<五年前>
「何故だ! 何故わからん!!」
 語気荒くそう言い放ったのはこの研究所で一、二を争う程の過激派で知られる石橋正太郎博士だった。無造作に伸びた白髪を振り乱しながら彼は室内に集まった者達を見やる。
「これだけの力があれば簡単なことだ! それにそうでもしないとこの世界は救うことなど出来ん!」
 どうしてこの連中は自分の言っていることが正しいとわからないのだろうか、と心底呆れたように石橋は嘆息する。
「”眠りの天使”がもたらした情報が真実であるならば、一刻も早く対策を練らねばならん! それはお前達でもわかっていることだろう! しかし、日本を始め各国政府はおろか国連ですら我らの話を信じようとはせん! もはやそのような連中に任せてはおけんだろう! だからこそ我らがこの技術を用いて世界を統べるべきなのだ!!」
 再び熱弁を振るい出す石橋だが、彼を見つめる目はどれも冷たいものだった。
 今、この室内にいるのは石橋と同じくこの研究所で勤めている研究員達だ。彼らも石橋と同じものを研究しているのだが、彼程過激な考えは持っていない。彼らの理想はあくまでこの研究の平和利用だ。この研究所の中ではむしろ石橋の方が異端だと言える。
「……石橋先生」
 静かにそう言いながらすっと手を挙げたものがいた。石橋の熱弁を邪魔することなく、彼の言葉が途切れたそのタイミングを狙って。
 ジロリと石橋が手を挙げた人物の方を睨み付ける。彼としてはまだまだ熱弁を振るうつもりだったのだが、それを見事なタイミングで阻止されたのだ。あまり愉快な気分ではないらしい。
「何かね、水瀬君?」
 不機嫌そうにそう言って手を挙げた人物の発言を促す石橋。
 彼の視線の先にいたのは一人の女性だった。長い髪を一本の太い三つ編みにして肩から前へと垂らしているなかなかの美人だ。もっとも石橋にはそんなことどうでもいいことなのだが。
「発言の許可、ありがとうございます」
 石橋に”水瀬君”と呼ばれた女性はそう言いながらゆっくりと起立する。
 彼女はここの研究所に在籍しているが研究員ではない。だが、彼女はこの研究所において非常に重要な役割を担う立場にある。ここでの研究は彼女がいなければ成り立たないのだ。
「”眠りの天使”が我々に伝えた技術を利用して世界を征服するというのは彼女の意志に反します。私は彼女の代弁者として石橋先生の意見に反対させて頂きます」
 女性はそれだけ言うと軽く一礼して腰を下ろした。
 そんな彼女を忌々しげに見据える石橋。
 先程も述べた通り、この女性はこの研究所において無くてはならない存在だ。それだけに彼女の発言力は相当大きい。彼女がノーと言えばこの中の誰もそれを覆すことは出来ないのだ。
 それだけに彼女を見る石橋の目には憎悪に近い感情が渦巻いていた。これでもう彼の主張は何をしても通らないことがほぼ確定したからだ。
 石橋が何も言わず、すっと立ち上がる。他の研究者や例の女性に注目を受けながら、不機嫌そうな表情を隠そうともせず、そのままこの室内から出ていってしまった。

 それから数時間後、石橋の研究室に一人の青年が数人の黒服にサングラスをかけた如何にも屈強そうな男達を引き連れて訪れていた。彼は引き連れていた黒服の男達を室外の廊下に待機させ、一人研究室の中に入っていく。
「石橋先生、お話があるんですがよろしいですか?」
 態度と口調は丁寧だが、何処か有無を言わせない迫力がその声には秘められている。だが、石橋はそんな青年を一瞥しただけで、研究の手を止めようとはしない。
「見てわからんか。儂は今忙しい。話など聞いている暇はない」
 何処までも不機嫌そうにそう言う石橋。
「いや、聞いて貰わないと困るんですよ。何と言ってもこれは”財団”からの最重要決定事項なんですから」
 青年はそう言うと胸ポケットから一枚の封書を取り出した。
 ”財団”とはこの研究所のメインスポンサーである世界的な経済組織だ。少々怪しいところがない訳でもないが、その経済力はまさしく世界規模のもの。そこからの通達はこの研究所にとってあの女性に次ぐ絶対的権限を持っている。
 流石の石橋もこれは聞かざるを得ないと判断したのか、手を止めて青年の方を向いた。だが、その顔にはやはり不機嫌さが滲み出ている。特に隠そうという気もないのだろうが。
「それでは読ませて貰います。石橋正太郎博士、あなたを本日付けでこの研究所から解雇する。以上」
 短く、簡潔に且つ用件を見事にまとめたその文書を読み上げた青年はチラリと石橋の方を窺ってみた。この気性の激しい老年の研究者が黙っているはずがないと思ったからだ。だが、彼の予想に反して石橋の反応は落ち着いたものだった。
「……それだけか?」
「はぁ……これだけですが」
 あまりにも予想外の石橋の様子にちょっと拍子抜けしたように答える青年。
「ふん、つまりはあれか。あのような過激な考えを持つ儂にこれ以上あれに関する研究を続けさせるのは危険だと判断した訳か。まぁ、いい。ここの腰抜け連中にはほとほと呆れ果てていたところだ。言われなくてもこの儂の方から出ていってやるわ」
 ジロリと青年を見据えながら石橋はそう言い、彼に背を向けた。
「……そうそう、石橋先生。ここでのあなたの研究の記録などは一切持ち出し禁止ですから。その代わりと言っちゃ何ですが、あなたの口座には……」
 黙々と自分の荷物を片付けている石橋に向かって青年が今、思い出したかのように言う。その言葉に石橋はぎょっとしたように顔を上げ、青年を睨み付けた。
「どう言うことだ、それは?」
「どう言うこと、とは?」
「何故儂が自分の研究の記録を持ち出してはいかんのだ? あれは儂のものだぞ!」
「さぁ……そこまでは聞かされていませんよ。想像ぐらいは出来ますがね」
 そう言って大げさに肩を竦める青年。
「多分あれじゃないですか? この研究の外部流出を恐れているとか。まぁ、あなたがこの研究資料を持って別の企業なり研究所なりに行ったところで財団は全力を持って叩き潰しにかかりますがね」
 それはつまりこれ以上彼にこの技術の研究はさせないと言う意味なのであろう。何処に行っても無駄だ、大人しく余生を過ごせ、と言っているようなものだ。
 怒りに燃えた目で青年を睨み付ける石橋。歯をギリギリと噛み締め、ぐっと握り込んだ拳もピクピクと小刻みに震えている。必死に怒りを堪えている、そんな感じだった。
「……おのれ……ここまで儂をこき使っておきながら、ちょっと自分の考えを話しただけでこの仕打ちか」
 視線だけで人が殺せるのならば、今彼の目の前にいる青年は何度と無く死んでいることだろう。それほど強烈な憎しみと怒りの籠もった目で青年を睨み付け、石橋は絞り出すようにそう言う。
「あの技術がここまでのものになったのは誰のお陰か! この儂だ! この儂がいなければこの研究、まだまだ遅れていただろうが! にもかかわらずこの儂を放逐するというか!!」
 もはや我慢の限界になったのだろう、石橋は感情を爆発させた。
「全てはこの儂のお陰でこの研究はここまでのものになったというのに、この儂にもう研究をするなだと!? しかもこの儂の研究成果だけを横取りしようとは何たる厚顔無恥! 財団だか何だか知らんが人を馬鹿にするにも程があるわ!!」
 激昂する石橋だが、それを見ている青年は何処か冷ややかだった。彼がどれほど怒鳴ろうと何をしようともう結論を覆すことは不可能だ。抵抗するのならば、外に待たせている黒服達に言って実力行使に出るまでのこと。もっとも初めからそうなるであろうと思っていたからこそ、黒服の一団を連れてきているのだが。
「先生、もうよろしいですか?」
 石橋が怒鳴り終えるのを待って青年が口を開く。流石に間近で石橋の罵詈雑言を聞いていたのでちょっと顔をしかめている。流石にこれ以上は聞くに堪えない、と言う感じだ。
「既に先生の口座にはそれ相応の金額が振り込まれています。これを元手に何か始めるもよし、余生を大人しく過ごすもよし、ご自由になさってください」
 青年はそれだけ言うと指をパチンと鳴らした。
 それを合図に、研究室の外で待っていた黒服達が一斉に中に入ってきた。彼らは素早く石橋の身体を拘束すると、そのまま研究室から出ていこうとする。
 特に何の抵抗もせずに連れて行かれようとしていた石橋だが、青年の横を通り過ぎようとした時、黒服に少し待つように言った。その発言に黒服が少し戸惑ったように青年の方を見、それに対して青年は構わないとばかりに頷いてみせる。
「どうしましたか、先生? ああ、本州まではちゃんとお送りしますよ。何処か指定の場所があるならそこまでちゃんとお送り致しますが」
「ふん、そのようなことではないわ。若いの、お前さんの名前は?」
「私ですか? 私の名前を聞いたところで」
「この儂に引導を渡したんだ、教えても構わんだろう?」
「……橘です。橘 敬介。財団の査察部に所属しています」
 少し迷ったあげく、青年は石橋の質問に答える。
 青年の名を聞いた石橋はニヤリと壮絶な笑みを浮かべて彼の顔をまじまじと見た。まるで彼の顔をしっかりと覚えようとしているみたいに。
「……覚えておくぞ、若いの。いや、橘 敬介。この儂をここから放逐したこと、必ずや後悔させてやる」
「いや、だから私はただのメッセンジャーでして」
 石橋の言葉に困ったように答える橘青年。
「フハハハハ! 覚えておくがいい! 必ずや儂はお前達に復讐してやるぞ!!」
 黒服に連れて行かれながらも石橋は笑う。
 橘青年はそんな彼の後ろ姿を少し困ったように苦笑しながら見送っていた。

奇跡神世Gカノン
MISSION:02 復讐鬼、再び

 本州と北海道の間、津軽海峡のまっただ中にある人工島、鍵島。
 七年程前に建造されたこの島には奇跡創生機関KEYと呼ばれる組織の本拠地があり、そこでは超エネルギー・キーエナジーの研究開発が行われている。しかし、それは表向きのことで実際にはそのキーエナジーによって精製された超金属・ミラクリウム合金を用いたスーパーロボットを建造し、その運用をする為の秘密基地となっていた。

 つい先日、世界の八割までをも制圧した謎の組織・ストーンブリッジ。
 しかし、その野望も奇跡創生機関KEYの本拠地である鍵島の攻略に失敗したことで頓挫した。
 ストーンブリッジが鍵島攻略に注ぎ込んだ戦力は世界中に送り込んだ戦力のほとんど。それをKEYはたった三機の戦闘機で撃滅したのだ。更にストーンブリッジの切り札である聖四天王の三人までをもKEYの誇るGナンバーズと呼ばれる戦闘機は撃破してのけた。
 これに恐れを成したのか、ストーンブリッジの総帥は聖四天王の残る一人と共に鍵島攻略を諦めて自身の本拠へと引き上げてしまう。その後、戦力のほとんどを失ったストーンブリッジは制圧した世界のほとんどを失い、今やその運命は風前の灯火と言ってよい程だった。
 しかし、ストーンブリッジにはまだ聖四天王最後の一人、大参謀アラニドが残っており、その愛機である超大型爆撃機型メカ・ファントムが残っている。それにストーンブリッジ総帥はまだ世界征服を諦めてはいない。
 再び戦いの幕が上がるのにそう時間はかからなかった。

 太平洋上、雲の上を一機の偵察機が飛行している。その行き先にはストーンブリッジの本拠地である要塞島があった。
 鍵島攻略に失敗し、撤退していくストーンブリッジの巨大輸送機隊を人工衛星で追跡し、その結果この島がストーンブリッジの本拠地であると判明したのだ。更に人工衛星からの解析でその島が人工島であることが判明し、かなり高度に要塞化されていることもわかった。しかしながら実際にどの程度の戦力がそこに残されているのかまではわからなかった為、偵察機が調査に向かっているのだ。
「ブルーアイズよりグランドホース、ターゲットまで後十五キロの地点に到達。これより降下、ターゲットに接近する」
 偵察機のパイロットが母艦の管制室にそう報告し、機体を降下させる。雲を抜け、眼下に青い海原を見、その遙か先に島影を捉えつつ機体の速度を更に上げる。
 目的の島まで後少し、と言うところまで来てパイロット達が緊張感に包まれ出した時、突如偵察機の前方の海面が盛り上がった。
「な、何だ!?」
 驚きの声をあげながらも何とか機体を急上昇させることに成功するパイロット。その眼下の海面を割って姿を現したのは巨大な首長竜型のロボットだ。前回、鍵島を襲いつつも返り討ちにあった聖四天王の一人、大元帥ハーニバル操る大海竜ヒュドラに酷似しているその首長竜型ロボットは口を大きく開くと、そこから偵察機に向かってミサイルを発射した。
 一直線に飛ぶミサイルを右にかわし、偵察機が大きく旋回する。
「ブルーアイズよりグレートホース! ターゲットの前方五キロの地点で攻撃を受けている! これ以上の接近は不可能! これより帰投する!」
 パイロットが必死に無線に向かって怒鳴りつけ、機体を更に上昇させた。
 偵察機なだけに様々な電子機器は搭載しているが、その分武装などは排除されている。この機体は通常の偵察機と比べて強攻型としてかなり改良されており、速度などはかなりのものだ。それでも武装されていない為、このまま敵の攻撃をかいくぐっての偵察は不可能ではないにしろ、危険度は跳ね上がる。このパイロットがこれ以上の偵察を諦めてもそれは仕方のないことだろう。
 偵察機が再び雲を抜け、その上へと抜け出た。そこから速度を上げて母艦に向かおうとする。
 その偵察機の真下、雲の中に巨大な機影が二つ、姿を現す。一つは巨大な翼竜のような姿、もう一つはステルス爆撃機B−2を巨大化させた様な姿。どちらも高度にステルスされているのか、偵察機はそれにまったく気がついていない様子だ。
 と、二つの影が左右に分かれた。そして偵察機を挟み込むかのように雲の上へと浮上する。
「な、何!?」
 機体の左右に出現した巨大メカに驚きの声をあげるパイロット。彼の乗る偵察機の数倍の大きさを誇る巨大メカ、それが改良型の偵察機と同じ、いやそれ以上のスピードで飛んでいるのだ。彼が驚くのも無理はない。
 そんな巨大翼竜型メカの上には一体の人型メカが仁王立ちしている。鋭角的なパーツで構成されたボディが太陽の光を受けて美しく輝いていた。
 人型メカはゆっくりとした動作で偵察機の方を向くと、そちらへと向かってジャンプした。偵察機の真上でその両手を左右に一閃させ、そこからくるりと一回転して反対側を飛んでいた巨大爆撃機の上へと降り立つ。
 片膝をついて着地した人型メカがゆっくりと立ち上がると同時に偵察機が四つに分断される。そして次々と、まるで先を争うように爆発した。パイロット達が脱出する暇など勿論無い。
「とりあえずうるさいハエは叩き潰したけど、どうします、ドク?」
 巨大爆撃機のコックピットの中、その機体を操る大参謀アラニドが遙か後方にある要塞島にいるであろう、ストーンブリッジ総帥に向かって尋ねた。
『この島を狙っている奴らに思い知らせてやるがいい。未だストーンブリッジは健在だと言うことをな』
 コックピット内のモニターに映るストーンブリッジ総帥がニヤリと笑ってそう答えるのを見て、アラニドも楽しそうな笑みを浮かべる。これから始まる虐殺が楽しみで楽しみで仕方ないのだろう。
「了解、これより殲滅に向かいますわ」
 そしてそれから一時間後、要塞島へと向かっていた艦隊は一隻残らず沈められた。生還者は一人もいない、まさしく全滅。容赦のない殲滅劇であった。

 ところ変わって日本、鍵島にある奇跡創生機関KEYの秘密基地。その戦闘指揮室ではこの鍵島基地の副司令である水瀬秋子が首都、東京にいるKEY総司令・橘 敬介からの指令を受け取っていた。
「つまり、連合軍が壊滅したので我々に要塞島を攻略しろ、と言うことですね?」
『まぁ、要約するとそう言うことだね。とりあえず場所の特定は出来ているからわざわざ探さなくていいのは幸いだけど』
「……確か私は言ったはずです。Gナンバーズ以外の戦力では奴らに勝ち目はない、と。今回のことは単なる無駄な人死にを出しただけですね」
『おいおい、少しはオブラートに包もうよ。この通信だって何処の誰に傍受されているかわからないんだから』
 そう言って苦笑を浮かべる通信モニターの中の橘。
「わかりました。それでは直ちに出撃準備を整え、出撃します」
『頼んだよ。敵さんの本拠地の場所とかのデータは送っておいたから。それじゃよろしくね〜』
 何処かやる気の無さそうな、そんな軽薄な口調でそう言い、橘が手を振ったところで通信モニターが消える。それを見た秋子は小さくため息をつくとこの戦闘指揮室内にいるオペレーター達の方へと向き直った。
「Gナンバーズのパイロットをすぐに招集してください。格納庫の方にはTAガルーダにGナンバーズを搭載、いつでも発進出来るように」
「了解しました!」
 オペレーターの一人が秋子に最後まで言わさずにそう答えた。そしてすぐに自分の仕事を実行する。
「Gナンバーズのパイロットの皆さんは至急戦闘指揮室に集合してください!」

 基地内にある武道場、その畳の上で北川 潤は正座し、静かに目を閉じて瞑想していた。着ているのは血と汗に汚れ、あちこちボロボロになった武道着。彼がこのKEYでパイロットになる前、武者修行の旅に明け暮れていた頃からの愛用のものだ。
 一人静かに目を閉じ、瞑想を続ける潤。
 と、そこに例の放送が聞こえてきた。
『Gナンバーズのパイロットの皆さんは至急戦闘指揮室に集合してください!』
 それを聞いた潤は目を開き、そしてニヤリと口元を歪めて笑う。
「どうやら出番が来たようだな……待ちくたびれたぜ」
 そう呟いてゆっくりと立ち上がる。
 これから始まるであろう戦いの予感に彼は嬉しそうに身震いするのであった。

 鍵島基地内にある居住区画、その内の一室に美坂香里の姿があった。
 そこは彼女に与えられた個室で、パイロットであると言うことからかそれなりに広さを確保されている。もっともこの室内にあるものは備え付けのベッドとクローゼット、後は彼女が個人で持ち込んだ私物が少し。何とも言えない程殺風景であった。
 そんな中、香里は持ち込んだ私物の一つであるパソコンの前に座り、顔をしかめていた。
「……困った、わね」
 何とも言えない苦渋の表情を浮かべて小さく呟く。
 と、そこに例の放送が聞こえてきた。
『Gナンバーズのパイロットの皆さんは至急戦闘指揮室に集合してください!』
 それを聞いた香里は顔を上げると、何故か少しだけ安堵したような息を漏らした。しかし、自分でそれに気付いて苦笑を浮かべる。
「やれやれ……これじゃ失格ね」
 そう呟いて彼女は椅子から立ち上がった。そしてパソコンの横に置いてあった写真立てを手に取ると、それをそっと伏せるのだった。

 鍵島基地内にある射撃演習場で一人の若者がオートマチックの拳銃を構え、射撃の訓練を行っている。彼の目は冷静に標的を捉え、発射された弾丸は的確に標的の中心を貫いていく。
 マガジン内の弾丸全てを撃ち尽くし、若者はゆっくりと拳銃を降ろした。空になったマガジンを抜き、また新たなマガジンを手に取り、素早くセットする。そして再び拳銃を構えて、標的をじっと見据える。
 と、そこに例の放送が聞こえてきた。
『Gナンバーズのパイロットの皆さんは至急戦闘指揮室に集合してください!』
 それを聞いた若者は構えていた拳銃をショルダーホルスターに戻し、耳を守る為にかけていたパッドを外した。
「……出撃、か」
 そう呟き、彼は歩き出す。そんな彼を射撃場の隅でじっと見つめていた人物がいたことを彼は知らない。
 彼の名は相沢祐一。Gナンバーズのパイロットの一人である。

 三人のパイロットが戦闘指揮室に集合したのは放送があってから五分もたたない内のことだった。
 居並ぶ三人を見て秋子は今回の任務を伝える。
「太平洋上に発見された敵の拠点を叩き潰すことが今回の任務です。敵の本拠地だけあって防衛設備はかなりのものと推測されています。先にそこを攻撃しようとしていた連合軍艦隊は全て撃破されたそうです」
「生存者はいなかったんですか?」
「一人残らず皆殺し、だったそうです。海に落ちたものまで全部……誰一人として生きて帰ることはなかったと報告されています」
 香里の質問にそう答えた秋子は改めて三人の顔を見回した。
 どれもこれも、一筋縄ではいかなさそうな、そんな笑みを浮かべている。ある意味頼もしく、ある意味空恐ろしいものがあった。
「出撃は十分後。TAガルーダにGナンバーズを搭載してありますので現地近くまではそれで移動、後はあなた達に任せます」
「了解しました!」
 そう言って敬礼したのは香里だけだった。潤は何やら楽しそうに指をポキポキと鳴らしているし、祐一はただコクリと頷いているだけ。
 そんな三人を秋子は頼もしげに見つめているのであった。

 鍵島基地の後方に設けられた滑走路にKEYの誇る大型輸送母艦TAガルーダの姿がある。
 このTAガルーダはただの輸送機ではなく、中には簡易的な整備施設を有し、更には移動指揮所としての機能も有している。鍵島基地を離れての作戦活動をする場合、このTAガルーダが戦闘指揮室の代わりを為す。言うなれば移動基地のようなものだ。
 普段戦闘指揮室にいるオペレーター達も何人かTAガルーダの方に乗り込み、出撃準備が完了すると同時にTAガルーダは鍵島基地から離陸していった。目的地は世界征服を目論見、その目的の九割以上を達成しつつもKEYの誇るGナンバーズの為にその野望を失敗した謎の組織・ストーンブリッジの本拠地。連合軍の攻撃部隊を返り討ちにした恐るべき防衛能力を有する要塞島である。

 TAガルーダの指揮室では今回の作戦の指揮を任された倉田佐祐理が難しい顔をしてモニターに映し出された地図と睨み合っていた。連合軍の攻撃部隊の規模はかなりのものだったはずなのだが、それをもはねのけた要塞島の防衛能力。下手に接近すれば所詮は輸送機でしかないTAガルーダなど簡単に墜とされてしまうだろう。Gナンバーズの力があれば要塞島の攻略は可能だろうが、果たしてそれを如何にしてやってのけるか、が問題だ。
 今、佐祐理を悩ませているのはどの時点でGナンバーズを発進させるかと言うこと。要塞島に接近しすぎると向こうに気付かれて先に攻撃を受けるだろう。そうなるとほとんど武装のないTAガルーダでは非常に危険だ。かといって離れた場所から発進させるというのもパイロットに負担をかけることになるのであまりよろしい選択肢ではない。
 Gナンバーズと呼ばれる戦闘機はあまりにも高性能すぎて逆に乗り手を選ぶ機体。今の三人のパイロットは様々な選考基準を抜けて選ばれた最高の乗り手ではあるが、それでも長時間の戦闘を強いるのは危険だろう。おそらく戦いはこれが最後ではないのだから。
「……やはりここの辺りが」
 彼女が睨むように見つめているモニター上の地図の一点。それは連合軍の偵察機が要塞島に最接近したポイント。
「勝負所、ですね」

 TAガルーダの格納庫スペース、Gナンバーズの機体が並んで整備を受けている。パイロットの三人は格納庫に隣接しているスタンバイルームでそれぞれ思い思いに過ごしていた。
 Gナンバーズ、Kフレイムのパイロットである祐一は愛用の拳銃の整備を無言で行っている。少し離れたところではKマリーンのパイロットの香里がノートパソコンを前に険しい表情を浮かべていた。更にその二人からもう少し離れたところではKグランダーのパイロットである潤が腕立て伏せをやっている。
 出撃する時まで基本的にパイロット達は何をしていようと別段咎められることはない。それだけパイロットの負担が大きいと言うことなのだろう。出撃する直前まで各々がリラックスしていられるよう配慮されているのだ。
 そんなところに佐祐理が姿を見せた。
 彼女の姿を見つけた祐一、香里が立ち上がりすぐさま敬礼しようとするのだが、佐祐理はそれをやんわりと嗜めた。奇跡創生機関KEYは確かに尋常ならざる戦力を有しているが軍隊ではない。更に言えば佐祐理は祐一達にとって仲間ではあるが上司ではないのだ。だから敬礼などして貰う必要はないし、して貰いたいとも思わない。
「作戦の開始時間が決定しました。これより十五分後、TAガルーダが要塞島から六キロのポイントに到達すると同時にGナンバーズは出撃、要塞島への攻撃を開始して貰います」
「六キロですか……接近しすぎじゃないんですか?」
 そう言ったのは香里だった。
 このTAガルーダは非武装、それに対し要塞島は連合軍の攻撃部隊を全滅させるだけの戦力を保有している。要塞島まで六キロのポイントまで接近するとなると、おそらく島にあるレーダーで捕捉されてしまうだろう。敵に気付かれる前ならともかく気付かれた後だと逃げるのには非常に不利になる。仮にGナンバーズが出撃していたとしてもこのTAガルーダを守ることは困難だろう。香里はそれを危惧したのだ。
「連合軍の偵察機が敵の攻撃を受けたのは島から五キロのポイントです。六キロならギリギリだと判断しました」
「わかりました。私達はそこから出撃して要塞島の防衛戦力を沈黙させればいいんですね?」
「その通りです、香里さん。尚、敵の戦力がどれほどのものかは不明な為、そちらが限界だと判断したら引き上げて貰っても構いません。その場合は補給した後に再出撃して貰うことになりますが」
「了解です」
「それではパイロットの皆さんはコックピットにて待機。出撃ポイントにTAガルーダが達し次第出撃して貰います」
 佐祐理はそれだけ言うと、香里と祐一の二人に向かって頭を下げ、スタンバイルームを後にした。ちなみに後の一人、潤は佐祐理が来たと言うことにもまるで気付かないまま、ひたすら筋トレを続けていたという。

 作戦開始時刻間近になり、TAガルーダの格納庫からGナンバーズの機体がカタパルトへと運ばれていく。その間、コックピットの中ではパイロット達は最終チェックを行っていた。
『なー、どうやってあの島を落とすんだ?』
 Kフレイムのコックピットの中、最後の発進チェックを行っている祐一の耳に潤の声が聞こえてきた。
『まずは例の島の防衛能力がどの程度のものか見てからね。後は随時柔軟に対応。そのくらいしか出来ないんじゃない?』
 続けて聞こえてきたのは香里の声だ。どちらも既に最終チェックを終わらせているのか、余裕のある顔をしている。
「出来ればKマリーンの力で防衛戦力を沈黙させたいところなんだが」
『あれはかなり接近しないと効果を発揮出来ないわよ。それに合体したら使えないし。そこまで二人で守ってくれる?』
 顔色一つ変えずにチェックを続けながら祐一がそう言うと香里が笑みを浮かべてそう答えてきた。
 Gナンバーズの一機、Kマリーンには特殊電子戦装備が為されている。これにより無人兵器などは敵側からコントロールを奪い、同士討ちや逆に自分の手先として動かすことが出来るのだ。ただしこの力を使うには敵に接近しなければならず、その効果範囲もかなり狭いものとなっている為、非常に使いづらい装備となっている。
『俺なら全力で守ってやるぜ!』
「ならその案は無しだな。敵の戦力がわからない以上、合体せずに突っ込むのは危険だ。この前の時のように無人兵器ばかりじゃないだろうしな」
 潤と祐一がほぼ同時にまったく逆の意見を口にした。
 香里に惚れている感のある潤がほぼ何も考えず、自分の感情に従った意見を述べたのに対し、祐一は何処までも冷静な判断に基づいた意見を口にしている。これは肉体派の潤に対してどっちかと言うと頭脳派である祐一と言う二人にはよくある事だ。仲が悪い訳ではないが意見の衝突は多い。
『何言ってんだよ、相沢! 俺たちなら大丈夫だって!』
「悪いが同意出来ないな、北川。相手は連合軍の艦隊を丸ごと叩き潰したような連中だ。合体せずに突っ込めば各個撃破される可能性の方が高い」
『何だ何だ、自信ないのか、相沢?』
「無駄な危険を避ける為だ」
『はいはい、そこまで。私は相沢君の意見に賛成よ。それでいいでしょ、北川君も?』
 二人が言い争いを始めそうな雰囲気になってきたので、香里が仲裁に入った。実はこれもいつもの事だ。意見を対立させる事の多い潤と祐一の仲裁役はもう一人のパイロットである香里に任される事が多く、それが何時の間にか定着してしまっていた。彼女が間に割ってはいると二人は特に文句をつける訳でもなく、彼女の裁定に従う事が多い。それでも初めの頃は二人があまりにも言う事を聞かないのでついつい手が出てしまう事が多々あったのだが、おそらく二人が黙って彼女の言う事を聞くのはその為だろうと多くの人々には認識されている。
『仕方ねーなー、美坂がそう言うならそれで行くか』
『それと二人とも、この間から合体用のキーワードとかが一部変更になっているから気をつけなさいよ。まぁ操作は同じだけど』
『ちょっと待てよ! 何時そんな事決まったんだ? 俺、知らないぞ?』
『この間副司令が説明してくれていたじゃない。聞いてなかったの?』
『……忘れた』
『あんたねぇ……』
「二人とも時間だ。行くぞ」
 祐一は冷静な声で二人にそう言うとKフレイムのエンジンをスタートさせた。続いて、物凄いGが彼の全身に襲い掛かる。
 TAガルーダの射出口からKフレイム、続いてKマリーン、Kグランダーが飛び出していく。
「ここから例の島まで六キロだ! アサルトで一気に接近するぞ!」
『了解!』
『OK、任せたぜ!』
「行くぞ! Gフォーメーション、アサルトッ!!」
 祐一の叫び声が轟くのと共にKフレイム、Kマリーン、Kグランダーの順番で三機の戦闘機が変形合体していく。Kグランダーが下半身に、Kマリーンが胴体とバックパックに、そしてKフレイムが上半身となり、最後にKフレイムの機首部分が頭部に変形して合体ロボット・Gカノンアサルトが完成した。
「Gウイング!」
 合体すると同時に再び叫ぶ祐一。するとGカノンアサルトのバックパックから翼が伸び、Gカノンアサルトが更に速度を上げた。向かう先は前方、既に有視界に捉える事の出来る要塞島。距離にしてだいたい五キロ程。Gカノンアサルトならばあっと言う間だ。

 要塞島の内部にある戦闘指揮室。そこに設えられているまるで玉座のような大きな椅子に座り、初老の男がモニターに映るGカノンアサルトの姿を見つめていた。
「フフフ……一機とは随分と舐められたものだな、ここも。しかしGナンバーズを惜しげもなく投入してきたことについては誉めてやるべきか」
 モニターに映るGカノンアサルトを見て初老の男はニヤリと笑う。
「奴をこの島の上空にまで誘い込め。この要塞島の恐ろしさを思い知らせてくれる」

 Gカノンアサルトが要塞島の上空に辿り着いたのは合体してからほんの少し経ったぐらいだった。そこに来るまで敵からの攻撃は一切無く、島の上空に辿り着いても防衛システムの攻撃はない。
『何て言うか、拍子抜けって感じだな』
 上空から要塞島を見下ろしながらそう言ったのは潤だ。
『もっと激しく抵抗してくれるって思ったのにな』
「油断するな、北川。ここは敵の本拠地だ。むしろ俺たちが誘い込まれたって考えるべきだ」
 潤と同じように要塞島を見下ろしている祐一。だが、潤と違って彼は警戒心を露わにした表情でじっと島を見下ろしている。
『この島の防衛システムは生きてるわ。今もこっちを監視してる。何時攻撃が始まってもおかしくないわね』
『何言ってんだよ! Gカノンならどんな攻撃が来たって!』
「とりあえず島に降りてみるか。奴らの出方を見る」
 祐一と同じく慎重な意見を述べる香里に対し、潤は妙なくらい自信たっぷりだ。そんな二人の会話をよそに祐一はGカノンアサルトを地上へと降下させていった。
 彼らの基地である鍵島と同じくこの要塞島も人工島だ。しかし、鍵島と違ってこの島はおいそれとわからないようにかなり巧妙に偽装されている。おそらく衛星からの映像を見ればただの無人島だと皆が勘違いするくらいに。
 そんな島の上に降り立ったGカノンアサルトがまるで周囲を警戒するように左右を見回した。
「……静かすぎるな」
『ほぼ確実に罠ね』
『罠なら俺が蹴散らしてやるよ!』
「頼もしい言葉だが……」
 そう言いながら祐一は周囲に目を配る。レーダーやセンサーもあるが最後に一番頼りになるのはやはり自分の目だ。その彼の目に何かが映った。次の瞬間、激しい衝撃がGカノンアサルトに襲い掛かる。
「くうっ!」
『速いっ!?』
『な、何だぁっ!?』
 三者三様の声をあげつつ、地面に倒れるGカノンアサルト。そこに間髪を入れずに巨大な影が覆ってきた。
「フォーメーションアウト!」
 祐一が叫ぶと同時にGカノンアサルトが分離し、三つの方向へと三機の戦闘機が飛び出していく。次の瞬間、Gカノンアサルトが倒れていたところに巨大な足が踏み降ろされる。三機の戦闘機に分離したのはこの一撃をかわす為だったのだ。そして三機の戦闘機は少し離れたところで再度Gカノンアサルトへと合体した。
「……!!」
 再度合体したGカノンアサルトの目前に、まるでそびえ立つかのように巨大な影があった。その巨大な影を見て、思わず言葉にならない声を漏らす祐一。
『おいおい、こいつ、この前倒した奴じゃねぇか?』
『確か……ヒュドラって言ったっけ?』
 潤、香里が口々にそう言っているのを聞きながら祐一は巨大な首長竜型ロボットを見上げる。二人の言う通り、今、目の前にいる巨大な首長竜型ロボットは前回倒したはずの聖四天王の一人、大元帥ハーニバルが操る大海竜ヒュドラに瓜二つだった。
『へっ、何だか知らないが再生怪人とかは前よりも弱くなっているって相場は決まってるんだ! 又ぶっ飛ばしてやるぜ!』
 やたら強気の潤の言葉に祐一は苦笑を浮かべる。しかし、もう一人のパイロット、香里は何やら神妙な顔をしていた。
『相沢君、もしかしたら』
「……ああ、多分そうだろうな」
 香里が何を言いたいのかだいたい察した祐一はそう言って頷いてみせた。
 大海竜ヒュドラが復活しているならば他の機体も復活していてもおかしくない。それが証拠に先程Gカノンアサルトを吹っ飛ばした衝撃の主の姿を未だに捉えることが出来ないではないか。おそらく先程Gカノンアサルトを吹っ飛ばしたのは聖四天王の中でもスピードに自信のある機体、大神官クウシンが操る鋭角的な人型ロボット、エイゲンだろう。まだ姿を見せていないがきっと大将軍ジャオムの大空竜ワイバーン、そして唯一前回の戦いを生き残った大参謀アラニドの巨大爆撃機ファントムもどこからかこちらを見ているはずだ。
「やはり罠だったか」
 静かに呟く祐一。
 Gカノンアサルトをこの島にまで易々と来させたのは復活した聖四天王の戦闘ロボットがあったからだろう。前回は向こうにまだ油断があった。Gカノンの戦闘能力を知らなかったが為にGカノンを侮っていた。だが、今回は違う。敵はGカノンの強さをよく理解しているはずだ。その上でこの島まで誘い込んだ。それはつまり今度は勝てるという自信があることに他ならないだろう。
「よく来たな、Gナンバーズ! ここがお前達の墓場だとも知らずに!」
 突然聞こえてきたその声に、三人はそれぞれのコクピットの中で顔を上げた。いつの間にかGカノンアサルトの前方に巨大な人影が出現していたからだ。考えるまでもなく立体映像だと言うことはわかる。だが、三人は声に聞き覚えもなければその人物に見覚えすらない。
「我こそがストーンブリッジの総裁、いずれ世界を統べる者! 貴様達はここで我が野望の礎となって死ぬがいい!」
 立体映像の男がそう言うと同時に島中に設置されていた対空砲がGカノンアサルトへと向けられる。合図さえあればいつでも攻撃可能と言うことなのだろう。その合図もすぐに出されるに違いない。
 祐一は素早く周囲を見回し、自分たちに向けられている対空砲の数とその位置を確認した。
「さぁ……砕け散れ!」
 その言葉と同時に数多の対空砲が火を噴く。
「フォーメーションアウト!」
 対空砲が火を噴くのと同時に祐一が叫び、Gカノンアサルトが分離した。三機の戦闘機は飛び交う砲弾をかわしながら上昇していく。
「逃がすな! 奴らを生きてこの島から帰すな!」
 立体映像の男――ストーンブリッジ総帥がそう叫び、上昇するGナンバーズを指差す。その声に呼応するかのように上空から巨大な何かが二つ、急降下してきた。一つは超巨大な爆撃機、もう一つはほぼ同じサイズの翼竜型ロボット。それぞれ巨大爆撃機ファントム、大空竜ワイバーンだ。
「やはりあいつらも復活していたか!」
『まぁロボットなんだからいくらでも作れるわな』
『そんな事言ってる場合じゃないでしょ! 分離したままじゃ勝てないわよ!』
『しかしこうも対空砲火が激しくっちゃな』
「香里、何とか対空砲を黙らせられないか?」
『この状況じゃ無理よ!』
 会話だけ見れば結構余裕のありそうな三人だが、実際は対空砲の攻撃をかわすのが精一杯で反撃する余裕など全くなかった。更にそこにファントムとワイバーンが迫ってきているのだ。まだまだ実戦経験の少ない彼らは焦りこそすれ、どの様にしてこの場を切り抜ければいいのか、その方策がまったく頭に浮かばず、焦りと不安を押し殺すように会話を続けているのだ。
「……合体するぞ!」
 少し考えた末に祐一はそうはっきりと言い放った。
 今のままではどうやっても勝ち目はない。逃げ続けていても何時かはやられてしまうだろう。ならば少しでも勝ち目のある可能性に賭けるしかない。
『こんな状態で合体!?』
『おいおい、出来るのかよ!?』
「このままやられる訳には行かないだろう! 可能性は低いかも知れないが……それでもやらなきゃ俺たちに勝ち目はなねぇ!」
 サブモニターの中の二人がはっきりと驚きの表情を浮かべているのを見ながら、それでも祐一はそう宣言する。
 そんな祐一を見て、香里は呆れたようにため息をつき、潤は何やら楽しげに口元を歪めて笑った。
『まったく……コックピットにいる時とそうじゃない時とじゃ性格変わるんだから』
『いいじゃねぇか! 面白い! やってやるぜ!』
 どうやら二人とも祐一の言う通りだと判断したらしい。反応はそれぞれだが、心は決まった。後はやるだけだ。
「行くぞ! オーバーブーストを使って一気にあいつらをかわして上昇する! それから合体だ!」
『オーバーブーストを使うの!?』
「ああ、ここを切り抜けるにはそれしかない」
『オーバーブーストを使ったまま合体するのって成功率確かゼロに近くなかったか?』
「だが他に切り抜ける方法はない! やるぞ!」
 少し不安げな表情を浮かべた二人を叱咤しつつ、祐一も嫌な汗が額から頬を伝うのを感じていた。
 彼の言うオーバーブーストとはただでさえ並の戦闘機以上の性能を誇るGナンバーズの機体にかけられているリミッターを一時的に解除して、機体性能の限界を引き出す装置のことだ。これを使うことによりGナンバーズの三機、Kフレイム、Kマリーン、Kグランダーは普段リミッターによって抑えられている出力の全てを引き出すことが出来るようになり、その速度や戦闘能力が飛躍的に向上する。しかし、パイロットにかかる負担も飛躍的に増す為、オーバーブーストの使用はパイロットの判断に任されているものの最後の手段的なものとされているのだ。
 三人ともシミュレーター訓練で何度かこのオーバーブーストの状態を体験しているが、それでも身体にかかる負担は相当のものでこの状態での合体に成功したことは一度もない。更に言えばシミュレーターでしか体験したことが無く、実際に機体に乗ってオーバーブーストを使うのは初めてなのだ。一体身体にどれだけの負担がかかるのか、三人が不安になっても仕方ないだろう。
「オーバーブースト、オン!」
 そう言いながら祐一はオーバーブースト機能起動のスイッチを押した。その瞬間、身体にかかるGが一気に増す。身体がシートに押しつけられる。Kフレイムの速度が一気に増したのだ。限界ギリギリのところまで速度を上げたKフレイムで尚も襲い掛かる対空砲の攻撃をかわしつつ、更に上昇していく。
「くうっ……こいつは……!」
 恐ろしいまでのGに歯を食いしばりながら耐える祐一。それは他の二人も同様である。Gナンバーズのパイロットとして普段から厳しい訓練を受けている三人であったが、オーバーブーストはそんな彼らでも限界ギリギリの状態の強いているのだ。
 上昇する途中で急降下してきたワイバーンとファントムをかわしながらすれ違い、三機の戦闘機がはるか上空、雲の上へと飛び出していく。
「行くぞぉっ! Gフォーメーション、アサルトォッ!!」
 オーバーブーストの状態のまま合体を敢行する三機。超高速の中、三機の戦闘機が変形しながらGカノンアサルトへと合体した。それと同時にオーバーブースト状態が解除される。オーバーブーストはGカノンに合体する前、Kフレイム、Kマリーン、Kグランダーの状態での最後の手段、奥の手として装備されている機能なのだ。
 何とか合体を成功させた三人はそれぞれのコックピットで安堵の息を漏らしていた。だが、すぐに表情を引き締める。その直後、雲を突き破るようにしてワイバーンとファントムが姿を現したからだ。
「来やがったな。今度こそ叩き落としてやる!」
 Gカノンアサルトを挟み込むようにしているワイバーンとファントムを睨み付けながら祐一は呟き、Gカノンアサルトを前方、ワイバーンの方へと進ませる。
「Gマグナム!」
 Gカノンアサルトの両脇からリボルバータイプの拳銃が飛び出してきた。それを両手にそれぞれ持ち、ワイバーンに向けて引き金を引く。前回の初出撃時には高密度に圧縮されたエネルギー弾が使用されていたが、今回はより強力な徹甲弾が装填されていた。弾速はエネルギー弾よりも遅いが、威力や貫通力はエネルギー弾よりも高い。前回の戦いにおいてワイバーンにダメージを与えたもののそれが微々たるものだった為に今回はより威力の高い徹甲弾へと変更されたのだ。
 しかし、弾速が遅いと言うのが致命的だったのか、ワイバーンはあっさりと放たれた徹甲弾をかわしてしまう。そして一気にGカノンアサルトへと接近してきた。
「そんな巨体でGカノンに接近戦だと!?」
 突っ込んでくるワイバーンを上昇してかわしたGカノンアサルトだが、その背にファントムから放たれたらしいミサイルが直撃した。
「うわっ!」
『ちょっと、何やってるのよ!』
『しっかりしろよ、相沢!』
 コックピットの中に伝わる衝撃に顔をしかめた祐一にすぐさま香里、潤からの文句が出る。
「チッ、後ろにもう一機いたのを忘れてたぜ」
 舌打ちしてそう言った祐一はすぐさまGカノンアサルトを振り返らせた。そこに再び向かってくるミサイルをGマグナムで撃ち落とし、今度はファントムの方へと突っ込んでいく。
 突っ込んでくるGカノンアサルトを見たファントムのコックピットで見たアラニドはニヤリと笑い、次々とミサイルを発射させた。彼女の操るファントムは超巨大爆撃機。そこに搭載されている爆弾やミサイルの量は並大抵のものではない。どれだけ一気に発射しようと尽きることはない程だ。
 目の前をまるで埋めつくさんとばかりに発射されたミサイル群。それらを時にかわし、かわしきれないものは頭部のレーザーバルカンや手にしたGマグナムで撃ち落としながらGカノンアサルトはファントムに接近していく。
 ファントムに後少しまで迫った時、Gカノンアサルトの頭上からワイバーンが急降下してきた。大きく開いた口でGカノンアサルトを挟み込むとそのまま地上に向かって降下していく。
 GカノンアサルトはGマグナムやレーザーバルカンで何とかワイバーンの口から脱出しようとするのだが、ワイバーンはびくともしない。そのままの状態で雲を抜け、要塞島の方へと急降下していく。
『このままじゃやばいんじゃないか?』
『分離して脱出出来ないの?』
「俺と北川だけなら脱出出来るがそれでいいか?」
『まさか。なら早く何とかして貰いたいわね!』
『Gマグナムで無理なら……あれを使え!』
「よし! Gハルバード!」
 祐一がそう叫ぶのと同時にGカノンアサルトの肩口から棒状のものが飛び出した。それをGカノンアサルトが掴むと先端が槍のような鋭い穂先になり、その少し下には斧状の巨大な刃が、その反対側には鋭いピック状のものが出現する。いわゆるハルバードと呼ばれるポールウエポンだ。
 Gカノンと同じくミラクリウム合金で作られたこのGハルバード。Gカノンと同サイズのそれは、破壊力もまたそのサイズに見合ったものとなっている。
 Gハルバードを手にしたGカノンアサルトはそれを大きく振り回し、ワイバーンの頭部に叩き込んだ。巨大な刃がワイバーンの頭部の装甲をぶち破り、その内部へと食い込んでいく。その刃がどうやらGカノンアサルトを挟み込んでいる巨大な顎のジョイントの部分にダメージを与えたらしく、締め付ける力が弱まった。
「今だ! 一旦分離するぞ! フォーメーションアウト!」
 ぐいっと胴体を挟み込んでいる上顎と下顎を押し開き、隙間が出来ると同時にGカノンアサルトが分離してワイバーンの口から脱出する。
「相沢君! 今度は私に任せて貰うわよ!」
『おいおい、バスターじゃ空中戦は出来ないだろう?』
「さっき思いっ切り締め付けてくれた仕返しよ! 行くわよ! Gフォーメーション、バスター!!」
 香里の叫びに合わせてKマリーン、Kグランダー、Kフレイムの順番で三機の戦闘機が変形合体していく。Kフレイムが下半身となり、Kグランダーが胴体とバックパック、そしてKマリーンが上半身となり、Kマリーンの機首部分が頭部に変形してGカノンバスターが完成した。
「さっきのお礼よ! Gドリル!」
 背中にあるブースターが火を噴き、Gカノンバスターが降下していくワイバーンの上へと躍り出る。そして左腕をドリル状へと変形させると、ワイバーンに向かって急降下していく。
「ドリルプレッシャー!!」
 左手のドリルが高速回転を始め、更にドリル部分が光を帯びた。そしてそのままの状態でGカノンバスターはワイバーンに突っ込んでいく。
 Gドリルはあっさりとワイバーンの背の装甲を貫き、そのままGカノンバスターはワイバーンの胴体を貫通して地上へと降り立った。
 その頭上で胴体に大きな風穴をあけたワイバーンが爆散する。
「まず一つ!」
『へっ、やっぱり再生怪人は弱かったな!』
 香里、潤がそう言ったのとほぼ同時にGカノンバスターの周囲で爆発が次々と起こった。上空にいるファントムがGカノンバスターに向かって爆撃を始めたのだ。
『香里! 分離しろ!』
 祐一の声が聞こえてくるが香里はそれに頷きはしない。その目はじっと前方にいる一体の戦闘ロボットに向けられている。
「ダメよ。あいつがいる以上、分離したら一機ずつ狙い撃ちにされるわ」
 香里の言葉に祐一も潤もじっとこちらをみているような戦闘ロボット、エイゲンに目を向けた。
『あのとんがり野郎は確か速さが売りだったな』
『なら美坂に任せるっきゃねぇか』
『だが上のうるさいのはどうする? このままだと』
「大丈夫、私に任せて。二人とも、舌噛まないように注意してなさい!」
 そう香里が言うのと同時にGカノンバスターが動いた。背中のブースターを点火させ、物凄い速さで右に左に動き回る。あまりもの速さに残像がそこに残る程だ。
 これこそがGカノンバスターの誇る超高速機動、マッハビジョン。文字通りマッハの速さで地上を駆けることが可能。これを使えば例え上空から爆雷を落とされ続けても、一発も当たることはないだろう。もっとも操縦する香里の技量もかなりのものなのだが。
 Gカノンバスターが動き出すのと同時にエイゲンもまた動き出していた。Gカノンバスターと比べても遜色のない速さでもって距離を一気に詰めてくる。
『来たぞ、香里!』
「わかってる!」
 エイゲンの両手はそれ自体が刃となっている。前回の戦いではそれで抵抗する国の軍を次々と屠ったものだ。もっともGカノンバスターのGドリルの前に脆くも敗れ去った訳だが。しかしながらそれが脅威で無いという訳ではない。鍵島での決戦ではGカノンバスターは必殺のドリルプレッシャーで勝利を収めたのだが、それはGドリルにキーエナジーを纏わせ、より強力にした状態で打ち破ったに過ぎないのだ。通常の状態で打ち合えばGカノンとて危険なことに変わりはない。
 迫りくるエイゲンの腕をかわしつつGカノンバスターは距離を取ろうとした。必殺技であるドリルプレッシャーはキーエナジーによるGドリルの威力向上もあるがそれ以上に突進力を生かした技だ。ある程度の距離がなければその破壊力は十分に発揮されない。
 エイゲンはそれを理解しているのかいないのか、とにかく離れようとするGカノンバスターに接近しようとしてくる。
「こいつ!」
『距離が取れないと不利だ! 香里、俺と代われ!』
「無茶言わないでよ! 上からは爆撃、目の前にはこいつ! フォーメーションアウトしている暇はないわ!」
『いっそのこと、またオーバーブーストでも使うか?』
「そう何度も使えるようなものじゃないでしょう! 馬鹿言わないで!」
 上空からの爆撃をかわしつつ、目の前のエイゲンから離れようとする。この予想外の苦難に香里は操縦するので必死のようだ。祐一や潤の言葉にも耳を貸そうとはしない。それでもしっかり答えているだけ凄いのだろうが。
 しかしこのままではどうにもならない。せめてエイゲンかファントムのどちらか一方だけでも黙らせることが出来れば何とか出来るのだが。そう思いながら香里は周囲の状況をチェックした。
 ただ逃げ回るだけではダメだ。全周囲に気を配っていないと何が起こるかわからない。超高速機動を維持しつつ、周囲のチェックを行う。それだけの操縦技術が香里にはある。そして彼女は見つけた。この苦難を何とか脱することが出来るかも知れないアイテムを。
「チェーンナックル!」
 香里の叫び声と共にGカノンバスターの右手が射出された。もっともその名の通り、射出された手と手首の部分はチェーンで繋がっている。そのチェーンで繋がれた右手がエイゲンに向かって真っ直ぐに飛んでいった。
 エイゲンは飛んできたGカノンバスターの右手をあっさりとかわしてしまう。何と言ってもエイゲンもスピードのは自信のある機体だ。Gカノンバスターのチェーンナックルは超高速機動、マッハビジョンを使いながら放たれたのだが射出された右手自体のスピードはそれほどでもなかったようで、その為あっさりとかわされてしまったのだろう。
 しかし、香里はエイゲンがチェーンナックルをかわしたのを見てニヤリと笑った。まるでかわされると言うことが前もってわかっていたかのように。いや、彼女にはわかっていたのだ。エイゲンのスピードならチェーンナックルをかわすことなど造作もないと言うことを。そして、そもそもチェーンナックルを放った目的はエイゲンを倒す為でも動きを止める為でも、ましてや牽制する為でもなかった。
 空を切ったチェーンナックルはそのまま大きく弧を描き、エイゲンの斜め後方で墜落し、炎上しているワイバーンの残骸の中へと飛び込んでいく。その残骸の中、地面に突き立っているGハルバードの柄にチェーンナックルの先が巻き付いたのを確認した香里はそれを思い切り引き寄せた。Gハルバードが地面から抜け、大きく回転しながら宙を舞う。そして、それは柄に巻き付いたチェーンナックルに引き寄せられるようにGカノンバスターの元へとやってくる。
 と、その前にエイゲンが立ち塞がった。いや、Gカノンバスターがあらかじめスピードを落とし、エイゲンが真正面にやってくるように誘導したのだ。
「鬼ごっこはこれで終わりよ」
 ニヤリと笑ったままの香里がそう言い、エイゲンがGカノンバスターに斬りかかろうと両腕を振り上げた瞬間、飛んできたGハルバードの巨大な刃がエイゲンを真っ二つにした。まさしく一刀両断、頭の頭頂部から股間へとざっくり切り裂かれ、エイゲンは左右に分かれて地面に倒れ伏す。
「これで二つ!」
『先の上のうるさいのを何とかした方がいいんじゃねぇか?』
『北川の言う通りだ。香里、今度こそ俺に代われ』
「仕方ないわね。空中戦はアサルトの方が適性あってるし……フォーメーションアウト!」
 今だ空中からの爆撃は続いていたが、三人にとってそれはさほど脅威ではない。爆撃をかわしながらGカノンバスターが三機の戦闘機に分離し、再びGカノンアサルトに合体するのは困難なことではなかった。
「行くぞぉぉっ!」
 雄叫びをあげながらGカノンアサルトはGハルバードを拾い上げ、空へと舞い上がる。次々と、まるで雨のように落ちてくる爆雷などものともせずに、時にかわし、時にGハルバードで斬り落としながらぐんぐん上空のファントムへと迫っていく。
『相沢君っ!』
 いきなり聞こえてきた香里の声に上ばかりを見ていた祐一は慌ててGカノンアサルトを旋回させた。その直後、地上から放たれたらしいミサイルが直前までGカノンアサルトがいた場所を通過していく。振り返ると地上にいる巨大な首長竜型ロボット・ヒュドラが大きく口を開き、そこから新たなミサイルを発射しようとしているところが見えた。
「あの野郎!」
『先にあっちを叩くか? なら俺に任せろよ。今度もまた仕留めてやるぜ』
「いや、こいつで黙らせる!」
 祐一がそう言うと同時にGカノンアサルトが手に持ったGハルバードをヒュドラに向かって投げつけた。Gカノンアサルトの手から放れたGハルバードは唸りを上げながら回転しつつヒュドラの方へと向かっていく。
 与えられた回転によって更に威力を増したGハルバードがヒュドラの頭部に直撃、そのまま一気に粉砕してしまう。更に口の中で今にも発射されそうになっていたミサイルが誘爆し、ヒュドラの頭部が爆発を起こした。
 頭部を失ったヒュドラの巨体がよろめき、そして地面に轟音と共に倒れ伏した。それを見届けることなくGカノンアサルトは上昇を再開している。彼らにとってヒュドラを倒したと言うことは既に確定事項であり、見る必要はないと言うことなのだろう。
「後はお前だけだ! 覚悟しろっ!」
 祐一がファントムを見据えて吼える。
 しかし、ファントムは急加速して突っ込んでくるGカノンアサルトをかわしてしまった。
「フフフ……果たして覚悟するのはどちらの方かしらね」
 ファントムのコックピットの中、アラニドが不敵に笑う。そしてファントムを大きく旋回させ、再びGカノンアサルトに向かって急加速させた。
「このファントムはただの爆撃機じゃないって事、教えてあげるわ!」
 想像を絶する急加速を果たしたファントムがGカノンアサルトに向かって突っ込んでくる。Gカノンアサルトにぶつかる直前、その巨大な翼の下から三本の爪を持つアームが飛び出してきた。
「何っ……うわっ!?」
 祐一が驚きの声をあげた一瞬後、物凄い衝撃がコックピットを襲った。更にオーバーブーストに匹敵するGが彼らの身体をシートへと押しつけた。
『な、何だ?』
『あのクローアームに掴まれてるのよ! このままじゃGカノンが無事でもこっちの身体が保たないわ!』
『分離は?』
『これだけがっちりと掴まれてちゃ無理よ!』
『向こうにもパイロットがいるんだろっ! こんなG受けて平気なのかよ!』
『この前鍵島を襲ってきた聖四天王のうち倒した三人はみんなアンドロイドだったそうよ。多分、このパイロットも同じ』
『クソォッ! 相沢、何とかしろぉっ!!』
 コックピットの中で聞こえてくる香里と潤の会話を祐一は歯を噛み締めてGに耐えながら聞いていた。その彼が見ているのはクローアームによって繋がっているファントムの機体。
「……一気に勝負をつける!」
 祐一はそう呟くとニヤリと笑った。相手はGカノンを捕まえたつもりでいるのだろう。だがそれは同時にGカノンがファントムを捉えたのだとも言える。離れていればかわされるかも知れない攻撃でもこの距離ならば絶対に外すことはない。
 クローアームに掴まれたままGカノンアサルトは両手を胸の前で合わせた。その手をゆっくりと左右に開いていくと手と手の間に幾筋ものスパークが走る。そしてそのまま腕を頭上へと掲げると、その手と手の間に走るスパークが更に激しくなり、そこに光球が生まれた。続けてゆっくりとその手と手の間の距離を開けていくと、光球が左右に引き延ばされ、光の槍と化す。
「喰らえぇっ! Gスパークランサー!!」
 祐一の叫び声と共にGカノンアサルトがその頭上に出来た巨大な光の槍を、極至近距離にいるファントムの機体下部へと叩き込んだ。
 Gカノンを動かす超エネルギー・キーエナジーを高密度に圧縮し、それを光の槍と化して放つGカノンアサルトの必殺技。これで貫けない装甲はない。
 事実、ファントムの装甲はあっさりと撃ち抜かれ、機体中央に大きく風穴をあけたファントムがぐらりと傾いた。クローアームによる拘束も弱まり、Gカノンアサルトがそこから脱出するのとほぼ同時にファントムの中に搭載されていた大量の爆雷やミサイルが爆発し始める。
「ふははは! これで勝ったと思うな! 我らの役目は果たした! 泣きを見るのはお前達だ!」
 次々と誘爆し、炎に包まれる機体のコックピットの中、アラニドがその全身を覆っていた人工皮膚を炎に焼き焦げさせながら叫ぶ。次の瞬間、コックピットが爆発に包まれる。
 あちこち爆発させながら海へと墜落していくファントムを見ながら祐一達はアラニドが最後に残した言葉の意味を考えていた。
「……一体どう言う意味だと思う?」
『単なる悔し紛れじゃないか?』
『いいえ。きっと何かあるわね。私達をここに誘いだしたことにも関係あるのかも』
『俺たちを倒す罠以外の目的もあったって事か?』
『……多分、それが本命じゃないわ。本命は別の……まさか!?』
「ああ、きっとそうだ。佐祐理さん、聞こえますか?」
 祐一が後方で待機しているはずのTAガルーダとの通信回線を開く。先程まで戦闘中だったのでTAガルーダとの通信回線を閉じていたのだ。
『ああ、やっと繋がりました! 皆さん、大変です! 鍵島基地が敵の攻撃を受けているそうです!』
 コックピットの中に開いたモニターに映る佐祐理の焦ったような表情に、祐一と香里は自分たちの不安が的中したことを知る。後の一人、潤だけはちょっと意外そうな顔をしていただけだが。
「やっぱりあの連中は俺たちをここに引き留める役割だったのか」
『ここから鍵島基地までだと……ちょっとやばいかも』
『現在鍵島基地は防衛システムを全て使って迎撃している真っ最中だそうです。Gナンバーズの皆さんはすぐに向かってください!』
「了解!」
『間に合えばいいんだけど』
『なぁに、そう簡単にやられる連中じゃねぇさ!』
 佐祐理の新たな指令に頷く祐一、不安を口にする香里、そして楽観的なことを口にする潤。
「行くぞ、全速力だ!」
 Gカノンアサルトが背中の翼を広げ、物凄い速さで移動を始めた。その速さはまさに風の如く、あっと言う間にGカノンの姿は見えなくなるのであった。

 鍵島は今、無数の戦闘ロボットによる攻撃を受けていた。それに加えて空からは大型爆撃機、海上からは浮上した潜水艦からのミサイル攻撃。
 その猛攻撃に対して鍵島基地は島に設置されている防衛システムの全てを稼働して迎撃に当たっていた。しかし敵の数は圧倒的に多く、徐々に追い込まれ始めている。
「防衛システムの損耗率、六十パーセントを超えました!」
「バリア出力二十パーセント低下!」
 戦闘指揮室の中、オペレーター達の悲痛そうな声が次々に響き渡る。それを聞きながらこの基地を任されている秋子の顔は徐々に険しさを増していた。
「TAガルーダとの連絡は?」
「Gナンバーズがこちらへと急行しているとの連絡がありました! しかし到着時間は不明です!」
(果たしてそれまで持ち堪えることが出来るか……それが問題ですね)
 更に険しさを増し、眉を寄せる秋子。
 このままでは防衛システムの全てを沈黙させられ、バリアも破られて、ここを敵に制圧されてしまう。敵の目的が何であるにしろ、この基地には決して敵対勢力となるものに渡してはならないものが大量にある。キーエナジーの研究データは勿論、ミラクリウム合金の開発データやGカノンの戦闘データなどそう。しかし、それよりも更に重大なものがこの基地にはある。絶対に、他の誰にも渡してはならないものが。
(いざと言う時は自爆、と言うことも考えなければいけませんね)
 そんなことを秋子が考えていると、一人の少女が戦闘指揮室に駆け込んできた。しかし、誰もその少女に気付かない。皆迎撃や戦況の把握などそれぞれに忙しいからだ。
「お、お母さん!」
 自分の存在をアピールするようにその少女が秋子に声をかける。考え事に没頭していて少女が入ってきたことに気付いていなかった彼女は振り返り、そこにいる少女を見て少し驚いたような表情を浮かべた。
「名雪……ここではそう言う風に呼んじゃダメって言ってあるでしょう」
 驚きの表情は一瞬、すぐに先程までの険しい顔つきになって名雪と呼んだ少女を諭すように言った。
「あ……ご、ごめんなさい……」
「わかってくれたらいいわ。それでどうしたの? 今は戦闘中よ」
「あ、あの……副司令にお願いがあります! 私を……出撃させてください!」
 そう言って名雪は秋子に向かって頭を下げる。
「このままじゃ勝ち目がありません! 私が出て囮になります! そうすれば」
「ありがとう、名雪。あなたの気持ちは嬉しいわ。でも許可することは出来ないわ」
「でも!」
「それに出撃出来る機体もないでしょう?」
 秋子にそう言われて名雪は俯いてしまった。確かに秋子の言う通り、現状で出撃出来る機体はこの鍵島基地にはない。実際には訓練用の機体があるのだが、非武装の為に出撃してもただの的にしかならず、それでは犬死にするだけだ。それがわかっているだけに、でもそれでもこの状況を何とかしたいと言う気持ちは非常に強い。だから悔しくて、俯くことしか出来なかった。
「それに……もうすぐみんなが帰ってくるわ。それまで持ち堪えることが出来れば私達の勝ちよ」
 そう言って秋子は名雪を安心させるように微笑み、彼女の肩に手を置いた。彼女の気持ちは痛い程わかる。だからこそ、彼女を無駄死にさせることは出来ない。それに秋子には確信があった。現在出撃中のGナンバーズは必ず帰ってくる、と。絶対に彼らは間に合うと。

 空からは爆撃機からの爆撃、海上からは潜水艦によるミサイル攻撃、更に上陸した戦闘ロボットの攻撃を受けて刻一刻と追いつめられていく鍵島基地をモニターに見つめながら、初老の男は陰鬱な笑みを浮かべていた。
「フフフ……無様なものだな。あのような見え透いた罠にかかるとは」
 初老の男がいるのは鍵島を攻撃中の潜水艦の艦橋だ。実はこの艦橋は例の要塞島の戦闘指揮室そのものであり、Gカノンが要塞島に向かって出撃したのと同時にこの潜水艦まで移動し、Gカノンを聖四天王ロボが要塞島に引き留めている間に潜水艦は要塞島を離れ、他のところで待機させていた爆撃機と合流してGカノンのいない鍵島基地を襲ったのだ。
 鍵島の戦力の大部分はGカノンによってまかなわれている。その戦力の要であるGカノンが鍵島にいなければこの戦力でも充分攻略可能だと初老の男は判断したのだろう。事実、現時点で鍵島基地はかなりのところまで追いつめられている。
「後少しだ……我が復讐も後少しで終わる……」
 ギラリと目を輝かせ、初老の男が呟いたその時だ。
 鍵島上空から爆撃を続けていた爆撃機の一つが突然爆発し、墜落していった。
「な、何っ!?」
 初老の男が驚きにあまり座っていた椅子から腰を浮かす。その間にも爆撃機は次々と爆発し墜落していく。
「な、何が起こった!?」

「高速でこちらに接近するものが」
 オペレーターが最後まで報告し終えるよりも速く、鍵島基地内の戦闘指揮室のモニターに映る敵の爆撃機の一つが爆散した。その爆発の中から飛び出してきた影を見て、秋子の顔にようやく笑みが浮かぶ。
「どうやら間に合ったようですね。流石です」
 そう呟き、秋子は満足げに頷いた。
 彼女の視線の先、モニターにはまた一機の爆撃機を爆散させ、新たな敵爆撃機に襲い掛かるGカノンアサルトの姿が映し出されていた。

 Gハルバードを振り上げ爆撃機に向かって突っ込んでいくGカノンアサルト。
「ウオオオオッ!」
 祐一の雄叫びと共にGハルバードの刃が爆撃機のボディを切り裂いていく。要塞島で撃破したファントムに比べればこの爆撃機の速度は遙かに遅い。おまけに対空用の装備がまったく為されていない為にGカノンアサルトにとっては単なる空飛ぶ標的でしかなかった。
 一機、また一機と爆撃機をGハルバードで切り裂き、Gカノンアサルトは空を縦横無尽に駆けめぐる。たちまちの間に鍵島の上空にいた爆撃機は全て撃墜されてしまった。
「フォーメーションアウト!」
 全ての爆撃機を撃破した後、Gカノンアサルトは分離して地上へと降下していった。
 鍵島の上に上陸していた戦闘ロボット達がすかさず降下してくるGナンバーズの戦闘機に向かって攻撃を始めるが、ただの一発も当たらない。
「Gフォーメーション、バスター!!」
 香里の声と共に三機の戦闘機が合体し、Gカノンバスターが鍵島の上に降り立った。そしてすぐさま左手をドリル状へと変形させ、並み居る戦闘ロボットの方へと突っ込んでいく。
 先程の爆撃機とは違い、この戦闘ロボット達は突っ込んでくるGカノンバスターに反撃してくるが、コンピューターで制御された大量生産のロボットなどGカノンにとっては敵ではなかった。超高速機動マッハビジョンを駆使したGカノンバスターの動きについて来れず、中には同士討ちをしてしまうものもある程だ。
『やれやれ、この調子だと俺の出番は無しかー』
『まだ潜水艦がいるぞ、北川』
『もういっそお前か美坂でやってくれよ〜。オーバーブーストを一日で二回も使ったからさっきから鼻血が止まらなくてなー』
『鍛え方が足りないんじゃないか?』
『もっとトレーニングの量増やすかねー』
 コックピットの中、聞こえてくる二人の暢気な会話に香里は口元に笑みを浮かべていた。こんな風に余裕を見せていられるのは相手が量産型の戦闘ロボットだからだろう。どれだけいようとこの戦闘ロボットではGカノンの敵ではないのだ。

 潜水艦の艦橋のモニターで次々と撃破されていく戦闘ロボットを見ていた初老の男が悔しそうに歯を噛み締める。
「おのれ……一度ならず二度までも」
 苛立ちを隠そうともせずにそう呟き、初老の男は腰掛けていた椅子から立ち上がった。そして前方にあるコンソールへと歩み寄ると不気味な笑みを浮かべる。
「フフフ……こうなればもうあそこを占拠するのは止めだ。全てを消し去ってくれる」
 言いながら初老の男はコンソールについていたレバーを引く。するとコンソールの一部分が開き、赤いボタンが現れた。
「消えろ……全て消えてしまえ……ははははははっ!!」
 狂ったように笑いながら初老の男は赤いボタンに拳を叩きつけた。直後、艦橋中にサイレンの音が響き渡り、只でさえ薄暗かった照明が消え、代わりに赤いランプが点灯する。そんな中、初老の男はひたすら笑い続けているのだった。

 初老の男が赤いボタンを押した直後、潜水艦の甲板部分が開き、そこに巨大なミサイルがその姿を現していた。核ではないのだが、それでもこの一発で鍵島を跡形もなく吹き飛ばすことが出来る程の威力を秘めている。これこそが初老の男の切り札であった。
 本当ならば鍵島の全ての防衛戦力を無力化して占拠する予定だったのだが、要塞島で聖四天王ロボで引き留めておいたはずのGカノンが予想以上に速く鍵島に戻ってきた。そのGカノンが鍵島攻略の為にとっておいた最後の戦力を次々と撃破するに至り、もはや鍵島を占拠することは不可能と判断した初老の男は最後の手段に出たのだ。自分のものにならないのならば全てを消し去る。手段としては最悪だがこれしかもう方法がない。
 潜水艦から巨大ミサイルが唸りを上げて発射される。着弾までそう時間はかからないだろう。これで全てが終わる。初老の男の狂気にも似た思いを載せて巨大ミサイルは鍵島へと飛んでいく。

「敵潜水艦より巨大ミサイルの発射を確認!」
 レーダーを監視していたオペレーターの一人が後ろにいる秋子の方へと振り返りながら悲痛な声をあげた。
「バリアの出力は?」
「ダメです! 通常時の二十パーセントまで低下しています! これでは防げません!」
「迎撃は間に合わない?」
「防衛システムの稼働率が十パーセントを切っています! 無理です!」
 自分の質問にすぐさま答えを返してくるオペレーター達の有能さに満足しつつ、しかし返ってきた答えがどれも絶望的なものでしかないことに秋子は知らず歯を噛み締めていた。
「Gナンバーズの皆さん。この基地に巨大ミサイルが接近しています。直ちに迎撃してください」
 少しの間考え、そして秋子が出した結論がこれだった。この基地の設備ではどうやってもミサイルを防ぐことが出来ない以上、後はGカノンに頼る他ない。しかし、いくらGカノンが凄くても既に発射されたミサイルを迎撃することは難しいことだ。それでも彼らに全てを託す他道はない。彼らを信じる以外どうしようもないのだ。
『了解!』
 帰ってきた返事はそれだけだった。言ったのは祐一だけで後の二人は少々驚いたような表情を浮かべている。だが、それも一瞬のことで、すぐに祐一と同じく不敵な笑みを浮かべて頷くのであった。

 鍵島に上陸していた戦闘ロボットの大半はGカノンバスターのGドリルによって粉砕され、残るものも島に設置されている防衛システムの前にほとんどが沈黙させられていた。もっとも防衛システムの方もかなりの被害を受けているのだが。
『さて、どうやってあのミサイルを撃ち落とす?』
『Gスパークランサーで一気にやる。俺に任せろ』
「ダメよ。下手な位置で爆発させたら島にも被害が及ぶわ」
 潤の問いに祐一がそう答え、更に香里がそう言って頭上、迫り来る巨大ミサイルを見やる。どれだけの火薬が搭載されているかわからないがあの大きさだと衝撃波もかなりのものとなるだろう。地上に近い位置で爆発させてしまうとその爆発で生じた衝撃は鍵島の地上施設に襲い掛かり、壊滅的な被害をもたらす可能性がある。香里はそれを危惧したのだ。
『なら俺に任せて貰えねぇか? ちょっとやってみたいことがあるんだよ』
 ニヤリと笑いながらそんなことを潤が言う。何かわからないが、何かを企んでいる、そんな顔だ。
「失敗は許されないのよ」
『わかってる。任せろって』
「……わかった。フォーメーションアウト!」
 少々不安なものを感じないでもないが、それでもここは潤の出所不明の自信に賭けてみる価値はあるかも知れない。このまま待っていてもどうにもならないのだから。
 分離した三機の戦闘機が物凄いスピードで上昇し、巨大ミサイルへと向かっていく。
『香里、あのミサイルの中をスキャンしてくれ。あれがもし核だったらやばい』
『もうやってるわよ。大丈夫、核の反応はないわ。もっとも威力は相当のものだけど』
 Kグランダーのコックピットの中で潤は仲間達の会話を聞きながらニヤリと笑い、舌を伸ばして今だ流れっ放しの鼻血を舐めとった。心配だったことはあのミサイルが核ミサイルではないかと言うこと。もしもあれが核ミサイルだったらその被害は物凄いことになる。鍵島だけでなくその周辺地域にも洒落にならないダメージが残ってしまう。だが、核でないのならば後々まで残るダメージ、言ってみれば放射能などの心配をする必要はない。
「よぉし行くぜぇっ! Gフォーメーション、クラッシャー!!」
 潤の叫び声が轟く。それに合わせてKグランダー、Kフレイム、Kマリーンの順で三機の戦闘機が変形合体する。Kマリーンが下半身、Kフレイムが胴体とバックパック、そしてKグランダーが上半身となり、Gカノンクラッシャーがここに登場した。
「ウオオオオッ!」
 鍵島に向かって飛んでいるミサイルの目の前で合体したGカノンクラッシャーは両腕を広げてミサイルをガシッと受け止めた。しかし、ミサイルの推進力は強くGカノンクラッシャーを正面にくっつけたまま、鍵島へと向かっていく。
『何やってんだよ、北川!』
『あなたのやりたい事ってこんな事だったの!?』
 祐一、香里の非難する声が聞こえてくるが潤はまたニヤリと笑うだけ。
「黙って見てろ。ここからが本番だぁっ!!」
 潤の叫びと共にGカノンクラッシャーの背中のブースターが火を噴く。それに加えてGカノンクラッシャーは身体を右へと回転させ始めた。
 Gカノンクラッシャーは他の二つの形態よりも遙かにパワーにおいて優れている。その物凄いパワーでミサイルを振り回しているのだ。
 ただ直進することしか出来ないミサイルはその推進力を維持したまま、Gカノンクラッシャーを中心に振り回されていく。
「おおりゃああっ!」
 雄叫びをあげる潤。
 Gカノンクラッシャーは自身を中心にミサイルを振り回す。その様子を上から見ればまるでコマのようにも見えるだろう。
「喰らいやがれぇっ! 竜巻落としぃっ!」
 コマのようにミサイルと共に回転していたGカノンクラッシャーが掴んでいた巨大ミサイルを放した。Gカノンクラッシャーに振り回され、目標である鍵島への進路を完全に奪われてしまっていた巨大ミサイルは放り投げられるまま、思わず方向へと飛んでいく。その先にあるは何とミサイルを発射した潜水艦だった。
 Gカノンクラッシャーでミサイルを振り回しながら潤は潜水艦の位置を確認しており、そちらへと向かってミサイルを投げ返したのだ。

「な、何だとぉっ!?」
 鍵島を跡形もなく粉砕するはずのミサイルが自分の乗っている潜水艦に向かって物凄い勢いで飛んできているという事実に初老の男は驚きを隠せなかった。
 人工島である鍵島を跡形もなく吹き飛ばせるだけの火薬が搭載されているだけあって、この潜水艦など欠片一つ残さずに破壊することが可能。今から急速潜行してもとてもじゃないが間に合わない。初老の男が出来ることは呆然と迫り来る巨大ミサイルを見ていることだけだった。
「これで……終わると言うのか……我が野望も、我が理想も……全てが終わると言うのか」
 刻一刻と迫るミサイルを見ながら初老の男が呟く。
「だが……これで全てが終わった訳ではないぞ! これは全ての始まりに過ぎん! 覚えておくがいい! これが全ての始まりに過ぎないと言うことをっ!」
 初老の男は迫り来るミサイルを見ながら狂ったように笑い出した。
 その直後、ミサイルが潜水艦を直撃し、大爆発を起こす。巨大な水柱を天高く立ち上らせ、その後には黒煙が立ち上った。続いて潜水艦がいた場所を起点に円周状に衝撃波が、続いて大きな波が広がっていく。
 あの爆発の規模からするとあの波が本州や北海道の沿岸部に届く頃には津波のようになっているだろう。それを見て取った香里はすぐに鍵島基地に連絡を取り、沿岸部の住民へ避難するよう呼びかけて貰うことにした。
「副司令」
『わかってるわ。避難勧告はすぐに出します。あなた達は帰投してください』
「了解です」
 香里がそう言うと、サブモニターの中で祐一と潤がそれぞれに頷いた。
『それじゃさっさと帰って飯にしますか』
『ああ、そうだな』
 二人の軽口を聞きながら香里は笑みを浮かべる。

 世界征服を企んだ謎の組織、ストーンブリッジは壊滅した。しかし、ストーンブリッジを指揮していた初老の男が言った「全ての始まり」とは一体どう言うことだったのか。
 祐一、香里、潤の三人はまだ何も知らない。

MISSION:02 OVER

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