<7年前>
夕焼けの街を一人の男の子が走っている。
その男の子を追いかけるように同じくらいの年の女の子が走っていた。
更にその後ろを女の子によく似た女性が微笑みを浮かべながら先を行く二人の子供を追いかけていた。
「待ってよ〜、早いよ〜」
女の子が自分の前を走る男の子に声をかける。
男の子は女の子の方を振り返ると大きく手を振った。
「名雪が遅いんだよ!早く来いよ!」
男の子はそう言うとまた走り出した。
女の子は一瞬泣きそうな顔になるが、また男の子に追いつこうと走るスピードを上げた。
その様子を微笑ましく見つめる女性。
と、その時だ。
夕陽の落ちる西の空とは反対側、暗くなりかけている東の空に物凄い閃光が現れたのは。
それに気付いた男の子、女の子、女性が足を止める。
「何だ・・・?」
「何?」
男の子と女の子が閃光を見ながら口々に呟いた。
二人とも閃光を見上げるばかりで何も気付いていない。
その異変に始めに気付いたのは女性であった。
「名雪!祐一君!伏せてっ!!」
女性がそう叫んだ時、閃光はその輝きを増し、周囲全てを光の中に包み込んでしまった。
その光の中、女性は大声で子供達の名を呼ぶ。
だが、その声は子供達には届かない。
更に子供達はおろか自分の姿まで光の中に見失ってしまう女性。
次に彼女が意識を取り戻した時、周囲は廃墟と化していた。
廃墟と化した街の中、自分はほとんど無傷で道に倒れている。倒れている場所も先程、気を失う前と替わらない。
「名雪!? 祐一君!?」
身を起こし、周囲を見回しながら女性が子供達の名を呼ぶ。
だが何処にも男の子の姿も、女の子の姿もない。
立ち上がろうとして、女性は全身に走った痛みに顔をしかめた。一見無傷のように見えて、どうやら全身のあちこちに打ち身を作ってしまっているようだ。
「名雪?」
痛みを堪えて立ち上がり周囲を見回す。
「祐一君?」
周囲はまるで生きているものが一つもないように静まりかえっている。時折吹く風の音だけが響く、まるで死の街。
泣きそうになる気分で女性はふらふらと歩き出した。
「名雪〜!? 祐一く〜ん!?」
子供達の名前を呼びながら女性がふらふらと歩いていると、その前方に何かが現れた。
それは光。
光の粒子をまき散らしながら、その光は女性の前へとすっと近付いていく。
女性は優しげな、その光をじっと見つめる事しか出来なかった。
 
そして7年の月日が経った・・・。
 
奇跡新星Gカノン
第1話「奇跡降臨」
 
太平洋上にある小さな無人島。
外から見れば何の変哲もない無人島に過ぎないのだが、その中は機械化された要塞となっていた。
その内部。
一人の初老の男が壇上に立ち、下に並ぶ大勢の部下を見下ろしていた。その数、数千、数万にも及ぶ。
「時は来た!!」
初老の男が壇上で叫ぶ。
堅く握った右拳を振り上げ、熱く。
「この地球一の天才である私を追放した奴らに目にものを見せる為、ここに雌伏して数年!!復讐の時は来たのだ!!」
ドンと壇上を叩く初老の男。
「もはやこの地球は愚か者どもに任せてはおれん!!今こそ我らブリッジストーンがこの世界を浄化するのだ!!」
叫ぶ初老の男。
「世界全てを地獄の業火によって浄化した後、この私が世界を統率する!!来るべき、戦いの世紀の為に!!さぁ行くがいい!!我が愛すべき地獄の使者達よ!!」
初老の男の言葉を受け、数万の配下が一斉に動き出した。
その動きには一つの澱みも無く、乱れる事もない。完璧なまでに統制されている。
「フフフ・・・見ているがいい。愚か者共め・・・」
初老の男はそう呟くとにやりと壮絶な笑みを浮かべるのであった。
 
西暦20XX年12月24日。
突如、世界中の大都市の上空に現れた謎の巨大輸送機から降下してきた謎のロボット兵器によって世界は瞬く間に破壊されていった。
各国の軍隊が必死の抵抗を試みるも謎のロボット兵器には一切通用せず、ただ犠牲者を増やすばかり。
その被害は大都市だけにとどまらず、近隣の都市へと広がっていく。
それは悪夢のクリスマスイブ。
破壊と混沌、血に飢えた悪魔からのクリスマスプレゼントなのか。
これがたった一人の男の手によって行われたなどと思う者は世界中、誰一人としていなかっただろう。
いや、決してそうではない。
この日の来る事を薄々ながらも予測し、それに対応するべく密かに力を蓄えていた者達がいた。
 
モニターに移っているのは世界地図。
そのあちこちが赤い色に染まっている。赤い色は既に世界地図の約60%を占めようとしていた。
「宣戦布告も無しに始め、12時間でこの結果・・・そろそろ動きがあっても良い頃だな」
モニターを見ている一人の男がそう言った。
その男の少し後ろに控えるように立っているのは女性。やや青みがかった長い髪を三つ編みにして肩から胸の方へと垂らしている。
「宣戦布告・・・と言うか勝利宣言かしら?」
女性がそう言って一歩前に出る。
「かも知れないね。あの人ならやりそうな事だよ。元々顕示欲の強い人だったからね」
男はそう言って女性をちらりと見た。
女性は小さく頷くだけでモニターから目を離さない。
「・・・総司令、衛星回線をジャック、世界各地に映像を流している者がいるようです。モニターに出しますか?」
同じ室内にいるオペレーターの一人が振り返って訊く。
「ああ、出してくれ」
総司令と呼ばれた男がそう言うと、オペレーターは頷き、ささっと回線を繋ぐ。
今まで世界地図を写しだしていたモニターが切り替わり、一人の初老の男が画面一杯に映し出された。
『・・・だからこそ!我らブリッジストーンがこの世界を正しく導くのだ!!繰り返す!』
モニターに映し出された初老の男の顔を見て、総司令は苦笑を浮かべた。
「やっぱり彼でしたか」
熱く語っている初老の男を見ながら総司令は傍らにいる女性に声をかけた。
「やれやれ。死んではいないだろうと思っていましたがまさかこんな大それた事をするとは」
「むしろ気になるのはバックに誰が、いえ、どんな企業、どんな国がいるのか、ですね」
冷静に女性が言う。
「あの人が機関を放逐されてまだ5年ほど。その間にあれだけの戦力を整えるにはかなりの資金力が必要です。やはり何らかの組織がバックについているものと・・・」
「だろうねぇ。しかし、今考えるべきは彼をどうするべきか、だよ、水瀬副司令」
総司令はそう言って女性を振り返った。
彼が水瀬副司令と呼んだ女性は頷くと更に一歩前に出た。
「あの人はいずれここに来るでしょう。その時が決戦の時です」
彼女はモニター内で未だ自分達の正当性を熱く語っている狂気に彩られた瞳の初老の男を見ながら言う。
『我らはブリッジストーン!!この世界を新たに導くもの!!』
初老の男が拳を振り上げる。
先程から何度も同じ映像が流れている事からビデオか何かで録画されているものが流されているのだろう。
『今の世界は汚れきっている!!真の天才を理解せず、愚か者が台頭し、終末への道をひた走っている!!』
「相変わらず元気なご様子だ」
少しバカにしたように言う総司令。
『我らはその様な愚か者を一掃し、来るべき新たな世界を作るべく今の世界を徹底的に破壊する!!この放送を見ている多くの者は知らないだろう!この地球が決して平穏ではないと言う事を!!宇宙からの侵略の脅威にさらされていると言う事を!!今のままでは宇宙からの侵略に対抗する事など不可能!!』
それを聞いた総司令が肩をすくめた。
「やれやれ、何を言うのやら」
「しかし事実です。こんな形で知らせてしまっても良いのですか?」
「誰も信じないさ。この老人の言っている事は妄想の戯言だと、勝手にそう信じてくれる。ごく一部を除いてね」
「それも彼を倒す事が出来れば、の話ですが」
総司令はそう言った副司令に向かってにやりと笑って見せた。
「水瀬副司令、君は出来ないとでも思っているのかな?」
「物事に100%はあり得ませんよ、橘総司令」
副司令・水瀬秋子はそう言って笑みを浮かべて見せた。
 
丁度同じ頃、太平洋上にある無人島に見せかけた要塞の内部では衛星回線をジャックして全世界に向けた映像を流し、そこで熱弁を振るっていた初老の男が着々と進む戦果の報告を受けていた。
『ヨーロッパ方面の制圧状況48%』
『西アジア地区、未だ抵抗頑強』
『アフリカ方面、防衛軍の戦力、ほぼ壊滅』
『南米方面、抵抗勢力、壊滅』
『オセアニア地区、防衛軍戦力による抵抗が未だ続行中』
次から次へと入ってくる報告を聞きながら初老の男はにやりと笑った。
事は自分の思うように運んでいる。全ては順調、ただ少し防衛軍の抵抗が激しいところもあるがそれも間もなく沈黙するであろう。
「これで良い。これで・・・」
初老の男がそう呟く。
「良し、各国政府に通達だ!我らブリッジストーンに降伏するなら良し!しないならば徹底的に破壊し尽くすとな!!」
さっと立ち上がって初老の男が言った。
「聖四天王よ!降伏勧告を無視した国にその力を見せつけてやれ!!」
その命に従う為、4つの影がすっと姿を現した。
「大元帥ハーニバル!!」
「大将軍ジャオム!!」
「大参謀アラニド!!」
「大神官クウシン!!」
それぞれ名乗りながら現れる4人の男女。
「行くがいい、聖四天王!お前達の恐ろしさを見せつけてやるのだ!!」
初老の男がそう命じるのと同時に聖四天王4人がさっと姿を消し、続けて要塞島から4つの巨大メカが発進していった。
その4体はどれも禍々しい姿、まるで地獄の悪魔が地上に現れたかのような姿をしていた。
それらは物凄い速度で島の上空まで上昇、そこから4つの方向へと散った。
「さぁ、愚かなる世界よ!この私にひれ伏すのだ!!」
 
量産型のロボット兵器によって炎に包まれる街。
各国の軍隊が抵抗を試みるも次々と撃墜されるという事実。
そこに突きつけられる謎の組織「ブリッジストーン」からの降伏勧告。
刃向かうものには徹底的な破壊。
たった一人の男の為に世界が掌握されようとしていた。
 
モニター上の世界地図の色がどんどん塗り替えられていく。
既に80%近くが赤い色に染まっていた。
「凄いねぇ。たった1日でここまで出来るなんて流石だよ」
感心したような声で橘敬介が言う。
先程「総司令」と呼ばれていた男だ。見た目は若い。まだ40にはなっていないだろう。それにその仕種も若々しい。少しおどけたような、そんな仕種は余裕を表しているのか。
この組織の制服をぴっちり着こなし、真っ赤になりつつある世界地図を見上げている。
「さて、そろそろこっちに目が向いても良い頃合いだけど」
地図上、赤くなっていない部分は多くない。
その赤くなっていない部分に日本列島があった。沖縄の方は既に侵攻が始まっているのか赤くなってきているが本州、四国、北海道はまだ赤くなっていない。今の激戦地はおそらく九州であろう。
「まさか忘れてるって事はないだろうね?」
「他の事はあってもここだけは絶対に忘れないでしょうね、あの人なら」
そう言ったのは橘の横に控えている女性、水瀬秋子だった。
橘より少し年上だろうか、それでも年齢を全く感じさせない美貌の持ち主である。この組織内では橘に次ぐ立場「副司令」の座にいる。
「先程から財団のお偉方から文句と抗議の電話が鳴りっぱなしですよ。早く何とかしろとか研究の成果を見せろとか。このままだとここの電話回線がパンクしますよ」
秋子の言葉を聞いて橘は肩をすくめた。
「やれやれ。全く何もわかっていないお偉方ほど手に負えないものはないね。我々が研究しているのは秘中の秘。人類最後の希望だというのに。それを簡単に出せとは・・・」
呆れたように言う橘。
「しかし気持ちはわかりますよ。世界が征服されたらあの人達も危ないですからね」
苦笑を浮かべて秋子が言う。
「気持ちだけで人類最後の希望を勝手に持ち出さないで欲しいんだがね。まぁ、いいさ。矛先がこっちに向くのも時間の問題だ」
橘がそう言った時、オペレーターの一人が二人を振り返った。
「レーダーに反応!巨大な飛行物体が接近中です!」
それを聞いた橘がにやりと笑う。
「ほら、来た」
秋子は黙って苦笑を返すだけ。
「それじゃお手並み拝見と行きますか、石橋先生?」
 
本州最北部と北海道の間に位置する人工島、鍵島。
寒さ厳しいこの島では数年前から何らかの国際的な研究機関が設置され、雪の降りしきる中、その研究が続けられている。その詳細は不明。バックには巨大な資本力を擁する「財団」という組織がついていると言うだけで、後は世界中に同じような研究機関を幾つか持ていると言う事が知られている程度。
今、「ブリッジストーン」を名乗る謎の侵略者がその鍵島へと迫っていた。
巨大な飛行空母に量産型の戦闘ロボットを詰め込み、この島の研究機関を一気に殲滅せんとばかりに。
 
鍵島上空。
遂に巨大な飛行空母がそこに辿り着いていた。
巨大飛行空母の中からその初老の男は地上にある研究施設を見下ろしていた。
「忌まわしき過去の象徴、炎となりてこの場に消え去るがいい・・・攻撃開始!!」
飛行空母の艦底が開き、次々と量産型戦闘ロボットが降下していく。
島の沿岸部に着水した量産型戦闘ロボットが島にある研究施設に向かって攻撃を開始した。更に飛行空母からもミサイルが雨のように降り注ぐ。
あっと言う間に地上にある研究施設は破壊されつくし、鍵島全体が黒煙に覆われる。
元々人工島であるだけにそれほど大きい島ではない。地上にあるのはその研究施設とそこで働く人の為の宿舎などだけであり、後は普通の島っぽく見せる為に木々が植えられている程度であった。今、その全てが吹き飛ばされ、炎に包まれていく。
「何と・・・何というあっけない事か・・・これが・・・これが長年私を苦しめ続けてきたというのか・・・」
初老の男は燃え上がる島を見ながら感慨深げにそう呟いた。
彼の頬を一条の涙が伝う。
だが、一瞬、立ち上る煙が冬の風に払われた時、彼は思わず目を見開いていた。
「な、何と!?」
モニター上には相変わらず黒煙に包まれている鍵島しか映っていない。しかし、彼は確かに見たのだ。研究施設があった場所の真下にある鋼鉄のシャッターを。まるで地下に何かあると言わんばかりに、その鋼鉄のシャッターは閉じられ、傷一つ無い。
「も、もしや・・・?」
初老の男が身を乗り出した。
「こ、攻撃中止!!」
慌ててそう命じると地上に降り立った戦闘ロボットが動きを止めた。飛行空母からの攻撃も中止される。
「むむ・・・」
煙が風に吹き飛ばされ、徐々に晴れてくる。
「や、やはり・・・おのれ、謀ったな、橘っ!!」
初老の男が怒りのあまり、怒鳴り声を上げる。
 
決して初老の男の怒鳴り声が聞こえていたわけではないのだが、その名を呼ばれた男、橘敬介は腰に手を当ててにやりと笑みを浮かべてモニターを見ていた。
「石橋先生、我々はあなたがいなくなってから無為に時を過ごしていたわけではない!その事を今、お見せしましょう!!」
モニターに映る巨大飛行空母に向かってそう言い、さっと後ろに控えている水瀬秋子を振り返った。
「さぁ、水瀬副司令」
橘の言葉に頷き、秋子は大きい声で宣言する。
「オペレーションK、発動、了承!!」
その声と同時に全てが動き出す。
鍵島の地下に建造されていた秘密基地が鋼鉄のシャッターを開けて地上へとせり上がり、その周囲をバリア発生システムと対地対空ミサイルを装備した武装コンテナが取り囲む。
その外観はまるで要塞。
戦闘を考慮された完全なる戦闘防御用の要塞であった。
これが「奇跡創世機関KEY」の本拠地なのである。
 
それを見た初老の男は怒りに顔を真っ赤にしながら大声で配下の量産型戦闘ロボットへ命令を下していた。
「やれ!!完膚無きまでに破壊するんだ!!この世に奴らの痕跡を一つたりとも残すでないっ!!!」
もはや狂気に彩られたその目に理性の影はない。
自分を裏切ったものへの復讐、自分を必要としない世界への怨念が彼を狂わせてしまっている。
その狂気と怨念の固まりが再び攻撃を開始した。
 
「バリアシステム作動!」
オペレーターの一人がそう言ってキーボードを操作する。すると即座にバリア発生システムが作動し基地の周囲をバリアが取り囲んだ。
戦闘ロボットと飛行空母の攻撃は全てそのバリアに阻まれてしまう。
「さぁ、こちらから反撃と参りますか」
橘がそう言うと、秋子が頷いた。
「対地対空ミサイル発射!カノンナンバーズ、出撃用意!!」
続けざまに命令を下していく。
バリアの外側にあるミサイルポッドが開き、次々とミサイルを発射、戦闘ロボットや飛行空母を攻撃し始めるが、相手の数は圧倒的であり、稼働しているミサイルポッドだけでは明らかに戦力不足であった。
しかし、それを知りながら誰一人として慌てているような様子はない。むしろ、それが当然という顔をしている。
丁度その頃、基地の最下層にあるドックにパイロットスーツを着た1人の少年が急いでいた。
「初めての実戦で緊張していると思いますが祐一さんならきっと大丈夫です」
その少年を追いかけるように少年とほとんど年齢の変わらない少女が小走りについてきていた。少女は少年と違い、奇跡創世機関KEYの制服を着ている。
少女の名は倉田佐祐理。
奇跡創世機関KEYのオペレーターの一人である。
「訓練通りやれば何の問題もありません。頑張ってください」
佐祐理の言う事に少年は何も答えない。
緊張して答えられないわけではない。無視しているわけでもない。彼はただ、集中していた。
驚異的なまでのその集中力。
既に彼は戦闘態勢に入っているのだ。
佐祐理はドックの入口まで来ると足を止め、少年の背を見送った。
ドッグの入り口には又別の少女の姿がある。
佐祐理と同じくKEYの制服を着た、何処か不安げな表情を浮かべた少女。
少年が少女に気付かないままその前を通り過ぎようとした時、少女が口を開こうとして、又その口を閉じた。そしてその場から逃げ出すように走り出そうとする。
「待てよ、名雪」
走り出そうとした少女の後ろからかけられる声。
足を止める少女。
振り返ると、少年が自分の方を向いて笑みを浮かべていた。
「勝つさ、俺たちは。この日の為に選び抜かれ、鍛え抜かれた精鋭中の精鋭だからな」
少年がそう言うと、少女は大きく頷いた。
「うん、頑張ってね、祐一」
今度は少年が頷く。
そしてドックの中に入り、自分が乗るべき機体のコクピットに滑り込む。
発進準備は既に完了していた。
コックピットハッチが閉じられるのと同時に周囲がモニターとなり、様々な情報が表示される。
「システムオールグリーン、と」
少年が表示されたサブモニターを見て呟いた。
そこにパッと又別のサブモニターが展開した。
『皆さん、準備の方、よろしいですか?』
サブモニター上に映し出されたのは秋子の顔。
頷く少年。
『こっちは準備OKです』
『真琴もOKだよ』
更にサブモニターが二つ展開してそこに二人の少女がそれぞれ映し出された。
『あなた方がやるべきことは一つ、敵の殲滅。いいですね?』
「了承、です」
少年がそう言ってニッと笑った。
 
秋子はそれを聞くと大きく頷いた。
「カノンナンバーズ、出撃っ!!」
その声を受け、基地の最下部が開き、その中から3機の小型輸送機が次々と射出されていく。
その3機の内、一番最後に射出された小型輸送機の下部から一体のロボットが切り離され、地上へと降下する。
地上に降り立ったロボット、その名を”カノングランド”。
パイロットである沢渡真琴が野性的本能の持ち主であり、又格闘技に置いて天才的な技量を見せるところから格闘戦に秀でた性能を持つ機体である。
「さぁ、行くわよぉっ!!」
真琴は何処か楽しげにそう言うと指をポキポキと鳴らしてから操縦桿を握った。
カノングランドが地を蹴って駆け出す。
量産型戦闘ロボットが接近するカノングランドを確認、攻撃を開始するがそれをかいくぐったカノングランドのキックが先頭の一体に直撃した。更に着地したカノングランドが隣にいた一体にパンチを喰らわせ、後方にいた一体には肘打ちを喰らわせる。
次々と爆発して倒れる先頭ロボット。
「ほらほら、邪魔だって!」
カノングランドがまだ数多くいる戦闘ロボットの群れの中に突っ込んでいく。
同じ頃、島の別の所では2番目に射出された小型輸送機からカノングランドに似た感じの機体が切り離されていた。
その機体はカノングランドのようにすぐに降下せず、そのまま空中を浮遊している。
「えっと・・・・こうすれば・・・」
そのロボットのコックピットの中、一人の少女がコンソールにあるキーボードを次々と滑らかに叩いていた。するとそのロボットの身体から銀色に光るものがさっと周囲へと散らばっていく。それはまるで雪のように戦闘ロボット達の上に降り注ぎ、それを受けた戦闘ロボット達が次々に同士討ちを始め破壊されていく。
「すいません、電子頭脳を狂わせて貰いました」
コックピットの中の少女がそう言って微笑む。
少女の名は美坂栞。少々病弱だがコンピューターにかけては天才的、通称「電脳の妖精」と呼ばれるほどの腕前を持つ彼女の機体の名は”カノンブリザード”。
先程戦闘ロボット達の電子頭脳を狂わせた攻撃の仕方が吹雪に似ている事から命名されたのである。
最後の一機、一番始めに射出された小型輸送機の下部から切り離されたロボットはそのまま小型輸送機に捕まり、片手に持った専用ライフルを地上へと向けていた。
その専用ライフルから発射された弾丸が次々と戦闘ロボットを貫き、破壊していく。ある程度の数を破壊すると小型輸送機から離れて着地、片膝をついて射撃、更に戦闘ロボットを破壊していく。
その全てをたった一発だけで決めている。たった一発の弾丸で戦闘ロボットの弱点を正確に貫通させているのは天才的な射撃センスではない。驚異的な集中力によるものであった。尤も射撃センスもかなりのものであるが。
「そこかっ!?」
又一機戦闘ロボットが爆発する。
この驚異的集中力の持ち主の名は相沢祐一。そして彼の乗る機体の名は”カノンフレイム”。文字通り火力で敵を圧倒する機体である。
 
飛行空母の中から初老の男は新たに現れた3機のロボットを見、顔色を変えていた。
「あ、あれは・・・まさか・・・いや、だがたった3機でこの数に敵うわけがない!」
男はそう言ったがそれでも不安を拭い去る事は出来なかった。
もしもあのロボットが自分の考えているものであるならば勝ち目は限りなく低い。それほどのものをあのロボット達は秘めているのだ。
そして、今、彼の眼下ではその不安がまさに実現しようとしていた。
島を覆い尽くさんばかりの数の戦闘ロボットの大半がたった3機のロボットにより破壊されてしまったのだ。
「お、おのれ・・聖四天王を呼べ!!」
大きい声でそう言うとコンピューターが反応、すぐさま世界中のあちこちにいる聖四天王に初老の男の命令を伝える。
「聖四天王が来るまで体勢を整え直すのだ!あいつらに・・・これ以上好きにはさせん!!」
 
次々と破壊されていく戦闘ロボットをモニターで見ながら橘は口笛を鳴らした。
「いやはやいやはや、まさかここまでやるとは思いもしなかったね」
「充分予想された範囲ですよ、総司令。カノンナンバーズの力はまだこんなものではありません」
そう言ったのは笑みを浮かべた秋子である。
しかし、それは秋子に言われるまでもなく、彼も充分知っている事実である。何しろカノンナンバーズの開発は彼が監督していたのだから。
「さて、問題はこの後どういう反撃が待っているか、ですね。まさかこれで終わりとは思いませんし」
「ええ、それはきっと。ですがカノンナンバーズに勝てるとは思えません」
「ああ、何しろ最強無敵の決戦兵器だからね」
「超高速で接近する物体あり!」
オペレーターの一人が振り返って大声で言った。
それを聞いた橘と秋子の表情が引き締められた。
「どうやらこれからが本番のようですね」
橘がそう言うと、秋子が頷いた。
「カノンナンバーズの本当の力をいよいよ見せる時です。その高速移動物体の数は?」
「島の東西南北から一つずつ、総数4!」
オペレーターの返答を聞いた橘が小さく頷く。
「例の聖四天王という奴か・・・石橋先生の最高傑作と見て間違いないな」
「モニターに出ます」
今までカノンナンバーズが量産型戦闘ロボットを次々と撃破していた様子を移していたモニターが切り替わり、鍵島に向かって接近している4つの機影を映し出した。
一つは海上すれすれを飛行する翼竜型。
一つは雲の上を飛行する戦闘機型。
一つは海面を割りながら進む海竜型。
一つは宙を舞う人型。
「ふむ・・・これがそうか・・・」
腕を組みながらモニターに映る4つの戦闘ロボットを見て、唸る橘。
「カノンナンバーズのままでは少し荷が重そうだとは思わないかな?」
「スクランブルクロスにはまだ・・・今のままでは成功率は30%程です」
秋子が少し表情を曇らせる。
 
その頃、カノンフレイム、カノンブリザード、カノングランドの3機は鍵島に上陸した量産型戦闘ロボットのほぼ全てを破壊し終えていた。
又一機胴体に風穴を開けられ、爆発する。
「ふう・・・これで終わりか?」
祐一がそう呟いて額の汗を拭う。
『何、今終わったの? 真琴はもうとっくの昔に終わったわよ』
コックピット内にサブモニターが開き、そこに真琴の顔が映し出される。彼よりも先に終わった事が余程嬉しいらしく嫌味なほど自慢げな表情を浮かべながら。
『こっちも終わりました、祐一さん』
更に別のサブモニターが開き、そこに少し疲れたような栞の顔が映し出された。
『この島に上陸した戦闘ロボットは全て沈黙。残るは上空の飛行空母だけです』
栞の言葉を聞いて祐一が上を見上げた。
カノンナンバーズが出撃してから飛行空母からの攻撃は止んでいる。まさか弾切れと言う事はないだろう。こちらを観察していたか、それとも何かを待っているのか。
おそらくその両方だろうと祐一は考えた。
ほぼ半日で世界の大半を破壊し、支配下に置こうとした敵。その戦力がこの程度であるはずがない。
『祐一さん、何かが接近してきます!!』
少し慌てたような栞の声を聞き祐一は小さく頷いた。
「来たな、本命が・・・」
『何が来たって大丈夫よぉ!!この真琴様がちょちょいのちょいって感じでやってあげるから!!』
またも自信たっぷりに言う真琴。
「油断するな。今までの量産型とは違う。ヘタをすればやられるのはこっちだぞ!」
真琴を諫めるかのように強めの口調で言う祐一。
それを聞いて真琴が少しむっとした顔をするが祐一はそれを無視して海の方を見た。
少しの間をおいて、海上すれすれをこちらに向かって飛んでくる翼竜のような姿の戦闘ロボットの姿を捕らえる事が出来た。
翼竜型戦闘ロボットはそのまま少しも速度を落とさず一気に島の上空に達し、カノンナンバーズの真上を通過していく。その時の衝撃波に為す術もなく吹っ飛ばされてしまうカノンナンバーズ。
「何て速さだ!?」
必死に体勢を立て直しながら祐一が言う。
『又来ます!いえ、海の方からも・・・全部で4つ!!』
更に慌てた様子の栞の声。
『あんなのがまだ来るの!?』
真琴が驚きの声を上げる。
「落ち着け、二人とも!副司令、援護をお願いします!!」
祐一はそう言うとターゲットスコープを前に持ってきた。
「真琴、栞、お前達は次に来る奴らを何とか足止めしていてくれ!俺はあの鳥野郎を撃ち落とす!!」
『了解しました!』
『あう〜、わかったわよ!!』
二人の返事を聞き、祐一は集中を開始する。
周りの音も何も全て聞こえなくなる。全ては翼竜型ロボットの軌道を見極める為に。そして狙うべき一点を見いだす為に。
翼竜型ロボットが物凄いスピードで島の上空を飛び回る。
祐一の目がその軌道を追う。その動きは徐々にゆっくりとなり、そして止まって見えた。その一瞬を逃さず、祐一の指がトリガーを引く。
「そこだ!!」
カノンフレイムの持っているライフルから弾丸が発射され、飛び回る翼竜型ロボットに命中、そのまま落下していく。
「やった!?」
『祐一さんっ!!』
敵翼竜型ロボットを撃墜したと思ったのもつかの間、栞の悲鳴にも似た声が飛び込んでくる。
振り返ると海から現れた巨大な竜のようなロボットが上陸し、カノンブリザードとカノングランドを圧倒していた。
「な、何だ、あの大きさ!?」
流石の祐一も海竜型ロボットの大きさに怯んでしまう。
更にそこに飛来する巨大な戦闘機。それは海竜型ロボットの上空まで来るといきなり人型に変形して、着陸する。
ほぼ同時に姿を見せる全身鋭角的な人型ロボット。これもカノンナンバーズを越える大きさを誇っていた。
驚いているカノンナンバーズを尻目に3体の巨大ロボットは最後の一体、先程祐一の狙撃を受けた翼竜型ロボットの方を見ていた。
翼竜型ロボットは黒煙を上げながらも地上には激突せず、ふらふらと中まである3体の巨大ロボットの方にやってきた。
『何てざまだ。それでよく大将軍がつとまるな』
海竜型ロボットからそんな声が聞こえてきた。
すると、翼竜型ロボットが変形し人型へと変形する。
『少し油断しただけだ。それに奴らの力を見せて貰ったまでの事』
翼竜型ロボットからそんな声が海竜型ロボットに返された。
祐一達は呆然とした様子で見ていることしかできなかった。
 
「おお、遂に来たか!!聖四天王よ!!」
モニターに現れた4体の巨大ロボットの姿を見て初老の男が歓声を上げた。
「フッフッフ・・・聖四天王さえ揃えば敵などこの世におらぬ。さぁ、見せてやるがいい!奴らに地獄の業火を!!」
 
橘は4体揃った巨大ロボットを見ながらヒューと口笛を吹いていた。
「総司令」
咎めるように秋子が橘を睨み付ける。
「ははっ、これは失礼。さて、これで向こうの手の内は全て晒されたわけだけどこちらはどうする?」
まだまだ余裕のありそうな口調の橘。
「・・・カノンナンバーズではあの巨大ロボット達には及ばないでしょう。ここは危険ですがスクランブルクロスに懸けてみるしかないかと」
神妙な顔をして秋子が言う。
「おいおい、成功確立30%だろ? 大丈夫なのかい?」
驚いたような顔をしてみせる橘。
だが、それが演技である事を秋子は充分わかっていた。だから笑みを浮かべてこう返す。
「彼らに懸けましょう」
そう言われて橘は苦笑を浮かべた。
「・・・わかった。任せるよ、副司令に」
肩をすくめてそう言う。
秋子は頷くと橘よりも一歩前に出た。
「祐一さん、栞さん、真琴。あれのプロテクトをとくわ。全てはあなた達にかかっているわ。頑張って」
『了承です、副司令』
モニターに映った祐一が真剣な表情で答える。
同じく真琴、栞も黙って頷いていた。
「スクランブルクロス、プロテクト解除!!」
「スクランブルクロス、プロテクト解除!」
秋子の言葉をオペレーターの一人、天野美汐が復唱した。
彼女の操作により、カノンナンバーズに施されたプロテクトが解除されていく。
 
祐一達はコックピットの中でそれぞれに施されたプロテクトが完全に解除されたことを知ると、緊張に包まれた表情で敵ロボットを見た。
「・・・このままであいつらに勝てるとは思えないな」
祐一が呟く。
「・・・やるしか・・・ありませんね」
コックピットの中で栞が言う。
「・・・やるなら何時だっていいわよ」
真琴は少し身体を震わせながら言った。
『さぁ、楽しませて貰おうか・・・』
鋭角的な人型ロボットからそんな声が聞こえてくる。
一歩一歩前に出てきた鋭角的人型ロボットが片手を振り上げた。
「やるぞ、栞!真琴!」
祐一は遂に決意する。
鋭角的人型ロボットの振り上げられていた手が振り下ろされる。
さっと3方向に散ってその一撃をかわすカノンナンバーズ。
「スクランブルクロス、カノントリニティ!!」
コックピット内で祐一が叫ぶ。
次の瞬間、彼の声を認識したコンピューターが合体システムを作動させる。
カノンフレイムの足が折り畳まれ、ブロック状になる。左右の腕には肩のパーツが移動しより太くなる。
カノンブリザードの頭部が収納され、その上半身が左右に分かれる。その際腕は折り畳まれて後方へと回る。更に足も上にせり上がる。
カノングランドも頭部が収納され、両腕をそのボディに収納、腰のパーツが足へと移動する。
そしてカノンフレイムがカノンブリザードと合体して上半身に、更にカノンブリザードとカノングランドが合体して下半身となり、聖四天王の4体に引けをとらない巨大ロボット・カノントリニティとなる。
 
合体したカノンナンバーズを見て初老の男は言葉を失ってしまっていた。
「あ・・・あ・・・あれは・・・」
ガタガタ震えながらようやく口に出す。
「ま、ま、ま、まさか・・・」
 
『ほぉ、面白い。相手になって貰おうじゃないか』
海竜型ロボットがそう言って一歩前に出た。
『我が名は大元帥ハーニバル!そして我が愛機、海竜ヒュドラ!!』
続けて翼竜型ロボットが前に出る。
『先程は油断したが今度はそうはいかない!我が名は大将軍ジャオム!我が愛機、翼竜ワイバーン!!』
『フフフ、楽しませて貰うわ。我が名は大参謀アラニド。我が愛機、ファントム』
戦闘機型ロボットが続けて前に出る。
『我が名は大神官クウシン。そして我が愛機、エイゲン』
最後に前に出てきたのは鋭角的人型ロボット。
聖四天王の名乗りを聞いて、その自信の程を知った祐一達は黙り込む。
(合体は成功したが・・・動いてくれるか、カノントリニティ?)
『信じましょう、祐一さん』
心の中で呟いたはずの事に対して栞がそう言ってくる。
「又、口に出ていたか?」
苦笑する祐一。
『又よ、又。何時になったらその癖直るのかしらね?』
馬鹿にしたように言う真琴。
そんな真琴の憎まれ口に祐一はふっと笑みを漏らした。
「行くぞ、二人とも!!」
祐一が力強くそう言うと、サブモニター内の二人が大きく頷いた。
『まずはこちらから行くぞ!!』
翼竜型ロボット・翼竜ワイバーンが動かないカノントリニティに向かってジャンプした。そのまま空中を滑空してカノントリニティへと突っ込んでくる。
「させるかぁっ!!」
祐一の叫びと共にカノントリニティの腕が突き出され、がしっと翼竜ワイバーンを受け止めた。そしてそのまま翼竜ワイバーンを振り回し、投げ飛ばす。
『な、な、何だとぉッ!?』
驚きの声を上げる大将軍ジャオム。
吹っ飛ぶ翼竜ワイバーンを追ってジャンプするカノントリニティ。
「ウオオオオオッ」
雄叫びを上げながらカノントリニティが腕を振り上げ、一気に振り下ろす!
その一撃に、翼竜ワイバーンはその翼をもぎ取られ、地上へと落下していく。
『おお・・・何故だぁ!? 何故・・・何故この私がッ!?』
そのまま錐揉み回転しながら翼竜ワイバーンは地上へ激突、そして爆発する。
『何と・・・ジャオムを倒すとは・・・』
そう言って一歩前に出たのは鋭角的人型ロボット・エイゲン。
『次はこの私が相手をしよう・・・』
エイゲンがさっと動き、カノントリニティとの間合いを一気に詰める。
「早いっ!?」
真琴が驚きの声を上げる。
エイゲンの右手が鋭い光を発し、シュッと振り下ろされる。
間一髪、その一撃をかわすカノントリニティ。それは祐一のとっさの判断だった。エイゲンの右手に浮かんだ鋭い光、それに脅威を感じたのだ。
『ほぉ・・・今の一撃をかわすとはなかなかやるな。このエイゲンの右腕は何でも切り裂く無敵の剣。貴様があの場にじっとしておれば真っ二つになっていたであろうな』
大神官クウシンが感心したように言う。
「・・・何でも切り裂く無敵の剣、か・・・」
祐一は額に汗を浮かべながら呟いた。
『祐一さん、カノントリニティを信じましょう。これならきっと大丈夫です!』
栞が励ますように言ったので祐一は汗を拭いながら頷いた。
「行くぞ!」
カノントリニティがエイゲンに向かってパンチを繰り出した。
すっとそのパンチをかわしたエイゲンが再び右腕を振り上げた。今度はかわせないだろうと大神官クウシンがにやりと笑う。
『これで終わりだ!』
エイゲンが右腕を振り下ろす。
その腕をカノントリニティは自分の右腕で受け止めた。
パキーンと音を立てて折れ飛ぶエイゲンの右腕。何でも切り裂く無敵の剣が、カノントリニティの装甲の前には木の枝ほどの強度もなかった。
「オオオオッ!!」
驚き、固まっているエイゲンのボディにカノントリニティの左のパンチがめり込む。
吹っ飛ばされるエイゲン。
「行けっ!!ブースターナックルッ!!」
カノントリニティの両腕の肘の先がブースターを点火させて飛ぶ。それはまるで意志を持っているかの如く吹っ飛ばされたエイゲンに向かって飛び、エイゲンに直撃、そのボディを粉砕する。
『ウオオオオオッ!?』
空中で爆発するエイゲン。
それを見上げているカノントリニティにいきなり背後から掴みかかってきたのは戦闘機型から人型に変形したファントムだった。
『面白いじゃない!今度はこのアラニド様が相手をしてあげるわっ!!』
カノントリニティの肩を掴んだままファントムは人型から再び戦闘機型へと変形、猛スピードで上昇していく。
「きゃああっ!!」
悲鳴を上げる栞。
余りものスピードの為、身体がパイロットシートに押しつけられる。
『フフフ、いくら頑丈だと言っても超高空から落とされたら一溜まりもないでしょう!』
大参謀アラニドがそう言い、カノントリニティを掴んでいる手が離された。
途端に重力に囚われ、地上へと落下していくカノントリニティ。
「甘く見るなよ、こいつをっ!!」
祐一が吼えた。
同時にカノントリニティの腰の部分についているブースターが点火し、落下速度を弱め、そのまま、軟着陸する。
それを見たファントムが急旋回し、地上にいるカノントリニティに向かってきた。
『これでも喰らいなさい!!』
猛スピードで突っ込んでくるファントム。
しかし、その速度がいきなりガクッと落ちた。
『な、何!?』
他の二人と同じように驚きの声を上げる大参謀アラニド。
見るとファントムの後部に先程エイゲンを粉砕したブースターナックルが捕まって、しっかり逆噴射しているではないか。
「シャイニングアローッ!!!」
祐一の声と共にカノントリニティの胸の部分から光の矢が発射され、ブースターナックルに捕まえられていたファントムを一瞬のうちに粉砕してしまう。
爆発するファントムからブースターナックルが飛び出し、カノントリニティの元へと戻った。
『・・・よくぞ我が仲間をやってくれた。最後はこの大元帥ハーニバルが相手をしよう』
そう言って海竜ヒュドラがその巨体を揺らして前に出てくる。
その大きさはカノントリニティでも見上げるほどの大きさ。
『踏みつぶしてくれる!』
海竜ヒュドラの足が持ち上げられ、カノントリニティに向かって踏み降ろされる。
「くっ!!」
とっさにその足の下から飛び出すカノントリニティ。
「大きければいいってもんじゃないわよ!!」
真琴が海竜ヒュドラを見上げてそう言う。
決してそれは負け惜しみではなかった。
「行くぞ、カノンブレードッ!!」
カノントリニティの両手が光に包まれ、その光が剣の形を成す。
『これを喰らえッ!!』
海竜ヒュドラが大きく口を開けた。
そこから吐き出される炎。
カノントリニティがその炎に包み込まれる。
『如何に堅い金属であろうと灼熱の炎には敵うまい。そのまま溶けてしまうがいい』
勝ち誇ったように大元帥ハーニバルが言うが、その炎を真っ二つに切り裂いてカノントリニティが飛び出してきた。
『な、な、何だとぉッ!?』
「オオリャアアアアアッ!!!」
大元帥ハーニバルの驚きの声をかき消す祐一の熱き雄叫び。
炎を切り裂いて飛び出してきたカノントリニティがそのまま海竜ヒュドラの口に飛び込み、そのまま後頭部へと貫通していく。
更に縦横無尽にカノンブレードを振り回し、最後に大きくジャンプして片膝をついて着地。
その背後では海竜ヒュドラが全身を切り裂かれてバラバラになり、続けて大爆発を起こしていた。
 
聖四天王がカノントリニティの前にあっさりと敗北したのを見て、初老の男は全身を震わせていた。
「おお・・おお・・・な、何と言う事だ・・・聖四天王が・・・ああもあっさりやられてしまうとは」
そう言って膝をつく初老の男。
「あ、あれは・・・あれはまさか・・・まさか・・完成したというのか・・・」
モニターに縋り付く初老の男。
「あれは・・あれは・・・あれは私のものだぞぉっ!!」
突如叫ぶ初老の男。
 
カノントリニティが飛行空母を見上げている映像は奇跡創世機関KEYの基地内の第一司令室内でもモニターに映し出されていた。
「さて、後は貴方だけですよ、石橋先生・・・」
橘が小さく、そして冷たい口調で呟いた。
「カノントリニティ・・・私達の最高傑作。それで葬られるなら何の思い残しもないでしょう」
その呟きを聞いているものは誰もいなかった。
 
祐一は飛行空母を見上げながら唾を飲み込んでいた。
「後はあの飛行空母だけ・・・」
『あれを落とせばお終いですね』
栞が少し緊張した面持ちで言う。
『さっさと終わらせようよ!』
真琴はまだまだ威勢が良さそうだ。
小さく頷く祐一。
「一気に決める!あれで行くぞ!」
『了解です!』
『了解!!』
二人の返事を聞き、深く頷く祐一。
「行くぞぉっ!!トリニティトルネードッ!!!」
その叫びと共にカノントリニティの腰のブースターに火がついた。そのままブースターの勢いを左右に向け、回転を始める。
「ウオオオオオオオオオッ!!!」
祐一の雄叫びと共に回転しているカノントリニティが宙を舞った。その様はまさしく”トルネード”。あらゆるものを巻き込み、破壊する竜巻。
竜巻と化したカノントリニティが一気に飛行空母に達する。そのまま飛行空母を貫き、行きに空中へと飛び出す。
 
「お、お、おのれぇっ!!橘ァッ!!!カノンは・・・カノンはこのワシのものだぁぁぁぁっ!!!!」
爆発する飛行空母の中、初老の男の叫びが木霊する。
だがそれも次々と起こる爆発の中に消えていく。
 
飛行空母が空中で大爆発を起こし、その破片が海へと落ちていく様をカノントリニティのコックピットの中で3人のパイロットは眺めていた。
「・・・終わったな・・・」
「終わりましたね・・・」
「あ〜あ、やっと終わった・・・」
3人が口々にそう言い、疲れたようにため息をつく。
『3人とも、ご苦労様。帰投してくれていいわ』
パッと開いたサブモニターの中で秋子が微笑みを浮かべながら言う。
「了解、カノントリニティ、これより帰投します!」
祐一がそう言い、カノントリニティは鍵島へと降下していった。
 
飛行空母が大爆発を起こした瞬間、第一司令室内は歓声に包まれていた。
オペレーターの誰もが安堵の表情を浮かべ、中には隣同士で握手しているものや涙を拭っているものもいる。
秋子も満足げに頷き、すぐにカノントリニティへの回線を開いていた。
その様子を見ながら橘はくるりと背を向け、第一司令室から出ていく。口元には苦々しげな笑みを浮かべながら。勝った事がまるで少しも嬉しくないかのように。いや、それが当然であり、むしろこれからの事を考えると頭が痛くなる。
「終わりじゃない、これが始まりなのだ・・・」
橘の姿はそのまま廊下の奥へと消えていく。
 
第1話、完

続く
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後書き
作者D「あ〜・・・遂に又始めてしまいましたね、連載もの」
こげかおりん「・・・・・・」
作者D「・・・あ、あの、どうしたんですか、かおりん様。何か真っ黒ですが?」
こげかおりん「・・・・・・」
作者D「・・・まさかテロの波がここにまで押し寄せたとか?」
こげかおりん「・・・(無言でメリケンサックを装着する)」
作者D「あ・・・いや・・・えっと・・・とりあえず先に後書きしませんか?」
こげかおりん「・・・そうね・・・(そういてメリケンサックを外す)」
作者D「(ふう・・・それにしても一体何があったんだろう?)」
こげかおりん「で、今回の元ネタは?」
作者D「いきなり身も蓋もない質問ですね。”破邪巨星Gダンガイオー”です」
こげかおりん「又随分とマイナーなところから来たわね」
作者D「マイナー言うな。しかし、どっちかというとマイナーなのは否めないような気も(笑)」
こげかおりん「ちなみに”破邪巨星”の方であってSRWIMPACTの”破邪大星”でないところがポイント」
作者D「OAVではなく一応13話のTVシリーズ。しかも深夜だったとか。私はCATVで始めてみましたが」
こげかおりん「あんたって気に入った作品はとりあえず考えるのね」
作者D「常にネタを考えている人間ですので。もうありとあらゆる所から発想しております」
こげかおりん「もっと別の事考えなさいよ。将来の事とか」
作者D「将来の事?んな未来の事、考えてもわかりませんよ(笑)」
こげかおりん「そうじゃなくって近い未来の事」
作者D「・・・・え?」
こげかおりん「どうして今の私がこげかおりん化しているかわかる?」
作者D「・・・何となくわかりたくないような気がします。でも聞かないと痛い目に遭いそうなのであえて聞いてみます。何でですか?」
こげかおりん「あんた宛の爆発物のとばっちりを受けたのよっ!!!!!」
作者D「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃっ!!!(涙)」

お疲れさまでした。

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