「彼女の思いは複雑に・・・(続き)」


結局、私自身の答えは出ないまま、年が明けた。
お母さんと一緒に初詣に行っておせちを食べて・・・いつもと変わらないお正月。でも・・・何故か私の心の中はすっきりしていない。
祐一がこの街に帰ってくる・・・ただそれだけのことなのに・・・。
リビングでテレビを見ながらぼうっとしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
私がでようとする前にお母さんが立ち上がり、玄関に向かう。
「あら・・・いらっしゃい、香里ちゃん」
玄関の方から声がする。
「明けましておめでとうございます、秋子さん。名雪は起きてます?」
「まだ寝ていないはずよ。ちょっと待っててね」
何かひどいこと言われてるような気がする・・・。
でも、ぼうっとしている私は今半分寝かかっていた、と言うのも事実だったりして・・・。
「名雪、香里ちゃんよ」
リビングに顔だけ出したお母さんがそう私に声をかける。そのままお母さんは台所に行ったようだ。
香里に出すお茶の準備でもするのかな?そんなことを考えながら、私は玄関に向かう。
「あら・・・寝てたの?」
私の顔を見るなり香里がそう言った。
「起きてたよ〜」
半分寝てたけど・・・。
「眠そうな顔してるわよ。後もうちょっと遅かったら寝てたんでしょうね」
そう言って香里はくすくす笑う。
「う〜香里〜」
ちょっと目を細めて香里をにらむけど私じゃ全然迫力はないらしい。だって香里は全然笑みを隠さないんだもん。
「ふふっ、明けましておめでとう、名雪」
まだ半分笑いながら香里がそう言ったので私も、
「明けましておめでとう、香里」
ときちんと返す。
「どうしたの?お正月は家族と過ごすんじゃなかったの?」
「ちょっと名雪の顔が見たくなったのよ。上がってもいいかしら?」
「あ、いいよ。ご免、気がつかなくて」
私はそう言うと、香里と一緒に2階の自分の部屋に向かった。
「いつ来ても凄いわね、これ」
私の部屋に入るなり香里がそう言ってベッドの側に置いてある目覚まし時計を指差した。
「これだけあっても起きられないんだから名雪のお寝坊さんは本物ね」
「だって眠たいんだもん・・・」
「どうしてそんなに眠たいのかしらね〜?」
「それがわかれば苦労はしないよ・・・」
そう言って私は自分のベッドの腰を下ろした。
香里は部屋の中の適当な場所に座って、私の方を向くと、
「まだ悩んでいるの?」
と、いきなり切り出した。
「え?」
「だから、今度ここに来る名雪の従兄弟の事よ。まだ悩んでいるの?」
「う〜ん・・・・それは・・・」
はっきり言って私にはわからない。私はどうしたいのか。祐一が帰ってくると言うことにたいしてどうしたいのか。
「その従兄弟・・・えっと・・・」
「相沢祐一」
「その相沢君のこと、名雪はどう思っているの?」
「それは・・・」
私はまた言葉を濁してしまう。
そんな私を見て香里はため息をついた。
「ねぇ・・・名雪、私たち、親友よね?」
「え・・・う、うん」
「だったら・・・私をもっと信用して欲しいな。前はあんな事言ったけど、ここまで名雪が苦しんでいるんじゃ、とてもじゃないけど見過ごせないわ。全部、話してみて」
「香里・・・」
私はじーんときていた。
答えは出ないかも知れない。でも香里に全部、7年前からのことを全て話してしまえば何かいい答えがでるかも知れない。そう思った私は香里に全部話すことにした。そう、7年前のあの日のことも・・・。

「ふ〜ん・・・」
全て話し終わってからの香里の第一声がこれだった。
何となく不機嫌そうな感じがする・・・話さなかった方がよかったかな?
「ひどいわね、その祐一君って」
「え?」
「だってそうでしょ?折角名雪が作った雪うさぎをたたき壊したあげくその次の日も来なかったんでしょ?それをひどいって言わなくてどうするのよ」
う〜ん、確かにそうかも知れない。でも、あのときの祐一には何かあったんだよ。ホントは優しいもん、祐一は。ちょっと意地悪だけど。
「話は決まりね。その祐一君とやらが来たら徹底的にいびってやりなさい。あのときの仕返しよ」
香里〜、性格変わってるよ〜。
私は苦笑しかできなかった。
「私も協力するわ。その女の敵を徹底的にとっちめるのよ、名雪!」
「う〜、ダメだよ〜。折角7年ぶりに会えるのに、そんな事したら私が嫌われるよ〜」
そう言った瞬間、香里の表情が一変した。してやったり、と言う顔になり、口元に笑みを浮かべる。
「やっぱりまだ好きなのね、彼のこと」
「え?」
「それならいいじゃない。暖かく迎えてあげれば。何も悩むことないわよ」
「ええ?」
私は何がなんだかわからなくなっていた。ついさっきまで香里は祐一のことをとっちめろとか言ってたのに、今は暖かく迎えろって・・・。
私が混乱しているのを見て、香里は優しく微笑むと、
「名雪はその祐一君が帰ってくることにたいして自分がどうしたいのかわからないで悩んでいたんでしょ?」
「そ、そうだけど・・・」
「で、今私に全部話してくれたよね、昔のこと」
「う、うん」
「さっきの話を聞いてるとね、すぐにわかっちゃった。名雪がその祐一君をまだ好きなんだって事」
「え?え?ええ〜?」
私は真っ赤になっていた。それこそ大好きな苺のように。
ふ、普通に話していたつもりなのに、どうしてそんなことわかっちゃうの?
「嫌われたくないって思うんだったら好かれたいって思っているんでしょ?」
「そ、それは・・・」
また言葉を濁す。しかし今度は恥ずかしくて、だ。さっきみたいにどうすればいいのか分からない訳じゃない。
「素直になりなさいって。7年も前のこと、そうそう憶えていないわよ、相手も」
「それはイヤだよ・・・・」
「えっ?」
ぼそりと呟いた言葉に香里の笑みが止まる。
「いくら・・・イヤな思い出でも、やっぱり大切にしたいよ・・・忘れてなんか欲しくない」
「・・・そう・・・かしら・・・?」
香里は真剣な表情で言う。
「つらい思い出なんか残していたくないけどね、私は。まぁ、名雪がそう言うのならそれでいいんじゃないかしら」
「香里・・・」
「いくら親友だからって、いつも意見が一致するとは限らないものよ。あまり気にしないで」
そう言った香里は優しい笑みを浮かべている。
私もつられたかのように笑みを浮かべた。
それで決心がついた。
祐一がどう思っているかはわからないけど、私はまだ祐一のことが好きなんだって事がわかったから。あのときのことは悲しかったけど、それもきっと思い出になるはず。ちょっとやそっとじゃ許してあげないけど、それでも・・・まだ・・・好きだから・・・。

それから数日後のこと・・・。
私は部活から帰ると急いで香里の家に電話をかけていた。
「はい、美坂です・・・」
「あ、香里〜、大変だよ〜」
いきなりそう切り出すと、電話の向こうの香里も驚いたようだ。
「ど、どうしたの、名雪?」
珍しく慌てたような声。
「あのね、あのね、どうしても部活が抜けられないんだよ〜」
私がそう言うと、香里は一瞬言葉を失ったようだった。
どうしてかわからなかった私は構わずに続けた。
「だから明日部活が抜けられないの〜。祐一とは1時に約束しているんだけど、間に合わないよ〜」
「はぁ・・・・・」
受話器の向こうからはっきりと聞こえるようなため息。
「だったらそう連絡しなさいよ・・・」
あきれたような声。
「そんなこと出来ないよ〜。もう、電車の時間とか決めてるんだろうし・・・」
「それで、私にどうしろって言うの、名雪は?」
「え〜と、あのね・・・様子を見に行ってくれれば嬉しいなぁ〜って思って・・・」
「私が?・・・そうね、百花屋でフルーツパフェ、それで手を打ちましょう」
「う〜・・・わかった。それでいい・・・」
ちょっとだけ不服そうな声を出してみるけど香里は相手にはしてくれなかった。
「約束の時間は1時って言ってたわね。私も明日は部活があるからその後で駅前に行ってみるわ」
「お願いね。祐一には私のこと言わないでね」
「あら・・・どうして?」
「どうしても」
ちょっと確認したいことがあるからだよ。だから、ご免ね、香里、無茶言って。
心の中でそう言って謝る私。
「・・・わかったわ。それじゃ、ね」
「お願いね。おやすみ、香里」
「もう寝る気なの?まだ5時にもなってないのに?ふふっ、おやすみ、名雪」
うう〜、ついいつもの癖で・・・香里〜、意地悪だよ〜。
香里は笑いながら電話を切ったようだ。
う〜ん、やっぱり香里にはかなわないなぁ・・・。

そして、その日が来た・・・。
朝から降り続ける雪・・・まるであの日を思い出させるような・・・そんな雪が降り続いている。
私は部活が終わると時間を確認した。
まだ・・・1時過ぎ・・・走っていけば少しの遅刻ですむだろう。
でも・・・・。
ふと走り出そうとして足が止まる。
この雪が・・・あの日のことを思い出させたからだ。
もし、また拒絶されたら・・・その思いが私の足を止めさせる。
それよりも・・・・私のことをまだ憶えているかどうかも不安だった。
ゆっくり、ゆっくりと足を進める。
駅前まで来たときはもう2時を回っていた。
もしかするといないかも知れない・・・怒って帰ったかも知れない・・・でも・・・彼が帰るところはないことを知ってる。
ちょっと遠くから待ち合わせ場所のベンチを見ると・・・見たことのある後ろ姿が、
ベンチのそばで大きく伸びをしている男の子としゃべっているのが見えた。
祐一・・・。
私にはその男の子が祐一だとすぐにわかった。
何を話しているんだろう?香里は約束、守ってくれているかな?また不安になってくる。
私のこと、憶えてくれているんだろうか?まさか、香里のことを私と勘違いしている
とか・・・?
また、祐一がベンチに座った。その顔は、香里の傘に隠れて見えない。
やがて、香里が振り返った。どうやら話は終わったらしい。こっちに向かって走ってこようとして、いきなり足を止めた。それからまた祐一の方を振り返り彼に指を突きつけ(何となく雰囲気でわかった)何かを言ったようだ。
それを言い終わると、また走り出した。
私が隠れているそばを通り過ぎるとふと私の方を見てウインクしてきた。
「上手くやりなさいよ」
声に出さず、口だけでそう言っている。
ありがとう、香里。私のわがままに付き合ってくれて。
小さく頷き、その想いを香里に伝える。
すぐに出ていこうとして・・・また足が止まる。
また拒絶されるのが怖かった。憶えていないと言われることが怖かった。
「大丈夫だよ」
ふいに誰かの声が聞こえた。
「うん。きっと大丈夫」
そう言って一人の少女が通り過ぎた。
背中のカバンに白い羽根をつけた・・・赤いカチューシャのよく似合う少女・・・。
どうやら私に話しかけてきたわけじゃないらしい。ただの独り言のようだった。
それでも・・・私はその言葉を聞いて少し、安心できた。
「そう、大丈夫・・・祐一は、ちょっと意地悪だけど、ホントは優しいもん」
そう呟くと、近くの自動販売機に行って温かいコーヒーを買う。
この雪の中待たせちゃったお詫び。
でも7年前、私も待っていたんだからこのくらいはして貰わないと。
大きく息を吸って、それから私は歩き出した。

「雪・・・積もってるよ・・・」


to be continued Kanon’s Prologue・・・


後書き

と言うことでこの後編で一応完結です。
かおりん「一応・・・?」
いや、これで続きが書けそうだな、と。
かおりん「やめておきなさい、他にも書かないといけないものがあるんでしょう?」
そう言えば・・・・あれもそうだし、あれも・・・あうう(涙)
かおりん「自分で手を広げすぎるのがいけないのよ」
わかっているんだけどなぁ。あれもやりたい、これもやりたい・・・
かおりん「そう言うことをしているからいつまで経っても完結しないのよ」
あうう・・・・申し訳ありませんです<(_ _)>


戻るんだよ〜

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース