前書き
作者D「何とか頑張ってみる為に始めます」
かおりん「何を?」
作者D「誕生日に間に合うようにSSを書く事」
かおりん「・・・・・・多分無理ね」
作者D「ンなことはやってみないとわからない。とりあえず全力を尽くす」
かおりん「まぁ・・・死なない程度に頑張りなさい」
作者D「・・・かおりん様が応援してくれた・・・この世の終わりは近いかも」
かおりん「・・・やっぱり殴っておくわ」(どげしっ)
作者D「ふおっ!!・・・・口は災いの元とはよく言ったものだ・・・ガクッ」


そう、去年は準備する時間がなかったのがいけなかったんだよな。
思い出したのが12月入ってからだし。
しかし、今年は違う!
きっちり予定を立ててバイトもしたし、ちゃんと23日は予定を開けておいた(24日はどうせ家でみんな集まってパーティだろうし)し、プレゼントもちゃんと買ってある。
後は・・・そう、タイミングだな。
どういうタイミングで渡せばあいつが一番喜ぶか。
これを渡した時のあいつの顔を想像すると今からすっごい楽しみだ。
・・・しかし・・・マジでバイトはつらかった。
だいたい周りにプレゼントをあげなきゃいけない女の子が多いから・・・いや、それはそれで嬉しいんだけど、この時期ははっきり言って(そう言えばもう一つだけやな時期があるな)大変なんだぞ?
羨ましいとかたまに言われるけど、こっちの身にもなって見ろよ。
常日頃から買って驕って付き合っての連発・・・懐がどれだけ苦しいか。
え・・・?俺がただ単にお人好しなだけ?
ああ、そりゃ否定出来ないような気がする。
確かにな、お人好しかも知れないが・・・まぁ、あの連中には色々とあるからな。
え?本命は誰かって?
そんな事聞くなよ、知ってるくせに。
本命でもない奴にこんなもの買う程俺は金持ちじゃないって。
・・・まぁ、そうかも知れないが・・・俺としてはこの辺で一度ちゃんとだな・・・。
あ、悪い、バイトの時間だ。
何?買ったんだからもうやめたんじゃないのかって?
いや、それがさ、ちょっとした事を考えていてな、それに協力してやるからその代わりにって・・・。
酷いもんだよな、こっちの弱みにつけ込んで。
結局22日までバイトさせられる事になったんだよ。
おかげで料理の腕は人並みになったけどな。コーヒーいれさせたらきっとお前よりも上手いんじゃないか?
・・・いや、本職に勝とうとは思ってないよ。
そう言う意味じゃなくてな・・・ッと、こんな場合じゃなかった。
じゃ、ここの支払い、任せたぜ!!

(某年12月18日 某大学内喫茶店にて相沢祐一と記録者の会話より)


らぶらぶはっぴねすDays
HAPPY!HAPPY!!
〜彼女の気持ちと彼氏の思惑〜編


<D−Day−1 19:42PM>
水瀬家のリビングには食後を過ごす為にみんないる事が多い。
要は「家族の団らん」というものだろう。
すっかりそれになじんで早2年。次の正月が開ければ3年目突入だ。
ソファに座ってぼうっとテレビを見ながら祐一はそんな事を考えていた。
はっきり言って疲れている。
今日も朝早くからバイトで一日中立っていた身分としてはさっさと寝てしまいたい、というのは正直な気持ちだったがそう言うわけにもいかないのだ。
だいたい今こうしているのは同じ家に住む従姉妹であり、幼なじみであり、同じ大学の同級生であり、そして恋人でもある名雪を待っての事だ。
今彼女はお風呂に入っている。
まさか一緒に入るわけには行かないので(でも実は誘われていたりする。断るのに必死だったのだが)こうしてリビングで待っているのだった。
「ふわぁぁ・・・」
つい出てしまう欠伸。
ここ数日の忙しさは彼の身体から体力をかなり奪っていた。バイトもさることながら大学の友人達との付き合い(いわゆる忘年会とか諸々)、家に帰れば帰ったで同じ居候の身分の(でも最近誰もそんな事は思わないが)沢渡真琴と月宮あゆの二人の勉強を見てやっていたり。
この二人の勉強に関しては名雪もたまに見てやっているようなのだが、彼女の場合、何というかある種容赦がない。まぁ、二人の姉貴分として頑張っていると考えればそう思えない事もないが、どうも・・・実体は違うような気がする。しかし、名雪には未だ克服出来ていない悪い癖(?)があった。
あの、祐一と名雪の心が本当の意味で結ばれた雪の日からしばらく・・・春くらいまではそうでもなかったのだが・・・一度はいなくなった真琴がひょっこり戻ってきた頃からまたそれが再発(と言うのもおかしいような気がする)しだしたのだ。
つまりは名雪の特徴の一つ、壮絶なる眠り姫・・・。
朝は起きない、夜は異常に早く寝る、暇さえあればうつらうつらしている。一体何があったというのか、心配になった祐一が医者に連れて行こうとした事もあったのだが、特に問題はなかったようで、単純に名雪が眠たいだけのようなのだ。このため、名雪は最近夜の10時くらいにはさっさと寝てしまう事も多々あり、必然的に真琴とあゆの勉強はまだ起きている祐一が見る事になってしまう。
それでもってこの二人、なかなかに覚えが悪い。
真琴は例によって反抗的だし、あゆはすぐに「うぐぅ」と言って人を頼ろうとする。
祐一の苦労、一塩である。
どうしてこの二人がこんな風に勉強をしているのかと言えばこれは実は名雪の所為だったりする。
何時だったか名雪が何時も家のごろごろしている二人に「暇そうでいいよね、二人とも」と言った事がきっかけだったようだ。名雪としては特に意味はなかったのかも知れない。最近彼女も大学の講義やレポート、そして陸上部での活動でやや疲れ気味だった所為で、ついそんな事を言ったのかも知れない。そうそう嫌味な事を言うタイプでもないのでおそらくそれが正解なのだろうが、とにかくそれを聞いた二人はショックをそれなりに受けたらしい。それがどういう経緯でそうなったのかは祐一にとってもわからないが、気がつけば二人は高校受験の為の勉強を始めており、そしていつの間にやら付き合わされている自分がいるのもまた事実であった。
半分閉じかけているような目でテレビをじっと見ている祐一。
おそらく眠たい時の名雪はこういう感じなのだろうな、などと思いながらそれでも何とか意識を繋ぎ止めておく。ここで眠ってしまったら全くの無意味だからだ。
がちゃっと言う音がしてリビングに続くドアが開いて、名雪が入ってきた。湯上がりで上気した肌のまま、祐一を見つけると、その横にちょこんと腰を下ろす。
「祐一、話って何かな?」
名雪がそう言って眠そうな祐一の顔を覗き込んできた。
お風呂に入る前、話があると言っておいたのだ。そうでなければそのまま二階の自分の部屋に行ってあっさりと寝ていた可能性がある。
「・・・ああ、明日なんだけどな・・・」
少し切り出しにくそうに祐一が口を開く。
どっちかというとそれは緊張に近いのだろう。名雪と恋人同士になってからでも祐一は以外とこういう風な事は苦手であった。
「明日?」
小首を傾げる名雪。
その仕種がまた可愛かった。
などと祐一が思っていると、名雪がいきなりぽんと手を打った。
「あ、忘れてたよ。明日、私も用事があるから気にしなくてもいいから」
「は?」
名雪の発言に祐一はぽかんと口を開けた。
「ほら、去年は祐一がいなくって色々とあったから・・・ゴメンね、祐一が何時も一緒にいてくれるって言ってくれたからちょっと甘え過ぎちゃってたよ。祐一には祐一の都合ってものがあるのにそれを無視して自分の事ばっかり言って・・・お母さんに怒られちゃったんだよ」
「そ、そうだったのか・・・」
何かおかしな事になってきたような・・・などと思いながら祐一が言葉を返す。
「今年も祐一、ずいぶん前からバイトとかで忙しそうだったでしょ?だから、今年の誕生日は香里とか大学の陸上部の子達と一緒にパーティやろうって話になってたんだ。ゴメンね、言うの忘れてて」
祐一はもはや言葉も出なくなっていた。
ただ、間抜け顔で頷くのみ。
「24日は毎年恒例のクリスマスパーティだし、その日は一日いるから。ゴメンね、祐一。だから今年もバイト、頑張ってね」
名雪が笑顔でそう締めくくった。
祐一は無気力に頷くのみ。
(・・・・何故?)
既に彼は真っ白になっていたのだが、名雪はそれに気付かなかったようだ。
「それじゃ、お休み、祐一」
そう言って名雪は祐一の頬に口づけをして立ち上がった。
だが、それにさえ気付かない程祐一は真っ白に燃え尽きていた。

<D−Day−1 22:42PM>
ぷるるるるるる・・・ぷるるるるるる・・・がちゃ。
はい・・・相沢です・・・ああ、お前か。
あ・・・いや、別に落ち込んでないって。
声が落ち込んでいる?
ほっといてくれ。俺は元々こういう声なんだよ。
不機嫌?・・・まぁ、否定はしないぞ。確かに今不機嫌だからな。これから寝ようと言う時にお前から電話がかかってきたんだ、これ以上に不機嫌になる理由がない。
・・・いや、そうじゃなくて。
え?ケンカしたんじゃないかって?
違う!断じて違う!!それはないと思う!!おそらく互いに互いの事を思っての事でそれがたまたますれ違っただけだ!
・・・・・あ。
い、いや、そう言う訳じゃなくて・・・だから!何でそうなる!?
・・・え?いや、それは・・・。
・・・・・・・ああ、わかった。最悪その手段もありかなと思う。
でも出来ればやりたくはないぞ。
風邪を引きかねないからな、あれは。
・・・・・・それ位しても罰は当たらない?
ああ、そうだろうな。お前には話してあるものな、俺と名雪の事は。だからといってまたそれをやれとは酷い事を言うな。
何?どうせ他人事だ?
そうか、お前はそう言う奴だったのか。よく解った。今度から代返もノートも見せてやらないからな。
・・・・冗談だよ。
え?どうするんだって?
・・・そうだな、とりあえず朝から準備だけはするよ。折角だし、協力してくれている人にはちゃんと事情を話して何とかして貰う予定だし。
何しろ一年に一度だけの事だからな。
一日は二十四時間あるから何とかなるだろ。
・・・協力?いいよ。お前が来ると何かとややこしくなりそうだし。
いや、そう言う意味じゃなくて。
ああ、わかった。
それじゃあな。
がちゃ。

(水瀬家 祐一の部屋にて記録者との携帯電話での会話より)

<D−Day 11:23AM>
「それじゃ行ってきま〜す」
玄関から名雪の声が聞こえてくるが祐一はまだ布団の中にいた。
はっきり言ってふて寝である。
折角名雪の誕生日と言う事で今まで色々と準備してきたというのに名雪は名雪で友人達と何かやると言う事で見事に宛てを外されたのだ。
ふて寝の一つもしたくなると言うものである。
名雪が出ていってからしばらくして、祐一はむくっと起きあがった。
素早く着替えると1階におり、顔を洗う。髪を整え、歯を磨き、それからリビングにはいるとあゆと真琴が何やらテーブルを囲んで難しい顔をしていた。
「お早う、祐一君」
「随分遅いわね、祐一」
入ってきた祐一に気付いたらしいあゆと真琴が口々に言う。
「おっす。何やってんだ、二人して?」
そう言ってテーブルを覗き込むとテーブルの上には何やらこの部屋の見取り図らきものが広げられている。
「・・・・?」
首を傾げる祐一。
「明日のクリスマスパーティの準備だよ。飾り付け、任されているから真琴ちゃんとこうして考えているんだ」
説明したのはあゆである。
「あ、そう」
すぐに興味を無くしたのか祐一はダイニングの方へと歩いていく。
キッチンの中ではこの家の主、秋子さんが朝食の片づけとお昼の用意を始めていた。
「お早う御座います、秋子さん」
そう言ってテーブルのいつもの場所に腰掛ける。
「お早う御座います、祐一さん。今日はごめんなさいね」
秋子さんはそう言って祐一の方を見る。
「本当は今日名雪の為に色々とやってくれていたんでしょ?それなのにあの子ったら」
何時もよくやる頬に手を当てるあの仕種をしながら困ったような顔をする。
「俺がずっと黙っていたのが悪かったんですよ。それに名雪には名雪の付き合いってものがありますからね、別に構いません」
祐一はそう言って苦笑を浮かべる。
「去年の事を考えれば当然の事でしょうからね。今年は俺が待ちますよ」
「すいませんね、祐一さん」
本当に申し訳なさそうに秋子さんが言う。
「今日はどうされます?」
「・・・まぁ、一応やろうと思っていた事がありますからね。それの後始末でもしてきますよ」
秋子さんが出してくれたコーヒーを飲みながら祐一が答える。
もっともギリギリまで待つつもりだが。
その後朝食兼昼食を食べ、祐一は出かけていった。

<D−Day 20:32PM>
祐一はハァァッと白い息を吐いて手を暖めている。
この場所に居続けて早1時間。
すっかり身体も冷え切っている。この調子なら風邪を引くのもそう遠い話じゃ無さそうだ。いや、下手をすれば凍死すらしかねない。
ここで凍死なんかしたら間抜けだろうな、いや秋子さん達に迷惑がかかるか。
そう思って祐一は立ち上がった。
とりあえず体を温める。その為に軽くその場で足踏みし、それから少し歩き出した。少し歩いてはきびすを返してまた戻り、それを繰り返す。それを少しの間やっているとだんだん身体も温かくなってきた。
立ち止まり、腕時計を見ると針は八時半過ぎを刺していた。
電車がもうそろそろ着くはずだ。これでいなければ一度近くに店に入って改めて電車が着く時間に出てこよう。でないと本当に風邪を引く。
祐一はそう思ってベンチに腰を下ろした。
駅の改札口から出た人がこの寒い中に出てくる。皆一様にコートやジャンパーの襟を引き寄せ、寒さを耐えるように家路に急いでいく。
祐一はぼんやりとそれを見ていた。
改札口から出ていく人の中に知っている顔を探そうと思うのだが、余りもの寒さにくじけそうになる。
「やっぱり寒いのは苦手だ・・・」
そう呟いて立ち上がる。
もう改札口から出てくる人はいないようだ。ここで待っていても仕方ないだろう。とりあえず近くの喫茶店にでも・・・そう思って歩き出しかけて、また思い直してベンチに腰を下ろした。よく考えたら名雪が何処に行ったのかを知らない。上り電車に乗ったのか、下り電車に乗ったのか、それすらわからない。どっちかテキトーに見当をつけても良いのだが、彼女を見失うわけには行かない。
「はぁぁぁ・・・」
ため息をつきながら祐一は空を見上げた。
そういや去年は雪が降っていたっけ・・・などと思いながら暗い空を見上げているとちらりほらりと白いものが落ちてきた。
「・・・降ってきたな、今年も・・・」
そう言って笑みを浮かべる。
きっと今までもそうだったに違いない。
あいつが生まれたその時も、それからその後、毎年毎年、ずっと。
必ずこの日は雪が降っていたに違いない。
そう思うと何故か自然と笑みがこぼれてくる。
「・・・・待つか・・・」

<D−Day 22:34PM>
降り続ける雪はすっかり地面を白く染め上げていた。
ガタガタ震えながら祐一はそれでもベンチにじっと座っていた。
「ちょっと遅すぎないか?」
そう呟いて上着のポケットから携帯電話を取り出すが、よく見ると電池切れになっていた。
「・・・・ついてない時はついてないもんだな、本当に」
苦笑しながら祐一はとりだした携帯電話を元のポケットの中に戻す。これでは家に電話をかけて名雪がいるかどうかも確認出来ない。
「あ〜あ、マジでついてねーや・・・」
そう言ってベンチの背もたれにぐっと身体を預け雪の降る空を見上げる。
と、その時だった。
不意に誰かが彼に飛びついてきたのは。
「わ、わ、わっ!!」
飛びつかれた勢いそのままに祐一はベンチからひっくり返ってしまう。
地面に頭を打ち、その痛みに思わず涙がこぼれる。
「いってぇぇっ!!!」
大声でそう言い、飛びついてきた相手を押しのけ、頭を押さえる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃ無いっ!!死ぬかと思った!!」
「ご、ゴメン・・・その・・・」
相手の声が泣きそうな声になる。
それを聞いた祐一は頭を押さえていた手を離し、しゅんと項垂れている相手の肩に手をやった。
「・・・悪い、そこまで責めるつもりはなかったんだ。痛いのはマジだが」
そう言ってから相手の頬を両手で挟んで自分の方を向かせる。
「今回はお前が遅刻だぞ、名雪?」
祐一はにやりと笑ってそう言った。もっとも目には涙が浮かんでいるが。
「・・・待っててくれるなんて聞いてなかったよ、祐一」
名雪が涙目になりながらそう言い返す。
「馬鹿、お前の誕生日に俺が居ないわけないだろ。お前がイヤだって言っても俺はずっと側に居続けてやるよ」
「そんな事言うわけないよ。私は祐一の事、大好きだもん」
そう言って名雪が微笑んだ。
祐一はそれに答えず、名雪の顔をそっと自分の方に寄せて、その唇に自分の唇を重ね合わせた。
少しの間重ね合わせていた唇を離すと名雪が心配そうな目で祐一を見た。
「祐一の唇、物凄く冷たかった・・・もしかして何時間もここにいたの?」
「たいしたことじゃない。ここで待つのには慣れた」
祐一はそう言ってまた名雪の唇を奪う。

「ゴメンね、祐一」
祐一が名雪を先導するように歩いていると不意に名雪がそう言ってきた。
「何で謝るんだよ?」
足を止め、振り返る祐一。
「今日、私の為に何か用意してくれていたんでしょ?でも今日、私、自分で用事いれちゃって・・・」
「悪いのは俺の方だよ。隠していたからまたバイトじゃないかって思ってお前は用事をいれたんだろ?」
「でも・・・ずっと寒い中待っててくれたし・・・」
「気にするなって。それにまだ今日は終わった訳じゃない」
そう言って祐一はにっこりと笑って見せた。
それからまた歩き出す。
「ねぇ、今の、どういうこと?」
名雪が歩き出した祐一に追いつこうと小走りになりながら聞くが、祐一は答えない。
(やっぱり怒っているのかな・・・?)
少しの間二人が黙って歩いていると、祐一が水瀬家のある住宅街の方じゃなく、商店街の方に足を向けている事に気がついた。
(あれ・・・?こっちは・・・)
首を傾げる名雪、だが祐一はそんな名雪に構わずどんどん進んでいく。
「祐一、待ってってば〜」
慌てて祐一を追いかける名雪だが、いきなり祐一が立ち止まったので彼の背中にどんとぶつかってしまう。
「あたた・・・急に立ち止まらないで〜」
そう言って抗議する名雪だが、祐一は何も言わずに名雪を振り返り、にっこりと笑った。
「まだ今日だよな?」
「え?」
「名雪の誕生日だよな、まだ?」
「え?あ、う、うん」
「これが俺の精一杯だ。受け取ってくれるか?」
祐一はそう言うと上着のポケットから小さな箱をとりだした。それを名雪の手に握らせる。
「これ・・・誕生日プレゼント?」
名雪が上目遣いに聞いてくるので、祐一はちょっと顔を赤くしながら視線を外して頷く。
「開けて良いかな?」
「あ、ああ・・・」
何となく祐一の様子がおかしかったが、名雪は祐一からのプレゼントに夢中でそれに気がつかなかった。
箱を包んでいる包装紙を綺麗に取り、中の箱を開けるとそこには・・・小さな指輪が入っていた。
その指輪を見た名雪が驚いたように祐一を見る。
「ま、まだ働いている訳じゃないし、それに、その、将来の見通しなんか少しも立ってないけどな、そ、それでもいいんなら、これを受け取って欲しい。その・・一応バイト代の3ヶ月分だし・・・」
言いながら祐一は益々赤くなり、視線を彷徨わせる。
名雪はそんな祐一を嬉しそうに目を細めながら見つめ、そっと彼の頬を両手で挟み、自分の方を向かせると、すっと彼の唇に自分のそれを押し当てた。
唇を離してから名雪はにっこりと微笑み、箱から指輪を取り出すと祐一に差し出した。
「祐一がはめて」
「え?・・・い、いいのか?」
「当たり前だよ。私は祐一に一生ついていくって決めたもん。だから、お願い」
名雪がそう言ったので祐一はごくりと唾を飲み込んでから頷き、指輪を手に取った。それから空いている手で名雪の左手を取り、その薬指に持っている指輪をはめようとして・・・はまらない。
「あ、あれ?おかしいな・・・」
慌てたように祐一が呟く。
どうやらサイズを間違ってしまったらしい。
普段からあまりこういうことに興味が無い所為だろう。今回も名雪の指のサイズなど考えても見なかったに違いない。
「ご、ゴメン、明日すぐに直しに行ってくる」
そう言って頭を下げる祐一。
指輪を慌てて上着のポケットに戻そうとするので、名雪はその手を止めて、指輪を自分の手に取り返した。それからにっこりと笑って指輪を小指にはめる。その指輪は何故か小指にはぴったりとはまっていた。
「ん、ぴったし」
そう言って更に微笑む。
「今日はこれで良いよ。本当の指輪はまた今度に取っておくからね」
「また今度って・・・それ、一応・・・」
そう言いかける祐一の唇に人差し指を押し当て、名雪は片目をつぶってみせる。
「これは大事に取っておくから、本当の指輪、ちゃんと働くようになってから頂戴ね」
名雪が悪戯っぽくそう言ったので祐一はもう苦笑するしかなかった。
「それじゃ、行くか」
祐一はそう言って片目をつぶって見せ、右手の親指で横を示して見せた。
名雪がその指先を追うように視線を追いかけるとそこは彼女も良く知っている店の前であった。
「・・・でも、ここ、もう時間・・・」
「いいからいいから」
そう言って祐一は名雪の手を取ってその店に入っていく。
店の中は真っ暗だった。
「ほら、祐一。もう閉まっているよ〜」
不安そうに名雪が言うと、祐一は指をぱちんと鳴らした。すると、次の瞬間、一斉に店内の電気がつき、パンパンパ〜ンとクラッカーがならされた。
その音に驚いた名雪が祐一に飛びつく。
「名雪ちゃん、お誕生日、おめでとう!!」
そう言ったのは顔見知りのこの店のウエイトレスに店長だった。
「・・・え?」
未だ状況が飲み込めずに戸惑っている名雪に祐一が優しく言う。
「わざわざこの店を借り切ったんだよ、お前の為だけに」
「・・ええっ!?」
今度は驚きの声を上げる名雪。
「そうよ、名雪ちゃんの為にこの店を一日貸し切らせてくれって彼が言いに来た時は驚いたわ」
ウエイトレスのお姉さんがそう言ってウインクしてみせる。
「まぁ、一日くらいなら別に構わなかったからOKしたんだけどね」
そう言ったのは店長。
「その代わり随分彼をこき使わせて貰ったし」
笑顔でそう言う。
「さあさあ、席について。名雪ちゃんの為だけに色々と用意したんだから」
ウエイトレスのお姉さんが名雪を席に座らせ、自分は店長と共に奧の厨房に入っていく。
祐一は名雪の正面に座ると、にっこりと笑顔を浮かべながら名雪を見た。
「これが俺からの誕生日プレゼントだ。気に入ってくれたか?」
「うん・・・祐一、ありがとう・・・大好きだよっ!!」
名雪はそう言うと身体を乗り出して祐一の唇に自分の唇を押し当てた。
そこにウエイトレスのお姉さんが戻って来、二人を見るとそっと厨房に戻っていった。
二人はそんな事に気付かず、まだ唇をあわせ続けていた。
幸せとは、こういうものかも知れない。
二人の甘い夜は始まったばかりだった。


後書き
作者D「果たして間に合うんでしょうか、これ?」
かおりん「私に聞かないでよ。だいたい何やっていたのよ、今まで?」
作者D「まぁ、色々と。個人的な事ばかりだったんですが」
かおりん「流石に今回は何も言わないけどね。で、次は出来るの?」
作者D「・・・次?」
かおりん「なんか前に言ってなかった?各ヒロインの誕生日にあわせて1本SS書くって」
作者D「うお・・・そう言えば言ったような言ってないような・・・」
かおりん「で、調べてきたんだけど、あゆちゃんと真琴ちゃんって1日しか違わないのよ」
作者D「へ?」
かおりん「誕生日。あゆちゃんが1月7日、真琴ちゃんが1月6日」
作者D「マジッスか!?(大汗)」
かおりん「嘘ついても意味ないし、それにあんたが苦しむ姿見たいしね〜」
作者D「ぐはあ・・・かおりんてサディストだったんだ・・・」
かおりん「誰がサドじゃぁぁぁっ!!!!」
作者D「(ずどげしっ!!!!)ぐはあああああああああ・・・・」

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