通称ISDOの特殊研究施設の一つ。
太平洋上の小さな島を改造してその地下に建設されたその施設内のある一室では数人の若者が集められていた。
『あなた達は今までつらく厳しい訓練に耐え抜いてきた精鋭よ。これからは世界中に散って貰って敵の出現に備えて貰う事になるわ』
部屋に備え付けられているスピーカーから女性の声が聞こえてくる。
『敵は何時、何処に、どうやって現れるかわからないわ。でもあなた達が力を合わせて戦えばきっと撃退出来るはずよ。その為に今からあなた達にあるものを施すわ』
女性の声に若者達がざわめいた。
『危険はないわ。あなた達の訓練され、鍛え上げられた身体を更に強化する為の措置・・・いわゆるパワードスーツのようなものを着て貰えるようにする為の措置だから』
安心させるような女性の声。
それを聞きながら、一人の女性がある青年の肩を叩く。どちらも日本人で、かなり年は若そうだ。
「君なら知っているんじゃないの?何せここの創設者の一人、相沢博士の息子だもの」
そう言って笑みを見せる女性。
「フッ、生憎だが俺は親父のやっている事に興味はない。俺がここにいるのは正義の味方って奴がもてそうだと思ったからだ」
青年はそう言って気障っぽく笑ってみせる。
「不純な動機ね、本当に。噂には聞いていたけど」
あきれ顔で言う女性。
「噂、ね・・・まぁ、自分で言うのも何だけど、俺っていい男だからな。この基地の女性で知らない奴は居ないだろうし」
自信たっぷりに言う青年。
「そりゃあ居ないでしょうね。女性と見るや片っ端から声をかけるナンパ野郎ですもの。同じ訓練生で声をかけられなかったのはこの私ぐらいじゃないかしら?」
「お前に声をかける程度胸はないよ。それに何だよ、そのナンパ野郎って。俺は女性に声をかけないのは失礼だと思っているだけだ」
「ホントよく言うわ・・・あなたには絶対に妹を会わせないでおかないとね」
「ほう・・香里には妹が居たのか。それは初耳だ。是非紹介して貰いたいな」
青年がそう言って香里と呼んだ女性を見る。
「人の話を聞いていなかったの? あなたにだけは絶対に会わせないから安心しなさい」
香里はそう言って微笑みを浮かべた。
『では一人ずつ措置を開始します。番号を呼ばれた人から中に入りなさい』
スピーカーから女性の指示がでる。
『001番、中に』
「はいよっ!」
そう言って皆の中から一歩前に出たのは先程香里と喋っていたナンパ野郎こと相沢祐一であった。
彼は今居る部屋の隣にある『処置室』と書かれたドアを開け、中に入った。
そこには白衣を着た数名の研究者達が居て、更に壁の一面にガラスがはめ込まれており、その向こうではこの施設の責任者達がじっと中を見守っていた。
「001番、相沢祐一。ま、お手柔らかにお願いしますよ」
祐一はそう言って研究者の指示する場所に立つ。
その正面には何か光線銃のようなものが備え付けられていた。
「おいおい、一体何をやらかす気だよ?」
頬を僅かに引きつらせながら呟く祐一。
『これは君の父上が長年の研究の末完成させた例の石のエネルギー照射装置だ。まさか君がその第1号となるとは夢にも思わなかったがね』
ガラスの向こう側にいる一人の男がそう言ってきた。
この施設の総責任者である。
『それでは行くぞ』
そう言って光線銃の側にいる研究員に頷きかける。
光線銃の側にいた研究員が頷き、スイッチを入れると、光線銃の先から七色の光線が照射され、祐一を包み込んだ。
『良し、もういいだろう』
総責任者の男が言い、研究員が光線銃のスイッチを切る。
祐一はしばし自分の身体を見下ろしていたが、特に変わった様子を見られない。
「・・大丈夫なのか?」
『君のお父上の開発したものだ。もっと信用したまえ』
「だからこそ信じられないんだがな・・・ま、良いか」
そう言って処置室から出ていく祐一。
入れ違いに入ってきたのは処置室に入る前に祐一と喋っていた香里である。
「002番、美坂香里。よろしくお願いします」
香里がそう言って一礼する。
祐一が処置室から出てくるとその周囲に仲間達が集まってきた。
「おい、何されたんだよ?」
「何があったんだよ?」
皆口々に聞いてくるが祐一はシニカルな笑みを浮かべて、適当にあしらっている。女性ならともかく男に話す必要は何処にもない。
と、その時だった。
何かの爆発音と同時に部屋全体が大きく揺れたのは。
「何だ!?」
よろけそうになるのを何とか踏みとどまった祐一は素早く爆発音の聞こえてきた処置室の方を見た。
処置室へと続くドアの隙間から黒煙が漏れてきている。
祐一は考えるよりも早く、ドアのに手をかけ、処置室の中に飛び込んでいた。
「香里、無事か!?」
そう声をかけながら処置室の中に飛び込むと、処置室の中はもうもうと立ちこめる黒煙で何も見えない。
煙を吸わないよう口を押さえながら室内を見回すと、床に倒れている研究員や香里の姿が見える。慌てて香里の側に駆け寄る祐一。
「香里!どうした!? 何があったんだ!?」
気を失っている香里を抱きかかえ祐一が問う。
そうしている彼の耳に何かの足音が聞こえてきた。さっと顔を上げた祐一に何かが叩きつけられ、祐一は為す術もなく吹っ飛ばされた。
「うわっ!!」
床を転がる祐一だが、何とか踏ん張ると、先程自分を殴りつけたものを見上げた。
そこには漆黒の鎧兜に身を包んだ異形の剣士が立っている。手にはやはり黒塗りの鞘に収められた長刀。おそらくそれで殴り飛ばされたのであろうと言う事がわかる。
「な、何だ、お前は?」
異形の剣士は何も答えない。
兜の下の目がじろりと祐一を見やるだけだ。
「一体何処から・・・」
そう呟いた時、何処からともなく不気味な生物が姿を現した。まるで蛙を潰したような、それでいて巨大な怪物。その後ろからは赤いマントを身にまとい長い白髪を振り乱した怪人が数人、姿を見せる。
「な、何なんだ、こいつら・・・?」
驚きのあまり顔面蒼白になる祐一。
異形の剣士は長刀を持った手で赤マントの怪人達に何か指示を出し、赤マントの怪人達は隣の部屋へと次々と消えていく。
「な、何を!?」
祐一は思わず立ち上がろうとするが、そこを異形の剣士が長刀を突きつけて身動きとれなくする。
隣の部屋から聞こえてくる悲鳴。
「な・・・何をしてやがるんだよ、この野郎!!」
祐一は長刀の鞘を払い除けると素早く立ち上がり、異形の剣士に殴りかかった。
だが異形の剣士はそれをあっさりとかわし、逆に祐一の腹に強烈なパンチを叩き込んだ。その一撃で祐一はその場に崩れ落ちてしまう。
彼の記憶はそこで途切れている。
次に彼が目を覚ました時、異形の剣士は香里を抱きかかえて空間に出来た穴に消えていくところだった。
「か、香里!!」
手を伸ばす祐一だが、異形の剣士はにやりと笑い、空間に出来た穴に消えていく。
異形の剣士が穴の中に完全にはいるとその穴もすぐに閉じてしまった。
絶望感に苛まれる中、祐一は何とか起きあがると隣の部屋へと向かう。
ドアを開け、そこで彼は言葉を失った。
そこは一面血の海で、あちこちに倒れているのは見慣れた彼の仲間達。誰一人として息をしているものはなく、辺りを包み込んでいるのは静寂のみである。
特殊研究所壊滅の知らせがISDO本部に届き、そして救助隊が特殊研究所のある島に到着したのはそれから12時間以上経ってからの事であった。
救助隊はそこで唯一の生き残りである祐一を発見、だが意識が錯乱していた彼から何が起こったかを聞き出すには時間がかかった。
その間にほぼ壊滅状態だった施設から使えるものを搬出、その後、何とか平静を取り戻した祐一の口から何が起きたかを聞かされたISDO上層部は即座にそれまでの方針を転換、選ばれた者に強化措置を施した上で強化スーツを与えるKX計画から誰にでも使用出来、尚かつ強力なKR計画に取りかかった。
そのKR計画の総責任者こそ、水瀬秋子ISDO副司令なのであった。
 
<ISDO秘密基地内武道場 16:00PM>
バシンッと言う音と共に背中から畳に落とされたのはあゆ。
手加減の欠片もなく容赦なく彼女を投げ飛ばしたのは彼女らカノンレンジャーの訓練教官である七瀬留美である。
「はい、次っ!!」
留美はそう言って次に控えている真琴、栞を振り返った。しかし、どちらも今の容赦の欠片もない投げを見てすっかり怯んでしまっているようだ。立ち上がろうともしない。
「次ったら次!!」
留美は少し怒ったように怒鳴った。
「ま、真琴さん、お先にどうぞ・・・」
「し、栞こそ先に行けば?」
引きつった顔で互いに譲り合う栞と真琴。
それを見ていた留美はだんだんイライラしてきた。
「どっちでもいいから早く来なさい!!」
その怒鳴り声に思わず栞が立ち上がってしまった。
「良し、美坂、その心意気や良し!私も全力で相手をしてあげるわっ!!かかってきなさい!!」
留美はそう言うと、満足そうに頷いた。
「全力なんて出さなくてもいいです〜」
そう言いながら涙目で留美につかみかかる栞。が、一瞬の後には栞の身体は宙に浮いていた。
「次っ!沢渡!!」
留美が真琴を睨み付ける。
引きつった顔で渋々立ち上がる真琴。
あっと言う間に投げ飛ばされる真琴。
「あう〜」
3人が3人とも畳の上に倒れ伏している。
それを見た留美は大きなため息をついた。
「あんた達ねぇ、それで地球が守れるとでも思っているの!?」
その声に少し悲しげな響きを感じ取り、3人が顔を上げる。
「あんた達はね、選ばれたんだよ。そりゃあ、あんた達がそれを望んだかどうかはわからないけどね、それを望んでも選ばれなかった人だっているんだし、それにあんた達がやるって言ったんでしょ? だったらもっとしっかりしてもらわないと困るのよ」
「教官さん・・・」
あゆがそう呟く。
 
<ISDO秘密基地 2ヶ月前>
KX計画からKR計画に転換して4ヶ月が経った。
KRスーツの開発も成功し、後はその装着員を選出するだけとなっていたある日のことであった。
「副司令、水瀬副司令」
秘密基地内の廊下を歩いている秋子に後ろから呼び止めるような声。
秋子が立ち止まり、振り返るとそこにはISDOの制服を少し着崩した祐一の姿があった。彼は例の事件以来KR計画に参加、試作スーツのテストを行っているのだった。
「祐一さん。随分とお久し振りですね」
秋子は自分を呼び止めたのが甥っ子である祐一だと知ると笑顔を見せた。
半年前のあの事件から立ち直り、今では積極的にKR計画に参加しており、彼女にとっては頼もしい限りである。
「お久し振りです、秋子さん」
祐一はそう言って一礼する。
「ちょっとお話があるんですがお時間の方は?」
廊下の為にか、何時もと違って事務的な口調。
普段ならもっと砕けた話し方をする祐一である。
秋子は何かあったんだと思い、小さく頷いた。
「KRスーツに問題が発生しました。詳しい事は研究開発班の報告書を見て貰いたいんですが」
「・・・問題ですか?」
秋子が真剣な顔をして祐一を見る。
頷く祐一。
「予想外の問題と言っていいと思います。これでは計画に支障が出る事間違い無しですから」
冗談で言っているのではない事はすぐにわかる。何時も以上に真剣な表情の祐一。まさかこの顔で冗談を言ってくるとは思えない。
「どういった問題ですか?」
「KRスーツですが、スーツの動力源に使用しているあれが装着者を選ぶようなんです」
祐一はそう言うと、手に持っていたクリップボードに挟んであった報告書に目を落とした。
「今までに数人が完成したスーツを着用しようとして拒否反応が現れました」
「拒否反応?」
「はい。スーツ着用後数秒で急に苦しみだし、スーツが強制解除されてしまいます」
秋子はそれを聞くと表情を変えた。
「本当ですか、それは?」
「残念ながら。今ISDOのコンピューターが適任者を選別しています。しかし、どれくらい時間がかかるかは不明ですが」
あくまで冷静な口調で言う祐一。
「・・・そうですか・・・敵が何時来るかもわからないのに、それでは困りますね」
困ったような表情を浮かべて祐一を見る秋子。
祐一は何故か、何処か余裕のありそうな表情で立っている。
「何か考えがあるんですか、祐一さん?」
「あのスーツの動力源に使用している例のあれですが、親父の研究の結果、ある特定の波動を放っている事がわかっています。その波動に合う人間を選べば問題はありません」
「コンピューターはそれを条件に探しているのではないんですか?」
「まぁ、確かにそうですがね。それに加えて運動神経やら格闘の経験やらも合わせていますから、なかなかね。だから俺は俺で勝手に探し出している訳なんですが」
祐一はそこで少し肩をすくめた。
「それで見つかったんですか?」
秋子がそう聞くと、祐一は少しばつが悪そうな顔をした。
「見つかったんですね?」
何も答えない祐一に秋子が少し怒ったような顔をして尋ねる。
「意外と近くにいるもんですよ。俺も驚きました」
祐一は苦笑しながらそう言うと、手に持っていたクリップボードを秋子に手渡した。
クリップボードを受け取った秋子が挟まれている報告書の下にある5枚の写真を見て驚きの表情を見せる。
「ま、まさか?」
「そのまさかですよ。よりによってこいつらとは思いも寄りませんでした」
そう言ってまた肩をすくめてみせる祐一。
その5枚の写真には、祐一にとって関わりの深い女性が5人、それぞれ映し出されていた。
その5人、月宮あゆ、美坂栞、沢渡真琴、川澄舞、そして秋子の娘である名雪は早速ISDOにスカウトされたのであった。
 
名雪は母である秋子から話を受け、更に祐一からも説得を受けて一番始めに了承。
「う〜、わかったよ。そこまで言うんならやるよ」
「流石は名雪だ。助かったぞ」
「いちごサンデー5杯ね」
「何っ!?」
 
真琴も同じく秋子と祐一により説得された。
「何で真琴がそんな事しなくちゃならないのよ!」
「一応だが給料は出る。肉まんも沢山買えると思うが?」
「仕方ないわねぇ・・・祐一がそこまで言うんならやってあげましょうか」
「何かすっごい屈辱的だな、おい」
 
舞は祐一が単独で説得に成功。
「わかった・・・やる」
「随分簡単だな、おい」
「・・・佐祐理を悲しませたくないから」
「・・・・俺はどうでもいいんかい」
 
栞は祐一が説得するまでもなく。
「お姉ちゃんの仇が討てるんだったら何でもやります!」
「イヤ、お前はあまり無理しなくても良いから・・・」
「身体の限界まで頑張りますね!」
「イヤ、だから・・・」
 
そしてあゆだが。
「うぐぅ、何でボクが?」
「偶然だな」
「うぐぅ」
「大丈夫、ちゃんと給料ぐらい出すぞ。これで食い逃げしなくても済むだろ?」
「うん、任せてよ、祐一くんっ!!」
 
こういう感じで至極あっさりとメンバーは集まったのだった。
 
<要塞艦ヴェルドリンガ 16:29PM>
地球衛星軌道上から月の衛星軌道上へと移動した要塞艦ヴェルドリンガ。
その要塞艦の端の方にあるテラス。
そこではこの要塞艦ヴェルドリンガが誇る5大軍団長の内、4人が思い思いの様子で過ごしていた。
大きく望む地球をじっと見ている獣将軍ガイター。
テラスの端の方に座り込み、瞑想している豪将軍ゴラド。
テラスの中央におかれている豪華なテーブルにおかれたグラスを手に取り、中に入っている液体を飲み干す姫将軍リオカー。
その正面に無言で座り、葉巻をふかせている猛将軍クイーバ。
「ええい、何時になったら出陣の許可が下りるのだ!!」
苛立たしげにそう言い、ガイターが振り返る。
「あのような辺境の惑星など我が獣人軍団ならば一晩で如何様なりとも出来るものを!!」
「果たしてそれはどうかな?」
そう言ったのはクイーバ。
葉巻を手に持ちながらガイターを見る。
「辺境の惑星と侮りはしていたが、前回我らを退かせた者がいるのもまた事実。奴らがどれだけのものかは知らんがそう簡単に事は運ばないだろう」
「ふん、あんな小娘どもに何が出来る!我が獣人軍団は貴様の機甲兵団とは違うわ!!」
ガイターが吼えるのを聞き、クイーバが静かに立ち上がる。
「我が機甲兵団を馬鹿にするのか?」
「あのような小娘どもに怯える貴様が大将では機甲兵団もたかが知れている!」
「何だと!」
「よしなさいよ、あんた達」
二人が今にもとっくみあいのケンカを始めそうになるが、それをやんわりとした声が止めた。
「ここでケンカしたって何も始まらないわ。やるなら地球に行ってやって頂戴」
何処か気怠い口調で言うリオカー。
その声に毒気を抜かれたのかクイーバは椅子に腰を下ろし、ガイターは不機嫌そうにまた地球を見た。
そこに重苦しいほどの鐘の音が鳴り響く。
「どうやら時が来たようだな」
そう言って目を開くゴラド。
「退屈な日々も良いけど身体が鈍っちゃうと困るわ」
リオカーがそう言って立ち上がる。
クイーバもガイターも無言で移動を始めた。
4人が向かった先は要塞艦ヴェルドリンガの中央部に位置する戦略室。
この要塞艦を指揮する大元帥トギーアから5大軍団長に命令が下される場所であり、5大軍団長が様々な作戦を練る場所でもある。
そこでは大元帥トギーアが妖軍師ナモンアを引き連れ、4人が来るのを待っていた。
4人が戦略室に入ってくるのを見たナモンアは大元帥の方へ向き直ると恭しく一礼する。
「5大軍団長、ここに揃いました」
「うむ・・・」
大元帥はナモンアの報告を聞き、ゆっくりと振り返った。
さっと片膝をつき、控える5大軍団長。
「いよいよ本格的に地球侵略を開始する事になった。ついてはその先陣をガイター、お前に任せようと思う」
「おお!」
ガイターが顔を上げ、立ち上がった。
「このガイターに先陣をお任せいただけるとは光栄です、大元帥!!その期待に必ずや応えて見せましょう!!」
ガイターは力強くそう言うと、さっと後ろを振り返った。
「我が獣人軍団の力、存分にお見せいたしましょうぞ!」
そこにはガイター率いる獣人軍団の猛者が一人、既に控えていた。
「行くぞ、ラリリゴ!」
「ははっ!」
獣将軍とその配下の怪人が戦略室から出ていくのを残る4人の幹部は黙って見送っていた。
 
<ISDO秘密基地 17:04PM>
武道場やグラウンドに隣接している更衣室内。
訓練教官七瀬留美による特訓を終えたあゆ、真琴、栞の3人はヘトヘトになりながらトレーニングウェアから私服に着替えていた。
「やっぱり鬼よ!あの女!!」
ヘトヘトだというのに真琴の口は元気であった。
「あの女は真琴達を苛めて喜んでいるサディストに違いないわっ!!」
「そ、そうでしょうか・・・」
苦笑を浮かべる栞。
「そうに決まっているわっ!!」
あっさり断言する真琴。
「う〜ん、それはどうだろう?」
少し困ったような顔をして言ったのはあゆ。
「きっと七瀬教官は七瀬教官なりに色々と考えていてくれているんだよ」
「本当に!そうだと!!言い切れる!?」
ビシッビシッビシィッと三段階に分けてわざわざあゆに指を突きつける真琴。
その迫力に思い切りびびるあゆ。
「う、うぐぅ・・多分、そうじゃないかな、と・・・」
とたんに弱気になるあゆを見て真琴は呆れたような顔をした。
「とりあえず帰る。もう今日は何もしなぁい」
そう言って真琴が更衣室から出ていく。
追いかけるように無言で立ち上がったのは栞。いつものストールを身にまとい、ふらふらと少し頼りない足つきで更衣室から出ていく。
最後に残されらあゆも慌てて着替えると先に出ていった二人を追いかけるようにして更衣室から出ていった。
 
<喫茶「子猫亭」 09:47AM>
「くー」
カウンターテーブルに突っ伏して寝ている女性が一人。
誰あろう、この喫茶「子猫亭」オーナー代理、水瀬名雪である。
朝に極端なほど弱い彼女は午前中はほとんどこの状態なので役に立たない事この上ない。その為にこの店でアルバイトをしているあゆと天野美汐にその分の比重がどうしてもかかってしまっていた。
「あ〜あ、名雪さんってば呑気だね〜」
もっと呑気そうな声で言うあゆ。
美汐は例によって洗い物の真っ最中である。
「平和なことは良い事ですよ」
「それは確かにそうだけど・・・」
「何かあった方がいいんですか?」
「うぐぅ、そう言う訳じゃないけど・・」
二人がそんなやりとりをかわしているとあゆの左手首につけられているミラクルチェンジャーが緊急コールを鳴らし始めた。
「うぐぅ!?」
「・・・良かったですね、月宮さん。何かあったようですよ」
急に鳴り出したミラクルチェンジャーに驚きもせずに美汐が言う。
「何か嫌味な言い方だね、美汐ちゃん」
苦笑しながらあゆがそう言うと、美汐は顔を上げて彼女を見た。
「急がないとまた怒られると思いますが?」
「うぐぅ・・・・行ってくるよ」
全くもって冷静な美汐にあゆは物凄い敗北感を覚えながら立ち上がる。
「出来れば水瀬先輩も一緒に持っていってください」
「前の時もそうだったけど結構美汐ちゃん、容赦ないね」
少し引きつりながらあゆが言うと、美汐はため息をついた。それから未だテーブルに突っ伏している名雪の方を見る。
「水瀬先輩が一度こういう状態になったら起こすのは物凄く大変だと相沢さんから聞いています。ここで起こすよりも目的地に向かいながら起こした方が時間のロスが無くて良いと思いますが?」
「うぐぅ・・・」
あゆは仕方なさそうに名雪を背負うと子猫亭のドアを開けた。
「留守番よろしくね、美汐ちゃん」
「急がないとまた最後になりますよ」
やっぱり容赦のない美汐であった。
泣きたくなるような気分であゆは名雪を背負ったまま走り出すのであった。
 
<ISDO秘密基地 09:52AM>
朝早くからISDO秘密基地内の司令室は殺気立っていた。
その司令室に入ってきた秋子を一斉にスタッフが振り返った。
「状況を説明して下さい」
「はい、前回と同じ正体不明の物体が月軌道上から降下、解析の結果は前回と同じ反応でした」
「つまりは例の侵略者が来た、と言う事ですね?」
スタッフからの報告を聞き、秋子は真剣な表情をより一層引き締めた。
「既にカノンレンジャーへの連絡は完了しています。各自現場に向かうそうです」
通信担当のスタッフからの報告を聞いて秋子は小さく頷いた。
「前回のが顔見せだったとすれば今回こそ本格的な侵略の第一歩でしょう!皆さん、気を引き締めてかかってください!!」
司令席に立った秋子がそう言って皆を見回す。
スタッフの誰もが真剣な表情で彼女に頷き返した。
 
<市街地・駅前ロータリー 10:03AM>
丁度朝の通勤ラッシュが終わった頃合いだったのでそれほど人が多いわけでもなかったのが幸いだった。
獣将軍ガイターに率いられた星獣人ラリリゴ、雑兵パッタシーが思うままに暴れている。しかし、人的被害はほとんど出ていなかった。
それでも路上に駐車している車や駅前の商店などが次々と被害に遭っている。
「はーっはっはっはっ!!どうしたどうした!!小娘ども、臆したかっ!?」
ガイターが吼える。
吼えながら剣を振るい、目の前に止まっている車を両断してしまう。
爆発炎上する車の前で歓声を上げるパッタシー。
と、そこにようやくあゆが辿り着いた。
背中には未だ夢の中の名雪を背負い、汗だくになりながら。
続けて真琴が別の所から姿を見せる。
何故か泥だらけのエプロンをつけて。
少し遅れて栞。
片手には何故か点滴の針とチューブと点滴の袋とそれを吊している棒まで持って。まるで入院しているところから抜け出してきたみたいである。
最後に川澄舞が姿を見せた。最後と言っても始めにあゆが姿を見せてから1分も経っていないのだが。
その舞の格好だが剣道の稽古着なのか袴姿であった。
「むう!?」
ガイターが突如現れた4人を見て唸った。
「ほら、名雪さん!着いたから目覚ましてっ!!」
あゆがそう言って背中の名雪を揺するが彼女はすっかり夢の中で目覚めようともしない。
「うぐぅ・・・・こうなったらちょっと手荒だけど・・・えいっ!」
そう呟くとあゆは思い切り名雪を振り落とした。
ドデンと倒れる名雪。
「にゅ・・・?」
どうやらその衝撃で目を覚ましたのか、名雪が身を起こした。キョロキョロと周囲を見回し、あゆを見つけると笑顔を浮かべる。
「お休みなさい〜」
「名雪さん、寝ちゃダメだって!!」
慌てて名雪の肩を掴んで前後に揺さぶるあゆ。
「にゅにゅ〜、じしんだお〜」
「名雪さ〜〜んっ!!」
半分泣きそうな気持ちで必死に名雪を揺さぶる。
「も、もうこうなったら・・・無理矢理やっちゃうんだから!!」
あゆは名雪を揺さぶり起こす事を諦めると左手首のブレスレットを構えた。
「ミラクルチェンジャー、セットオンッ!!」
あゆ、真琴、栞、舞の4人が同時に叫びブレスレットのボタンを押す。ちなみに名雪の分はあゆが素早く押していた。と、次の瞬間、ブレスレットが光り輝き、その光の中、5人の身体を強化スーツが覆っていった。
「とおっ!!」
あゆと名雪のいる場所に他の3人が集まってくる。
「カノンレッド!」
「カノンイエロー!」
「カノンピンク!」
「カノンパープル!」
「・・・くー」
威勢良く名乗りを上げ始めた4人の最後、ブルーの強化スーツを着た名雪だけが名乗りを上げず、未だ眠っているかのような寝息が聞こえてきたので、4人は豪快にこけた。
「な、何でまだ寝てるのよ!!」
カノンイエロー、真琴がそう言ってカノンレッド、あゆに詰め寄る。
「起きないんだよっ!!」
「起こしてくるのがあんたの役目でしょ!!」
「そんなの勝手に決めないでよ!だいたい名雪さんをおこすのって何時も祐一君の仕事じゃない!!」
言い争いを始める真琴とあゆ。
それを呆然と見ているガイター達。
その中、カノンパープル、舞がとことことカノンブルー、名雪の後ろまで歩み寄り、その首筋にぽんと首刀を落とした。
「はっ!?」
顔を上げるカノンブルー。
どうやら今の一撃で完全に目を覚ましたらしい。
「何で・・・こんな所に?」
「ブルー、戦闘中」
短くカノンパープルが言い、カノンブルーは立ち上がった。
「カノンブルー!」
「天から降り立った5つの希望!」
「奇蹟戦隊!!カノンレンジャー!!!」
未だ言い争いを続けているカノンレッドとカノンイエローを無視してカノンパープル、カノンピンク、カノンブルーが名乗りを決めてしまう。
「ああ、それボクの台詞・・・」
カノンレッドが泣きそうな、悔しそうな声を出す。
しばし呆然としていたガイター達だが、カノンレンジャーの5人がとりあえず揃ったので手にしていた剣を彼女たちに突きつけた。
「小癪な小娘ども!ここが墓場と知れいっ!!」
ガイターの大声と共にパッタシーがカノンレンジャーに向かっていく。
「うぐぅ、何か今回時間がないみたいだから一気にさくさく行くからね!」
カノンレッドはそう言うと専用武器であるバスターライフルを手に取った。自分達の方に向かってくるパッタシーに銃口を向けると思い切り引き金を引く。発射される物凄い量のエネルギー弾。それがパッタシー達の中に直撃、パッタシーを思い切り吹っ飛ばした。
「何だかよく解らないけど行くよ〜」
カノンブルーがそう言って片手を上げる。そしてそこからダッシュ。カノンレッドのバスターライフルから逃れる事の出来たパッタシーに向かって軽くジャンプしてキックを放つ。その一撃で次々と吹っ飛ばされるパッタシー。
「バニシングクロウ!!」
「バニティリッパー」
両手に専用武器バニシングクロウを装備したカノンイエロー、細身の西洋刀に似た専用武器バニティリッパーを手にしたカノンパープルが更に残ったパッタシーをあっさりと倒していった。
それはもうあっさりと。
後に残るは星獣人ラリリゴとガイターだけである。
「おのれ小娘ども・・・段取りを無視した事をしおって・・・」
「何か物凄く巻いているらしいからね」
唸るガイターにわざわざ答えるカノンレッド。
「とりあえず一気に決めさせて貰うからね!」
そう言って再び一列に並ぶカノンレンジャーの5人。
「行けっ、ラリリゴ!お前の力を見せてやれ!」
ガイターがそう言ってラリリゴの後ろに下がり、そのまま姿を消した。
「お任せ下さい、獣将軍。このラリリゴ、きっと期待に応えて見せましょう!」
ラリリゴはそう言うと自分の胸板を左右の拳でどんどんと叩いた。
「・・・・ゴリラさん」
ぷつりと呟くカノンパープル。
「行くよ!ブルースーパーキックッ!!」
ダッシュしてラリリゴにキックを浴びせるカノンブルー。
「イエローバニシングアタックッ!!」
ほぼ同時にダッシュしていたカノンイエローが両手のバニシングクロウで斬りかかる。
「バニティリッパー半月斬」
少し遅れてカノンパープルが手にしていたバニティリッパーで斬りつけた。
「ブライトネスストール!!」
更に遅れていたカノンピンクがブライトネスストールでラリリゴに殴りかかった。
「バスターライフル!!」
一歩も動いていなかったカノンレッドがバスターライフルの引き金を引く。
5人の技を連続で叩き込まれたラリリゴが為す術もなく吹っ飛ばされた。
「お、おのれ!!」
何とか起きあがるラリリゴだが、そこにまたカノンブルーのキック、カノンイエローのバニシングクロウ、カノンパープルのバニティリッパー、カノンピンクのブライトネスストールが叩き込まれ、カノンレッドのバスターライフルが先程と同じようにラリリゴを吹っ飛ばす。
「く、くそっ!!」
また起きあがるラリリゴ。
「まだ死なないの? 意外としつこいわね」
カノンイエローが起きあがったラリリゴを見て言う。
「ダメージが足りない・・・」
すちゃっとバニティリッパーを構え直すカノンパープル。
「後何回か同じ事やればきっと倒せる・・・」
「それもそうだね」
カノンブルーが同意する。
いつでもダッシュしてキックを出せる体勢だ。
それを見たラリリゴは流石に青くなった。
このままだといいようにいたぶられるだけだ。ここは一時撤退する方がいい。一時撤退し、改めて出直すのだ。
「おのれ、カノンレンジャー!次に会った時こそ決着をつけてくれよう!!」
言うが早いか、逃走し始めるラリリゴ。
カノンレンジャー5人はいきなり逃走しだしたラリリゴを呆然と見送っていた。正確にはそうすることしかできなかった。あまりにも突然だっただけに、何をする事も出来なかったのだ。
「・・・・逃げちゃった・・・?」
呆然と呟くカノンレッド。
誰も答えない。
とりあえず地球の平和は守られたようであった。
 
This Story Is End.
To Be Continued Next Story. 

後書き
何か知りませんが風邪が治らないらしく咳が止まらないなか、書き上がりましたカノンレンジャー第2話。
頭が激しく痛みながら書いていた時期もあったので文章に誤字脱字があっても一切気にしないで読み進めてください。
かおりん「何を言っているのよ」
自慢じゃないが本当に咳が止まらない。
ここまで来ると風邪ではなく別の病気を疑いたくなる。
かおりん「とりあえず成人病でしょ?」
現在治療中・・・。
かおりん「確か気管支系が弱いんだって言っていたわね?」
はい、家系的に我が一族は気管支が弱い模様。
その割にはヘビースモーカーが多いのですが。
かおりん「あんたは吸わないけど周りが吸っているから意味無しね」
それは出来れば周りに言ってもらいたい事ですが。
まぁ、それはそれとして、今回もやはり時間がかかりました。
カノンレンジャーはどうやら予想以上に鬼門チックです。
かおりん「ネタはあるんだけどね」
何故かなかなか進まない。
第3話は何時になる事やら。
かおりん「PAの後半部分もあるしね」
あれについてだけどライカノをもっと進めてからにしようかなと。
かおりん「なんで?」
イヤ、あれとかあれの設定がややこしくなりそうだし。
まぁ、劇場版と言えば先行だって言う話もあるんだけどね(笑)
かおりん「まぁ、忘れない内に頑張りなさいよ」
ああ、今日のかおりん様、何となく優しい。
かおりん「風邪移したら殺すわよ、問答無用で」
へ、へい・・・・。

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