前書き

 そう言えば突発的に何かを書きたくなると言うことはないですか?私にはあります。
かおりん「何を言い出すのかと思ったら・・・」
 もうじきクリスマスだなぁと思って・・・。と言うことで前から頼まれていたほのラブSSを書いてみようかと。
かおりん「一体誰に頼まれたのよ?」
それは秘密。
かおりん「いい度胸じゃない」
 ・・・・企業秘密です。
かおりん「じゃ、いつものように・・・」
 ではさらばっ!!(逃亡)


「たまにはこんな夜も〜クリスマスVer.〜」


 この街に帰ってきてから一年が経とうとしている。またこの街が雪に覆われる季節になり、彼、相沢祐一もすっかりこの雪に覆われた街の様子にも慣れてしまっていた。
「しっかし寒いのには全く慣れない・・・」
 そう呟いて雪のちらつく空を見上げる。
「お〜い、相沢、行くぞ〜」
 クラスメイトの北川潤が立ち止まっている祐一を見て声をかけてきた。これから二人して商店街にあるケーキ屋でバイトすることになっているのだ。北川はともかく祐一にはバイトしなければならない切実な理由があった。
 この十二月から一月二月にかけていろいろなイベントが満載なのである。従姉妹で、恋人である水瀬名雪の誕生日に始まり、クリスマス、正月に続き、月宮あゆ、沢渡真琴、川澄舞、美坂栞と連続で誕生日を迎える知り合いが多いのだ。
「全く何でこんな事しなくちゃいけないんだか・・・お袋ももう少し気を利かせて今月くらい多めに仕送りして送れてもいいと思うけどな」
 商店街に続く道を寒さに肩をすくめ歩きながらそう呟く祐一。
「何いってんだよ。今日びの高校生ならバイトの一つでもやっておくもんだぜ」
 そう言って祐一の肩を叩く北川。彼はそれなりにバイト経験があるらしい。
「ところで・・俺達受験生だよな」
「あまり気にするな・・・もっとも俺は推薦でもう合格しているがな」
 祐一はニヤリと笑ってそう言った。
「ああ、そうだろうよ。俺はそんなお前の相談に乗ってやっている哀れな受験生だ」
 ちょっとすねたように北川が言う。確かに彼の言う通り、祐一の受験は既に終わっている。転校してきたときは余り良くなかった成績も三年になった頃からどんどん伸び始めいつの間にか学年でも五十番以内に入るほどになっていた。
「元々頭良かったんじゃないの?」
 同じクラスで学年一の才女、美坂香里がそう言って驚いていたこともあった。その時は軽く笑って誤魔化していた祐一だったが、実はそれ程であったらしい。
「大丈夫だって。それにお前にも交換条件出してあるだろうに」
 今度は祐一が言い返す。
「そうだった・・・忘れるなよ、相沢君」
 にっこり笑って北川は祐一の肩に手を置いた。そんな北川を見ながら祐一はややげんなりした顔で言い返した。
「忘れるかよ・・・」
(もっとも上手くいくかどうかは知らないがな)と心の中で付け加えるのを忘れない。ちなみに祐一がバイトを紹介してもらう代わりに出した条件とは香里との一日デートの約束を彼が取り持つことであった。
「やれやれ・・・」
 思わずため息をついてしまう祐一であった。

 バイトは順調に続いていた。
 店の奥にある厨房でそのケーキの飾り付けなどが彼らの主な仕事であり、滅多に店に出ることはなかったがこの日・・・十二月二十三日は違っていた。
「悪いけど今日と明日の二日間、店で販売して欲しいのよ」
 店長にいきなりそう言われて祐一と北川はまずとまどったが、結局従うしかなかった。
「折角イブデートを考えていたのにな」
 そうぼやく北川だったが、祐一はそこまでのお膳立てはしていない。
「香里にはそこまで言ってないが・・・?」
「デートの約束は取り付けてくれたんだろ?」
「そ、それはまぁ・・・なぁ・・・」
 祐一はこのことを香里に話したときのことを思い出して暗い顔になった。
「百花屋のフルーツパフェ一週間で手を打ってあげるわ」
 更に稼ぐ必要が出来てしまった。
 それに・・・今日は名雪の誕生日だった。本当なら一日側にいてやりたかったのだが流石にここで稼いでおかないと、この先マジでやばい。極貧に陥って秋子さんからお金を借りるという事態だけは避けたかった。
「そう言えば今日、水瀬さんの誕生日だったんじゃなかったか?」
「・・・・・・そうだ」
 イヤなこと思い出させやがって・・・と言う顔を隠さず、祐一は答える。
「良く出てこられたな」
 感心したかのように北川が言う。
「名雪は朝が弱いからな。今日は起こさずに出てきたんだ」
 もっともそう言うことをしたせいで帰るのがとっても怖いのだが。流石に今回はいちごサンデーだけで許して貰えるか自信がなかった。
「後が怖そうだな、それって」
「わかっているから黙っててくれ」
 泣きそうな気分で祐一は言うと、店頭に出ていった。すぐ後に北川が続く。
「さぁて、お仕事お仕事。今日と明日は忙しいわよ〜♪」
 やたらと張り切っている店長の声が今はかなり忌々しく祐一の耳に届いていた。

 お昼も過ぎ、そろそろ夕方にさしかかる頃、祐一はかなりげっそりした顔をして店頭に立っていた。その理由は今の彼の格好にある。
「どうしてこういう事になるかなぁ・・・」
 思わず空を見上げて呟いてしまう。
「イヤ、お前はまだましだ」
 すぐ側にいる茶色のもこもこしたものがそう言って祐一の肩に手を置く。
「出来ればこの姿は知り合いに見せたくないな・・・」
 そう言ってお互いに頷きあう祐一と北川。ちなみにこの二人、今は店長に頼まれてサンタクロースとトナカイの着ぐるみを着させられているのだった。そして、店の外に立ち、ケーキを販売中という誠に十二月の街角らしい風景を演じているのだ。どっちがどの格好をするかもめたのだが結局はじゃんけんで勝った祐一がサンタ、負けた北川がトナカイをすると言うことになったのだ。
「あー、サンタさんですねー」
「・・・トナカイさんもいる」
 いきなりどこかで聞いたことのある声が響いてきた。しかもしっかりこっちに向かって。
「ぐあ・・・」
 祐一はその二人が誰であるかを確認すると逃げ出したくなった。思わず店の中に戻ろうとするのを北川ががしっと肩をつかんで引き留める。
「逃げるな、相沢」
「北川、俺は今日ほどお前が友達である事を後悔することはきっとないぞ」
「それは光栄だ、相沢。さぁ、あきらめろ」
 北川は今さっきこっちを指差して声を上げた二人を知っている。それでなくても去年まで同じ学校に通っていた先輩であり、また二人とも結構な美人であり、更には結構有名人なのだった。北川でなくても知っている人は多かった。
「あー、祐一さんじゃないですかー」
「お、おう、祐一さんだぞ」
 かなり引きつった表情で祐一は声をかけてきた女性に答える。
「・・・トナカイさん」
 一緒にいたもう一人の女性が北川を指差して言う。その表情は何となく嬉しそうにも見えなくもない。
「・・・相沢」
「舞のことは気にするな。いつものことだ」
 何かうっとりとした目で見つめられ、困ったように北川が祐一を振り返るが祐一は取り合わない。
「何やっているんですかー?」
「見ての通り・・・」
「サンタさんのマネ?」
 女性が笑顔のままそう言ったので祐一はガクッと肩を落とした。
「佐祐理さん・・・」
「あははー、冗談ですよー。バイト、大変そうですねー」
 佐祐理、と呼ばれた女性は笑顔のままそう言って隣にいる女性の腕をとった。
「ほら、舞。祐一さんだよ」
「祐一・・・サンタさん?」
 舞、と呼ばれた女性がややきょとんとした顔で祐一を見ていたがやがてぽんと手を叩いて、
「トナカイさんの方がいい」
「ぐあ・・・」
 流石にこの一言はショックだった。祐一はそれを隠すためにか、苦笑を浮かべて北川を見た。
「良かったな、北川。お前の方がいいそうだ」
「どう見ても俺じゃなくてこのトナカイの方を気に入っているような気がするぞ」
 それはそうかも知れない。
「ところで、ケーキ、売っているんですか?」
「まぁ・・・見ての通りだけど」
「じゃあ・・・一つ買っていきますね」
 その一言を聞いた瞬間、祐一と北川の顔に満面の笑みが広がった。
「「ありがとうございましたっ!!」」
 思わず二人の声が重なる。


「そう言えば明日クリスマスイブですね〜。祐一さんは何かご予定は?」
 お金を払いながら佐祐理が祐一に聞くと、
「明日もバイト・・・貧乏暇無し、だよ」
 またも苦笑を浮かべて言う。
「バイトが終わってからでよければ一緒に・・・」
「ああ・・・嬉しいけど別の用事があるんだ。ご免、佐祐理さん、舞」
 佐祐理の隣にいた舞も残念そうな顔をしていたので流石に祐一は少し悪いことをしたような気になってきた。
「それなら仕方ないですね・・・舞、残念だけど仕方ないよ」
「この埋め合わせはちゃんとするよ。佐祐理さん、舞、本当にご免な」
「・・・だったら許す」
 両手を合わせて祐一がそう言ったので舞はまだ不服そうだったが頷いた。
 そこにケーキの入った箱を持った北川が出てくる。
「はい、ありがとうございました。落とさないよう気をつけて下さいね」
 そう言う北川の姿を見た舞の顔にまた喜色が甦った。どうやらこのトナカイの着ぐるみがかなり気に入ったらしい。その一方で北川もデレデレしていた。
 その様子を見ながら笑顔でケーキの入った箱を受け取る佐祐理に、少々憮然とした顔の祐一。
「現金な奴だな」
「舞は動物が好きなだけですよ〜。それじゃ、バイト、頑張ってくださいね〜」
 佐祐理はそう言うとまだ未練たっぷりっぽい舞を連れて商店街の奥に消えていった。
「・・・まぁ、今のが舞と佐祐理さんで良かった。これを・・・」
「誰に見られたら具合が悪いのかしら?」
 すぐ後ろから聞いたことのある声。
 その声に、二人は一瞬にして凍り付いた。ギギギと言う音を立てながら二人が振り返ると、そこにはクラスメイトとその妹が立っている。
「よ、よぉ、香里じゃないか・・・栞も一緒とは珍しいな」
 祐一はそう言うと引きつりながらも笑顔を浮かべた。
「み、美坂・・・」
 北川も何故か凍り付いている。
「北川君、随分今の人がお気に入りのようね?」
 美坂香里はそう言ってにっこりと笑った。ただし、こめかみがひくひくと引きつっているが。
「い、イヤ、今のはだな・・・」
「今度のデートのことだけど・・・無かったことにしてもらうわ」
「そ、そんなぁ〜」
 必死で弁解しようとした北川を一蹴して香里は祐一をじっと睨みつけた。
「相沢君・・・」
「はいっ!?何でしょうか?」
「名雪から電話があったわよ・・・」
 この一言でどうして香里の機嫌が悪いか祐一は瞬時に理解した。
「う・・・」
「まぁ・・・あの子のことだから怒っていたわけじゃなかったけどね。ちゃんと」
「わかっている。バイトが終わったらちゃんと謝るよ」
 あきれたように言う香里に祐一はそう言うと、先ほどからケーキの箱をじっと見ている香里の妹、栞に気がついた。
「どうした、栞?」
「あ、祐一さん、お久しぶりです」
 祐一に声をかけられるときちんとお辞儀する栞。その手にはコンビニの袋が握られており、その中身は・・・。
「またアイスか?よくもこの寒い中・・・」
「そんな事言う人、嫌いです」
 そう言って栞は微笑んだ。
「私一人で全部食べる訳じゃないですよ。お姉ちゃんも一緒に食べてくれますから」
「ちょ、栞!」
 慌てたような香里。そんな香里の姿を見るのは珍しいので祐一は黙ってその様子を見ていた。
「実はお姉ちゃんも結構アイス好きなんですよ」
「そうは見えないけどな・・・」
 そう言って祐一はちょっとすねたようにそっぽを向いている香里を見て、ニヤリと笑った。
「ついでにケーキもどうだ、栞?」
 ワザと矛先を妹に向ける。
「あ、いいですね。甘いものならいくらでも食べれますから。辛いものは全然ですけど」
 笑顔のまま栞が言う。去年の今頃はとてもそれどころじゃなかったのだが、今ではすっかり回復してそのことが信じられないほどである。
「相変わらずだな、栞は」
 祐一も笑顔で答える。
「で、どうだ?一つくらい買っていかないか?」
「そうですね・・」
 空いている手の人差し指を唇に当て、ちょっと考え込む仕草をする栞。それからゆっくり視線を隣にいる姉に向けていく。つられて祐一の視線も香里に向けられていく。
 二人分の視線にさらされた香里はため息をつくと、上着のポケットから財布をとりだした。
「わかったわよ・・・相沢君、いくら?」
「へい、毎度ッ!!」
 どこか違うような気もしたがとりあえず祐一は威勢良く返事を返していた。

 実は多く売れば売るほどバイト代に色が付くことになっているのだった。と言うことで、直接言っても買ってくれそうにもない香里に対しては妹の栞を焚き付け、買わせるように仕向けたのである。香里が妹の栞には甘いことを知っているからこそ出来る芸当である。
「アイスと言いケーキと言い・・・お正月が過ぎたらダイエットしなきゃいけないわ」
 小さい声でそう呟きながら香里は栞と共に去っていった。
 残されたのは祐一と真っ白に燃え尽きたトナカイの気ぐるみを着た燃えかすのみである。
「イヤ、ここで燃え尽きてもらっては俺が困る」
 そう思って祐一が北川を見ると、その目は完全に死んでいた。どうやら先ほど香里に言われた「デートはやめね」の一言がよほどショックだったらしい。
「これじゃ戦力にはならないじゃないか」
 とりあえずこのまま人目にさらしておくのは何となく可哀想だったので今まで外していたトナカイの頭をかぶせて更に手にプラカードを持たせてそのまま立たせておくことにした。
「少なくてもこれなら役には立っている」
 一人納得して頷いていると、またも聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ〜、ケーキ、ケーキッ!!」
 そう言って駆け寄ってくる人影が一つ。その後ろからゆっくりともう一つの人影がついてくる。
「ねぇ、美汐。これで良いんじゃない?」
「そうですね・・・このサイズなら二人でも充分ですね」
 少し背の低い栗色の髪の少女がもう一人の少女にそう話しかけ、もう一人の少女も頷いている。
「あの、これひと・・・」
 そこまで言いかけて、少女の視線が目の前にいるサンタに釘付けとなった。しばらく無言でじっとサンタを見ていたがやがて、小さく頷くと、
「相沢さん・・・お元気そうで何よりです」
「天野こそ相変わらずおばさんくさくて何よりだ」
「久しぶりに会ったというのにそれですか」
 ため息をもらしながら天野美汐は言う。その顔には少々落胆の色が見えた。
「物腰が上品だ、と言った方がよかったか?」
「どちらかと言えば」
「そうか、今度からはそう言うことにしよう」
 サンタと会話している美汐をその横にいる少女・・・沢渡真琴・・・が不思議そうに見ている。彼女はこのサンタが同じ水瀬家で居候している相沢祐一とは気がついていないようだ。
「あう〜」
 とりあえず話の輪の外にいることが不満らしく真琴が唸っているのを見て、祐一はふと何かを思いついた。
「ねぇねぇ、美汐、この人と知り合いなの?」
「真琴、この人は・・・」
 美汐が本当のことを言い出す前に祐一は今思いついたことを実行するべくさっと美汐と真琴の間に割って入った。
「やぁ、お嬢ちゃん。こんにちわ」
 わざとらしい作り声を出し、更にわざとらしい笑顔を見せる祐一。もっともその顔はサンタの髭がついているので彼とそうすぐにわかるものではないが。見る人が見れば・・・というか真琴以外彼を知っている人が見ればすぐに彼だとわかるだろうが。
「こ、こんにちわ」
 やたらと警戒しつつ真琴が答える。元々真琴は人見知りが激しい方だ。それは帰ってきてからの方がより顕著になっている。
「私のことを知っているかい?」
「え・・・と・・・」
 困ったように美汐の姿を探す真琴だが祐一はワザと美汐をその背に隠すように立っているので彼女の方からは美汐が見えないはずだった。
 その美汐と言えば、祐一がまた何かを企んでいることに気がついてはいたようだがあえて何も言わず、あきれ顔で様子をうかがっていた。
「私の名はサンタクロース!クリスマスイブの夜によい子にプレゼントを配る夢の配達人さ!」
 やたらとオーバーアクションでそう言う祐一。この格好をしていなければとてもできそうにない・・・イヤ、そうでもないかも知れないが。時々、思いも寄らない突拍子もないことをするのがこの相沢祐一という男なのだ。
「プレゼントって良い子にだけなの?」
 そう尋ねる真琴の目が爛々としてきていた。
「そうだよ、お嬢ちゃん。この一年間、良い子だった子にはこのおじさんが良いものをプレゼントしてあげるんだ。でも・・・」
「でも?」
「夜毎人にいたずらをするような悪い子にはプレゼントはあげない」
「あう〜」
 見る見るうちに悲しげになる真琴。今度は目がうるうるしてきていた。どうやら一応悪いこととは認識しているようだ。イヤ、もしかしたらプレゼントが貰えない、と言う方に悲しみがあるのかも知れないが。
「それに、悪い子には・・お仕置きじゃぁっ!!」
 祐一がそう言って両手を振り上げたとき、ようやく美汐が声をかけてきた。
「やりすぎですよ、相沢さん」
「そうか?」
 そう言って祐一は両手をおろした。そして顔につけている髭を取り去って真琴をみる。
「よう、真琴」
 まるで何事もなかったように話しかける祐一。
 真琴は自分をかばうように両手で顔をカバーしていたが、聞き慣れた声を聞くと恐る恐る手を離して、目の前にいる男を見た。
「・・・あ〜〜〜〜っ!!!!祐一ッ!!」
 思わず大きな声を上げてしまう真琴。
「ようやく気がついたのか?」
「よ、よ、よくも騙してくれたわねぇぇぇっっっ!!!!」
「はっはっは。あんなもので騙される方が悪い」
 腰に手を当て、胸を張り高らかに笑う祐一だが、その背中を美汐がつねったので高笑いをやめ、二人を見た。
「ところで今日はどうしたんだ、二人とも?」
「あ・・・今日うちの両親がそろって外出していますので真琴と二人でクリスマスパーティでもしようかと思いまして」
「天野・・・お前のところって共働きだったか?」
「いえ。今日はたまたまです」
「・・真琴、明日はいるんだろ?」
 これ以上聞いて模無駄っぽそうだったので話し相手を真琴に切り替える祐一。
「明日は名雪の誕生パーティとクリスマスパーティを一緒にやるって秋子さんが言ってたから」
 真琴がケーキの箱を見ながら答える。どうやらよほど気になるようだ。
「一個1000円だ。買うのか?」
「そうですね。この大きさなら真琴と二人でも食べきれるでしょうし」
 美汐がそう言ってカバンから財布をとりだした。
「ではお一つ頂きます」
「はいよ」
 とりあえずレジは店の中にしかないので祐一はまだ燃え尽きたままの北川をその場に残して店内に戻っていった。

「天野に迷惑かけるなよ〜」
 今日はお泊まりだという真琴にそう言って、祐一は二人を見送った。
「さて・・・」
 祐一はまだ燃え尽きている北川を見て、ため息をついた。
「これでバイト代が同じとは納得がいかないぞ」
「そうなんですか?」
「ええ・・・店長は中にいて出てこないから北川がこういう状態だとは知らないし」
「それは困ったことになりましたね」
「全くです・・・って、え?」
 祐一はそこでようやく振り返った。彼の後ろにはいつの間にか彼の居候先の家主・水瀬秋子がいつもと同じように微笑みを浮かべながら立っている。
「あ、秋子さん?」
「アルバイト、大変そうですね?」
「あはは・・・それ程でもないんですが」
 何故か祐一は冷や汗をかいていた。出来ればこの場を居候先の家の人間には見られたくはなかったのだ。その理由は勿論・・・
「名雪、寂しそうにしていましたよ」
「・・・・・・すいません。あの、明日はちゃんと・・・」
「いいんですよ、祐一さん。名雪に祐一さんを束縛する権利はないんですから」
「すいません」
 今度はちゃんと頭を下げる祐一。
「明日の夜はちゃんと居てくださいね」
「わかってます。名雪の誕生パーティにはちゃんと」
「それではお一つ頂きましょうか?」
「え?」
 思わず聞き返してしまう祐一。料理なら何でも自前でやってしまう秋子がどうしてこのような既製品のケーキを買おうというのか。
「あら・・・聞こえなかったのかしら?お一つ頂けますか?」
 相変わらず秋子は微笑みを浮かべたままである。祐一のとまどいなど全く気にしない風ににこにこしている。
「あ、ありがとうございます」
 未だにとまどったまま祐一がそう言った。
「でも、秋子さん。明日は・・・」
「これは祐一さんがバイトしていたところで買ってきたって言って名雪と一緒に家で食べますから」
 小声で秋子がそう言ったので祐一はようやく納得がいった。
「明日は明日って事ですか」
「そう言うことです。それじゃ、頑張ってくださいね」
 秋子がケーキの箱を持って去っていくのを祐一は見送り、もう一度北川を見た。まだ彼は真っ白に燃え尽きていた。
「役にたたねぇ・・・・」

 バイトが終わり、祐一が水瀬家に向かって歩き出したのはもうすっかり日も暮れてからであった。
「あ〜〜〜〜、すっかり遅くなっちまった」
 そう呟くと、空を見上げる。また雪の降り出しそうな、そんな厚い雲に覆われている空。これから帰る祐一の気持ちを代弁しているような、そんな暗い空である。
「・・・気が重い」
 果たして名雪が許してくれるのかどうか今度ばかりは余り自信がなかった。何しろ・・・今日が名雪の誕生日である。年に一回の誕生日に一緒にいてやれなかったというのがかなり祐一の気を重くさせていた。
 ぼちぼち歩いているといつの間にか駅前にまで出てきていた。いつか待ち合わせたベンチの前で立ち止まり、祐一はため息をついた。
「また・・・遅れたか?」
「随分と遅刻だよ、祐一」
 ベンチに座っている少女がそう言って祐一を見る。頬が赤くなっているのは寒いせいだろうか?
「約束はしてなかったと思うんだけどな」
 祐一はそう言うと少女の隣に腰を下ろした。
「それでも待たせたのは俺か」
「そうだよ。随分と待ったんだよ〜」
 ちょっと不服そうに少女が言う。
「俺は雪の降る中もっと待たされた記憶があるぞ」
「それはそれ、これはこれだよ〜」
「それじゃ、お詫びだ」
 祐一は今まで手に持っていた箱を少女の膝の上に置いた。
「ケーキならお母さんが買ってきたのを・・・」
「開けて見ろよ」
 少女に最後まで言わせずに祐一は言い、箱を見やった。同じように箱に目をやった少女は少し首を傾げたようだったが祐一の言葉に従うように箱のラッピングを外し始めた。中には少し、形のいびつないちごのケーキが入っている。
「これ・・・もしかして?」
「大変だったんだぞ。バイトが終わってから作り方を教えてもらって、俺一人で作ったんだから」
 少し照れたように顔を背けて祐一が言う。そして頬をぽりぽりと指でかいてみせる。
「少し変な形になったけど、これで勘弁してくれ」
「・・・ううん、充分だよ、祐一」
 少女はそう言うと笑みを浮かべた。彼にとっては天使にも勝る笑顔である。この笑顔のためなら何だって出来る。祐一はそう思ってさえいるのであった。
「あと・・・忘れていたわけじゃないぞ。どうしても空かなかったんだ、予定がな」
「わかっているよ。祐一のこと、信じているから」
 少女はそう言うと、ケーキを膝の上からどけてそっと祐一に寄り添った。
「それと・・・これを言っておかないといけないんだよな。・・・・・名雪、誕生日、おめでとう」
 祐一は顔を少女・・・名雪の方にちゃんと向けてそう言った。
「ありがとう・・・祐一。・・・好きだよっ!」
 名雪がそう言って祐一に飛びつき、自分を見ている祐一の唇に自分の唇を重ねた。
 そんな二人の上から静かに雪が降り始めていた。

HappyBirthday to NAYUKI and Merry X’mas!


後書き

おかしい・・・最後の方しかほのラブになってない。
かおりん「無理に全キャラ出す必要がなかったんじゃないの?」
祐一のバイト風景を出すのに何となく必要以上に気合いが入っていたような気がする。
かおりん「そう言えば一人出てきていないような・・・」
ん・・・?そんなことは・・・
あゆあゆ「うぐぅ・・・ボクが出てない」
かおりん「気のせいかしら?」
気のせいだろう。そういうことにしておくが良いだろう。
あゆあゆ「うぐぅ・・・無視しないで〜(涙)」
かおりん「あ〜あ、泣かせた」
何を言うかっ!私一人が悪いとでも言うのか、かおりん!?
かおりん「私が悪いとでも言うのかしら?」
・・・・え〜と、私が悪いんです、はい。ほれ、とりあえずたい焼きをやるから勘弁してくれ。
あゆあゆ「わ〜い、ありがとう!!」
現金な奴・・・。
かおりん「それにしてもまた今回も構成の甘さが随所に見られるわね」
その辺のところは修行中と言うことで勘弁してくれ。
かおりん「毎回言ってない?」
気のせいだと言ってくれ〜〜〜(涙)
あゆあゆ「はぐはぐ・・・泣いちゃった」
かおりん「何よ、その目はっ!?まるで私が泣かせたみたいじゃないの」
あゆあゆ「どこから見てもそうだと・・・ボ、ボク、何も見てないよ」
会話だけで進めると一体何がなんだかわからないな。一応説明するとかおりんがものすごい笑顔であゆあゆを睨みつけた、と。
あゆあゆ「あ、復活している」
かおりん「意外とタフじゃないの」
かおりん程ではないが。
かおりん「貴様ぁっ!!!!」
どかばきぐしゃ(SE)
ぐあああ・・・・・


KanonSSに戻るよ〜

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