「死に至る病の中で・・・」


突然のことだった。
その日、何か悪い予感が朝からしているような、そう言う気分の晴れない、何かモヤモヤしたような・・・どう言えば言い表せるのか。
数日前、真琴がいなくなった。
あれだけ騒がしかった奴が突然に居なくなると何となく寂しいような気もしないでもない。心配なのはあいつが居なくなる直前、熱っぽい顔をしていたと言うこと。
記憶が戻って、自分の家に帰ったのならいいんだが・・・。
ほんの2,3日前、栞が倒れた。
やはりかなり無理をしていたらしく、もう起きあがれるような状態ではないと姉の香里が言っていた。ようやく香里とも昔のように話せるようになったと嬉しそうに言っていたはずの栞が、今、死の直前にいる。
そのことを俺に話したとき、香里の顔ははっきりわかるほど憔悴していた。このままではきっと香里も倒れるだろう。しかし、今の俺達には出来ることはない。それどころではなかったからだ。
つい昨日、秋子さんが事故にあった。
今も生死の境をさまよっているという。それを聞いた名雪から笑顔が消えた。イヤ、もう生きる気力すら感じられない。今の名雪は生きる屍のようだった。
あまりにも突然の出来事・・・不幸がこうも重なるのか・・・。
今、俺は何をすればいい?
名雪は俺を拒絶し、栞にはもう会えない、真琴はどこかに消えてしまっている。

夜の学校で一人戦っていた舞はいつしか姿を消してしまっていた。そう、佐祐理さんが重傷を負った日から彼女の姿を見たものは何処にも居ない。学校に一本の剣が残されていた、と言う噂だけがある。まさか・・・舞が戦っていた魔物にやられてしまったのか?
佐祐理さんの状態も思わしくはないようだ。頭をかなりひどく打ったらしく未だ意識を取り戻さないで居るらしい。

そう言えば・・・・商店街でよく会っていたあゆとも会わなくなった。
何か捜し物をしているというあゆ・・・捜し物は見つかったんだろうか?

俺は一人、学校に行くと、ただ黙って時の過ぎるのを待つ。
もし、秋子さんが助かれば名雪は元の名雪に戻るだろう。しかし、医者の話ではかなり危険らしい。秋子さんが居なくなると名雪はどうなるんだろうか?
危険と言うことならば、栞もかなりやばいという話だ。
今はもう呼吸しているのが不思議なくらいだと香里は淡々と話してくれた。再び妹を受け入れた彼女は、妹の死に直面して、半分崩壊しかけているのかも知れない。

何かが、何かが壊れ始めている・・・。
全てが絶望のシナリオに向かっているような・・・そんな気さえする。
そして・・遂にその時は来てしまった・・・。

重く立ちこめるような空・・・・お世辞にもいい天気とは言えない、黒い雲から、真っ白い雪が降り続けている、そんな日の朝・・・。
絶望と、何かの終わりを告げる、最後通告だったのかも知れない。
静かな、水瀬家のリビングにある電話が・・・たった一人、この家に残っていた少女の心を壊すかのように鳴り響いた。それは・・・もう、誰にも止めることの出来ない崩壊への序曲・・・。全てを闇に包み込むための・・・誘いだったのか?

俺は、家にいてもどうすることも出来ないので、その日も学校にいた。しかし授業など全然聞いていない。
何時間目だったのか・・・突然担任が教室に姿を見せ、俺を手招いた。
イヤな・・・予感が全身を走った。
すぐさま立ち上がると俺は担任に連れられて教室を出ていった。そして廊下で信じられない・・・イヤ、決して信じたくない事実を聞かされる・・・。
「・・・水瀬の母親が・・・・先ほどお亡くなりになったそうだ・・・」
「・・・・・!!」
「水瀬の家にはもう連絡がいっているそうだ。相沢、お前、すぐに帰って水瀬を・・・」
俺は担任の言葉を最後まで聞かず、すぐに走り出していた。
学校の校門を抜け、何度となく雪に足を取られ、何度となく転びながら、俺はここ1ヶ月弱世話になっている家に向かって走り続けた。

やけに静まりかえっている・・・何かがおかしい、と思えるほど・・・俺はそんな家の前に泥だらけで立っている。
名雪は・・・・いるのだろうか?
おそらく初めに電話を受けたのは名雪のはずだ。今の名雪がその事実・・・秋子さんが死んだという事実に耐えることが出来るはずがない。俺はそう確信していた。だからこそ、こうして急いで帰ってきたのだ。これ以上、悲劇を増やしたくはない。
「・・・・名雪、いるか?」
玄関のドアを開けるなり俺は大きい声で中に向かって呼びかけた。
しかし、返事はない。これはある程度予想できたことだ。決していい予想ではないが・・・。
靴を脱いで家の中へ・・・まず2階にいってみる。名雪の部屋だ。いるとは思えなかったが・・・やはり予想通り名雪の姿はない。
「名雪・・何処だ・・・?」
不安が胸をいっぱいにする。もし、家の中にいないなら俺には探しようがない。名雪のことをよく知っている香里も今はそれどころじゃないだろう。
「くそっ!」
思わず壁に拳をたたきつけてしまう。
何も出来ない自分が不甲斐なく、たった一人の、自分が好きになった少女すら支えてやれない自分に腹が立った。
その時・・・どこかで水の音が聞こえた・・・。
「・・・・・!!まさか・・・?」
俺はすぐに1階に下りると、お風呂場のドアを開けた。
そこには・・・・。
真っ赤に染まった水の中に静かに横たわっている・・・名雪の姿があった。
「名雪!」
慌ててそばによる。
どうやら手首を切って自殺しようとしたらしい。そばには小さな果物ナイフが落ちていた。
「馬鹿っ!何考えてんだよ、お前っ!」
まだ生きている。それだけを確認すると、俺はすぐに名雪を抱きかかえた。
「お前が死んで秋子さんが喜ぶとでも思ってんのかよ・・・」
俺は・・もしかしたら泣いていたのかも知れない。必死で名雪をリビングに運び込むと、大急ぎで傷の手当てを始める。
「・・・何で・・・ほっといてくれないの・・・?」
手首の傷に包帯を巻きながらいつの間にか目を覚ましていたらしい名雪が、俺に話しかけてきた。
「もう・・・お母さんはいないんだよ・・・私がいても仕方ないんだよ、祐一・・・」
「何を馬鹿なこと言ってんだよ・・・黙ってろ・・・」
俺はそう言うと、今度はびしょぬれの服を脱がせ、タオルで体を拭いてやった。
「秋子さんがそんなことお前に望んでいるわけないだろう・・・」
「・・・・・・・」
名雪は焦点の合わない目でどこかを見ながら俺のされるがままになっている。
「風邪・・・引くといけないからな。着替えろよ」
さすがにそこまでやる度胸はない。そう言って、俺も着替えるために2階に上がる。
とにかく、名雪を連れて病院に行かなければならない。場合によっては名雪に精神安定剤をうって貰わないといけないかも知れない。それほど・・今の名雪は危なかった。

泥だらけでびしょぬれの制服を脱ぎ、セーターを着ると、俺はコートをつかんで下に降りた。
リビングには名雪の姿はない。どうやら俺の言うことを聞いてくれたようだ・・・そう思って少しだけ安心する。
後は・・・名雪を連れて病院に行って・・・そんなことを考えながら玄関に向かう。
今度こそ、きちんと名雪を支えてやらないと・・・それが今の俺に出来る精一杯のことだ。
玄関まで来たとき、後ろに人の気配がした。多分着替えてきた名雪だろう。俺は振り返らずに、
「ほら、行くぞ。秋子さんが待って・・・」
ドン。
いきなり、名雪が俺にぶつかってきた。同時に、灼けるような痛みが背中から全身に走る。
「・・・名雪・・・?」
俺は首だけをゆっくりと動かし、自分の後ろにいるはずの従姉妹の少女を見ようとした。
名雪は・・・まだ着替えてはいなかった。
先ほど、俺が脱がせたままの姿で・・・俺の背に・・・何かを・・・。
ゆっくりと彼女が離れたので、俺は身体ごと、彼女の方を向いた。
「・・・おい、名雪・・・」
また・・・何も言わず、名雪が俺にぶつかってくる。
今度は腹に焼け付くような痛み。
「祐一・・・私、祐一のこと好きだよ・・・」
顔を見せず、俯いたまま名雪がそう言う。
「ね・・・一緒に・・・行こう・・・お母さんの所に・・・」
俺は・・・・名雪の肩をつかむと・・・ゆっくりと彼女の体を離した。
名雪の手には・・・真っ赤に染まった包丁・・・秋子さんの愛用のものだ・・・今は・・・俺の血で赤く染まっている・・・。
「・・・名雪・・・俺もお前のこと、好きだぜ・・・」
必死に微笑む。ぽたり、ぽたりと俺の血が名雪の手の中の包丁から落ちていく。
その時、ふいに俺の頭の中に何かがよぎった。
赤い雪・・・赤く染まった雪・・・そこに横たわる少女・・・。
ああ・・・そうか・・だから俺はこの街を・・・。
失われていたはずの7年前の記憶。それが今、一気に甦ってくる。
謝らないと・・・いけないな・・・あいつに・・・。
俺は・・・名雪の手から包丁を取り上げると、それを、名雪の胸へと突き刺した。
「祐一・・・」
「すぐに・・・そばに行くよ・・・でも、その前に、どうしてもしなきゃいけないことがあるんだ。だから・・・先に行って待っててくれ・・・」
「・・・うん、わかった・・・お母さんと一緒に待ってる・・・」
そう言った名雪に俺はくちづけすると、彼女から離れて、コートを羽織った。そして、後は振り返らずに・・・名雪をそのままにして・・・俺は・・・あの学校へと足を向けた・・・。

重く立ちこめた空・・降り続ける雪・・・もう、何も考えられない。
ついさっき・・・栞は私の目の前で・・・そのあまりにも短すぎる生涯を・・・終えてしまった。
私は・・・妹が最後に行った言葉・・・それを・・・彼に伝えるために、今歩いている。
「お姉ちゃん、私、幸せだったよ・・・ちょっとの間だけだったけど・・・夢が叶ったんだもん・・・」
苦しそうな息の下、あの子がそう言って微笑む。
「祐一さん・・・きっと・・・名雪さんのことが好きなんだってわかってた。でも・・それでも・・・」
目を閉じる栞。
彼と過ごしていた日々を思い出しているのか。
「私が死んだら・・祐一さんに言って欲しいの。ちょっとでいいから・・・私のこと、憶えていてくださいって。お願い、お姉ちゃん・・・」
それが・・・妹の・・・この世での最後の言葉だった。
私はその約束を果たすため、今、彼の住んでいる家に向かっている。
そこは・・・私の親友の家。
栞が・・・好きになった人の家。
しかし、今は何か・・・不吉な・・とてもイヤな雰囲気が漂っている・・・。
「・・名雪・・・?相沢君?」
ドアは・・・開いている。中は薄暗く、何も見えない。
「・・・入るわよ・・・」
今、この家には相沢君と名雪しかいない。世帯主の秋子さんは事故で入院中のはずだった。
何だろう・・・廊下が濡れている・・・。
きっと相沢君がこの雪に濡れたまま家に入ってきたせいだ、と勝手に思い、リビングに行ってみる。そこには・・・信じられない光景が私を待っていた。
「・・な・・・・ゆき・・・・?」
胸に包丁を突き刺したまま、親友が、リビングのソファに座っている。その表情は・・・何故か穏やかだった。
「名雪!名雪!」
私は親友の名を呼びながらそばに駆け寄った。
「・・・一体・・何で・・・?」
涙が自然とこぼれてくる。
「相沢君・・・相沢君・・・?」
名雪がここでこうして死んでいる。誰が、と言うことなら考えられるのは彼だけだ。
しかし・・・でも・・・どうして?
名雪が相沢君のことが好きだと言うことは知っている。相沢君が名雪のことをどう思っているかは・・・栞が言っていた通り、彼も名雪のことが好きなのかも知れない。なら・・・どうして彼が名雪を・・・?
その時になって私は玄関先がやけに濡れていたことを思い出した。
あれは・・・もしかしたら・・・。
そう思った私はすぐに立ち上がると、自分の靴下を見た。
無色透明の水・・・ではない。どす黒く、真っ赤な・・血・・・。
名雪の胸にはまだ包丁が刺さったまま。それならあれほどの血が流れることはない・・・だったら・・・あの血は相沢君のもの!?
「・・・あなたが・・・?」
物言わぬ親友に私は話しかける。
彼女は微笑みを絶やさないまま・・・しかし、何も言わない。答えてくれない。
私は・・・多分かなりの傷を負っている相沢君を捜すため、そこから離れた。
「ご免ね、名雪・・・後で戻ってくるから・・・」
何も言わない親友にそう言い残し、私は玄関に向かった。
そこは・・・さっきは気がつかなかったがかなり血が飛び散っていた。その血が点々と外に続いている。彼の行方を追うのは簡単そうだ。
私は大急ぎで、その血の跡を追い始めた・・・。

途中、何度も転んだらしい、たまに大きな血だまりがそこかしこに残っている。この様子だと、かなりの重傷のようだ。私はだんだん、街から離れて行く血の跡を追いながら走り続けていた。

息が荒い・・・目が霞んでくる・・・どうやらかなり血を失っているようだ。
そんなことを考えながら、俺はようやく目的地にたどり着いた。
大きな・・・昔はそれこそ街が見下ろせるほど大きかった木の・・・その切られた跡。俺と・・・あゆの・・・二人だけの学校・・・。
「・・待たせたな、あゆ」
「・・・思い出したんだ・・・祐一君」
「人は死ぬ前に今までのこと思い出すって言うからな・・・」
俺はそう言うと、今は切り株となったその根っこに寄りかかるようにして座り込んだ。これ以上立っていられる自信はない。
あゆはそんな俺を見下ろすように切り株の上に座っている。
「あやまらないとな、お前に」
「何を?」
「お前のこと・・・この学校のこと忘れていたことを」
「別にいいよ。だって祐一君だもん」
「どういう意味だよ・・・それ」
俺はそう言ってあゆをにらみつけた。
「うぐぅ・・・」
俺は・・・目を閉じると笑みを口元に浮かべた。
「なにやってるのよ、ゆーいち!」
「え?」
ふいに・・・真琴の声が聞こえた。
「そんなところで寝てると風邪引くわよーだ」
そう言ってべーっと舌を出す真琴。
「馬鹿・・・お前に言われたくはないぞ」
俺は真琴に向かって微笑んだ。
「お前こそ・・・熱、大丈夫なのか?」
「私がそんなのでへこたれたりすると思ってるの?」
「いいや。全然思わない」
「あう〜」
困ったような顔をする真琴。
「あははーっ、そんなこと言ったら可哀想ですよ、祐一さん」
「祐一、ひどい・・・」
「佐祐理さん・・?舞・・・?」
真琴を挟むように二人が立っている。
「何で・・ここに・・・?」
「来て貰ったんだ。折角だから」
あゆが言う。
「私もいますよ、祐一さん」
そう言って栞があゆの隣から顔を出した。
「おいおい・・ここは俺とお前の秘密の場所じゃなかったのか?」
俺は苦笑しながらあゆに言う。
それから・・・俺達はしばらくぶりにあったみんなと話をし続けた・・・。

この街にこんな所があった・・・という話は知っている。
7年前に一人の少女が落ち、切り倒されることが決定された木があると言うことも。
その・・・切り株の前で、私はようやく彼を見つけた。
コートを赤く染め、切り株の根っこにもたれかかるようにして座って・・・誰かと話している彼・・・相沢祐一を・・・。
「・・・・相沢君・・・?」
私がおそるおそる声をかけると、彼は右手を挙げ、
「よう・・・香里じゃないか・・・」
そう言って・・・上を見上げ、
「ほれ、栞、大好きなお姉ちゃんが来たぞ」
笑いながらそう言って切り株の上を見る・・・・。
切り株の上には誰もいない。しかし彼は・・・。
「おいおい、またそれか〜?冗談だって」
誰かと・・・会話をしている・・・?
「ああ、そう言えば、香里は知らなかったっけ?栞の横にいるのが、あゆ、月宮うぐぅだ・・・ああ、冗談だよ、そうむくれるなって。本名月宮あゆだ。それでこっちにいるのが・・・」
相沢君はすぐ自分の横を指で示して、
「川澄舞、倉田佐祐理さん。3年生で・・・結構有名人だから名前くらい聞いたことあるだろ?」
川澄舞、倉田佐祐理・・・この二人の名前は確かに聞いたことはある。しかし、今相
沢君の横には誰もいない・・・。
「それから・・・こいつは居候で記憶喪失(自称)の殺村凶子だ・・・いたいいたい・・・冗談だって。そう殴るなよ。沢渡真琴って名乗っているけど本名だかどうだか・・・」
自分の膝の間にまるで誰かを座らせているかのように彼は何もない空間をなでている。
私は・・・一体何がなんだかわからなくなっていた・・・。
「栞はわかるよな。香里の妹だし」
「な、何を言ってるの?栞は・・・もう・・いないのよ!」
私はいきなり大声で言った。
これ以上、黙っていると、自分がおかしくなってしまう。そんな予感がしたからだ。
「栞は今さっき、病院で息を引き取ったわ!相沢君!あなたに会えて良かった、私のこと、少しでいいから憶えていてって言い残して!」
「何を・・・言ってるんだ、香里?栞ならここにいるぞ・・・ほら、言ってやれよ、そんなこと言うお姉ちゃん、嫌いですって」
「相沢君、あなた・・・幻覚を見ているのよ!そんな重傷で、こんな所にいるから・・・」
「・・・香里・・・お前・・・何いってんだ・・・?」
相沢君は私を哀れむかのように言った。しかしその瞳は生気を完全に失っている。何処を見ているのかさえわからない。
「みんな、いるじゃないか?栞も、舞も、佐祐理さんも、真琴も、あゆも・・・」
「馬鹿なこといわないで!だったらどうしてここに名雪はいないのよ!」
そうだ。もし、ここに、相沢君が関わった人が居るのなら名雪がいないのはおかしい。
「名雪・・・?ああ、あいつなら・・・・」
相沢君は笑みを絶やさずに・・・私の横を指差した。
「遅かったじゃないか、名雪・・・・」
「う〜、準備に手間取ったんだよ〜」
名雪の声が聞こえた・・・。
「御免なさい、祐一さん。どうしてもこのか格好がいいって名雪が言うものですから」
秋子さんの声。
まさか・・・?
振り返ると・・・・そこには・・・白いドレス姿の名雪と秋子さんがいる。
そんな・・・名雪は・・・家のリビングで・・・。
「よく似合ってるよ、名雪さん」
「ホントです。ドラマみたい・・・」
「あははー、ホントいい色ですね〜」
「・・・・・似合ってる」
「名雪〜、格好いいよ〜」
誰かの声・・・はっきり聞こえた。その中には・・・栞の声も・・・。
もう一度振り返る。
切り株の上に栞と赤いカチューシャの女の子。相沢君の横にリボンを付けた長い髪の女性と、後ろで長い髪を縛っている女性。相沢君の膝の間には髪の毛を両方でくくっている女の子。
なに・・・なにがおきているの・・・?
私はもう何がなんだかわからなくなっていた。
相沢君がゆっくりと立ち上がる。
「さ、行こうか、名雪・・・」
相沢君がそう言って名雪の手を取った。
「うん、祐一・・・」
名雪が頬を赤く染める。
「お姉ちゃんも一緒にいこう?」
栞が・・・私を見てそう声をかけてくる。でも・・・そんなはずはない。栞の最期を見とったのは他ならぬ私だからだ。
「ダメだよ、栞ちゃん。その人は一緒に行けないよ」
そう言ったのは赤いカチューシャの女の子だ。彼女は私の前に来ると、
「栞ちゃんのお姉さんだね?ボク、月宮あゆ。よろしくね」
そう言ってにっこりと微笑んだ。
「でも、もうお別れなんだ・・・ボクたちは、ホントはここに居ちゃいけないから・・・・」
その微笑みは・・・悲しげだった。儚げな・・・栞が死ぬ直前に見せた笑顔のように・・・あまりにも悲しい笑み。
「ど、どう言うこと?」
動揺する心。理解できない・・・一体何がどうして・・・?
「今、お姉さんが見ているボクたちは祐一君の想いが見せているものなんだ。ホントのボクはここには居ないし、栞ちゃんはさっきお姉さんが言ったとおりでしょ?名雪さんも秋子さんももう居ないんだよ」
あゆ・・・と名乗った少女が私の目を見て言う。
「あゆさん、みんな行っちゃいますよ」
栞がそう声をかけてきた。
「・・・ダメ・・・・行っちゃダメ・・・・行かないで・・・行かないで!栞!」
思わず私はそう叫んでいた。
「ダメだよ。これ以上、ここにいると、お姉さんも・・・」
「構わない!栞!私はまだあなたに謝らなきゃいけないことがたくさんあるのよ!あなたのためにしてあげたいことがたくさんあるの!だから、だから・・・・行かないで!栞!」
「お姉ちゃん・・・御免なさい・・・」
栞がそう言って私に謝る。
違う!謝らないといけないのは私なのに!ひどいことをしたのは私なのに!
言葉がでない。
「じゃあね、香里」
ふいに名雪の声が・・・見ると、彼女は相沢君と一緒に並んで私を見ている。何となく幸せそうに、微笑みを浮かべながら。しかし、その微笑みは、今もただ静かに自宅のリビングで帰ってこない人を黙って待っている・・・最早この世には居ない親友の浮かべていた笑みと全く一緒だった。
「名雪・・・?相沢君・・・?」
二人の姿が消えていく。
栞や、あゆと名乗った少女、それに他に人も、まるで、霧が晴れていくかのように消えていく。
「待って!私も・・・私も・・!」
手を伸ばして、栞の手をつかもうとする。しかし、私の手は栞の手を捕らえることはなく・・・ただ何もない空間を・・・握りしめるだけ・・・。
「待って・・・待ってよ・・・・みんな・・・栞・・・名雪・・・相沢君・・・」
私の心は・・・そこで壊れた・・・・。

そこには一人の少年が血まみれのコートのまま倒れていた。その少年の前には一人の少女が焦点の合わないうつろな瞳で何かを呟いていた。
二人が発見されたのはそれから5時間も後のことである・・・。

一年後・・・。
「また雪か・・・」
重く、そして暗く立ちこめるような雲から白い雪が降ってくる。それを見上げると、彼はため息をついた。
「もう・・・あれから一年か・・・」
今、彼が居るのはとある病院の前。そこには、一年前、森の中で発見された美坂香里が入院している。彼女は、血まみれで倒れていた相沢祐一の前に座り込み、なにやらぶつぶつと呟いていたらしい。精神に重大なショックを受けた、それで彼女はおかしくなってしまった、そう医者が言っていたらしい。
「・・・相沢・・・お前、何人連れて行ったんだよ・・・せめて美坂ぐらい返せよな・・・」
彼、北川潤は誰とも無しにそう呟くと、この一年間欠かさず続けている香里のお見舞いを今日もするべく、病院の中に入っていった。
彼女が居る病室は3階の奥。階段を上っていくと・・・何かの臭いが彼の鼻をついた。
「・・・・?」
急ぎ足になって階段を上りきると、そこは凄惨な状況となっていた。廊下中に飛び散っている赤い血・・・倒れている看護婦や医者、他の入院患者・・・倒れている人の中に、彼は香里の両親の姿を見つけていた。
「・・・・な、何だ・・・?」
足ががくがく震える。それでも、彼は・・・相知る少女の姿を求めて歩き出した。
「ここには・・・・気の狂った殺人狂でもいたのかよ・・・?」
自分を必死に奮い立たせるべく軽口をたたく。
「あら・・・北川君・・・?」
廊下の角から、香里が姿を見せた。
「美坂・・!大丈夫だったのか。良かった。で、一体何が・・?」
北川はようやく安心してようにちょっとだけ笑みを浮かべたがすぐに引き締め、そう聞いた。
「何がって・・・何?」
香里は・・・どこか夢を見るような瞳で彼を見ている。
「とにかく、どこか別の場所に行こう。警察にも言わないといけないし・・・」
そう言って香里に背を向け、歩き出す北川。
「ねぇ・・・北川君・・・」
香里は夢見るようなうっとりとしている瞳のまま、彼の後に続くように歩き出す。するとそれまで見えなかった彼女に服のあちこちに、べっとりと血が・・・そして、彼女の手にはまだ血をぽたぽたと滴らせている果物ナイフが握られている。
「一緒に・・・・みんなの所に行きましょう・・・みんな、待っているわ・・・」
にっこりと・・・香里が微笑んだ・・・。

The end・・・?

後書き

思いつくままに書いてみたら長くなってしまった・・・(苦笑)
読んだ後気分がいたたまれなくなったり暗くなったりひどくなったりしてくれれば成功です(爆)
かおりん「ひどい話ね・・・」
それに一体誰が主人公だ、これ?前半部は祐一、後半は香里?
かおりん「ややこしい事するから」
とにかく書きたかった部分は二つ、名雪が祐一を刺すところと最後の部分。
万感の思いを込めて、刺しちゃいました。
かおりん「容赦ないわね・・・ところで・・・どうしてああいう終わり方なの?」
(ひたすら無視して)ところで今回の話はほとんどオリジナルです。だから、舞のいない理由、あゆの存在などボクの全くのオリジナルです。真琴はほぼ原作どおりシナリオから消えてもらいましたが栞は保ちませんでした(爆)だってあんな期限を切られる病気であれだけ動き回ってたらそりゃ病状も悪化するだろうに。
そうすると基本はやはり名雪シナリオか?
ううん、どうなんだろうか?
かおりん「ど・お・し・て・あ・あ・い・う・お・わ・り・か・た・な・の・か・し・ら?」
すっげぇ怖いです、かおりん様(涙)
えと、B級ホラーってハッピーなようでハッピーでない終わり方よくするでしょ?最後に倒した、と思ってた相手が復活するような気配を見せるとか。それに近いものを・・・。
かおりん「それでもって私なの?」
サイコパスって何か格好いいじゃないですか・・・。
何か続きそうな感じだな、これ。
かおりん「サイコな殺人鬼、香里と彼女を追う警官・・・誰?」
この場を切り抜けた北川君。
かおりん「やらさてたまるもんですかぁっ!!」
・・・・作者、逃亡します!!
かおりん「逃がすかぁっ!!!」



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