ずっと君のこと見てたのに……
ずっと君が帰ってくるのを待っていたのに……
もう届かないんだね……
君はもうあの人のものなんだね……
悔しくないって言ったら嘘になる……
どうして自分があの場所にいられないのか……
そう思うと涙がこぼれそうになる……
あの人は素敵な人だから……
そんな事は分かり切っている……
でも……それでも……
それでも……
好きだとは言えない
病室の窓から見える空は今日も快晴。
ベッドの上に寝転がりながらじっと空を見上げている。
今はまだそうすることしか出来ない。
この身体はまだ完全じゃないから。
大変なリハビリの続く毎日。
起きあがることぐらいは出来るけど、まだ歩けるほどじゃない。
何時もお見舞いに来てくれる、それこそ毎日のようにお見舞いに来てくれるあの人は優しい声で
「あまり無理しちゃダメよ。ゆっくりじっくり行きましょう」
そう言ってくれるけど。
一日も早くこの病室から出たい。
あの町に帰りたい。
帰って商店街を歩き回りたい。
できれば彼と一緒に……。
でもそれは叶わない願い。
彼には自分とは別の大切な人がいる。
知りたくなかった。
本音を言えば知りたくなかったし、考えたくもなかった。
でも……知ってしまった。
いつものようにリハビリを終えた後、この病室に戻る途中。
彼が、あの人と仲良さそうに歩いている姿を。
偶然見てしまった。
今までもあの二人は仲が良さそうだった。
でも、あの雰囲気は違う。
今までの二人は仲のいい友達とか幼馴染みと言った雰囲気だったのに。
あの時の二人は。
恋人同士だと言う雰囲気を。
彼が少し照れたように顔を背けて。
彼女が照れたように俯き加減で。
握り合っている手。
それが二人の関係を示している。
二人がそう言う関係になったんだと証明している。
だって彼は……。
照れ屋な彼が女の子の手を握ることなんてあり得ないから。
どっちが告白したんだろう？
おそらく彼じゃない。
彼女の方だ。
彼女もずっと彼のことが好きだったから。
傷つけられても彼のことをずっと待ち続けていたから。
だから確信出来た。
そして彼も彼女の告白を受け入れた。
そこに彼の罪悪感が何処まであったのかは解らない。
でも彼は彼女を選んだのだ。
あの人は素敵な人だって事は良く解っている。
自分にはない魅力を持っている人だし、憧れてさえいる。
そんなあの人と彼が。
もう自分に入り込む余地はない。
それをあの握り合った手が示している。
病室の窓から見える空は何処までも青く澄み切っている。
まばらに浮かぶ雲は白く、その数は少ない。
だけど、ベッドの上に横になっている自分の心は。
空の青さに反比例するかのようにどんよりと曇っている。
好きなのに。
もう手が届かない。
好きなのに。
この思いは叶わない。
好きなのに。
ずっと好きだったのに。
彼はもうあの人のもの。
不意に視界が歪む。
堪えてきた、ずっと堪えてきた涙が。
自分の意志とは裏腹に。
勝手に流れ出す。
悔しいよぉ……どうして……どうして……
もっと出会うのが早ければ？
もっと彼と話せていたら？
もっと一緒にいることが出来ていれば？
あの人のいる場所に自分が居たかも知れないのに。
あの人じゃなく自分が彼の隣に居れたかも知れないのに。
あの人じゃなく自分が恋人になれたかも知れないのに。
でもそれは。
もう決して叶わない願い。
望んではならない願い。
あの人にも、彼にも幸せになって欲しいから。
だから、言わない。
もう二度と口に出さない。
この思いは心の奥にしまっておく。
誰にも、決して開かれないほどの奧に。
でも今は。
今だけは。
堪えきれない涙。
どうか、この思いを押し流して。
胸の奥に、心の奥底に。
二度と浮き上がらないように。
心に願いをかける。
この思いが甦らないように。
彼の幸せを願って。
だから。
もう二度と。
好きだとは言えない。
後書き
鬱な気分の時は鬱なＳＳを書くに限ります。
こう言う気分の時には僅か１時間ほどで作品が一つ出来上がってしまうと言う謎のＳＳ書きＤＯ−ＤＯですが。
さて、これは一体誰のＳＳなんでしょうか？
まぁ……所々それっぽい描写があったりするのであの彼女なんでしょうが。
キャラ的には彼女っぽくない。
と言うかその辺は意図してやっているんですが。
一人称で話を書いているのに彼女の「一人称」が出てこなかったり、極力台詞を廃した作り。
ある種実験作の意味合いも強いです。
ああ、こう言うのが本来ＳＳと呼べるものなのではないかと思う今日この頃。
ここ最近長いものしか書いてないから反動が今襲っているに違いない。
おそらく次回も短めのＳＳじゃないかと思うＤＯ−ＤＯでした。
2004/04/25
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