気がつけばもう三月も半ばを過ぎている。
別に忘れていたわけではない・・・と言って信じてくれるのかどうか自信はないが・・・。
とにかく・・・またバイトでも始めよう。
・・・などと思っていたら偶然手に入った商店街の福引き券で特等を当ててしまった。
何と「温泉旅行家族様ご招待」というベタなものであったが。
・・・・家族・・・・。
ちょうどいいかもしれない。
これを秋子さんとあゆと真琴と名雪へのお返しとして・・・他の連中にはまた考えればいいだろう。
少なくてもこれでお返しをするべき人間がかなり減った。
これなら俺に送られてくる決して余り多くない親からの仕送りでも何とかなるだろう。
しかし・・・その考えが甘かったことを俺はすぐに知ることになる・・・。


温泉へゆこう♪
第一話「それはこうして始まった」


「ゆーいちとでーと♪ゆーいちとでーと♪」
二階のとある部屋からそんな怪しい歌が聞こえてくる。
その部屋の前を通りかかった月宮あゆはとりあえず何も聞かなかったことにしようとげんなりした顔をして階段へと歩いていく。
と、ちょうどドアの前を通り過ぎたとき、がちゃりと言う音がしてドアが開かれた。
「ゆーいちとでー・・・」
「・・・」
あゆとドアの向こう側から顔を出した水瀬名雪の視線が一瞬交錯する。
気まずい沈黙が二人の間に流れていく。
あゆがだらだらと冷や汗をかき、名雪の目がだんだんと細められていく。
別に眠たくなってきているわけではない。
「あゆちゃん・・・」
冷たい視線と声。
「あ・・・ボクは何も聞いてないよっ。名雪さんが何か怪しい歌を歌っていたなんてボクは知らないからっ!!」
それでは聞いていたと自ら白状しているようなものである。
すかさず名雪はあゆの腕を掴むと部屋の中に連れ込んだ。
「うぐぅ・・・ボクは何も聞いていないよおっ!」
「あゆちゃ〜ん・・・ゆっくりとお話ししましょうねぇ〜」
名雪の声はどこか嬉しそうだった。
「うぐぅ〜〜〜〜」
あゆの悲鳴だけが廊下に響く。
その様子を・・・あゆと同じくこの家の居候・沢渡真琴が恐ろしげに見つめていた。
「・・・名雪ってば祐一のことになると性格変わるから・・・」
そう言って真琴はまたリビングの方へと戻っていった。
下手に二階に行って巻き込まれるのがイヤのようだ。
触らぬ神に祟り無し・・・真琴がここしばらくで身をもって覚えた言葉である。
その頃、我らが主人公である相沢祐一はと言うと・・・お風呂に浸かって平穏を満喫していたのであった。

お風呂から出た祐一が頭をタオルでふきながらリビングに入ってくると、何故かブルーな表情のあゆがソファに座って虚ろな目でテレビを見ていた。
「次、あゆが入るのか?」
そう声を掛けるとあゆはびくっと肩を震わせて祐一を振り返った。
そして、泣きそうな顔になると祐一に飛びつこうとして・・・ぴしっと硬直した。
「何だ、もう出ちゃったんだ、祐一」
後ろから名雪の声がしたので振り返る祐一。
名雪はタオルと着替えのパジャマを手にしていた。おそらくこれからお風呂に入るつもりだったのだろう。
「今出たところだけど?」
「折角一緒に入ろうって思ったのに」
そう言って名雪が頬を赤くする。
「ば、馬鹿・・・何いってんだよ・・・秋子さんだっているんだぞ」
祐一も真っ赤になって、更に慌てた様子でそう言う。
「でもでも・・最近祐一ってばすっかりご無沙汰だし・・・」
そう言って名雪は祐一の胸に人差し指を突きつけてくるくると回す。祐一とは視線を合わさず、少し俯き加減で赤く頬を染めている。
「あ、あのなぁ・・・秋子さんがいるし真琴とかあゆもいるんだからそうそう・・・」
何故か弁解するように言う祐一。
「でもでもぉ・・・」
「わかったよ・・今度何とかするから・・・」
「今度っていつぅ?」
「う〜ん・・・そうだなぁ・・・」
すっかり二人だけの世界を構築しているその横で硬直していたあゆはその場から逃げ出すように二階へと早足で去っていっていた。
ちなみにこのいちゃいちゃ劇はそれから約三十分は続いていたそうな。

水瀬家に済む住人がようやく全員お風呂に入り終えたのは夜の十時過ぎのことであった。
この家でこの時間まで起きているのはこの家の家主、秋子さんの他、祐一、真琴ぐらいなものである。
名雪は勿論お風呂から上がってすぐに寝付いてしまったようだし、あゆはあゆでまだまだ子供な精神構造なのかこれもまた早くに寝てしまう癖がついていた。
「秋子さん、話があるんですけど?」
「名雪との間に子供でも出来たんですか?」
思わずテーブルに頭をぶつける祐一。
秋子さんはいつもの笑みを浮かべている。
「冗談ですよ」
「悪い冗談言わないでください!」
実は心当たり有りまくりの祐一である。
一瞬、もしかして・・・という予感がしなかったわけではないのだ。
それにしても笑顔でそう言う冗談を言う秋子さん・・・強者である。
果たして何処まで知っているのか・・・何となく怖くなってしまう祐一であった。
「ところで、お話があるんじゃなかったんですか?」
椅子に座りながら秋子さんがいう。
「ああ、そうでした。今日商店街でこういうものを当てたんですが」
そう言って祐一は持っていた商店街の福引きの特等とかかれた封筒をテーブルの上に置いた。
「あら?」
秋子さんが封筒に手を伸ばす。
「祐一さんだったんですか、特等を当てたのは」
「何かこれで運を使い切ったような気もしますが」
そう言って苦笑する祐一。
秋子さんは封筒の中身を見ると笑顔のまま祐一の顔を見た。
「えっと、家族って言うことなんで、名雪とか真琴とかあゆとかと一緒に行ってきてください。俺、留守番していますから」
そう言って祐一も笑みを浮かべる。
「これがホワイトデーの代わりって事でお願いします」
「・・・家族全員いいんですよね?」
「そうみたいですね。たまにはゆっくりと羽を伸ばしてきてください。秋子さんはただでさえ、頑張っているんですから」
「ありがとうございます、祐一さん。では確かにホワイトデーのお礼としていただきますね」
秋子さんはそう言うと招待券を封筒の中に戻した。
それから祐一を見てにこっと微笑む。
「それでは改めて、祐一さん。温泉旅行の招待券があるんですが一緒にどうですか?」
「へ?」
思わずまぬけな返事をしてしまう祐一。
「・・・祐一さん、私はあなたも家族の一員だと思っています。ですから、一緒しないのは・・・」
「でも、それはあくまでホワイトデーの・・・」
「祐一さん」
秋子さんは変わらない口調と笑みを浮かべて祐一を見ている。
ただ・・・何か周りの空気が一変したような、そんな気もしたが。
祐一を呼んだ声もどことなく・・・。
「是非、ご一緒させていただきます」
この空気に祐一は勝てなかった。
恐るべき、秋子さんマジック。
「そろそろ卒業で時間あきますから。あ、場所とか日にちはお任せします。それじゃ、俺ももう寝ますんで・・・」
そう言って祐一は大急ぎでリビングを出ていく。
これ以上この場にいては何かとてもまずいような気がしたからだ。
案の定・・・秋子さんはテーブルの下に隠していた瓶をテーブルの乗せて、ため息をついていた。
「折角の新作ジャム・・・試して欲しかったのに」
その瓶の中に入っているジャム・・・その色はやはりオレンジ色だった・・・。


次に行きますね


後書き
作者D「えっと・・一応ホワイトデーのネタですが」
かおりん「(無言で張り倒す)」
作者D「ぐはっ・・・・何をするんですか、かおりん様!?」
かおりん「このSSがアップされたのは何月?」
作者D「今現在5月ですね(マジ話)」
かおりん「ホワイトデーと一般的に呼ばれているのは何月何日?」
作者D「私の記憶が正しければ・・・3月14日ですか?」
かおりん「今まで何をしていたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
作者D「はうううううっ!!色々ネタ探ししていたんだよぉっ!!!そう言うことにしておいてくれようっ!!!」
かおりん「泣いても済むかぁぁぁぁっ!!!」
作者D「・・・・とりあえず五話くらいで終わる予定」
かおりん「あっさりと開き直ったわね・・・本当にそれで終わるのかしら?」
作者D「そんなに引き延ばすだけのネタもないので。おちだけはもう決まっているから大丈夫d(^_^)」
かおりん「何故サムズアップ・・・・」

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