遂に来た。
遂にその日が来たのだ。
目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚ました俺は窓を開け、空がこの上もなく晴天であることを確認すると思わず大きな声で笑ってしまった。
「はっはっは!! 天は我に味方せり!!」
朝陽を浴びながら俺は宣言する。
「今日という今日こそ美坂のハートをがっちりキャッチだ!!」
「やかましいわっ!!」
いきなり俺の部屋のドアが開き、顔を見せたお袋が手に持っていた枕を俺の後頭部めがけて思い切り投げつけてきた。
勿論ドアに背を向けていた俺にその飛んでくる枕をかわせるはずもなく、俺は後頭部に枕の強烈な一撃を受けてその場に昏倒してしまったのだった。
彼氏の思惑彼女の事情(中編)
「ぬおおおおっ!!」
駅前へと続く道を俺は全力で疾走していた。
お袋による枕の一撃を受けて気を失った俺が次に目を覚ました時、時計の針はもう9時半を過ぎていた。
慌てて身だしなみを整え、家を飛び出した時点でもう9時45分を過ぎていた。
俺の家から駅まで普通に歩いて20分程。
勿論歩いていたら間に合わないので走る事にしたのだが、あまり必死に走って駅に着いた時無様な姿を見せるわけには行かない。
そう思ってのんびり走っていたのだが、途中の信号で足を止めた時に時計を見て俺は驚いた。
何時の間にやら9時53分。
ここから駅までだいたい10分程。
間に合わないじゃないか!
と言うことで整えた髪やら服やらが乱れようと何しようと構わず、俺はそこから全力で走り出したのだ。
何となくだが、10時に間に合わないと容赦無くおいていかれそうな気がする……。
あ、でもあの水瀬がいるんだから大丈夫かも。
でも遅れないようにしないと……。
全力疾走したおかげで駅前にはなんとか9時59分に辿り着いた。
「ハァハァハァ……間に合ったか……」
荒い息をしながら俺は周囲を見回した。
見慣れた連中の姿を探す為だが……駅前と言っても結構広い。
もっと具体的な場所を決めておけばよかった。
「あら、北川君じゃない?」
不意に後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはいつもより少しおしゃれをした美坂が立っている。
「どうしたの? 誰かと待ち合わせ?」
美坂がそう尋ねてくるが、俺は普段見る事のない美坂の私服姿に思わず見とれていて答えるどころじゃなかった。
学校も休みだし、今日は少し化粧もしているようで美坂の美貌がより際だっていて、もう俺なんかにはもったいない程だ。
まさに美の女神の生まれ変わりと言っても差し支えないだろう、俺にとっては。
「……北川君?」
美坂に呼びかけられて、俺は我に返った。
呼びかけてきた美坂は何となく不審そうな顔をして俺を見ている。
「よ、よぅ、美坂じゃないか。奇遇だな、こんなところで会うなんて」
俺がそう言ってシュタッと片手をあげて挨拶する。
何処から見ても爽やかそうに、そして偶然を装って。
「……なんで棒読みなのよ?」
訝しげに目を細めて美坂がそう言ったので、俺は笑って誤魔化そうとした。
「あはは〜」
「キャラが違うだろ、それ」
また後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「相沢君、5分の遅刻じゃない?」
美坂がそう言ったので俺は自分の腕時計に目を落とした。
確かに時計の針は午前10時5分を刺している。
「生憎だがちゃんと10時には来ていたよ。お前らを探していたんだ」
俺が振り返ると、そこには少しムッとしたような顔をしている相沢の姿。
一緒に来ているはずの水瀬とかの姿が見えないところを見ると何処か別の場所にいるのだろうか。
「本当に? また名雪が寝坊したんじゃないの?」
笑みを浮かべて美坂がそう言うと、相沢がふっと口元を歪めて笑う。
「残念だが違うな。名雪は今日は早起きして俺の分の弁当まで作ってくれていたからな」
「あら珍しい、名雪が早起きするなんて。どんな魔法使ったの?」
「……それは聞くな」
何故かそこで相沢は顔を背けた。
どうやら本当に聞いて貰いたくないらしい。
全身でそう物語っている。
「とりあえず行かないのか?」
俺がそう言うと、相沢が顔を上げ、ぽんと手を叩いた。
「そうだった。忘れていたよ」
そう言って歩き出す相沢。
俺と美坂は並んでその後をついていく。
「あら? 北川君もなの?」
一緒に歩いている俺を見て美坂がそう言う。
「ああ、どうしても参加させてくれって頼まれたんで仕方無しにな」
振り返りもせずに言う相沢。
おのれ、何故本当の事をそうもあっさりと言うか。
もう少し誤魔化しようもあると思うぞ、俺は。
「またまた。本当は男手が欲しかったら誘ってあげたんじゃないの?」
美坂が笑みを浮かべてそう言った。
正直言ってこれには俺も驚いた。
まさか、美坂がそう思ってくれるとは。
「事実だよ。だいたい、俺が北川を誘う理由がないだろ」
「あら? 男一人で寂しかったとか」
「は?」
相沢が振り返った。
そこで奴は美坂が浮かべている笑みに気付き、ようやく自分がからかわれていた事を知ったようだ。
ムッとした表情を浮かべて顔を背け、足早に歩き出す。
「ゆ〜いち〜!おそ〜〜いっ!!」
向こうの方から元気のいい声が聞こえてくる。
見ると、そこには栗色の長い髪の左右をリボンでとめている少女が俺たちに向かって大きく手を振っている。
あれは確か……水瀬の家に居候トリオの一人、沢渡真琴ちゃんだったはず。
いつ見ても元気一杯という感じなのだが、実は結構人見知りをしたりする。
俺が相沢の所に遊びに行った時、顔をちらりと見ただけで自分の部屋に閉じこもってしまったぐらいだ。
今日はそう言う事がないといいのだが。
「香里〜、お早うだよ〜」
何時もと同じくのんびりとした口調の水瀬が美坂に挨拶をしている。
その水瀬の姿を見て、俺は思わず言葉を無くした。
普段は美坂と同じく化粧っけのない水瀬が、うっすらと化粧をしていて、更に服装も動きやすそうな、でもかなり可愛いワンピース。
何て言うか、物凄く気合い入ってないか、水瀬?
「北川君もお早う〜」
「あ、ああ、お早う……」
なんとかそう挨拶を返すだけで必死だ、俺。
ふと気がつくと、背中に物凄い殺気を感じる。
振り返るまでもなく、これは相沢のものだと言う事が俺にはわかった。
そ、そう言えば確かこいつに3つ程条件つけられていたっけ……確か条件その3に当てはまるのか、この状況は?
「香里さん、北川さん、お早う」
「あら、あゆちゃん、お早う」
「やぁ、月宮さん」
この場にいたもう一人、月宮あゆちゃんが挨拶してきたので俺は出来る限り爽やかに返事して見せた。
一応同じ歳のはずなんだがなぁ……どう見てもあゆちゃんは年下のように見えてしまうのは何故だろう?
「お早う御座います、先輩方」
あゆちゃんの隣に立っていた女の子がいきなりそう言って頭を下げたので、俺は思わず驚いてしまっていた。
「天野さんも来てたのね、やっぱり」
「真琴に誘われまして……あの、栞さんは一緒じゃなかったんですか? 来るって言っていたんですが……」
親しげに話している二人。
どうやら美坂はこの事知り合いのようだ。
「栞? ああ、そう言えばまだ見てないわね」
「栞も来るのか?」
美坂とあの子の話に割り込んできたのは相沢だった。
少し驚いたような顔をしている。
「絶対に行くって言っていたわよ。かなり気合い入っていたから充分気をつけてね、相沢君」
美坂が相沢に向かってそう言ったので、相沢は思いきり頭を抱えてため息をついていた。
「ゆ〜いち〜、早く行こうよ〜」
向こうから真琴ちゃんの声が聞こえてきた。
「ああ、わかったよ」
相沢が振り返ってそう言い、苦笑を浮かべた。
「本気で今日は疲れそうだ」
そう呟くと、歩き出す。
全く何を言うか。
これだけ女の子を侍らせておいて、贅沢な奴め。
俺はやや憤慨しながら先を歩く美坂達について駅の中へと入っていった。
「ついた〜〜〜〜っ!!」
「遊園地〜〜〜〜〜っ!!」
似たようなベクトルで嬉しさを表しているのは真琴ちゃんとあゆちゃんだ。
電車の中でもそうだったのだが、この二人、実にこの遊園地に来るのを楽しみにしていたらしく、着く前から大はしゃぎなのである。
相沢が言っていた「この二人はまだまだ子供だ」との意見がなんか理解出来るような気がする……。
「取り合えず入場券買ってくるからここで待ってろ」
相沢がそう言って歩き出す。
「いってらっしゃ〜いっ」
そう言って手を振っているのは水瀬だ。
ついでに俺も手を振ってやろう。
「パパ〜、いってらっしゃ〜い」
おまけにそう言ってやる。
すると、相沢は物凄いスピードで振り返り、俺の側まで駆け寄ってきた。
俺の着ているシャツの胸ぐらを掴むと、物凄い顔ですごむ相沢。
「お前は何をしているんだよ、お前は!!」
「見送り♪」
「……北川、お前の分の入場券は絶対に買ってこないからな」
「元々買う気なんか無いくせに」
「後、誰がパパだ、誰が」
「いやぁ、お前と水瀬の間にあの二人挟んだら丁度親子みたいだなぁと……」
「北川君……無事に帰りたかったらそれ以上言わない方がいいぞ」
相沢はそう言って俺のシャツから手を離した。
う〜ん、掴まれていたところがしっかり皺になってしまっているではないか。
全く酷い事をする奴だ。
「北川さん……誰が子供だって……?」
いきなり後ろから怖い声がした。
ゆっくりと振り返ると、あゆちゃんが怖い顔をして俺を睨み付けている。
「あ、いや、そのね……」
しどろもどろになる俺。
「確かに名雪さんよりも子供っぽいし、香里さんとは比べようもなく子供っぽいけど……」
あ、なんかやばい雰囲気。
「ボクだってあの二人と同い年なんだよっ!!」
そう言ってあゆちゃんが泣き出す。
ああ、やっちまった……。
「ああ、ご免! 俺が悪かったよ!!」
慌ててそう言うけど、とにかく手遅れだ。
うう、周りの視線が痛い。
水瀬や美坂の視線だけでなく、真琴ちゃんや天野さん(電車の中で名前教えて貰った)の視線まで激しく痛い。
更に他の、全く見知らぬ人からの視線も思い切り突き刺さってくる。
なんか俺まで泣きたくなってきた……。
とにかく、その後、あゆちゃんをなだめるのに俺は1時間くらい費やすことになったのだった。
園内に入ると、まずエントランスがあり、大きな案内板が立っていた。
こうやって見てみるとなかなか広い遊園地だ。
一日中遊んでいられるかも知れない。
「じゃ、後は任せたぞ」
不意に相沢の声が耳元に聞こえてきた。
はっと気がついた時にはもう相沢と水瀬の姿が消えている。
一体何時の間に……きっとあの二人、かなり念入りに打ち合わせていたのだろう。
美坂もいつの間にかいなくなった水瀬に驚きを隠せないでいるようだ。
「ねーねー、真琴ちゃん、まずこれはどう?」
「ダメダメ、やっぱりこれよ!」
二人はまだ相沢と水瀬が居なくなった事に気付いていないようだ。
無邪気に何に乗るかを相談している二人を見ながら、俺は美坂と顔を見合わせ、ため息をついた。
「まさか本当にやるとは思ってなかったわ」
「相沢の奴は本当にやる気だったみたいだがな」
「北川君、知ってたの?」
「相沢本人の口から聞いた」
「……相沢君め……覚えておきなさいよ……」
美坂が怒りを押し殺したように呟く。
はっきり言って美坂を怒らせるとマジで怖い。
相沢もそれは充分知っていると思ったのに……そこまで水瀬とのデートが大事か?
……大事なんだろうなぁ、きっと。
俺はもう一回ため息をついた。
「さて、それでは行きましょう」
天野さんがそう言って歩き出した。
どうやら始めに何に乗るかようやく合意に達したらしいあゆちゃんと真琴ちゃんがどんどん先を行っている。
天野さんがわざわざ俺たちに声をかけてくれなければ気がつかないではぐれてしまった可能性が高い。
「さ、行きましょうか」
美坂がそう言って天野さんを追うように歩き出した。
慌てて俺も美坂の後を追って歩き出した。
始めにやってきたのはこの遊園地で一番でかいジェットコースターだった。
その大きさを見て、思わず俺も引いてしまう。
「やっぱり始めは絶叫系よね〜」
そう言って一人頷いている真琴ちゃん。
美坂を見ていると流石に顔が引きつっているし、天野さんも青ざめた顔をしていた。
あゆちゃんに至っては泣きそうな顔をしている。
嬉しそうにしているのは真琴ちゃん一人だけだ。
「さぁ、行くわよ!!」
そう言うと、一人堂々と乗り込み口へと歩いていく。
「……行かないといけないんでしょうか?」
不安げな顔をして天野さんが俺たちを見る。
「……行ってあげるべきね、多分」
自信無さそうに美坂が言う。
「よ、よし! 俺は行くぞ!!」
少しでも美坂にいいところを見せるべく、俺は真琴ちゃんを追うように乗り込み口へと歩いていく。
まぁ、足がガタガタ震えているのはこの際見逃して貰おう。
「仕方ないわね。私達も行きましょう」
「うぐぅ、本当に?」
「大丈夫よ、ジェットコースターぐらい……」
残る3人が俺の後に続いて入ってくる。
ジェットコースターのは既に真琴ちゃんが乗り込んでおり、俺たちの来るのを今や遅しと待っていた。
「おそ〜〜〜いっ!!」
俺たちを見つけた真琴ちゃんがそう言う。
取り合えず真琴ちゃんの横にはあゆちゃんが、その後ろには美坂と天野さん、俺は更にその後ろに座る事になった。
……美坂の隣がよかったんだが、まぁ、仕方ないだろう。
ジェットコースターが動き出す。
始めはゆっくりと、そして一気に速く。
「わぁぁぁぁぁっ!!」
「うぐぅぅぅぅぅっ!!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
「………っ!!」
前から聞こえてくる4つの声。
楽しんでいるのは真琴ちゃんだけだろう。
かく言う俺も顔が引きつりまくっている。
まさかここまで凄いとは思っても見なかった。
美坂の隣でなくてよかった……隣だったらこの情けない顔を見られて好感度大幅ダウンだろうし。
などと言う事を考えていると、突然の急カーブ。
「ぬおおおおっ!!」
遠心力に身体が引っ張られる。
ジェットコースターがようやく停止した時、俺は疲労困憊だった。
まだ始めの一個目だというのに何と言うハードな。
「北川〜、だらしないぞ〜」
真琴ちゃんがそんな俺を見て笑う。
何時の間にやら呼び捨てである。
「さぁっ! 次はあれねっ!!」
そう言って真琴ちゃんが指で指し示したのは……スリリングな事で有名(とパンフレットに書いてあった)な急流滑りであった。
「マジ?」
思わず顔が引きつる。
「さぁ、行くわよ〜♪」
嬉しそうにそう言ったのは真琴ちゃんだけで、俺や美坂、あゆちゃんに天野さんは思いきり顔を引きつらせていたのだった。
「ね〜ね〜、北川〜、お腹空いた〜」
「ボクもお腹空いたなぁ」
真琴ちゃんとあゆちゃんがそう言ったので俺は何気なく腕時計を見た。
時刻はそろそろ正午。
まぁ、確かにお昼ご飯時ではあるが。
「私もお腹がすいたわね」
美坂もそう言い、更に隣にいる天野さんも小さくではあったがこくりと頷いて同意を示していた。
「そうだなぁ、じゃ、お昼にするか」
俺がそう言うと、真琴ちゃんもあゆちゃんも大きく、嬉しそうに頷いた。
「美坂、お昼どうするんだ?」
「軽くファーストフードとかですまそうと思っていたんだけど?」
「天野さんは?」
「私は……軽くすまそうと……」
「真琴、肉まんがいい!」
「ボク、たい焼きっ!!」
天野さんに被せるかのように真琴ちゃんとあゆちゃんが元気よくそう言う。
誰も弁当を持ってきていないのか……そう言えば相沢が、水瀬が弁当を作ってきているとか言っていたのに……真琴ちゃんやあゆちゃんの分はないのか?
「名雪がお弁当?」
「知らないよね、真琴ちゃん?」
その事を話してみると二人からはそう言う返答があった。
どうやら水瀬は相沢と自分の二人っきりというのを最初っから想定していたらしい。
だからこの二人の分のお弁当を作ってこなかったんだろう。
と言うか、最初っから全部俺たちに押しつけるつもりで。
「ねぇ、あゆちゃん、真琴ちゃん、お昼になったらどうするか聞いてないの? ほら、相沢君達と合流するとか」
美坂がそう尋ねるが二人は揃って首を左右に振った。
まぁ、間違っても二人っきりで過ごしたい相沢と水瀬がそんな事を言う事はないだろう。
「真琴、お昼ご飯代とか……持ってないわよね」
天野さんが真琴ちゃんにそう問いかけ、途中でやめた。
そう言えば、あの二人の分の電車の切符とかも全部相沢が出していたっけなぁ。
と言うことはこの二人(真琴ちゃんとあゆちゃんだな)はお金を持ってないと言う事で……二人分のお昼代は誰が出すんだ?
「それは勿論……」
「ここはやっぱり……」
美坂と天野さんが俺を見る。
う……やっぱりそうなるのか?
「ありがとうございましたぁ〜」
爽やかすぎる程爽やかな声が今は恨めしく思えてしまう俺。
何が悲しくて5人分も払っているんだろう……。
「北川〜、早く早く〜」
真琴ちゃんがそう言って手を振っている。
俺は泣きたくなるのを必死に堪えながら4人の待っているテーブルに向かった。
ここは遊園地内にある、とある某有名ファーストフード店。
何故か俺は美坂、天野さん、あゆちゃん、真琴ちゃんの分まで払わされていた。
「まさか私達に払えとか言わないわよね、北川君?」
そう美坂に笑顔で言われたので一瞬にして頷いてしまった自分が恨めしい。
「ねーねー、肉まんなかったの〜?」
真琴ちゃんがそう尋ねてくるが俺はそれどころじゃなかった。
今、美坂達が座っているのは丁度4人掛けのテーブル。
座っているのは美坂に天野さん、真琴ちゃんにあゆちゃんの丁度4人。
「なぁ、俺の座る場所は?」
恐る恐る美坂に聞いてみると、美坂はすぐ隣のテーブルを指さした。
誰もいない2人掛けのテーブル。
俺は泣きたい気持ちを必死に堪えながらテーブルにつき、買ってきたハンバーガーにかじりついた。
「ねーねー、肉まん〜」
真琴ちゃんが何か言っているが俺の耳には届かない。
「真琴、あまり我が侭言わないの」
「あう〜、でもでも〜」
「うぐぅ……たい焼き……」
「あゆさん……」
俺の横のテーブルでは女の子4人がにぎやかに(?)会話を続けている中、俺は一人、涙の味がしないでもないハンバーガーを無心に食べているのであった。
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