<前書き?>
作者D「いや〜、春めいてきたようなそんな気がしないでもない今日この頃」
かおりん「(無言で殴り倒す)」
作者D「ぐおっ!?いきなり何するですか、かおりん様!!」
かおりん「今日は何月何日?」
作者D「・・・3月2日にもうなってしまいますね?」
かおりん「ちなみに昨日何の日だったか知ってる?」
作者D「・・・・・・!」
かおりん「思い出したようね?」
作者D「・・・では早速・・・(こそこそと逃げ出す準備)」
かおりん「(がしっと作者Dの肩を掴んで)何処へ行くのかしら?」
作者D「ああ、毎度のことながら物凄く怖い笑顔(涙)」
かおりん「それじゃはじめましょうか・・・」
作者D「あうう・・・」


「という事なんです」
物語は常に唐突に始まる。
そう、たとえばこういう風にいきなり「という事なんです」と後輩の少女に詰め寄られたりして。
「いや、そうそう無いってそう言うシチュエーションは」
そう言って苦笑いを浮かべたのはすぐ後ろの席にいる北川潤。ちなみに正面にはクラスメイトである美坂香里の妹である栞。隣の席では従姉妹の水瀬名雪が相変わらず気持ちよさそうにすーすー寝息を立てて居眠っている。
「で、どういうことなのか初めから筋道立てて話してくれると嬉しいぞ」
俺はそう言うと、何か力一杯拳を握りしめてこっちを見ている栞を見た。
「ですからかくかくしかじかなんです」
「いや、だから通じないし」
やや呆れたように俺は言った。
どうやら何かを頼みたいようなのだが、気が急いているのか、はっきりした事を言おうとしないので困る。
「だからお姉ちゃんの誕生日なんですよ、もうすぐ」
ああ、そう言う事か。
何か物凄く納得出来てしまった俺がその場にいた。


HAPPY MISSION
〜たとえばこんな誕生日〜


<香里サイド>
少し前からどうもおかしいのよねぇ〜。
名雪の態度が何となくよそよそしいし、栞も何か隠していそうだし、相沢君も何か変だし。あ、これは元々かしら?
あの北川君なんてあからさまにも程があるくらい、私を避けているようだし。その割にはちょくちょく申し訳なさそうな目で見てくるんだけど。
みんな気がつかないとでも思っているのかしら?
だとしたら随分とバカにされたものだけど。
今にしたってそう。
名雪は部活無いくせにさっさと帰っちゃうし、栞の様子を見に行けばもう帰ったって言うし、その割には相沢君が私を待っていてくれたりするし。
「随分と遅かったな、香里」
「あら?待っててなんて言った覚えはないわよ?」
そう言って私は自分の机の上に置いてあった鞄を手にする。あえて待っていてくれたらしい相沢君は放置する事にしておいて。
「おいおい、折角待っててやったのにそう言う言い方はないだろ」
ちょっと不機嫌そうに相沢君が言ったので私は彼の方を振り返った。
「あら?名雪をほっておいて私を待っててくれるなんて。相沢君、私に気があるの?」
わざと流し目で色っぽく彼の方を見てみると、彼は真っ赤になり、慌てたような顔をする。
「な、何をっ!!」
「ふふ、冗談よ。何本気にしているのよ」
少しバカにしたように相沢君に言うとまた彼はむっとしたような表情になった。
「香里、お前なぁっ!!」
相沢君が文句を言ってくるが私はそれを何処吹く風と受け流す。
「はいはい、それで、何で私を待っていてくれたのかしら?」
そう言うと、先までむっとしていた相沢君の表情が固まった。
どうやらこの辺りを私に突っ込まれるとまずいようね。それにしてもどうしてこうわかりやすいのかしら。
「い、いや、それはだな・・・」
「今度の期末の勉強なら名雪と協力すればいいじゃない。あの子、どうやってるのかは知らないけどノートだけはとってるみたいだし」
勿論彼が私を待っていた理由はこれじゃないでしょうね。相沢君、それなりにやるようだし。少なくても北川君よりは、だけど。
「い、いや、ここはやっぱり学年トップの香里に教えて貰った方が成績アップもするんじゃないかと思ってだな・・・」
何処か慌ててとってつけたような言い訳めいた理由を相沢君はやや安堵の表情を浮かべて語っているけど、私がそう言う風に誘導したんだから当たり前よね。
「名雪とか北川君を出し抜いて二人っきりで勉強?何か企んでいるんじゃないでしょうね?」
私はそう言うと、すっと相沢君の側に寄り、上目遣いで彼を見た。
また相沢君が真っ赤になる。意外と純情で可愛いかも。名雪のみならず栞もこういう相沢君だから好きになったのかもね。
まぁ、そんな事はともかく、こうやって追いつめていけばその内向こうからぼろを出すと思ったんだけど。
「ま、まさか!俺が香里に対して何を企むって言うんだよ!」
慌ててそう言う相沢君だけど、見事なまでに棒読みよ、その台詞。それじゃ何か企んでいますって言っているようなものよ。少しは演技の勉強をするべきね、私を騙そうと思うなら。
「はいはい。じゃ、そう言う事にしておいてあげるわ。それじゃとりあえず帰りましょ?」
私は相沢君から離れるとそう言い、今度こそ鞄を手に取った。そして先に教室を出ようとして、ふと思い直し相沢君の方を振り返る。何か考え事でもしているのか、彼は私が振り返った事に気付いていない。私はにやりと笑みを浮かべると、彼の左腕に自分の腕を絡ませた。
「さぁ、帰るわよ!相沢くんっ!!」
絡ませた腕を彼を引っ張りながら私は思い浮かべる限り最高の笑顔で彼を見上げてあげた。また彼が真っ赤になる。その表情を楽しげに見つめながら。私は彼を引っ張って教室から出ていった。

<祐一サイド>
何というか非常に困ってしまった事態に陥ったような気がしないでもなかったりする。
俺は何故か物凄く楽しそうにすぐ側を歩いている香里をちらりと見てそう思っていた。
何故すぐ側なのか。それは俺の左腕に香里の右腕が絡んでいるからだ。更にべったりと身体も寄せられている。
そう言う状態で歩いていると、だ。身体が揺れたりするわけで。でもって腕が時たま香里の身体に当たったりもするわけで。しかも丁度肘より上の上腕部が・・・その・・・香里の・・・なかなか大きい胸に当たったりもして・・・その柔らかさにぽ〜っとなってしまったりして・・・って、違うだろ!!
いや、確かに香里の・・・その・・・胸の感触はかなり気持ちいいし、この場面を北川とかが見たら泣きながら「俺と交代しろっ!!」とか言うのは目に見えているんだが。問題はそう言うことじゃない。問題なのは香里が俺にべったりとくっついていると言う事だ。
俺はこれから香里をしばらく引き付けておかなければならないと言う使命を持っている。確かにこういう状態ならそれは好都合なのだろうし、これはこれで役得なのかも知れないが。この場面を見た人は俺たちを何と思う?
「熱々カップル」と思うんじゃないか?
全く見知らぬ人がこれを見てそう思うのは別にいい(いや、本音を言えばそれも困るのだが)。もしもこれを知り合いにでも見られたりしたら、何となく破滅のような気がしてならないぞ。
俺のそう言う葛藤(?)も知らないで香里は物凄く楽しそうだ。・・・これってもしかして俺の事前々から好きだったとか?

『相沢君、実は私、ずっと前から、いえ、あなたが転校してきた時からあなたの事・・・』
『香里・・・そうだったのか!!今までお前の気持ちに気付いてやれなくて済まない!!』
『相沢くんっ!!』
『香里っ!!』

・・・まぁ、ありえないわな。
仮にこういう展開になったら物凄くおいしいような気もするが、後が怖い。名雪とか栞だけじゃなくて他にも・・・舞とか真琴とかあゆとか佐祐理さんとか天野とか・・・流石にこれは冗談だが。とりあえず始めの二人は本気で怖いからこの話は内緒にしておかないと。
しかし・・・一体何が嬉しいんだ、香里は?
「あら?私と一緒じゃいやなのかしら?」
不意に香里が俺の方を見てそう言った。
「い、いや、そう言う訳じゃないが・・・その・・・もう少し離れてくれないか?」
慌ててそう言う俺。
ここしばらくは思っている事が口に出ているという悪い癖が何とか出ないで済んでいるが顔にはしっかり出てしまっているようだ。
「どうして?」
香里はそう言って悪戯っぽく微笑むと更に身体をすり寄せてくる。そうなると。
自然と身体が密着するわけで。
密着するという事は。
その大きめの胸が更に押し当てられるという事で。
うおおおっ!!
何というか鼻血もののシチュエーションなのだが!!
しかも香里の奴、わざわざ上目遣いに俺を見やがって!!
わざとやってるんじゃないか、こいつ?
何かだんだんそう言う気がしてきた・・・。
「・・・香里、俺たちって特にそう言う関係でもなかったと思うんだが・・・」
俺がそう言うと香里は急に悲しそうな顔をして俺を見る。しかもご丁寧に目にはうっすらと涙まで浮かべて。
「・・・相沢君・・・いいえ、祐一君・・・あなたってそんな酷い事言う人だったの!?」
涙ながらに訴えてくる香里。
・・・何処まで本気なんだ、こいつは?
俺は警戒心ばりばりの視線を香里に送るが香里は全く気にする素振りすら見せない。
そこで俺はふとイヤな予感を覚えた。
俺たちは学校を出てずっと歩いてきている。しかも香里が俺を引っ張るようにして。俺は香里の胸とかに気をとられていてあまり周りの様子を気にしてなかった。何か今は周囲から物凄い視線を感じるような・・・。もしかして、ここって・・・。
ゆっくりと香里から目を離し、周囲を見る。
そこにはいつの間にやら人だかりが出来、俺たちを囲んでいる。その人だかりから注がれる物凄く冷たい視線。それが俺に集中しているようだ。人だかりの主たるものは買い物帰りであろう主婦の皆様か?何か口々に言われているような気がする・・・。
「酷いわっ!!今まで私の気持ちをもてあそんでいたのねっ!!」
何というタイミングの良さだ。
香里はまるで俺が周囲の状況を確認し終えるのを待っていたかのようにそう言うと、俺の腕から自分の腕を放した。そしてその場に泣き崩れる。
おおっ!?これはもしかして俺が物凄い悪人で香里はその被害者って言う感じですか?
シチュエーション的には悪い男が可愛い純情そうな女の子が自分の事を好きになったのを良い事に散々嬲り尽くしてそれでいらなくなったので捨てようとかしているっぽい?
・・・これって物凄く社会的にやばいのでは?と言うか社会的に抹殺されるのでは?
「ま、まて!!香里!!お前、俺は、そうじゃなくって、その」
とにかくその場の状況を打破したいのだが混乱してしまって何を言えばいいのかわからない。というか俺が何をした!?この現状は俺が招いた事なのか!?
「ねー、奥さん見ました?酷い男もいるもんですわね〜」
「ホントホント、若いくせにああ言う男って最低ですわね〜」
「あの子も可哀想に・・・」
ああ、周りの主婦の皆様が何か既に俺を悪人に仕立て上げておられるような気が。つーか、その中に秋子さんでもいようもんなら俺は水瀬家には帰れなくなるぞ。
「・・・・祐一さんってそんな極悪人だったんですね」
いたーーーーーーーっ!!!!!
俺の居候先、水瀬家の家長。名雪のお母さんで俺の伯母さん、今一番頭が上がらない人がここにいらっしゃいましたかっ!!
・・・・はっはっは・・・もう帰れないな、俺。この寒空に一人寂しく野外で野宿して凍死ですか?何という理不尽な運命・・・。一体俺が何をした?
何か泣きそうな気分で俺は空を見上げる。
周囲の聞こえるようなひそひそ話も耳に入ってこない。ああ、もう好きにしてくれ。
俺が真っ白に燃え尽きていると、不意に香里が立ち上がり、さっと周囲に一礼して見せた。
「はい、いかがでしたか?華音学園演劇部の路上パフォーマンス、性悪男と騙された女。これにて閉幕で御座います」
俺は何がなんだかわからずにただ呆然としているだけだった。周囲も始めは俺と同じようだったが、すぐに香里の言うところの路上パフォーマンスだと思ったのか拍手し始める。
「凄いわ、あれだけの芝居をよどみなくこなすなんて」
「もう、おばさん本当かと思ったじゃないの!」
「でもあなた、もう少し演技の勉強するべきだと思うわよ」
周囲の主婦の皆様がそう言って三々五々散っていく。
俺はまだ呆然としているだけで、香里は満足げな笑みを浮かべて俺のすぐ隣に立っていた。
「・・・祐一さん。私は祐一さんを信じていましたよ」
最後まで残っていた秋子さんが笑顔でそう言って俺の肩にぽんと手を乗せる。
絶対に嘘だ。
秋子さん、あなた、初め信じていたでしょう、香里の言った事。あの一言にはそれがありありと感じられましたよ。
そう思ったが口には出さない。
出すと何となく新作ジャムの実験台にされそうな気がしたからだ。
「でも香里ちゃんも祐一さんもいつから演劇部に入ったんです?」
「ついこの間です。よろしければまたやりますので見に来てくださいね」
香里が笑顔でそう言うが、俺は演劇部になど入った記憶は微塵もないんだが。
笑顔の秋子さんが去っていった後、俺は香里の方を見た。勿論、顔には青筋の一本や二本や三本は入っている。つまりは怒っているってこと。
「どういうつもりだよ!!いきなりあんなことして!!俺は真剣社会的に抹殺されるのかと思ったぞ!!」
「だからフォローしてあげたじゃない。あれならみんな演技だと思ってくれるわよ」
「そう言う問題じゃないだろうにっ!!どうしてああ言うマネをする必要があったのかってことをだなっ!!」
激昂する俺の口にそっと人差し指をあて、香里はにっこりと微笑む。
「まぁまぁ、話ならちゃんと聞いてあげるからそう怒らないの。そうね、あそこなんてどう?」
そう言って香里が指さした先にあったのは何時も名雪に連れられていく百花屋という店だった。

<香里サイド>
さっきからずっと相沢君は憮然とした表情のまま。
不機嫌そうな顔をして、いえ、どっちかと言うと怒っていますよって言うのを精一杯アピールしているのかな?
ちょっとやりすぎたかな?
少なくてもしばらくは商店街の有名人でしょうし。それにああ言うおばさん達のうわさ話ってあっと言う間に広がるから。下手をすれば明日にはもうこの街で知らない人はいないっていうくらい有名人になれるわね。
「あーあー、そりゃどうも」
相沢君がやっぱり憮然としたままそう言った。
あら、今の口に出ていたのかしら?これって相沢君がよくやる癖なのに。
「で、何で俺がああ言う目に遭わなければならないのか具体的に説明してくれればありがたいと俺は思ったぞ」
腕を組み、やっぱり憮然とした顔で私を見てそう言う相沢君。
本人は怒っているんでしょうけど、女顔の所為かあまり迫力無いのよね。これだったら不機嫌の極みに達して無言でこっちを睨み付けてくる名雪の方がまだ怖いかも。
「俺は理由が聞きたいんだ」
「私に何か隠し事しているでしょ?」
再び相沢君が口を開くタイミングに合わせて私がそう言った。
一瞬ぽかんとした顔になる相沢君。
何を私が言ったのかわからなかったみたいね。
「何を隠しているのかな、相沢君は。それも栞や名雪、北川君も一緒に?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて私が尋ねると、明らかにやばいという表情をする相沢君。ホント、嘘のつけない人よね、彼って。
「な、な、な、何を、お、お、お、お、俺たちが、か、か、か、隠しているっていうんだよ」
そこまでどもっておいて何を言うんだか。
まだ私にばれてないとでも思っているわけ?
本当にそう思っているのなら、ちょっと思い知らせてあげるべきかしら。
「あのね、相沢君。あなたにしろ、名雪にしろ、栞にしろ、北川君に至っては露骨なほど何か隠していますって態度がありありとわかるのよ」
そう言って私はため息をつく。
「あれでばれてないなんて思うなんて、私もバカにされたものだわ」
「いや、特にバカにしていたわけではないんだが・・で、それと俺がああ言う目にあった事とどう関係があるんだ?」
ハァァッと私はまたため息をつく。
「相沢君、あなたが何か隠しているようだったから探ってみたのよ。まぁ、あんな大事になるとは私も思わなかったけど。それと、お仕置きかな?」
「お仕置きね・・・隠し事をしていた事に対するって訳か」
ようやく相沢君が納得したように頷いた。
「随分と酷いお仕置きだったな。これで当分の間商店街に来れなくなったぞ」
そう言って苦笑する相沢君。
ザマァ見なさい。
「・・・さて、もうそろそろ良いかな?」
ふと相沢君が店内にある時計を見てそう言った。
普段から腕時計を持たない相沢君だから時間を確認するにはそうするしかない。私や名雪が何度か腕時計を持てと言っているのだが、それでも一向に持とうという気を見せないのだ。
「何度も言うけどね、腕時計くらい持ちなさいよ」
「まぁまぁ、それはともかく。とりあえず時間が来たから行くぞ」
どうせ聞かないだろうとは思っていたけど、やっぱり聞かない相沢君。自分の言いたいことを言うとさっと立ち上がる。
「ちょっと、もう少し待ってよ」
私がそう言って立ち上がった相沢君を見上げた。
何しろ私の前にはさっき来たばかりのフルーツパフェが私に食べられるのを待っているんですからね。

<祐一サイド>
はぁぁ・・・と大きくため息をつく。
また香里は俺の左腕に自分の腕を絡めて側にぴったりと寄り添っている。
一体どういうつもりなんだか。
とりあえず百花屋で香里が嬉しそうに食べていたフルーツパフェは何故か俺が払う羽目になった。
何か散々な目に遭っているような気がするぞ。
商店街には当分行けないだろうし、きっと明日には噂の人物になっているんだろうし、香里には何か無理矢理驕らされるし。
ああ、何か悲惨かも。
「大丈夫大丈夫。その代わりと言っちゃ何だけどこの私がこうして恋人気分を味あわせてあげているでしょ?」
「あんまり嬉しくないような気がするのは何故だろうな・・・」
げっそりとした気分で俺が呟く。
「ホント、何ででしょうね」
香里は何故かにこにこと上機嫌だ。
全く・・・これはこの計画を思いついた栞に後で何か驕らせないと割に合わないな。まぁ、栞の事だからどーせバニラアイスぐらいしかでてきそうにないが。
そう言う事を考えているうちにどうやら香里の家に前にまでやって来たようだ。香里が俺の腕に絡めていた自分の腕を放す。
「ふふっ、今日はどうもありがと、相沢君」
そう言って滅多に人に見せないような笑顔を浮かべる香里。
思わずドキッとなる俺。
「何か相沢君と一緒にいると何も隠さないでいいって言うか普段の優等生しなくて良いわ」
「どういう意味だよ、それ?」
香里の言葉に苦笑を浮かべる俺。
意外と信用されている、とでも思うべきなのか。
「言葉通りよ。それじゃ送ってくれてありがとう。名雪によろしくね」
「あ、いや、待ってくれ」
家の中に入っていこうとする香里を俺は呼び止めた。
「何?」
そう言って振り返る香里。
俺はにやりと笑うと香里を押しのけてドアノブに手をかけ、ドアを開いた。
「ちょ、ちょっと!相沢君!!」
驚きの声を上げる香里を尻目に俺はどんどん美坂家の中へと入っていく。リビングの前まで来ると、そこで立ち止まり、追いついてきた香里を振り返る。
「ちょっと!どういうつもり? 人の家に勝手に入ってきて!!」
流石にむっとしているようだ。
「まぁまぁ、そう言うなよ」
俺はそう言ってドアを開け、香里に中に入るよう促した。
「何だって言うのよ・・・」
ぶつぶつ言いながら香里が中に入ると。
パンパンパ〜〜〜ン。
一斉に鳴らされるクラッカーの音。
香里は呆然として、目を丸くしてその場に立ちつくしていた。
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!!」
「香里、お誕生日おめでとう、だよ!」
「美坂、誕生日、おめでとう!!」
栞、名雪、北川の3人が一斉にそう言う。
「え・・・何、これ?」
香里が俺の方を振り返る。
きょとんとした表情のまま。
「だから誕生日だろ、今日。お前の」
俺がそう言うと香里が驚いたような顔をした。
そうだ。
栞が「お姉ちゃんの誕生日、思い切り驚かせてあげたいから手伝って下さい」と言ってきたのが数日前。まぁ、俺たちが何か隠していると言う事は香里本人にはバレバレだったらしいが、まさかこういう趣向だったとは思いも寄らなかっただろう。
俺が香里を引き付けている間に先に帰った栞、名雪、北川が部屋の飾り付けなどをする。まぁ、今日に限って香里が進路とかの事で呼び出されていたから俺としては時間が稼げてよかったのだが。それに商店街での一件もあるし、充分すぎるほど時間を稼げていたはずだ。それはこの部屋の飾り付けの様子からしてよく解る。
「お姉ちゃんを驚かせようと思って名雪さんや祐一さんに手伝って貰ったんです」
「香里、驚いたでしょ?」
「美坂〜、すまん!お前に隠し事なんかしたくなかったんだが・・・・」
3人が口々に言っているのを呆然と聞いている香里。
「あ、あの・・・」
香里がおずおずと口を開いた。
俺を含めた4人が何を言うのか期待の眼差しで香里を見る。
「みんなの気持ちは物凄く嬉しいんだけど・・・」
・・・何だ、何か物凄くイヤな予感がしてきたぞ、俺は。
「私の誕生日・・・一昨日だったんだけど・・・・」
ぴしっ!!
一瞬にして凍り付く俺たち。
栞がカレンダーを振り返る。
今日は3月3日、いわゆる桃の節句だ。ひな祭りとも言う。その日に誕生日がかぶっているとは香里っぽくなくて面白いと思ったのだが。
「・・・お姉ちゃん、3日じゃなかった?」
栞がそう言うと、香里は心底呆れたような顔をして
「栞、お姉ちゃんの誕生日は3月1日。あなたと一ヶ月違いなだけ。忘れたの?」
そう言ってため息をつく。
「あ、あれ〜? おかしいな〜?」
明らかに狼狽したような表情の栞。
名雪も北川も笑顔が完全に凍りついて、その状態から動けなくなってしまっている。
そんな俺たちを見て、香里は仕方ないわねって言うような顔をした。
「まぁ、折角こうして準備してくれたんだから始めましょうか?」
そう言うと香里はテーブルの方に歩いていく。
「お祝い、してくれるんでしょ、みんなで?」
そう言って振り返り、笑みを見せる。
それに満面の笑顔で頷き返す栞。
「よぉし!そうと決まったら!!」
急に張り切りだす北川。
「やれやれ・・・」
俺はそんな北川を見て苦笑を浮かべる。
相変わらず露骨な奴だ。
そう思っていると、不意に俺の手を名雪が掴んできた。
「祐一、行くよ」
名雪が笑顔でそう言ったので俺も頷き返す。
「そうだな」
俺と名雪もテーブルの方に向かって歩き出した。
「それじゃ改めて。2日違いだけど、お姉ちゃん、お誕生日、おめでとう!」
栞のその声を合図に、香里の誕生日(と言っても2日遅れだが)を祝うパーティが開幕した。

終わり

戻りますね


<後書き?>
何か久し振りにかおりんSS書いたような気がする。
しかも誕生日ネタ。
細々と書きためていたものではなく、突発的に出来上がった謎の作品。
どの辺が謎かというと時間軸。
栞がいるにもかかわらず3月の時点でまだ学校がある。
普通3年ならもう卒業しているはずの時期だ(よく考えてみれば他の学年でも期末終わって授業なんかもう無かったような気が)。
何処でどう間違えたのか、途中祐一苛めに物凄く走ってしまった。
でも書いている本人的には物凄く楽しかったり。
結構この中のかおりん、意識して可愛くしてみたつもりだけどどうだったんだろう?
普段のかおりんっぽさを残しつつ、そうじゃないかおりんも。
まぁ、とりあえずお誕生日シリーズはまだ続く。
次こそあゆ&真琴お誕生日SSをあげなければ。












































おまけ

「はあああああ・・・」
盛大なため息が漏れる。
「どうしたの、香里?」
前の席に座っている名雪が振り返って尋ねてくるけど、私は何も答えなかった。
ため息の理由を説明する気になれなかったし、この子、意外と嫉妬深いのよね、最近知った事だけど。
私のため息の理由、それは。
つい先日商店街でやったあのバカなお芝居の事。
あの時は相沢君を凹ませてやろうと思ってやったんだけど、よくよく考えてみれば一緒にいた私もあれじゃ有名になってしまうわけで。
おかげで商店街じゃちょっとした有名人よ、私と相沢君は。
行けば「次の路上パフォーマンスは何時やるの?」とか聞かれるし。
相沢君とはコンビに思われたのかそれとも恋人とでも思われたのか一緒にいないと「相方はどうしたの?」とか言われるし。
なんてバカな事してしまったんだろう、私。
「そう言えば香里、こんな話知ってる?」
私の気を紛らわせようと言うのか名雪が話題を変えてきた。
「ちょっと前の話だけどね、商店街で面白いパフォーマンスやった人がいるんだって」
ひくっ!
思わずこめかみが引きつる。
ま、まさかとは思うけど・・・でもあの場には秋子さんもいたし・・・。
「それもね、うちの学校の生徒だって。でもおかしいよね、うちの演劇部って今は活動していないはずなのに」
あ、あはは・・・あはははは・・・。
私はもう虚ろに笑うことしかできなかった。
そうよ。
名雪、貴女の言う通りよ。
確かにうちの演劇部は今現在部員数不足で活動停止中よ。
演劇部部員の私が言うんだから間違いないわ。
「か、香里?ど、どうしたの?」
いきなり笑い出した私を見て名雪が心配そうな声を上げるけど。
「はは・・ははは・・・」
私は力無く虚ろに笑い続けるだけだった・・・。

今度こそ終わり

戻りなさい

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